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告示:男女雇用機会均等対策基本方針

 

男女雇用機会均等対策基本方針

制 定 令和五年六月二十八日厚生労働省告示第二百十八号

 

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和四十七年法律第百十三号)第四条第一項の規定に基づき、男女雇用機会均等対策基本方針を定めたので、同条第五項の規定に基づき告示する。なお、男女雇用機会均等対策基本方針(平成二十九年厚生労働省告示第七十二号)は、廃止する。

 

男女雇用機会均等対策基本方針

目次

はじめに

第1 男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活の動向

1 男女労働者を取り巻く経済社会の動向

2 男女労働者の職業生活の動向

第2 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項

1 施策についての基本的考え方

2 具体的施策

 

はじめに

我が国は、急速に少子高齢化が進み、人口減少社会を迎えている。我が国の持続的成長を実現し、社会の活力を維持していくためには、国民一人ひとりがその個性に応じた多様な能力を発揮でき、特に女性が積極的に社会参加できる社会の構築が不可欠である。

本基本方針の根拠法である雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「均等法」という。)は昭和61年の施行から35年余りが経過した。平成9年、平成18年の2度の改正以降、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律及び労働基準法の一部を改正する法律(平成18年法律第82号)の施行5年後見直しを受けた雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(昭和61年労働省令第2号。以下「均等法施行規則」という。)の改正や平成28年改正、令和元年改正など、法制度上は男女の均等な機会及び待遇の確保が進展している。

これに加え、平成27年8月には、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律(平成27年法律第64号。以下「女性活躍推進法」という。)が成立し、平成28年4月から全面施行された。これにより、常時雇用する労働者の数が301人以上の国及び地方公共団体以外の事業主(以下「一般事業主」という。)に対し、自社における女性の活躍に関する状況の把握、課題分析を行い、その課題に基づいた目標設定などを記載する一般事業主行動計画を定めることを義務付ける等、女性の活躍の推進が図られている。令和4年4月からは、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律等の一部を改正する法律(令和元年法律第24号。以下「女活法等一部改正法」という。)による改正後の女性活躍推進法(以下「改正女性活躍推進法」という。)が全面施行され、一般事業主行動計画の策定等義務の対象となる一般事業主の範囲が、常時雇用する労働者の数が301人以上の一般事業主から101人以上の一般事業主に拡大された。さらに、同年7月に、女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第104号)による改正後の女性の職業生活における活躍の推進に関する法律に基づく一般事業主行動計画等に関する省令(平成27年厚生労働省令第162号。以下「改正女活省令」という。)が施行され、常時雇用する労働者の数が301人以上の一般事業主に対し、その雇用する労働者の男女の賃金の差異の把握及び公表が義務付けられた。

この男女雇用機会均等対策基本方針は、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴くほか、都道府県知事の意見を求めた上で、男女労働者のそれぞれの職業生活の動向に関する事項を明らかにするとともに、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項を示すため、均等法第4条の規定に基づき策定されるものである。均等法の施行は、均等法制定前から施行されていた労働基準法(昭和22年法律第49号)第4条(男女同一賃金の原則)及び第6章の2(妊産婦等)等の規定に係る施策のほか、均等法制定後に制定された、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)に係る施策、短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号。以下「パートタイム・有期雇用労働法」という。)に係る施策、次世代育成支援対策推進法(平成15年法律第120号。以下「次世代法」という。)に係る施策、女性活躍推進法に係る施策、さらに、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号。以下「労働施策総合推進法」という。)のパワーハラスメント防止対策に関する規定に係る施策等とも密接に関係している。そのため、本基本方針においては、均等法の施行に係る事項についてのみならず、これらの均等法と密接に関係する施策の施行に係る事項についても、必要な範囲で示すこととする。

なお、本基本方針の運営に当たっては、労働政策審議会において、労働市場や男女労働者のそれぞれの職業生活の動向、諸施策の実施状況等を定期的に確認するとともに、本基本方針について、変更の必要性があると判断した場合は、見直すこととする。

 

第1 男性労働者及び女性労働者のそれぞれの職業生活の動向

1 男女労働者を取り巻く経済社会の動向

我が国の経済状況を見ると、実質GDP成長率は令和2年に、新型コロナウイルス感染症(以下「感染症」という。)の影響により大幅に落ち込んでいるが、その後は当該影響による強い下押し圧力を受けながらも、緩やかに持ち直している。これを背景に有効求人倍率(季節調整値)も同年9月を底に上昇し、令和5年1月時点では、雇用情勢は緩やかに持ち直している。

一方、人口は平成20年がピークとなり、平成23年以降減少に転じ、我が国は人口減少社会となっている。令和4年の合計特殊出生率は1.26と前年より低下し、少子化が進展している。令和5年に発表された「日本の将来推計人口(令和5年推計)」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、現在の傾向が続けば、令和52年には日本の人口は9,000万人を割り込み、高齢化率は40%近い水準になるという見通しが示されている。

こうした中、我が国の経済が持続的に発展し、ひいては国民全体が豊かで質の高い生活を享受するために、労働者が性別により差別されることなく、また、男女ともに仕事と育児・介護等を両立し、キャリアを形成しながら充実した職業生活を送ることができる環境の整備が求められている。

2 男女労働者の職業生活の動向

(1) 雇用の動向

ア 労働力の量的変化

労働力人口の動向を見ると、男性は長期的に見ると減少傾向が続いており、令和4年は3,805万人となっている。女性の労働力人口は増加傾向が続き、同年は3,096万人となっている。女性の労働力率は長期的に見ると上昇傾向が続いており、労働力人口全体としては、おおむね横ばいで推移している。

女性の年齢階級別労働力率のM字型カーブについては、全体が上方にシフトし、台形型に近づきつつある。配偶関係別に女性の労働力率を見ると、有配偶者の労働力率は特に20~44歳層の上昇幅が近年大きくなっている。一方、未婚者の労働力率に大きな変化はないことから、近年のM字型カーブの上方シフトは、有配偶者の労働力率の上昇が大きく影響していると考えられる。

雇用者数については、男性はおおむね横ばいで推移しており、令和4年は3,276万人となっている。他方、女性は増加傾向が続いており、同年は2,765万人となっている。また、雇用者総数に占める女性の割合は、上昇傾向が続いており、同年では45.8%となっている。

イ 労働力の質的変化

男性の勤続年数は、ほぼ横ばいで推移する一方、女性の勤続年数は緩やかに伸長しており、男女の勤続年数の差は徐々に縮小傾向にある。

また、雇用形態別雇用者数については、「正規の職員・従業員」の数は、男性はほぼ横ばい、女性は増加傾向にある。「非正規の職員・従業員」の数は、男女ともいずれも増加傾向にあったところ、令和2年及び令和3年の2年間は感染症等の影響もあり減少したが、令和4年は再び増加に転じている。また、「非正規の職員・従業員」のうち、「パート・アルバイト」、「労働者派遣事業所の派遣社員」及び「契約社員・嘱託」についても、これまで男女ともにおおむね増加傾向にあったところ、令和2年及び令和3年の2年間は、感染症等の影響により、女性の「労働者派遣事業所の派遣社員」を除いて減少していたが、令和4年はいずれも再び増加に転じている。男女それぞれの雇用者総数に占める割合を見ると、同年においては、男性の約8割が「正規の職員・従業員」である一方で、女性の「正規の職員・従業員」の割合は約5割に留まっている。また、年齢階級別に女性の正規雇用比率を見ると、25~29歳をピークに低下しており、グラフ全体の形がL字型となっている。

職業別の雇用者については、男性は様々な職業に広く従事しているのに対して、女性では、従事している職業に偏りが見られる。職業別雇用者数では、男性は「専門的・技術的職業従事者」が最も多く、女性では「事務従事者」が最も多くなっている。

産業別雇用者数を見ると、男性では「製造業」が最も多く、女性では「医療、福祉」が最も多くなっている。とりわけ、男性は「情報通信業」及び「医療、福祉」が、女性は「医療、福祉」及び「教育、学習支援業」が、近年、大幅に増加している。

ウ 失業の状況

完全失業率は、男性は平成22年に5.4%、女性は平成21年に4.8%となって以降、景気の回復を背景に改善している。令和3年に男性の完全失業率は対令和元年比0.6ポイント増加、女性は0.3ポイント増加し、雇用情勢は感染症の影響により悪化していたが、令和5年1月時点では、緩やかに持ち直している。

エ 労働力需給の見通し

令和4年の就業者数は6,723万人であるところ、「雇用政策研究会報告書」(令和元年)における推計では、今後の就業者数については、経済成長と労働参加が適切に進まなかった場合、令和22年には5,245万人に減少すると見込まれている。一方、経済成長と労働参加が適切に進んだ場合には、令和22年は6,024万人と、減少幅が縮小すると見込まれている。

オ 労働条件

男女間賃金格差は、徐々に縮小傾向にあるものの、令和4年における男性の所定内給与額100に対する女性の割合は75.7と、依然として欧米諸国と比較すると大きな差がある。この格差については、主として、役職や勤続年数による影響が大きいと考えられるが、そのほかにも就業分野の違いなど様々な要因によるところもあるものと考えられる。

労働時間について見ると、令和3年の男性常用雇用者1人当たりの平均月間総実労働時間は151.9時間、女性常用雇用者1人当たりの平均月間総実労働時間は118.2時間となっている。当該労働時間は男女ともに減少傾向にあるが、同年のパートタイム労働者以外の一般労働者の月間総実労働時間は162.1時間となっており、おおむね160時間台で高止まりしている。また、依然として欧米諸国と比べると長時間労働者の割合は高いものとなっている。

(2) 企業の雇用管理

ア 均等法等の施行状況等

均等法が昭和61年に施行されて35年余りが経過し、女性活躍推進法が平成28年に施行されて5年余りが経過した。企業内の雇用管理において制度面での男女の均等な取扱いは徐々に浸透しており、女性の職域も拡大が図られている。一方、管理職に占める女性の割合については、上昇傾向が続いているが、国際的に見ると依然その水準は低くなっている。

また、均等法に基づくセクシュアルハラスメント防止対策については、企業における取組が進展し、制度的な体制は整いつつあるが、令和3年時点で、常時雇用する労働者の数が100人以上のおおむね全ての企業が防止対策に取り組んでいる一方、常時雇用する労働者の数が30人~99人の企業においては防止対策の実施が85.7%、常時雇用する労働者の数が10人~29人の企業においては72.0%に留まっており、企業規模により、セクシュアルハラスメント防止対策の取組の状況に違いがあり、抱えている課題にも違いが見られる。

さらに、近年は、妊娠、出産、育児休業等に関する不利益取扱いのみならず、上司・同僚による職場における妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントも大きな問題となっていることを踏まえ、均等法及び育児・介護休業法に基づき、平成29年より、妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント防止対策が事業主に義務付けられている。当該対策の取組状況は、令和3年時点で、常時雇用する労働者の数が100人以上のおおむね全ての企業が防止対策に取り組んでいる一方、常時雇用する労働者の数が30人~99人の企業においては防止対策の実施が76.5%、常時雇用する労働者の数が10人~29人の企業においては61.7%に留まっている。

加えて、女活法等一部改正法による改正後の労働施策総合推進法(以下「改正労働施策総合推進法」という。)により、職場におけるパワーハラスメントの防止措置を講ずることが事業主に対して新たに義務付けられた。職場におけるパワーハラスメント防止対策の取組状況は、令和3年時点で、常時雇用する労働者の数が100人以上のおおむね全ての企業が防止対策に取り組んでいる一方、常時雇用する労働者の数が30人~99人の企業においては防止対策の実施が81.7%、常時雇用する労働者の数が10人~29人の企業においては68.9%に留まっている。

イ 女性活躍推進法の施行状況等

女性活躍推進法に基づく一般事業主行動計画の策定・届出率は、令和5年3月末時点で、一般事業主行動計画の策定・届出が義務となっている常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主のうち、常時雇用する労働者の数が301人以上のものについては97.7%、常時雇用する労働者の数が101人以上300人以下のものについては97.8%となっており、制度の浸透・定着が見られる。一方、一般事業主行動計画の策定・届出が努力義務である常時雇用する労働者の数が100人以下の一般事業主については、同時点で6,935社となっており、一定の取組はみられるものの、今後、一層の進展が期待される。

また、女性活躍推進法第9条に基づく認定(以下「えるぼし認定」という。)を取得した一般事業主は令和5年3月末時点で2,176社となっており、順調に増加している。認定段階については、認定段階3を取得している一般事業主が約7割を占めている。加えて、令和2年6月より施行された改正女性活躍推進法第12条に基づく特例認定(以下「プラチナえるぼし認定」という。)を取得した一般事業主は令和5年3月末時点で37社となっており、徐々に増加している。

さらに、女性活躍推進法に基づく各企業における女性の活躍状況に関する情報を一元的に集約した「女性の活躍推進企業データベース」において、令和5年3月末時点で24,887社が女性活躍推進法に基づく自社の情報を公表しており、各企業が求職者等に対して、自社の女性の活躍状況や、一般事業主行動計画の内容、えるぼし認定及びプラチナえるぼし認定の取得状況等の女性活躍推進に関する取組を発信・アピールする場となっている。

ウ 育児・介護休業法の施行状況等

育児休業制度が義務化されてから25年を超える中、制度の規定を有している事業所割合は、令和3年度では事業所規模30人以上で95.0%となるなど、制度の定着が進んでいる。しかしなが

ら、事業所規模が小さくなるほどその割合は低くなっている。育児休業取得率は、女性ではおおむね横ばいで推移し、令和3年度では85.1%となっているな

ど制度の定着が見られる一方で、男性では13.97%であり、近年上昇傾向にあるものの、制度の活用は低水準に留まっている。また、令和2年度中に育児休業を終了し、復職した女性の育児休業期間は「12か月~18か月未満」が34.0%と最も高く、次いで「10か月~12か月未満」が30.0%となっている一方で、男性の育児休業期間は「5日~2週間未満」が26.5%と最も高く、次いで「5日未満」が25.0%となっており、2週間未満が5割を超えている。

こうした状況も踏まえ、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律及び雇用保険法の一部を改正する法律(令和3年法律第58号)による改正後の育児・介護休業法(以下「改正育児・介護休業法」という。)において、子の出生直後の時期により柔軟に取得できる出生時育児休業(産後パパ育休)が設けられたことに加え、労働者又はその配偶者が妊娠し、又は出産したこと等の申出をした労働者に育児休業に関する制度を知らせるとともに、育児休業等の申出に係る当該労働者の意向を確認するための措置を講ずること等が事業主に義務付けられ、令和5年4月に全面施行された。

その他、育児のための所定労働時間の短縮措置等の制度がある事業所の割合は、令和3年度では事業所規模30人以上で89.3%となっており、各種制度の導入状況を見ると、「短時間勤務制度」が85.5%、「所定外労働の制限」が80.1%となっている。

介護休業制度については、平成11年度から義務化されているが、制度の規定を有している事業所割合は、育児休業制度に比べるとやや低く、令和元年度では事業所規模30人以上で89.0%となっている。

介護をしている雇用者のうち、介護休業取得者の割合は、平成29年で1.2%となっている。介護休業取得者の男女別内訳を見ると、女性は59.7%、男性は40.3%となっている。

エ 次世代法の施行状況等

次世代法が施行されてから、15年を超える中、一般事業主行動計画の策定・届出を行っている一般事業主の割合は年々上昇し、令和4年12月末時点で一般事業主行動計画の策定・届出が義務である常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主の策定・届出率は99.1%であり、一般事業主行動計画の策定・届出が努力義務である常時雇用する労働者の数が100人以下である一般事業主については、54,163社となるなど、制度の定着が進んでいる。

次世代法第13条及び次世代育成支援対策推進法施行規則(平成15年厚生労働省令第122号。以下「次世代則」という。)第4条第1項第1号に基づく認定(以下「くるみん認定」という。)を取得した企業数は、令和4年12月末時点で4,062社と年々増加しており、着実に取組が進んでいる。

また、次世代法第15条の2及び次世代則第5条の3第1項第1号に基づく特例認定(以下「プラチナくるみん認定」という。)についても、令和4年12月末時点で535社が取得している。

さらに、令和4年4月からは、次世代法第13条及び次世代則第4条第1項第3号に基づく認定(以下「トライくるみん認定」という。)制度を創設している。

また、不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦は約4.4組に1組となっている一方で、不妊治療を経験した者のうち16%(女性は23%)の者が不妊治療と仕事との両立ができずに離職していることを踏まえ、企業における不妊治療と仕事との両立支援のための取組を促進するため、令和4年4月より、次世代法第13条又は第15条の2及び次世代則第4条第1項第2号若しくは第4号又は第5条の3第1項第2号に基づく認定(以下「くるみんプラス認定」という。)制度を創設している。

オ パートタイム・有期雇用労働法の施行状況等

パートタイム・有期雇用労働者等の非正規雇用労働者は、平成22年以降増加が続いていたが、令和2年及び令和3年の2年間は感染症等の影響もあり減少したが、令和4年は再び増加に転じ、現在は労働者全体の4割を占める。働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)による改正後のパートタイム・有期雇用労働法等は、同一企業内における正社員と非正規雇用労働者との間の不合理な待遇差をなくし、どのような雇用形態を選択しても納得して働き続けられるようにすることで、多様で柔軟な働き方を選択できるようにすることを目指している。「労働経済動向調査(令和4年11月)」によると、「同一労働同一賃金に取り組んだ」事業所の割合は約63%であり、「待遇の見直しは必要ないと判断した」及び「異なる雇用形態が存在しない」事業所を含めると約91%となり、着実に取組は進んでいる。一方で、約7%が「取り組んでいない(異なる雇用形態が存在しない場合を除く)」と回答しており、企業規模が小さくなるほど「取り組んでいない」と回答した割合が高い。

カ 企業の雇用管理の変化

少子高齢化や人口減少、近年の緩やかな景気回復、団塊の世代の退職等により、労働市場においては人手不足が大きな問題となっている。そのような状況の中で、労働力の確保に向けて、例えば、労働時間や職務・勤務地を限定した限定正社員の採用等を行うなど、多様な働き方の導入に取り組む企業もある。

また、感染症の拡大によって、テレワークや在宅勤務の実施が一定程度定着している。

(3) 男女労働者の意識の変化と就業パターン

「夫は外で働き、妻は家庭を守るべき」との考え方については、反対が賛成を上回っており、若者を中心に固定的な性別役割分担意識の解消が徐々に進んでいる。女性が職業を持つことについての考え方を見ると、男女ともに「子どもができても、ずっと職業を続けるほうがよい」とする割合が最も高い。また、男性よりも女性においてその割合は高くなっている。加えて、令和4年9月に発表された「第16回出生動向基本調査」(国立社会保障・人口問題研究所)によると、第一子出産後も就業継続している女性の割合は、約7割と近年上昇傾向にあるが、就業継続を希望していながら離職を余儀なくされた女性も一定程度存在している。

一方、男性の3割以上が育児休業の取得を望んでいるものの、職場が育児休業制度を取得しにくい雰囲気であること等の理由から育児休業の取得が進んでおらず、女性と比較し非常に低い水準に留まっている。

また、令和4年11月に発表された「第10回21世紀成年者縦断調査(平成24年成年者)」によると、夫の平日の家事・育児時間が長いほど、妻の就業継続割合が高く、夫の休日の家事・育児時間が長いほど、第2子以降の出生割合が高くなっているが、6歳未満児のいる夫の家事・育児関連時間は令和3年時点で1日当たり約2時間と、国際的に見ると低水準となっている。

3 まとめ

均等法が昭和61年に施行されてから35年余りが経過した。数次の改正により法制度上の男女の均等な機会及び待遇の確保は進展した。加えて、平成27年8月の女性活躍推進法の成立、令和4年4月の改正女性活躍推進法の全面施行、同年7月の改正女活省令の施行など、女性活躍に向けた法制度の整備も進展している。

また、女性活躍推進法に基づく取組を始めとしたポジティブ・アクションの推進、改正育児・介護休業法による雇用環境整備等の措置の実施、仕事と生活の両立支援に向けた取組など官民をあげて多くの取組が行われることで、女性の就業継続支援、男性の育児等への意識は改善してきている。

一方で、依然として、男性と比べて女性の勤続年数は短く、管理職に占める女性割合も国際的に見ると低水準となっている。

他方で、男性の3割以上が育児休業の取得を望んでいるものの、育児休業の取得が進んでおらず、女性と比較し非常に低い水準に留まっており、取得期間も短い。

このように、男女ともに、希望する働き方の実現とキャリア形成、仕事と家庭の両立ができていない者が一定程度存在している。

 

第2 雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等について講じようとする施策の基本となるべき事項

1 施策についての基本的考え方

雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する施策は、「労働者が性別により差別されることなく、また、女性労働者にあっては母性を尊重されつつ、充実した職業生活を営むことができるようにする」という均等法の基本的理念にのっとって推進されるべきものである。

過去4度の法改正を経て、均等法等の法制度の整備は進展し、また、女性活躍に向けた法制度の整備も進展している。

しかしながら、第1で見たように、均等法施行後35年余りを経てもなお実態面での男女の格差は残っている状況にある。

こうした実態面での男女格差が解消されない背景には、男女ともに、長時間労働を前提とした働き方など、多様な事情を抱える労働者が十分に能力を発揮して働く環境が整っていない場合が見られること、仕事と家庭の両立に対する不寛容な職場風土が両立支援制度を利用する際の障壁となっていること、固定的な性別役割分担意識が存在していることなどが挙げられ、その結果として、就業継続を希望しながらも、仕事と育児の両立の難しさ等から、妊娠、出産等により離職する女性が依然として一定程度存在していると考えられる。また、女性が、出産、育児期を通じて就業継続するためには、仕事のやりがいを感じられているかどうかということも重要な要素である。さらに、キャリア形成のために必要なロールモデルが不在であること等が女性のキャリア形成における課題として存在するなど、労働者が職業人生における明確な展望を描きつつ働き続け、その能力を伸長・発揮することについて、具体的な見通しを持ちにくいことも実態面での男女格差が解消されない背景として考えられる。

一方、今後の少子化の進展に伴う労働力人口の減少が見込まれる中、女性の就業率の向上や労働者が安心して働き続けることのできる環境整備は喫緊の課題である。また、仕事と生活の関係やこれらに対する考え方が多様化している中、男女ともに性別にかかわらず主体的に働き方やキャリアを選択できることが求められている。特に男性については、より一層育児・家事を行えるよう職場環境を見直していくことが重要である。

さらに、感染症の拡大によってテレワークや在宅勤務等が実施され、働き方の多様化により男女ともに家庭と仕事の両立がしやすくなった人が増加している。こうした、感染症により広がった新たな働き方についても考慮する必要がある。

以上を踏まえると、当面の間に採るべき施策の基本的考え方としては、法制上の機会均等の確保の上に、今後は実質上の機会均等の確保を目指すという観点から、以下のように整理すべきものと考える。

まず、均等法に定められた性差別の禁止を始めとする規定の確実な履行確保を前提とした上で、男女ともに様々なライフイベントがある中で、職業人生における明確な展望を描きつつ働き続け、その能力を伸長・発揮できる環境を整備することが必要である。

また、同時に、仕事上の責任を果たしつつ人生の各段階に応じた多様な希望を実現できること、すなわち、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を図るための環境整備を一層進めることが重要である。

さらに、これらの実現を図っていくには、法の履行確保のみならず、各企業における雇用管理制度及びその運用の見直しが不可欠である。こうした企業の取組は、男女間の事実上の格差の解消につながるものであり、女性活躍推進法のスキームを用いた各企業の取組の推進をはじめ、各企業の主体的なポジティブ・アクションの取組を一層促進していくことが重要であり、長時間労働を前提とした働き方の是正とともに、男性が積極的に育児・家事を行うことができるよう社会全体で促していくことが求められる。

他方、妊娠、出産等で離職する女性が一定程度存在するという現状においては、一旦就業を中断した者がそれまでの就業経験を生かし、再就職・再就業できることが可能となる環境を整えることも重要である。

なお、上記を推進するに当たっては、企業規模別等の実態に応じたきめ細かな対応を行っていくこと、また、正規の職員・従業員以外の労働者に対しても均等法等が適用されるものであることを十分に踏まえつつ対応することが必要である。

こうした考え方に立って、本基本方針においては、男女雇用機会均等確保対策を中心としつつ、仕事と育児・介護の両立支援、就業形態の多様化等への対策等を定め、国はこれらの対策の総合的な推進を図ることとする。

2 具体的施策

(1) 就業を継続し、その能力を伸長・発揮できるための環境整備

1の基本的考え方に基づき、公正な処遇の確保を始めとして、職業人生における明確な展望を描くことを可能にするため、労働者が就業を継続し、その能力を伸長・発揮できるための環境の整備を進める。

特に、公正な処遇の確保は就業意欲を支える基本となるものであることから、均等法の着実な履行を中心とする均等確保対策に積極的に取り組むこととする。

ア 公正な処遇の確保

(ア) 均等法等の履行確保

均等法等に沿った雇用管理が行われるよう、あらゆる雇用管理の段階における性別を理由とする差別の禁止のほか、間接差別の禁止、妊娠、出産等を理由とする不利益取扱いの禁止等の違反に対し厳正かつ的確な行政指導を行う。特に、事業主による就職活動中の学生等の求職者に対する募集及び採用の段階における性別を理由とする差別や、妊娠、出産、育児休業等を理由とする不利益取扱い及び上司、同僚による職場における妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントについては、女性の就業機会の確保及び就業継続の大きな阻害要因となる場合が多いことから、迅速な行政指導を行う。

なお、行政指導に当たっては、厚生労働省本省及び都道府県労働局雇用環境・均等部(室)(以下「雇用環境・均等部(室)」という。)間での情報の蓄積及び共有化を図り、効果的な指導を実施する。

均等法に係る問題事案が発生した場合には、迅速に雇用環境・均等部(室)への相談につながるよう、都道府県労働局の総合労働相談コーナー、地方公共団体との連携等により雇用環境・均等部(室)へのスムーズな取次ぎを図る。

都道府県労働局長による紛争解決及び調停については、特に雇用環境・均等部(室)等へ相談した事業主や労働者に対し、制度の周知、解決事例の紹介等により、制度の利用を促すとともに、被申立人に対しても、制度の趣旨・メリットを説明し、理解を図る。

また、法施行に当たっては、事業主及び労働者に法令等の求めるところが正しく理解されるよう、厚生労働省ホームページの活用や雇用環境・均等部(室)におけるパンフレット等の配布等による情報発信により、効率的かつ効果的な周知啓発を行う。

加えて、均等法に係る相談を受け付けることのできる窓口として雇用環境・均等部(室)の存在が広く知られるよう、事業主及び労働者に対し引き続き周知を行う。

さらに、パートタイム労働者、有期雇用労働者、派遣労働者等についても均等法等は適用されるものであることから、これらの労働者に対し制度の周知徹底を図るとともに、これらの者を雇用する事業主や、派遣労働者については派遣先の事業主に対しても、均等法等に則した雇用管理がなされるよう行政指導を行う。

その他、間接差別についても、引き続き、施行状況や裁判例等、実態把握を進め、対象事項として追加すべき間接差別の有無について検討する。

(イ) ポジティブ・アクションの推進

男女の均等な機会を確保するためには、企業の制度や方針において、労働者に対する性別を理由とする差別の禁止に関する規定を遵守することに加えて、過去の性差別的な雇用管理や職場に根強く残る固定的な性別役割分担意識により、企業において男女の間に事実上生じている格差に着目し、このような格差の解消を目指して企業が積極的かつ自主的に雇用管理の改善に取り組むことが望ましい。また、こうした取組を行うことにより、男女問わず能力が発揮されることは、企業にとっても持てる人材の有効活用につながることとなり、生産性の向上に資することとなる。

こうした取組は、ポジティブ・アクションとして、平成9年の均等法改正で新たに規定が導入され、以降、事業主の自主性を促す形で、取組の必要性の啓発や取組事例の紹介等によりその普及を図ってきたが、平成28年4月には女性活躍推進法が施行され、常時雇用する労働者の数が301人以上の一般事業主については、自社の女性の活躍状況に応じ、女性の職業生活における活躍の推進に関する取組に関する計画の策定等が法律上の義務として課され、令和4年4月からは、当該義務の対象範囲が、常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主に拡大された。

ポジティブ・アクションは、その手法においては女性のみを対象とする又は女性を有利に取り扱う取組のみならず、評価基準の明確化や透明化など、男女双方を対象にした雇用管理改善の取組も含まれ、その目的も、究極的には男女の均等な機会及び待遇の確保の支障となっている事情を改善することでなければならない。具体的な取組においては、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現や、労働時間短縮のための業務改革や業務遂行管理の改善等を目的とした取組もポジティブ・アクションの一環として位置付けられるものである。

各企業に対しては、これらの点を踏まえた上でポジティブ・アクションの取組を実施するよう一層促していく。

(ウ) コース等別雇用管理の適正な運用の促進

均等法施行規則においては、全ての労働者の募集・採用、昇進、職種の変更に当たって、合理的な理由なく転勤要件を設けること等は間接差別として均等法に違反することとされている。

また、コース等で区分した雇用管理を行うに当たって事業主が留意すべき事項に関する指針(平成25年厚生労働省告示第384号)では、事業主がコース等で区分した雇用管理を行うに当たり、その適正かつ円滑な運用に資するよう、コース等の新設、変更又は廃止、コース等別雇用管理における労働者の募集又は採用及びコース等別雇用管理における配置、昇進、教育訓練、職種の変更等に当たって留意すべき事項を示している。

この均等法施行規則及び当該指針の内容について事業主に対し周知し、コース等別雇用管理を導入している事業主において、均等法に違反する運用、特に均等法施行規則に規定する間接差別に当たる運用がなされないよう改めて啓発する。また、事業運営の基幹となる事項に関する企画立案、営業、研究開発等を行う業務に従事するコース(いわゆる「総合職」)に女性の採用や配置が少ない事業主や、女性の役職者が少ない事業主においては、コース等別雇用管理が女性の職域拡大や管理職登用等を阻害する原因となっていないか、自社の状況の把握と分析を踏まえて、コース等別雇用管理を行う必要性について検討を行うことも含めて助言等を行う。

(エ) 妊娠、出産、育児休業等を理由とする不利益取扱い行為の防止対策の推進

雇用環境・均等部(室)への妊娠、出産、育児休業等に関する不利益取扱いの相談件数は横ばいではあるが、解雇に至る重大な事案も少なくない。また、外国人労働者が妊娠を報告すると雇用契約を打ち切られたといった相談が寄せられている。均等法及び育児・介護休業法において、妊娠、出産、育児休業等に対する解雇等の不利益な取扱いは禁じられているところであり、そのような不利益取扱いが起こらないよう周知徹底に努め、不利益取扱い事案については迅速に行政指導を行う。また、行政指導に従わない悪質な事業主については、企業名の公表を含め厳格に対応する。

(オ) 母性健康管理対策の推進

職場において女性が母性を尊重され、働きながら安心して子どもを産むことができる環境を整備することは、女性の能力発揮の促進に加え、少子化への対応、さらには生涯を通じた女性の健康確保の観点からも極めて重要な課題である。

このため、労働基準法及び均等法に基づく女性の母性保護及び母性健康管理について、市町村等と連携して引き続きその周知徹底を図るとともに、母性健康管理体制の整備に対する支援、相談、情報提供等を行う。

また、均等法で求められている措置を講じない事業主に対しては、企業名の公表を行うことも含め、行政指導により確実な法の遵守を求めるとともに、母性健康管理措置等に係る規定の整備を促進する。

なお、母性健康管理対策については、問題事案が生じた場合には、特に迅速な解決が求められるものであることから、相談から紛争解決までの迅速な処理に努める。

(カ) 労働者の健康確保の推進

職場において女性が母性を尊重されることに加えて、男性を含め労働者の健康を確保することは、労働者が就業を継続しその能力を伸長・発揮できるようにするため重要な課題である。

このため、生理や更年期等を含め、労働者の健康に関する情報提供や、労働者の健康確保に取り組む企業事例の周知等を行うことにより、労働者本人の健康管理に関する意識を高めるとともに、企業による職場環境整備を促進する。

イ ハラスメント防止対策の推進

(ア) セクシュアルハラスメント防止対策の推進

雇用環境・均等部(室)に寄せられる相談ではセクシュアルハラスメントに係るものが依然として多く、中には離職に至る深刻な事案も少なくない。職場におけるセクシュアルハラスメント防止措置については、事業主の義務となっており、均等法で求められている措置を講じていない事業主に対しては、企業名の公表を行うことも含め、行政指導により確実な措置の実施を求めていく。企業規模が小さいほどセクシュアルハラスメントの防止対策に取り組む企業割合が低くなっていることから、特に中小企業に対しきめ細かい情報提供を行っていく。また、女活法等一部改正法による改正後の均等法(以下「改正均等法」という。)において、事業主等のセクシュアルハラスメントに関する責務規定や、労働者からセクシュアルハラスメントに関する相談を受けた場合の不利益取扱い禁止規定、他の事業主のセクシュアルハラスメント防止措置の実施に関し、必要な協力を求められた場合にこれに応じる努力義務規定が新設されており、改正均等法の内容についても周知徹底する。

さらに、近年、就職活動中の学生等の求職者に対するセクシュアルハラスメントについて、悪質な事案が発生している。事業主が職場における性的な言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置についての指針(平成18年厚生労働省告示第615号)においては、求職者等から職場におけるセクシュアルハラスメントに類すると考えられる相談があった場合、事業主は、その内容を踏まえて、必要に応じて適切な対応を行うように努めることが望ましい旨明示している。事業主に対しては、この点についても周知啓発する。

(イ) 妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの防止対策の推進

均等法及び育児・介護休業法により、職場における妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントの防止措置を講ずることが事業主に対して義務付けられており、また、改正均等法等において、事業主等の妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントに関する責務規定及び労働者から妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメントに関する相談を受けた場合の不利益取扱い禁止規定が新設されている。育児休業等に関するハラスメントについては、改正育児・介護休業法において新設された出生時育児休業(産後パパ育休)も対象となることから、これらの改正について周知徹底していくとともに、均等法及び育児・介護休業法で求められている措置を講じない事業主に対しては、企業名の公表を行うことも含め、行政指導により確実な措置の実施を求めていく。

(ウ) パワーハラスメント防止対策の推進

改正労働施策総合推進法により、職場におけるパワーハラスメントの防止措置を講ずることが事業主に対して新たに義務付けられている。特に中小事業主については、令和4年4月から義務付けられたところであり、規模が小さいほどパワーハラスメントの防止に取り組む企業割合が低くなっていることから、措置の内容について周知徹底していくとともに、改正労働施策総合推進法で求められている措置を講じない事業主に対しては、企業名の公表を行うことも含め、行政指導により確実な措置の実施を求めていく。

(エ) 総合的なハラスメント防止対策の推進

職場におけるセクシュアルハラスメント、妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント、パワーハラスメントなどのハラスメントは、他のハラスメントとも複合的に生じるケースが多いことを踏まえると、企業における防止対策については、一元的に相談に応じることのできる体制を整備することが望ましいことから、併せて指導徹底を行う。

また、雇用環境・均等部(室)では、セクシュアルハラスメントや妊娠、出産、育児休業等に関するハラスメント、パワーハラスメント等についての事業主や労働者からの相談対応や、関係法令の履行確保の徹底を図る。

さらに、近年、顧客等からの著しい迷惑行為(いわゆるカスタマーハラスメント)についても社会的に大きな問題となっている。事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)において、カスタマーハラスメントに関する防止対策を講ずることが望ましいとされていることも踏まえ、事業主に対して「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」等を活用した周知啓発を行うとともに、各業界において進められている工夫した取組を把握した上で、より効果的な対策の普及に努める。

加えて、性的指向・性自認に関するハラスメントについても、相談対応や関係法令の履行確保の徹底、取組事例の周知等の対策を講ずるとともに、フリーランスに対する相談支援等も実施する。

ウ 女性活躍推進法の着実な施行

(ア) 一般事業主行動計画策定の促進

女性活躍推進法は、常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主に対し、自社の女性の活躍に関する状況把握・課題分析を行い、その課題を解決するための数値目標と取組を盛り込んだ一般事業主行動計画の策定・届出・周知・公表及び自社の女性の活躍に関する情報の公表を義務付けることにより、自社の女性の活躍状況に応じた各一般事業主の取組を促進し、女性の職業生活における活躍の推進を図るものである。女性活躍推進法に基づき、一般事業主が自社における女性活躍に関する状況を把握、課題分析した上で、数値目標を含む一般事業主行動計画を策定し、その取組状況を点検、評価するサイクルを確立することや、自社の状況を公表すること等、女性の活躍に向けた取組を進めることが重要であることから、一般事業主に対して、パンフレット等による一般事業主行動計画策定の手順や方法、好事例などの周知や、一般事業主行動計画策定支援ツールの提供など、積極的な支援を行う。

また、常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主において、一般事業主行動計画の策定・届出が行われていない場合には、行政指導も含めた積極的な働きかけを行う。常時雇用する労働者の数が100人以下の一般事業主も含め、一般事業主行動計画に基づいた取組が着実に進むよう、必要な助言等を実施していく。

(イ) 女性の活躍状況に関する情報の公表の促進

女性活躍推進法に基づき、常時雇用する労働者の数が101人以上の一般事業主は、女性の活躍に関する情報の公表が義務付けられている。女性の活躍に関する情報を公表することは、就職活動中の学生など求職者の企業選択に資するとともに、女性が活躍しやすい企業の優秀な人材の確保や競争力の強化につながることが期待できる。

これらを踏まえ、一般事業主に対して、パンフレット等を通じて、情報公表の方法等の周知や、女性の活躍推進企業データベース及び女性・若者といった個別分野ごとに提供されている企業の職場情報を総合的に提供するための職場情報総合サイト「しょくばらぼ」の活用の促進を図る。

(ウ) 男女間賃金格差の縮小

男女間賃金格差については、性別を理由とする賃金に関する差別的取扱いによるものであれば労働基準法第4条により禁止されており、また、その原因となる採用、配置、昇進等における性別を理由とする差別や、実質的に性別を理由とする差別となるおそれがある措置については、均等法第5条から第7条までにより禁止されている。その上で、これらの規定に抵触しない場合であっても、男女間賃金格差の状況は、我が国社会全体及び個々の企業において、女性が職業生活の場で活躍できているかを示す指標であることから、当該状況を確認することは重要である。

我が国における男女間賃金格差の状況は、第1の2(1) オで見たとおり、縮小傾向にはあるが、欧米諸国と比較すると依然として大きく、その要因としては、男女間では勤続年数と管理職比率の差異が大きいことが挙げられる。

このような状況を踏まえ、令和4年7月より、常時雇用する労働者の数が301人以上の一般事業主に対し、男女の賃金の差異の把握及び公表が義務付けられた。これを契機として、各企業における男女の賃金の差異の要因分析や、課題解決に向けた取組を支援していくことにより、女性活躍推進法に基づく企業の取組を加速させ、男女間賃金格差の解消に努める。

求職者等に対しては、一般事業主によって公表される男女の賃金の差異の数値のみならず、男女の賃金の差異が生じる背景や原因に対する分析等の情報も含め、当該一般事業主の女性活躍推進の取組の実情や将来に対する姿勢を注意深く見極めることが必要であること等についても、周知啓発を行う。

なお、男女間賃金格差については、女性活躍推進法に基づく施策のみならず、育児・介護休業法、パートタイム・有期雇用労働法その他の法令等に基づく施策と相まって解消されるものであることに留意する必要がある。

(エ) えるぼし認定及びプラチナえるぼし認定取得の支援

一般事業主行動計画を策定した旨の届出を行った一般事業主のうち、女性の活躍推進に関する取組の実施状況等が優良なものは、申請により、えるぼし認定及びプラチナえるぼし認定を取得できる。したがって、えるぼし認定及びプラチナえるぼし認定の取得支援を行うことにより、女性が活躍できる環境整備がより一層進展すると考えられる。

また、えるぼし認定を取得すると女性活躍推進法第10条に定める表示(以下「えるぼしマーク」という。)を、プラチナえるぼし認定を取得すると女性活躍推進法第14条に定める表示(以下「プラチナえるぼしマーク」という。)を、それぞれ商品や広告などに付すことができ、女性活躍推進に取り組む企業であることをアピールできる。また、えるぼし認定及びプラチナえるぼし認定を取得した一般事業主は公共調達で優遇される。こういった認定取得のメリットや、認定基準等を一般事業主に対して周知することにより、認定取得に向けた取組を促進していく。

さらに、学生等に対しては、就職活動等において企業選択の際活用できるよう、えるぼしマーク、プラチナえるぼしマーク及び女性の活躍推進企業データベースの周知を行っていく。

エ ライフステージに応じた能力向上のための支援

(ア) 学生に対する支援

仕事と生活の状況やこれらに対する考え方が多様化する中で、若年者が就職活動に当たり職業生活と私的生活の将来設計を描きつつ職業選択に臨むことが重要である。また、女性の就業分野は広がりつつあるが、男性と比較すると依然として事務的な職種に集中しており、今後は、理系、技術系等、より広い分野でより多くの女性の活躍が望まれる。

このため、関係機関と連携を図りつつ、男女双方の学生について、固定的な性別役割分担意識に捕らわれることなく、個人の適性及び能力にあった進路選択・職業選択が適切になされるとともに、職業意識の形成に資するよう、就職活動を始める前の自己分析、職業生活と私的生活の将来設計、適切な進路選択等を始め、就職・就業に関する様々な情報提供を行う等の支援を行う。

また、女性の活躍推進企業データベースや、両立支援のひろばにおいては、各企業の女性活躍に関する情報や、家庭と仕事の両立支援に関する情報、女性活躍推進法又は次世代法に基づく一般事業主行動計画が公表されており、業界内・地域内での企業の位置付けを知ることができ、学生等の職業選択の手助けとなるため積極的な周知を行う。

さらに、学生向けリーフレットを全国の大学や都道府県労働局に毎年配布するなど、学生に対して、働き始める前に知っておきたい基本的な知識の普及啓発を行う。

(イ) 労働者のキャリア形成に対する支援

女性の勤続年数については緩やかに伸長しており、妊娠、出産を経ても就業を継続する女性が徐々に増加している。この点、妊娠、出産等のライフイベントを経ても就業を継続し、キャリアを形成しながら充実した職業生活を送ることができるよう、一層の環境整備を進めていく。

また、女性のキャリア形成に資するよう、労働者の選択に応じた職業能力開発機会の確保、キャリアコンサルティングの普及促進、女性のキャリアアップに資する教育訓練の充実等の支援を行う。

あわせて、育児・介護等との両立が可能な職業訓練(公的職業訓練における短時間訓練コース等や訓練受講の際の託児サービス支援の推進)を実施するとともに、労働者の主体的な職業能力の開発及び向上を促進し、再就職時の職業能力に基づいた評価にも資するよう、業界共通の職業能力評価の物差しとなる技能検定を始め、企業と労働者双方に活用される職業能力評価制度の整備、ジョブ・カードを活用した職業能力の見える化を推進する。

(2) 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けた取組

性別にかかわらず仕事上の責任を果たしつつ人生の各段階に応じた多様な希望を実現できるよう仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を図ることのできる条件整備がなされることが必要である。

特に、男性に長時間労働が多い実態、固定的な性別役割分担意識の存在は、様々なニーズを抱える労働者にとって働き方の選択肢を狭め、仕事と生活の両立を阻む要因となっている。

こうしたことを踏まえ、社会全体において、仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)を実現するための取組を推進することとし、特に育児・介護期には仕事と家庭の両立が難しいため、育児・介護期における仕事と家庭の両立支援対策を推進する。

なお、こうした支援に当たっては、労使団体、地方公共団体等との緊密な連携に特に留意する。

ア 仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現に向けた取組

男女双方の仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現のため、働き方の改革に向けた事業主の取組を支援するとともに、社会的気運の醸成を図る。

イ 仕事と育児の両立を図るための制度の着実な実施

男女ともに、育児休業や短時間勤務などの仕事と育児の両立支援制度を安心して利用できる職場環境の整備が重要であることから、これらの普及・定着を図る。

特に令和5年4月より全面施行された改正育児・介護休業法について、周知・指導を行い、改正内容の確実な履行確保を図る。

加えて、企業における次世代法に基づく一般事業主行動計画の策定・実施に向けた取組の促進を図るとともに、くるみん認定及びプラチナくるみん認定、また、令和4年に新設されたトライくるみんの取得促進を図る。

さらに、労働者が仕事と育児との両立を図っていくためには、企業における取組の促進のみならず、地域においてニーズに応じた多様な支援サービスが整備されることが重要であり、関係省庁等とより一層の連携を図る。

ウ 仕事と介護の両立を図るための制度の着実な実施等

総人口に占める65歳以上人口の割合(高齢化率)は増加の一途を辿っており、今後も高齢化率の上昇が見込まれる。

このような中、家族の介護を理由とする離職者数は、「平成29年就業構造基本調査」(総務省)によると、年間約10万人にも上っていることから、仕事と介護の両立は重要な課題となっている。

このため、育児・介護休業法に基づく仕事と介護の両立支援制度の周知徹底を行う。

さらに、介護は社会全体で支えるものであること、また、労働者が一人で介護を抱えると結果として離職につながりかねないことから、介護に関する両立支援制度は、介護サービスを円滑に利用するための準備に用いるほか、要介護者の状態が大きく変化してサービスを切り替える等家族が介護に対応しなければならない場合等に利用すべき制度である。その前提を踏まえると、仕事と介護の両立を図っていくためには、企業における取組の促進のみならず、地域包括ケアシステムが構築されることにより、地域においてニーズに応じた多様な支援サービスが整備されることが重要である。

このため、必要な介護サービスの確保や働く環境改善・家族支援の観点から、在宅・施設サービス等の基盤整備や介護サービスを支える介護人材の確保、働く家族等に対する相談・支援の充実を行う。

エ 長時間労働の是正

長時間労働は、仕事と育児などの家庭生活の両立を困難にするとともに、少子化の原因や、女性のキャリア形成を阻む原因、男性の仕事と育児との両立を阻む原因となっている。

このため、長時間労働の是正に向けた取組強化を図るとともに、企業風土の改善に向けて積極的

な啓発を進めること等を通じて、企業の意識改革を促進する。

また、特に、中小企業等においては、発注者からの著しく短い期限の設定や発注内容の頻繁な変更に応えようとして長時間労働になる傾向にあることを踏まえ、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)に基づき、著しく短い期限の設定及び発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮し、事業者の取引上必要な配慮が商慣行に浸透するよう、関係省庁が連携して必要な取組を推進する。

オ 両立しやすい職場環境づくりの促進

イ~エの施策のほか、仕事と育児・介護の両立が図られるためには、男女ともに育児・介護休業その他の両立支援制度を安心して利用でき、就労しながら育児・介護を行いやすい職場環境づくりの促進が必要である。このため、男性の育児休業取得等に関する社会的な気運を醸成するとともに、各種助成措置を効果的に活用すること等により、仕事と育児・介護の両立に向けた労使の取組を支援する。

とりわけ、日本の男性の育児・家事時間は欧米諸国に比べて短く、育児休業取得率も低い状況にあることから、引き続き、令和4年に創設された出生時育児休業(産後パパ育休)の周知等も含め、男性の育児休業取得等を促進するための環境を整備するよう努める。

また、仕事と育児・介護が両立できる職場環境の整備を促進するため、企業における具体的取組方法を示したモデルの構築・普及や、企業へのコンサルティングを行い、仕事と育児・介護の両立支援に取り組む事業主を支援する。

カ 不妊治療と仕事との両立支援

不妊の検査や治療を受けたことがある夫婦の数が増加している現状において、企業における不妊治療と仕事との両立ができる職場環境整備は喫緊の課題である。このため、企業や労働者向けのマニュアル等による周知啓発や助成措置、くるみんプラス認定の取得促進等を行うことにより、不妊治療と仕事との両立ができる職場環境の整備を推進する。

(3) 多様な働き方に対する支援

妊娠、出産等を機に離職する女性の割合は約3割と、近年減少しているものの、依然として一定程度存在している。このような現状においては、一旦就業を中断したとしても、それまでの就業経験を生かし再就職・再就業できるようにすることに加え、パートタイム・有期雇用労働対策や適切なテレワークの推進、さらに、職務、勤務地、労働時間を限定した「多様な正社員」の普及など、良好な環境の下での多様な働き方を可能とするための支援を行うことが、労働者一人ひとりの仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)の実現を図るという観点から、また、企業が優秀な人材の確保や定着を図るという観点からも、重要である。

ア パートタイム・有期雇用労働対策

同一企業内における通常の労働者とパートタイム労働者及び有期雇用労働者との間の不合理な待遇差を禁止したパートタイム・有期雇用労働法が令和3年4月から中小企業も含めて全面施行されている。パートタイム労働者及び有期雇用労働者について通常の労働者との均等・均衡待遇等が確保されるよう、パートタイム・有期雇用労働法の着実な履行確保を図っていく。具体的には、短時間・有期雇用労働者対策基本方針(令和2年厚生労働省告示第122号)に基づき、パートタイム・有期雇用労働法の周知や、個別相談等による企業への支援、また、職務分析・職務評価の導入促進等を行うとともに、有期雇用労働者について、労働契約法(平成19年法律第128号)に基づく

「無期転換ルール」の適切な活用に向けて引き続き周知に取り組む。

その際、短時間正社員制度を始めとした「多様な正社員」制度を一層普及・定着させるため、好事例の収集や周知等を行っていく。

イ テレワークの推進

テレワークは、適切な労務管理が可能な環境においては、働く時間や場所を柔軟に決定することが可能な働き方であり、特に、妊娠期・育児期・介護期の労働者にとって、仕事と出産・育児・介護を両立するための1つの選択肢となりうる。このため、雇用型テレワークについて、事業主が適切な労務管理を行い、労働者が安心してテレワークを行うことができるよう「テレワークの適切な導入及び実施の推進のためのガイドライン」の周知・啓発を行う。また、自営型テレワークについて、「自営型テレワークの適正な実施のためのガイドライン」の周知・啓発を行う。

ウ 再就職支援

出産・育児等で離職した女性が、出産後の復職・再就職や仕事と育児の両立に関する知識が得られるよう、情報提供や相談支援を行うとともに、その希望や状況に応じて早期に再就職できるよう、子ども連れで来所しやすい環境を整備したマザーズハローワーク及びマザーズコーナーにおいて、担当者制・予約制によるきめ細かな職業相談・職業紹介と併せ、再就職に資する各種セミナーの実施、仕事と育児が両立しやすい求人の確保等を行うとともに、地方公共団体等との連携による保育関連情報の提供等により、総合的かつ一貫した支援を実施する。特に、母子家庭の母については、その就業による自立と生活の向上が図られるよう、都道府県・市町村と福祉事務所、ハローワーク等の連携の下、就業相談、職業能力開発、常用雇用の促進等個々の母子家庭の実情に応じたきめ細かな就業支援を推進する。

(4) 関係者・関係機関との連携

個々の企業において均等法等の趣旨に沿った雇用管理を進めていくには、労使が共に企業内の雇用管理制度及びその運用の見直しに取り組んでいくことが重要である。このため、労働者団体及び使用者団体と緊密に連携し、企業における取組の促進を図る。

さらに、個人の働き方の選択に大きな関わりを持つ税制や社会保障制度等について、様々な世帯形態間の公平性等を勘案しつつ、その影響をできる限り働き方の選択に対して中立的なものとするよう、関係者、関係機関による検討を促す。

また、地方公共団体の労働担当部局、男女共同参画担当部局、福祉担当部局等との協力関係を深め、地方公共団体が行う関係施策との連携を図りつつ、雇用環境・均等行政をより効果的に推進する。

(5) 行政推進体制の充実、強化

雇用環境・均等部(室)等において、労働相談の対応を一体的に実施することや、個別の労働紛争の未然防止と解決を一体的に実施することとあわせて、これらの業務実施体制の整備・強化・効率化に努める。また、関係法令等の周知、実施等に当たっては、情報通信技術を積極的に活用する等、行政サービスの質的向上に努めるとともに、業務効率化を図る。