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営業譲渡等に伴う労働関係上の問題への対応について
平成15年4月10日地発第0410001号・政発第0410001号
(各都道府県労働局長あて厚生労働省大臣官房地方課長・厚生労働省政策統括官通知)
本年4月1日より、これまでの会社更生法を廃止し、新たに制定された会社更生法(平成14年法律第154号)が施行され、また、産業活力再生特別措置法の一部を改正する法律(平成15年法律第26号)及び株式会社産業再生機構法(平成15年法律第27号)が、それぞれ4月9日及び本日施行されることに伴い、我が国において、営業の全部又は重要な一部の譲渡(以下「営業譲渡」という。)又は合併(以下「営業譲渡等」という。)が活発化することが見込まれるところである。
これによって、営業譲渡等に伴う労働契約の承継や労働条件の変更など労働関係上の問題について、労使をはじめとする関係者から都道府県労働局に設けられている総合労働相談コーナーその他の相談窓口への相談・問合せ(以下「相談等」という。)が増加することが見込まれる。
ついては、下記に留意の上、営業譲渡等に伴う労働関係上の問題についての相談等に適切に対応されたい。
特に下記2の営業譲渡等に伴う労働関係上の問題に関する相談等への対応に当たり留意すべき事項として示した内容は、営業譲渡等に伴う労働関係上の問題についての基本的な考え方であり、営業譲渡等が円滑に実施されるためには、労使がこれらを十分に理解することが重要であることから、貴局管内の使用者団体及び労働者団体への周知方よろしくお願いする。なお、当該周知に当たっては別途資料を送付するので、活用されたい。
記
1 新たな法律の仕組み
(1) 会社更生法
① 新法の目的
経済的に窮境にある大規模な株式会社の迅速かつ円滑な再建を可能とするため、会社更生手続の迅速化及び合理化を図るとともに、再建手法を強化して、現代の経済社会に適合した機能的なものに改めること。
② 新たに講じられた主な措置
これまでは、裁判所により更生手続開始の決定がされた株式会社(以下「更生会社」という。)が営業譲渡を行う場合には、その旨を更生計画において定めて行うこととされていたが、これに加え、新たに更生手続開始後、更生計画案を決議に付する旨の決定がなされるまでの間、管財人が、裁判所の許可を得て、更生会社の営業譲渡を行うことができるものとすること。
③ 労働組合等の関与に係る仕組み
会社更生手続における労働組合等の関与の仕組みが、次のように整備されたこと。
イ 更生手続開始の申立てに係る意見の聴取
裁判所は、更生手続開始の申立てについての決定をする場合には、当該申立てを棄却すべきこと又は更生手続開始決定をすべきことが明らかである場合を除き、更生手続の開始を申し立てている会社の使用人の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、使用人の過半数で組織する労働組合がないときは使用人の過半数を代表する者の意見を聴かなければならないこと。
ロ 更生計画外で営業譲渡を行う場合の意見聴取
更生手続開始後、更生計画案を決議に付する旨の決定がなされるまでの間に、裁判所が更生会社の営業譲渡を許可する場合には、更生会社の使用人の過半数で組織する労働組合があるときはその労働組合、使用人の過半数で組織する労働組合がないときは使用人の過半数を代表する者(以下「更生会社の労働組合等」という。)の意見を聴かなければならないこと。
ハ 更生計画案に係る意見聴取
裁判所は、更生計画案を決議に付する旨の決定を行うに当たり、更生計画案について更生会社の労働組合等の意見を聴かなければならないこと。
更生計画案に修正があった場合における修正後の更生計画案についても同様であること。
ニ 更生計画の認可又は不認可の決定に係る意見陳述
更生会社の労働組合等は、更生計画を認可すべきかどうかについて、裁判所に対して意見を述べることができること。
また、更生計画の認可又は不認可の決定があった場合には、裁判所は当該決定があった旨更生会社の労働組合等に通知しなければならないこと。
(2) 産業活力再生特別措置法
① 改正の目的
我が国産業の活力の再生を速やかに実現するためには、過剰供給構造の解消に資する共同事業再編、経営資源の再活用、事業革新設備の導入その他の事業活動を促進するとともに中小企業の活力の再生を支援することが重要であることにかんがみ、これらを支援するために合併等の組織の再編に係る簡易な手続に関する商法の特例措置その他の措置を講ずること。
② 主な改正の内容
イ 事業者による中核的事業の強化を目指した事業活動(以下「事業再構築」という。)に関する計画(以下「事業再構築計画」という。)について、主務大臣の認定を受けることができる期間を5年間延長し、平成20年3月31日までとすること。
また、事業再構築計画に係る認定を受けた事業者に対して講ずる支援措置を充実すること。
ロ 新たに、次の(イ)~(ハ)に掲げる事業活動等の計画に係る認定を受けた事業者に対して支援措置を講ずることとしたこと。
(イ) 共同事業再編
2以上の会社が共同して行う組織再編を伴った過剰供給構造の解消を目指した事業活動
(ロ) 経営資源再活用
他の事業者が事業を承継し、当該事業に係る経営資源を有効活用して当該事業の生産性の向上を図ることを目指した事業活動
(ハ) 事業革新設備導入
事業者がその経営資源を活用して行う事業の分野又は方式の変更に必要な設備の導入
なお、共同事業再編及び経営資源再活用についても、事業再構築と同様に、それぞれ営業譲渡等を内容とすることが可能であること。
③ 労働組合等の関与に係る仕組み
従来からの事業再構築計画と同様に、共同事業再編計画及び経営資源再活用計画についても、当該計画が「従業員の地位を不当に害するものでないこと」を計画に対する主務大臣の認定要件とすること。
また、この「従業員の地位を不当に害するものでないこと」の具体的内容は、4月9日付で施行された、同法の施行に係る指針(内閣府、総務省、財務省、厚生労働省、農林水産省、経済産業省、国土交通省告示第1号)において、従来からの事業再構築計画と同様に、当該計画に係る「事業所における労働組合等と必要な協議を行うなど労使間で十分に話し合いを行うこと」、及び当該計画の実施に際して「雇用の安定等に十分な配慮を行うこと」とされていること。
(3) 株式会社産業再生機構法
① 法の目的
個別事業の再生支援による我が国産業の再生と、不良債権処理の促進による信用秩序の維持を目的として、有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者に対して金融機関等が有する債権の買取り等を通じてその事業の再生を支援すること。
② 法の主な内容
イ 機構の設立
有用な経営資源を有しながら過大な債務を負っている事業者の事業の再生を支援するため、金融機関等からの債権の買取り又は信託の引受け、取得した債権に係る債務者に対する資金の貸付け、債務保証及び出資等の業務を行う法人として、株式会社産業再生機構(以下「機構」という。)を設立するものとすること。
なお、事業の再生には、営業譲渡等が内容として含まれ得るものであること。
ロ 再生支援の申込み
過大な債務を負っている事業者であって、その債権者である一以上の金融機関等と協力してその事業の再生を図ろうとする者は、機構に対し、事業再生計画を添付して、再生支援を申し込むことができるものとすること。
ハ 支援基準の策定
主務大臣(内閣総理大臣、財務大臣及び経済産業大臣)は、機構が、事業の再生支援をするかどうか決定するに当たって従うべき基準及び債権買取り等をするかどうかを決定するに当たって従うべき基準(以下「支援基準」と総称する。)を定めるものとすること。
ニ 支援決定
機構は、再生支援の申込みを受けた場合には、支援基準に従って、再生支援をする旨の決定をするものとすること。
ホ 買取決定
機構は、買取申込み等期間が満了し、又は買取り申込み等期間が満了する前にすべての関係金融機関等から買取申込み等があったときは、支援基準に従って、債権買取り等をするかどうかを決定するものとすること。
③ 労働組合等の関与に係る仕組み
機構は、再生支援をするかどうかを決定するに当たっては、事業の再生支援に係る申込みをした事業者における事業再生計画についての労働者との協議の状況等に配慮しなければならないこと。
また、支援基準においては、「当該事業再生計画についての当該事業所における労働組合等との協議など労使間の話し合いが行われたこと又は速やかに行う予定であることを確認した上で支援決定を行い、後者の場合には、当該話し合いが行われたことを確認した上で買取決定を行う」旨規定し、告示される予定であること。
2 営業譲渡等に伴う労働関係上の問題に関する相談等への対応に当たり留意すべき事項
(1) 営業譲渡
① 営業譲渡に伴う労働者の労働契約の譲受会社への承継
営業譲渡時における権利義務関係の承継に関する法的性格は特定承継(注)とされており、営業譲渡を行う会社(以下「譲渡会社」という。)は、営業の譲受けを行う会社(以下「譲受会社」という。)へ労働契約の承継を行うことを予定している労働者(以下「承継予定労働者」という。)の労働契約を、譲受会社へ承継させる場合には、民法(明治29年法律第89号)第625条第1項の規定に基づき、労働契約の承継について、承継予定労働者から個別に同意を得る必要があること。
(注) 特定承継とは、権利義務の移転について、個別に債権者の同意を必要とするもの。
② 営業譲渡に伴う労働契約の承継を拒否したことを理由とする解雇
譲渡の対象となる営業に従事している労働者(以下「譲渡部門の労働者」という。)が、営業譲渡に伴う譲受会社への労働契約の承継に同意をしなかったことだけでは、解雇することはできず、譲渡会社は、当該同意をしなかった労働者について、譲渡部門以外の他部門への配置転換を行うなどの措置を講ずる必要があること。
③ 営業譲渡に伴う解雇
営業譲渡に伴う解雇についても、当然整理解雇に関する法理の適用があり、それまで働いていた部門が譲渡されたことだけでは解雇の正当な理由とはならないこと。
④ 営業譲渡に伴い承継させる労働者の選定
譲受会社が、譲渡部門の一部の労働者の労働契約を承継するために、承継予定労働者の選定を行うときは、労働組合員に対する不利益な取扱い等の不当労働行為など法律に違反する取扱いを行ってはならないこと。
また、同じ経営者の下で、新たに会社を設立して営業を全部譲渡する場合には、当該譲渡を理由に特定の労働者の労働契約を承継しないなど解雇に関する法理を潜脱することはあってはならないこと。
⑤ 営業譲渡に伴う労働契約の承継の際の労働条件の変更
譲渡会社が、承継予定労働者の労働契約に関し、その労働条件を変更して譲受会社に承継させる場合には、譲渡会社は、承継予定労働者から、労働契約の承継に関する同意を得る際に、労働条件の変更についても、同意を得る必要があること。
⑥ 労働者への情報提供
労働者本人に対して、譲受会社への労働契約の承継に係る個別同意を求める際には、営業譲渡に関する全体の状況や譲受会社の状況について情報提供を行うことが望ましいこと。
なお、この個別同意を求める際の情報提供について、意図的に虚偽の情報が提供された場合には、民法第96条第1項の規定に基づき、当該労働契約の承継に係る同意について取り消すことが可能となる場合があること。
(2) 合併
① 合併に伴う労働契約の承継
商法(明治32年法律第48号)第103条又は有限会社法(昭和13年法律第74号)第63条の規定により、合併により消滅する会社(以下「消滅会社」という。)の権利義務については、合併後存続する会社又は合併により設立される会社(以下「存続会社等」という。)に包括的に承継されるため、消滅会社の労働者の労働契約についても、存続会社等に包括的に承継されるものであること。
② 合併に伴う労働条件の変更
合併に伴う労働条件の取扱いについては、消滅会社の労働者の労働契約は、存続会社等に包括的に承継されるため、労働契約の内容である労働条件についても、そのまま維持されるものであること。