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ユニオン・シヨツプ協定の効力
昭和29年2月27日
(神奈川県労働部長あて労働省労政局労働法規課長通知)
当方の見解は、昭和二十五年三月二十日労収第一一九一号労政局長通牒に示されているとおりであるが、実際には困難な問題が多いので、労働協約の締結指導にあたつては、現在のところ左記の如く処理されるのが適当であると考えます。
記
一 一の工場事業場において、その従業員の過半数を代表する労働組合が、使用者との間にユニオン・シヨツプ協定を締結した場合、当該労働組合に加入していない従業員が別個に労働組合を結成している場合にも、この協定は拘束力を有するか否かについては、労政局の法律的見解は前記通牒の通りであるが、これについては、学説、判例も分れるところであり、未だ定説を見ないが、主要な意見は概ね次の通りである。
(一) 拘束力の及ばないとするもの。
(イ) ユニオン・シヨツプは憲法第二十八条の趣旨から当然に認められるものであつて、労組法第七条第一号但書は単なる確認的規定にすぎないから、ユニオン・シヨツプ協定は、右の規定にとらわれず、憲法の立場から具体的に検討すべきである。而して憲法の建前からは少数者の団結権も多数者のそれと同様に保護されているのであり、少数者というだけでその団結権を奪うことは、法律によつても許されず、しかも労組法第七条第一号但書は確認的規定に過ぎないからこれを引用することはできない。
しからば、かかる少数組合の権利が、多数組合の締結したユニオン・シヨツプ協定によつて侵害を受けないことは当然であり、ユニオン・シヨツプ協定は、少数者が別に組合を組織していない場合にのみ拘束力を有するものであるという説(松岡三郎)
(ロ) 労組法第七条第一号但書の規定は、労働組合は一の工場事業場に雇用される労働者の過半数を代表する場合に使用者がその労働組合との間にユニオン・シヨツプ協定を結ぶこと自体は不当労働行為とならぬというにすぎない。
他方、使用者が、この協定に基いて、少数組合に加入している労働者を解雇することは、所属組合の如何によつて労働者を差別待遇するところであり、労組法第七条は、第一号と第三号との趣旨を綜合して解釈するときは、組合活動を理由とする不利益取扱のみならず、有利な取扱、すなわち、組合活動助成行為をも禁止するものと解すべきであるから、かかる解雇は不当労働行為として許されないという説(平賀健太)
(ハ) ユニオン・シヨツプ協定の効力は、締結当時組合に加入している者及び将来雇用される労働者についてのみ及ぶものであり、締結当時組合に加入していない従業員については、それが組織されていると否とを問わずその効力は及ばないとする説(石井照久)
(ニ) 判例としては、昭和二十五年の加藤製作所千葉工場事件の決定があるが、これは、少数組合の存在をも尊重する民主主義の原理は、労組法の上位にある法であり、多数組合の締結したユニオン・シヨツプ協定が少数組合を拘束することは、多数派の専横を認めることであるから、民主主義の原理と相容れないものであるという立場に立つて、ユニオン・シヨツプ協定の少数組合に対する拘束力を否定している。(昭二五・八・八 千葉地裁)
(二) 拘束力が及ぶとするもの
(イ) ユニオン・シヨツプは憲法第二十八条の理念の実現に寄与する限りにおいて適法であり、労働者が団結の強化をはかるため或る程度の組織体制を用いることは少くとも現段階においては憲法の精神に添うものであるから、労組法が過半数を代表する組合のみに対してユニオン・シヨツプの締結を許容したのは妥当であり、この場合残余の者が組織されているか未組織であるかによつて区別すべき実質的な理由はないという説(石川吉右衛門)
(ロ) 憲法に規定された団結権の保障は抽象的な団結権一般の保障ではなく、具体的な特定組合の団結を助長することによつて団結権を保障せんとするものと解すべきであり、この意味において少数組合が多数組合の締結したユニオン・シヨツプ協定に拘束されるのは当然であるという説(労政局長通牒は概ねこの趣旨であると思われる。)
二 然らば、同一工場事業場内に二以上の組合が併存する場合、その従業員の過半数を代表する組合は、如何なる態度をとるを妥当とするかについては次のように考えられる。
(一) ユニオン・シヨツプ約款を締結することができることは、明らかであるが、その拘束力については、前記の如き意見の分れるところであり、これが実際に締結された場合には紛議を生ずる惧もあるので、かかる問題を生じないようにするためには、先ず、組合組織の統一強化が必要とされることは、貴見、一、三に指摘されるとおりである。
(二) 組合組織を現状のままでユニオン・シヨツプ協定を締結し、その解釈上の紛議を避けるために、右協定に除外例を設けることも考えられる。しかし、このような場合、いわゆる尻抜けユニオンの如き規定を設けることは後日紛争の種となり易いから望ましいものとはいえない。
ユニオン・シヨツプ協定の除外例を設けることは直ちに、尻抜けユニオンを意味するものではない。即ち、尻抜けユニオンとは原則的にユニオン・シヨツプを規定しながら、被除名者等の解雇について「労使協議して定める」或は「使用者が不適当と認めた場合は解雇しないことがある」等ユニオン・シヨツプ条項の効果が使用者の意思によつて左右され得るような例外を設けるものを指すのであり、予め、特定範囲の者については適用を除外するというものとは区別すべきである。
従つて、協約上の除外例の規定としては、明確なユニオン・シヨツプ条項を設け別にその規定はこれこれの者には適用しない、という明確な除外規定を設ける方法の方が尻抜けユニオンよりは、後に労使間の紛議を生ぜずより望ましい方法であると考えられる。
(三) 次にユニオン・シヨツプを稍々緩和したものとして組合員維持協定(メインテナンス・オブ・メンバーシツプ)が考えられる。この協定は協約締結当時組合員であつた者及びその後組合に加入した者は、協約有効期間中組合員でなければならず、組合から除外され又は脱退した者は解雇されるが、締結当時組合員でなかつた者は組合加入を強制されないというもので、協約締結当時の組合員を維持しようとするものである。この協定は組合団結の維持という点では、ユニオン・シヨツプに次ぐ効果を期待し得るものであり、ユニオン・シヨツプも前記一(一)(ハ)のような解釈をとれば、これに近いものとなるであろう。この種協定は、わが国においてはあまり例をみないが、尻抜けユニオンを締結するよりはむしろ将来の紛争の虞は少いと思われる。
(四) 完全なオープン・シヨツプ又はユニオン・シヨツプ若しくは尻抜けユニオン等の他、各種の形態((二)、(三)に例示した以外になお各種の中間的形態が考えられ得る。)のシヨツプ制があり得る訳であるが、いずれにしても如何なるシヨツプ形態をとるかは、全く労使両当事者の任意であり、それぞれの利害得失と当該企業及び組合の実情を十分に考慮した上で、最も適切な制度を採用すべきであるが、労働協約の本質に鑑み、後日紛争の因となるような規定を設けることは好ましくない。
三 シヨツプ制についての考え方は概ね以上の通りであるが、労働協約締結指導にあたつては、それぞれの考え方を労使双方に公平に説明し、且つユニオン・シヨツプの効力に関する学説等をも説明し、これに基いて両当事者が適切な判断を下し得るように懇切に指導した上で、いずれのシヨツプ制をとるかは当事者の自主的な決断に委ねるという方法を採ることが適当であると考えられる。
(参考)
一 事業場(企業)内にその従業員の過半数を占める労働組合と少数組合或は組合に加入しない従業員とがあり、過半数を占める組合と使用者とが、ユニオン・シヨツプ約款を締結した場合、締結組合以外の従業員及び少数組合員に対する約款の効力如何。(要旨)
(昭和29年2月20日 神奈川県労働部長発)