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看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針
制 定 平成四年十二月二十五日文部省・厚生省・労働省告示第一号
★本告示は令和五年十月二十六日文部科学省・厚生労働省告示第八号にて廃止されました。
看護婦等の人材確保の促進に関する法律(平成四年法律第八十六号)第三条第一項の規定に基づき、看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針を次のように策定したので、同条第五項の規定により告示する。
看護婦等の確保を促進するための措置に関する基本的な指針
保健婦、助産婦、看護婦、看護士、准看護婦及び准看護士(以下「看護婦等」という。)は、病院等(看護婦等の人材確保の促進に関する法律(平成四年六月法律第八十六号。以下「法」という。)第二条第二項に規定する病院等をいう。以下同じ。)において、最も身近な医療関係職種として、国民の保健医療の向上に大きく貢献してきている。
その看護婦等は、就業者数をみると平成二年で約八十三万四千人と我が国医療関係職種の中で最も多数を占めており、チーム医療の中において、大きな役割を果たしてきているが、今後も、人口の急速な高齢化、医学・医療の高度化・専門化、訪問看護をはじめ看護婦等が働く場の拡大等を背景に、需要は引き続き増大していくものと考えられる。
また、サービスの提供者である医療従事者、とりわけ二十四時間体制での勤務となる看護婦等が健康で業務に意欲を持って取り組むことは、満足のいく患者ケアを行うためにも重要である。
一方、我が国における出生率は低下を続けており、若年労働力人口は二千年以降は減少傾向をたどると予想されることから、必要な看護婦等を確保していく上で、労働時間、夜勤等の処遇条件の改善、社会的な評価の向上等その業務、職場環境を魅力あるものとしていく必要がある。
かかる状況の下で、増大する需要に対応できる看護婦等の確保を進めることは喫緊の課題となってきており、その取組に当たっては、当面緊急を要する措置を速やかにとりつつも、中長期的視点に立って、養成、処遇の改善、資質の向上、就業の促進等について、関係者が一体となり総合的に進めることが必要である。
この指針は、国、地方公共団体、病院等、看護婦等、そして国民がそれぞれの立場において取り組むべき方向を示すことにより、今後の高齢社会における保健医療を担う看護婦等の確保を図り、国民に良質かつ適切な医療の提供を図ることを目的とするものである。
第一 看護婦等の就業の動向に関する事項
一 看護婦等の就業の現状
看護婦等の就業者数は、平成二年末では約八十三万四千人で、その就業場所は、病院が約六十万二千人(七十二・二パーセント)、診療所が約十七万八千人(二十一・四パーセント)、助産所が約四千人(〇・五パーセント)、その他が約五万人(五・九パーセント)となっており、病院への就業者が増加する傾向にある。
一方、看護婦及び看護士(以下「看護婦(士)」という。)並びに准看護婦及び准看護士(以下「准看護婦(士)」という。)の就業者数は、平成二年末においては、看護婦(士)が五十三・八パーセントを占めており、増加傾向にある。勤務先については、看護婦(士)は、平成二年には病院八十四・〇パーセント、診療所十一・九パーセントとなっており、病院への集中が進んでいるのに対して、准看護婦(士)は診療所への勤務者が増加している。
病床規模別の就業先は、平成二年では三百床以上四百九十九床以下の病院では十万六百九十七人、五百床以上の病院では十一万八千八百四十九人となっており、大病院における看護婦(士)数の増加がみられる一方、それ以下の病院では、看護婦(士)数が減少し、准看護婦(士)が増加している。
なお、病院に勤務する看護婦等の百床当たりの数は、平成二年では三十五・九人(病床数約百六十七万七千床)と増加傾向にあり、患者二・三人当たり一人の配置となっている。
さらに、開設主体別にみると国立の場合、平成二年においては看護婦(士)五万二千五百十七人、准看護婦(士)八千五百三十一人、比率にして六対一となっており、公立・公的病院とともに看護婦(士)の割合が増加している。これに対して、医療法人立の場合には、平成二年においては看護婦(士)七万七千三百九十七人、准看護婦(士)十万七千七十三人、比率にして二対三と大きな変化は見られない。
また、看護士・准看護士の数は、平成二年においては合わせて二万四千百三十八人となっており、増加傾向にあるものの看護婦(士)、准看護婦(士)全体の三・一パーセントにとどまっている。
その他、平成二年においては、昭和六十三年から本格実施された老人保健施設に二千五百八十三人の看護婦等が就業しているほか、保健婦については、保健所八千七百四十九人、市町村一万千六百七十三人、病院・診療所四千七百六人、助産婦については、病院・診療所一万八千二百三十一人という就業状況となっている。
二 今後の就業傾向
看護婦等の就業先の大半を占めてきた病院・診療所における需要は、医学・医療の高度化・専門化、週四十時間労働制の実施・定着や夜勤体制の改善等に伴って増加することが見込まれ、老人保健施設等における需要も増加すると見込まれるものの、病院・診療所が主たる就業先という基本的な傾向に大きな変化はないものと考えられる。
一方、今後、医療法改正による施設機能の体系化に伴う人員配置基準の見直しや看護業務の在り方の見直しに伴って状況が変化する面もあると考えられるので、これらの動向に留意する必要がある。
平成二年度から平成十一年度を計画期間とする高齢者保健福祉推進十か年戦略や老人訪問看護制度の進展により看護婦等の需要も増加していくものと考えられるが、こうした新しい職場の中には、昼間業務も多いことから、家庭の事情などにより夜勤ができず、潜在化していた者の就業が期待される。
また、平成五年度には、各都道府県、市町村における老人保健福祉計画の策定が予定されており、地域保健医療計画の展開と併せて、保健、医療、福祉の連携による保健事業がますます活発化し、保健婦需要が高まるものと考えられる。
なお、今後、現在全女子労働人口の三・三パーセントを占めている看護婦等の就業者数を、若年女子労働人口の減少傾向の中で増加させていくためには、計画的な養成とともに、離職の防止と再就業の促進に留意して確保を進める必要がある。
特に再就業の促進に当たっては、平成元年現在約四十三万人と推計されている潜在看護婦等の動向を随時適切に把握していくことが重要である。
第二 看護婦等の養成に関する事項
一 看護婦等の養成の現状
(一) 養成制度の現状
我が国の看護婦等の資格制度は、保健婦、助産婦、看護婦(士)及び准看護婦(士)からなり、教育は、大学、短期大学、高等学校、養成所等で行われている。
また、教育課程は、保健婦課程、助産婦課程、看護婦課程(三年課程、二年課程)及び准看護婦課程からなり、これらは全日制、昼間定時制、夜間定時制など多様な形態で構成されている。このうち、看護婦二年課程及び准看護婦課程は、一部を除いて就業を伴う形態となっている。
平成四年四月現在、看護婦課程は、三年課程が五百校(大学十四校、短期大学五十九校を含む。)、一学年定員二万五千三百十人であり、二年課程が四百二十校(短期大学十四校を含む。)、一学年定員一万七千八百九十一人、また、准看護婦課程が六百十二校(高等学校百三十三校を含む。)、一学年定員三万千九百九十人となっている。
(二) 教育課程の現状
教育内容については、昭和二十三年に制定された保健婦助産婦看護婦法(昭和二十三年七月法律第二百三号)に基づく保健婦助産婦看護婦学校養成所指定規則(昭和二十六年八月文部省令・厚生省令第一号)により規定されているが、人口の高齢化、疾病構造の変化、医学・医療の高度化・専門化、在宅医療の推進等看護教育を取り巻く環境の変化に対応して、これまでに数次にわたり各職種の教育課程や学校養成所の指定基準等の改正が行われている。
看護婦等の教育課程については、今後とも医学医術の進展、保健医療福祉ニーズの変化に伴う看護の理論や技術の進展等に応じて随時見直す必要がある。
(三) 教員養成の現状
看護教育における教育内容を向上させ、看護の現場において専門性が高く、かつ、心の通った看護を提供できる質の高い看護婦等を養成していくためには、教育環境の整備と質の高い教育者の確保が必要とされるが、現在、大学においては看護に関する課程が少なく、十分に看護教員を養成できない状況にあり、養成所の看護教員の養成は、厚生省等において行われてきている。
二 看護婦等の養成の考え方
(一) 需給見通しに沿った新卒就業者の確保
平成三年十二月に厚生省が策定した看護職員需給見通しにおいては、平成十二年までに、七千七百人の養成者数の増を図り、新卒就業者数が六万三千八百人となると見込まれているが、看護婦等の需給は医療供給体制や看護業務の在り方、福祉対策の展開等により変化するものであるので、状況の変化に即応して適切に見直し等を加えた需給見通しに基づき、看護婦等の養成を図っていく必要がある。
また、学校養成所の新規入学者の大半を占める十八歳女子人口が減少するため、二千年には十八歳女子人口の七・七パーセントが就学する必要があるので、国及び地方公共団体においては、必要な看護婦等の確保が図られるよう、就学者の確保対策の充実等を図っていく必要がある。その際、男子学生の受入れに対する教育環境の整備を進めていく必要がある。なお、これらに加えて、他の分野で働く社会人の養成施設への受入れについても検討を加える必要がある。国においては、これらを含めて需給見通しに沿った就業者数の確保に努めるべきである。
(二) 資質の高い看護婦等の養成
ア 教育制度の見直し
看護婦等の教育課程については、医学・医療の高度化・専門化や看護の理論、技術の進展等に即応して改正が行われているが、高学歴化、少子化が進んでいることから、看護婦等を希望する者を確保する意味でも、職業資格とその教育の魅力を高めていく必要がある。このため、学生の高学歴志向を踏まえ、医療需要を勘案しながら、看護婦三年課程の整備や看護婦二年課程の整備等を図っていく必要がある。
イ 看護婦等をめざす学生の確保
十八歳人口の減少が確実に予測されている時期において、意欲のある若年層の志願者を得るためには、看護の魅力を積極的に若年層に伝える対策が必要であり、国、地方公共団体等による啓発活動も重要である。
また、各教育機関自らがそれぞれの特色に応じた方法で、こうした若者を看護の世界にひきつけることに取り組み、あるいは看護婦等自身又は職能団体自身が若年層への啓発を行うべきである。
ウ 看護教員等養成の在り方
看護教育の内容の充実を図り、養成される看護婦等の資質を高めていくためには資質の高い教育者の確保を図ることが重要であり、大学の整備が期待される。看護婦等学校養成所の教員需要に対応していく上でも、看護系大学の整備を進めるほか、国、地方公共団体等の教員養成研修についても、研修期間の延長、適切な教育水準の設定等早急な対応が望まれる。
また、看護教育においては、実習病院における臨床指導が重要であり、実習施設の確保と臨床指導に当たる実習指導者の必要な数の確保とその質の向上を図る必要がある。このため、国においては、実習の実質的効果が高まるよう、実習指導者の研修計画の企画・実施、実習指導の効果的な方法、指導者の資質、指導技術の在り方などの検討に努めるとともに、都道府県においてはその研修養成に努める必要がある。
エ 看護系大学・大学院の整備充実
近年の医学・医療の進歩・発展に伴う高度化・専門分化等に十分対応し得る看護の専門的知識・技術と豊かな人間性や的確な判断力を有する資質の高い看護婦等を大学において養成することが社会的に要請されている。
また、看護婦等学校養成所の看護教育の充実のためには、これらの学校養成所の教員としてふさわしい資質を備えた優秀な人材を確保する必要があり、その基盤となる看護系大学(学部、学科を含む。以下同じ。)の整備が課題となっている。
このため、看護教育の充実と教員等指導者の養成を図る観点から、看護系大学の整備充実を一層推進していく必要がある。
さらに、看護系大学の整備充実に伴い、今後、ますます必要とされる大学等の教員や研究者の養成を図るため、看護系大学院の整備充実に努めることが必要である。
また、看護系短期大学(学科を含む。)については、高度な知識と技術をもった看護婦等の養成に大きな役割を担っており、今後ともその整備に努める必要がある。
第三 病院等に勤務する看護婦等の処遇の改善に関する事項
一 夜勤負担の軽減等
近年、若年労働者が職業選択をするに当たっては、週休や労働時間を重視する傾向が見られるところであり、他の職業との比較において看護婦等が敬遠されることのないよう、早急に労働時間の短縮を図る必要がある。このため、当面は、週四十時間労働制を目指して、完全週休二日制の普及等労働時間短縮を進めていく必要がある。その際、看護婦等の処遇改善の実をあげるためには、外来部門の土曜日休診を進めていくことも必要であり、これに対応できるよう地域における救急医療体制の整備を進めていくことが必要である。
出産、結婚とともに代表的な離職理由である夜勤は、看護婦等が勤務する上で大きな負担となっており、看護婦等の継続勤務を促進する上では、その負担の軽減が必要である。このため、看護婦等の夜勤負担を軽減し、働きやすい職場づくりを進める上で、入院患者の状況等に応じて、複数を主として月八回以内の夜勤体制の構築に向けて積極的に努力する必要がある。
このほか、年次有給休暇についても、勤務割を長期的に組むこと等により、計画的な休暇の取得を可能とするよう取り組む必要がある。
また、看護婦等の業務の特殊性にかんがみ、その安全と健康を確保するため、院内における作業や環境の管理、心身の健康管理、業務面での悩みに対応できる管理体制を確立していくことが望ましい。
二 給与水準等
給与水準については、個々の病院等の経営状況、福利厚生対策等を踏まえて、労使において決定されるものであり、病院等の労使にあっては、人材確保の観点に立ち、看護婦等をはじめとする従業者の給与について、その業務内容、勤務状況等を考慮した給与水準となるよう努めるべきである。
平成四年四月の診療報酬改定においては、看護婦等の処遇改善に資するため、看護料の大幅な引上げを図るほか、勤務時間、夜勤体制を勘案した加算制度が創設されたところであり、病院等の開設者はこれら改定の趣旨を踏まえた給与水準となるよう努める必要がある。また、国は、必要に応じて診療報酬改定の趣旨等を病院等の関係者に十分に説明するとともに、各病院等において適切な対応が図られるよう趣旨の徹底について協力要請等に努める必要がある。
これらを踏まえ、今後とも看護婦等の給与について適切な水準となるようにする必要がある。
また、退職金制度の充実等も定着対策として意義があると考えられるので、中小企業退職金共済制度の利用等を含めてその充実に努めるべきである。
三 看護業務の改革
今後、病院等の人材の確保や適切なサービスの提供を図る上で、看護婦等をはじめ医療従事者が生きがいを持って専門職としての力を発揮できる体制を構築することが重要である。このため、病院等においては、患者のケアの向上が図られるよう看護婦等の業務の見直しを行い、ベッドサイドケアの充実を中心に看護の独自性が発揮され、働きやすい業務体制を作っていく必要がある。見直しに当たっては、病院等は、患者のニーズ、病院等の立地や規模、運営の効率化等を踏まえ、働く者が働きやすく、より適切な看護サービスが提供できるよう、多様な勤務体制の採用、薬剤師等他の医療関係職種や看護助手、病棟事務員等との業務分担の見直し、申送りの改善等の看護業務自体の見直し、特殊入浴装置、電動ベッド等の業務省力化機器の導入等それぞれの病院等の状況に応じた最適の就業環境となるようにすべきである。その際、看護業務を実施する上で特に密接に関連する医師等の関係者と看護部門とが協同してチーム医療に当たることができるよう、より適切な業務連携のルール作り等を進めることが必要である。
看護業務の見直しを行う場合には、患者に提供されるケアの質が確保されるとともに、業務分担を見直す場合には他職種の理解を得ることが求められるので、看護部門だけでの検討ではなく病院等全体としての取組が必要である。
これらを踏まえ、国においても病院等の創意と工夫を生かした業務改善が進められるよう、業務改善のマニュアルの策定等各種の施策を通じて支援する必要があるとともに、看護サービスの質的な水準に着目した適切な評価に配慮すべきである。
四 福利厚生の充実等
看護婦等は女性が大半を占めており、育児が離職理由の一つとなっているが、夜勤等により一般の保育所の利用が困難な場合もあるので、院内保育施設の利用が効果的である。したがって、病院等においては、地域の実情や利用者のニーズに応じて院内保育体制を整えるとともに、国及び地方公共団体においては、中小病院等が共同利用できる施設等多様な形態や二十四時間対応できる体制の整備等院内保育の充実を図っていく必要がある。
また、病院等の立地や住居との関係から、院内保育施設の利用が困難な場合もあるので、国及び地方公共団体においては、夜間保育、延長保育等の保育対策の充実を図る必要がある。さらに、病院等の職場における育児休業制度の普及定着を図るとともに、病院等においては国の援助を活用し、休職後の円滑な復帰が図られるよう講習等の実施に努める必要がある。
他に福利厚生面としては、独身者用個室や世帯住宅など宿舎の確保が定着促進を図る上で効果的であり、公的支援の活用などを通じて努力するべきである。その他、病院等が規模により、単独であるいは共同でレクリエーション等を行うことのできるリフレッシュのための施設を確保すること等も今後検討するべきである。
五 雇用管理体制の整備
雇用管理の改善等により看護婦等の処遇の改善を図るためには、病院等における責任ある雇用管理体制を確立する必要があるが、そのためにはまず、病院等の内部における雇用管理についての責任体制を明確化するとともに、病院等の開設者等雇用管理の責任者が、看護婦等の雇用管理について十分な知識・経験を身につける必要がある。
その際、これら責任者に対して労働関係法令等の周知・徹底を図るとともに、看護婦等雇用管理研修助成金の活用により、雇用管理研修の積極的な受講を図るほか、病院等のみでは十分な改善を行えない場合には、福祉重点公共職業安定所をはじめとする公共職業安定所の雇用管理に関する相談・援助サービスの活用を図ることが望ましい。
六 病院等における看護業務及び看護部門の位置付けの明確化
看護婦等は、病院等において医療チームの一員として業務を行っているが、離職理由の中には医師等医療関係者がチーム医療の一端を担う看護婦等の役割について認識が十分でないことに伴う人間関係への不満が見られる。
看護婦等が生きがいを持って専門職としての力を発揮できる体制を構築していくためには、病院等における看護業務及び看護部門の位置付けを明確化していくよう看護部門だけでなく、管理者以下病院等全体として組織的な取組を行い、職場の人間関係の改善に努めるという視点が重要である。
また、医学教育、医師の研修、病院経営者の研修等にチーム医療の考え方や概念を取り入れる等の方策により、病院等における看護業務及び看護部門の位置付けを明確にするための環境づくりを進めていくことも必要である。
第四 看護婦等の資質の向上に関する事項
一 生涯にわたる研修の必要性
医学・医療の高度化・専門化が進む中で、看護業務に直接必要な専門的知識や技術とともに、コンピューターの導入等による新しい体制への対応等、業務を長期間にわたって継続していくためには、多方面にわたる基本的な知識について学習を行う必要がある。また、自らの専門性をより高めていくことも重要である。
患者の人間性、痛みや苦しみへの理解、生への希求や闘病心の支援等患者の心理やライフスタイルそのものの理解など幅広い豊かな識見も求められている。
さらにエイズ、MRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)による院内感染などの新しい課題や複雑な社会構造の変化に対応するメンタルヘルスケアの問題等に積極的に対応していくためにも専門的な視点からの支援が可能となるように研修を積み重ねることが必要である。
また、人口の高齢化の急激な進展に伴い、老人を対象とした訪問看護や保健、福祉施設等看護婦等の職域は急速に広がりつつあり、新たな業務との調整機能について十分な知識が要求されるほか、看護における専門領域の確立のためには、研究者による研究活動はもとより、臨床の現場における知見をそこに働く看護婦等自らが集積していくことも重要である。このような観点から、関係者が協力して生涯にわたり自己の能力の開発と発展を図れるような支援体制を確立する必要がある。
二 指導的管理的立場にある者の研修の必要性
病院等において看護業務を魅力ある働きがいのある業務としていくためには、指導的管理的立場にある看護教員や看護管理者は、看護学生の教育や看護婦等の指導等を通してその実現を図ることができるようにする必要があり、そのためには看護教員や看護管理者の人間性・社会性を高め、かつ、看護教育の方法、病棟の管理運営の改善等について、知識・技術の向上に努めなければならない。
特に、こうした良きリーダーシップを発揮できる看護管理者を養成していくため、病院等とともに看護婦等自ら、あるいは職能団体の積極的な取組も望まれる。
三 生涯にわたる研修の体系化による資質の向上
看護婦等の生涯にわたる研修は看護婦等の就業場所を含め、個々の置かれている状況が多様であることから実施機関、実施方法等について種々の工夫が必要である。
看護婦等が専門職業人として成長するためには、看護婦等がたゆまぬ努力を重ねる必要があることは当然であるが、その専門性が適切に評価されつつ、生涯にわたり継続的に自己研鑽を積むことができるような研修システムの構築、有給研修制度の積極的導入等環境の整備に努める必要がある。
各病院等においては院外教育に頼るのみではなく、病院等自らが教育も充実させる等努力する必要がある。また、自己研鑽への動機づけを図り、意欲の向上を図るためには、多様な機関で体系化された研修が計画される必要がある。
また、看護系大学が現職看護婦等のリフレッシュのための教育・研修において積極的な役割を果たすことが期待される。
第五 看護婦等の就業の促進に関する事項
一 再就業の促進、定着促進及び離職の防止
今後、若年労働力人口の減少が予想される中、必要な看護婦等を確保していく上で、潜在看護婦等の再就業の促進が重要な課題となっている。
平成三年十二月に策定した需給見通しを達成する上で、今後、更に再就業促進のための事業の強化に取り組んでいく必要がある。
また、看護婦等の就業継続期間を少しでも延長することができれば、実質的に看護婦等の数が増加したのと同じ効果があるので、若年人口の低下傾向の中にあって、離職防止と再就業の促進が重要である。離職理由としては、結婚、出産のほか、看護婦等に特有の勤務条件である夜勤等が挙げられるが、夜勤は看護婦等の職業の性格から生ずる避けがたい条件であるものの、個々の看護婦等が置かれた環境、家庭状況等にも配慮し、働きやすい勤務条件、職場づくりを進め、定着の促進及び離職の防止に努めていく必要がある。
二 職業紹介事業、就業に関する相談等の充実
公共職業安定所においては、従来から看護婦等の職業紹介も行っており、さらに、福祉重点公共職業安定所を中心に、看護婦等の再就業促進のための事業の強化を図っているところである。
看護婦等の就業を円滑に進めるための専門的な無料職業紹介事業は、従来より都道府県単位でナースバンク事業として行われてきており、同事業では職能団体としてのネットワーク等をいかしながら、働く意欲を持つ看護婦等の掘り起こしを行うとともに、ニーズに適した職場に就業できるように努めてきたが、さらに、平成四年度からはナースセンター事業として内容的にも充実して展開しつつある。
都道府県ナースセンターにおける職業紹介においては、就業を希望する看護婦等の経験、希望就業条件等とともに、看護婦等を雇用しようとする病院等側のニーズを把握し、必要に応じて指導する等的確な職業紹介に努める必要がある。
公共職業安定所と都道府県ナースセンターは、相互に連携、協力を図りながら、職業紹介の充実を進めていく必要がある。
また、出産や育児等のために一定期間職場を離れていた看護婦等に対しては、円滑な職場復帰を進めるための研修を実施することも有意義である。さらに、紹介先の病院等においても円滑な受入れができるよう、経験、能力等に応じた研修、OJT(オンザジョブトレーニング)等を行う等の配慮も求められ、都道府県ナースセンターも病院等に対して適切な助言、援助を行うことが望ましい。
なお、紹介が成立しなかった事例については、公共職業安定所、都道府県ナースセンター等において原因の分析等に努め、問題点等を病院等と検討し、紹介の成立に向けて改善方策等を検討していく必要がある。
三 潜在看護婦等の把握
再就業を推進していくためには、潜在看護婦等の動向の把握が極めて重要であるので、都道府県及び都道府県ナースセンターにおいては、病院等、看護婦等学校養成所、看護婦等就業協力員等関係者と相互に協力して、定期的に潜在看護婦等の動向を調査するとともに、就業の意向、条件への希望等を把握し、これを就業の促進にいかしていく必要がある。
また、直ちに就業することは希望しないものの、育児が一段落した後等将来における就業希望を持つ看護婦等に対しては、日頃から公共職業安定所、都道府県ナースセンター等において看護に関する情報提供に努めることにより、再就業を円滑化していくことが望ましい。
四 ナースセンター事業の支援
法によって指定法人として位置付けられる都道府県ナースセンターには、より多くの看護婦等と病院等が信頼して相談、求人・求職を依頼することが期待されるが、都道府県においては、看護婦等就業協力員等を活用しながら、ナースセンター事業の普及推進のための支援等に努めることが必要である。
特に、看護婦等確保推進者を設置しなければならない病院に対しては、都道府県、都道府県ナースセンター、公共職業安定所が連携、協力しながら、当該病院の看護婦等の確保の推進のために強力に支援していくことが重要である。
また、中央ナースセンターにおいても都道府県ナースセンターの支援、連絡調整に努めていく必要がある。
国においては、都道府県ナースセンター及び中央ナースセンターの事業が推進されるよう必要な支援を行うことが重要である。
五 その他
女性の多い看護婦等の中には、その置かれている家庭状況等から夜勤や常勤での就業をしない者も少なくないが、こうした看護婦等には、日中に業務を行うことが多い老人訪問看護事業等の昼間業務への就業促進やパートタイム労働者がより働きやすい勤務条件の整備を進め、人材を活用していく必要がある。
このため、病院等においては、未就業の看護婦等の就業の意向等を踏まえ、その受入れが図られるよう勤務体制等の工夫に努めるべきである。
第六 その他看護婦等の確保の促進に関する重要事項
一 国民の理解の向上
看護婦等の確保を進める上で、医療関係者をはじめ広く国民一人一人が、傷病者のお世話をする「看護」の重要性について理解と関心を深めることを通じて、国民全体の理解を進める必要がある。これにより、看護を専門とする看護婦等の社会的評価の向上も期待され、看護婦等の業務への誇りと就業意欲の向上につながるとともに、看護婦等を志望する者の増加により看護婦等の確保に資することが期待される。
また、国民は誰もが病を得ることがあることから、国民一人一人が傷病者等を看護することの重要性を理解し、家庭や病院等で看護に従事する者への感謝の念を持って接することが望ましい。このため、ナイチンゲールの誕生日である五月十二日を「看護の日」とし、この日を含む一週間を「看護週間」としているところである。これらを中心として、その意識の高揚を図るための行事の開催等を通じ、傷病者等をお世話することの大切さを広く国民が再認識するための運動を展開することが効果的であり、その際、国民においても、広く看護に親しむ活動に参加することが望まれる。
こうした機会等で看護婦等自らが看護業務についてアピールしていくことは若者をはじめ広く国民の理解の向上につながっていくものと考えられる。
なお、学校教育においても、各学校段階を通して一日看護体験等のボランティア活動を含めた看護・福祉に関する勤労体験学習の機会の充実に努めるなど、これから看護の道を志す若者の看護婦等の役割に対する理解が促進されるよう適切な進路指導を行う必要がある。
二 調査研究の推進
近年、医学・医療の高度化・専門化や生活様式・価値観の多様化などにより、看護に対する国民のニーズも高度化・多様化しており、チーム医療の中で、専門職種としての看護業務の専門化やシステム化など技術水準等の向上が必要であるが、具体的な看護問題を解決していくための看護技術や看護ケアシステム等に関する研究体制は十分とは言えない状況にある。
このため、看護ケアの評価、在宅における看護技術等看護全般にわたる研究が求められており、国としてもこれらに対する支援策を講じていくことが必要である。