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通達:労働協約の締結促進について

 

労働協約の締結促進について

昭和26年5月23日労発第115号

(各都道府県知事あて労政局長通知)

(前略)

よつて、本年六月乃至八月の間概ね左記に準拠し、且つ実情に応じて適宜適切な方途を講じて、労働協約締結促進の協力な啓蒙指導を実施するよう取り計らわれたい。

 

記(略)

続 労働協約締結上の問題点

第一 「労働協約締結上の問題点」の実施について

昨年五月十三日附「労働協約の締結促進について」通牒中に「協約締結上の問題点」として示された協約交渉上の主要争点についての考え方は、今日に於ても依然として妥当なものであり、最近の労働協約の内容も次第にこの考え方に沿つたものとなりつつある。然し乍らこの考え方の趣旨の徹底については、未だ不十分な点もある。

今後の実施に関し、特に注意すべき事項は次の通りである。

一 全般的事項

(1) 労働協約の必要性

労働協約の必要性の認識は、特に中小企業の労使、無所属の小労働組合においては、なお稀薄な場合がある。必要性の認識は、協約締結促進の出発であり、その徹底の為には今後共一層努力をする必要がある。(後記「第三」参照)

(2) 労働協約の双務性

労働協約の双務性の認識は一応普及しているが、なおこれを個々の条文についての妥協とのみ理解し、協約全体における労使の権利と義務、利益と負担の実情に即した均衡の実現に対する理解と努力は不十分な場合がある。労働組合が協約締結により当然に負担する相対的平和義務を認識し、遵守すること、及び使用者が組合側にかかる負担のあることを認識し、考慮することは、双務性を考える上に最も重要な点である。

(3) 労働協約の平和性

労働協約の平和性の認識は相当普及したが、未だ十分ではない。特に相対的平和義務の認識の徹底は協約問題の基幹をなすものである。協約の平和性は一面からいえば労働者の利益の増進と、労働関係の真の安定の反映である。(後記「二(六)(1)(2)(3)」参照)

(4) 社会的経済的基盤

社会的経済的基盤の認識は一般的には一応普及を見たが、今なお現実を無視し、或は時の流れに逆行する如き労使もないではない。社会的経済的基盤を無視しては、実効ある協約は出来ないのみならず、労使いずれの繁栄もあり得ない。(後記「第二、二」参照)

二 各論

(一) 協約に対する考え方及び交渉の態度について

(1) ギヴ・アンド・テイク(前記「一(2)」参照)

(2) 無協約思想(前記「一(2)」及び「第三」参照)

(3) 交渉回避

(4) 連合体との交渉

団体交渉の規模が漸次拡大し、全国組合が自ら交渉に当るようになるのは、労働運動の必然の勢であることが労使によつて認識されるべきである。然し乍ら、上級団体は自らの実力の充実をまたずに無理に交渉に当り、又は交渉上使用者の立場、当該企業の実情を無視することは、組合のためにも益する所がない。(後記「(五)(3)(4)」参照)

(5) 上級団体の労働協約基準案

協約案作成能力と協約交渉力を十分に持たない中小企業の労使には、上級団体の指導と援助が特に必要であるが、かかる場合の労使は、往々にして上級団体の協約基準案を固執し勝ちであり、そのために企業の実情に応じた解決を妨げる場合もあるから、特に注意を要する。

(二) 経営権と労働権の問題について

(1) 経営権と労働権の論争(後記「第二、二」参照)

(2) 社会的経済的基盤(前記「一(4)」及び後記「第二、二」参照)

(3) 経理公開

会社は必要に応じて経理内容を示すと共に、組合は示された経理内容について機密保持の責任を負う旨、適宜協約に明記することは適切なことであろう。

(4) 協議約款(後記「第二、一」参照)

(5) 人事関与(後記「第二、一」参照)

(6) 労働条件の明記

労働条件が具体的且つ詳細に規定されるようになつた事は、最近の協約に見られる著しい特徴である。未だ賃金額を具体的に、明記していない場合があるが、これは画竜点睛を欠くものである。(後記「(六)(1)(2)(3)」及び「第二、四」参照)

(三) 組合員の範囲と争議条項について

(1) 非組合員の範囲(後記「第二、三」参照)

(2) 争議不参加者

(3) 争議協定

(四) シヨツプ制について

(1) ユニオン・シヨツプ

所謂「尻抜けユニオン」がなお相当多い。

(2) 組合員の資格の制限

「組合員は従業員でなければならない」旨の規定が未だ少くない。この点については組合自らがまず反省しなければならない場合も多い。

(3) 唯一交渉団体条項

この種の規定が他の労働組合の団体交渉権を排除し得ないことは、既に一般に認められている所である。唯一交渉団体条項はなお相当にあるが次第に現状確認の宣言たる性格が認識されつつある。

(五) 組合活動について

(1) 組合活動の自由

(2) 政治活動

(3) 交渉委任

現状においては、組合が上級団体以外の第三者に交渉を委任することは殆んどない。上級団体への委任については「連合団体との交渉」の場合と同様に考えるべきである。(前記「(一)(4)及び後記(4)」参照)

(4) 交渉手続

単位組合と上級団体との間の団体交渉に関する権限の分配を、組合内部関係において明確にしておくと同時に、協約締結に当つて使用者に対して明確にしておくことが望ましい。

(5) 専従者

(六) 平和義務

(1) 平和協定

(2) 争議制限条項

(3) 平和義務と平和条項

労働協約の平和性の認識、及びその実現と増進への努力は、相当な進歩を見つつある。協約の有効期間中は、当事者は相対的平和義務を負うものであつて、原則として協約条項の改廃を目的とした争議行為はありえない。協約内容、特に労働条件を具体的且つ詳細に規定することによるこの相対的平和義務によつて労使関係の安定を確保し、更にその領域を拡大することが、平和性の根本である。進んで所謂平和条項、苦情処理がこれを補うことにより平和性は一層推進せられ、やがて協約有効期間中は一切の争議行為を行わない(絶対的平和義務)旨の規定が無理なく実現されることになるのである。(前記「一(3)」参照)

(4) 苦情処理

苦情処理は既に広く協約中に採用され、その最終段階としての仲裁制度もかなりの普及を見るに至つているが、未だ規定のみあつて活用が十分でない場合もある。苦情処理は形式的画一に陥ることなく、企業の規模、実情に応じたものであることが必要である。苦情処理が十分に活用されなければ、労使関係の円滑化のみならず、組合員の日常の具体的利益の確保も殆んど不可能である。

(5) 就業規則との関係

中小企業の一部では、今なお就業規則があれば労働協約は必要でないという誤つた考え方がある。(後記「第三、一(一)(1)」参照)

(七) 協約の効力及び期間について

(1) 協約主体の変更

(2) 協約の改訂申入、破棄

(3) 改訂交渉

当事者の一方的な協約の破棄は殆んど見られなくなつたが、次期協約の交渉が妥結する前に現行協約の有効期間が満了して無協約となる場合が未だ少くない。予告期間の活用、確定期限付自動延長期間の利用等によつて、極力無協約状態の招来を防止する必要がある。又、期間及び改訂更新手続の規定の不備の為、無用の紛争を招いた例があるから、この規定及びそれによる手続は明確なものとしておく必要がある。

(4) 協約期間

第二 協約交渉上の焦点について

現在協約交渉上特に労使の主要争点となつている事項及びこれに対する考え方は、次の通りである。

一 人事条項

使用者は解雇に関する最終決定権が使用者にあるとの原則を確立しようとするのに対し、組合は個々の解雇についても事前同意乃至事前協議を要求している。この労使の主張を調和させる解決方法は労使双方の合意した人事の基準を労働協約中に出来るだけ詳細に明記すること、個々の人事はその基準に基き使用者が行うこと、もし使用者の行う個々の人事に異議ある場合には、苦情処理により労使双方の納得した解決を求めること、もし解決が労使の苦情処理手続で得られないときは最終決定を公正なる第三者の仲裁に求めることが、人事条項として現状においては最も妥当なものと考えられる。

先任権制度を協約に規定出来れば、人事の基準は最も明確なものになり有効であろう。

二 経営権条項

現行法制上企業の管理運営の権限はすべて使用者に属するものであることは明かである。それ故にこそ労働組合はその企業内部にある従業員たる組合員のために使用者との協約によつて、その権限行使に一定の制限を付することが可能であり、且つ必要なのである。故にかかる権限が使用者に在ることを認めまいとする労働組合も、またかかる権限を協約で制限することを一切拒もうとする使用者も、共に甚だ自己矛盾を冒しているものであつて、「経営権」「労働権」の法律論争は無益且つ無意味である。問題はこの企業の管理運営の権限の行使について、協約で如何に規定するのが妥当であるかということで、これは法律論争ではなく、社会的経済的基盤と労使の取引により決するものである。

勿論使用者の企業管理運営の権限と、協約によるその制限とを右の様に理解した上で使用者の企業経営上の立場を出来る限り尊重する趣旨を協約で謳うことは別段有害ではないが、現状においては協約の成否を賭してまで争う必要のある程重要な意味をもつものとは思われない。

特定事項を使用者の専権事項とする規定は、協約による労使の権限分配の一部にすぎないのであつて、これを労使が所謂「経営権条項」として主張し、或は排斥することは誤りである。

三 非組合員の範囲

昨年度通牒中「協約締結上の問題点」に於て指摘した通りであるが、利益代表者の範囲の決定については、次の如き点を考慮する必要がある。

(1) 利益代表者の範囲は、現在まで数多く出された労働委員会の勧告裁定例を参照すれば大体きまる筈である。

労使の自主的交渉により早急に解決できない場合には、本来法律解釈の問題であるから、労働委員会その他公正な、且つ、労働法に通暁した第三者の決定にまつべきである。

(2) 協約締結時に確認された利益代表者の範囲が、次期改訂時に於て再び折衝の俎上に昇つている事例があるが、一旦定まつた利益代表者の範囲を軽々に変更する事は、特別の事情が生じた場合を除き不適当である。

四 賃金、退職金

(1) 現在の経済情勢においては、労働協約中に具体的賃金額を規定する条件が備わっており、又その必要性も大きくなつている。

(2) 現状に於ては、賃金協定が労働協約と別個の協定とされ、その有効期限も異つている場合が多い。労使関係の安定を確保する為に、協約の改定期に当り、賃金協定を労働協約中に繰り入れる事が望ましい。賃金条項の有効期間を労働協約のそれと同一にする事に困難がある場合には、有効期間中の一定時期に賃金条項についてのみ再交渉の機会を与えるとか、その他の調整条項を挿入する事により、その不都合を避けることが出来る。

(3) 労使関係が安定して行くに従い、労働協約中の多くの規定は、改訂期毎に変更するような必要はなくなり、改訂の対象となるのは、専ら協約中の賃金条項のみに限られるという方向に向う筈である。

(4) 退職金規程については社会的水準を考慮すると共に、労使がそれぞれ相手方の立場を十分に尊重することなくしては、妥当な解決は望み難い。

第三 労働協約の必要性について

一 中小企業の場合について

(一) 労働協約の締結率は、小規模の企業、特に上級組合に加盟していない無所属組合において低い。これら中小企業は大企業にもまして労働協約が必要とされる客観的事実が存在するに拘らず、労使共労働協約の必要性に対する認識が薄弱である場合が多い。

(1) 「就業規則があるから殊更に労働協約は必要でない。」という考え方については使用者はいつでも就業規則を改正することができるし、労働組合も亦何時でも労働条件の変更を要求することが出来るから、たとえ現在の就業規則に双方が一応満足していても、就業規則だけでは労使関係の真の安定はあり得ない。

(2) 「問題が生じた都度労使の交渉できめておけばよいから、労働協約はことさら結ばないでもよい」という考え方は誤りであつて、無協約である限り、労使間にはいつも紛争の可能性、危険性が潜在している。然も一度紛争が生ずると中小企業では企業の弾力性に乏しく、且つ感情的要素の介在することが多いため、極めて深刻な対立、抗争に陥り、企業の破滅に導かれる虞れが少くない。

(3) 温情主義

家族主義的感情を以て労使関係の基本とすることは、当面労使関係の無風状態を保持せしめる要因となつているが、これは決して永続的な労使関係の安定と平和を確保する所以ではありえないし、結局企業をして時代に取り残されたものたらしめる虞がある。労働協約の締結によつて労使共得る所こそあれ、失う所はない。協約なくして労使関係の安定と企業の合理性はあり得ないことは、かかる企業についても例外ではない。

(4) 中小企業においては労働条件のみならず企業経営そのものが往々にして不合理性を含んでいる場合がある。かかる場合には、労働協約を締結して一定の賃金その他の労働条件を確保し、合理的なものとすることにより、企業の合理性と繁栄を得ることが出来る。これなくしてはかかる企業はますます経済社会における「後れたる者」「取残されたる者」としての途を辿らざるを得ない。

(5) 企業経営の著しく危殆に瀕しているような場合には、一度に長文の完璧な協約を作ることのみを焦らず、当面必要な問題について個別的な協定を作成し、漸次その数を増してやがて機の熟するのを待つて集大成して労働協約書とすることも考えられる。労使協力して企業の危機を脱した場合には、直ちに協約を締結することが労働者の為の労苦に報いる所以でもある。

(6) 労働協約は何も大企業の通りのものが理想的なものではない。それぞれの企業はその実情に即した協約であるべきである。従来円滑に施行されている慣行、規定等があれば、それをそのまま協約に成分化する丈でも意味がある。実情を無視した協約は如何に立派でも絵に書いた餅である。外部からも協約指導を行うに当つてもこの点は最も注意すべきである。

(二) 中小企業において協約の締結率が低い最大の原因は組合の力の弱いことにある。使用者がたとえ協約について理解の乏しい場合でも、組合の力で強ければ協約を締結することが出来る筈である。

(1) 協約の交渉は組合の組織強化の為の協力を伴わなければ、実効はあげ難い場合が多い。

(2) 中小企業の労働者が小人数で企業別の労働組合を結成してみても、その活動能力、交渉能力には限界がある。近接地域における同一産業乃至異産業の数個の企業の労働者が相集つて一の単位組合を組織し、又は数企業を横断する職業別組合を結成すること等により、相当人数を擁した協力な組合を組織することが、協約締結の為にも必要である場合がある。

(三) 中小企業の協約締結乃至その為の組織強化については、上級団体その他外部の指導と援助が特に必要である場合が多いが、同時にその場合に次のような事項を注意する必要がある。

(1) 中小企業には未組織の分野が相当に多く、既組織の組合及びそれに対応する使用者の利益の為にも、これら未組織労働者の組織化が必要である。

(2) 中小企業は経営の弾力性に乏しい場合が多く、且つ、個性の差異が甚だしいから、外部からの指導、援助は苟も画一に陥ることなく、実情に即した措置が特に必要である。

(3) 中小企業は労使共労働運動に対する経験、認識が狭く且つ低い場合が多いから、労働協約の必要性を認識させる為には、高遠な理論や抽象的一般論のみではなく、その企業の実情に切実な身近な具体的問題、卑近な実例をとらえて、協約がなければ労使共不利益を蒙る所以、協約により労使の利益が増進する所以を納得せしめるようにする必要がある。

二 無協約の回避について

大なる譲歩よりはむしろ無協約を選ぶという「オール・オア・ナツシング」の考え方は、協約交渉にとつては下の下である。

相互の妥協と譲歩なくして交渉は成立せず、又一度に十分に満足な協約を締結しようとしても無理である。不満乍らも呑んだ規定が実際適用されてみると案外具合のよいこともあるものである。

やむを得ない場合には本協約の妥結まで一時仮協定を結んでおくことも考えられるべきであり、最悪の場合には妥結出来た事項丈でも個別的協定として締結し、漸次その領域を拡大すること、どうしても妥結できない点のみを除いて他の部分のみを成文化して協約とすることも、全然無協約となるよりはましである。

「協約なければ労働なし」、協約なき所には、真の意味の近代的労働は存在し得ない。無協約状態は、その企業における労使関係の不円滑か、又は企業の非近代性と組合の弱体を外部に示すものである。