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通達:労働協約の締結促進並びに履行の確保について

 

労働協約の締結促進並びに履行の確保について

昭和27年9月17日労発第170号

(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)

 

合理的な労使関係の確立ということが、独立後のわが国において極めて重要な課題であることは、いうまでもないことであり、これがためには、さきに改正を見た労働関係諸法令をその基本線とすると同時に、労使間に締結された適切な労働協約がその基礎とならなければならないのであつて、この意味における労働協約の重要性は、益々強調されねばならないのである。

労働協約の締結促進については、一昨年以来数回にわたり通牒を発して適切な労働協約の普及に努めて来たのであるが、各位の格段の御努力により多大の成果を収め、その結果、最近における労働協約の締結状況は逐次向上を見ており、本年三月においては、単位労働組合総数の約五〇%、全組織労働者数の約六〇%が労働協約の適用を受けるに至つている。

しかしながら、この数字は決して満足すべきものではなく、全労働者が適切な労働協約の適用を受けるに至るまで、労働協約締結促進の労働教育は根気強く熱心に繰返されなければならないのである。特に中小企業における協約締結状況は、なお極めて不十分であつて、この面については、労働組合の組織の整備強化と相俟って、協約締結の促進の運動が協力に推進されなければならない。然し乍ら、一面、労働協約は、単に締結率の上昇のみを以て満足すべきものではなく、労使双方がこれを確実に履行し、積極的に運用することによつて始めてその実効を期待し得るものであつて、これを欠くときは、如何に立派な協約も空文に帰し、その本来の役割を果すに由ないことになるであろう。

かかる観点から、従来行つて来た労働協約の締結促進の労働教育を更に推進するとともに、締結された協約の履行を確保し、運用を万全ならしめる如き方策を講ずることが、今後の労働行政の重要な課題であると考えられるのである。

協約の締結にあたつての問題点については、一昨年五月及び昨年五月の「労働協約の締結促進について」並びに昨年十一月の「労働協約中における賃金、賞与、その他の給与額の明記について」の通牒その他において屡々指摘したところであり、この趣旨は更に普及徹底を要するのであるが、更に、履行運用にあたつては、別紙「労働協約の履行運用について」に指摘した諸点が当面の主たる問題であると考えられる。

本年度は、各都道府県においてそれぞれ独自に協定締結促進運動を展開した所も多い模様であり、時期的に困難な事情もあるので、本省において全国的な統一的運動を行うことはしないが、今後、本年度中における労働協約に関する労働教育は、右の趣旨によつて別紙「労働協約の履行運用について」参照の上、各都道府県の実情に応じ、協約履行確保に重点を置いて適宜これを行うこととせられたい。

右に関する参考資料として「労働協約事情」、「労働協約履行運用状況調査結果」その他の資料を作成の上、逐次配布するとともに、昭和二十七年中における労働協約履行状況に関する全国的調査を、本年末現在で実施する予定である。

なお、来年度においては右の調査の結果に基き、来年度早々労働協約の締結促進並びに履行確保に関する通牒を発し、明年四―六月又は七―九月の間を目途として全国的運動を展開する計画であるので、労働協約の締結促進及び履行確保の労働教育については、今後共特別の御配慮を願いたい。

 

(別紙)

労働協約の履行運用について

一 協約の締結と履行運用

労働協約が、民主的な労使関係の基礎となるものであることは今更いうまでもないことであり、それぞれの労使関係において最も適切な協約が締結されるとともに、これが確実に履行され有効適切に運用されることによつて始めてその機能を十分に発揮し得るものである。而して労働協約を完全に履行し、運用するためには、まず第一にその内容が最も適切なものであることが必要である。その為には、各種の範例等を参考としてこれを取り入れることが必要であるが、同時に、従来の協約の履行運用の体験を通じて生れた合理的な慣行を積み上げ、又かかる体験によつて明らかとなつた不備欠陥を補うことによつて、協約内容を適切なものにすることができるのであつて、協約の締結と履行とは、表裏一体の関係にあるものである。即ち、協約の締結は固より、よき履行の為であると同時に、よき履行は次のよりよき締結への基礎をなすものである。それ故に協約締結にあたつての問題点はまた同時に、履行運用についても留意すべき点であつて、さきに屡次の通牒により労働協約締結促進に関して指摘した諸点は、協約の履行と運用に当つてもまた強調されなければならないものである。この点に関する認識を更に深めることが、協約の機能を十分に発揮させるために必要とされるのである。

二 労働協約に対する理解

適切な労働協約によることなくしては、たとえ如何に他の条件が整つていても、近代的労働運動を前提とする以上、近代的、合理的な企業運営、労使関係はあり得ない。従つてまず適切な協約を締結することが先決問題であるが、如何に立派な協約を締結しても、それのみでは、これを積極的に履行し、適切に運用しようという労使双方の熱意がなければ、協約丈が一人で動き出すことはあり得ない。従つて、協約の必要性は、締結の際のみならず、より一層その履行運用の際に強調され、認識されなければならない。労使双方の積極的な熱意があつてはじめて、締結された協約が生きて来るのである。而してその適切な履行運用の為には、協約の性格、特にその平和性、双務性及び社会的経済的基盤が十分に認識されなければならない。協約は、その時の社会的、経済的情勢の基盤の上に立つて当該労使間の実情に即応して労使双方の権利を明確にすると同時に夫夫が義務を負うという双務関係に立つものであり、それを一定期間遵守することによつて相互間の安定と平和を維持しようとするものである。かかる安定と平和があつてはじめて企業にとつても労働者にとつても進歩が期し得られるのであるから、協約を単に闘争の手がかりとするような組合側の考え方や、協約に定められた正当な権利の行使についても白眼視するような使用者の無理解が、もし万一にもあるならばそれは十分に反省されなければならない。

三 労働協約の徹底

労働協約が十分に履行されない原因としては、前に述べた如き、協約の本質に対する理解、認識の欠如と同時に協約の内容が労使双方に十分に徹底していないことが指摘されよう。即ち、協約が、組合幹部乃至は会社の一部経営乃至労務担当者のみのものであつて、一般の組合員、幹部職員は、協約の規定、これに基く権利義務に関して無知であるというような状態にあるときは、決して協約の十分な履行は望めないのである。従つて協約の意義はもとより、その具体的内容についても労使双方が、その個々の構成員に至るまで徹底させることが必要であり、その為の自主的な教育が望まれるのである。

四 協約履行についての慣行の確立と合理的運用

労使双方が相互の立場を理解して協約を積極的に履行運用して行けばその間に自ら合理的な慣行が生ずる筈である。慣行が必ずしも常に合理的であるとは限らないが、合理的な慣行の確立の努力なくしては、円滑な協約の履行は望み難い。協約内容は完全に包括的であり、その解釈適用について疑義の余地を残さないものであることが理想的であるが、それが現実には望めないものであれば、先ず考えられる範囲で最善と思われる協約を締結し、その解釈履行について意見の不一致が生じた場合は、双方が納得するまで話し合つて解決の途を求め、このような経験を通じて成立した慣行を尊重するということが必要である。これらのうち重要な問題については文書に作成し、必要があれば協約内容に追加する等の方法も適当であろう。また、このような問題についての双方の意見の不一致が、当事者間で調整できない場合には、公平な第三者の判定に委ねることが至当であつて、要は労使間の問題を実情に即した方法で、最も合理的に解決しようとする態度が不可欠であり、苦情処理機関の利用はこのような見地からも考えられるべきであろう。

五 苦情処理機関の活用

さきに述べた如く労使間の基本的な問題は、すべて協約中に具体的に規定するのが望ましいのであるが、いかに詳細に規定しても、協約の解釈適用上、労使双方の意見の不一致が生ずることはあり得る。このような事態が発生したときは、労使が対立的に相争って、場合によつては力関係で解決しようとするよりは、折角協約という一応客観的な基準があるのであるから、これを基にして労使が十分に話し合つて納得の行く解決を求める態度こそ合理的であろう。かかる見地よりすれば、このような問題は苦情処理手続によつて処理することが通常最も妥当な解決方法と思われるのである。

苦情処理機関は、協約の解釈運用その他日常の苦情を平和的に処理することを主たる目的とするものであるが、この制度は、協約の規定の文言の上では相当に普及を見ていながら、その利用は不十分な場合が多い様である。その原因は、先ず協約内容が十分に詳細且つ具体的でないため、協約に定めのない事項で相当に重要な問題が屡々起り、それらは苦情として取上げるに適しない問題であるという場合が多いことも一つの理由である様であるが、その様な場合でなくとも、労使双方が、この制度の運用に馴れず、苦情申立をすることによつて差別待遇を使用者側から受けるような危虞の念が屡々抱かれていることは正当な権利は堂々と主張する、相手方もこれを悪びれずに受け入れる、という意識が欠けていること、手続が形式的にすぎ、又は繁雑で実情に適せず、利用し難い点があること等が挙げられよう。

それ故に苦情処理機関の存在意義を労使双方に徹底させるとともに制度を実情に適したものとして行くことが必要である。いかによい制度でも、その当初には、労使双方が積極的に苦情を探し出してとり上げて行くという努力がなければ、活用され難い。組合の職場委員等の積極的な努力と、使用者側において末端幹部までが苦情申立に理解を持ち、これを奨励する態度が必要である。これは単に苦情処理機関育成の為ということではなく、協約の合理的な履行を確保し、よい慣行を積み上げると同時に、近代的合理的な労使関係を確立するために、是非とも必要なことである。

六 協約内容の検討

協約が締結されていてもその内容が不備なものであつたり、又実情に適しないものであるために協約の不履行を生ずる場合が少なくない。協約は、それぞれの労使関係に即した内容をそなえたものでなければ円滑に運用できないものであり、このような点を、運用の経験を通じて絶えず検討し、労働協約の改訂にあたつては、これらの点を充分考慮して、労働協約を労使関係の実情に即したものとすると同時に、円滑な運用を確保しうるようにすることにより協約の質を高めて行くことが必要なのである。

労使関係は絶えず動きつつあるものであるから、協約は、一定期間の安定を齎すものではあるが、同時にそれは固定したものとなつてはならない。協約は慣行によつて刻々にその内容を豊富にして行くべきものであり、且つその経験を積み重ねて次第によりよきものへと進歩しなければならないものである。単に既得権というような議論で既存の協約のあらゆる改訂を拒むとか、経営権、労働権というような観念的議論で協約内容を固定させてしまうような態度はとるべきではない。