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告示:看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針

 

看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針

制 定 令和五年十月二十六日文部科学省・厚生労働省告示第八号

 

 看護師等の人材確保の促進に関する法律(平成四年法律第八十六号)第三条第一項の規定に基づき、看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針を次のように策定したので、同条第五項の規定により告示する。なお、看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針(平成四年文部省・厚生省・労働省告示第一号)は、廃止する。

 

看護師等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針

 はじめに

 保健師、助産師、看護師及び准看護師(以下「看護師等」という。)は、療養上の世話又は診療の補助、保健指導、助産等の実施を通じて、国民の保健医療の向上に大きく貢献してきている。

 その看護師等は、就業者数を見ると、令和2年(2020年)で約173.4万人と我が国医療関係職種の中で最も多数を占めており、チーム医療の中において、大きな役割を果たしてきているが、高齢化の進行に伴う看護ニーズの増大を受け、需要の増大が見込まれる。一方、我が国においては、少子高齢化が進行しており、令和22年(2040年)に向けて、生産年齢人口(15歳から64歳までの人口をいう。以下同じ。)が急減していく。

 このように、現役世代(担い手)が急減する中で、増大し、多様化する看護ニーズや24時間体制の勤務に対応していくためには、新規養成、復職支援及び定着促進を柱に、看護師等の確保を推進していくとともに、生涯にわたって看護師等の業務を継続できるよう、看護師等個人の資質の向上を図っていくことが重要となる。

 また、看護師等に係る需給の状況については、都道府県及び二次医療圏ごとに不足又は充足の状況が異なっているとともに、訪問看護に従事する看護師等の需要の増大が大きいなど、地域・領域別に差異がある。このため、地域・領域の課題に応じた看護師等の確保対策を講じていくことが必要である。

 あわせて、令和2年(2020年)に発生した新型コロナウイルス感染症への対応に際しては、重症患者の診療に当たって、専門性の高い看護師を確保する必要性が特に高くなるとともに、感染症に的確に対応できる看護師等を迅速に応援派遣することが必要になった。今後の新興感染症(感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「感染症法」という。)第6条第7項に規定する新型インフルエンザ等感染症、同条第8項に規定する指定感染症及び同条第9項に規定する新感染症をいう。以下同じ。)等の発生に備えて、専門性の高い看護師の養成を推進するとともに、新興感染症等の発生に的確に対応できる看護師等の迅速な確保を図るための体制整備を推進することが必要となる。

 これらの課題に対応し、求められるニーズに対応できる看護師等の確保を進めるためには、中長期的視点に立って、養成、処遇の改善、資質の向上、就業の促進等について、関係者が一体となり総合的に進めることが必要である。

 この指針は、国、地方公共団体、病院等(看護師等の人材確保の促進に関する法律(平成4年法律第86号。以下「法」という。)第2条第2項に規定する病院等※をいう。以下同じ。)、看護師等、そして国民がそれぞれの立場において取り組むべき方向を示すことにより、少子高齢社会における保健医療を担う看護師等の確保を図り、国民に良質かつ適切な医療の提供を図ることを目的とするものである。

 なお、看護ニーズの多様化に伴って、病院等以外で就業する看護師等が増加していることに鑑み、病院等以外の施設・事業所においても、看護師等の業務内容や支援策の状況等を踏まえつつ、病院等に準じた取組の実施が望まれる。

 また、医療提供体制に係る見直しの状況等を踏まえて、必要に応じこの指針の見直しを行うものとする。

※ 法第2条第2項に規定する病院等とは、病院(医療法(昭和23年法律第205号)第1条の5第1項に規定する病院をいう。以下同じ。)、診療所(同条第2項に規定する診療所をいう。以下同じ。)、助産所(同法第2条第1項に規定する助産所をいう。)、介護老人保健施設(介護保険法(平成9年法律第123号)第8条第28項に規定する介護老人保健施設をいう。以下同じ。)、介護医療院(同条第29項に規定する介護医療院をいう。以下同じ。)、指定訪問看護事業所(指定居宅サービス等の人員、設備及び運営に関する基準(平成11年厚生省令第37号)第60条第1項に規定する指定訪問看護事業所をいう。以下同じ。)、指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所(指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準(平成18年厚生労働省令第34号)第3条の4第1項に規定する指定定期巡回・随時対応型訪問介護看護事業所をいう。)、指定看護小規模多機能型居宅介護事業所(同基準第171条第1項に規定する指定看護小規模多機能型居宅介護事業所をいう。)及び指定介護予防訪問看護事業所(指定介護予防サービス等の事業の人員、設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準(平成18年厚生労働省令第35号)第63条第1項に規定する指定介護予防訪問看護事業所をいう。以下同じ。)をいう。

 

第一 看護師等の就業の動向に関する事項

一 看護師等の就業の現状

看護師等の就業者数は、平成2年(1990年)には約83.4万人であったが、法の施行後、看護師等の確保が進められて、増加を続け、令和2年(2020年)には約173.4万人となった。

令和2年(2020年)における看護師等の就業者数の資格別の内訳は、保健師が約6.7万人、助産師が約4.2万人、看護師が約132.0万人、准看護師が約30.5万人となっている。

看護師等の就業場所については、令和2年(2020年)においては、病院が約101.2万人(58.3%)、診療所が約34.8万人(20.1%)、訪問看護ステーション(指定訪問看護事業所又は指定介護予防訪問看護事業所をいう。以下同じ。)が約6.8万人(3.9%)、介護保険施設等(介護老人保健施設、介護医療院、特別養護老人ホーム、居宅サービス事業所、居宅介護事業所等をいう。以下同じ。)が約17.3万人(10.0%)、社会福祉施設等(老人福祉施設、児童福祉施設等をいう。以下同じ。)が約3.3万人(1.9%)、保健所、都道府県及び市区町村(以下「保健所等」という。)が約5.4万人(3.1%)、事業所が約1.0万人(0.6%)、看護師等学校養成所及び研究機関が約2.0万人(1.2%)、その他が約1.3万人(0.7%)となっている。就業場所別の看護師等の推移を見ると、訪問看護ステーション、介護保険施設等及び社会福祉施設等での就業者の増加割合が高くなっている。

また、資格別の就業場所では、保健師は保健所等での就業割合が高い(60.1%)、助産師は病院での就業割合が高い(60.0%)、看護師は病院での就業割合が比較的高い(66.2%)、准看護師は診療所及び介護保険施設等での就業割合が高い(診療所は35.6%、介護保険施設等は23.1%)といった特徴がある。

看護師等の就業者の年齢階級別構成割合の推移を見ると、若年層の割合が減少し、60歳以上の構成割合が増加しており、令和2年(2020年)においては、就業者のうちの5.0%が65歳以上、6.8%が60~64歳となっている。年齢階級別の看護師等の就業者の就業場所については、年齢階級が低くなるほど病院で就業する割合が高く、年齢階級が高いほど介護保険施設等で就業する割合が高くなっている。

看護師等の就業者の性別構成割合の推移を見ると、男性の看護師等の構成割合が増加しており、令和2年(2020年)においては、就業者のうちの7.6%が男性となっている。

令和2年(2020年)における都道府県別の人口10万人当たりの看護師等の就業者数については、首都圏等の都市部において、全国平均よりも少ない傾向にある。

二 今後の就業傾向

「医療従事者の需給に関する検討会看護職員需給分科会中間とりまとめ」(令和元年(2019年)11月15日とりまとめ)における令和7年(2025年)の看護師等の需給推計(以下「2025年需給推計」という。)によれば、令和7年(2025年)における都道府県報告に基づく看護師等の需要数の推計値は約180.2万人とされており、令和2年(2020年)の看護師等の就業者数(約173.4万人)よりも増大が必要になっている。また、令和4年度(2022年度)における看護師及び准看護師の有効求人倍率は2.20倍で、職業計の1.19倍よりも高くなっており、看護師等について不足傾向にあると言える。

あわせて、2025年需給推計とは足下の就業者数や推計方法等が異なる推計となるが、「「2040年を見据えた社会保障の将来見通し(議論の素材)」に基づくマンパワーのシミュレーション」(平成30年(2018年)5月21日厚生労働省)の「現状投影ベース」等に基づく看護師等の需要推計(以下「2040年現状投影需要推計」という。)を行うと、看護師等の需要数は、令和7年度(2025年度)から令和22年度(2040年度)に向けて増加していくものと推計される。

一方、総務省統計局「国勢調査」(令和2年)及び国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)出生中位(死亡中位)推計」によれば、生産年齢人口は、令和2年(2020年)の7,509万人から令和22年(2040年)の6,213万人へと急激に減少するものと推計されている。

このように、少子高齢化の進行によって、令和22年(2040年)に向けて、生産年齢人口が急減していく中で、看護師等の確保を推進していくことが必要になっている。

地域別の状況については、2025年需給推計においては、都道府県別で見た場合、都市部等では依然として都道府県全体として令和7年(2025年)の看護師等の需要数が供給数を上回り、看護師等の不足傾向が見込まれる一方で、一部の都道府県においては、供給数より令和7年(2025年)の看護師等の需要数が少なくなるものと推計されている。その一方で、都道府県全体としては看護師等の就業者数の総数が充足されると推計された都道府県においても、看護師等の就業者数の総数が不足傾向にある二次医療圏がある、多くの二次医療圏において訪問看護・介護保険サービス等は不足傾向にあるなど、看護師等の需給の状況は、二次医療圏ごとに差異がある。

領域別の状況については、2025年需給推計においては、病院及び診療所の需要の増大は小幅なものとされている一方で、地域包括ケアシステム(地域における医療及び介護の総合的な確保の促進に関する法律(平成元年法律第64号)第2条第1項に規定する地域包括ケアシステムをいう。)の構築に向けたサービスの整備が進められる中で、訪問看護に従事する看護師等の需要は大きく増大すると推計されている。令和3年度(2021年度)の都道府県ナースセンターにおける領域別の看護師等の求人倍率を比較すると、訪問看護ステーションの求人倍率が最大になっており、訪問看護については、看護師等の確保の必要性が高い一方で、看護師等の確保が難しい状況となっている。

このように、看護師等の需給の状況は、地域別・領域別に差異がある状況となっており、地域・領域ごとの課題に応じた看護師等の確保対策を講じていくことが重要になっている。

なお、今後、令和22年(2040年)頃を視野に入れた新たな地域医療構想を踏まえて、地域別・領域別も含めた、新たな看護師等の需給推計を実施することが重要である。また、こうした新たな看護師等の需給推計については、今後の医療計画(医療法第30条の4第1項に規定する医療計画をいう。以下同じ。)の作成等に活用できるよう実施することが重要である。

 

第二 看護師等の養成に関する事項

一 看護師等の養成の現状

(一) 養成制度・教育課程の現状

我が国の看護師等の資格制度は、保健師、助産師、看護師及び准看護師からなり、看護基礎教育は大学、養成所等で行われている。

教育の課程は、保健師、助産師、看護師(三年課程、二年課程)及び准看護師からなり、これらは全日制、定時制など多様な形態で構成されるとともに、保健師及び助産師の養成においては、大学院で実施されている場合も増えており、看護基礎教育の場も拡がりを見せている。なお、18歳人口の減少及び大学進学率の上昇等により、養成所での定員充足率は低下する傾向にある。

教育内容については、昭和23年(1948年)に制定された保健師助産師看護師法(昭和23年7月法律第203号)に基づく保健師助産師看護師学校養成所指定規則(昭和26年文部省・厚生省令第1号。以下「指定規則」という。)により規定されているが、少子高齢化、人口構造及び疾病構造の変化、医学・医療の高度化・専門化、療養の場の変化など看護教育を取り巻く環境の変化と看護師等に対する国民のニーズに対応して、これまでに数次にわたり各職種の指定規則等の改正が行われている。

具体的には、平成8年(1996年)の指定規則改正では、在宅医療や精神保健等、国民のニーズの拡大に対応するため、「在宅看護論」、「精神看護学」の新設や独自性のある教育の実施、単位の互換を円滑に実施するために時間数の表示から単位数に変更するなどの改正が行われた。平成20年(2008年)には、安全・安心な医療の再構築に向けた看護師等の資質向上を図るため、学習内容をより臨床に近い形で学習し、知識・技術を統合させることを目的に「統合分野」を新たに設けるなどの指定規則の改正が行われた。また、平成21年(2009年)には、保健師助産師看護師法が改正され、少子高齢化の進行に伴う医療の需要の増大等に対応した良質な看護等を国民に提供する必要性に鑑み、看護師国家試験の受験資格を有する者として、大学の卒業者が位置づけられるとともに、保健師及び助産師の修業年限が6月以上から1年以上に延長された。

令和2年の指定規則改正では、臨床判断能力の基盤を強化するため、「人体の構造と機能」及び「疾病の成り立ちと回復の促進」について、単位数を増加するとともに、地域で暮らす人々の理解とそこで行われる看護についての学びを強化するため、「在宅看護論」を「地域・在宅看護論」とした上で、単位数を増加するなどの改正を行った。

また、養成数の増加、臨地実習の場の広がり等により、実習施設の確保が一層必要となっており、各都道府県において地域の実情に応じた実習施設の確保に向けた取組が実施されているところである。

(二) 教員養成の現状

看護基礎教育における教育内容を向上させ、質の高い看護師等を養成していくためには、教育環境の整備及び質の高い看護教員の確保が必要である。各職種の教育課程ごとの専任教員数や教務主任の配置は指定規則において規定されており、平成8年の指定規則改正では、保健師及び助産師学校養成所の専任教員については2人以上を3人以上、看護師学校養成所3年課程は4人以上を8人以上とするなど、教員配置の充実が図られた。養成所教員の養成については、厚生労働省が認定した専任教員養成講習会や教務主任養成講習会を実施しているところである。また、大学教員の養成においては、看護系大学院の整備が進み、修士・博士取得者が増加し、大学教員の質担保につながっている。一方、看護系大学及び養成所の増加等により、看護教員は引き続き不足しており、看護教員の確保方策の検討が必要である。

また、看護師等の養成においては、学生が看護実践能力を獲得していくために、臨地実習での経験が重要であるため、臨地実習において、効果的な指導を行う実習指導者を育成するために、実習指導者講習会を実施しているところである。

二 看護師等の養成の考え方

(一) 就学者の確保

2040年現状投影需要推計を行うと、看護師等の需要数は、令和7年度(2025年度)から令和22年度(2040年度)に向けて増加していくものと推計されるところであり、必要な看護師等の確保が図られるよう、就学者の確保対策を講じていく必要がある。

ニーズに応じた看護師等の新規養成を図るため、地域医療介護総合確保基金により、保健師助産師看護師等の新規養成を図るため、地域医療介護総合確保基金により、保健師助産師看護師法第19条第2号に規定する保健師養成所、同法第20条第2号に規定する助産師養成所、同法第21条第3号に規定する看護師養成所又は同法第22条第2号に規定する准看護師養成所(以下「看護師等養成所」という。)の整備や運営を支援することが重要である。

意欲のある看護師等志望者を得るためには、専門職としての看護の魅力を積極的に国民に伝える対策が必要であり、国、地方公共団体等による啓発活動も重要である。また、各教育機関自らがそれぞれの特色に応じた方法で、看護師等に関心のある者を看護の世界にひきつけることに取り組み、あるいは看護師等自身又は職能団体等が効果的な啓発を行うことは重要である。こうした啓発に当たっては、都道府県等における看護学生に対する修学資金の貸与についても、周知を進めていくことが重要である。また、看護師等志望者が抱える様々な事情に対応する観点から、働きながら看護師等の資格を取得できる仕組みも引き続き重要である。

あわせて、学校養成所の新規入学者の大半を占める18歳人口は減少するため、社会人経験者の学校養成所での就学を推進していくことが重要である。こうした観点から、看護関係資格の取得を目指す社会人経験者の教育訓練の受講を支援するとともに、看護学以外の領域での大学既卒者や、看護師等以外の職業で就業経験を積んだ者等、様々な背景を持つ者に対しても広く看護の専門性と役割の重要性を発信することが重要である。

また、生活はハラスメント等に関する学生からの相談に対するカウンセラーによる対応など、学生等が必要な支援を受けられる体制の確保等の工夫を講じることが望ましい。加えて、看護師等学校養成所内のハラスメント防止に必要な体制を整備することが望ましい。

保健師助産師看護師法の規定により、我が国で看護業務に従事するためには、日本の看護師等免許の取得が必要である。その上で、保健師助産師看護師法の規定に基づき、外国において看護師等免許に相当する免許を受ける等一定の条件を満たす者について、日本の看護師国家試験等を受験する資格を認定する制度を設けている。必要な知識及び技能を有する外国人が看護師等国家試験を円滑に受験できるよう、こうした看護師国家試験等受験資格の認定を適切に実施していくことが重要である。

(二) 資質の高い看護師等の養成

ア 教育内容の見直し

看護師等の教育については、医学・医療の高度化・専門化や看護の理論、技術の進歩等に応じて改正が行われているが、今後も、実施した改正事項の効果検証を行いつつ、国民や社会のニーズに即した看護師等養成に寄与できるよう、随時、必要な見直しを行っていく必要がある。

また、療養の場が多様化し地域包括ケアが推進される中で、病院以外にも在宅医療や介護保険サービスなど様々な場面で看護のニーズが拡大している。

このため、訪問看護ステーションや介護施設・事業所における看護師等の需要の増加に対応するため、地域における様々な場での看護の基礎を学ぶことを目的とした「地域・在宅看護論」を設定するなど、免許取得前からの多様な場における実習の充実を図っていくことが重要である。

イ 看護教員等養成の在り方

看護師等学校養成所の教員需要に対応していくとともに、看護教育の内容の充実を図り、養成される看護師等の資質を高めていくためには、理論やエビデンスと実践を結びつけて指導ができる資質の高い看護教員の確保を図ることが重要である。このため、都道府県及び関係団体等による専任教員養成講習会を開催し、質の高い看護教員の確保に努めているところであるが、更に、看護教員に必要な資質・能力の維持・向上に資する効率的・効果的な継続教育を推進するほか、教育・研究力の高い看護教員の育成を強化する方策の検討が重要である。

また、学校養成所で行われている看護教育の内容と臨床現場の看護実践とが効果的に結びつき、質の高い看護教育の実施につながるよう、看護教員及び病院等の看護管理者等の相互の理解の下、学校養成所及び臨床現場の関係者の相互の交流や連携を深めるための仕組みを構築することも必要である。

看護教育においては、実習施設における指導が重要であり、実習施設の確保並びに指導に当たる実習指導者の確保及びその質の向上を図る必要がある。このため、国においては、看護学生の実習に対する国民の理解を得るための広報を継続して実施することが重要である。加えて、実習の実質的効果が高まるよう、実習指導者に対する講習内容の検討及び指導技術の在り方等の検討に努めるとともに、都道府県においては、実習指導者講習会の効果的な実施に努めることが必要である。

今後、18歳人口の減少に伴って、看護学生の減少が予想されることから、地域において資質の高い看護教員や実習施設を安定的に確保し、看護師等を安定的に養成できるよう、地域の学校養成所の間で議論を行っていくことが望まれる。

ウ 看護系大学・大学院の充実

近年の医学・医療の進歩・発展に伴う高度化・専門分化等に十分対応し得る看護の専門的知識・技術と、豊かな人間性や的確な判断力をあわせて有する資質の高い看護師等を大学において養成するという社会的な要請に応えるため、看護系大学・大学院の整備が図られ、看護師等の養成の柱の一つを担うものとして認知されている。

また、看護の提供の場の拡大への対応や、看護教育の充実に向けた人材の確保が必要であり、その基盤となる看護系大学(学部、学科を含む。以下同じ。)の整備が進んできており、現状においても増加している。

今後も、更なる高度化・多様化が見込まれる医療に対する国民のニーズに応え、良質な看護等を国民に提供するため、看護系大学の充実の推進とともに、新たな看護教育の手法の研究、看護技術の開発、看護実践の評価など、看護の質の向上に係るエビデンスの蓄積を担う研究者や教育者の養成を図ることも必要であり、看護系大学院における教育の質的な充実に努めることが必要である。

あわせて、保健師及び助産師の資質の向上を推進する観点から、保健師及び助産師に係る大学院をはじめとする様々な養成課程における教育の質的な充実に努めることが必要である。

 

第三 病院等に勤務する看護師等の処遇の改善に関する事項

一 夜勤等の業務負担の軽減及び業務の効率化

看護師等の就業継続を推進していくためには、業務負担の軽減を図っていくことが必要である。

特に、夜勤は、看護師等が勤務する上で大きな負担となっており、看護師等の継続勤務を促進する上では、その負担の軽減が必要である。このため、看護師等の夜勤負担を軽減し、働きやすい職場づくりを進める上で、入院患者の状況等に応じて、3交代制の場合は、複数を主として月8回以内の夜勤体制の構築に向けて、引き続き積極的に努力する必要があるとともに、看護体制が多様化する中で、その他の看護体制においても、看護師等の負担に配慮した夜勤体制の構築に向けて積極的に努力することが必要である。また、病院等は、夜勤の実施に当たっては、労働基準法(昭和22年法律第49号)の規定に則り、実労働時間が6時間を超え8時間までは45分以上、8時間を超える場合は1時間以上の休憩を勤務の途中で設けるとともに、夜勤時間の長さや看護師等の健康状態に応じて仮眠時間を設定するよう努力することが重要である。また、病院等は、夜勤中の仮眠に当たって、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)の規定に則り、適当な仮眠の場所を設けることが必要である。

このほか、年次有給休暇についても、勤務割を長期的に組むこと等により、計画的な休暇の取得を可能とするよう取り組む必要がある。

また、働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号)によって労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)が改正され、平成31年(2019年)4月から、事業主に対して、勤務間インターバルの確保が努力義務化された。看護師等の夜勤負担の軽減を推進する観点から、国及び都道府県においては、病院等に対して、労働時間等の設定の改善に関する特別措置法に則り、看護師等に係る勤務間インターバルの確保を図るよう推奨することが重要であるとともに、病院等においては、看護師等に係る勤務間インターバルの確保を図るよう努力していくことが必要である。

あわせて、業務負担の軽減に当たっては、業務自体の効率化を推進していくことも重要である。こうした観点から、カルテの電子化など、病院等におけるICT化を積極的に進めることや、ICTの積極的な活用等を通じて、訪問看護ステーションにおける情報共有や24時間対応の効率化を推進することによって、看護師等の業務の効率化を図っていくことが重要である。また、病院等における業務効率化の先進事例の収集・横展開を推進することも重要である。

看護師等の夜勤負担の軽減を図るため、地域医療介護総合確保基金により、仮眠室・休憩スペースの整備等の夜勤負担の軽減につながる施設整備等に対する支援を行うとともに、診療報酬においても、看護師及び准看護師の夜間配置に係る加算等において、看護師等の夜間の勤務負担軽減に資する取組を行っている場合を評価するなど、対応を講じている。病院等においては、これらを活用しつつ、看護師等の夜勤負担の軽減を図っていくことが重要である。

二 給与水準等

給与水準については、個々の病院等の経営状況、福利厚生対策等を踏まえて、労使において決定されるものであり、病院等の労使にあっては、人材確保の観点に立ち、看護師等をはじめとする従業者の給与について、その業務内容、勤務状況等を考慮した給与水準となるよう努めるべきである。

「コロナ克服・新時代開拓のための経済対策」(令和3年11月19日閣議決定)、「公的価格評価検討委員会中間整理」(令和3年12月21日とりまとめ。以下「中間整理」という。)等に基づき、地域で新型コロナウイルス感染症に係る医療など一定の役割を担う医療機関(病院又は診療所をいう。以下同じ。)に勤務する看護師等を対象に、令和4年(2022年)2月から9月までについては、補助金により、収入を1%程度(月額平均4,000円相当)引き上げるための措置を実施し、同年10月以降については、診療報酬において、収入を3%程度(月額平均12,000円相当)引き上げるための処遇改善の措置を講じた。対象となる医療機関においては、こうした措置を積極的に活用して、看護師等の処遇改善を推進するよう努めることが必要である。

また、中間整理においては、看護師のキャリアアップに伴う処遇改善について、「管理的立場にある看護師の賃金が相対的に低いこと、民間の医療機関であっても国家公務員の医療職の俸給表を参考としている場合が多いことも指摘されており、今回の措置の結果も踏まえつつ、すべての職場における看護師のキャリアアップに伴う処遇改善のあり方について検討すべきである」とされた。こうした中間整理の内容を踏まえつつ、国の機関の実態に応じて、国家公務員である看護師がキャリアアップに伴って昇格できる環境整備を図るため、医療職俸給表(三)級別標準職務表が改正され、令和5年(2023年)4月から施行された。あわせて、中間整理等を踏まえて、当該級別標準職務表の改正内容を踏まえつつ、医療機関等において看護師のキャリアアップに伴う処遇改善の推進に係る検討が行われるよう、厚生労働省から医療関係団体等に対して、当該級別標準職務表の改正内容の周知等を行うよう要請を行った。医療機関等においては、当該級別標準職務表の改正内容を踏まえつつ、各医療機関等の実情に応じて、看護師のキャリアアップに伴う処遇改善の推進を検討していくことが望まれる。

三 看護業務の効率化・生産性向上

看護師等がより専門性を発揮できる働き方の推進や生産性の向上、看護サービスの質の向上を図るため、看護業務の効率化に向けた取組を推進する必要がある。看護師等の業務の見直しに当たっては、病院等は、患者のニーズ、病院等の立地や規模、運営の効率化等を踏まえ、働く者が働きやすく、より適切な看護サービスが提供できるよう、多様な勤務体制の採用、医師、薬剤師、診療放射線技師、臨床検査技師、臨床工学技士、理学療法士、作業療法士、言語聴覚士、視能訓練士、義肢装具士、救急救命士等他の医療関係職種や看護補助者、医師事務作業補助者(「医師の指示で事務作業の補助を行う事務に従事する者」をいう。)等の事務職員との業務分担の見直し、申送りの改善等の看護業務自体の見直し、情報共有方法の見直し、AI・ICT等の技術の活用等を通じて、それぞれの病院等の状況に応じた最適の就業環境となるようにすることが重要である。その際、看護業務を実施する上で特に密接に関連する医師等の関係者と看護部門とが協同してチーム医療に当たることができるよう、より適切な業務連携のルール作り等を進めることが重要である。

看護業務の見直しを行う場合には、患者に提供されるケアの質が確保されるとともに、業務分担を見直す場合には他職種の理解を得ることが求められるので、看護部門だけでの検討ではなく病院等全体としての取組が必要である。

これらを踏まえ、国においても病院等の創意と工夫を生かした業務改善が進められるよう、看護業務の効率化に関する先駆的な取組を収集し、その中から汎用性が高く効果のある取組を選定し、広く周知する等各種の施策を通じて支援する必要があるとともに、看護サービスの質的な水準に着目した適切な評価に配慮すべきである。

四 勤務環境の改善

看護師等の離職理由は、30代及び40代では結婚、妊娠・出産及び子育てが多い、50代では親族の健康・介護が多い、20代では他の年代と比較して自分の健康(主に精神的理由)が多いといった特徴がある。このため、看護師等の定着を促進していくためには、ライフステージに対応した働き方を可能にする環境整備を進めていくことが重要である。

看護師等の仕事と育児の両立支援を図るため、病院等においては、事業所内保育事業、小規模保育事業等として市区町村の認可を受けた院内保育所への運営費の支援や、地域医療介護総合確保基金による院内保育所の整備・運営に対する財政支援を活用して、院内保育所を運営するなど、仕事と育児の両立支援に向けた環境整備を推進していくことが重要である。

仕事と育児・介護の両立の観点からは、看護師等の育児や介護の事情に応じた柔軟な働き方が重要であることから、病院等においては、仕事と育児・介護との両立支援に関する助成金や医療勤務環境改善支援センター等を活用しつつ、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)に基づき、本人又は配偶者の妊娠・出産等を申し出た労働者に対する育児休業制度等の個別周知及び育児休業の取得意向確認や、育児休業を取得しやすい雇用環境整備(雇用する労働者に対する育児休業に係る研修の実施等)の措置を適切に実施するとともに、育児休業、介護休業、子の看護休暇、介護休暇、深夜業の制限、所定外労働の制限(残業免除)、時間外労働の制限(残業制限)、所定労働時間の短縮(短時間勤務)等の措置を適切に講ずるとともに、労働基準法に基づく母性保護や雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保に関する法律(昭和47年法律113号。以下「男女雇用機会均等法」という。)に基づく母性健康管理措置を適切に実施していくことが重要である。さらに、病院等においては国の援助を活用し、休職後の円滑な復帰が図られるよう研修等の実施に努めることが重要である。

また、医療勤務環境改善支援センターにおいて、看護師等の勤務環境改善のための体制整備を行う医療機関等に対して総合的・専門的な支援を行うとともに、地域医療介護総合確保基金において、医療機関等における短時間正規雇用の導入等に対する支援を行っていることから、医療機関等においては、こうした支援の活用も図りつつ、看護師等の勤務環境改善のための体制整備を進めるよう努めることが必要である。

あわせて、看護師等の就業継続に当たっては、メンタルヘルス対策を含めた病院等における労働安全衛生対策の着実な実施が重要になる。労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)に基づき、ストレスチェック制度の実施が義務化されている常時50人以上の労働者を使用する事業場に該当する病院等においては、適切にストレスチェックを実施し、個々の看護師等にストレスへの気づきを促すとともに、ストレスチェックの結果を集団分析して、職場環境の改善につなげることが重要である。ストレスチェック制度の実施が努力義務とされている当該規模に該当しない病院等においても、積極的にストレスチェック制度を実施していくことが望ましい。

なお、今後、現役世代(担い手)が急減する中で、看護師等の確保と資質向上を図っていくことが重要になることから、学び直しを行うケースや、病院で働く看護師等が訪問看護等に従事するケース、専門性の高い看護師等が所属する病院等以外で支援的に業務に関わるケースなど、看護師等の柔軟な働き方に対応できる環境整備や看護師等の人生設計につながるような配慮が行われることが望ましい。

その他、魅力ある職場づくりのため、人間ドックの経費補助等健康管理制度の整備や、中小企業退職金共済制度の利用等を含め退職金制度の充実に努めることが必要である。

五 職場における雇用管理体制の整備及びハラスメント対策

雇用管理の改善等により看護師等の処遇の改善を図るためには、病院等の内部における雇用管理についての責任体制を明確化する必要がある。また、病院等の解説者等雇用管理の責任者は、看護師等の雇用管理についての十分な知識・経験が必要である。

その際、これらの責任者に対して労働関係法令等の周知・徹底を図るとともに、病院等のみでは十分な改善を行えない場合には、公共職業安定所の雇用管理に関する相談・援助サービスの活用を図ることが望ましい。

また、看護師等が働き続けやすい環境を整備する観点から、病院等において、職場におけるハラスメント対策を適切に実施していくことが必要である。このため、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号)、育児・介護休業法等に基づき、病院等において、職場におけるハラスメントに係る相談を受け付け、適切な対応を行うために必要な体制の整備等を着実に実施することが重要である。

例えば、安心して相談できるよう、看護師等以外の者によるパワーハラスメントの相談窓口を設けることや、多くの看護師等が経験するライフイベントと関連付けて、妊娠・出産・育児休業等に関するハラスメントの防止の重要性を周知・啓発するための研修を実施することなど、病院等において実効性あるハラスメント対策を実施することが望まれる。

また、国・都道府県において、看護師等に対する患者・家族による暴力・ハラスメントに関して病院等が適切な対策を講じることを支援するための取組を推進するよう努めることが重要である。なお、こうした取組の推進に当たっては、訪問看護については、看護師等が1人で利用者の居宅を訪問することが多く、利用者等からの密室によるハラスメントの危険性が高いことを踏まえ、訪問看護を想定した暴力・ハラスメントに対する安全対策の取組を推進することも重要である。

六 チーム医療の推進、タスク・シフト/シェア

チーム医療とは、「医療に従事する多種多様な医療スタッフが、各々の高い専門性を前提に、目的と情報を共有し、業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い、患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」とされている。

患者へのきめ細やかなケアや医療従事者の負担軽減を進めるため、今後さらにチーム医療の考え方を進めていく必要がある。

チーム医療の推進のためには、看護師等が、他の医療従事者と連携を図り、安全性の確保に十分配慮しつつ、自らの能力を十分に発揮できるようにすることが必要であり、病院等の管理者は、こうした勤務環境の整備に努めることが求められる。

チーム医療を推進する際には、看護の専門性を一層発揮するため、医療従事者の合意形成の下、業務の移管や共同化(タスク・シフティング、タスク・シェアリング)を進めていくことも重要である。例えば、特定行為研修(保健師助産師看護師法第37条の2第2項第4号に規定する特定行為研修をいう。以下同じ。)は、看護師の資質向上に資するとともに、医師とのタスク・シフト/シェアとして医師の労働時間短縮への効果も期待される。

また、看護師等がより専門性を発揮できるようにするためには、看護師等から看護補助者へのタスク・シフト/シェアを進めるなど、協働を推進していくことが重要である。このため、看護補助者への研修を進めて、技能の向上を図るとともに、看護管理者や看護師等が看護補助者との協働を円滑に実施するための知識や方法について理解を深め、活用の仕組みや体制を構築する能力を身につけることが望まれる。

 

第四 研修等による看護師等の資質の向上に関する事項

一 生涯にわたる研修等による資質の向上

医学・医療の高度化・専門化が進む中で、看護業務に直接必要な専門的知識や技術とともに、ICTの進歩等への対応、地域包括ケアにおける関係者との調整機能に係る知識等、業務を長期間にわたって継続していくためには、多方面にわたる基本的な知識について学習を行う必要がある。また、自らの専門性をより高めていくことも重要である。

看護師等が専門職業人として成長するためには、看護師等がたゆまぬ努力を重ねる必要があることは当然であるが、国、都道府県、職能団体、病院等の関係者が協力して、その専門性が適切に評価されつつ、生涯にわたって継続的に自己研鑽を積むことができるような研修システムの構築や有給研修制度の積極的導入など、環境の整備に努める必要がある。

特に看護師等はライフイベントによるキャリア中断が多いことから、人生100年時代においては、新人世代から高齢世代までを通じたキャリアの継続支援が重要である。

このため、国は知識・技術・経験を有する看護師等と現場を的確にマッチングするための標準的なポートフォリオを示し、キャリアの可視化と活用を進めることが重要である。なお、仕事の中断に関わるライフイベントがあるという前提でキャリアの可視化を図るとともに、キャリアアップの道筋を示す工夫を行うことが重要である。

また、デジタル社会の形成を図るための関係法律の整備に関する法律(令和3年法律第37号。以下「デジタル社会整備法」という。)による法等の改正に基づいて令和6年度から運用開始予定の「デジタル改革関連法を踏まえた看護職の人材活用システム」を活用しながら、研修受講履歴の可視化を進めることにより、個々の看護師等が領域・組織横断的なキャリア形成を行っていくことを推進することが重要である。

病院等においては、看護師等のキャリア形成支援に取り組むとともに、キャリア形成に資する研修等の機会の提供に努めるべきである。看護師等の資質向上のためには、病院等におけるOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)だけでなく、院外でのOff-JT(オフ・ザ・ジョブ・トレーニング)も重要であることから、病院等においては、様々な研修方法を組み合わせ、効果的な研修の実施に努めることが必要である。

看護における専門領域の確立のためには臨床の現場における知見を看護師等が自ら集積するとともに、看護系大学等が教育・研修において積極的な役割を果たすことが望まれる。

二 新人看護職員研修の推進

新人看護師等が基本的な臨床実践能力を獲得するための研修を実施することにより、看護の質の向上及び早期離職防止を図るため、保健師助産師看護師法及び法の改正により、平成22年(2010年)4月から、新人看護職員研修(新たに業務に従事する看護師等の臨床研修等をいう。以下同じ。)の実施・受講が病院等及び看護師等の努力義務とされた。

基本的な臨床実践能力を獲得するための研修として新人看護職員研修を実施できる体制の整備を進めるため、「新人看護職員等研修ガイドライン」を定めるとともに、都道府県による新人看護師等を対象とした集合研修の実施について、地域医療介護総合確保基金を活用できることとしている。

令和4年(2022年)現在、新人看護師等がいる病院における新人看護職員研修の実施割合は97.2%となっており、多くの病院で新人看護職員研修が実施されている。

今後の新人看護師等の育成に当たっては、新興感染症等の発生も見据えた持続可能な研修体制の構築、実践能力獲得に向けた効果的な研修の企画・運営、指導者の指導力向上及び負担の軽減、看護基礎教育との連携による学びの積み重ねや補完、ICTに関する環境整備、研修体制を整備する看護管理者の管理能力の充実などが必要である。こうした観点に立って、国において、基礎教育や継続教育の状況も踏まえて、「新人看護職員等研修ガイドライン」の改定について検討しつつ、すべての新人看護師等が基本的な臨床実践能力を獲得し、生涯にわたる資質の向上の基礎を修得することができる体制の整備を行っていくことが重要である。

三 新規就業以降の看護師等の資質の向上

法第6条においては、看護師等の責務として、国民の保健医療サービスの需要に対応し、研修を受ける等自ら進んでその能力の開発及び向上を図ることとされている。新人看護職員研修以降の研修については、個々の看護師等が置かれた状況により、例えば、専門看護師・認定看護師等の資格を取得するなど、看護師等の就業場所、専門領域、役職等に応じた知識・技術・能力の向上が求められる。個々の看護師等の置かれている状況が多様であることを踏まえ、地域医療介護総合確保基金の活用等も図りつつ、実施機関、実施方法等について種々の工夫を行った研修を実施していくことが必要である。

四 看護管理者の資質の向上

看護業務を魅力ある働きがいのある業務としていくとともに、ジェネラリストである看護師等や専門性の高い看護師等の育成を推進するためには、看護師等の指導を行う看護管理者の役割が重要である。また、看護管理者には、自らの病院等のみならず、地域の様々な病院等やその他の施設・事業所、学校養成所等と緊密に連携していく能力が求められる。このように、看護管理者について、組織の管理運営の改善や地域との連携に係る能力の向上に努めることが必要である。

こうした良きリーダーシップを発揮でき、地域と緊密に連携できる看護管理者を養成していくため、病院等とともに、看護師等自ら、あるいは職能団体の積極的な取組が望まれる。

あわせて、病院等において、本指針の内容を理解し、具体的な運用に向けた取組を推進できる看護管理者を配置するとともに、職能団体においても、こうした病院等の取組を支援することが望ましい。

五 特定行為研修の推進

特定行為研修は、在宅医療等の推進を図るため、医師又は歯科医師の判断を待たずに手順書により一定の診療の補助を行う看護師を養成・確保するため、その行為を特定し、手順書により実施する場合の研修制度として、保健師助産師看護師法に基づき、平成27年(2015年)10月に創設された。

特定行為研修は、在宅医療の推進のほか、新興感染症等の感染症拡大時に迅速かつ的確に対応できる看護師の養成・確保や、医師の働き方改革に伴うタスク・シフト/シェアの推進に資するとともに、看護師の知識・技能を高めることで、自己研鑽を構築する基盤を構築し、看護師の資質向上を推進するものであるため、特定行為研修修了者の養成を積極的に進めていくことが重要である。

このため、国においては、特定行為研修の指定研修機関の設置準備や運営を支援するとともに、病院等に勤務する看護師等が特定行為研修を円滑に受講できるよう、地域医療介護総合確保基金の活用等を通じた特定行為研修の受講支援等を行うことが重要である。また、特定行為研修が看護師の資質向上やタスク・シフト/シェアに資することを、病院等に対して積極的に周知していく必要がある。

各地域において特定行為研修修了者の養成・確保が進むよう、都道府県は、医療計画において、特定行為研修修了者その他の専門性の高い看護師の就業者数の目標を設定し、目標達成に向けた具体的な取組を推進することが重要である。なお、取組の実効性を高める観点から、当該目標数の設定に当たっては、可能な限り二次医療圏ごとや分野・領域別の設定を検討することが重要である。

病院等においては、多くの看護師が特定行為研修を受講しやすい仕組みの構築を図るとともに、特定行為研修を通じて得られた知識・技能を病院等の実際の業務の中で積極的に活用していく環境整備に努めることが必要である。加えて、特定行為研修を実施する指定研修機関は、訪問看護ステーション等の在宅医療領域の看護師に対する受講機会の積極的な提供に努めることが望まれる。

 

第五 看護師等の就業の促進に関する事項

一 新規養成、復職支援及び定着促進を三本柱にした取組の推進

今後、現役世代(担い手)が急減する中で、増大する看護ニーズに対応していくためには、看護師等の確保に向けて、新規養成、復職支援及び定着促進を三本柱とした取組を推進していくことが重要である。こうした観点から、潜在看護師等(就業していない看護師等をいう。以下同じ。)に対する復職支援の充実を図るとともに、就業している看護師等のスキルアップを推進していくことが必要である。

また、第一の二のとおり、看護師等の需給の状況は、地域別・領域別に差異がある状況となっており、地域・領域ごとの課題に応じた看護師等の確保対策を講じていくことが重要になっている。

法に基づき、看護師等の就業の促進等に係る業務を実施するため、各都道府県に都道府県ナースセンターを設置するとともに、都道府県ナースセンターの指導等の援助等を行う中央ナースセンターを設置している。看護師等の就業の促進を図るため、以下の二から五までのとおり、都道府県ナースセンターにおける看護師等の就業促進に向けた取組を強化していくことが重要である。また、都道府県ナースセンターにおける取組を支援する観点から、中央ナースセンターにおいて、都道府県ナースセンターの就業促進に向けた取組の好事例を幅広く収集し、横展開を図っていくことが必要であるとともに、看護師等に対する都道府県ナースセンターや都道府県ナースセンターの取組の周知を推進することが重要である。

あわせて、看護師等の就業の促進に当たっては、看護師等の就業状況を正確に把握することが重要であるため、利便性の向上等を通じて、保健師助産師看護師法に基づき2年ごとに実施される業務従事者届の届出を促進することが重要である。このため、令和4年度(2022年度)の届出から導入された医療機関等でのとりまとめに基づくオンライン届出の周知を推進するとともに、デジタル社会整備法に基づく看護師等の資格に係るマイナンバー制度の活用に基づき、マイナポータルを通じた業務従事者届のオンライン届出を行えるようにすることが重要である。

二 職業紹介事業、就業に関する相談等の充実

潜在看護師等の復職支援等の強化を図るため、都道府県ナースセンターにおける職業紹介及び就業に関する相談対応等の充実を図ることが重要である。

具体的には、デジタル社会整備法による法等の改正に基づき、令和6年度(2024年度)から、「マイナンバー制度を活用した看護職の人材活用システム」の運用を開始し、看護師等本人の同意を得た上で、看護職キャリア情報(籍簿に記載された情報、業務従事者届に記載された情報及び経歴等に係る情報を突合した看護師等に係る多様なキャリア情報をいう。以下同じ。)を都道府県ナースセンターに提供することにより、都道府県ナースセンターにおいて、個々の看護師等の特性に応じた職業紹介、就業に関する相談、復職に資する研修情報の提供等を実施していくことが必要である。

また、都道府県ナースセンターにおいては、法に基づく看護師等の離職届出や、病院等、看護師等学校養成所等の関係者との協力に基づく潜在看護師等の動向の調査などを通じて、潜在看護師等の把握を進めて、潜在看護師等の復職支援に活用していくことが重要である。

あわせて、潜在看護師等の円滑な職場復帰のため、都道府県ナースセンターにおいて、復職に当たって必要となる知識・技能に関する研修を実施するとともに、紹介先の病院等において円滑な受入れができるよう、必要に応じて、病院等に対してOJT(オン・ザ・ジョブ・トレーニング)の実施等の助言・援助を行うことが重要である。

潜在看護師等に係る職業紹介については、都道府県ナースセンターのほか、公共職業安定所においても積極的な取組を行うことが必要である。公共職業安定所においては、公共職業安定所のスペースを活用した都道府県ナースセンターによる巡回相談の実施など、都道府県ナースセンターとの緊密な連携等を通じて、マッチングの強化を図ることが重要である。また、有料職業紹介事業者については、看護師等や病院等が適正に事業者を選択できるよう、法令の遵守や手数料の公表などの一定基準を満たした事業者の認定を推進することや職業紹介事業の実施等に関する情報(6か月以内の離職状況や手数料率等)の開示を行うことが重要である。

就業する看護師等の増大を図っていくためには、職業紹介等の充実とともに、病院等において、看護師等の就業継続を推進していくことも重要である。このため、病院等においては、第三の一及び四のとおり、看護師等の業務負担の軽減や勤務環境の改善に向けた取組の推進に向けて努力していくことが望まれる。

三 スキルアップ支援の充実

看護師等の就業継続を促進するため、令和6年度(2024年度)から運用開始される「マイナンバー制度を活用した看護職の人材活用システム」により、マイナポータルを通じた看護師等自身の看護職キャリア情報への簡便なアクセス及び利用を可能にすることにより、看護師等のスキルアップの推進を図ることが重要である。

また、同人材活用システムを通じて、看護職キャリア情報に基づき、都道府県ナースセンターが、就業している看護師等のそれぞれの特性等に応じて、研修情報等のスキルアップに資する情報提供を行うことにより、看護師等に対するスキルアップ支援の充実を図ることが重要である。

四 地域の課題に応じた看護師等の確保

第一の二のとおり、看護師等の需給の状況は、都道府県・二次医療圏ごとに差異があることから、関係者の連携の下、看護師等確保に係る地域の課題を把握した上で、実効性ある看護師等確保の取組を講じていくことが必要である。

このため、都道府県は、都道府県ナースセンター等の関係者と連携しながら、都道府県・二次医療圏ごとの課題を把握し、医療計画等に基づき、新規養成・復職支援・定着促進を三本柱とした取組を推進することが重要である。

こうした取組の推進に当たって、都道府県ナースセンターは、専門的知見等を活かして、地域の関係者との連携に基づく都道府県・二次医療圏ごとの課題の抽出に貢献するとともに、抽出された当該課題の解決に向けて、無料職業紹介などの業務を実施していくことが重要である。

また、地域の課題に応じた看護師等確保対策の実施に当たっては、二次医療圏を越えた対策等が必要になることから、都道府県、都道府県の職能団体、病院等の地域の関係者が連携して取組を進めていくことが望まれる。

五 領域の課題に応じた看護師等の確保

第一の二のとおり、領域別の今後の看護師等の需給の状況を勘案すると、訪問看護については、看護師等の確保の必要性が高い一方で、看護師等の確保が難しい状況となっており、訪問看護における看護師等の確保を推進していくことが重要になっている。

このため、都道府県においては、医療計画において、地域の実情を踏まえて、地域医療介護総合確保基金の活用や都道府県ナースセンターにおける取組の充実など、訪問看護に従事する看護師等を確保するための方策を定め、当該方策の着実な実施を図ることが重要である。

都道府県ナースセンターや都道府県の職能団体において、地域の関係団体と連携して、訪問看護での就業に資する実践的な研修を積極的に実施するとともに、都道府県ナースセンターは、個々の看護師等の意向やこれまでのキャリア等を踏まえつつ、訪問看護に係る職業紹介を推進することが重要である。また、人材確保に当たっては、事業所における雇用管理及び勤務環境整備の適切な実施や、経営の安定化等も重要であるため、都道府県ナースセンターや都道府県の職能団体においては、地域の関係団体と連携して、訪問看護ステーション、看護小規模多機能型居宅介護事業所等の管理者に対する研修や相談を実施していくことが重要である。

また、訪問看護ステーションについては、経営規模の拡大によって、経営の安定化及び提供する訪問看護サービスの質の向上が図られ、安定的・効率的な人材確保に資するものと期待されることから、訪問看護ステーションにおいては、地域の実情等を踏まえつつ、事業所間の連携や事業者規模の拡大について、検討を進めていくことが望まれる。

あわせて、出産後の母子に対して心身のケアや育児のサポート等を行い、産後も安心して子育てができる支援体制を確保するため、母子保健法(昭和40年法律第141号)において産後ケア事業が位置づけられたことを踏まえて、産後ケア事業の実施に当たって必要となる助産師等の確保を図ることが重要である。

六 生涯にわたる看護師等の就業推進

今後、現役世代が急減していく一方、総務省統計局「国勢調査」(令和2年)及び国立社会保障・人口問題研究所「日本の将来推計人口(令和5年推計)出生中位(死亡中位)推計」によれば、65歳以上人口は、令和2年(2020年)の3,603万人から令和22年(2040年)の3,928万人へと増加するものと推計され、総人口に占める65歳以上人口の割合も、令和2年(2020年)の28.6%から令和22年(2040年)の34.8%へと増加するものと推計されている。看護師等の就業者の年齢階級別構成割合の推移を見ると、高齢期の看護師等の就業が進んでいるところであるが、今後、現役世代が急減する中で、看護サービスの需要の増大に対応していくためには、高年齢者である看護師等(55歳以上である看護師等をいう。以下同じ。)の就業を推進することが必要である。

このため、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律(昭和46年法律第68号)の規定に基づき、病院等は65歳までの高年齢者雇用確保措置(65歳までの定年引上げ、定年制の廃止又は65歳までの継続雇用制度の導入のいずれかの措置をいう。)を着実に講じるとともに、70歳までの高年齢者就業確保措置(70歳までの定年引上げ、定年制の廃止、70歳までの継続雇用制度の導入等のいずれかの措置をいう。)の実施に努力することが必要である。また、都道府県ナースセンターは、高年齢者である看護師等及び求人施設向けの研修や、高年齢者である看護師等向けの求人開拓及び就業に関する情報提供等の取組を推進することが重要である。あわせて、国において、高年齢者である看護師等の就業の実態等を把握するとともに、高年齢者である看護師等の就業に関する好事例を収集し、周知を図ることが重要である。

今後の人生100年時代において、看護師等は生涯にわたり研鑽を積み、様々な環境で職能を高め続ける専門職業人であるとの基本的な認識に立ち、持てる能力を遺憾なく発揮できるようにすることが重要である。

 

第六 新興感染症等への対応に係る看護師等の確保

一 専門性の高い看護師の養成・確保

令和2年(2020年)に発生した新型コロナウイルス感染症の重症者の診療に当たっては、ECMO(ExtraCorporealMembraneOxygenation(体外式膜型人工肺))や人工呼吸器の管理など、専門性の高い看護師が必要となるが、同等の重症患者の管理と比べて、こうした専門性の高い看護師を多数確保することが必要となる傾向にあった。急性期医療等の分野の専門性の高い看護師は、近年増加傾向にあるが、新型コロナウイルス感染症患者への対応に当たっては、そのニーズに比して不足している状況だった。

このため、新興感染症の発生時において、病院等が新興感染症に的確に対応できる看護師を円滑に確保できるよう、平時から、専門性の高い看護師を養成・確保することが重要であることから、第四に基づき、特定行為研修修了者、専門看護師、認定看護師その他の専門性の高い看護師の養成・確保を推進することが重要である。

二 新興感染症や災害に的確に対応できる看護師等の応援派遣

新興感染症が一部の医療機関で集中的に拡大し、看護師等の確保が困難になった場合は、他の医療機関からの新興感染症に的確に対応できる看護師等の応援派遣が必要になる。また、新興感染症が一部の地域で集中的に拡大した場合や、大規模な災害が発生した場合において、看護師等の確保が困難になったときは、他の都道府県の医療機関からの新興感染症に的確に対応できる看護師等の応援派遣が必要になる。

一方、感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律等の一部を改正する法律(令和4年法律第96号。以下「感染症法等改正法」という。)による改正後の医療法(以下「新医療法」という。)の規定により、国において、新興感染症拡大地域や被災地域に応援派遣されて、新興感染症及び災害への支援に対応できる医療従事者の養成を図り、リスト化を進めるとともに、都道府県と医療機関の間で、新興感染症や災害発生時に、医療従事者の応援派遣に対応する旨の協定を事前に締結する仕組みが整備された。また、感染症法等改正法による改正後の感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(平成10年法律第114号。以下「新感染症法」という。)においては、新興感染症が一部の都道府県で集中的に拡大した場合等において、国において、他の都道府県の医療機関からの応援派遣を調整する全国レベルでの医療従事者の応援派遣調整を行う仕組みも法定化された。

新興感染症や災害が発生した場合において、新興感染症や災害に的確に対応できる看護師等の応援派遣を迅速に実施できるよう、新医療法及び新感染症法に基づき、新興感染症及び災害への支援に的確に対応できる看護師等(以下「災害支援ナース」という。)の養成及び応援派遣を行う仕組みを構築することが必要である。

こうした仕組みに基づき、国においては、災害支援ナースの養成及びリスト化を進めるとともに、新興感染症が一部の都道府県で集中的に拡大した場合や大規模な災害が発生した場合における全国レベルでの看護師等の応援派遣調整を行う体制を整備することが重要である。また、都道府県においては、医療機関等との連携の下、災害支援ナースの養成に係る研修の受講を推進するとともに、災害支援ナースの応援派遣に係る医療機関との間の協定の締結を着実に進めていくことが重要である。

三 都道府県ナースセンター等における潜在看護師等の就業支援等

新型コロナウイルス感染症の発生に際しては、都道府県ナースセンターによる職業紹介や就業前の事前研修の実施を通じて、ワクチン接種業務や宿泊療養施設での業務等を中心に、潜在看護師等の新型コロナウイルス感染症関連業務への対応が迅速に進められた。今後の新興感染症の発生に際しても、ワクチン接種業務や宿泊療養施設での業務等の新興感染症関連業務において迅速な看護師等の確保を図るため、都道府県ナースセンターにおいて、潜在看護師等に係る職業紹介や就業前の事前研修を積極的に実施することが重要である。

新興感染症の発生に際しては、こうした都道府県ナースセンターにおける取組に加えて、公共職業安定所においても、潜在看護師等に係る職業紹介を進めることが重要である。また、有料職業紹介事業者においても潜在看護師等に係る職業紹介を進めること並びに看護系大学及び看護師等養成所の教員や大学院生による支援の実施も期待される。

 

第七 その他看護師等の確保の促進に関する重要事項

一 国民の理解の向上

看護師等の確保を進める上で、医療関係者をはじめ広く国民一人一人が、療養上の世話又は診療の補助等を行う「看護」の重要性について理解と関心を深めることを通じて、国民全体の理解を進める必要がある。これにより、看護を専門とする看護師等の社会的評価の一層の向上も期待され、看護師等の業務への誇りと就業意欲の向上につながるとともに、看護師等を志望する者の増加により看護師等の確保に資することが期待される。

また、国民は誰もが病を得ることがあることから、国民一人一人が傷病者等を看護することの重要性を理解し、看護に従事する者への感謝の念を持って接することが望ましい。このため、ナイチンゲールの誕生日である五月十二日を「看護の日」とし、この日を含む一週間を「看護週間」としているところである。これらを中心として、その意識の高揚を図るための行事の開催等を通じ、看護の大切さを広く国民が再認識するための運動を展開することが効果的であり、その際、国民においても、広く看護に親しむ活動に参加することが望まれる。

こうした機会等で看護師等自らが看護業務についてアピールしていくことは若者をはじめ広く国民の理解の向上につながっていくものと考えられる。

なお、学校教育においても、各学校段階を通して職場体験やインターンシップを含めた看護・福祉に関する体験学習の機会の充実に努めるなど、これから看護の道を志す若者の看護師等の役割に対する理解が促進されるよう適切な進路指導を行う必要がある。

あわせて、看護師等の専門性の具体的な内容と役割を国民に対して発信するとともに、特定行為研修修了者、専門看護師、認定看護師その他の専門性の高い看護師の専門性の具体的な内容と役割を国民に対して発信することも重要である。

二 調査研究の推進

近年、医学・医療の高度化・専門化、生活様式・価値観の多様化に加え、多発する災害や新型コロナウイルス感染症の感染拡大などにより、看護に対する国民のニーズも高度化・多様化している。チーム医療の中で、看護の専門性を発揮し、国民のニーズに応えていけるよう、科学的根拠に基づく看護実践やAI・ICTの活用といった技術水準の向上や業務効率化への取組が必要である。

このため、効果的かつ効率的な質の高い看護を実現するための研究を行う研究者の育成や広く看護現場で活用される看護ケアの評価、在宅における看護技術等看護全般にわたる研究が求められており、国としてもこれらに対する支援策を講じていくことが重要である。

三 看護師等の確保を図るための看護補助者による業務実施の推進

現役世代が急減していく一方で、高齢化の進行に伴って看護ニーズが増大している状況において、看護師等が実施する必要がある診療の補助又は療養上の世話に係る業務について、必要な看護師等の確保を図っていくためには、看護補助者が実施可能な業務については、看護補助者が担っていく環境を整備していくことが重要になる。

このため、国においては、看護補助者の業務に必要な知識・技術の習得に向けた研修プログラムの開発、看護補助者の活用に関する好事例の情報発信、病院管理者等を対象とした看護補助者の活用に関するセミナーの開催などの取組を行うことが重要である。

また、都道府県ナースセンターにおいては、地域の実情や病院等のニーズに応じて、職業安定法(昭和22年法律第141号)に定める必要な届出を行った上で、看護師等の無料職業紹介とあわせて、看護補助者の無料職業紹介も実施することが重要である。

診療報酬において、看護補助者の配置に係る加算や看護補助者に対してより充実した研修を実施した場合等の評価を行っており、病院等においては、これらを活用しつつ、看護補助者による業務実施を推進していくことが重要である。

あわせて、看護補助者の社会的な認知の向上に努めるとともに、看護補助者の技能の向上及び把握・活用に努めていくことが重要である。