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通達:労働関係における不法な実力の行使の防止について

 

労働関係における不法な実力の行使の防止について

昭和29年11月6日労働省発労第41号

(各都道府県知事あて労働事務次官通知)

 

今日我が国は、社会各方面において重大な転換期に立つており、このことは、労働運動、労使関係の面においても、例外ではない。今日の労働運動、労使関係は、多くの困難な問題と取り組み、険しい道を歩みつつ、これらを克服して進まなければならない。これがためには、健全な良識の下に、真に民主的にして合理的な労働運動、労使関係の慣行を守り育て、確立していくことこそ、何よりも必要なことであると考えられる。

数年前、我が国の労働運動、労使関係には、独裁的組合指導、暴力的労働運動の横行する傾向が顕著に見られたことは、周知の如くである。かかる傾向は、世の激しい指弾を蒙り組合員大衆の強い反発を受け、やがて衰退して、これに代つて民主的労働組合が我が国労働運動における圧倒的な主導権を握るに至つた。

今日なお、我が国の労働運動、労使関係は、その歴史が浅く、未成熟の点の多いことは屡々指摘される通りであるが、民主的な労働運動は、今後益々力強く育てられなければならず、労働関係における民主的、合理的な慣行の確立と遵守のための努力は、如何なる情勢の下にあつても、瞬時もゆるがせにすることなく推進せられなければならない。

然るに最近、労働運動、労使関係において、暴力その他の不法な実力の行使という非民主的、非合理的手段に訴えようとする傾向が再び見られるようになつたことは、如何なる原因によるにせよ、甚だ遺憾である。かかる傾向は、ひとり労使関係を悪化せしめるに止まらず、民主的な労働運動、労使関係の拠って立つ基盤を否定し、結局において自らその墓穴を掘るに等しいことになることは明らかである。

固より労働運動、労使関係において所謂行き過ぎの行為が行われることは、それぞれその原因があり、特に労働者側のかかる行為は使用者側の不当な態度や挑発的行為等に起因する場合も多く、これらの点の是正については当省においても今度共一段と努力する積りであるが、然し如何なる事情によるにせよ暴力その他の不法な実力の行使に出でることは絶対に避けなければならない。このような行為の許されないことは、現行法上既に明らかなことであり、かかる限界を遵守することは、法治国における民主的労働運動、労使関係における最少限の要請である。また、かかる限界を明らかにすることは、労働者の正当な団結権、団体行動権に制限を加えるものでないことはいうまでもなく、むしろこの点に関して法の許容する限界をできる限り明確ならしめてこれを周知せしめ、不法な実力の行使を防止し、労働関係における民主的、合理的慣行の遵守、確立の必要を徹底せしめることは、労働教育をその最も重要な使命とする労働行政機関として当然の責務である。

よつて、左記において、この点に関する労働省の見解を明らかにした。不法な実力の行使とされるものが、すべてこれに尽されている訳ではなく、また左記以外の労使双方の行為がすべて正当とされるものでないことは勿論であるが、左記に述べた所は、労働関係に関連する暴力その他の不法な実力の行使等に関するもののうち、その主要なものについて一般的に記したものである。貴職におかれても、右の趣旨を十分御留意の上、労使関係者に周知徹底し、民主的、合理的労働慣行の確立のために、格段の御尽力ありたく、命により通牒する。

 

一 基本的考え方

(一) 労働関係において、労使が法令に従つて行動し他人の権利を尊重すべきことは、法治国の国民として、当然の責務である。就中、人の身体又は行動の自由や住居、私生活の不可侵は、最も尊重されるべき権利であつて、労働組合の団結に基く統制や、労働契約に基く使用者の指揮、管理によつても、これを全く否定したり、その意に反して不当に拘束又は侵犯することは許されない。

労働者の団結権、団体交渉その他の団体行動権は、法の保障する所であるが、暴行脅迫その他不法な実力の行使により他人の行動、意思に統制を加えることは、団結権、団体行動権を保障した法の限界を逸脱するものである。

(二) 労働組合の団結は、組合員の自発的意思にその基礎を置くものであつて、脅迫や暴力等による統制を許すものではない。統制を紊す者に対しては組合規約に基きこれを除名その他の懲戒処分に付し得ることは勿論であるが、最終的に団結を離脱しようとする者を(そのことの善悪はともあれ、)暴行、脅迫等によつてその意に反してこれを阻止することはできない。

労働者の自発的意思に基かない強制された団結や統制は、たとえ表面的に一時の功を収め得たように見えたとしても、結局、真に協力な団結を確保する所以ではない。

(三) 労働組合の団結に基く統制力は、原則として、組合の範囲にしか及ばないものであることはいうまでもない。統制力の範囲外にある者に対しては、その理解と協力を要請し得るに止まり、通常、労働組合は、これに対し何等の強制をも加え得る立場にない。

争議行為は、労働者の団結と統制によつて使用者に圧力を加えるものであるが、その際、ピケツト等において暴力その他行き過ぎの行動に出でるのは争議目的追求に急なる余り、右の団結、統制力の限界外のことを強いて行おうとする場合に多い。労働者の団結が不十分であつた為に、争議において不利になることは、誠に残念ではあろうが、その故に暴力その他の行き過ぎの行為が正当化されるものではない

(四) 使用者が労働組合の団結に対して支配介入することは、法の厳に禁ずる所であることはいうまでもない。組合分裂策の如きは、長く禍根を残し、最も忌むべきものである。また、暴力団を雇い入れて争議中の労働者に対して暴力を振う等の行為は到底許すべからざるものである。

労働組合又は労働者をして正当な行為の範囲から逸脱せしめる原因は、屡々使用者の非合理的乃至封建的労務管理とか、無理押し、挑発的態度乃至行為等にあり、かかることは、不当労働行為その他の法規に触れると否とを問わず、厳に慎むべきである。

(五) 然し乍ら、使用者の右の如き態度は、必ずしも労働側の暴力その他の行き過ぎの行為を正当化するものではない(後述八参照)。労働側が、争議目的自体は正当であるにもかかわらず、使用者側の挑発に乗つて暴力的手段に出で、為に争議そのものにも惨敗し、組合は潰滅し、幾多の犠牲者まで出した事例は、決して稀ではない。厳に戒心すべきである。

二 ピケツト

(一) ピケツトの方法、態様は、その対象なり、状況によつて、若干の差異があろうが、我が国においては、事業場の出入口附近に多数の者が集合していること自体では、ピケツトとしては違法とはならない。然し乍ら、ピケツトは、平和的説得の範囲に止まるべきものであつて、例えば、工場事業場に正当に出入しようとする者に対して、暴行、脅迫にわたることはもとより、一般に、バリケード、厳重なスクラムや坐り込み等により、物理的に出入口を閉塞したり、説得又は団結力の誇示の範囲を越えた多数の威嚇や甚だしい嫌がらせ等によつてこれを阻止する如きピケツトは、正当でない。

(1) 使用者又は利益代表者に対するもの

使用者又は労働組合法第二条第一号に定める使用者の利益を代表する者は、本来当該労働争議の相手方に属する者であつて、争議行為中においても、就業し、会社施設の管理等に当り、また、争議の解決に努める等の義務と責任を有する者であつて、これらの者の正当な義務のための出入をピケツトによつて妨害することは許されない。

なお労働協約等において協定された保安要員等の争議不参加者についても、その協約等に基く就労のための出入を妨げることは許されない。

(2) 第三者に対するもの

従業員以外の出入商人、顧客等の第三者に対するピケツトについては、当該争議行為についての理解と協力を穏和に要請し得るに止まり、これらの者の出入や正当な業務を妨害することは許されないことは、いうまでもない。

(3) 組合員以外の労働者に対するもの

労働組合の統制力は、原則として労働組合の組合員以外には及ばないから、組合員以外の従業員に対しては、当該争議行為についての理解と協力を要請し得るに止まり、その正当な就労を妨げることはできない。なお、労働協約等において代替要員雇入禁止の条項が規定されていない限り使用者が争議中必要な業務維持のための代替要員を雇い入れ、その業務を続けることは、労働組合の争議行為に対する使用者の対抗手段であつて、そのことが妥当かどうかについては状況によつて異るが、それ自体は違法とはいえない。ピケツトにおいてその就業を阻止すべく説得することは固より自由であるが、労働組合は、暴行、脅迫その他の不法な実力等を以てこれを阻止し、その就業を妨げる正当な権限を有するものではない。

(4) 争議中に組合を脱退した従業員に対するもの

争議中に労働組合を脱退して第二組合を結成するようなことは、好ましいことではないが、我が国の現状では、かかる事象は往々にして生ずる。このような第二組合員の就労は、当該争議の帰趨に決定的影響を及ぼす場合が多く、ピケツトにおいてこれに対し説得に極力努めることは当然である。また、第二組合としても、当初より一切の説得に耳をかさず、一挙にピケラインを突破する如き態度は、労働者としてとるべきでない。然し乍ら、この場合でもやはり、暴行、脅迫その他不法な実力等によるピケツトは許されない。既に組合の団結に破綻を来した以上、暴力等によつてその破綻を補うことは、許されないし、また、真の団結の途ではない。

(5) 組合員に対するもの

労働組合の組合員は、組合の統制に服すべき義務と責任を有するものであるから、ストライキ中組合の統制に違反して就労しようとする組合員に対しては、組合の統制を紊した場合は除名その他の組合規約上の懲罰に付されることがあるべき旨を告げて、その反省を求め、統制に服すべきことを要求し、情理をつくして説得に務める等の行為は当然正当であつて、組合員であり乍ら説得に全然耳をかさずに実力でピケツトを突破する如きことはなすべきではない。然し組合としても説得に名をかりて不当に自由を拘束して多衆の威嚇によつて所謂吊し上げ等を行い、又はあくまで説得に服さない者に対して暴行、脅迫その他不法な実力的手段によつて、なおこれを阻止する等のことは、平和的説得の範囲を逸脱し、正当な行為とは解しがたい。

(二) 特殊なピケツト又はピケツトに関連して生ずる問題について

(1) 業務の妨害、出荷停止等

労働者が争議行為として使用者の意に反してその施設、設備等を占拠し、損壊し、若しくは除去する等のことによつてその義務を妨害し、又は使用者若しくはその指揮を受けて正当に就労中の者の為しつつある義務を暴行、脅迫、坐り込み等によつて妨害することは、正当なものとは解されない。

また、出荷協定等のない場合に使用者又は使用者の命を受けた非組合員、第三者等が製品の出荷、原材料の搬入等を行うのに対して、暴行、脅迫は勿論、スクラム、坐り込み、バリケードその他不法な実力等を行使して阻止する如き行為も正当でない。買手が買い取つた製品を搬出するのを実力で阻止する等のことも、勿論許されない。しかし例えば、買手や出荷又は搬入作業に従事するトラツクの運転手等の者に対し当該争議行為についての理解と協力を要請する等の行為は、勿論正当である。

(2) ピケ破り等

ピケツトに対して暴力を振い、或は平和的説得をするものを実力をもつて排除し、ピケ破りを行う如きは、固より正当でない。特に使用者において暴力団等を使つてピケラインを突破する如き行為は論外である。

組合員がストライキから脱落して就業し、又は組合から脱退して第二組合を結成する等の行為はその者の責任と判断に基いて為されることのあるのはやむを得ないとしても、使用者がこれを強制するが如きは不当労働行為になり、許されないことはいうまでもない。

(3) ピケツトに伴つて派生する問題

ピケツトの場合、特に第二組合が発生した様なときは、感情的対立が尖鋭化し、両者の実力による衝突の虞が多いが、如何なる時、所を問わず、第一組合と第二組合とが対立して、乱斗その他の暴力沙汰に及ぶようなことは、絶対に避けるべきである。

第二組合員乃至脱落者に対してでも、監禁、暴行、脅迫或はこれらに準ずる所謂吊し上げ等にわたる行為をなすことは、正当でない。

また、如何なる場合においても、就労者に対する食糧搬入の制限、家族に対する嫌がらせその他個人の私生活を不当に脅かすような行為は、為すべきではない。

三 団体交渉

(一) 団体交渉は、労働組合の代表者が労働者の団結による社会的経済的威力を背景に、団体の意思を代表して使用者と交渉するものであつて、現実に交渉の場に多数の組合員が集合して行うものではない。従つて、社会通念上、首肯されるに足りる程度の平和的且つ秩序ある方法により行うことを要し、必要以上に多数の組合員を動員し、又は著しく喧騒にわたるが如きは、正当な権利行使の範囲を逸脱する虞があり、また、使用者に団体交渉拒否の正当な理由を与える。

大衆交渉などと称する多衆の威迫の下に極く少数の使用者側の者と交渉するようなことは、正常な団体交渉ではない。

(二) 相手方に対し、暴行、脅迫、監禁又はこれらに類する所謂吊し上げ等により身体の自由を拘束したり、正常な時、所において団体交渉をなし得るにもかかわらず、団体交渉と称して使用者の制止する場所又は部屋等に侵入したり、坐り込んだり、或いは使用者の私宅に押しかけ、又はその家族に嫌がらせする等、その私生活を不当に脅かす等の行為は、正当な行為とはいいがたい。

(三) 使用者も、労働者の団体交渉権は最大限に尊重すべきで、団体交渉を忌避してその所在をくらましたり、不当に回答を遅延させたり、その他団体交渉権を無視するが如き行動をなすべきでないことは、労働組合法第七条第二号の趣旨に徴しても明白である。団体交渉こそは正常な労使関係の基本をなすものであるから、使用者は、常に誠意を以て交渉を行うように努めなければならない。

四 工場占拠、生産管理、強行就業等

(一) 労働者が使用者から明示の、且つ、存続する意思を以て正当に退去を要求されたにもかかわらず、なお、不当に工場事業場内に止まつて、占拠をなし、又は坐り込みをする行為は、違法行為となること明白である。

(二) 生産管理が一般に違法な争議行為であることは確立した判例であるが、生産管理の程度までに至らなくとも、争議手段として、使用者の意思に反して、恣にその施設、設備、原材料、製品等を管理、使用、処分する等のことも、一般に正当な行為とは解されない。

(三) 工場事業場において有効にロツクアウトが行われている場合、労働者が使用者の意思に反して工場事業場に侵入し、或いは就業を強行することは、正当な行為ではない。

(四) 労働組合がその団結力を誇示し、その主張を社会に訴えるため、ストライキ中又は就業時間外等にデモを行うことは自由であるが、これによつて使用者又はデモやストライキの参加者以外の者の正当な業務を妨害したり、使用者の意に反して会社の建造物の中を行進する等のことは正当な行為ではない。

五 ロツクアウト

使用者は、一般に、争議行為が現に行われているか、又は行われようとする虞が明白且つ逼迫して存する場合には、労働協約に定められた平和条項等に違反しない限り、ロツクアウトをすることができる。然し乍ら、ロツクアウトによつて組合事務所への出入を遮断する等のことは、正当ではない。

また、労働者の生活の根拠となつている寄宿舎等から、争議手段として労働者を締めだすことは、個人の私生活を不当に脅かすことになり、正当な行為とは解しがたい。

六 公務執行妨害

如何なる理由があろうとも、裁判所の判決、決定のあつた場合において、その判決、決定の執行吏による執行を妨げる行為は許されない。裁判所の決定等に不満がある場合であつても、法律に定める手続によつて争うべきである。これを否定して実力を以て執行を妨害する行為は、法治国の根本を否定するもので到底許しがたい。また、警察官の正当な権限の行使を妨害することも同様である。

七 応援団体その他

争議中、友誼団体その他の外部の者が当該争議を応援することは、屡々見られる所であるが、この場合においても、以上において述べた労働関係上の秩序が守られなければならないことはいうまでもないが更に外部の者は、当該企業に対する関係が従業員とは異るのであつて、その行い得る行為の限界についても自ら差異がある。これらの者が、争議の主体である労働組合の意に反し、又は統制に従わないで暴力行為等に出る事例が時に見られるが、かかることは厳に慎まなければならない。

未組織労働者がお互同志だけで、又は労働組合と一緒になつて、争議団を組織し、団体交渉又は争議行為を行い、ピケツト張る等の場合も、その統制力その他については労働組合の場合と若干の差異があるであろうが、概ね、六までに述べた所に準じて考えられるべきである。

八 相手方の違法行為等に対する対抗的行為

相手方が法令又は労働協約違反等の行為に出た場合にも、原則としては、法の定める手続に従つて救済を求めるという方法によるべきであるが、相手方が争議のルールを無視するような法令、協約等の違反行為をなす場合、例えば、代替要員雇入禁止条項違反、争議不参加要員協定違反等の場合には、それに対応する必要最少限度において対抗的手段を講ずることが正当化される場合がある。かかる対抗的手段が如何なる場合に如何なる程度、態様において許されるかは、その時、所における具体的状況に応じ、一概にはいいがたいが、相手方の違反行為に対抗するものであるが故に、特にその行為が正当と認められるためには、相手方の行為が単に主観的にけしからんとか、争議戦術上こちらが不利益を蒙るというような程度でなく、相手方に争議のルールにおいて客観的に明白重大な法令、協約等違反の行為が現実に存することを要し、また、相手方に違反行為があれば如何なる実力的対抗手段をとつても必ず正当化されるというのではなく、相手方の違反行為に対抗するために直接に必要やむを得ないと認められる場合に限られ、且つ、その場合でもその方法、態様において社会通念上妥当とされる最少限度のものでなければならない。特に、暴力の行使又は脅迫等の行為は如何なる場合においても許されない。