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通達:心理的負荷による精神障害の認定基準の改正に係る運用上の留意点について

 

心理的負荷による精神障害の認定基準の改正に係る運用上の留意点について

令和2年5月29日基補発0529第1号

(都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局補償課長通知)

★本通達は令和5年9月1日基補発0901第1号にて廃止されました。

 

心理的負荷による精神障害の認定基準については、令和2年5月29日付け基発0529第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準の改正について」(以下「第1号通達」という。)をもって改正されたところであるが、その具体的運用に当たっては、下記の事項に留意の上、適切に対応されたい。

なお、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和2年5月)」には、認定基準改正の考え方等が示されているので、第1号通達に基づく具体的な運用に当たり、適宜、参照されたい。

 

第1 検討の経緯及び改正の趣旨

心理的負荷による精神障害については、平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「認定基準」という。)に基づき労災認定を行ってきたところであるが、認定基準の発出以降、働き方の多様化が進み、労働者を取り巻く職場環境が変化するなど社会情勢の変化も生じているところである。

こうした中、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(以下「労働施策総合推進法」という。)が改正され、令和2年6月からパワーハラスメント防止対策が法制化されること等を踏まえ、精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会において、認定基準別表1「業務による心理的負荷評価表」(以下「心理的負荷評価表」という。)の見直しについての検討が行われた。

今般、その検討結果を踏まえ、心理的負荷評価表へのパワーハラスメントの追加等の認定基準の改正が行われたものであり、これにより、基準の具体化、明確化を図り、請求の容易化や審査の迅速化にも資するものである。

なお、今般の改正は、職場におけるパワーハラスメントの定義が法律上規定されたことを踏まえ、心理的負荷評価表の具体的出来事の明確化等を図るものであり、パワーハラスメントに係る出来事を新たに評価対象とするものではない。

 

第2 主な改正点

1 具体的出来事等へのパワーハラスメントの追加

心理的負荷評価表に、「出来事の類型」⑤として「パワーハラスメント」を追加し、その具体的出来事として、「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた(項目29)」を追加したこと。

なお、パワーハラスメントは、優越的な関係を背景とする上司等による一方的な被害であり、「対人関係」という類型から想定される、対人関係の相互性の中で生ずるものに限らない特異性があること、また、過去の支給決定事例等をみると、当事者の立場や加害行為の態様には多様性があることから、独立した類型としたものであること。

また、当該項目の平均的な心理的負荷の強度は、過去の支給決定事例等を踏まえ、「Ⅲ」とした上で、心理的負荷の総合評価の視点、心理的負荷の強度を「弱」、「中」、「強」と判断する具体例についても、過去の支給決定事例等を踏まえて修正したこと。

2 具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」の修正

改正前の認定基準における具体的出来事「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた(項目29)」については、上記1の改正に伴い、パワーハラスメントに該当しない優越性のない同僚間の暴行や嫌がらせ、いじめ等を評価する項目として位置づけるとともに、名称を「同僚等から、暴行又は(ひどい)いじめ・嫌がらせを受けた(項目30)」に修正したこと。

また、当該項目の平均的な心理的負荷の強度は、過去の支給決定事例等を踏まえ、「Ⅲ」とした上で、心理的負荷の総合評価の視点、心理的負荷の強度を「弱」、「中」、「強」と判断する具体例についても、過去の支給決定事例等を踏まえて修正したこと。

3 その他

類型番号、項目番号について、所要の修正をしたこと。

 

第3 運用上の留意点

1 具体的出来事等におけるパワーハラスメントについて

出来事の類型及び具体的出来事における「パワーハラスメント」とは、労働施策総合推進法及び「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」(以下「指針」という。)の定義を踏まえ、「職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものにより、その雇用する労働者の就業環境が害される」ことをいうものであること。

また、パワーハラスメントに関する具体的出来事については、過去の支給決定事例として、上司等から、暴行等の身体的な攻撃や、人格否定等の精神的な攻撃によるパワーハラスメントを受けたものが多くみられたこと等から、名称を「上司等から、身体的攻撃、精神的攻撃等のパワーハラスメントを受けた」とするとともに、平均的な心理的負荷の強度を「Ⅲ」としたものであること。

なお、職場におけるパワーハラスメントの行為態様は様々であるが、指針においては、職場におけるパワーハラスメントの代表的な言動の類型として、身体的な攻撃(暴行・傷害)、精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)のほか、人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)、過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)、過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)、個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)が掲げられていることに留意すること。

2 「具体的出来事」の見直しに伴う適切な評価について

具体的出来事の当てはめを行うに当たり、「職場におけるパワーハラスメント」に該当するか否かは、指針に基づき判断することになるが、労災補償においては、業務による出来事について、別表1のいずれの「具体的出来事」で評価することが適当かという観点から「具体的出来事」への当てはめを行い、評価を適切に行うことが重要であり、「パワーハラスメント」に該当するか否かを厳格に認定することが目的でないことに留意すること。

このため、例えば、調査の結果、業務上必要かつ相当な範囲で行われる適正な業務指導や指示であるか否かが客観的な資料等によって明らかでない場合であっても、当事者等からの聴取等により被害者の主張がより具体的で合理的である場合等には、職場におけるパワーハラスメントに該当する事実があったと認定できる場合に当たると考えられることから、適切に評価すること。

なお、「職場におけるパワーハラスメント」に該当しないことが明らかであって、上司と部下の間で、仕事をめぐる方針等において明確な対立が生じたと周囲にも客観的に認識されるような事態や、その態様等も含めて業務上必要かつ相当な範囲内と評価される指導・叱責などが認められる場合は、「上司とのトラブルがあった」の具体的出来事に当てはめて評価することになること。

3 繰り返されるパワーハラスメントの取扱い

パワーハラスメントについては、当該行為が反復・継続しつつ長期間にわたって行われるという事情があることから、認定基準の第4の2(2)イ(イ)c及び同(5)②にいう「いじめやセクシュアルハラスメントのように出来事が繰り返されるもの」に該当する。

このため、認定基準に基づき、繰り返される出来事を一体のものとして評価し、また、その「継続する状況」は、心理的負荷が強まるものとして評価すること。

あわせて、パワーハラスメントが発病の6か月よりも前に開始されている場合でも、発病前6か月以内の期間にも継続しているときは、開始時からの行為を評価すること。

4 適用日等

改正労働施策総合推進法は、令和2年6月1日から施行されることから、第1号通達についても、同日以降適用することとされたものである。

同日において調査中の事案及び審査請求中の事案は、第1号通達に基づいて決定すること。

また、同日において係争中の訴訟事案のうち第1号通達に基づいて判断した場合に訴訟追行上の問題が生じる可能性のある事件については、当課労災保険審理室に協議すること。

 

第4 改正認定基準の周知等

1 改正認定基準の周知

精神障害の労災認定に関し相談等があった場合には、おって示すリーフレット等を活用することにより、改正認定基準等について懇切・丁寧に説明をすること。

また、各種関係団体に対しても、機会をとらえて周知を図ること。

なお、改正前の認定基準のパンフレットについては、当面、上記リーフレットを挟み込んで使用すること。

2 職員研修等の実施

当課においては、別途、改正認定基準に関するweb会議形式での研修を予定していることから、各労働局においても、当該研修資料を活用する等により職員研修等を計画的に実施し、職員の資質向上に努めること。

また、地方労災医員に対しても、同様に改正認定基準について情報提供し、その考え方等について説明すること。