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労働基準法施行規則の一部を改正する省令の公布について
令和4年11月28日基発1128第3号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
労働基準法施行規則の一部を改正する省令(令和4年厚生労働省令第158号。別添1参照。)が本日公布されたところであり、令和5年4月1日から施行される予定である。改正後の労働基準法施行規則の内容等は下記のとおりであるので、円滑な施行に万全を期すため、所要の準備及び施行に遺漏なきを期されたい。なお、申請書の様式等については、別途示すこととする。
記
1 改正の趣旨
賃金の支払方法については、従来から、通貨のほか、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号。以下「規則」という。)第7条の2第1項において、使用者は、労働者の同意を得た場合には、銀行その他の金融機関の預金又は貯金の口座(以下「預貯金口座」という。)への振込み及び証券会社の一定の要件を満たす預り金に該当する証券総合口座(以下「証券総合口座」という。)への払込みによることができることとされてきた。
昨今、キャッシュレス決済の普及や送金サービスの多様化が進む中で、資金移動業者の口座への資金移動を給与受取に活用するニーズも一定程度見られる。
このような状況を踏まえ、今般、使用者が、労働者の同意を得た場合に、一定の要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(以下「指定資金移動業者」という。)の口座(以下「指定資金移動業者口座」という。)への資金移動による賃金支払をできることとする改正を行ったものである。今般の改正は、賃金の支払方法に係る新たな選択肢を追加し、労働者及び使用者の双方が希望する場合に限り、賃金の支払方法として、指定資金移動業者口座への資金移動によることを可能とするものであり、当該支払手段を希望しない労働者及び使用者に対して強制するものではないことは言うまでもない。なお、預貯金口座への賃金の振込み及び証券総合口座への賃金の払込みの取扱いについては、従前のとおりである。
2 改正の内容
(1) 規則第7条の2第1項柱書及び同項第3号柱書について
使用者は、労働者の同意を得た場合には、賃金の支払方法として、規則第7条の2第1項第3号イからチまでの要件を満たすものとして厚生労働大臣の指定を受けた資金移動業者(指定資金移動業者)のうち労働者が指定する者の第二種資金移動業に係る口座への資金移動によることができることとしたこと。
なお、同号イからチまでの要件は、資金移動業者の指定要件であるが、賃金支払はこれらの要件に係る措置が講じられた資金移動業者の口座に限り認められること。
また、使用者が、指定資金移動業者口座への資金移動による賃金支払を行う場合には、労働者が預貯金口座への振込み又は証券総合口座への払込みによる賃金支払を選択することができるようにするとともに、当該労働者に対し、別途示す同意書の様式例を用いる等により指定資金移動業者口座に関する必要な事項を説明した上で、労働者の同意を得なければならないこと。具体的には、下記を含む内容を説明すること。
・資金移動業者は、預金若しくは貯金又は定期積金等(銀行法(昭和56年法律第59号)第2条第4項に規定する定期積金等をいう。)を受け入れていないこと。併せて資金決済に関する法律(平成21年法律第59号。以下「資金決済法」という。)等における滞留規制を踏まえ、指定資金移動業者口座への資金移動を希望する賃金の範囲及びその金額(希望額等)は、各労働者において、その利用実績や利用見込みを踏まえ、為替取引に用いられる範囲内に設定する必要があること。また、希望額等の設定に当たっては、指定資金移動業者が設定している口座残高上限額(100万円以下)及び指定資金移動業者が1日当たりの払出上限額を設定している場合には当該額以下に設定する必要があること。
・指定資金移動業者の破綻時には、指定資金移動業者と保証委託契約等を結んだ保証機関(金融機関、保証会社その他保証を行う主体をいう。以下同じ。)により、労働者と保証機関との保証契約等に基づき、労働者に口座残高の弁済が行われること。
・労働者の意思に反して権限を有しない者の指図が行われる等により指定資金移動業者口座の資金が不正に出金等された際に、労働者に過失がない場合には損失額全額が補償されること。また、労働者に過失がある場合には個別対応を妨げるものではないが、損失を一律に補償しないといった取扱いとはされないこと。なお、労働者の親族等による払出の場合、労働者が虚偽の説明を行った場合等においては、この限りではないこと。損失発生日から一定の期間内に労働者から指定資金移動業者に通知することを補償の要件としている場合には、当該期間は少なくとも損失発生日から30日以上は確保されていること。
・払出(現金化)の手段については、各指定資金移動業者により異なるものの、現金自動支払機(CD)又は現金自動預払機(ATM)の利用や預貯金口座への出金等の通貨による受取が可能となる手段を通じて、少なくとも毎月1回は労働者に手数料負担が生じることなく指定資金移動業者口座から払出ができること。
・口座残高については、口座に係る資金移動が最後にあった日から少なくとも10年間は債務が履行できるようにされていること。
なお、労働者への説明については、使用者から指定資金移動業者に委託することも認められるものの、労働者の同意については、使用者が得る必要があること。
規則第7条の2第1項における労働者の「同意」は、書面又は電磁的記録によること。
また、同項第3号柱書の労働者による「指定」とは、労働者が賃金に係る資金移動の対象として当該労働者本人名義の指定資金移動業者口座を指定するとの意味であって、使用者又は使用者から委託された指定資金移動業者が、別途示す同意書の様式例を用いる等により、必要な事項を説明した上で、この指定が行われれば、使用者から同意を強制された等特段の事情がない限り同意が得られているものであること。
また、「資金移動」は、賃金の全額が所定の賃金支払日に払い出し得るように行われることを要するものであること。
なお、指定資金移動業者口座への賃金の資金移動を実施する使用者に対して指導する事項については、令和4年11月28日付け基発第4号を参照すること。
ア 規則第7条の2第1項第3号イについて
規則第7条の2第1項第3号イにおける「労働者に対して負担する為替取引に関する債務の額が百万円を超えることがないようにするための措置」とは、指定資金移動業者口座の資金に係る受入上限額を100万円以下の額に設定していることを指すこと。また、「当該額が百万円を超えた場合に当該額を速やかに百万円以下とするための措置」とは、当該資金が100万円を超えた場合の超過分等の送金先となる預貯金口座又は証券総合口座を労働者があらかじめ指定しておき、当該資金が100万円を超えた場合に、指定資金移動業者が当日中に指定資金移動業者口座から当該預貯金口座等への送金を行うことで当該資金を100万円以下とするように措置していることを指すこと。この場合の送金先は、労働者があらかじめ指定する預貯金口座又は証券総合口座に限り、他の指定資金移動業者口座を送金先とすることは認められないこと。
ただし、受入上限額を100万円以下の額に設定する場合においても、使用者の賃金支払義務の履行を確保するため、賃金の支払により受入上限額を超過する場合には、受入上限額を超過する資金も一時的に受け入れることが求められること。その上で、当該資金が100万円を超えた場合には、指定資金移動業者が当日中に指定資金移動業者口座から当該預貯金口座等への送金を行うことで当該資金が100万円以下となるように措置していることが必要であること。
なお、指定資金移動業者が労働者に払出等を促し、労働者が自ら払出等を行うこと等により、口座残高が100万円以下となった場合には、指定資金移動業者が超過分の預貯金口座又は証券総合口座への送金を行う必要はないこと。
イ 規則第7条の2第1項第3号ロについて
規則第7条の2第1項第3号ロにおける仕組みを有していることとは、債務の履行が困難となったとき、すなわち、指定資金移動業者に係る破産手続開始の申立て、再生手続開始の申立て、更生手続開始の申立て、特別清算開始の申立て若しくは外国倒産処理手続の承認の申立て又は資金決済法第59条第2項第1号に規定する権利の実行の申立て(以下「破産手続開始の申立て等」という。)があったときに、労働者が賃金受取に利用している指定資金移動業者口座の資金全額に係る債務について、当該指定資金移動業者に代わり、保証機関が速やかに当該労働者に弁済することを内容とする保証に係る保証委託契約を指定資金移動業者と保証機関との間で締結すること及び保証契約を労働者と保証機関との間で締結すること等により、指定資金移動業者の破綻時の資金保全が実効性を伴って担保されているものであること。
なお、同号ロにおける「口座について、労働者に対して負担する為替取引に関する債務の全額」とは、労働者が賃金受取に利用している指定資金移動業者口座の資金全額に係る債務を指し、当該口座の資金に係る債務のうち使用者から支払われた賃金相当額に係る債務以外のものも含まれること。
また、同号ロにおける「速やかに」とは、指定資金移動業者に係る破産手続開始の申立て等が行われた上で、労働者が指定資金移動業者又は保証機関に弁済を請求してから6営業日以内であることを指すこと。ただし、労働者からの請求を要さずに弁済が行われる場合には、指定資金移動業者に係る破産手続開始の申立て等が行われてから6営業日以内であることを指すこと。
ウ 規則第7条の2第1項第3号ハについて
規則第7条の2第1項第3号ハにおける「労働者の意に反する不正な為替取引その他の当該労働者の責めに帰することができない理由で当該労働者に対して負担する為替取引に関する債務を履行することが困難となつたことにより当該債務について当該労働者に損失が生じたとき」とは、労働者の意思に反して権限を有しない者の指図が行われる等により指定資金移動業者口座の資金が不正に出金された場合等を指すこと。
同号ハにおける「当該損失を補償する仕組みを有していること」とは、指定資金移動業者の利用規約等により、労働者に過失が無い場合には損失額全額を補償することとしており、また、労働者に過失がある場合には個別対応を妨げるものではないが、損失を一律に補償しないといった取扱いとはしていないこと。なお、労働者の親族等による払出の場合、労働者が虚偽の説明を行った場合等においては、この限りではないこと。
また、損失発生日から一定の期間内に労働者から指定資金移動業者に通知することを補償の要件とする場合には、当該期間は少なくとも損失発生日から30日以上は確保すること。
エ 規則第7条の2第1項第3号ニについて
規則第7条の2第1項第3号ニにおける措置とは、指定資金移動業者の利用規約等により指定資金移動業者口座の資金に係る債務の有効期限を定める場合に、口座に係る資金移動が最後にあった日から少なくとも10年間は債務を履行できるようにしていることを指すこと。また、「特段の事情」とは、警察からの要請により口座の凍結等が行われる場合が該当しうること。
オ 規則第7条の2第1項第3号ホについて
規則第7条の2第1項第3号ホにおける「口座への資金移動が一円単位でできるための措置を講じていること」とは、賃金の支払を含む口座への資金移動を1円単位で行うことができるものであること。
カ 規則第7条の2第1項第3号ヘについて
規則第7条の2第1項第3号ヘにおける「現金自動支払機を利用する方法その他の通貨による受取ができる方法により一円単位で当該受取ができるための措置」とは、現金自動支払機(CD)又は現金自動預払機(ATM)の利用や預貯金口座への出金等の通貨による受取が可能となる手段を通じて指定資金移動業者口座の資金を1円単位で払出できることを意味するものであること。例えば、預貯金口座への出金による払出の場合、預貯金口座への出金が1円単位でできることをいうこと。なお、1円単位で払出が可能な手段は、1つ以上有していることで足り、指定資金移動業者が提供する払出の方法の全てにおいて、1円単位の払出が求められるものではないこと。
また、「少なくとも毎月一回は当該方法に係る手数料その他の費用を負担することなく当該受取ができるための措置」とは、少なくとも毎月1回は、労働者に手数料負担が生じることなく指定資金移動業者口座から払出をすることができることを指すこと。例えば、預貯金口座への出金による払出の場合、預貯金口座への出金が手数料負担なくできることをいい、更に出金先の預貯金口座からの払出に係る手数料についてはこの限りではないこと。「毎月一回」とは、毎月1日から月末までの間に1回を意味すること。
キ 規則第7条の2第1項第3号トについて
規則第7条の2第1項第3号トにおける「賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況」とは、当該指定資金移動業者における、賃金支払に関する業務の実施状況及び資金移動業以外の事業も含めた財務状況を指すものであること。
また、同号トにおける「適時に厚生労働大臣に報告できる体制を有すること」とは、事業年度等ごと及び厚生労働大臣から報告を求められた場合に、必要な事項を厚生労働大臣に報告できる体制を整備していることを指し、指定資金移動業者だけでなく同号ロの資金保全に係る要件を満たすために契約を締結している保証機関についても報告体制を求めるものであること。
ク 規則第7条の2第1項第3号チについて
規則第7条の2第1項第3号チにおける「賃金の支払に関する業務を適正かつ確実に行うことができる技術的能力を有し、かつ、十分な社会的信用を有すること」とは、次に掲げる事項を満たすことを含め、総合的に判断されるものであること。
・指定申請時において、資金決済法第55条の規定による業務改善命令又は同法第56条第1項の規定による業務停止命令がなされていないこと。
・賃金が確実に支払われるための措置として、例えば、賃金支払が開始される際に、労働者が指定した資金移動業者の口座が存在することを確認する措置、賃金支払が認められた資金移動業者の口座であることを確認する措置等を講じていること。
・「プライバシーマーク」、「ISMS認証」その他の第三者機関による個人情報の取扱に係る認証を取得していること。
(2) 規則第7条の3について
規則第7条の2第1項第3号柱書に規定する厚生労働大臣の指定を受けようとする資金移動業者は、第2種資金移動業を営むこと及び同号イからチまでの要件を満たすことを証明する書類を添付し、指定申請書を厚生労働大臣に提出しなければならないこと。
なお、同号トの要件を満たすことを証明する書類には、資金保全に係る要件を満たすために保証契約等を締結している保証機関から取得した厚生労働大臣への適時の報告に関する誓約書も含まれること。
(3) 規則第7条の4について
指定資金移動業者は、規則第7条の2第1項第3号イからチまでの要件に係る事項のいずれかを変更するときは、あらかじめ、変更届出書を厚生労働大臣に提出しなければならないこと。
また、資金決済法第41条第1項の規定による変更登録又は同条第3項若しくは第4項の規定による変更の届出を行ったときは、遅滞なく、変更届出書を厚生労働大臣に提出しなければならないこと。
(4) 規則第7条の5について
厚生労働大臣は、賃金の支払に関する業務の適正かつ確実な実施を確保するために必要があると認めるときは、指定資金移動業者に対し、賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況に関し報告を求め、又はその他必要な措置を求めることができること。
例えば、指定資金移動業者は、事業年度ごとに、業務の実施状況に係る報告書を提出すること。また、指定資金移動業者及び当該指定資金移動業者と保証契約等を締結する保証機関は、厚生労働大臣から報告を求められた場合に、必要な事項を厚生労働大臣に報告すること。
(5) 規則第7条の6について
厚生労働大臣は、①資金決済法第55条の規定による業務改善命令又は第56条第1項若しくは第2項の規定による登録の取消し等の処分が行われたとき、②指定資金移動業者が規則第7条の2第1項第3号イからチまでの要件を満たさなくなったとき、又は③不正の手段により指定を受けたときは、指定を取り消すことができること。
また、厚生労働大臣が指定を取り消した際には、厚生労働大臣は速やかにその旨を公告すること。
なお、当該資金移動業者の口座に対して賃金支払を行っていた使用者は、当該賃金支払を行っていた労働者に速やかに確認の上、使用者が既に当該資金移動業者の口座への送金指図を行っていた場合等の特段の事情がない限り、以降の賃金支払を労働者が指定する別の方法によって行う必要があること。
(6) 規則第7条の7について
指定資金移動業者は、指定を辞退しようとする場合は、遅滞なく、指定辞退届出書を厚生労働大臣に提出しなければならないこと。また、資金決済法第61条第1項の規定による廃止又は破産手続開始の申立等の届出をした場合は、遅滞なく、廃止等届出書を厚生労働大臣に提出しなければならないこと。
指定資金移動業者が指定を辞退したときは、当該指定はその効力を失うこと。また、資金移動業者が指定を辞退しようとするときは、その日の30日前までに、官報、時事に関する事項を掲載する日刊新聞紙又はインターネットに接続された自動公衆送信装置を使用するものによる措置により、その旨を公告するとともに、全ての営業所の公衆の目につきやすい場所に掲示しなければならないこと。また、指定資金移動業者が公告をしたときは、直ちに廃止公告届出書に、当該公告の写しを添付して、厚生労働大臣に提出しなければならないこと。
なお、当該指定資金移動業者の口座に賃金支払を行っていた使用者は、当該賃金支払に係る労働者に速やかに賃金支払の別の方法を確認の上、使用者が既に当該資金移動業者の口座への送金指図を行っていた場合等の特段の事情がない限り、以降の賃金支払を労働者が指定する別の方法によって行う必要があること。
(7) 規則第7条の8について
指定資金移動業者は、指定が取り消されたとき、当該指定資金移動業者であった者は、使用者の賃金の支払の義務の履行を確保するため必要があると厚生労働大臣が認めるときは、なお指定資金移動業者とみなすものとすること。
また、当該指定資金移動業者であった者については、指定資金移動業者とみなされている間、規則第7条の5が適用され、厚生労働大臣は、賃金の支払に関する業務の適正かつ確実な実施を確保するために必要があると認めるときは、当該者に対し、賃金の支払に関する業務の実施状況及び財務状況に関し報告を求め、又はその他必要な措置を求めることができること。
また、当該指定資金移動業者であった者については、指定が取り消された後であっても、指定要件のうち契約(利用規約等)に基づき講じられている措置については、同契約の変更が無い限り契約上の義務として引き続き履行が求められること。
なお、当該指定資金移動業者であった者の口座に賃金支払を行っていた使用者は、当該賃金支払に係る労働者に速やかに賃金支払の別の方法を確認の上、使用者が既に当該指定資金移動業者口座への送金指図を行っていた場合等の特段の事情が無い限り、以降の賃金支払を労働者が指定する別の方法によって行う必要があること。
別添<改正省令:略>