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労働安全衛生法施行令等の一部を改正する政令及び労働安全衛生規則等の一部を改正する省令の施行について
平成23年2月4日基発0204第4号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
労働安全衛生法施行令等の一部を改正する政令(平成23年政令第4号。以下「改正政令」という。)及び労働安全衛生規則等の一部を改正する省令(平成23年厚生労働省令第5号。以下「改正省令」という。)が平成23年1月14日に公布され、一部の規定を除き平成23年4月1日から施行することとされたところであるが、その改正の趣旨、内容等については、下記のとおりであるので、その施行に遺漏なきを期されたい。
記
第1 労働安全衛生法施行令等の一部を改正する政令
1 改正の趣旨
改正政令は、専門家による検討結果を踏まえ、労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「施行令」という。)第18条に規定する名称等を表示すべき危険物及び有害物、施行令第22条に規定する健康診断を行うべき有害な業務、施行令第23条に規定する健康管理手帳を交付する業務及び施行令別表第3に規定する特定化学物質の範囲を拡大し、並びに労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成18年政令第257号。以下「一部改正令」という。)附則第3条に規定する製造等の禁止の規定が適用されていない適用除外製品等の一部について、その製造等を禁止するため、施行令及び一部改正令について所要の改正を行ったものである。
2 改正の内容及び留意事項
(1) 施行令の一部改正(改正政令第1条関係)
ア 特定化学物質等の範囲の拡大(施行令第18条、第22条及び別表第3関係)
(ア) 労働安全衛生法(昭和47年法律第57号。以下「法」という。)第57条第1項の表示(以下単に「表示」という。)をしなければならない物に、酸化プロピレン、1,4―ジクロロ―2―ブテン、1,1―ジメチルヒドラジン及び1,3―プロパンスルトンを追加することとしたこと。
なお、ジメチルヒドラジンには、1,1―ジメチルヒドラジン(略称UDMH)と1,2―ジメチルヒドラジン(略称SDMH)の2つの異性体が存在するため、今般の改正により表示をしなければならない物となるものは一方の異性体である「1,1―ジメチルヒドラジン」のみであるのに対し、通知の対象物である「ジメチルヒドラジン」は2つの異性体を含む総称であることに留意すること。
このため、ジメチルヒドラジン又はこれをその重量の0.1%以上含有する製剤その他の物に関する通知を行う際には、今後も、ジメチルヒドラジンについての含有量を記載しなければならないが、その際、1,1―ジメチルヒドラジンの含有量を併記することが望ましいこと。(施行令第18条関係)
(イ) 酸化プロピレン又は1,1―ジメチルヒドラジンを製造し、又は取り扱う業務を法第66条第2項の健康診断(以下「特殊健康診断」という。)の対象業務として追加することとしたこと。(施行令第22条関係)
(ウ) 特定化学物質の第二類物質に酸化プロピレン及び1,1―ジメチルヒドラジンを追加することとしたこと。(施行令別表第3関係)
なお、今般の改正により特定化学物質の第二類物質とされた1,1―ジメチルヒドラジンは、表示しなければならない物として追加された1,1―ジメチルヒドラジンと同様、2つの異性体のうちの一つであり、異性体の総称である通知の対象物とは対象範囲が異なること。
(エ) 酸化プロピレンを製造し、又は取り扱う業務のうち厚生労働省令で定める一部の業務については、作業主任者の選任、作業環境測定の実施及び特殊健康診断の実施の規定の適用を除外することとしたこと。(施行令第6条、第21条及び第22条関係)
イ 健康管理手帳を交付する業務の範囲の拡大(施行令第23条関係)
都道府県労働局長が健康管理手帳を交付する業務に、無機砒ひ素化合物(アルシン及び砒ひ化ガリウムを除く。)を製造する工程において粉砕をする業務を追加することとしたこと。
(2) 一部改正令の一部改正(改正政令第2条関係)
一部改正令附則第3条に規定されている適用除外製品のうち代替化が可能となったアからウまでの物について、その製造等を禁止することとしたこと。(一部改正令附則第3条関係)
ア 石綿ジョイントシートガスケッチングから切り出した石綿(アモサイト及びクロシドライトを除く。イ及びウにおいて同じ。)を含有するガスケットであって、一部改正令の施行の際現に存する国内の化学工業の用に供する施設(以下「既存化学工業施設」という。)の設備(配管を含む。以下同じ。)の接合部分(300度以上の温度の流体であるものを取り扱う部分に限る。)に使用されるもの(直径1500mm以上のものを除く。)
イ 石綿を含有するうず巻形ガスケットであって、既存化学工業施設の設備の接合部分(400度以上の温度の流体である物又は次のいずれかに該当する物であって、300度以上400度未満の温度の流体であるものを取り扱う部分に限る。)に使用されるもの
(ア) 亜硝酸及びその塩
(イ) 硝酸及びその塩
(ウ) 硫酸及びその塩
ウ 石綿を含有するグランドパッキンであって、既存化学工業施設の設備の接合部分(400度以上の温度の流体である物又は次のいずれかに該当する物であって、300度以上400度未満の温度の流体であるものを取り扱う部分に限る。)に使用されるもの
(ア) 亜硝酸及びその塩
(イ) 硝酸及びその塩
(ウ) 硫酸及びその塩
(3) 施行期日(改正政令附則第1条関係)
改正政令は、平成23年4月1日から施行することとしたこと。ただし、(2)については平成23年3月1日から施行することとしたこと。
(4) 経過措置(改正政令附則第2条から第7条まで関係)
ア 酸化プロピレン等(酸化プロピレン又はこれをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物をいう。以下同じ。)又は1,1―ジメチルヒドラジン等(1,1―ジメチルヒドラジン又はこれをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物をいう。以下同じ。)を製造し、又は取り扱う作業(試験研究のため取り扱う作業及び酸化プロピレン等を製造し、又は取り扱う業務のうち厚生労働省令で定める一部の業務を除く。)については、平成24年3月31日までの間は作業主任者の選任を要しないものとしたこと。(改正政令附則第2条関係)
イ 酸化プロピレン若しくはこれをその重量の0.1%以上含有する製剤その他の物、1,4―ジクロロ―2―ブテン若しくはこれをその重量の0.1%以上含有する製剤その他の物、1,1―ジメチルヒドラジン若しくはこれをその重量の0.1%以上含有する製剤その他の物又は1,3―プロパンスルトン若しくはこれをその重量の0.1%以上含有する製剤その他の物であって、改正政令の施行の日(平成23年4月1日)において現に存するものについては、平成23年9月30日までの間は、表示の規定は適用しないものとしたこと。(改正政令附則第3条関係)
ウ 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う屋内作業場については、平成24年3月31日までの間は、作業環境測定を行うことを要しないものとしたこと。(改正政令附則第4条関係)
エ (2)のアからウまでに掲げる物のうち、改正政令附則第1条ただし書に基づく改正政令の施行の日(平成23年3月1日)において、現に使用されているものについては、同日以後引き続き使用されている間は、製造等の禁止の規定は適用しないものとしたこと。(改正政令附則第5条関係)
なお、改正政令附則第5条の「現に使用されているもの」とは、一部改正令附則第2条の「現に使用されているもの」と同様であり、例えば機械に組み込まれているシール材等が該当するものであること。
オ 改正政令附則第5条により製造等の禁止の規定が適用されない物について、引き続き、表示及び法第57条の2第1項の文書の交付等による通知(以下単に「通知」という。)を行わなければならないものとしたこと。(改正政令附則第6条関係)
これは、改正政令による一部改正令の改正により、譲渡及び提供が禁止されることとなった製品については表示及び通知の義務がなくなるが、改正政令附則第5条により製造等の禁止の規定が適用されない物については、引き続き譲渡又は提供が行われることが想定されることから、引き続き、これを表示及び通知の対象としたものであること。
カ この政令の施行前にした行為等についての罰則の適用については、なお従前の例によるものとしたこと。(改正政令附則第7条関係)
(5) その他
平成22年11月30日に常用漢字表が改定されたことを受け、新たに常用漢字に追加された文字等を常用漢字表に合わせて修正したこと。
第2 労働安全衛生規則等の一部を改正する省令
1 改正の趣旨
改正省令は、改正政令の施行に伴い、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)等について所要の改正を行ったものである。
2 改正の内容及び留意事項
(1) 安衛則の一部改正(改正省令第1条関係)
ア 表示対象物質の追加(安衛則別表第2関係)
改正政令による施行令第18条の改正により、表示をしなければならない物に、酸化プロピレン、1,4―ジクロロ―2―ブテン、1,1―ジメチルヒドラジン及び1,3―プロパンスルトンが追加されたことに伴い、酸化プロピレンを含有する製剤その他の物であって酸化プロピレンの含有量が0.1%以上のもの、1,4―ジクロロ―2―ブテンを含有する製剤その他の物であって1,4―ジクロロ―2―ブテンの含有量が0.1%以上のもの、1,1―ジメチルヒドラジンを含有する製剤その他の物であって1,1―ジメチルヒドラジンの含有量が0.1%以上のもの、及び1,3―プロパンスルトンを含有する製剤その他の物であって1,3―プロパンスルトンの含有量が0.1%以上のものを表示をしなければならない物とすることとしたこと。
イ 計画の届出をすべき機械等の追加(安衛則別表第7関係)
法第88条第2項に基づく計画の届出をすべき機械等に、1,3―プロパンスルトン等(1,3―プロパンスルトン及びこれをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物をいう。以下同じ。)を製造し、又は取り扱う設備及びその附属設備を追加し、届出の際、提出すべき書面及び図面等を規定したこと。具体的には、以下の点に留意すること。
(ア) 20の2の項上欄に関し、改正省令においては、1,4―ジクロロ―2―ブテン等を対象物質等として追加したものであるが、「発散抑制の設備」は、対象物質等を製造し、若しくは取り扱う設備から試料を採取し、又は当該設備の保守点検を行う作業場所に設けるものに限る趣旨であること。
(イ) 20の4に規定する1,3―プロパンスルトンは経皮ばく露による発がん性が強く指摘されていることから、特化則第38条の19において密閉化等の措置を講じることとしているが、当該設備及びその附属設備について計画の届出を行わせる際、業務の概要、当該設備の主要構造部分及びその附属設備の構造の概要並びに密閉の方式及び取扱い時の健康障害防止措置の概要の書面を提出すべきこととしたこと。
また、当該設備及びその附属設備の設置等を行うに当たってはリスクアセスメントを実施し、その概要(改善結果又は計画を含む。)を健康障害防止措置の概要の書面として計画の届出様式に添付することが望ましい。
なお、吸入ばく露を防止するための局所排気装置等は必要とされておらず図面に含まれていないこと。
ウ 健康管理手帳に関する改正内容(安衛則第53条、第55条及び様式第7号から第10号まで関係)
(ア) 今回新たに健康管理手帳の交付対象となった業務を含め、交付要件については「令第23条第5号の業務」の要件をそのまま適用すること。
(イ) 無機砒ひ素化合物に係る健康管理手帳に基づく健康診断の回数及び項目については、平成21年12月14日付け基発1214第2号「健康管理手帳所持者及び船員健康管理手帳所持者に対する健康診断の実施について」別添の別表1の令第23条第5号の業務の項と同様とすること。
(ウ) 改正政令による施行令第23条の改正により無機砒ひ素化合物(アルシン及び砒ひ化ガリウムを除く。)を製造する工程において粉砕する業務を健康管理手帳に追加したところであるが、健康診断の項目等が従前から規定されている三酸化砒ひ素に係る業務のものと同様であることから、三酸化砒ひ素に係る健康管理手帳、健康管理手帳による健康診断実施報告書等の様式について、無機砒ひ素化合物に係る業務についても使用できるように、「三酸化砒ひ素」と表記されている箇所を「砒ひ素」に変更するとしたこと。
(2) 特化則の一部改正(改正省令第2条関係)
ア 特定化学物質の追加に伴う改正関係(特化則第2条、第2条の2、第4条、第5条、第7条、第8条、第13条から第21条まで、第24条、第36条、第36条の2、第38条の3、別表第1、別表第3、別表第4、別表第5及び様式第3号関係)
(ア) 特定第二類物質に、酸化プロピレン等及び1,1―ジメチルヒドラジン等を追加することとしたこと。(特化則第2条及び別表第1関係)
酸化プロピレン及び1,1―ジメチルヒドラジンは、いずれも動物実験の結果がん原性が認められており、健康障害のリスクが高いことが確認されたため、今般の改正により特定化学物質に追加したものであるが、いずれも揮発性が比較的高い液体であることを考慮して大量漏えいによる急性中毒の防止にも対処できるよう特定第二類物質としたものである。
(イ) 酸化プロピレン等を製造し、又は取り扱う業務のうち、酸化プロピレン等を屋外においてタンク自動車等から貯蔵タンクに又は貯蔵タンクからタンク自動車等に注入する業務(直結できる構造のホースを用いて相互に接続する場合に限る。)及び酸化プロピレン等を貯蔵タンクから耐圧容器に注入する業務(直結できる構造のホースを用いて相互に接続する場合に限る。)について、特化則の適用を除外することとし、新たに適用除外の条文を設けたこと。(特化則第2条の2関係)
酸化プロピレン等をタンク自動車等から貯蔵タンクに、又は貯蔵タンクからタンク自動車等に直結式のホースを用いて注入する作業及び酸化プロピレン等を貯蔵タンクから耐圧容器(小型ボンベ等)に直結式のホースを用いて注入する作業については、リスク評価の結果、吸入ばく露による健康障害のおそれが低いと判断されたため、表示以外の規制の適用を除外するものであること。
タンク自動車等の「等」には、タンカー及びタンクコンテナが含まれること。
また、直結式のホースはカプラー式、フランジ式、ねじ式等により、ガスや液体の漏れがないように接続する方式をいうこと。
本条に規定される作業にのみ労働者を従事させる場合は、作業主任者の選任、当該作業場所における作業環境測定の実施、特殊健康診断の実施等の措置を要さないが、事業場内において酸化プロピレンに係る他の作業(サンプリング作業等)がある場合は、当該作業についてこれらの措置を講ずる必要があることに留意すること。
なお、本条に規定される作業については、リスクは低いと判断されたものであるが、酸化プロピレン自体は有害性が認められる物質であることから、これらの作業であっても事業場においては自主的な管理を徹底することが必要であること。
酸化プロピレン以外の特定化学物質に係る同種の作業については、ばく露実態調査等に基づくリスク評価において安全性を確認しておらず、物性及び取り扱い設備等が異なることから、規制の適用を除外することはできないことに留意すること。
(ウ) 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造する設備は特化則第4条に基づき密閉式の構造とし、またこれらのガス又は蒸気が発散する屋内作業場については、特化則第5条に基づき発散抑制措置を講じなければならず、同条第1項に基づき設置された局所排気装置又はプッシュプル型換気装置については、特化則第7条及び第8条に規定する要件を満たさなければならないこと。(特化則第4条、第5条、第7条、第8条関係)
(エ) 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う特定化学設備については、漏えい防止等のため第13条から第21条まで及び第24条に定める設備の要件を具備しなければならないこと。(特化則第13条から第21条まで及び第24条関係)
(オ) 酸化プロピレン等に係る作業主任者の選任、作業環境測定の実施及び特殊健康診断の実施の規定の適用を除外する作業は(イ)に掲げる作業とすることとしたこと。(特化則第27条、第36条及び第39条関係)
(カ) 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う屋内作業場については、作業環境測定及び測定結果の評価を行うこと並びにこれらの記録について、30年間保存することとしたこと。(特化則第36条及び第36条の2関係)
なお、酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等に係る局所排気装置の要件、作業環境測定の方法及び測定結果の評価方法については、改正省令の施行の日までに、特定化学物質障害予防規則の規定に基づく厚生労働大臣が定める性能(昭和50年労働省告示第75号)、作業環境測定基準(昭和51年労働省告示第46号)、作業環境評価基準(昭和63年労働省告示第79号)及び特定化学物質障害予防規則第八条第一項の厚生労働大臣が定める要件(平成15年厚生労働省告示第378号)を改正し、公示する予定であること。
(キ) 特別管理物質に、酸化プロピレン等及び1,1―ジメチルヒドラジン等を追加することとしたこと。(特化則第38条の3関係)
なお、特別管理物質は、特化則第38条の3の作業場内掲示、特化則第38条の4の作業記録の保存、特化則第40条第2項の特殊健康診断の結果の記録の30年間保存、特化則第53条の記録の提出の対象となることに留意すること。(特化則第43条関係)
(ク) 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う作業に従事する労働者に使用させる呼吸用保護具の選定に当たっては、次の事項に留意すること。
① 酸化プロピレンは非常に蒸気圧が高く、有機ガス用防毒マスクを使用した場合に、破過時間が極めて短くなるおそれがあることから、防毒マスクの吸収缶は1回使い捨てが望ましいこと。やむを得ず再使用する場合は、ばく露濃度や使用時間等により、十分な除毒能力が残存していることを確認することが必要であること。
② 1,1―ジメチルヒドラジンはリスク評価において有害性が高いとされたことに加え、臭気の閾値が高いために有害性を認識しにくいことから、送気マスクを採用することが望ましいこと。やむを得ず作業性等の問題から防毒マスクを使用する場合は、吸収缶の有効性に関し、有機ガス用吸収缶の有効性は不明であるがアンモニア用吸収缶は有効であるとの情報もあることから、関係事業者は吸収缶の選定に当たって有効性を確認すること。防毒マスクの選定に当たっては、ばく露予測モデル等の活用により作業場所のばく露濃度を推定し、0.1ppm以下の作業であれば半面形防毒マスクを、0.5ppm以下の作業であれば全面形防毒マスクを、0.5ppmを超える作業又はばく露濃度が推定できない場合であれば送気マスクを採用することが望ましいこと(指定防護係数を考慮して選定する)。1,1―ジメチルヒドラジンを対象とした破過時間が十分確認されていないため、吸収缶は1回使い捨てが望ましいこと。防毒マスクの着用者には適切な装着(フィットネス)の教育を行うことが必要であること。
(ケ) 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等に係る特殊健康診断の項目を定めることとしたこと。具体的には、以下の点に留意すること。(特化則別表第3及び別表第4関係)
a 酸化プロピレン等に係る特殊健康診断の項目について
酸化プロピレン等を製造し、又は取り扱う業務については、眼、上気道及び皮膚の刺激症状や、上気道上皮の細胞変性及び発がん等を引き起こす可能性が指摘されたことを踏まえ、特殊健康診断の項目の趣旨等については、次のとおりとすること。
(a) 「作業条件の簡易な調査」は、労働者の当該物質へのばく露状況の概要を把握するため、前回の特殊健康診断以降の作業条件の変化、環境中の酸化プロピレンの濃度に関する情報、作業時間、ばく露の頻度、酸化プロピレンのガス又は蒸気の発生源からの距離、呼吸用保護具の使用状況等について、医師が主に当該労働者から聴取することにより調査するものであること。このうち、環境中の酸化プロピレンの濃度に関する情報の収集については、当該労働者から聴取する方法のほか、衛生管理者等からあらかじめ聴取する方法があること。
(b) 「眼の痛み、せき、咽頭痛等の他覚症状又は自覚症状の有無の検査」は、酸化プロピレンにより生じる眼及び上気道の刺激症状の検査をいうこと。
(c) 「皮膚炎等の皮膚所見の有無の検査」は、酸化プロピレンにより生じる皮膚の発赤等の皮膚症状を考慮したものであり、主に視診により検査するものであること。
(d) 「作業条件の調査」は、労働者の当該物質へのばく露状況の詳細について、当該労働者、衛生管理者、作業主任者等の関係者から聴取することにより調査するものであること。
(e) 「上気道の病理学的検査」は、鼻腔がん等の上気道の悪性腫瘍を考慮した検査であること。
(f) 「耳鼻科学的検査」は、鼻腔等の視診により検査するものであること。
b 1,1―ジメチルヒドラジン等に係る特殊健康診断の項目について
1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う業務については、眼及び上気道の刺激症状や、肝機能障害等を引き起こす可能性が指摘されたことを踏まえ、特殊健康診断の項目の趣旨等については、次のとおりとすること。
(a) 「作業条件の簡易な調査」及び「作業条件の調査」については、酸化プロピレン等に係る特殊健康診断の項目と同様であること。
(b) 「眼の痛み、せき、咽頭痛等の他覚症状又は自覚症状の有無の検査」は、1,1―ジメチルヒドラジンにより生じる眼及び上気道の刺激症状の検査をいうこと。
(コ) 施行令第22条に規定する健康診断を行うべき有害な業務のうち、同条第2項第24号において厚生労働省令で定めることとされている当該業務に係る物として、酸化プロピレンを含有する製剤その他の物であって酸化プロピレンの含有量が重量の1%を超えるもの及び1,1―ジメチルヒドラジンを含有する製剤その他の物であって1,1―ジメチルヒドラジンの含有量が重量の1%を超えるものを定めたこと。(特化則別表第5関係)
(サ) 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う業務を特殊健康診断の対象業務としたことに伴い、特化則様式第3号について所要の改正を行ったこと。(特化則様式第3号(裏面)関係)
イ 1,4―ジクロロ―2―ブテンに係る措置(特化則第38条の17関係)
特化則第38条の17に規定する1,3―ブタジエン等に係る措置の規制対象に1,4―ジクロロ―2―ブテン等(1,4―ジクロロ―2―ブテン及びこれをその重量の1%を超えて含有する製剤その他の物をいう。以下同じ。)を追加したこと。
1,4―ジクロロ―2―ブテンはリスク評価における二次評価値が0.005ppmとされている極めて有害性の高い物質であるが、リスク評価におけるばく露実態調査により、当該物質を製造し、又は取り扱う事業場は少なく、取扱い作業のうちばく露による健康障害のおそれのある作業は限定的であることが確認されたため、当該特定の作業に限定して必要な措置を講ずることを義務付けたものである。
具体的には、1,4―ジクロロ―2―ブテン等を製造し、又は取り扱う設備から試料を採取し、又は当該設備の保守点検を行う作業に労働者を従事させる際は、発散源の密閉化、局所排気装置、又はプッシュプル型換気装置を設置することとすること。この場合の解釈は、平成20年2月29日付け基発第0229001号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令等の施行等について」第2の1(2)に示すところと変更はないこと。
また、屋外等で発散抑制の設備を設けることが困難な場合に作業に従事する労働者に呼吸用保護具を使用させる際は、送気マスクを採用することが望ましいこと。やむを得ず防毒マスクを使用する場合は、1,4―ジクロロ―2―ブテン等の有害性に鑑み有機ガス用防毒マスクの着用を必須とし、リスクアセスメントを行った上で、指定防護係数を考慮して全面形マスクを選択するなど適切な保護具を使用すること。
さらに、1,4―ジクロロ―2―ブテンは皮膚からの吸収の危険性も指摘されており、全面形マスク又は保護眼鏡並びに不浸透性の保護衣、保護手袋及び保護長靴の使用が望ましいこと。
1,4―ジクロロ―2―ブテン等については、動物実験の結果がん原性が認められているため、特別管理物質に準じ掲示、作業の記録及び記録の提出を義務づけたものであること。
なお、今般の規則の対象となる作業を含む、1,4―ジクロロ―2―ブテン等にばく露するおそれのある作業については、リスク低減対策を推進し、自主的な管理の徹底を図ること。
ウ 1,3―プロパンスルトンに係る措置(特化則第38条の19関係)
1,3―プロパンスルトン等を製造し、又は取り扱う作業に労働者を従事させるときに講ずべき措置を規定したこと。
1,3―プロパンスルトンは、動物実験の結果、ラットの皮膚への単回投与において局所の肉腫が高率で発生するという極めて発がん性の高い物質であることが明らかとなったが、リスク評価におけるばく露実態調査において吸入ばく露のリスクはほとんど問題とされなかった。これらを勘案して、経皮ばく露を防止するための対策に重点を置いた措置を講ずることを義務付けたものであること。
具体的には、製造又は取扱い設備の密閉化、設備からの漏えいの防止、ぼろ等の処理、不浸透性の床、関係者以外の立入禁止、作業規程の作成、堅固な容器の使用と保管、保護眼鏡並びに不浸透性の保護衣、保護手袋及び保護長靴の使用等を義務付けるものであり、当該義務付けは、特化則の該当条文と同様の趣旨のものであるため、この場合の解釈は、現行の特化則の解釈と同様であること。
なお、1,3―プロパンスルトンは、吸入ばく露のリスクが低いため、呼吸用保護具の使用等は義務付けられていないが、経皮ばく露の防止に加え、万一の際の吸入ばく露リスクへの備えのため、保護眼鏡の代わりに全面形防じん機能付き防毒マスクを採用することが望ましいこと。
経皮ばく露の防止については、事業場における健康障害防止のための取組みの例は少ないと考えられるが、接触防止のため設備の漏えい防止を含む安全性評価に重点を置いたセーフティ・アセスメントが重要であるため、平成12年3月21日付け基発第149号「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントについて」を参考として取り組むことが望ましいこと。
(3) 厚生労働省の所管する法令の規定に基づく民間事業者等が行う書面の保存等における情報通信の技術の利用に関する省令(平成17年厚生労働省令第44号)の一部改正(改正省令第10条関係)
事業者が、1,3―プロパンスルトン等を製造し、又は取り扱う作業場において行うべき作業の記録の作成及びその保存(特化則第38条の19第19号)を、電磁的記録により行うことができることとしたこと。
(4) 施行期日(改正省令附則第1条関係)
改正省令は、平成23年4月1日から施行することとしたこと。
(5) 経過措置(改正省令附則第2条から第5条まで関係)
ア 安衛則別表第7に定める酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造する設備、酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う特定化学設備及びその附属設備、酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等のガス又は蒸気が発散する屋内作業場に設ける発散抑制措置の設備、1,4―ジクロロ―2―ブテン等に係る発散抑制の設備(屋外に設置されるものを除く。)並びに1,3―プロパンスルトン等を製造し、又は取り扱う設備及びその附属設備の、設置、移転、又は主要構造部分の変更を平成23年7月1日前に行う場合には、安衛則第86条第1項及び法第88条第2項において準用する同条第1項の規定に基づく計画の届出を要しないこととしたものであること。(改正省令附則第2条)
イ 改正省令の施行の日(平成23年4月1日)において現に提出され、又は交付されている改正省令による改正前の様式による申請書等は、改正省令による改正後の相当様式による申請書等とみなすこととしたこと。また、改正省令の施行の際、現に存する改正省令による改正前の様式による申請書等は、当分の間、必要な改定をした上、使用することができることとしたこと。(改正省令附則第3条及び第4条関係)
ウ 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う設備で、改正省令の施行の日(平成23年4月1日)において現に存するものについては、平成24年3月31日までの間は、改正省令による改正後の特化則(以下「新特化則」という。)第4条又は第5条の規定は、適用しないこととしたこと。(改正省令附則第5条)
エ 酸化プロピレン等又は1,1―ジメチルヒドラジン等を製造し、又は取り扱う特定化学設備又は作業場で、改正省令の施行の日(平成23年4月1日)において現に存するものについては、平成24年3月31日までの間は、新特化則第13条から第21条まで、第31条及び第34条の規定は、適用しないこととしたこと。(改正省令附則第6条から第9条まで)
オ 1,4―ジクロロ―2―ブテン等を製造し、若しくは取り扱う設備から試料を採取し、又は当該設備の保守点検を行う作業場所で、改正省令の施行の日(平成23年4月1日)において現に存するものについては、平成24年3月31日までの間は、新特化則第38条の17第1項第1号の規定は、適用しないこととしたこと。(改正省令附則第10条)
カ 1,3―プロパンスルトン等を製造し、又は取り扱う作業場で、改正省令の施行の日において現に存するものについては、平成24年3月31日までの間は、新特化則第38条の19第1号、第3号から第9号まで、第17号の規定は、適用しないこととしたこと。(改正省令附則第11条)
(6) その他
ア 平成22年11月30日に常用漢字表が改定されたことを受け、新たに常用漢字に追加された文字等を常用漢字表に合わせて修正したこと。
イ 監督・安全衛生等業務の業務システム最適化に伴う様式の改正(改正省令第2条から第9条まで関係)
安衛則様式第3号等の光学的文字読取装置で読み取る様式については、これまで、赤色印刷された枠等により構成された帳票(以下「OCR帳票」という。)を使用することとされていたが、今般の監督・安全衛生等業務の業務システム最適化に伴い、既存OCR帳票に加え、汎用プリンタ等で白黒印刷した「黒枠帳票」の読み取りが可能となるようシステム構築を行うことから、次に掲げる様式について、当該読み取りのために、①起点となる基準マーク(■)を帳票の四隅のうち3箇所(左上、右上、左下)に表示する、②文字記入枠内の補助的記載(元号、年、月、日、人等)を文字枠外へ表示する等、所要の改正を行うこととした。
・ 総括安全衛生管理者・安全管理者・衛生管理者・産業医選任報告(安衛則様式第3号)
・ 定期健康診断結果報告書(安衛則様式第6号)
・ 免許申請書(安衛則様式第12号)
・ 所持免許申告欄(安衛則様式第12号(別紙))
・ 有害物ばく露作業報告書(安衛則様式第21号の7)
・ 労働者死傷病報告(安衛則様式第23号)
・ 特定化学物質健康診断結果報告書(特化則様式第3号)
・ 有機溶剤等健康診断結果報告書(有機溶剤中毒予防規則様式第3号の2)
・ 鉛健康診断結果報告書(鉛中毒予防規則様式第3号)
・ 四アルキル鉛健康診断結果報告書(四アルキル鉛中毒予防規則様式第3号)
・ 高気圧業務健康診断結果報告書(高気圧作業安全衛生規則様式第2号)
・ 電離放射線健康診断結果報告書(電離放射線障害防止規則様式第2号)
・ 石綿健康診断結果報告書(石綿障害予防規則様式第3号)
・ じん肺健康管理実施状況報告(じん肺法施行規則様式第8号)
第3 関係通達の一部改正
(1) 平成21年12月14日付け基発1214第3号「健康管理手帳所持者及び船員健康管理手帳所持者に対する健康診断の実施の運営について」の一部を次のように改正する。
1(1)、2(1)及び3(1)オ中「三酸化砒素業務」を「砒素業務」に改める。
別添2の15(4)中「三酸化砒素業務」を「砒素業務」に改める。
様式第1号及び第2号中「三酸化砒素」を「砒素」に改める。
(2) 平成21年12月14日付け基発1214第4号「健康管理手帳及び船員健康管理手帳交付等関係事務取扱要領」の一部を次のように改正する。
第1の1(2)ア中「三酸化砒素業務」を「砒素業務」に改める。
様式第8号及び第9号中「三酸化砒素」を「砒素」に改める。