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病院等の医療事業における労使紛争の処理について
昭和35年11月11日労発第229号
(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)
最近病院における労使関係が円滑を欠き、労働争議が頻発し、中には争議行為の発生をみる事例も少なくない。
一般に医療業務における労働争議は、争議行為が発生した場合には、第三者である患者の生命身体にも関係してくることはもちろん、ひいては一般社会に与える不安も大であることにかんがみ、医療事業における健全な労使関係の確立及び労使紛争の平和的解決について、下記事項に御留意の上一層の御配慮をわずらわしたくお願いする。
記
一 医療事業は、一般に労働関係調整法第八条にいう公益事業である。従つて、病院等の医療事業においては、その社会的責任にかんがみ、労働争議が発生した場合は、できる限り当事者の自主的団体交渉により、これを平和的に解決するよう平素から労使当事者に対する教育指導に努められたい。特に、病院関係の労使当事者には、団体交渉の労使慣行について未熟な点も見られるので、団体交渉が円滑に、かつ、効果的に行なわれるよう団体交渉のルールについても十分に教育指導されたい。
二 医療事業は、公益事業であることにかんがみ、その労働争議について、労使当事者の自主的交渉による解決が困難な場合には、当事者において労働委員会その他第三者のあつせん、調停によつて当該争議の解決を図るように勧奨されたい。なお、地方労働委員会とも十分連絡をとり、情勢に応じ、労働委員会の職権あつせん若しくは労働関係調整法第十八条第四号による調停、又は法第十八条第五号による貴職の調停請求等の活用により、できる限り争議行為に至ることなく当該争議が平和的に解決されるよう配慮されたい。
三 医療事業は、その事業の性質上、患者の生命身体の安全に関係するものであり、労働関係調整法第三十六条により人の生命身体の安全保持の施設の正常な維持又は運行を停廃し、又はこれを妨げる争議行為をなすことが許されないことはもとより、労働関係調整法第三十六条に該当しない争議行為であつても、直接患者の生命身体の安全を脅かす行為は、争議行為の正当性の限界を逸脱するものとして許されないことは明らかである。もし、かかる行為を行なえば、刑事上民事上の免責を受けることができないことはもちろん、不当労働行為としての保護をも受けることができない。従つて、このことをあらかじめ当事者に周知徹底せしめ、かりそめにも争議行為に関連してかかる事態が発生しないよう十分指導されたい。
四 よつて医療事業の争議に際し、やむをえず争議行為を行なう場合においても、患者及び病院側が事前にこれに対処できるように、並びにその間にできる限り平和的解決を図るように、労働関係調整法第三十七条により少なくとも十日前までに予告すべきことはもちろん、患者の生命身体の安全を脅かすことのないよう十分に留意することが肝要である。
このため、争議行為に入る以前にあらかじめ、組合員中、所要の医師、看護婦その他の争議行為中における就業要員の範囲その他争議行為中に当事者の守るべき事項について、当事者間で協定するよう教育指導されることが必要であり、必要に応じ労政機関においても、そのような協定の締結について積極的に援助、協力を行なわれたい。
五 最近における病院関係の労働争議の頻発は、病院等の医療事業において近代的労務管理が確立されておらず、また、労使双方とも一般に労使関係についての知識経験が乏しく、健全な労使関係が確立されていないところに一因が存すると考えられる。従つて、使用者に対しては、適正な賃金、労働時間その他の労働条件の保持、人間関係の改善等の労務管理の確立に努めるよう啓蒙指導に努められたい。また、労使当事者に対して、近代的労使関係のあり方について十分理解せしめ、平素からの労使の話合いによるよき労使関係を確立し、でき得れば、労働協約において、賃金、労働時間その他の労働条件の具体的規定、団体交渉のルール、労働争議の平和的解決のための手続、保安要員等の争議不参加者の範囲その他の争議条項を定め、労働協約による健全にして合理的な労使関係の確立に努めるよう教育指導されたい。
六 医療事業における労使関係の最近の事態にかんがみ、労政機関においては平常からの実情の把握に努め、随時当職に連絡されるとともに、特に労働争議が発生し、又は発生するおそれがあるときは、すみやかに当該労働争議の経緯、保安要員、争議行為の態様、当該争議の影響等に関し当職あて報告されたい。