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通達:同盟罷業開始決定権の委任

 

同盟罷業開始決定権の委任

昭和38年12月20日

(広島県民生労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)

 

一 同盟罷業は、労働者がその要求を貫徹するために集団的に労務提供義務の履行を拒否することにより使用者に対して経済的圧力をかけるものである。しかし、それは同時に労働者に対しても賃金を失うなどの損害を生ぜしめるものであり、しかも同盟罷業を行なつたからといつて要求が常に貫徹されるものとは限らず、また場合によつては、賃金を失うばかりか、いたずらに企業の不振を招いて使用者及び労働者自身にも重大な損失を招く結果に終る危険性をも有するものである。したがつて、その性格上内部における民主性を尊重すべき労働組合においては、このような重大な危険を組合員に負担せしめるおそれのある同盟罷業を行なうかどうかは、組合幹部や一部の少数者の独断によつて決すべきものではなく、組合員の自由に表明された多数意思によつて決すべきものである。労組法第五条第二項第八号が、同法上の手続に参与し、救済を受けることができる民主的労働組合の組合規約として「同盟罷業は、組合員又は組合員の直接無記名投票により選挙された代議員の直接無記名投票の過半数による決定を経なければ開始しない」旨の規定を要求しているのはこのためである。そして、同号の趣旨がこのようなものである以上、同号にいう直接無記名投票の過半数による決定は、具体的事件について行なわれるべきものであり、あらかじめ、あらゆる事項について、しかも長期間にわたり同盟罷業をするか否かの決定権限を執行委員会に包括的にゆだねるということは、特定の具体的事件について同盟罷業を行なうべきであるか否かについての組合員の判断の機会を奪うものであり、たといそれ自体について直接無記名投票による過半数の決定を経た場合であつても、民主的な労働組合のあり方として著しく当を失するものであり、このようなやり方は、同号の規定の精神に反し、また規約中に同号の規定と同旨の規定を有する労働組合においては、一般に、当該組合の規約にも違反するものということができよう。この点に関しては、既に昭和三二年一月一四日発労第一号労働事務次官通牒「団結権、団体交渉その他の団体行動権に関する労働教育行政の指針について」においても、「ろくろく団体交渉もしないうちに、あらかじめストライキの投票を行つて「スト権を確立」し、実質的には組合執行部の独裁をきたすが如きことは、労働組合の民主性に反することはなはだしい。」と述べられているところである。

二 しかしながら、労働組合の規約の解釈その他運用に関する問題は、労働組合の内部問題であつて、規約に定める手続に違反していわゆるスト権の確立が行なわれた場合、組合員がその決議の効力を争い、あるいは場合により執行部の責任の追及をなしうることは格別、使用者は、そのような規約違反のスト権確立の決議そのものについて組合もしくはその執行部の責任を追及するというような立場にあるものではない。

また、規約に違反する手続によつてその開始を決定された同盟罷業であつても、それが実質的に組合員の多数意思の支持をうけているものであり、かつ、労働組合としての統制ある行為としての態様をもつて行なわれているものである限り、その同盟罷業は、使用者に対する関係では、一般に、違法な争議行為とはならないものと解されるのであつて、規約が遵守されたか否かは組合内部の問題となりうるにすぎないものと考えられる。

 

(参考)

○○分会は定期代議員大会において爾後一年間の運動方針として「職場の労働条件慣行の維持、改善を目的とし、事業所・分会間で独自に解決し得る諸問題、諸要求」を対象に執行委員会に常時スト権の包括委任を授け個々の闘いに備える旨の闘争方針を決定した。なお、同スト権の行使の有効期間は来年度の定期代議員大会の承認を得て更に継続するとの決定が行なわれた。

こうした包括的抽象的事項を対象としてスト権を確立した場合にはある特定の具体的個別的要求事項について組合員の総意を問うことなく執行部の判断でスト権の行使が可能となる。かかる場合は当該要求事項についてのスト権の確立は行なわれておらず「労使間の円滑な平和的交渉の実現」並びに「労働組合の民主性」を目標としている現行労働法の精神にもとり健全な労使関係に反することになり、更に具体的問題発生以前からいわば包括的にスト権を確立しておき常時労使関係を紛争状態にあらしめることは労働組合の正当な行為の範囲を逸脱すると解するが如何。

なお、同分会組合規約は独自の組合規約、執行機関、決議機関を有し、同盟罷業の開始については組合員全員の直接無記名投票による定数の過半数の決議によるべきことと記載されている。また同分会はかつて分会独自の同盟罷業を行なつたこともあるが、その場合にも通常本社本部間で行なわれる全社的な争議行為の場合と同様、特定且つ具体的な事項についてその都度スト権の委譲投票を行なつている。かかる規約及び過去の慣行にてらし上記の決定は著しくこれらに違背するものと解するが併せ御見解を承りたい。

(昭和38年12月9日 ○○造船(株)広島造船所長発)