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精神病院における労使紛争の処理について
昭和35年3月8日労発第48号
(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)
精神病院における争議行為の正当性の範囲については、その事業の特殊な任務及び性格に鑑み、労働関係調整法第三十六条の定めるところにより、一定の限界があるところであつて、その具体的な適用については、すでに別紙昭和三十年八月三十一日付労収第一五一七号当職発愛媛県知事あて通牒「精神病院従業員組合の争議行為について」によつて、明らかにしたところであるが、近時全国的に私立精神病院の労使関係が円滑を欠き、長期にわたる紛争もあり、特にそのうちには、患者に対して影響を及ぼすおそれがあるものとして、社会の関心を呼んでいるものも少なくない。
中小企業における労働争議の予防及び解決促進に関してはすでに先般、昭和三十四年十月十日付労発第一三九号通牒「中小企業労働争議の予防及び解決促進について」をもつて、その基本方針を示したとおりであるが、殊に精神病院においては、その患者は紛争当事者以外の第三者であること、通常人としての判断、行動の能力を欠くものであること、環境からする精神的影響が敏感に病状に反映する虞れがあること等に鑑み、労使間の紛争については、労使ともできる限り自主的に平和的な団体交渉により、その解決を図るとともに、自主的解決が困難な場合にも、労働委員会その他の第三者の公平な判断により迅速に解決を図る必要があるので、前記諸通牒のほか、特に左記に御留意の上、宜しくお取り計らい願いたい。
なお、本件については厚生省公衆衛生局と打合せ済みであるから念のため。
記
(一) 精神病院において精神障害者に対し医療を行なう事業は、一般に、労働関係調整法上の公益事業に該当する(第八条)。しこうして、労働委員会が公益事業における労働争議の調停を行なうにあたつては、同法上、他の事業に先立つてこれを優先的に取り扱い、特に迅速に処理すべきこととされており(第二十七条)、当該事業の性質上、労使間の自主的交渉のみに委ねてこれを放置することができないときは、関係当事者の一方からの申請、労働委員会の職権に基づく決議、又は労働大臣若しくは都道府県知事からの請求による特別の手続によつて調停を開始することができることとされている(第十八条第三号から第五号まで)。
さらに、関係当事者が争議行為を行なうときは、少なくともその十日前までに予告しなければならないこととされている(第三十七条第一項)のも、一つには、その間にできる限り労働争議の解決を図るようにとの趣旨によるものである。
よつて、精神病院において、労使間に紛争が生じた場合には、その関係当事者双方とも、かかる法意を尊重して、あくまでも迅速かつ平和的な解決に努めることが肝要であるので、労政機関においても平常からかかる法の趣旨を労使当事者に徹底せしめるよう努力されたい。
(二) 精神病院において労働争議が発生し、若しくは発生する虞れがある場合には、労政機関はできるだけその間の事情を把握し、労使当事者による自主的解決を促進するために必要な指導、援助等の措置を講ずるとともに、当事者が労働委員会その他第三者のあつせん、調停によつて当該争議の早期解決を図るように勧奨し、要すれば、前記昭和三十四年労発第一三九号通牒にもあるごとく、当該争議の態様、性質に応じて、積極的に労働委員会の助力機関的機能をも発揮して、争議が迅速に解決されるよう配慮願いたい。
なお、この場合においては、労働争議に対して介入にわたるようなことにならぬよう留意すべきことはいうまでもない。
(三) 労働関係、特に労使間に紛争が存する場合における合理的労使慣行の確立と遵守については、昭和二十九年十二月六日付発労第四一号各都道府県知事あて労働事務次官通牒「労働関係における不法な実力の行使の防止について」及び昭和三十二年一月十四日付発労第一号各都道府県知事あて労働事務次官通牒「団結権、団体交渉その他の団体行動権に関する労働教育行政の指針について」において、具体的に明らかにしたところであるが、医療施設、特に精神病院においては、その特殊な任務及び性格上、同盟罷業・病院閉鎖を全面的に行なうことは、労働関係調整法第三十六条に抵触するものとして許されないことはもとより、その他の争議行為についても、正当性の限界が存することは別紙通牒によつて明らかにされているところである。従つて、労使当事者に右通牒の趣旨を一層徹底せしめ、あらかじめ争議行為不参加者の範囲等についての協定を締結する等争議中の安全保持と施設の正常の維持又は運行の確保について万全を期するよう指導されたい。
さらに、集会、デモ、争議行為に附随するピケ等を行なう場合、又は、団体交渉を行なう場合にも、その態様の如何によつては、患者に不安・興奮を与えたり、病状に影響をもたらすことがあるから、かかることのないように、労使双方とも、充分精神病院の特殊性を認識して行動するよう、日常の労働教育活動の機会をも利用して指導されたい。
(四) 健全な労使関係を確立するために、労使に対する日常の労働教育が重要であることは論をまたないところであつて、前記昭和三十四年労発第一三九号通牒をもつて、その具体的実施方法を示したところである。
しかしながら、最近の精神病院における紛争の事例中には、労使双方とも、一般に労働慣行に不慣れな面があり、かつ、健全な労使関係が未だ確立されていないために、徒らに紛争の解決を遅延せしめている実情があるやに考えられるので、労働教育計画の樹立にあたつては、精神病院等の公益事業の重要性に鑑み、これらの事業の労使関係の当事者の教育に関し十分考慮されたい。
特に、厚生省においても、精神病院の管理・運営について具体的指導を行なう計画であるが、かかる際においてはもちろん、その他関係労使等から希望があつた場合には、健全なる労使関係のあり方に関する指導の実施について労政機関の職員を積極的に協力せしめられたい。
(別紙 略)