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通達:労働協約の締結促進について

 

労働協約の締結促進について

昭和25年5月13日労発第157号

(各都道府県知事あて労働省労政局長通知)

 

表記に関しては、今般労働次官より通牒が発せられたのであるが(昭和二十五年労働省発労第二十一号「労働協約の締結促進について」)右通牒による労働協約の締結促進についての具体的措置は、左記によられたい。

なお、右事務次官通牒及び本通牒は、従来の労働次官又は本職からの通牒乃至労働省の労働教育指導方針と何等矛盾し、又はこれを変更するものではなく、従来の経験と現下の情勢に応じて右通牒等の趣旨を敷衍補完するものであるから、念のため申し添える。(中略)

(4) 問題点の解明

別紙二「労働協約締結上の問題点」により、協約に関する疑義に対する妥当なる考え方を明かにし、(2)(3)を通じてその趣旨を周知徹底せしめること。(中略)

 

〔別紙二〕

労働協約締結上の問題点

一 協約に対する考え方及び交渉の態度について

(1) ギヴ・アンド・テイク

労働協約は、ギヴ・アンド・テイクの取引交渉により労働者側は一定期間の労働条件の安定と地位の確保、使用者側はその間の労使関係の安定による企業の平和という利益を得るのであつて、自分側のみに一方的に有利な協約を相手に押しつけようと固執することは協約の本旨に反し、又協約の円満な締結をこ阻むものである。

(2) 無協約思想

協約によつて相手方の拘束をうけるよりむしろ無協約を可とする考え方は、労使いずれたるを問わず民主的な労使関係を破壊する考え方である。

(3) 交渉回避

使用者の団体交渉に応ずる義務は、誠意をもつて妥結の為に努力する義務を含むのであつて、形式的には交渉に応じつつ、実質的には悪意を以て故らに妥結を不可能ならしめるような態度をとる事は、やはり交渉義務に反するものである。組合側も亦使用者より団体交渉の申入があつたときには、これに誠意を以て応ずる道義的義務を負うと解すべきである。

(4) 連合体との交渉

当該単位組合と交渉するか全国組合その他の連合体と交渉するか何れが適切であるかは具体的実情により選択せられるべきであるが、何等正当な理由なく全国組合、連合体との交渉に応じないことは不当である。

(5) 上級団体の協約基準案

上級団体から指示した協約基準案を楯に一歩も妥協せぬ頑強な態度、及び協約基準案に妥協の余地を全く認めないような上級団体の下部構成員に対する統制は、共に協約締結を不当に妨げるものである。

二 経営権と労働権の問題について

(1) 経営権と労働権の論争

所謂経営権と所謂労働権はいずれも内容の明確な法的概念として確立したものではない。労使間の経営権と労働権の範囲に関する争は、それぞれが別個の観念を抱いてイデオロギー的な論議を闘わしていることが多く、無益である。むしろかかるイデオロギー的抽象論を離れて、個々の具体的事項について権利義務を明確ならしめる双方の実務的な態度こそ最も必要である。

(2) 社会的経済的基盤

労働協約は社会的経済的基盤の上に立つて存立し得るものであり、又現行法制上経営の管理運用の権限は最終的には使用者に属するのであるから労働組合が経営に参与する限度はこの社会的経済的諸制度と現行諸法制の枠によつて制約されるのであつて、これを無視して政治的社会的要求を一協約を以て強行せんとすることは社会における企業の繁栄、存立を脅すものである。

使用者としては徒らに組合を抑圧、制約することなく、右の限度において出来る限り正当な組合運動に対して理解ある態度を以て臨むべきである。

(3) 経理の公開

使用者が交渉上必要な場合にも経理の誠実な公開を絶対に拒むことは正しくない。同時に組合は特別の必要がないにも拘らず経理公開を要求し、又は組合に示された経理内容を軽卒に取扱うような態度をとるべきではない。

(4) 協議、同意約款

協約中に協議、同意約款がある場合は使用者が誠意をつくして組合と協議を妥結し、又はその同意を得る如く最善の努力を尽す義務を負うことはいうまでもない。一方組合側も協議権、同意権の濫用の法理が裁判所で認められていることに留意しなければならない。

(5) 人事関与

組合の人事関与についても、(1)、(2)に掲げた所に従うべきである。具体的には人事の基準は出来る限り詳細に実情に則して協約中に規定し、個々の人事発令は使用者が行うこととし、それが右の基準に違反する等不当なるものである場合は苦情処理手続を以て処理することが現状に於て最も妥当であると思われる。

(6) 労働条件の明記

労働条件は労使の合意によつて決定し、協約に明記すべきであり、その個人に対する適用は(5)と同様になすのが妥当であると思われる。

協約に労働条件を詳細且つ具体的に明記することは協約の平和性保持の為にも絶対に必要である。

三 組合員の範囲と争議条項について

(1) 非組合員の範囲

使用者の主張する非組合員の範囲は労組法第二条第一号の範囲を超えて広すぎる場合があり、組合側の主張する非組合員は同じく狭すぎる場合がある。両者共卒直に法の趣旨を認識し、虚心に実情を検討して利益代表者の範囲を定めるべきである。

利益代表者以外の者に関しては、非組合員として定めるのでなく、協約適用上の特例、争議不参加者乃至はユニオン・シヨツプ条項非適用者として協定することが理論的に正しい。

(2) 争議不参加者

争議不参加者は争議のフエアプレーと早期解決の為に定められるのであつて、使用者の一方的利便のためにこの範囲を広く定めようとすることは正しくない。争議不参加者は争議の早期解決の為必要な場合もあるから組合側がこれを組合弱体化としていかなる場合にも一切認めまいとする態度はあまりにも狭量である。

(3) 争議協定

争議協定はいわば国際法上の戦時法規に該当するもので、いずれか一方のみの利益の為に規定するものではない。

争議協定はストライキ直前に定めようとしてもなかなかまとまるものでないから、出来る丈協約中に予め詳細に規定しておくことが望ましい。

四 シヨツプ制について

(1) ユニオン・シヨツプ

クローズド・シヨツプ、ユニオン・シヨツプをとるかオープン・シヨツプがよいかは実情に応じ労使が自主的に定めるべきものであるが、所謂「尻抜けユニオン」の如き曖昧なものは、後日紛争の種となることが多いから予め明確な規定を置くことが望ましい。

(2) 組合員の資格の制限

ユニオン・シヨツプ条項と引き換えに「組合員は従業員でなければならない」という条項を協約に規定することは、組合の純粋な内部組織問題を協約で拘束することになり、不当である。これを強要することは使用者の不当労働行為となる。

(3) 唯一交渉団体条項

「会社は組合を唯一の団体交渉の相手方と認める」旨の条項は、他の組合とは団体交渉をしないという意味ならば厳格なユニオン・シヨツプの場合以外は労組法第七条第二号違反を約することとなり現行法の下では無効の規定である。

五 組合活動について

(1) 組合活動の自由

組合活動の自由は、他人の権利を尊重する義務を伴うのであつて、無制限のものではない。

特に使用者の施設管理の権限、労働規律維持の権限に牴触する組合活動は、使用者の承認なくしては行えないものである。

(2) 政治活動

使用者が施設管理権、労働規律権の範囲を出て一切の政治活動を禁止することを求めるのは行き過ぎであり、憲法、労働基準法にも牴触する場合もあると思われる。又組合側も政治活動が種々微妙な問題を孕んでいること、又組合の本来の任務ではないことに鑑み、慎重な自制が望ましい。

(3) 交渉委任

団体交渉を第三者に委任することを禁止することを協約を以て規定することは、適当なものとは思われない。

(4) 交渉手続

団体交渉の手続は協約において予め詳細に規定しておくことが望ましい。又当事者は平和的且つ秩序ある交渉を進行させる為に下部組織の行動についてもこれを統制し、相手方に対し責任をとらなければならない。組合の下部の無統制な行動は時として使用者に団体交渉拒否の「正当な理由」を与えることになることがある。

(5) 専従者

組合事務専従者の人権等は、労働組合が自ら決すべき事項であるが、会社従業員中からこれを採用し、その復職権、先任権等を確保する場合には、これらすべてについて協約において明確に規定しておくことが必要である。専従者の具体的人選は会社従業員中から専従者に選任する場合でも原則として組合の自由であるが、その者の就任が会社の業務上重大な支障を来す場合には、団体交渉を以て解決することが妥当であると思われる。この範囲を超えて会社が専従者の具体的人選に干渉することは妥当でない。

六 平和義務について

(1) 平和協定

労働協約は、賃金その他の労働条件の基準を具体的に定めることによつて労働者の地位の安定を図ると共に、企業の平和と安定を確保するという平和協定たることをその本質としているのである。労働条件を具体的に規定することにより一定期間の平和が確保されるのでなければ、協約締結の意義は大半失われるということができる。

(2) 争議制限条項

使用者が具体的な賃金額その他の労働条件を協約に明記することを拒み乍ら争議行為の制限、禁止を求めることは、協約の双務性を無視したものである。

争議制限条項は組合がその争議権という武器を一定期間鞘に納めてそのかわり有利な条件を獲得、確保せんとするものであつて、当然の取引であり、憲法の「団体行動権」を侵すものではない。

(3) 平和義務と平和条項

協約期間中は協約条項の改変について争議行為を行わないこと(相対的平和義務)は当事者の当然の義務であるが、かかる平和義務及び出来得れば協約期間中は一切の争議行為を行わないこと(絶対的平和義務)を、協約中に明記することが望ましい。

平和条項を置き、これが遵守される前提として協約が労働条件等を洩れなく具体的に規定していること、及び協約期間中の苦情紛争を平和的に処理する苦情処理手続等が協約中に規定されていることが必要である。

組合側の争議行為を制限禁止した場合は、使用者側は単にロツク・アウトを行わないのみでなく、人事その他に関する権限の行使について若干の譲歩を協約で規定することは、均衡上妥当である。

(4) 苦情処理

協約の有効な実施と平和維持の為には苦情処理手続は不可決である。

苦情処理は最後は第三者の仲裁によつて最終的に解決するように定めなければその効果の大半は失われるものである。

(5) 就業規則との関係

労働条件等は就業規則に規定されてあつても、更に協約で規定しておくことが協約の本質上必要である。

七 協約の効力及び期間について

(1) 協約主体の変更

協約の主体の変更による失効を一方の認定にかからしめる(「会社は組合が同一性を失つたと認めたときは破棄できる」等)ことは好ましくない。

(2) 協約の改訂申入、破棄

協約の改訂申入は、改訂協約案を具して行い、且つ申入後直ちに交渉をなす用意と意志を有することが必要であり、又自動延長に対する反対の意志表示も交渉を尽くした後なお妥結にいたらない場合に始めて許されると解すべきである。

(3) 改訂交渉

労使共予告期間を活用し、出来る丈早期に次期協約の交渉を開始し、無協約状態を招来しないように配慮すべきである。

(4) 協約期間

現状においては自動更新及び確定期限付自動延長を伴う協約期間の規定が、無協約状態を避けるため有効と思われる。(かかる期限付自動延長は労組法第十五条に違反しない。)