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通達:労働協約中に於ける賃金、賞与その他の給与額の明記について

 

労働協約中に於ける賃金、賞与その他の給与額の明記について

昭和26年11月21日労発第224号

(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)

 

労働協約の締結の指導についてはかねてより各位の格別の御協力を得てきたところであり、その結果労働協約の締結率は次第に上昇し、その内容も漸次充実化する傾向を示している。しかしながら労働協約の中心をなすべき労働条件の規定についてみるとなお協約中に賃金、賞与その他の給与額を具体的に明記していない場合が少くなく、この為労働協約を締結し乍らも、その実効が著しく減殺され、労使双方とも労働協約による利益を十分に享受していない憾みがある。

以上の点に鑑み、今後に於ける労働協約の指導に当つては、労働協約中に賃金、賞与その他の給与額を具体的に明記することに重点をおかれたく、特に左記の諸点に留意されたい。

 

一 労働協約中に賃金、賞与その他の給与額を明記することの必要性について

我が国現在の労働協約は、インフレーション時代の沿革からして今なお賃金、賞与その他の給与の具体的金額をその中に明記せず、これらについては、労働協約とは有効期間を異にする賃金協定等の中に定めている場合が多く、この為に労働協約の有効期間中であると否とに拘らず労使間には賃上げ、夏季手当、年末手当、賞与等の問題をめぐり、年に数度の労働争議が行われることが少くない。このような行き方を改めて、労働協約中に賃金、賞与、夏季手当、年末手当、退職金等のあらゆる給与を具体的に規定し、労働協約の有効期間中にこれらの問題につき労働争議を行う必要をなからしめることは、労働者に対してはその労働条件の確保を図り、使用者に対しては企業の平和を保証し、以て、労使関係の安定化を招来する為に必要不可欠であるとともに、労働組合が時間的、財政的余裕を得て共済福利活動その他の日常活動を活発化し、以て強固にして堅実なる労働組合の発達をはかるために、現在是非共考慮されなければならない事柄と考えられる。労使双方にこのような必要性を十分に理解せしめる事は本件の指導に当つて、先ず第一に重要な事柄である。

二 賃金条項について

1 労働協約中に出来る限り賃金について具体的に規定することが望ましく、やむを得ず別個の賃金協定とする場合においても、労働協約の附属規定として、その有効期間を本協約と同一ならしめることが必要である。

2 必ず金額を明示すること。出来得れば所謂賃金ベースの額のみではなく配分方法乃至各人の賃金計算方法をも明確にしておくことが望ましい。

3 物価その他の経済情勢の変動或いは企業の経営状態の変化等の不安の為に一定の賃金水準を協約の有効期間中維持することが困難と考えられる場合には賃金の調整に関する規定を設けることによつて問題を処理するのが適当である。賃金の調整方法としては、物価、生計費その他の要素の変動に応じて賃金を自動的に調整するスライド制や協約の有効期間中に賃金についてのみ再交渉を認める等の方法があり、これらの方法についてもその適用の仕方については多くの問題があるが、その中いずれの方法を取るかは労使が十分研究して協約当事者の実情に最も適した方法を取るべきである。ただ、如何なる方法を取るにせよ、協定締結後に於て実際の運用上疑義や紛争を生じないように規定しておくことが肝要であり、特に協約有効期間中に賃金条項の再交渉を認める場合は、出来得る限り平和的に調整をなし得るように配慮する必要がある。(別紙一「賃金調整条項参考例」参照)

三 賞与、夏期手当、年末手当その他の一時的給与について

1 賞与、各種手当等の一時的給与についても、その具体的金額や、算出方法を協約中に具体的に明記して、支給の都度紛争を生じないようにしておくことが望ましい。

2 経済情勢、経営の見透し難等の為に予め具体的に定めることが出来ないものについては、企業の成績に応じてこれらの手当又は賞与の支給額を決定するようにするのも一つの方法であつて、そのような方法の一例として所謂利潤分配制度も参考となろう。(別紙二「賞与その他の一時的給与に関する規定参考例」参照)

四 退職金について

退職金については、現在多くの例でとられている如く、勤続年数に応じて支給率を定め、賃金額にその支給率を乗じた金額を以て退職金額とする方法を取れば物価に変動に伴い生ずる不都合を排除することが可能であると考えられる。

なお退職金の性質上一般の労働協約とは別に、個別的労働協約として一般の労働協約の有効期間より長い期間を定めることも適当であろう。

五 交渉の態度について

労働協約の締結改訂のための団体交渉の中に、賃金、賞与、退職金其の他の給与額の決定をも含ましめることとすれば、従来の例よりみれば交渉に相当の長期間を要することも憂慮されるが、たとえ従来より交渉が長びくことがあつても賃金その他の給与額を具体的に規定した労働協約を締結して、その後は協約の有効期間中労使関係の安定を維持することが労使双方にとつて有益である。又団体交渉に徒らに長期間を費やし、交渉が慢性化するが如き従来の交渉方法に対しては労使共反省すべきであり、交渉方法をもつと合理化し、集約するならば、交渉期間の長期化を避け、又は短縮を図ることも可能であろう。

団体交渉を集約し、合理的にするためには、相手方に対し譲るべきは譲り、特に相手方の合理的な結論に対しては、率直に之を尊重する態度と、徒らな観念論にふけることなく問題を実際的に処理していくというビジネスライクな態度が労使双方に特に切望される。

六 指導の態度について

1 本件については、問題の性質上夫々の当事者の特別の事情もあり、その指導に当つては、押し付けがましい態度は厳に戒め、気長に忍耐強く行う必要がある。

2 労政職員は、給与問題についても豊富な知識の習得に努め、労使双方にとつてよき相談相手たり得る実力を涵養することが必要である。

 

別紙一

賃金調整事項参考例

一 スライデイング・システム

物価や生計費等の変動にかかわらず決定当時に於ける実質賃金を維持しようとするのであれば、物価又は生計費に賃金をスライドさせる方法があり、若し当該賃金と他の賃金水準例えば一定産業乃至地域の賃金水準との間に一定の均衡を維持しようとするのであれば、賃金額を他の賃金水準にスライドさせる方法がある。その他にも製品の売価や生産額にスライドさせる方法等もあるが、いずれの方法をとるにしても、標準として何をとるか(物価にスライドさせる場合については、いかなる物価指数をとるか生計費にスライドさせる場合については、CPIをとるか、CPSをとるか等)標準の指数に一定の増減があつた時賃金を一率に同一金額だけ増減するか、それとも指数の増減に比例して賃金額を増減するか等の問題がある。これらについての規定方法の例をあげれば次の如きものがある。

(1) 物価にスライドせしめる方法例

例1

一、 その月発売される日銀(東京消費財闇及自由物価指数)物価庁(東京消費財市場価格指数)の綜合指数の算術平均によつて、その月の賃金をスライドする。

二、 その月発売される指数とは、日銀については前月の指数を云い、物価庁については前月二十日現在の指数を云う。但し、二十日現在の指数が得られない場合には、それに最も近い現在の指数による。

三、 昭和二十六年四月に発売された指数を一〇〇として、五月度賃金よりスライドする。

四、 指数に一%以上の増減があつた場合にスライドする。但し、指数の増減が一%に達しなかつたとき及び一%未満の端数を生じたときは四捨五入する。

五、 その月発表されたスライド指数が三の指数に対して二〇%以上の増減があつた場合は、その二〇%を限りその月二十日現在の各人の基準内賃金の各給与項目の金額に同率に算入する。

六、 社会経済情勢に著しい変動があつた場合、又は採用する指数の算出方法に変更があつた場合はその措置について会社と組合とが協議して決定する。

(附)スライド制改訂に関する協定書

一、その月発売される日銀(東京消費財闇及自由物価指数)物価庁(東京消費財市場価格指数)の綜合指数の算術平均によつてその月の賃金をスライドする。但し、スライド指数が三の指数以下となつた場合には、賃金は一〇〇(昭和二六年四月のベース)として計算する。…(二以下略)

例2

一、1カ月の賃金総額は左の各号により計算する (イ)…(ニ)(略)

(ホ) 前各号により計算した金額は、更に物価指数によりスライドし増減する。

毎月の計算に適用する物価指数は、日本銀行(東京消費財闇及自由物価指数)物価庁(東京消費財配給物価指数)総理府統計局(消費者物価指数)の調査に基く前々月の指数を平均したものにして昭和二六年二月を一〇〇とし換算したものとする。

スライド制の実施は、昭和二七年四月末日迄とする。

(2) 生計費にスライドさせる方法例

例1 会社は、米国労働省労働統計局発行「標準収入家族の消費価格指数」の基礎標準より三%以下増減する毎に、その増減のあつた日附で、それと同率だけ賃金を増減するものとする。但し協約実施後、或は一度増減して後三カ月以内は増減しないものとする。又変化があつた場合でも、この協約に定めてある賃金レベル以下には賃金は減らさないものとする。

例2 本協約の有効期間中労働統計局の生活費指数が○年○月の指数より上下した場合、従業員の賃金を指数一の変化につき○セントずつ調整する。但し○月の率よりは下らないものとする。

指数変化による賃金の増減は、労働統計局の指数が発表された次の週から実施するものとする。

(3) 他の賃金水準にスライドさせる方法例

例1 この協約の有効期間中に、毎月勤労統計に於ける○○産業部門の平均賃金が変化する場合には、会社は其の変化に応じて賃金額を調整する。この賃金の調整は毎月勤労統計の発表があつた翌月から行うものとする。

例2 会社は、同種産業の○○○○会社、○○○○会社、○○○○会社で支払われている賃金に比例した賃金を従業員に支払うものとする。

二 再交渉による賃金調整方法

実質賃金の維持や他の賃金標準との均衡維持等に必ずしもとらわれずに経済情勢の変動や企業の経営状態の変化に応じて賃金額を調整しようとするのであれば、協約の有効期間中に賃金条項についてのみ再交渉を認める方法がある。此の方法とつた場合には、如何なる場合に再交渉を行うか、再交渉は賃金のどの部分につき行うか、再交渉が妥結しなかつた時はどうするか等が問題となるであろう。これらについての規定方法例をあげれば次の如きものがある。

(1) 再交渉時期の規定例

(イ) 一定時期に再交渉を認める方式の例

例1 本協約の賃金条項については、協約締結の日から六カ月毎に一方の当事者の対して書面で三十日前に予告をすれば、再交渉をなしうるものとする。但し、本協約全部の再交渉については、この限りでない。

例2 いずれの当事者も、他方に対して十五日前に書面で通告すれば、六カ月毎に賃金について再交渉をなしうる。但し、双方の合意があれば、それより短い期間であつても妨げない。

(ロ) 生計費指数又は物価指数に一定の変動があつた場合に再交渉を認める方式の例

例1 本協約の効力発生の日より五%以上の生計費の上昇があつたときは、組合は組合員の一般的な賃金値上げを要求することができる。

例2 本協約の有効期間中において、米国労働省労働統計局発表の生計費指数所謂消費者価格指数が、協約実施日の当該指数に比較して一〇%以上上昇した場合には組合はいつでも本協約の賃金条項について再交渉を行う権利を有する。

(ハ) 他の賃金水準に一定の変化があつた場合に再交渉を認める方式の例

例1 本協約の賃金条項は一九四八年三月一八日迄有効とする。但し○○産業の全生産能力の六〇%を占める諸会社の賃金水準に著しい変化があつた場合は、いずれの当事者も相手方に三十日前に書面によつて通知をして、賃金水準について再交渉をすることができる。

例2 当地方に於ける賃金水準が一般に変化した場合は、本協約のいずれの当事者も、右の変化の状況に応じ、本章の賃金改訂に関する条項に従つて賃金再交渉を開始することができる。

(ニ) 会社の支払能力の変化があつた場合に再交渉を認める方式の例

例1 本協約の基本的部分であり、且つ本協約中に表として示されている賃金率は本協約の有効期間中は変更することができない。

但し、会社の書類により決定される賃金支払能力、即ちもつと高い賃金を支払い得るか、今より低い賃金しか支払い得ないかという支払能力及び本産業の一般水準とを基礎として、賃金の再交渉をすることができる。

例2 会社は、その事業が三カ月欠損を続けた場合には、七月一日以降何時でも賃金条項の再交渉をする権利を保留する。この再交渉の期間は、会社が組合に賃金率の変更を行う旨の通告をした日から三十日以上に亘つてはならない。この期間中妥協点に達しないときは本協約の如何なる条項にも拘束されることなく、会社は任意に賃金率の変更をすることができる。

(2) 再交渉方法に関する規定について

以上の如く賃金について再交渉を認める場合にも、賃金体系中の全部について再交渉を認める方法の外、その一部例えば賃金体系中の基本給或は能力給についてのみ認める方法や、賃金体系は変動せずにその額についてのみ再交渉する方法等が考えられる。後者の方法を取る時には、前者の場合よりも交渉の巾が狭くなり、交渉の妥結が容易となろう。

(3) 再交渉が妥結しなかつた場合の措置の規定例

例1 本協約の両当事者は、三〇日前に書面によつて相手方に通告すれば何時でも一般賃金の変更について交渉することができる。当事者は、この通告を受け取つた日から一週間以内に、新賃金額について交渉するために会合しなくてはならない。右の書面による通告をしたから三〇日以内に意見の一致を見るに至らないときは第○条に定める仲裁に附さなければならない。

例2 書面による通告後十五日以内に、又は相互に協定した期間以内に、賃金についての再交渉が妥結に至らなかつた場合は、いずれの当事者もその適当と認める手段を自由に取ることができる。但し本条項により取られる如何なる措置も本協約のストライキ禁止の条項の適用が排除されるだけで、他の条項には影響しない。

例3 本協約は、○年四月一日から一年間有効とする。但し賃金条項について、当事者の双方又は一方は相手方に対し八月末迄に書面で通告することによつて、九月以降に於ける賃金額を変更する為に再交渉することができる。

右通告をした日から五日以内に、当事者は此の問題について交渉を行う目的を以て会合する。九月三〇日迄に此の問題につき意見が一致しなかつたときは、従来の賃金条項は引続き、協約で定められた有効期間満了の日迄有効とする。

 

別紙二

賞与その他の一時的給与に関する規定参考例

賞与、夏季手当、年末手当等の一時的給与の額を予め協約中に具体的に定める場合、その規定方法としては、

1 所定の条件を備える者に対しては一定額を支払う事にする方法

2 賃金額の一定率を支払う事にする方法

3 生産が所定額を超えた場合に一定額又は超過生産額に応じて支給する方法

4 利潤があつた場合、その利潤の多寡に応じて支給する方法

等が考えられる。これらの事例について主としてアメリカの労働協約例中より参考例をあげれば次の如きものがある。

(一) 所定条件を備えるものに定額を支払う例

例1 六十日以上勤務して勤務リストにのつている従業員は、先の方法でクリスマス・ボーナスを支給される。

六ヶ月~一年…五ドル 一年~二年…一五ドル 二年以上…二五ドル

例2 会社は、八月二十五日から一二月三一日迄の間引続き勤務した従業員に三六ドルのボーナスを支払う。

右の期間中、或る部分勤務した従業員に対しては、一週二ドルの割合でボーナスを支払う。

(二) 一定期間に得た賃金の一定率のボーナスを支払う例

例1 会社は、前年一二月一日から一一月三〇日迄に各従業員が受けとつた総賃金の二.五%のボーナスを支払う。このボーナスは、一二月二五日に支払うものとする。但し従業員が退職し、解雇され、或は一時解雇された時には最終の賃金支払いと一諸に支払うものとする。

例2 会社は、毎年五月一日と一一月一日の二回に、従業員である組合員にその前六カ月間の総賃金の五%のボーナスを現金により支給する。但し、解雇され、又は退職した時は、その時に支払われる。

例3 六カ月以上勤務した従業員は支払月の前六カ月間の総収入の一〇%のボーナスを受ける。

支払日は、六月一日と一月一日とする。

病気の為一時解雇されたもの又は現に一時解雇されている者は、正規の時間で働いた期間の収入に基いて支給される。解雇された者及び退職した者はボーナスを受ける資格を持たない。

新たに採用された者は、六カ月継続勤務した時に支払われる。その後は一月一日、六月一日に支払われる。但し第二回目のボーナスは、第一回のボーナスをもらつたときから正規のボーナス支払日の間の総収入に基いて支払われるものとする。

(三) 生産額が所定額を超えた場合に、一定額又は超過生産額に応じて支給する例

例1

一 一人一時間につき合格品七二.九ポンドの生産を、七月一日より翌年六月三一日迄の一年間の実績の基準として決める。

二 生産総ポンド数は、○○工場で製作した完全成品の数量とする。但し製作中の副産物は含まれない。

三 総労働時間数とは、時間給労働者全部が実際に労働した時間である。但し、機械設備時間及び貨物の包装に費やされた時間はこれを除く。

四 毎年末一、による基準生産指数七二.九とその年の実際の生産指数とを比較し、基準生産指数を超えた純生産指数の〇.五%をその年の時間給労働者の賃金支払総額にかけたものを賞与資金とし、次の如く分配する。

(1) 賞与資金の分配にあずかる資格のあるものは時間給労働者で次の各項に該当する者とする。

(イ) 年末に賃金台帳に載つている総ての者

(ロ) 年次有給休暇で欠勤中の者

(ハ) 一年以上勤務した者で年末に一時解雇されている者

(ニ) その年に六五歳で停年退職した者

(2) 労働者各人に対する支払額は、各人の労働時間数に基いて年末に出来るだけ早く分配する。

五 右に定められた賞与支払は、左の方法で達することができよう。

(1) 方法、設備を改善すること。

(2) 物資の浪費を減少すること(これは廃品取扱に要する時間を少くすると同時に、生産ポンド高を増加する事になる)。

(3) 出来るだけ遅滞と停止をなくして機械設備の能力内で生産量を準加すること。

六 会社は、四半期毎に文書を以て、賞与支払の進捗状況を組合に報告する。

七 組合は、組合員中より十分なる資格を有する者を選出して、使用者側委員と共にこの制度の運営に当らしめる。

会社は、右の者にこの制度によつて行つた計算を調査する十分な機会を与える。

右の委員の任期は一年として、両当事者が再選に反対しない限り重任を妨げない。右の者がその任務遂行の為実際に要した時間に対して平常に勤務したと同様の率の賃金を会社と組合とが平等に分担する。

(四) 利潤があつた場合にその利潤の多寡に応じて支給する例

例1 会社は、次の基準によりクリスマス賞与を支給することに同意する。

(イ) 一九四七年の会社の純収益が八〇万ドル以上九〇万ドル未満の時は、各従業員に対し四〇ドルの賞与を支給する。

(ロ) 一九四七年の会社の純収益が九〇万ドル以上一〇〇万ドル未満の時は、各従業員に対し五〇ドルの賞与を支給する。

(ハ) 一九四七年の会社の純収益が一〇〇万ドル以上一二〇万ドル未満の時は、各従業員に対し六〇ドルの賞与を支給する。

(ニ) 一九四七年の会社の純収益が一二〇万ドル以上一三〇万ドル未満の時は、各従業員に対し七〇ドルの賞与を支給する。

(ホ) 一九四七年の会社の純収益が一三〇万ドル以上一四〇万ドル未満の時は、各従業員に対し一〇〇ドルの賞与を支給する。

右の賞与の支給を受ける従業員は一二月一日現在に於て、三〇日以上会社に勤務したものでなければならない。

賞与の支払日は一二月二一日とする。

賞与額の決定は、先ず会社の監査役の決定する純収益により行い、更に民間生産管理局の監査を受け、この監査に於ける支払済の分から過払金を差引くことができる。

この監査の結果、会社の監査と差異を生じ、既払分に追加しなければならない時は、この追加分は翌年一月三一日までにすべての従業員に支払う。

例2 会社と組合は、一九四六年二月一日より始まる会計年度に於て、会社経営により生じた純収益の一割の分配をすることに同意する。

ここに定める一割の純益は、次の基準によつて会社側従業員並に従業員である組合員に分配する。

(イ) 一人当りの実労働時間によつて分配する(注)。

(ロ) 一人当りの分配額は、本会計年度間の実労働時間数に一時間当りの分配金額をかけた金額とする。

(ハ) 右の分配を受ける有資格従業員は、一会計年度中会社の為に三〇〇時間以上働いた従業員とする。有資格従業員が分配の時期以前に離職した場合も分配を受ける。

(ニ) 分配の支払は、毎年一月三一日以後速かに行わなければならない。

純収益の一割の分配額は、毎会計年度の会社経営から生ずる純益に基いて決定されるが、その決定は、次の基準による。

(イ) 総販売高から商品原価並に通常の経営費(盗難、錯誤、値引きによる損失を含む)を差引く。

(ロ) これに他の収入例えば、割引き、受取勘定の利子、貸家料等を加算する。会社は、経営費を構成する項目を不当に増加しないことに同意する。即ち、

(イ) 会社の株主その他会社財産の所有者に対し、配当金利子の支払を増額して経費を増すこと。

(ロ) 通常の利子以上の借金の利子を支払うこと。

(ハ) 会計上の慣行を超えて減価償却準備金その他の経費を増すこと。

(ニ) 固定資産の修繕費として不当な額を計上すること。

等は行わないことに同意する。

又、当事者双方は、損益計算上及び貸借対照表は××計理士によつて証明されなければならないし、又これらの諸表はこの協約の目的に沿う安全且つ最終の会計報告書でなければならない。

この利潤分配に関する規定は、爾後年々続いて行われる事に同意する。但し、この協約に定める手続により、この項の規定を修正し又は廃止することを妨げるものではない。

(注) 分配基金を労働者個々人に分配する方法としては、本例の如く勤続年数に応ずる方法の外に、各人の収入又は先任権等に応じて分配する方法もある。

例3 一九四七年においては、会社は会社役員を除く従業員に対し、所得税を控除しない純益の五分の一を分配する。

従業員に対する分配は、一単位を基準として次のように行われる。

(イ) 各従業員は、年収百ドルにつき一単位を受ける。

(ロ) 各従業員は、一年間継続勤務した時は一単位を受ける。

(ハ) 監督の地位にある従業員は、五単位を受ける。

(ニ) 各部長補佐は、一五単位を受ける。

(ホ) 各部長は、二五単位を受ける。

支払は、半年毎に次の要領によつて行う。

(イ) 最初の支払は、初めの六ヶ月間の会社の帳簿によつて推定される年度純益に基き、一九四七年六月三十日以後できるだけ速かになされなければならない。

(ロ) 第二の支払は、一年間の純益に基き、年度末に前回の支払分を差引いてなされなければならない。従業員が上述の支払をうけるためには、最初の支払の場合は一九四七年六月三十日、第二の支払の場合は、一九四七年一二月三十一日(一九四七年一二月三十一日以前に計算されるときはその計算の日)に、現実に会社に雇われていなければならない。従業員が右の期日から実際に支払がなされる日までの間に会社をやめた場合でも、そのために右の支払をうける権利を失うことはない。

従業員が上述の制度に加入することができるためには、少くとも一年の先任権を獲得していなければならない。しかし一九四七年六月三十日又は一九四七年一二月三十一日現在に於て六ヵ月の先任権を有してはいるが、一年の先任権を有していない従業員は、その働いた六ヵ月間分の利潤分配をうける資格がある。但しこの従業員は次の六ヶ月間会社に雇われて、少くとも一ヵ年の先任権を獲得しなければ、実際に支払いをうけることはできない。

例4 会社と組合は次の利潤分配制に同意する。

七月三十一日現在の財産目録の品目を加えた会社財産の正当な評価額の八十八パーセントを差引いた会社の年純利益を会社と従業員に分配する。右の会社の年純利益は七月三十一日会社の帳簿をしめてから決定し、税を払つた後、組合と会社が半分ずつ分配するものとする。組合はその決定するところに従つて各従業員に分配する。

組合が各従業員に対する支給額の計算その他のためにする正当な事務処理については、会社の職員を利用することを認める。

例5 会社は若し株主に配当を行つた場合は、その配当が発表された日の次の給料日現在の賃金台帳に載っている従業員に五十株の配当に等しい金額を支払うことに同意する。

但し、法律によつて特別の規定のある場合は減額する。支払日は、株主に支払があつた直後の給料支払日とする。

例6 前年中普通株に対し公表した配当額が一株七〇セントを超えるときは、その二〇セント毎に対し、資格ある従業員は、支払の年に先だつ五年間に会社から受けた総所得額(利益ボーナスを除く)の〇.五パーセントを受領する。

右のように会社に利潤があつた場合その利潤の多寡に応じて、従業員に賞与その他の一時金を支給する方法は、一般に利潤分配制度として知られ、欧米において以前より研究され且つ一部で採用されている。しかし利潤分配制度には、種々の目的に従つて、いろいろの方法があるので、日本でこれを採用する場合にはこれらを参考として日本の実情に適した方法を考える必要がある。