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中小企業労働争議の予防及び解決促進について
昭和34年10月10日労発第139号
(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)
ここ数年来、中小企業において労組の組織化が進展を示しつつあるとともに、労働争議も年々増加の傾向を見ており、中小企業における労働問題は軽視すべからざる情勢にある。
特に最近における中小企業の争議は、東京都をはじめとして各地において暴力事件を頻発せしめており誠に憂慮に堪えないものがある。
しかして、中小企業労働問題については、昨年来中央、地方協議の上一貫した方針をもつて対処するなど、従来から中央、地方の労政機関が一体となつて努力を重ねてきているところであるが、右の如き中小企業労働情勢の重大化に鑑み、今後一層積極的に対策を講じ遺憾なきを期する必要がある。
もとより、その基本方針は、従来と変るものではなく、また地方の実情に応じて措置することが必要であることはいうまでもないが、特に次の諸点について貴職の十分な御配慮を煩わしたい。
一 労政機関の日常活動の積極化
労働争議の発生を未然に防止し、また労働争議の平和的解決をはかり、健全なる労使関係を確立するために、労使に対する日常の教育が重要であることはいうまでもないが、特に次の点に留意する必要がある。
1 労働争議の予防及び早期解決促進を図るため、労働組合の結成状況、労使関係の動向など中小企業労使の実態について常時その把握に努める必要がある。
2 最近の中小企業争議における暴力事件の頻発傾向に鑑み、労使何れを問わず労使関係において、「法を守る」べきこと、特に「絶体に暴力を行使すべきでない」ことを教育活動の最重点とする。
なお、この点に関しては「労働関係における不法な実力行使の防止について」(昭和二十九年十一月六日発労第四十一号)及び「団結権、団体交渉その他の団体行動権に関する労働教育行政の指針について」(昭和三十二年一月十四日発労第一号)の両次官通達で既に明らかにされているところである。
3 最近、中小企業において労働組合が結成されると、その直後に労働争議が発生する傾向が顕著であることに鑑み、組合結成直後の労使に対しては、速やかに個別的指導を行なうことが必要である。
4 中小企業における労使関係の安定を図るため、今後労働協約の締結促進を一段と強化する。
特にその内容を、中小企業の実態に即応し、労使関係の平和と安定を確保しうるようなものとすることに指導の重点をおくことが必要である。
5 各都道府県においては、従来とも労使に対する労働講座を設け、労働教育を実施して来たところであるが、中小企業労働情勢の重要化に伴い、当面労働講座は中小企業労働問題を内容とし、中小企業労使を対象としたものを中心とする必要がある。
なお、講師の選定、講義内容の選択については、慎重に配慮すべきである。
6 現在各都道府県には、中小企業労働相談所が設置され、労働相談に応じているが、今後は相談所に、中小企業に十分な認識をもつ有識者を相談員として若干名委嘱して、相談所の機能を強化し、具体的労働相談を通じて労働争議の未然防止及び平和的解決のための活動を一段と活発化することを考慮する必要がある。
7 府県段階及び地区段階において、必要に応じ公益代表者を含めた「中小企業労使懇談機構」を設けることとし、この懇談機構の場において中小企業労働問題を話し合い、これによつて労働問題の認識を深め、労使相互の意思の疎通を図るとともに労政のしん透を図る。
なお、既に労使懇談機構を有する場合でも、その性格が中小企業労働問題を中心に取扱うものでない場合には、右の「中小企業労使懇談機構」に改組するか、又は併設することが望ましい。
また、懇談機構の運営を効果的ならしめるため、必要に応じ労・使・公益の各側別に労政機関が懇談するなどの配慮が必要である。
8 最近商工会など業者団体の結成が進展しているが、これら経営者の団体に対して、特に中小企業の労務管理の確立の必要を強調し、経営者の団体が積極的に中小企業労務管理確立を中心として、中小企業経営者に対する啓蒙活動を行なうよう指導する必要がある。
9 広報活動を強化し、世論の中小企業労働問題に関する認識を深める必要がある。
二 労働争議解決促進の積極化
1 労働争議が発生した場合には、従来とも労政機関はその早期解決のため労働委員会の利用推奨をはじめ、労使に対し必要な指導と援助を行なう等の措置を講じてきた。また、その争議の態様、性質に応じ直接斡旋をも行ない、効果をあげてきたところもある。
中小企業労働争議が増加し、これが長期化の傾向を深めるとともに、暴力事件をも頻発している現状においては、特に争議の早期解決が肝要であり、今後においては、労政機関は労働委員会の助力機関的機能を果たすものであるとの認識をもつて争議解決促進のため一層活発な活動を展開することとし、当面次の如き措置をとる必要がある。
(イ) 労政機関は、労働争議が発生した場合は、従来とも行なつて来た労働争議の自主解決の促進に一層の努力を払うとともに、自主解決が困難と判断される場合は、早期に労働委員会に持ち込むよう積極的に勧奨すべきである。
(ロ) 労政機関は、労使より労働争議について相談をうけた場合は、一般的な労働相談に止まらず、相談の過程を通じ積極的に争議の解決を図るよう努めるべきである。
(ハ) 労働争議の調整は、本来労働委員会があたるべきであるが、労政機関としても争議の態様、性質を勘案の上、労働委員会との密接な連携のもとに進んで直接その解決に当たるべきである。
なお、このためには、現に労政課長、労政事務所長等を地労委斡旋員候補者に委嘱している府県もあるが、今後は地方労働委員会と十分話し合いの上、各都道府県ともかかる措置をとるよう配意することが望ましい。
2 労働争議の過程において、暴力行為の発生が予想される場合には、当該労使を説得するなどその誘因たるべき事実の円満なる除去に努めるとともに、暴力行為が発生した場合においては、時機、方法を勘案の上、労使に対する要望、勧告など適切な措置をとることが肝要である。
三 労政機関、労働委員会の整備充実
以上の如き中小企業労働対策の積極的推進のためには、次の如き機構の整備充実が必要である。
1 労使関係の円滑なる処理のために、労政課長、労政事務所長などの人選、任期などについては十分な配慮をすること。
2 また、現在労政機関の職員数は必ずしも十分な状態にないので、この際その増員措置についても配慮すること。
3 更に労働委員会職員の質的・量的充実についても配慮するとともに、労働委員会委員の任命にあたつては、中小企業労働争議の適正な処理のため、今後公益委員については特に中小企業労働問題処理に適切なる人物をも選任すること、また労使委員については中小企業からも委員を選任することなどについて配慮すること。
四 関係諸機関の協力体制強化
中小企業労働問題の処理に当つては、労政、労働基準、職業安定など労働関係諸機関の協力が必要であるのみならず、各都道府県経済主務部、通産省出先機関など経済関係諸機関とも相協力することが必要であり、労政機関は、従来ともこれら関係各機関と協力して中小企業対策に当つて来たところである。今後においては、これら機関との恒常的協力体制を確立して、中小企業労働問題に万全を期することが殊に重要である。