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通達:組合員名簿の提出要求と団体交渉拒否の正当理由

 

組合員名簿の提出要求と団体交渉拒否の正当理由

昭和36年5月15日

(山形県商工労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)

一について

労働組合が団体交渉を申入れ、その団体交渉の任に当る者が自己の雇用する労働者の代表者であることが明らかである場合に、当該労働組合の組合員中の自己の雇用する者の氏名を知悉していないことのみを理由としてこれを拒否することは、一般に団体交渉拒否の正当な理由があるものということはできないであろうが、例えば、ユニオン・シヨツプ協定の締結に関する団体交渉において、当該労働組合が工場事業場の労働者の過半数を代表しているか否かについてにわかに認定できない場合に、過半数を代表していることの立証を求め(労組法第七条第一号ただし書参照)、その立証がなされるまでは当該団体交渉に応じないこととしても、団体交渉拒否の正当な理由があるものと解せられる等、照会のごとき問題について団体交渉拒否の正当な理由になるか否かは、諸般の具体的事情によつて具体的に判断されるべきであつて、一概にいうことはできない。以上のことにもかんがみ、本件については、貴職の行なつた措置をもつて妥当であると考える。

なお、昭和三十六年三月三十一日、神奈川県地方労働委員会から、明光印刷及び太陽社の不当労働行為事件について、それぞれ別添のごとき命令が出されたので参照されたい。(命令略)

二について

貴見のとおりであると解する。

 

(参考)

ある事業所から次の如き質問があり、左記のとおり解答したが妥当か。(要旨)

一 労働組合から団体交渉の申し入れがあつたとき、組合員名簿の提出を要求し、提出されるまでは団体交渉に応じないことは、団体交渉拒否の正当な理由になるか。

二 さらに名簿の提出に応じない場合、会社が個々の従業員に対し、新・旧両組合員のいずれかであるかまたは未加入であるかを調査することは不当労働行為になるかどうか。

一について

労働組合の代表者は、労働協約の締結その他の事項に関して使用者と団体交渉を行う権限を有するのであつて(労組法第六条)、使用者が正当な理由がなくてこれを拒むことは法の禁止するところである(同法第七条第二号)。しかして団体交渉を行うことと労働協約を締結することとは、法律上性質を異にする行為であつて、団体交渉権者が必ずしも労働協約締結権を有するとは限らない。

従つて、労働協約締結の際には、両当事者間において明確にしなければならない事項があつたとしても、それは必ずしも団体交渉開始の際に明確にしておかなければならないということはできない。

団体交渉を開始する際に使用者がその相手方に対して明確な資料の提出を求め得るのは、団体交渉の任に当る者が、使用者の雇用する労働者の代表者であるかどうかということとか、団体交渉事項がなんであるかということ等であつて、このようなことが明確でなければ団体交渉を開始することをも拒みうるであろう。

なお、その代表者が使用者の雇用する労働者の全部又は過半数を代表する必要はなく、一部少数の労働者を代表するものであつても、使用者はこれと団体交渉を行う義務を免れ得ないことはいうまでもない。

それ故、使用者は、団体交渉開始に当つて、その相手方である労働者団体構成員の具体的氏名をもすべて承知しなければならないとする法律的根拠はない。

例えば、休日に関する団体交渉の結果、労基法第三十六条の定めに従い休日労働に関する協定を結ぶに至つた場合には、使用者は、その相手方が従業員の過半数を代表するものであるかどうかを確認することを必要とするようになるであろうが、それは具体的に団体交渉が進められた結果、上記のような協定を結ぶ場合に必要となるのであつて、団体交渉開始のための要件ではないから、その相手方が代表する労働者の具体的構成内容を明確ならしめなければ団体交渉を開始することができないということは正当でない。

又例えば、労働協約によつて使用者が労働組合費を従業員の賃金から控除してこれを一括してその労働組合に引渡すという所謂チエツク・オフに関する条項が定められた場合には、使用者は、その労働組合員の具体的所属、氏名等を知らなければ、これを履行することが不可能となるわけであるが、この労働組合員の具体的氏名確認ということは、チエツク・オフ協定が締結された後に、その協定を履行するために必要となるのであつて、それ以前の団体交渉開始及び継続のための要件ではない。しかも、もし上記のチエツク・オフ条項を含む労働協約が成立した場合において労働組合が構成員の氏名を通知しないならば、労働組合自体がこの協定を履行不能ならしめるという危険を負担するにとどまるのである。

二について

概ね前号により思推できると思われるが、調査の目的(意図)或は調査の方法によつては不当労働行為になる場合もありうると思われるので、充分慎重を期すべきであろう。

(昭和36年3月24日 山形県知事発)