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通達:労働組合法の一部を改正する法律の施行について

 

労働組合法の一部を改正する法律の施行について

平成16年12月1日政発第1201001号

(中央労働委員会会長あて厚生労働省政策統括官通知)

 

「労働組合法の一部を改正する法律」(平成16年法律第140号。以下「改正法」という。)については平成16年11月17日に、「労働組合法施行令の一部を改正する政令」(平成16年政令第373号。以下「改正令」という。)については本日公布されたところである。

改正法及び改正令の趣旨及び内容は、「労働組合法の一部を改正する法律について」(平成16年12月1日厚生労働省発政第1201001号)によるほか、別添のとおりであるので、お知らせする。

※ なお、本文中の法令等又は用語の略称は以下のとおりである。

法=改正後の労働組合法

令=改正後の労働組合法施行令

中労委=中央労働委員会

都道府県労委=都道府県労働委員会

 

(別添)

改正法及び改正令の趣旨及び内容

目次

 第1 改正の趣旨

 第2 労働委員会における審査体制の整備

  1 都道府県労働委員会

  2 部会による審査等

  3 規則制定権

 第3 不当労働行為事件の審査の手続

  1 公益委員の除斥及び忌避

  2 審査の計画

  3 証拠調べ

  4 宣誓等

  5 不服の申立て

  6 審問廷の秩序維持

  7 救済命令等

  8 和解

  9 再審査の手続

  10 審査の期間の目標

 第4 訴訟

  1 取消訴訟

  2 緊急命令

  3 取消訴訟における新証拠の提出制限

 第5 雑則

 第6 その他

 

第1 改正の趣旨

労働委員会が行う不当労働行為事件の審査については、審査期間が著しく長期化しており、また、救済命令等に対する取消率についても高い水準となっている。

このような状況を踏まえ、今般の労働組合法の改正は、労使間の対等な交渉を可能とするための基盤を確保するという不当労働行為審査制度本来の趣旨が実現できるよう、不当労働行為事件の審査の迅速化及び的確化を図る観点から、労働委員会における審査の手続及び体制の整備等の措置を講ずることとしたものであること。

 

第2 労働委員会における審査体制の整備

1 都道府県労働委員会

(1) 趣旨

都道府県労委が、不当労働行為事件等の処理について地域の実情に応じた対応をすることができるようにするため、その審査体制等を見直すための選択肢として、条例による委員の数の増又は常勤の公益委員の配置、事務局組織の再編等を可能としたものであること。

なお、下記(3)及び(4)は、都道府県労委の組織に関する基本的事項であることから、都道府県の法規たる条例により定めることとし、委員の増員、常勤の公益委員の配置又は2の(4)の部会による審査等のうちいずれの措置を講ずるかを、都道府県が総合的に判断することとしたものであること。

(2) 名称

今般の改正により、都道府県が、その判断で下記(3)~(5)により委員の数や事務局組織を柔軟に整備することが可能となるとともに、都道府県労委が、審査の期間の目標を設定し、その達成状況等を公表することになる等それぞれ迅速かつ的確な審査の実施について責任を負うことになる。これに合わせ、その名称も都道府県の委員会であることをより明確にする観点から、「地方」労働委員会ではなく「都道府県」労働委員会と改めることとしたものであること(法第19条第2項)。

この結果、具体的な名称は「北海道労働委員会」、「青森県労働委員会」など、「労働委員会」の上に直接都道府県名を冠したものとなること。

なお、このような名称の取扱いは、法令の規定を待つまでもなく明らかとなることから、地方労働委員会の名称に関する規定(改正前の労働組合法施行令第17条)は削除したものであること。

(3) 委員定数

各都道府県労委の委員の数は、その的確な業務処理に必要な最低限の人数を公労使各13人、各11人、各9人、各7人又は各5人のうちから政令で定めることとし、地域の実情に応じた更なる体制整備等への対応のために、各都道府県が条例で定めるところにより、委員を公労使各2人加えることができることとしたものであること(法第19条の12第2項)。

政令で定める委員の数(以下「委員定数」という。)については、北海道及び福岡県の都道府県労委の委員定数を公労使各9人から各7人に改めることとし、その他の都道府県労委については、改正前の委員定数と同数としたものであること(令第25条の2及び別表第3)。

すなわち、今般、委員定数を定めるに当たっては、委員定数に係る前回改正(昭和53年)と同様、労働組合数、労働組合員数、係属事件数等を勘案し、前回改正時と比較してこれらの数が大幅に低下している北海道及び福岡県について、その委員定数を減らすこととしたものであること。

また、経過措置として、今般の改正により委員定数が減少することになる北海道及び福岡県の都道府県労委の委員の任期中の身分の安定性を確保する観点から、次期改選期までは委員定数を改正前と同数のままとしたものであること。

なお、条例で定めるところにより都道府県労委の委員数を公労使各2人を加えることが可能であるが、これは、各都道府県労委に最低限必要な委員数を定める改正後の委員定数を前提とするものであるため、この経過措置期間中は、委員定数が改正前と同数の都道府県労委も含め、条例による増員を行うことはできないものであること(改正令附則第2条)。

(4) 常勤の公益委員

都道府県労委の委員は非常勤とされてきたところであるが、各公益委員が対応できる事件数には限界があり、特に事件数の多い都道府県労委においては審査全体の長期化要因となり得ること。

このため、事件処理に充て得る時間を増加させ、複雑困難事件を集中的に処理するとともに、多くの事件を処理することが可能となるよう、都道府県労委の審査体制強化に向けた選択肢の一つとして、公益委員のうち2人以内は、条例で定めることにより、常勤とすることができることとしたものであること(法第19条の12第6項)。

(5) 事務局の組織

地方労働委員会の事務局に「事務局長、事務局次長二人以内及び必要な職員を置く」こととされていたものの(改正前の労働組合法第19条の12第4項)、実際に事務局次長を置くかどうかは各都道府県の実情に応じて決定するものと解されていたところであり、事務局次長2人以内を置く旨の規定を削除したものであること(法第19条の12第6項)。

また、事務局の内部組織については、会長の同意を得て都道府県知事が定めるものとしたこと(令第25条第1項)。

これは、改正前は、事務局に「都道府県知事が定める課を置く」こととされていたところであるが、今般の改正による審査手続及び審査体制の整備に併せて、

イ 課を置くこと

ロ 課以外の組織(室、グループ)を置くこと

ハ 課等を置かず審査官等のスタッフ職を置くこと

ができることとしたものであること。

2 部会による審査等

(1) 趣旨

労働委員会が発する命令は、公益委員全員の合議により決定することとされているが、中労委では15人である等公益委員の数が準司法的な判定機関たる合議体としては多いため、機動的に、かつ充実した合議を行うことができるよう、法第24条の2第1項又は第4項ただし書の規定により会長が指名する一定数の公益委員をもって構成する合議体(以下「部会」という。)で審査等を行うこととしたものであること。

(2) 公益委員のみで行う権限

イ 労働委員会の行う権限のうち、

(イ) 法第5条及び第11条の規定による事件の処理(以下「資格審査」という。)

(ロ) 法第7条並びに第4章第2節及び第3節の規定による事件の処理(以下「不当労働行為事件の審査等」という。)

(ハ) 労働関係調整法(昭和21年法律第25号)第42条の規定による事件の処理は、公益委員のみが行うものであり、その趣旨は改正前の労働組合法第24条第1項本文と同様であること(法第24条第1項本文)。

ロ この例外として、使用者委員及び労働者委員は、審問を行う手続(改正前の労働組合法第24条第1項ただし書)に加え、調査を行う手続(公益委員の求めがあった場合に限る。)及び第3の8(2)の和解を勧める手続にも参与することができることとしたほか、以下の行為をすることができることとしたものであること(法第24条第1項ただし書)。

(イ) 法第27条の7第4項の規定により、労働委員会が証人等出頭命令(同項の証人等出頭命令をいう。以下同じ。)又は物件提出命令(同条第2項の物件提出命令をいう。以下同じ。)をしようとする場合に、意見を述べること。

(ロ) 法第27条の12第2項の規定により、労働委員会が救済命令等(同条第1項の救済命令等をいう。以下同じ。)を発しようとする場合に、意見を述べること。

(3) 中労委

イ 構成

中労委は、会長が指名する公益委員5人をもって構成する部会で、資格審査及び不当労働行為事件の審査等(以下単に「審査等」という。)を行うものとしたこと(法第24条の2第1項)。

ロ 公益委員全員で合議を行う事項

中労委においては原則として部会において審査等を行うこととしたが、重要な事件について慎重に合議を行うことが適当な場合等以下の場合については、例外的に公益委員全員をもって構成する合議体(以下「公益委員会議」という。)により審査等を行うこととしたものであること(法第24条の2第2項)。

(イ) 部会が、法令の解釈適用について、その意見が前に中労委がした法第5条第1項若しくは第11条第1項の規定による処分(以下「資格審査に係る決定」という。)又は救済命令等に反すると認めた場合

これは、部会が行おうとする資格審査に係る決定又は救済命令等がいわゆる前例変更に当たる場合であるが、物件提出命令等審査の過程における中間処分についてはこれに該当しないものであること。

(ロ) 部会を構成する公益委員の意見が分かれたため、部会としての意見が定まらない場合

これは、不当労働行為の有無に関する事実の認定又はその認定に基づく命令の内容について、5人の公益委員の意見が3説以上に分かれる等により、(5)の議決要件を満たすことができず、部会としての意見が定まらない場合であること。

(ハ) 部会が、公益委員会議で審査等を行うことを相当と認めた場合

これは、社会的影響の大きな事件等について慎重な判断を行うため、部会が公益委員会議で審査等を行うべきと判断した場合であること。

(ニ) 法第27条の10第3項(再審査について準用する場合を含む。)の規定により、中労委のした証人等出頭命令等(証人等出頭命令又は物件提出命令をいう。以下同じ。)に対する異議申立てを審理する場合

これは、中労委(上記(ロ)又は(ハ)の場合を除き、部会)がした証人等出頭命令等について、より慎重な審理を確保する観点から、公益委員全員の合議により再度審理することとしたものであること。

(4) 都道府県労委

都道府県労委においても、中労委と同様、機動的に、かつ充実した合議を行うことができるようにする観点から、条例で定めるところにより、公益委員5人又は7人をもって構成する部会で審査等を行うことができることとしたものであること(法第24条の2第3項ただし書)。

都道府県労委における部会の構成としては、一部の公益委員が重複することにより複数の部会を常設することも可能であること。

また、事件ごとに、5人又は7人の公益委員を指名することにより部会を構成することも可能であるが、一部の公益委員を除いて複数の部会を常設することは、特定の公益委員が審査等に関わらないことになるため、適当でないこと。

なお、部会の意見が定まらない場合又は公益委員会議で審査等を行うことを相当と部会が判断した場合(法第24条の2第3項において準用する同条第2項第2号及び第3号)は、公益委員会議において審査等を行うこととなるが、中労委と異なり、資格審査に係る決定又は救済命令等の前例変更に当たる場合であっても、公益委員会議により審査等を行うこととはされていないこと。

(5) 部会の定足数等

公益委員会議については、これまで定足数を政令で公益委員の定員の過半数である旨規定していただけであったが、今般、公益委員会議の議決要件についても、公益委員の定員の過半数による旨を明記したものであること(令第26条第2項)。

また、今般の改正により規定された部会について、その定足数及び議決要件を、公益委員会議と同様に、部会を構成する公益委員の定員の過半数としたものであること(令第26条第1項及び第2項)。

(6) 審査委員への手続の委任

イ 労働委員会が、1人又は数人の公益委員に審査等の手続の全部又は一部を行わせることができる旨を法律上明記したものであること。ただし、以下の手続((ロ)~(ホ)については再審査について準用する場合を含む。)は、本項の「審査等の手続」から除かれるものであること(法第24条の2第4項)。

(イ) 資格審査に係る決定(法第5条第1項及び第11条第1項)

(ロ) 除斥又は忌避の申立てに対する決定(法第27条の4第1項)

(ハ) 証人等出頭命令等(法第27条の7第1項)

(ニ) 証人等出頭命令等に対する不服申立てに係る決定(法第27条の10第2項及び第4項)

(ホ) 救済命令等の発出(法第27条の12第1項)

(ヘ) 緊急命令の申立て(法第27条の20)

ロ したがって、例えば以下の事項(再審査について準用する場合を含む。)は、法第24条の2第4項の規定により審査等の手続の全部又は一部を行う公益委員(以下「審査委員」という。)のみで行うことが可能であること。

(イ) 審査の計画の作成及び変更(法第27条の6第1項及び第3項)

(ロ) 当事者又は証人(以下「証人等」という。)に陳述させること(法第27条の7第1項第1号)

(ハ) 提出された物件を留め置くこと(同項第2号)

(ニ) 物件の所持者の審尋(法第27条の7第7項)

(ホ) 証人等に宣誓させること(法第27条の8及び法第27条の9)

(ヘ) 証人等出頭命令等に対する不服審査の際に行う申立人の審尋(法第27条の10第6項)

(ト) 審問廷の秩序維持のための措置(法第27条の11)

(チ) 和解の勧奨及び認定並びに和解調書の作成(法第27条の14)

(7) 公益を代表する地方調整委員への手続の委任

中労委は、公益を代表する地方調整委員に、中労委の行う審査等の手続((6)イの「審査等の手続」をいう。)のうち、調査及び審問を行う手続並びに当事者に和解を勧める手続を行わせることができるものとしたこと(法第24条の2第5項前段)。このため、公益を代表する地方調整委員は、調査又は審問を行う手続を行うことはできるものの、審査等の手続から除かれる証人等出頭命令等などの手続を行うことはできないこと(法第24条の2第5項前段)。

また、これら公益を代表する地方調整委員に行わせることができる手続には使用者又は労働者を代表する地方調整委員が参与することができるものであること(法第24条の2第5項後段)。

3 規則制定権

(1) 中労委の規則制定権

中労委の規則制定権については、改正前とその内容について変更はないこと(法第26条第1項)。

したがって、法律の文言上は、「規則を定めることができる」とあるが、中労委及び都道府県労委の行う手続については労働委員会規則に委ねている趣旨にかんがみれば、今後も当然定められるべきものであること。

また、今般の改正において、「公布する権限を有する」旨の規定がされていないが、これは、委員会の規則制定権の一般的な規定例に倣ったものであり、規則の公布に係る取扱いを変更するものではなく、労働委員会規則の重要性にかんがみ、その制定又は改廃が行われた場合には、当然に公布されるべきものであること。

(2) 都道府県労委の規則制定権

不当労働行為事件の審査及び労働争議の調整の手続については、全国的な統一性を確保する必要があるため、中労委が労働委員会規則(昭和24年中央労働委員会規則第1号)として規定しているところであるが、全国的な統一性の確保に支障がなくむしろ各地域の実情に応じて定めることが適当な事項については、都道府県労委が定めることができるよう、会議の招集その他一定の事項について規則を定めることができることとしたものであること(法第26条第2項)。

具体的な規則制定事項は、以下のとおりであること(令第26条の3)。

イ 会議の招集に関する事項

労働委員会規則においても会議の招集については、総会を毎月1回以上招集すべきこと、その付議事項及び日時を少なくとも3日前までに委員に通知すべきこと等を定めているところであるが、より具体的に、総会の開催回数・曜日、総会の開催通知の期限、通知項目の追加等を規則において定めることも可能であること。

ロ 審査の期間の目標及び審査の実施状況の公表に関する事項

法第27条の18において、都道府県労委は審査の期間の目標を定めることとされ、当該目標は、都道府県労委の総会において決すれば足りるが、これを関係者への周知等の観点から、目標自体を規則上明記することが可能であること。

また、同条により、都道府県労委は、目標の達成状況その他の審査の実施状況を公表することとされているが、公表の具体的な方法(公表する事項、時期、場所等)については各都道府県労委において判断するものであり、これを規則上明記することが可能であること。

ハ 都道府県労委の庶務に関する事項

以下のような事項については、委員会の庶務に関する事項として、規則において定めることができること。

・課等都道府県知事が定める内部組織の下に置かれる係等の事務分掌

・文書の管理

・公印の種類・管理

・議事録の作成・承認、会議経過の公表

なお、情報公開に関する事項(開示方法、申請様式等)や電子申請(行政手続等における情報通信の技術の利用に関する法律(平成14年法律第151号)第3条第1項の規定により電子情報処理組織を利用して行わせることができる申請等をいう。)に関する事項(申立書の入力事項等)についても、労働組合法上の事務処理に関するものであれば、「庶務に関する事項」として規則で定めることができると解されること。

 

第3 不当労働行為事件の審査の手続

1 公益委員の除斥及び忌避

(1) 趣旨

公益委員の除斥及び忌避の手続は、具体的な事件と公益委員との間に特殊な関係があって審査の公正さについて疑いが生じるおそれがある場合には、その公益委員を事件に関与することができないように排除し、労働委員会が行う準司法的手続の公正を保障するためのものであり、今般、物件提出命令等公益委員が行使する権限が整備されたことを契機として、新たに設けられた手続であること。

なお、除斥又は忌避の対象は、当該事件を担当する審査委員のみならず、公益委員会議(部会で審査等を行う場合にあっては部会)を構成する公益委員全員であること。

(2) 除斥

公益委員は、次のいずれかに該当するときは、審査に係る職務の執行から除斥されるものとしたこと(法第27条の2第1項)。

イ 公益委員又はその配偶者若しくは配偶者であった者が事件の当事者又は法人である当事者の代表者であり、又はあったとき。

ロ 公益委員が事件の当事者の四親等以内の血族、三親等以内の姻族又は同居の親族であり、又はあったとき。

ハ 公益委員が事件の当事者の後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人、補助人又は補助監督人であるとき。

ニ 公益委員が事件について証人となったとき。

ホ 公益委員が事件について当事者の代理人であり、又はあったとき。

再審査においては、上記イ~ホのほか、初審において審査を担当した公益委員又は救済命令等に係る合議に加わった公益委員は除斥されるものであること(法第27条の17の規定において準用する第27条の2第1項第4号)。

また、除斥は職権で行われるほか、当事者の申立ても可能であるが、申立てについては、除斥事由に該当する限りいつでもすることが可能であること(法第27条の2第2項)。

(3) 忌避

イ 公益委員について、(2)の除斥事由には該当しないとしても、審査の公正を妨げるべき事情があるときは、当事者は忌避することができるものとしたこと(法第27条の3第1項)。

具体的な忌避事由については、民事裁判においても認められた例はほとんどないが、例えば、公益委員が事件の当事者と内縁の夫婦である場合、親友である場合等が考えられること。

なお、公益委員の審査指揮に不満があるだけでは、「公益委員について審査の公正を妨げるべき事情があるとき」には該当せず、忌避することはできないものであること。

ロ 調査又は審問を行う手続において忌避対象となる公益委員を含む労働委員会に対し書面又は口頭をもって陳述した後は、原則として忌避することができないこと(法第27条の3第2項)。具体的には、調査又は審問の期日において陳述した場合のほか、申立てに対する答弁書を提出した場合にも、忌避の申立てを行うことはできないこと。なお、部会で審査等を行う場合には、部会を構成する公益委員が明らかになっていることが前提となること。

ただし、忌避事由があることを知らなかったとき又は忌避事由が陳述後に生じたときは、労働委員会に対して陳述した後であっても忌避することができること(同項ただし書)。

(4) 手続

イ 審査手続の中止

労働委員会は、除斥又は忌避の申立てがあったときは、これについての決定があるまで審査の手続を中止しなければならないこと(法第27条の5)。このため、審査の遅延を招くことのないよう、除斥又は忌避の申立てがなされた場合には、これについての決定を速やかに行うことが必要であること。

なお、審査委員以外の公益委員について除斥又は忌避の申立てがあった場合に審査委員は審査の手続を続行できるか否かが問題となるが、公益委員について審査の公正さに疑いが生じるおそれがある場合に当該公益委員を審査から除外するという除斥及び忌避の趣旨にかんがみれば、審査委員が行うこととなっている審査の手続を中止する必要はないと解されること。

また、除斥又は忌避の申立てに対する審理に関しては、審問又は審尋を行うことを要しないこと。

ロ 除斥又は忌避の申立てについての決定

除斥又は忌避の申立てについての決定は労働委員会が行うが(法第27条の4)、これを審査委員に行わせることはできないことから、公益委員会議又は部会において行われなければならないこと(法第24条の2第4項)。

ただし、同一の公益委員について既に同一の理由で除斥又は忌避の申立てがなされ、理由がない旨の決定がなされているにもかかわらず、重ねて除斥又は忌避の申立てがなされた場合など、審査の手続を遅延させることのみを目的とすることが明らかな場合は、除斥又は忌避の申立権の濫用であって不適法な申立てとして、公益委員会議又は部会の決定によることなく、審査委員が却下することができるものと解されること。

ハ その他

公益委員の除斥又は忌避がされた後は、当該除斥又は忌避された公益委員を除いて審査等を行うこととなるが、審査委員又は部会を構成する公益委員が除斥又は忌避された場合には、第2の2(6)により他の公益委員に審査等の手続の全部若しくは一部を行わせ、又は会長の指名により当該部会に所属していない公益委員を補充することも可能であること。

2 審査の計画

(1) 趣旨

労働委員会は、審問開始前に、調査を行う手続により予め争点及び証拠の整理を行い、その結果に基づいて、審問や命令の作成を計画的に行い得るよう、審査の計画(以下単に「計画」という。)を定めなければならないものとしたこと(法第27条の6)。

なお、計画を作成するに当たっては、当事者双方の意見を聴くこととされており、事実の認定に必要な主張・立証の機会を不当に抑制することのないようにすべきものであること。

(2) 計画の要件

イ 計画は、審問を行うすべての事件について作成するものとしたこと。

なお、計画は審問開始前に作成することとしていることから、審問を行うことなく和解を勧める場合については、これを作成する必要はないこと(法第27条の6第1項)。

ロ 当事者の理解を得ることなく審問を行うことは適当でないため、計画の作成に当たっては、当事者の意見を聴くものとしたこと。なお、「当事者の意見を聴いて」とは、単に当事者の意見を聴けばよいというものではなく、当事者の理解を得られるよう努める必要があるが、必ずしも当事者の同意を要するものではないこと。

(3) 計画の記載事項

イ 調査を行う手続において整理された争点及び証拠(その後の審査の手続における取調べが必要な証拠として整理されたものを含む。)(法第27条の6第2項第1号)

ここで、「整理された争点及び証拠」とは、整理された争点及び当該争点に関して事実の認定に必要となる物証又は人証をいうものであること。

ロ 審問を行う期間及び回数並びに尋問する証人の数(同項第2号)

争点及び証拠の整理結果に基づき、審問を行う期間、審問の回数及び証人の予定数を計画に記載すること。

ハ 救済命令等の交付の予定時期(同項第3号)

結審後、命令書の作成にどの程度の期間が必要になるかを考慮し、目途としての予定時期を記載することとなるが、予定時期から大幅に遅れることのないよう適切に時期を設定する必要があること。

(4) 計画の変更

計画を作成した後に、例えば証人が1人増えたり、審問を行う回数が1回増えた場合に、必ず計画を変更しなければならないものではないが、重要な争点の追加又は変更や計画に記載のない多数の証人又は物件について証拠調べを行う必要が生じた場合は、当初の計画に沿った審査の進行が期待できない状態となるため、計画を変更すべきものであること(法第27条の6第3項)。

なお、計画は、迅速かつ的確に救済命令等を発するために作成されるものであり、和解を勧める場合には計画を変更する必要はないこと。和解が成立し、8の(2)ロにより審査の手続が終了した場合又は審査の申立てが取り下げられた場合については、計画の必要性がなくなるため、その変更を要しないことは言うまでもないこと。ただし、和解が成立せずに、当初の計画と比較して審問を行う期間等が大幅に遅れている場合には、計画を変更するべきものであること。

(5) 計画の法的効果

計画は、計画に記載されていない証拠の申出ができない、あるいは計画に記載された回数や期間を超えて審問や命令書作成等の手続を行うことができない等、これを厳格に遵守することまで求められるものではないが、労働委員会は計画に沿った審査の進行に努めるとともに、当事者もこれに協力することが求められること(法第27条の6第4項)。

3 証拠調べ

(1) 趣旨

不当労働行為の有無に関する事実の認定に必要な証拠を速やかに確保するため、審査を担う公益委員の合議により、証人等の出頭又は物件の提出を命ずることができることとしたものであること。

なお、証人等出頭命令等が設けられたからといって、任意による証人の出頭や物件の提出が妨げられるものではなく、むしろ、証人等出頭命令等は、公益委員の求めがあってもなお事実の認定に必要な証拠が確保されない場合に初めて行使されるべきものであること。

(2) 物件提出命令

イ 主体等

労働委員会は、当事者の申立てにより又は職権で、調査又は審問を行う手続において、物件の所持者に対し、その提出を命じ、又は提出された物件を留め置く方法により証拠調べをすることができるものとしたこと(法第27条の7第1項第2号)。

このうち物件提出命令は、審査委員に行わせることはできず、公益委員会議又は部会における合議により決定しなければならないものであること。なお、提出された物件を留め置くことは、審査委員のみにより行うことができること。

ロ 対象

物件提出命令により証拠調べを行うことができるのは、事件に関係のある帳簿書類その他の物件であって、当該物件によらなければそれにより認定すべき事実を認定することが困難となるおそれがあると認めるものであること(法第27条の7第1項第2号)。

ここで「事実」とは不当労働行為の有無に関する事実をいうものであること。

また、「当該物件によらなければ当該物件により認定すべき事実を認定することが困難となるおそれがあると認めるもの」とは、個別具体的な事件に即して判断されるべきものであるが、次のような場合がこれに該当するものと考えられること。

(イ) 複数の人証や間接的な物証で代替することにより、事実の認定が迅速又は的確には行えないおそれがある場合

(ロ) 物証が確保できず、事実の認定が行えないおそれがある場合

ハ 個人の秘密及び事業者の事業上の秘密の保護

労働委員会は、物件提出命令をするかどうかを決定するに当たっては、個人の秘密及び事業者の事業上の秘密の保護に配慮しなければならないものとしたこと(法第27条の7第2項)。

ここで「個人の秘密又は事業者の事業上の秘密」とは、個人に関する情報又は事業者が事業上保有する情報であって、社会通念上外部に知られたくないものと認められるものをいうこと。具体的には、個人的なメモや稟議書の記載内容は、一般的にはこれに該当するものと解されること。

一方、賃金台帳や人事考課結果を記載した文書については、その記載内容が直ちに「個人の秘密又は事業者の事業上の秘密」に該当するものではないと解されること。

これらを踏まえ、物件提出命令をするか否かについては、当該物件の内容が秘密に該当する場合には、物件提出命令の必要性と秘密の保護の必要性とを比較衡量して判断するものとなること。

また、労働委員会は、物件提出命令をする場合において、物件の提出を命ずる必要がないと認める部分又は個人の秘密若しくは事業者の事業上の秘密の保護に配慮した結果提出を命ずることが適当でないと認める部分があるときは、その部分を除いて提出を命ずることができるものとしたこと(法第27条の7第3項)。

したがって、労働委員会は、物件提出命令をする場合には、物件の全部又は一部について、

(イ) 提出を命ずること

(ロ) 削除等の措置を講じた上で提出を命ずること

(ハ) 提出を命じないこと

のいずれかを行うものとなること。

ニ 労使参与委員の意見聴取

労使参与委員(法第24条第1項ただし書の規定により調査若しくは審問を行う手続若しくは和解を勧める手続に参与し、又は法第27条の7第4項若しくは第27条の12第2項の規定により意見を述べる使用者委員及び労働者委員をいう。以下同じ。)は、労働委員会が物件提出命令をしようとする場合には、意見を述べることができるものとしたこと(法第27条の7第4項)。

これは、物件提出命令の必要性や適法性を慎重に判断するために設けられた手続であり、法第24条第1項ただし書の規定により当該事件の調査又は審問を行う手続に使用者委員又は労働者委員が参与している場合には、公益委員会議又は部会は、物件提出命令の決定に先立ち、労使参与委員に意見を述べる機会を与えなければならないものであること。

ホ 当事者の意見聴取

労働委員会は、職権で物件の提出を命じることにより証拠調べをしたときは、その結果について当事者が反論等を行う機会を保障するため、その意見を聴かなければならないものとしたこと(法第27条の7第5項)。なお、この意見聴取の手続は、審査委員のみにより行うことができること。

ヘ 対象

当事者が物件提出命令の申立てを行う際には、労働委員会が、当該物件提出命令の必要性や適法性を判断できるよう、

(イ) 物件の表示

(ロ) 物件の趣旨

(ハ) 物件の所持者

(ニ) 証明すべき事実

を明らかにしなければならないこと(法第27条の7第6項)。

また、労働委員会が物件提出命令をする場合には、物件の表示及び趣旨並びに証明すべき事実を明示する必要があること(法第27条の7第8項)。

ここで、「物件の表示」とは物件の名称をいうものであり、「物件の趣旨」とは物件の内容をいい、その表示とあいまって物件を形式及び内容の両面から特定するものであること。

なお、物件提出命令やその申立てに当たって、「証明すべき事実」を明示すべきことを法律上規定したのは、今般の改正により、新たに、労働委員会が物件提出命令をしたにもかかわらず提出されなかった物件は、取消訴訟において当該物件により認定すべき事実を証明するためには証拠の申出をすることができない旨の規定(法第27条の21)を設けたことに伴い、この規定により証拠の申出が制限される範囲を法律上明確にする必要があることによるものであること。

ト 所持者の審尋

労働委員会が物件提出命令をしようとする場合には、物件の所持者を審尋しなければならないものとしたこと(法第27条の7第7項)。

ここで「審尋」とは、口頭又は書面により個別的に陳述する機会を与えることであり、公開され、かつ対審構造が担保されている審問廷で行うことを要しないものであること。

このため、審尋の際に提出された書面は、物件提出命令の可否を判断するために専ら労働委員会において用いられるものであり、相手方当事者や第三者に対して開示すべきものではないこと。

なお、この審尋については、審査委員のみにより行うことができること。

(3) 証人等出頭命令

イ 主体等

労働委員会は、当事者の申立てにより又は職権で、審問を行う手続において、証人等に出頭を命じて陳述させる方法により証拠調べをすることができるものとしたこと(法第27条の7第1項第1号)。

このうち証人等出頭命令は、審査委員に行わせることができず、公益委員会議又は部会における合議により決定しなければならないものであること。なお、証人等に陳述させることは、審査委員のみにより行うことができること。

また、証人等出頭命令による証拠調べは、審問を行う手続でのみすることができるものとされているが、これは、証人等による事実の認定のための陳述は、相手方当事者からの反対尋問や公益委員からの質問を通してその真正さが判断されるべきものであるから、公開され、かつ対審構造が担保されている審問廷で行われる必要があることによるものであること。

ロ 対象

証人等出頭命令の対象は、「当事者又は証人」であり、事実の認定に必要な限度において出頭を命じ、陳述させることができるが、ここでいう「事実」とは不当労働行為の有無に関する事実をいうものであること。

なお、「証人」として陳述させることができる者は、この規定に基づき出頭を命じられた者に限られるものではなく、審査委員等の求めに応じて任意に出頭した者もこれに含まれるものであること。

ハ 個人の秘密及び事業者の事業上の秘密の保護への配慮

証人等出頭命令については、個人の秘密又は事業者の事業上の秘密の保護への配慮に関する規定が設けられていないが、これは、証人等に出頭を命じて陳述させる場合には物件の提出を命じる場合とは異なり、陳述の内容が証拠調べの対象となることから、出頭を命じる時点では証拠調べによってプライバシー等に対する侵害が生ずるか否かが明らかではないことによるものであること。

しかしながら、個人の秘密及び事業者の事業上の秘密の保護に配慮する必要があることは、証人等に陳述させる場合にあっても同様であること。

ニ 尋問事項の明示

労働委員会が証人等出頭命令をする場合には、証人等に対し、審問において尋問を行う事項を具体的に明示することが必要であること。

なお、物件提出命令をする場合には、証明すべき事実を明示すべきことが法定されている一方、証人等出頭命令については尋問事項の明示が特に法定されていないのは、証人等出頭命令については物件提出命令のように取消訴訟において新証拠の申出が制限される範囲を明確にする仕組みを法律上設ける必要がないためであること。

ただし、出頭を命ずる者に対し尋問事項を明示することは、尋問を効果的に行うために重要であり、証人等出頭命令の際に尋問事項を明示すべきことは、基本的には物件提出命令の際に証明すべき事実等を明示すべきことと同様であること。

ホ その他

証人等出頭命令をしようとする場合に労使参与委員は意見を述べることができること、職権で証人等に出頭を命じて陳述させることにより証拠調べをしたときは、その結果について当事者の意見を聴かなければならないことは、物件提出命令の場合と同様であること。

4 宣誓等

(1) 趣旨

事実の認定を的確に行うことができるようにするため、証人等に出頭を命じて陳述させることができることとしたが、仮に陳述内容の真正さが担保されないのであれば、証人等出頭命令を新設する趣旨が損なわれることから、陳述する証人等の宣誓に関する規定を整備したものであること。

(2) 証人の宣誓

労働委員会が証人に陳述をさせるときは、その証人に宣誓をさせなければならないものとしたこと(法第27条の8第1項)。

なお、法第27条の7第1項第1号の規定により出頭を命じられた者のみならず、任意に出頭した証人についても、陳述させる以上はその内容の真正さを担保するために宣誓をさせなければならないこと。

(3) 当事者の宣誓

労働委員会が当事者に陳述させるときは、当事者に宣誓をさせることができるものとしたこと(法第27条の8第2項)。

当事者について、必ず宣誓させなければならないものとされていないのは、陳述によって自らが不利益な審査結果を受けるおそれのある当事者に対して常に真実を述べさせるのは酷となる場合があり得るためであるが、民事訴訟と同様、当事者についても原則として宣誓をさせる必要があるものと解されること。

(4) 宣誓拒否事由等

宣誓拒否事由等は、民事訴訟と同様であり、証人については以下のとおりであること(法第27条の9)。

イ 16歳未満の者又は宣誓の趣旨を理解することができない者を尋問する場合には宣誓をさせることができないこと(民事訴訟法(平成8年法律第109号)第201条第2項の準用)。

ロ 証言が、自己又は自己と次に掲げる関係を有する者が刑事訴追を受け、又は有罪判決を受けるおそれがある事項に関する場合又はこれらの者の名誉を害すべき事項に関する場合であって、証言拒絶権を行使しない証人を尋問するときは、宣誓をさせないことができること(同条第3項の準用)。

(イ) 配偶者、四親等内の血族若しくは三親等内の姻族の関係にあり、又はあったこと。

(ロ) 後見人と被後見人の関係にあること。

ハ 証人は、自己又は自己と上記ロ(イ)又は(ロ)の関係を有する者に著しい利害関係のある事項について尋問を受ける場合には、宣誓を拒否できること(同条第4項の準用)。

なお、当事者については、上記イについてのみ民事訴訟法の規定が準用され、ロは準用されないが、労働委員会が「当事者に宣誓をさせる」か否かを判断する際に考慮することはできると解されること。

(5) 証言拒絶事由

証言拒絶事由等も民事訴訟と同様であり、証人については、証言が上記(4)のロの事項に関する場合のほか、次に掲げる場合には証言を拒むことができること(法第27条の9の規定において準用する民事訴訟法第196条及び第197条)。

イ 公務員又は公務員であった者を証人として職務上の秘密について尋問する場合

ロ 医師、歯科医師、薬剤師、医薬品販売業者、助産師、弁護士(外国法事務弁護士を含む。)、弁理士、弁護人、公証人、宗教、祈祷若しくは祭祀の職にある者又はこれらの職にあった者が職務上知り得た事実で黙秘すべきものについて尋問を受ける場合

ハ 技術又は職業の秘密に関する事項について尋問を受ける場合

5 不服の申立て

(1) 趣旨

労働委員会がした処分については、行政不服審査法(昭和37年法律第160号)に基づく不服申立てをすることはできないが(法第27条の26)、証人等出頭命令は、個人の秘密の侵害その他の不利益を及ぼすものであって極めて慎重に行使されるべきものであること、物件提出命令に係る物件については取消訴訟において証拠の申出が制限される可能性があることから、証人等出頭命令等を受けた者がこれについて不服がある場合に、その必要性や適法性について再度慎重な判断を求める機会を設けたものであること(法第27条の10)。

(2) 申立て

証人等出頭命令等についての不服申立ては、都道府県労委又は中労委のいずれが発した命令についても、命令を受けた日から原則として1週間以内に、書面により、中労委に対してすることができるものとしたこと(法第27条の10第1項及び第3項)。

なお、中労委においては、都道府県労委の命令に係る審査の申立てについては部会における合議により、中労委の命令に係る異議の申立てについては公益委員会議における合議により決定することになるものであること。

(3) 審理

不服申立てがなされた場合には、これについての決定がなされるまでは、当該不服申立ての対象となった命令に係る物件又は証人等について証拠調べを行うことができず、事件の審査が事実上停止する可能性があることから、不服申立ての審理が迅速に行われるよう、書面によることとしたものであること(法第27条の10第5項)。

ただし、必要があれば労働委員会は、不服申立てをした者を審尋することができること(法第27条の10第6項)。

(4) 取消訴訟

証人等出頭命令等は、国民に行政上の義務を課す行政処分であるから、当該命令の名宛人の裁判を受ける権利を保障するため、行政事件訴訟法(昭和37年法律第139号)に基づき、取消訴訟を提起することができるものであること。

ただし、証人等出頭命令等に対する取消訴訟により、審査期間が全体として長期化することは望ましくないため、証人等出頭命令等の適切な運用が図られる必要があること。

6 審問廷の秩序維持

(1) 趣旨

労働委員会は、審問を妨げる者に対し退廷を命じ、その他審問廷の秩序を維持するために必要な措置を執ることができるものとしたこと(法第27条の11)。

本条は、審問廷における秩序が損なわれている場合において、その秩序が回復しないまま審問を続行することなく、この規定に基づく審査委員の命令等により秩序の回復を図った上で、審問を続行すべきとの趣旨で規定されたものであること。

また、この措置を執ることについては、審査委員のみにより行うことができること。

(2) 必要な措置

この規定に基づく措置を執る必要性の有無及び措置の内容は、適切な陳述の確保を図るための審問廷の秩序維持の必要性を総合的に勘案して決定されるべきものであること。具体的には、審問廷において大声を出す等審問廷の秩序を損なう行為を行う傍聴人等に対し、その行為の中止を命じ、又は退廷させること等が考えられること。

7 救済命令等

労働委員会は、事件が命令を発するのに熟したときは、事実の認定をし、この認定に基づいて、救済命令等を発しなければならないものであること(法第27条の12第1項)。なお、ここで認定した事実については、その認定の根拠とした証拠が摘示されるべきものであること。

また、労働委員会が救済命令等を発しようとする場合であって、当該事件について調査又は審問を行う手続に使用者委員及び労働者委員が参与しているときは、労使参与委員に対し、意見を述べる機会を与えなければならないこと。

なお、救済命令等の交付、効力の発生、確定等については、従来と同様の規定を設けていること。

8 和解

(1) 趣旨

不当労働行為審査制度は、使用者による団結権等の侵害が行われ、正常な労使関係秩序が損なわれている場合に、これを迅速に回復することにより長期的に安定した労使関係の形成を図ろうとするものであるが、このような趣旨にかんがみれば、当事者の自主的な合意に基づく和解は救済命令等による解決に比べて労使関係を長期的に安定させる効果が高いことから紛争解決手段としては望ましいものであり、かつ、現実に多くの事件が和解により解決しているところである。

このため、今般の改正においては、和解による不当労働行為事件の解決を一層促進するため、和解による解決の手続及び法的効果を法律上明確に規定することとしたものであること(法第27条の14)。

(2) 手続

イ 和解の勧奨

労働委員会は、審査の途中において、いつでも当事者に和解を勧めることができるものとしたこと(法第27条の14第1項)。

ここで「当事者に和解を勧める」とは、自主的な合意に向けて当事者間の話合いを促すこと、和解案を労働委員会が作成し当事者にその受諾を促すこと等であって、従来の実務上の取扱いと異なるものではないこと。

また、その結果、当事者間の合意が成立した場合の当該事件の取扱いについては、ロの労働委員会による認定により事件を終了させるほか、現行の実務同様、申立ての取下げによることも可能であること。

なお、和解における労使参与委員の果たす役割は極めて重要であり、使用者委員及び労働者委員はこの手続に参与することができるものであること(法第24条第1項ただし書)。

ロ 和解の認定

救済命令等が確定するまでの間に当事者間で和解が成立し、当事者双方の申立てがあった場合において、労働委員会が当該和解の内容が当事者間の労使関係の正常な秩序を維持させ、又は確立させるために適当と認めるときは、審査の手続は終了するものとしたこと(法第27条の14第2項)。

ここで、「適当と認める」か否かは、個々の事件ごとに判断すべきものであるが、例えば、今後労使当事者が対等な関係の下で労働条件等について誠実に交渉する旨の合意が含まれていれば、「適当と認める」ことができると考えられるものであること。

なお、和解の認定は、審査委員のみにより行うことができること。また、従来、和解が成立したときには、実務上申立ての取下げを行う例が多かったところ、申立ての取下げは命令書の写しが交付された後はできないこととされているが、この規定に基づく和解の認定は、救済命令等が発出された後であっても、それが確定するまでの間は行うことができるものであること。したがって、救済命令等に対して取消しの訴えが提起された場合には、その訴えに対する判決が確定するまで、この規定に基づく和解の認定を行うことができるものであること。

ハ 和解の法的効果

(イ) 救済命令等の効力

和解の認定を受けた事件について既に救済命令等が発せられている場合、その命令は効力を失うこととしたこと(法第27条の14第3項)。

特に、再審査において和解が成立した場合、再審査の申立てが取り下げられても初審命令は形式的には効力を有するままとなるが、和解の認定を受けた場合には、初審命令は効力を失うこととなること。

(ロ) 和解調書

労働委員会の認定を受けた和解に、金銭の一定額の支払等を内容とする合意が含まれる場合は、当事者双方の申立てにより、労働委員会は和解調書を作成することができ、この和解調書は、強制執行に関しては債務名義とみなされるものとしたこと(法第27条の14第4項及び第5項)。

なお、和解の債務名義効を金銭支払等に限定したのは、金銭に係る和解のみを促進する趣旨ではなく、和解の趣旨にかんがみれば、安易に金銭的解決を図るのではなく、例えば解雇、配置転換等を受けた者を原職復帰させる等当事者ができる限り納得できる形で解決を図る方が望ましいものであること。

(ハ) 和解調書の送達

労働委員会は、和解調書を作成したときは、その作成の申立てを行った当事者双方に対し、和解調書の正本を送達しなければならないこと(令第29条第1項)。

ここで「和解調書の正本」とは、労働委員会が作成し、保管する和解調書の原本全部の写しを労働委員会が作成し、正本である旨の認証をしたものをいうこと。

また、和解において当事者以外の第三者に対する金銭の支払等が合意され、和解調書に記載された場合、このような利害関係を有する第三者も強制執行の申立てができるよう、利害関係を疎明した第三者は、労働委員会に対し、和解調書の正本の交付を請求することができるものとしたこと(令第31条)。

なお、このような和解調書に記載された利害関係を有する第三者に対して、民事訴訟における裁判上の和解に係る和解調書に関する実務上の取扱いと同様に、送達事務を行う労働委員会の職員が和解調書の正本を送達することは差し支えないこと。

(ニ) 和解調書の送達方法

和解調書の送達方法は、基本的には民事訴訟と同様であり、民事訴訟法の規定を準用しているが、その概要は以下のとおりであること(令第29条及び第30条)。

・送達に関する事務は、労働委員会の職員が行うこと(民事訴訟法第98条第2項の読替準用)。ここで「送達に関する事務」とは、送達書類の受領、送達の方法及び場所を決定し実施機関に交付すること、送達報告書の受領等をいうものであること。

・送達は郵便によって行うが、労働委員会に出頭した者に対し職員が直接交付することも可能であること(同法第99条及び第100条の読替準用)。

・送達は、送達を受けるべき者の住所、居所、営業所又は事業所(以下「住所等」という。)に送達するのが原則であるが、その住所等が知れないとき等はその就業場所においてすることができること(同法第103条の読替準用)。

住所等又は就業場所において送達を受けるべき者に出会わない場合には、同法第106条に規定する補充送達又は差置送達により送達をすることができるが、補充送達又は差置送達もできない場合には、書留郵便により送達することができ、この場合、発送時に送達があったものとみなされること(同法第107条第1項及び第3項の読替準用)。

さらに、送達を受けるべき者の住所等送達すべき場所が知れない場合等は、公示送達をすることができること。この場合、いつでも和解調書の正本を交付する旨を労働委員会の掲示場に掲示した日の翌日から起算して2週間を経過した時に送達があったものとみなされること(令第30条)。

ニ 執行文の付与等

(イ) 執行文等の付与

執行文とは、債務名義とみなされる和解調書の正本の末尾に付記される、この債務名義により強制執行をすることができる旨の文言であるが、これは、労働委員会の会長が付与するものとしたこと(法第27条の14第6項本文)。

「民事執行法第29条後段の執行文及び文書の謄本」の送達についても、労働委員会の会長が行うこと(法第27条の14第6項後段)。

「民事執行法第29条後段の執行文」とは、執行文のうち、①債権者が請求内容の条件たる事実の到来を証明した場合、又は②債務名義に表示された者以外の者を当事者とする場合であって、その者に対し強制執行可能なことが明白であることを証明したときに付与されるものであり(民事執行法(昭和54年法律第4号)第27条)、民事執行法第29条後段の「文書の謄本」とは、これらを証明するために債権者が提出する文書の謄本をいうものであること。

これらの執行文及び文書の謄本は、強制執行の開始に先立って、又は同時に債務者に送達されなければならないこと(同法第29条後段)。

(ロ) 執行文付与に関する異議についての裁判

執行文を付与すべきであるのに付与されない場合、又は執行文を付与すべきでないのに付与された場合には、裁判所に対する異議の申立てが可能であり、労働委員会の所在地を管轄する地方裁判所に対し申し立てるものとしたこと(法第27条の14第7項)。

9 再審査の手続

法第27条第1項、第27条の2から第27条の9まで、第27条の10第3項から第6項まで及び第27条の11から第27条の14までの規定は、初審の手続に関する規定であるが、これらの規定については、中労委における再審査の手続について準用されるものであること(法第27条の17)。

その他、再審査の申立て、再審査と訴訟との関係等については、従来と同様の規定を設けていること。

10 審査の期間の目標

(1) 趣旨

審査の迅速化を実現するためには、審査手続の整備はもとより、労働委員会及びその関係者が迅速な審査の重要性に対する意識を高めることが必要であることから、各労働委員会がそれぞれ審査の期間の目標を定めるとともに、目標の達成状況その他の審査の実施状況を公表するものとしたこと(法第27条の18)。

(2) 目標の決定

審査の期間の目標は、個々の事件ごとに定めるものではなく、当該労働委員会全体における審査の実施に関して達成すべき目標であること。

どのような目標を定めるかについては各労働委員会に委ねられるが、達成状況を検証できるよう具体的なものとすることが求められること。

なお、審査の期間の目標は、個々の「事件の処理」に関わるものではないことから、労働委員会の総会で決定されるものであり、都道府県労委においては、その定める規則で定めることもできるものであること。

(3) 審査の実施状況の公表

目標の達成状況その他の審査の実施状況の具体的な公表方法については、各労働委員会が判断するものであるが、例えば各労働委員会の刊行物(年報等)、ホームページへの掲載等が想定されること。

 

第4 訴訟

1 取消訴訟

救済命令等の取消しの訴えの要件、出訴期間等については、従来と同様であること(法第27条の19)。

2 緊急命令

使用者が救済命令等の取消しの訴えを提起した場合に、受訴裁判所が、労働委員会の申立てにより、緊急命令を発することができることについては、従来と同様であること(法第27条の20)。

なお、緊急命令の趣旨が、取消訴訟の判決確定までの間に労働組合等に回復困難な損害が生ずるのを防ぐということにあることを踏まえ、その積極的な活用が図られるべきものであること。

3 取消訴訟における新証拠の提出制限

(1) 趣旨

労働委員会が当該物件によらなければ事実の認定が困難となるおそれがあると判断して提出を命じたにもかかわらず提出しなかった物件を、取消訴訟で証拠として提出することは、

イ 紛争を早期に解決するために労働委員会で主張・立証を尽くした相手方との関係で信義則に反すると認められるとともに、

ロ 労働委員会及び裁判所における審査等が長期化し、迅速な救済を図るための制度の機能や手続の適正さが損なわれること

  から、これを制限することとしたものであること(法第27条の21)。

なお、本条の規定は、取消訴訟における物件の提出に関し、特に信義則違反の度合いが著しいと評価すべきものについて、証拠の申出の制限の要件と効果を定型的に定めたものであり、本条の要件に該当しない物件の提出が信義則違反と評価される場合もあり得るものであること。

(2) 制限の対象

この規定により、取消訴訟において証拠の申出が制限されるのは、労働委員会が審査において、当該物件の提出を命ずることにより認定しようとした事実と同一の事実を証明しようとする場合であり、異なる事実を証明するために提出命令を受けた物件と同一の物件を提出することは制限されるものではないこと。

また、この規定は、特に信義則違反の度合いが著しいケースについて定型的に証拠の申出を制限したものであることから、救済命令等の取消訴訟において、この規定により証拠の申出が制限されるのは、当該救済命令等を発した労働委員会が物件提出命令をしたにもかかわらず提出されなかった物件であり、再審査命令に対する取消訴訟において、当該事件の初審で都道府県労委が物件提出命令をしたにもかかわらず提出されなかった物件については、証拠の申出が制限される定型的なケースには当たらず、この規定により直ちに証拠の申出が制限されるものではないこと。しかしながら、この規定が設けられた趣旨にかんがみれば、初審で命ぜられたにもかかわらず提出されなかった物件に係る証拠の申出は、再審査において改めて物件提出命令がされなくても、再審査命令に対する取消訴訟において、信義則違反を理由として却下される場合もあると解されること。

(3) 正当な理由

例外的に証拠の申出をすることが制限されない「正当な理由があると認められる場合」は限定的に解されるべきであるが、具体的には、天災地変があった場合や物件提出命令を受けた時点では当該物件を所持していなかった場合など、所持者に故意又は過失なく提出が不可能な事情があったことがこれに該当するものであること。

したがって、例えば、

・当該物件を提出しなくても立証できると当事者が考えていたこと

・労働委員会における審査と取消訴訟の時点とで訴訟代理人が変更されたことは、「正当な理由」に該当しないものであること。

 

第5 雑則

(1) 中労委の勧告等

都道府県労委が法に基づき行う事務の処理が円滑に行われるようにするため、中労委が都道府県労委に対し、その処理する事務について報告を求め、又は必要な勧告、助言若しくは事務局職員等の研修その他の援助を行うことができることとしたものであるが、この勧告や助言は都道府県労委を法的に拘束するものではないこと(法第27条の22)。

なお、これに併せて、中労委の指示権等に関する規定(改正前の労働組合法施行令第18条及び第19条)は削除したこと。

(2) 訴訟における指定代理人

国の利害に関係のある訴訟についての法務大臣の権限等に関する法律(昭和22年法律第194号)第5条の規定により事務局の職員を指定代理人とすることができる中労委と異なり、都道府県労委を当事者とする訴訟に係る指定代理人については明確な規定がないことから、都道府県労委の会長が、公益委員、事務局長又は職員でその指定するものを指定代理人として、都道府県労委を当事者とする訴訟を行わせることができるものとしたものであること(法第27条の23)。

(3) 費用弁償

費用弁償を受けることができるのは、法第22条第1項の規定により出頭を求められた者及び法第27条の7第1項第1号(法第27条の17の規定により準用する場合を含む。)の証人であること(法第27条の24)。

ここで、「証人」とは、同号の規定により出頭命令を受けた証人のみならず、任意に出頭した証人も含むものであるが、当事者は陳述した場合であってもこれに含まれないものであること。

なお、中労委は政令で、都道府県労委は条例で弁償を受ける費用の種類、金額等を定めることは従来と同様であること(令第32条及び第33条)。

 

第6 その他

(1) 施行期日

改正法及び改正令の施行期日は、平成17年1月1日であること(改正法附則第1条及び改正令附則第1条)。ただし、第5(1)の中労委の勧告等(法第27条の22)及び(2)の訴訟における指定代理人(法第27条の23)の規定は、公布の日(平成16年11月17日)から施行されること。

(2) 経過措置等

イ 地方労働委員会がした処分等の効力

今般の改正により地方労働委員会は都道府県労働委員会へとその名称が改められたところであるが、改正法施行前に地方労働委員会がした処分等又は地方労働委員会に対してされている申立て等は、改正法施行後は都道府県労働委員会がした処分等又は都道府県労働委員会に対してされた申立て等とみなすこと(改正法附則第3条第1項及び第2項)

また、改正法施行の際現に地方労働委員会の委員である者は、引き続き都道府県労委の委員としてその身分が維持されるが、その任期は地方労働委員会の委員としての残任期間と同一の期間であること(改正法附則第3条第3項)

ロ 罰則の適用

法施行前の行為に対する罰則の適用(罰金、過料の額等)については、なお従前の例によるものであること(改正法附則第4条)。

(3) その他

その他改正法及び改正令の施行に伴い、

イ 都道府県労委に条例で定めるところにより置かれる常勤の委員は、非常勤の委員と同様、地方公務員法(昭和25年法律第261号)第3条第3項に規定する特別職の地方公務員としたこと(改正法附則第9条)

ロ 特定独立行政法人等の労働関係に関する法律(昭和23年法律第257号)に規定されている審査委員会の議決要件について、公益委員会議又は部会同様、審査委員会を構成する公益委員の定員の過半数をもって決するものとしたこと(改正令附則第6条)。

ハ 関係法令上「地方労働委員会」を「都道府県労働委員会」に改めること

  等、所要の措置を講じたこと。