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通達:心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について

 

心理的負荷による精神障害の認定基準に係る運用上の留意点について

令和5年9月1日基補発0901第1号

(都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局補償課長通知)

 

心理的負荷による精神障害の認定基準については、令和5年9月1日付け基発0901第2号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「認定基準」という。)をもって指示されたところであるが、その具体的運用に当たっては、下記の事項に留意の上、適切に対応されたい。

なお、本通達の施行に伴い、平成23年12月26日付け基労補発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準の運用等について」及び令和2年5月29日付け基補発0529第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正に係る運用上の留意点について」は廃止する。

また、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和5年7月)」(以下「報告書」という。)には、認定基準の考え方等が示されているので、認定基準の理解を深めるため、適宜参照されたい。

 

第1 検討の経緯及び改正の趣旨

心理的負荷による精神障害については、平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「旧認定基準」という。)に基づき労災認定を行ってきたところであるが、旧認定基準の発出以降、働き方の多様化が進み労働者を取り巻く職場環境が変貌するといった社会情勢の変化が生じており、また、精神障害の労災保険給付請求件数も年々増加しているところである。

こうした社会情勢の変化と労働者の心身の健康に対する関心の高まりを鑑み、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会において、旧認定基準について、最新の医学的知見を踏まえた多角的な検討が行われた。

今般、その検討結果を踏まえ、業務による心理的負荷の評価をより適切かつ効率的に行う等の観点から、認定基準の改正が行われたものである。

 

第2 主な改正点及び運用上の留意点

1 対象疾病(認定基準第1関係)

対象疾病については、報告書において、現時点では旧認定基準の内容を維持することが妥当と判断されており、実質的な変更はない。

なお、疾病及び関連保健問題の国際統計分類については、第11回改訂版が発効されているが、その日本語訳はまだ確立していないことから、その確立を待って別途検討することが妥当とされている。

2 認定要件及び認定要件に関する基本的な考え方(認定基準第2及び第3関係)認定要件及びこれに関する基本的な考え方については、報告書において、旧認定基準の内容が現時点でも妥当と判断されており、実質的な変更はない。

3 認定要件の具体的判断(認定基準第4関係)

(1) 発病等の判断

ア 発病の有無等

発病の有無等の判断については実質的な変更はない。

なお、請求に係る診療の以前から精神障害による通院がなされている事案については、請求に係る精神障害が、新たな精神障害の発病であるのか等が問題になる。ある精神障害を有する者が、新たに別の精神障害を併発することもあれば、もとの精神障害の症状の現れにすぎない(その精神障害の動揺の範囲内であって新たな精神障害の発病・悪化を来したものでない)場合、もとの精神障害の悪化の場合、もとの精神障害の症状安定後の新たな発病の場合もある。

これらの鑑別については個別事案ごとに医学専門家による判断が必要であることから、精神障害による通院がなされている事案であっても、症状の経過等について、主治医の意見書や診療録等の関係資料を収集し、また、心理的負荷となる出来事等についても調査を行った上で、新たな発病の有無等について医学的な判断を求める必要があることに留意すること。

イ 発病時期

発病時期については、精神障害の治療歴のない自殺事案に係る考え方が明示されたほか、旧認定基準において、出来事の評価の留意事項とされていたもののうち、発病時期に関連する事項が当該項目において示されたものである。

(2) 業務による心理的負荷の強度の判断

ア 業務による強い心理的負荷の有無の判断

業務による強い心理的負荷の有無の判断に係る考え方については、実質的な変更はない。

心理的負荷の評価の基準となる同種の労働者に係る事項は、旧認定基準第3で示されていたものと同旨であり、心理的負荷の評価に当たっては、旧認定基準と同様に、精神障害を発病した労働者と職種、職場における立場や職責、年齢、経験等が類似する「同種の労働者」が一般的にその出来事及び出来事後の状況をどう受け止めるかという観点から評価すること。

例えば、新規に採用され、従事する業務に何ら経験を有していなかった労働者が精神障害を発病した場合には、ここでいう「同種の労働者」としては、当該労働者と同様に、業務経験のない新規採用者を想定すること。

イ 業務による心理的負荷評価表

認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「認定基準別表1」という。)については、各具体的出来事への当てはめや心理的負荷の強度の評価が適切かつ効率的に行えるようにするとの観点から、別紙1「業務による具体的出来事の統合等」のとおり具体的出来事の統合、追加、表記の修正、平均的な心理的負荷の強度の修正が行われ、あわせて、総合評価の視点及び強度ごとの具体例の拡充等が行われた。

認定基準別表1に基づき業務による心理的負荷の強度を判断するに当たっては、別紙2「業務による心理的負荷評価表に基づく心理的負荷の強度の判断に当たっての留意事項」にも留意して、適切な評価を行うこと。

なお、旧認定基準において「強」と判断されていたものは、認定基準においても、基本的に「強」と判断されること。

ウ 複数の出来事の評価

複数の出来事の評価の枠組みについては、実質的な変更はない。評価に当たっての考慮要素等がより明確化されており、当該考慮要素等を踏まえ、適切な評価を行うこと。

また、別紙3「複数の出来事があり業務による心理的負荷が強いと評価される例」も参考とすること。

エ 評価期間の留意事項

評価期間については、発病前おおむね6か月であることに変更はないが、これに係る留意事項について、出来事の起点が発病の6か月より前であっても、その出来事(出来事後の状況)が継続している場合にあっては、発病前おおむね6か月の間における状況や対応について評価の対象とすることが明確化されており、これを踏まえ、適切な評価を行うこと。

(3) 業務以外の心理的負荷及び個体側要因による発病でないことの判断業務以外の心理的負荷及び個体側要因の考え方並びに業務以外の心理的負荷の評価について、実質的な変更はない。

個体側要因について、個体側要因により発病したことが明らかな場合を一律に例示することは困難であることから、当該例示は削除され、あわせて、調査の効率化等の観点から、調査対象となる事項等が明示された。

個体側要因とは、個人に内在している脆弱性・反応性であるが、その調査には限界があるところであり、既往の精神障害や現在治療中の精神障害、アルコール依存状況等の存在が明らかな場合に、その内容等を調査すること。

4 精神障害の悪化と症状安定後の新たな発病(認定基準第5関係)

(1) 精神障害の悪化とその業務起因性

旧認定基準の内容を変更し、特別な出来事に該当する出来事がなくとも、悪化の前に業務による強い心理的負荷が認められる事案について、十分な検討の上で、業務起因性を認める場合があることが示された。

その際、業務起因性が認められない精神障害について、その悪化の前に強い心理的負荷となる業務による出来事が認められても、直ちにそれが当該悪化の原因であると判断することはできないとする考え方は旧認定基準と同様であり、悪化の前に業務による強い心理的負荷が認められる場合には、業務による強い心理的負荷によって精神障害が自然経過を超えて著しく悪化したものと精神医学的に判断されるか否かについて、認定基準に記載された考慮要素を踏まえ、十分に検討することが必要であること。

なお、認定基準第5の1にいう「治療が必要な状態」とは、実際に治療が行われているものに限らず、医学的にその状態にあると判断されるものを含むものであること。

(2) 症状安定後の新たな発病

通院・服薬を継続している者であっても、精神障害の発病後の悪化としてではなく、症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病として判断すべきものがあることが明示された。

なお、この症状安定後の新たな発病の考え方は、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(平成23年11月)」において示されていたものと同旨である。

ここで、既存の精神障害が悪化したのか、認定基準第5の2にいう「症状が改善し安定した状態が一定期間継続した後の新たな発病」に当たるのか等については、個別事案ごとに医学専門家による判断が必要であること。当該「一定期間」についても、個々の事案に応じて判断する必要があるが、例えばうつ病については、おおむね6か月程度症状が安定して通常の勤務ができていた場合には、このような症状安定後の発病として、認定基準第2の認定要件に照らして判断できる場合が多いものと考えられること。

5 専門家意見と認定要件の判断(認定基準第6関係)

より効率的な審査を行う観点から、旧認定基準の内容を変更し、専門部会意見を求める事案について一律に定めず個別に高度な医学的検討が必要と判断した事案とされ、また、専門医意見を求める事案についても旧認定基準から一部限定がなされた。

なお、認定基準第6の2にいう「業務による心理的負荷に係る認定事実の評価について「強」に該当することが明らかでない事案」とは、当該事実の評価が「強」に該当しない(「中」又は「弱」である)事案及び当該事実の評価が「強」に該当するか判断し難い事案をいうものであること(別紙4「専門家の意見の聴取・判断の流れ」参照)。

6 療養及び治ゆ(認定基準第7関係)

療養及び治ゆの考え方については、実質的な変更はないが、治ゆ(症状固定)の状態にある場合等がより明確化された。

7 その他及び複数業務要因災害(認定基準第8及び第9関係)

いずれも実質的な変更はない。

なお、認定基準第8の3の調査等の留意事項として示されている事項は、旧認定基準第4の2(5)において出来事の評価の留意事項④として示されていたものと同旨である。

また、認定基準第8の4の本省協議に関し、認定基準第4の2(2)イを踏まえてもなお認定基準別表1に示された「具体的出来事」のいずれにも当てはめることができない出来事の評価については、「本認定基準により判断し難い事案」として協議対象となること。

 

第3 調査中の事案等の取扱い

認定基準施行日において調査中の事案及び審査請求中の事案については、認定基準に基づいて決定すること。

また、認定基準施行日において係争中の訴訟事案のうち、認定基準に基づいて判断した場合に訴訟追行上の問題が生じる可能性のある事件については、当課労災保険審理室に協議すること。

 

第4 認定基準の周知等

1 認定基準の周知

心理的負荷による精神障害の労災認定に関し相談等があった場合には、おって示すリーフレット等を活用することにより、認定基準等について懇切・丁寧に説明を行うこと。

また、各種関係団体に対しても、機会をとらえて周知を図ること。

なお、旧認定基準のパンフレットについては、当面、当該リーフレットを挟み込んで使用すること。

2 職員研修等の実施

当課においては、別途、職員及び地方労災医員等を対象として、認定基準に関するweb会議形式での研修を予定していることから、各労働局においても、当該研修資料を活用する等により職員研修等を計画的に実施し、職員の資質向上に努めること。

 

別紙1<編注:ここをクリックして表示

 

別紙2

業務による心理的負荷評価表に基づく心理的負荷の強度の判断に当たっての留意事項

認定基準別表1に基づく心理的負荷の強度の判断に当たっての留意事項及び旧認定基準からの改正の趣旨は、次のとおりである。

なお、心理的負荷の強度の評価に当たっては、複数の出来事も含めて、心理的負荷の全体を総合的に評価することが適切であり、出来事及び出来事後の状況の評価を行う際には、各具体的出来事において示された心理的負荷の総合評価の視点を踏まえてそれぞれ検討し、評価することが必要であるが、これは同一の状況について二重に評価する趣旨ではないことはこれまでと同様である。

1 特別な出来事

旧認定基準における特別な出来事と同旨であり、特別な出来事に該当しない場合にはそれぞれの関連項目により評価する。

なお、極度の長時間労働について、旧認定基準において記載されていた「休憩時間は少ないが手待ち時間が多い場合等、労働密度が特に低い場合を除く」との記載が削除されているが、長時間労働等の心理的負荷の評価に共通する事項として認定基準第4の2(2)オに同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない。

2 特別な出来事以外

(1) 総合評価の留意事項

旧認定基準における「出来事後の状況の評価に共通の視点」として示されていた事項と一部共通するものであるが、心理的負荷の総合評価の視点を明確化する観点から、改めて整理され、示されたものである。本項目に示されている内容は、出来事後の状況の評価に限らず、出来事それ自体の評価に当たっても留意する。また、著しいもののみを評価する趣旨ではない。

あわせて、出来事それ自体と、当該出来事の継続性や事後対応の状況、職場環境の変化などの出来事後の状況の双方を十分に検討し、出来事に伴って発生したと認められる状況や、当該出来事が生じるに至った経緯等も含めて総合的に考慮して、心理的負荷の程度を判断する。

(2) 具体的出来事

ア 項目1「業務により重度の病気やケガをした」等

旧認定基準の項目(以下「旧項目」という。)1「(重度の)病気やケガをした」と同旨である。入院期間の短期化等の社会情勢の変化等を踏まえ「強」の具体例が一部修正されており、入院期間が2か月に満たない場合でも、医学意見により長期間の入院と判断する場合もあることが示されたものである。

また、旧項目1は、「重度の」病気等を前提に平均的な心理的負荷を「Ⅲ」としつつ、重度とはいえない病気やケガの場合にも本項目に当てはめる趣旨で括弧書きがなされていたが、他の具体的出来事の表記との整合性、分かりやすさ等の観点から、括弧が削除された。このことは、項目11「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」及び項目23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」についても同様である。

イ 項目4「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」

旧項目4「会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした」については、令和2年度ストレス評価に関する調査研究の結果や、決定事例において重大なミスの事案よりもこれに至らないミスの事案が多かったこと等を踏まえ、会社の経営に影響するなどの重大なミスに至らないものが具体的出来事として示されるとともに、平均的な心理的負荷の強度が「Ⅱ」に変更された。

なお、「強」の具体例は、旧認定基準に準じたものが示されており、旧認定基準において「強」と判断される事実関係があれば、認定基準においても、「強」と判断されるものである。

また、旧項目6「自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた」に関し、本人のミスによる損失等について本項目で評価することに変更はなく、その旨も表記の修正により明確にされた。

ウ 項目6「業務に関連し、違法な行為や不適切な行為等を強要された」

旧項目7「業務に関連し、違法行為を強要された」と同旨であるが、違法行為に至らない不適切な行為等を強要された場合にも本項目で評価することが明確にされた。

エ 項目7「達成困難なノルマが課された・対応した・達成できなかった」

旧項目8「達成困難なノルマが課された」及び旧項目9「ノルマが達成できなかった」が統合された項目である。ノルマが課された時点が評価期間前であり、評価期間中に達成できなかったことが確定していない場合であっても、評価期間において当該ノルマの達成のための対応を行っていた場合にはその心理的負荷を評価することを明らかにする趣旨で、表記が修正された。

オ 項目8「新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった」

旧項目10「新規事業の担当になった、会社の立て直しの担当になった」と同旨であるが、社会情勢の変化等を踏まえて表記が修正された。

カ 項目9「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」

旧項目11「顧客や取引先から無理な注文を受けた」及び旧項目12「顧客や取引先からクレームを受けた」が統合された項目である。本項目の「対応が困難な注文や要求等」とは、大幅な値下げ、納期の繰り上げ等の注文や、納品物の不適合の指摘等をいう。対人関係における「著しい迷惑行為」に該当する場合には、項目27で評価する。

キ 項目10「上司や担当者の不在等により、担当外の業務を行った・責任を負った」

旧項目13「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」及び旧項目14「上司が不在になることにより、その代行を任された」が統合され、あわせて、表記がより一般化され、発表や上司の代行以外にも担当外の業務・責任を担うことになったことの心理的負荷を評価する項目とされた。

なお、旧項目13「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」について、それが当該労働者の本来の業務範囲内における業務内容の変化である場合には、項目11で評価する。

ク 項目11「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」

旧項目15「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」と同旨であるが、旧項目6「自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた」、旧項目13「大きな説明会や公式の場での発表を強いられた」及び旧項目26「部下が減った」についても、これらの出来事による仕事内容・仕事量の変化については本項目として評価することが適切であるとして統合された。

また、心理的負荷の総合評価の視点において、勤務間インターバルの状況等についても考慮要素となることが明確化されており、これは、項目12、項目13及び項目15においても同様である。

ケ 項目12「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」

旧項目16「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」と同旨であり、長時間労働それ自体を「出来事」とみなして評価するものである。項目12では、項目11と異なり、労働時間数がそれ以前と比べて増加している必要はない。

また、旧項目16は他の項目で評価されない場合にのみ評価する(本項目で「強」と判断される場合を除く。)こととされていたが、より的確な評価を行うため、評価期間において1か月におおむね80時間以上の時間外労働がみられる場合には、他の項目(項目11の仕事量の変化を除く。)で評価される場合でも、この項目でも評価するよう注が修正された。

なお、「強」の具体例について、「その業務内容が通常その程度の労働時間を要するものであった」との記載が削除されているが、長時間労働等の心理的負荷の評価に共通する事項として認定基準第4の2(2)オに同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない。

コ 項目13「2週間以上にわたって休日のない連続勤務を行った」

旧項目17「2週間以上にわたって連続勤務を行った」と同旨であり、業務量が多いこと等から本来取得できるはずの休日が取得できず、連続勤務を行ったことの心理的負荷を評価するものである。

なお、「中」及び「強」の具体例について、「手待ち時間が多い等の労働密度が特に低い場合を除く」との記載が削除されているが、認定基準第4の2(2)オ(エ)に同旨が記載されており、趣旨を変更するものではない。

サ 項目14「感染症等の病気や事故の危険性が高い業務に従事した」

社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設された。新興感染症の感染拡大等に伴い、危険性の高い業務に新たに従事したことの心理的負荷を評価する項目である。

シ 項目15「勤務形態、作業速度、作業環境等の変化や不規則な勤務があった」

旧項目18「勤務形態に変化があった」及び旧項目19「仕事のペース、活動の変化があった」が統合され、あわせて、作業環境等の変化や不規則な勤務も評価する項目とされた。

なお、旧認定基準における「出来事後の状況の評価に共通の視点」において示されていた「職場環境の悪化。具体的には、騒音、照明、温度(暑熱・寒冷)、湿度(多湿)、換気、臭気の悪化等。」がある場合には、本項目で評価する。

ス 項目16「退職を強要された」

旧項目20「退職を強要された」と同旨であるが、旧項目27「早期退職制度の対象となった」についても、退職に関わるものであり、本項目として評価することが適切であるとして統合された。

セ 項目17「転勤・配置転換等があった」

旧項目21「配置転換があった」及び旧項目22「転勤をした」が統合された項目である。出向についても、本項目で評価する。

ソ 項目18「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」

旧項目23「複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった」と同旨であるが、業務を一人で担当することによる職場の支援の減少等の心理的負荷を評価する項目であることが明確化された。複数名で担当していた業務を一人で担当することにより業務量が増加した場合には、項目11でも評価する。

タ 項目19「雇用形態や国籍、性別等を理由に、不利益な処遇等を受けた」

旧項目24「非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた」と同旨であるが、処遇等の理由となった事由をより具体的に記載するとともに、「差別、不利益取扱い」とまではいえない処遇を受けた場合についても本項目で評価する趣旨で表記が修正された。

なお、旧項目36「同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された」について、一般的には項目28で評価するが、国籍等を理由とした不利益な処遇等に該当する場合には、本項目で評価する。

また、性的指向・性自認に関する事案を含むことが明確化されており、これは、項目22及び項目23においても同様である。

チ 項目20「自分の昇格・昇進等の立場・地位の変更があった」

旧項目25「自分の昇格・昇進があった」と同旨であるが、表記がより一般化され、昇格・昇進以外にも立場・地位の変更があったことの心理的負荷を評価する項目とされた。

ツ 項目21「雇用契約期間の満了が迫った」

旧項目28「非正規社員である自分の契約満了が迫った」と同旨である。

テ 項目22「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」

旧項目29「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」と同旨であり、「パワーハラスメント」とは、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)及び「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(以下「指針」という。)の定義を踏まえ、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害される」ことをいうものである。

なお、「中」及び「強」の具体例については、指針において職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の類型として掲げられている、身体的な攻撃、精神的な攻撃、人間関係からの切り離し、過大な要求、過小な要求及び個の侵害の6 類型すべての例に拡充されている。

また、具体的出来事の当てはめを行うに当たり、「職場におけるパワーハラスメント」に該当するか否かは、指針に基づき判断することになるが、労災補償においては、業務による出来事について、別表1のいずれの「具体的出来事」で評価することが適当かという観点から「具体的出来事」への当てはめを行い、評価を適切に行うことが重要であり、「パワーハラスメント」に該当するか否かを厳格に認定することが目的でないことに留意すること。

このため、例えば、調査の結果、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指導や指示であるか否かが客観的な資料等によって明らかでない場合であっても、当事者等からの聴取等により被害者の主張がより具体的で合理的である場合等には、職場におけるパワーハラスメントに該当する事実があったと認定できる場合に当たると考えられることから、適切に評価すること。

あわせて、「職場におけるパワーハラスメント」に該当しないことが明らかであって、上司と部下の間で、仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような事態や、その態様等も含めて業務上必要かつ相当な範囲内と評価される指導・叱責などが認められる場合は、項目24で評価する。

ト 項目23「同僚等から、暴行又はひどいいじめ・嫌がらせを受けた」

旧項目30「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた」と同旨であるが、顧客や取引先、施設利用者等からの暴行等については、項目27で評価する。

ナ 項目25「同僚とのトラブルがあった」

裁判例等を踏まえ「強」の具体例が一部修正されており、大きな対立が頻繁に生じ、その後の業務に大きな支障を来した場合が含まれることが明確化されたものである。項目26「部下とのトラブルがあった」についても同様である。

ニ 項目27「顧客や取引先、施設利用者等から著しい迷惑行為を受けた」

社会情勢の変化等を踏まえ、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設された。顧客や取引先、施設利用者等から、暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等の著しい迷惑行為を受けたことの心理的負荷を評価する項目である。

ヌ 項目28「上司が替わる等、職場の人間関係に変化があった」

旧項目34「理解してくれていた人の異動があった」、旧項目35「上司が替わった」及び旧項目36「同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された」が統合された項目である。

なお、上司が替わった、同僚等に昇進で先を越された等に伴い、上司・同僚等との関係に問題が生じたときには、項目22~25で評価する。

(3) 心理的負荷の総合評価の視点

具体的出来事ごとの心理的負荷の総合評価の視点について、これを明確化する観点から、当該具体的出来事に特有の視点だけでなく、共通して考慮すべき視点等について改めて整理され、示されたものである。

(4) 心理的負荷の強度を「弱」「中」「強」と判断する具体例

旧認定基準においては、平均的な心理的負荷の強度に対応した具体例しか示されていない具体的出来事が多数あったが、認定基準別表1においては、明確化の観点から具体例が拡充され、項目28の「中」及び「強」の欄を除き、すべての強度に対応した例が示されたものである。

(5) 恒常的長時間労働がある場合に「強」となる具体例

旧認定基準における「恒常的長時間労働が認められる場合の総合評価」として示されていた事項と同旨であるが、いずれも総合評価を「強」とすることとなるため、「恒常的長時間労働がある場合に「強」となる具体例」として示されたものである。

 

別紙3

複数の出来事があり業務による心理的負荷が強いと評価される例

【事例1:複数の出来事が関連して生じている場合】

Aさんは、発病前6か月以前に新製品開発・製造・納品の事務局として中心的な役割を担当することとなり、発病まで引き続きこの業務に従事した。納期が短く取引先から厳しい対応が求められる中、上司とは十分な意思疎通ができず適切な支援・協力がない困難な状況で、他部署との連携を図りつつ開発及び継続的な納品を行っており、労働時間についても、発病前6か月間は毎月60~75時間程度の時間外労働が生じていた。このことは、「新規事業や、大型プロジェクト(情報システム構築等を含む)などの担当になった」に該当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。

このような状況の中で、発病約2か月前に、当該新製品に納品規格に適合しないものが生じた。この結果、納期に間に合わない事態となった上、当該製品は廃棄処分となり、多額の損失が生じた。Aさんは上司から叱責され、また、期限に追われる中で原因解明、製造工法の見直しをし、再度の製造・納品を行った。このことは、「多額の損失を発生させるなど仕事上のミスをした」に該当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。

これらの出来事は、新製品開発・製造の主担当になったことを契機として生じているものであり、関連する出来事であって、全体として新規事業の困難性が高く、かつ、その事案の成否に重大な責任のある立場に就き当該業務に当たったものとして、全体の総合的な評価は「強」とした。

【事例2:複数の出来事が関連せずに生じている場合】

Bさんは、製造会社の材料供給・品質管理責任者であったが、自社製品の大部分に使われる材料を製造している海外の外注先で異物混入事故が発生し、50億円程度の機会損失回避のため、代替品の手配、外注先との交渉、材料製造手順の確認、現地での監査など、事態を収束するまで発病前3か月から発病時期にかけて、約3か月間対応した。このことは、「会社で起きた事故、事件について、責任を問われた」に該当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。

また、Bさんは、発病の6か月前から別の材料外注先の工場移転に伴う諸手続を実施していたが、移転先でトラブルが生じるなどして移転が遅れ、発病のおおむね3か月前には当該遅れのため自社工場の製造の一部が滞ることとなった。このため、他の外注先から材料の在庫の保存について苦情・要求を受け、対応に苦慮していた。在庫の引き取り、保管場所の確保等を求める要求内容自体は妥当なものであったが、温度等の保存条件や保存期間に制限があること等から切迫した強い要求で、その実現は容易ではなかった。これについて、外部倉庫の確保や在庫の一部廃棄等の対応を、その費用負担等について対立する社内意見の板挟みになりつつ調整し、移転が完了する発病時期まで継続して対応した。このことは、「顧客や取引先から対応が困難な注文や要求等を受けた」に該当し、心理的負荷の強度は「中」と評価した。

これらの出来事は、それぞれ関連せずに生じているところ、互いに近接、重層的に、かつ発病とも近接して生じており、その内容、程度及び発病に至るまでの経緯等を踏まえ、全体の総合的な評価は「強」とした。

 

別紙4<編注:クリックして表示