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争議中の組合員の家族に対する生活保護法の適用
昭和36年12月11日
(大阪府労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)
一 貴職から照会のあつた事例に係る生活保護の取扱いは、生活保護法第四条に関する厚生省当局の解釈及びこれに基づく行政運用方針によるものである。
すなわち、(1)生活保護法に基づく生活保護は、憲法第二十五条に規定する生存権の保障を実定法上具体化したものであつて、同法に基づく保護は、同法に定める保護の要件を満たす限り、要保護状態に立ち至つた原因の如何にかかわらず、また人種、信条、性別、社会的身分、門地等の如何によつて差別されることなく、すべての国民に対し権利として与えられるものである(同法第二条)。(2)しかしながら、同時に生活保護法に基づく保護は、国民の最低生活を保障するための最後的手段として行なわれるべきものであるから、同法第四条に保護の補足性の原則が規定せられ、生活困窮者がその利用しうる資産、能力その他あらゆるものを最低生活維持のために活用することを要件とする(しかしながら、現行生活保護法は、旧法が生計の維持に努めない者又は素行不良の者を保護の絶対的欠格者として取扱つたのと異なり、急迫した事由がある場合には、これらの者についても一応まず保護を行ない、しかる後、適切な指導、指示その他の措置をすべきこととなつている点に注意する必要がある〔現行法第四条第三項、第二十六条、第二十七条、第六十二条、第六十三条参照。〕)。
労働争議に参加したため生活困窮におちいつた労働者及びその家族に対する保護に関する厚生省当局の運用方針は、上述の法解釈に基づき、労働者本人については、その能力を最低生活維持に活用しているとは認め難いので、生活保護法第四条第一項の保護の要件を欠き、特にその者が急迫状態に陥つた場合のほか、保護を拒否すべきであるが、その労働者の家族については直ちに保護の要件を欠くとは認め得ないので、この場合は、同法第十条ただし書を適用して、その家族が保護を要する状態にあれば、保護を行なうべきであるとしているのである(この点に関しては、小山進次郎〔厚生省社会局保護課長〕著「生活保護法の解釈と運用」P四七、P八七~九〇参照)。
二 本来労働条件その他労働関係に関する事項は、労使が対等な立場で自主的に決定すべきものであり、したがつて労使間の意見の不一致から労働争議が発生した場合においても、それが合法的に行なわれる限り、公的機関がこれに影響を及ぼすような行為を行なうべきでないことが原則であることはいうまでもない。しかしながら、労使関係法に予定されるこの労使自治の原則、公的機関の不介入の原則も、法律に基づく政府の正当な義務まで当然に排除するものではない。したがつて、一に述べたとおり生活保護法という独自の根拠法に基づき保護を要すべき者に対して政府が義務として保護を行なうことが労働争議に対する公的機関の不当な介入にあたらないことは明らかである。さらにこの厚生省当局の運用方針に基づく保護が労使関係に与える事実上の影響について考慮してみても、労働争議に参加した労働者が、ストライキのため、通常の賃金を受け得ない関係は、この措置によつてもそのまま存続するのであつて、単に本人以外のその家族が要保護状態に立ち至つた場合に最低生活を維持するために必要な限度での保護を与えられたからといつて、直ちに当該保護の実施が労使関係に不当な影響を及ぼすものとは認め難いから、上記運用方針は、実質的にも、労使関係法の見地から失当であるとするには当らないと考える。
三 ストライキ中における組合員の生活保障については、組合自身が自主的に準備するのが常道であつて、かかる準備が不十分なままに、組合員の少なからぬ部分につき、その家族を生活保護を要するごとき困窮状態におとしいれながら、あえてストライキを強行継続するようなことは、労働組合の健全な運営確保上、一般論としては、問題であり、平常の労働教育活動において、かかる趣旨を徹底せしめるようせられたい。
(参考)
本府管下の某運送争議はすでに一三〇日余の期間が経過し、そのため組合員の家族の生活が著しく困難となつたので、管轄福祉事務所は家族に対する生活保護法適用を決定したが、生活保護法適用は労働争議を間接的に支援することになるとも考えられますので労政機関としてこの種事案に対処する指導方針について御見解をうけたまわりたい。(要旨)
(昭和36年11月8日 大阪府労働部長発)