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通達:胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について

 

胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準について

平成18年1月25日基発第0125002号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

 

胸腹部臓器に係る労働基準法施行規則及び労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(平成18年厚生労働省令第6号)の施行については、平成18年1月25日付け基発第0125001号をもって通達したところであるが、今般、別紙のとおり「胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準」(以下「改正認定基準」という。)を定めたので、下記に留意の上、その事務処理に遺漏なきを期されたい。

なお、本通達の施行に伴い、昭和50年9月30日付け基発第565号別冊「障害等級認定基準」(以下「基本通達」という。)の一部を下記3のとおり改正する。

 

1 改正の趣旨

胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準については、昭和50年以降一部を除き改正されず、今日における医学的知見等の進展に適合しない部分も見られたことなどから、「胸腹部臓器の障害認定に関する専門検討会」を開催し、その検討結果を踏まえて胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準の改正を行うとともに、口の障害に関する障害等級認定基準の一部について必要な改正を行った。

2 主な改正点

(1) 胸腹部臓器の障害について

ア 呼吸器の障害

呼吸機能に障害を残したものについては、原因となった傷病や臓器により区別することなく、動脈血ガス分圧、スパイロメトリー等の検査結果等に応じて、第1級から第11級に区分することとしたこと。

イ 循環器の障害

(ア) 心機能が低下したもの

心筋梗塞、狭心症、心臓外傷等の後遺症状により心機能が低下したものについては、心機能の低下による運動耐容能の低下の程度に応じて、第9級又は第11級とすることとしたこと。

(イ) 除細動器又はペースメーカを植え込んだもの

除細動器を植え込んだものについては、第7級とすることとしたこと。また、ペースメーカを植え込んだものについては、第9級とすることとしたこと。

(ウ) 房室弁又は大動脈弁を置換したもの

房室弁又は大動脈弁を置換したものについては、継続的な抗凝血薬療法の施行の有無により、第9級又は第11級とすることとしたこと。

(エ) 大動脈に解離を残すもの

大動脈に偽腔開存型の解離を残すものについては、第11級とすることとしたこと。

ウ 腹部臓器の障害

(ア) 食道の障害

食道の狭さくによる通過障害を残したものについては、第9級とすることとしたこと。

(イ) 胃の障害

胃の障害については、胃の切除により生じる消化吸収障害等の症状の有無により、第7級から第13級に区分することとしたこと。

(ウ) 小腸の障害

a 小腸を大量に切除したもの

小腸を大量に切除し、消化吸収障害を残すものについては、残存する空腸及び回腸の長さに応じて、第9級又は第11級とすることとしたこと。

b 人工肛門を造設したもの

人工肛門を造設したものについては、パウチ等による維持管理の困難性の有無により、第5級又は第7級とすることとしたこと。

c 小腸皮膚瘻を残すもの

小腸皮膚瘻を残すものについては、瘻孔から漏出する小腸内容の量及びパウチ等による維持管理の困難性の有無に応じて、第5級から第11級に区分することとしたこと。

d 小腸の狭さくを残すもの

小腸の狭さくを残すものについては、第11級とすることとしたこと。

(エ) 大腸の障害

a 大腸を大量に切除したもの

大腸を大量に切除したものについては、第11級とすることとしたこと。

b 人工肛門を造設したもの

人工肛門を造設したものについては、パウチ等による維持管理の困難性の有無により、第5級又は第7級とすることとしたこと。

c 大腸皮膚瘻を残すもの

大腸皮膚瘻を残すものについては、瘻孔から漏出する大腸内容の量及びパウチ等による維持管理の困難性の有無に応じて、第5級から第11級に区分することとしたこと。

d 大腸の狭さくを残すもの

大腸の狭さくを残すものについては、第11級とすることとしたこと。

e 便秘を残すもの

便秘を残すものについては、その障害の程度に応じて、第9級又は第11級とすることとしたこと。

f 便失禁を残すもの

便失禁を残すものについては、その障害の程度に応じて、第7級から第11級に区分することとしたこと。

(オ) 肝臓の障害

肝硬変については第9級とすることとしたこと。また、慢性肝炎については第11級とすることとしたこと。

(カ) 胆のうの障害

胆のうを失ったものについては、第13級とすることとしたこと。

(キ) ひ臓の障害

ひ臓を失ったものについては、第13級とすることとしたこと。

(ク) すい臓の障害

すい臓の障害については、その障害の程度に応じて、第9級又は第11級とすることとしたこと。

(ケ) 腹壁瘢痕ヘルニア等

腹壁瘢痕ヘルニア等については、ヘルニア内容の脱出・膨隆が起こる腹圧の程度に応じて、第9級又は第11級とすることとしたこと。

エ 泌尿器の障害

(ア) じん臓の障害

じん臓の障害については、じん臓の亡失の有無及びじん機能の低下の程度により、第7級から第13級に区分することとしたこと。

(イ) 尿管、膀胱及び尿道の障害

a 尿路変向術を行ったもの

尿路変向術を行ったものについては、尿路変向の術式及びパッド等による維持管理の困難性の有無により、第5級から第11級に区分することとしたこと。

b 排尿障害を残すもの

膀胱の機能の障害による排尿障害を残すものについては、その障害の程度に応じて、第9級又は第11級とすることとしたこと。

c 尿失禁を残すもの

尿失禁を残すものについては、その障害の程度に応じて、第7級から第11級に区分することとしたこと。

d 頻尿を残すもの

頻尿を残すものについては、第11級とすることとしたこと。

オ 生殖器の障害

(ア) 生殖機能を完全に喪失したもの

両側のこう丸を失ったもの、常態として精液中に精子が存在しないもの、両側の卵巣を失ったもの、常態として卵子が形成されないものを第7級とすることとしたこと。

(イ) 生殖機能に著しい障害を残すもの

陰茎の大部分を欠損したもの、勃起障害を残すもの、射精障害を残すもの、膣口狭さくを残すもの、両側の卵管に閉塞若しくは癒着を残すもの、頸管に閉塞を残すもの、子宮を失ったものを第9級とすることとしたこと。

(ウ) 生殖機能に障害を残すもの

狭骨盤又は比較的狭骨盤となったものを第11級とすることとしたこと。

(エ) 生殖機能に軽微な障害を残すもの

一側のこう丸を失ったもの、一側の卵巣を失ったものを第13級とすることとしたこと。

カ その他

障害等級の認定を行うに当たって参考となる事項を、「胸腹部臓器の障害に関する医学的事項等」として取りまとめたこと。

(2) 口の障害について

「食道の狭さく、舌の異常、咽喉支配神経の麻痺等」によって生じる嚥下障害については、その障害の程度に応じて、そしゃく機能障害に係る等級を準用することとしているが、胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準において食道の狭さくによる通過障害に係る障害等級認定基準を定めたことから、食道の狭さくによって生じる嚥下障害を口の障害として評価する対象から除外したこと。

3 基本通達の一部改正

(1) 第2の4の(3)のロの(イ)中、「食道の狭さく、」を削除する。

(2) 第2のうち「7 胸腹部臓器」に係る部分を削除する。

4 基本通達について

基本通達の「第1 障害等級認定にあたっての基本的事項」については、改正認定基準に基づく障害等級の認定を行うに当たっても、引き続き適用があること。

5 施行期日等について

(1) 改正認定基準は、平成18年4月1日以降に支給事由が生じたものについて適用し、平成18年3月31日までに支給事由が生じたものについては改正前の認定基準によること。

(2) 現に障害(補償)年金を受給している者については、改正認定基準を適用しない。ただし、労働者災害補償保険法第15条の2、同法施行規則第14条の3又は同法施行規則第18条の8に基づく障害(補償)給付変更請求書(様式第11号)の提出がなされた場合には、改正認定基準に基づき障害等級を認定し、必要に応じて障害(補償)年金を改定すること。

 

別紙

胸腹部臓器の障害に関する障害等級認定基準

第1 胸腹部臓器の障害と障害等級

1 胸腹部臓器の障害については、障害等級表において、次のとおり等級を定めている。

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、常に介護を要するもの 第1級の4

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、随時介護を要するもの 第2級の2の3

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、終身労務に服することができないもの 第3級の4

胸腹部臓器の機能に著しい障害を残し、特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの 5級の1の3

胸腹部臓器の機能に障害を残し、軽易な労務以外の労務に服することができないもの 第7級の5

両側のこう丸を失つたもの 第7級の13

胸腹部臓器の機能に障害を残し、服することができる労務が相当な程度に制限されるもの 第9級の7の3

生殖器に著しい障害を残すもの 第9級の12

胸腹部臓器の機能に障害を残し、労務の遂行に相当な程度の支障があるもの 第11級の9

胸腹部臓器の機能に障害を残すもの 第13級の3の3

2 障害等級の認定に当たっては、次によること。

(1) 胸腹部臓器(生殖器を含む。)の障害の障害等級については、その障害が単一である場合には第2に定める基準により認定すること。また、その障害が複数認められる場合には、併合の方法を用いて準用等級を定めること。

(2) 多数の臓器に障害を残し、それらが複合的に作用するために介護が必要な程度に重度の障害が残ることとなる場合のように、併合の方法により得られた等級が次の総合評価による等級を明らかに下回る場合は介護の程度及び労務への支障の程度を総合的に判断して障害等級を認定すること。

労務に服することができず、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について常時介護を要するもの 第1級の4

労務に服することができず、生命維持に必要な身のまわり処理の動作について随時介護を要するもの 第2級の2の3

労務に服することはできないが、生命維持に必要な身のまわり処理の動作は可能であるもの 第3級の4

極めて軽易な労務にしか服することができないもの 第5級の1の3

軽易な労務にしか服することができないもの 第7級の5

通常の労務に服することはできるが、就労可能な職種が相当程度に制約されるもの 第9級の7の3

通常の労務に服することはできるが、機能の障害の存在が明確であって労務に支障を来すもの 第11級の9

 

第2 障害等級認定の基準

1 呼吸器の障害

呼吸機能に障害を残したものの障害等級は、原則として下記(1)により判定された等級に認定すること。ただし、その等級が(2)又は(3)により判定された等級より低い場合には、(2)又は(3)により判定された等級により認定すること。

なお、(1)により判定された等級が第3級以上に該当する場合は、(2)又は(3)による判定を行う必要はないこと。

また、スパイロメトリーを適切に行うことができない場合は、(2)による判定を行わないこと。

(1) 動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧の検査結果による判定

ア 動脈血酸素分圧が50Torr以下のもの

(ア) 呼吸機能の低下により常時介護が必要なものは、第1級の4とする。

(イ) 呼吸機能の低下により随時介護が必要なものは、第2級の2の3とする。

(ウ) (ア)及び(イ)に該当しないものは、第3級の4とする。

イ 動脈血酸素分圧が50Torrを超え60Torr以下のもの

(ア) 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲(37Torr以上43Torr以下をいう。以下同じ。)にないもので、かつ、呼吸機能の低下により常時介護が必要なものは、第1級の4とする。

(イ) 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なものは、第2級の2の3とする。

(ウ) 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないもので、(ア)及び(イ)に該当しないものは、第3級の4とする。

(エ) (ア)、(イ)及び(ウ)に該当しないものは、第5級の1の3とする。

ウ 動脈血酸素分圧が60Torrを超え70Torr以下のもの

(ア) 動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないものは、第7級の5とする。

(イ) (ア)に該当しないものは、第9級の7の3とする。

エ 動脈血酸素分圧が70Torrを超えるもの

動脈血炭酸ガス分圧が限界値範囲にないものは、第11級の9とする。

(2) スパイロメトリーの結果及び呼吸困難の程度による判定

ア %1秒量が35以下又は%肺活量が40以下であるもの

(ア) 高度の呼吸困難が認められ、かつ、呼吸機能の低下により常時介護が必要なものは、第1級の4とする。

「高度の呼吸困難」とは、呼吸困難のため、連続しておおむね100m以上歩けないものをいう(以下同じ。)。

(イ) 高度の呼吸困難が認められ、かつ、呼吸機能の低下により随時介護が必要なものは、第2級の2の3とする。

(ウ) 高度の呼吸困難が認められ、(ア)及び(イ)に該当しないものは、第3級の4とする。

(エ) 中等度の呼吸困難が認められるものは、第7級の5とする。

「中等度の呼吸困難」とは、呼吸困難のため、平地でさえ健常者と同様には歩けないが、自分のペースでなら1km程度の歩行が可能であるものをいう(以下同じ。)。

(オ) 軽度の呼吸困難が認められるものは、第11級の9とする。

「軽度の呼吸困難」とは、呼吸困難のため、健常者と同様には階段の昇降ができないものをいう(以下同じ。)。

イ %1秒量が35を超え55以下又は%肺活量が40を超え60以下であるもの

(ア) 高度又は中等度の呼吸困難が認められるものは、第7級の5とする。

(イ) 軽度の呼吸困難が認められるものは、第11級の9とする。

ウ %1秒量が55を超え70以下又は%肺活量が60を超え80以下であるもの

高度、中等度又は軽度の呼吸困難が認められるものは、第11級の9とする。

(3) 運動負荷試験の結果による判定

(1)及び(2)による判定では障害等級に該当しないものの、呼吸機能の低下による呼吸困難が認められ、運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害があると認められるものは、第11級の9とする。

2 循環器の障害

(1) 心機能が低下したもの

心筋梗塞、狭心症、心臓外傷等の後遺症状により心機能が低下したものの障害等級は、心機能の低下による運動耐容能の低下の程度により、次のとおり認定すること。

ア 心機能の低下による運動耐容能の低下が中等度であるものは、第9級の7の3とする。

おおむね6METs(メッツ)を超える強度の身体活動が制限されるものがこれに該当する(作業・運動の内容と運動強度との関連は、別添「胸腹部臓器の障害に関する医学的事項等」の2の(3)のイの表を参照のこと。)。

(例) 平地を健康な人と同じ速度で歩くのは差し支えないものの、平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動が制限されるもの

イ 心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度であるものは、第11級の9とする。

おおむね8METsを超える強度の身体活動が制限されるものがこれに該当する。

(例) 平地を急いで歩く、健康な人と同じ速度で階段を上るという身体活動に支障がないものの、それ以上激しいか、急激な身体活動が制限されるもの

(注) 心機能が低下したものは、次のいずれにも該当する場合を除き、通常、療養を要するものであること。

(ア) 心機能の低下が軽度にとどまること

(イ) 危険な不整脈が存在しないこと

(ウ) 残存する心筋虚血が軽度にとどまること

(2) 除細動器又はペースメーカを植え込んだもの

ア 除細動器を植え込んだものは、第7級の5とする。

イ ペースメーカを植え込んだものは、第9級の7の3とする。

(注) 除細動器又はペースメーカを植え込み、かつ、心機能が低下したものは、併合の方法を用いて準用等級を定めること。

(3) 房室弁又は大動脈弁を置換したもの

ア 継続的に抗凝血薬療法を行うものは、第9級の7の3とする。

イ アに該当しないものは、第11級の9とする。

(4) 大動脈に解離を残すもの

偽腔開存型の解離を残すものは、第11級の9とする。

3 腹部臓器の障害

腹部臓器の障害に関する障害等級は、以下の臓器ごとに、その機能の低下の程度等により、各々認定すること。

(1) 食道の障害

食道の狭さくによる通過障害を残すものは、第9級の7の3とする。

「食道の狭さくによる通過障害」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

ア 通過障害の自覚症状があること

イ 消化管造影検査により、食道の狭さくによる造影剤のうっ滞が認められること

(2) 胃の障害

ア 胃の障害に関する障害等級は、胃の切除により生じる症状の有無により、次のとおり認定すること。

(ア) 消化吸収障害、ダンピング症候群及び胃切除術後逆流性食道炎のいずれもが認められるものは、第7級の5とする。

(イ) 消化吸収障害及びダンピング症候群が認められるものは、第9級の7の3とする。

(ウ) 消化吸収障害及び胃切除術後逆流性食道炎が認められるものは、第9級の7の3とする。

(エ) 消化吸収障害、ダンピング症候群又は胃切除術後逆流性食道炎のいずれかが認められるものは、第11級の9とする。

(オ) 噴門部又は幽門部を含む胃の一部を亡失したもの(第9級の7の3及び第11級の9に該当するものを除く。)は、第13級の3の3とする。

イ 胃の切除により生じる症状の有無は、次により判断すること。

(ア) 上記アにおいて「消化吸収障害が認められる」とは、次のいずれかに該当するものをいう。

a 胃の全部を亡失したこと

b 噴門部又は幽門部を含む胃の一部を亡失し、低体重等(BMIが20以下であるものをいう。ただし、被災前からBMIが20以下であったものについては、被災前よりも体重が10%以上減少したものをいう。以下同じ。)が認められること

(イ) 「ダンピング症候群が認められる」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

a 胃の全部又は幽門部を含む胃の一部を亡失したこと

b 食後30分以内に出現するめまい、起立不能等の早期ダンピング症候群に起因する症状又は食後2時間後から3時間後に出現する全身脱力感、めまいなどの晩期ダンピング症候群に起因する症状が認められること

(ウ) 「胃切除術後逆流性食道炎が認められる」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

a 胃の全部又は噴門部を含む胃の一部を亡失したこと

b 胸焼け、胸痛、嚥下困難等の胃切除術後逆流性食道炎に起因する自覚症状があること

c 内視鏡検査により食道にびらん、潰瘍等の胃切除術後逆流性食道炎に起因する所見が認められること

(3) 小腸の障害

ア 小腸を大量に切除したもの

小腸を大量に切除したものの障害等級は、次のとおり認定すること。

なお、小腸を切除したことにより人工肛門を造設したものは、イにより認定すること。

(ア) 残存する空腸及び回腸(以下「残存空・回腸」という。)の長さが100cm以下となったものは、第9級の7の3とする。

(イ) 残存空・回腸の長さが100cmを超え300cm未満となったものであって、消化吸収障害が認められるもの(低体重等が認められるものをいう。)は、第11級の9とする。

(注) 小腸を大量に切除したため、経口的な栄養管理が不可能なものは、通常、療養を要するものであること。

イ 人工肛門を造設したもの

(ア) 小腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチ等の装着ができないものは、第5級の1の3とする。

(イ) (ア)に該当しないものは、第7級の5とする。

ウ 小腸皮膚瘻を残すもの

(ア) 瘻孔から小腸内容の全部又は大部分が漏出するもの

a 小腸内容が漏出することにより小腸皮膚瘻周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチ等の装着ができないもの(以下「パウチ等による維持管理が困難であるもの」という。)は、第5級の1の3とする。

b aに該当しないものは、第7級の5とする。

(イ) 瘻孔から漏出する小腸内容がおおむね100ml/日以上のもの

a パウチ等による維持管理が困難であるものは、第7級の5とする。

b aに該当しないものは、第9級の7の3とする。

(ウ) 瘻孔から少量ではあるが明らかに小腸内容が漏出する程度のものは、第11級の9とする。

エ 小腸の狭さくを残すもの

小腸の狭さくを残すものは、第11級の9とする。

「小腸の狭さく」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

(ア) 1か月に1回程度、腹痛、腹部膨満感、嘔気、嘔吐等の症状が認められること

(イ) 単純エックス線像においてケルクリングひだ像が認められること

(4) 大腸の障害

ア 大腸を大量に切除したもの

結腸のすべてを切除するなど大腸のほとんどを切除したものは、第11級の9とする。

なお、大腸を切除したことにより人工肛門を造設したものは、イにより認定すること。

イ 人工肛門を造設したもの

(ア) 大腸内容が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パウチ等の装着ができないものは、第5級の1の3とする。

(イ) (ア)に該当しないものは、第7級の5とする。

ウ 大腸皮膚瘻を残すもの

大腸皮膚瘻を残したものの障害等級は、上記(3)のウ(小腸皮膚瘻を残すもの)の「小腸」を「大腸」に読み替えて認定すること。

エ 大腸の狭さくを残すもの

大腸の狭さくを残すものは、第11級の9とする。

「大腸の狭さく」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

(ア) 1か月に1回程度、腹痛、腹部膨満感等の症状が認められること

(イ) 単純エックス線像において、貯留した大量のガスにより結腸膨起像が相当区間認められること

オ 便秘を残すもの

便秘については、次のとおり認定すること。

(ア) 用手摘便を要すると認められるものは、第9級の7の3とする。

(イ) (ア)に該当しないものは、第11級の9とする。

「便秘」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

a 排便反射を支配する神経の損傷がMRI、CT等により確認できること

b 排便回数が週2回以下の頻度であって、恒常的に硬便であると認められること

なお、(ア)及び(イ)の障害の評価には、便秘を原因とする頭痛、悪心、嘔吐、腹痛等の症状が含まれるものであること。

カ 便失禁を残すもの

(ア) 完全便失禁を残すものは、第7級の5とする。

(イ) 常時おむつの装着が必要なもの(第7級の5に該当するものを除く。)は、第9級の7の3とする。

(ウ) 常時おむつの装着は必要ないものの、明らかに便失禁があると認められるものは、第11級の9とする。

(5) 肝臓の障害

ア 肝硬変(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST・ALTが持続的に低値であるものに限る。)は、第9級の7の3とする。

イ 慢性肝炎(ウイルスの持続感染が認められ、かつ、AST・ALTが持続的に低値であるものに限る。)は、第11級の9とする。

(6) 胆のうの障害

胆のうを失ったものは、第13級の3の3とする。

(7) すい臓の障害

ア すい臓の障害に関する障害等級は、次のとおり認定すること。

(ア) 外分泌機能の障害と内分泌機能の障害の両方が認められるものは、第9級の7の3とする。

(イ) 外分泌機能の障害又は内分泌機能の障害のいずれかが認められるものは、第11級の9とする。

(ウ) 軽微なすい液瘻を残したために皮膚に疼痛等を生じるものは、局部の神経症状として、第12級の12又は第14級の9とする。

イ 「外分泌機能の障害」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

(ア) 上腹部痛、脂肪便(常食摂取で1日ふん便中脂肪が6g以上であるもの)、頻回の下痢等の外分泌機能の低下による症状が認められること

(イ) 次のいずれかに該当すること

a すい臓を一部切除したこと

b BT―PABA(PFD)試験で異常低値(70%未満)を示すこと

c ふん便中キモトリプシン活性で異常低値(24U/g未満)を示すこと

d アミラーゼ又はエラスターゼの異常低値を認めるもの

ウ 「内分泌機能の障害」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

(ア) 異なる日に行った経口糖負荷試験によって、境界型又は糖尿病型であることが2回以上確認されること

(イ) 空腹時血漿中のC―ペプチド(CPR)が0.5ng/ml以下(インスリン異常低値)であること

(ウ) Ⅱ型糖尿病に該当しないこと

(注) 内分泌機能に障害があるためにインスリン投与を必要とする場合は、療養を要するものであること。

(8) ひ臓の障害

ひ臓を失ったものは、第13級の3の3とする。

(9) 腹壁瘢痕ヘルニア、腹壁ヘルニア、鼠径ヘルニア又は内ヘルニアを残すもの

ア 常時ヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるもの、又は立位をしたときヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるものは、第9級の7の3とする。

イ 重激な業務に従事した場合等腹圧が強くかかるときにヘルニア内容の脱出・膨隆が認められるものは、第11級の9とする。

4 泌尿器の障害

(1) じん臓の障害

じん臓の障害に関する障害等級は、じん臓の亡失の有無及び糸球体濾過値(以下「GFR」という。)によるじん機能の低下の程度により認定すること。

ア じん臓を失っていないもの

(ア) GFRが30ml/分を超え50ml/分以下のものは、第9級の7の3とする。

(イ) GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のものは、第11級の9とする。

(ウ) GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のものは、第13級の3の3とする。

イ 一側のじん臓を失ったもの

(ア) GFRが30ml/分を超え50ml/分以下のものは、第7級の5とする。

(イ) GFRが50ml/分を超え70ml/分以下のものは、第9級の7の3とする。

(ウ) GFRが70ml/分を超え90ml/分以下のものは、第11級の9とする。

(エ) (ア)、(イ)及び(ウ)のいずれにも該当しないものは、第13級の3の3とする。

(2) 尿管、膀胱及び尿道の障害

ア 尿路変向術を行ったもの

尿路変向術を行ったものの障害等級は、次により認定すること。

(ア) 非尿禁制型尿路変向術を行ったもの

a 尿が漏出することによりストマ周辺に著しい皮膚のびらんを生じ、パッド等の装着ができないものは、第5級の1の3とする。

b aに該当しないものは、第7級の5とする。

(イ) 尿禁制型尿路変向術を行ったもの

a 禁制型尿リザボアの術式を行ったものは、第7級の5とする。

b 尿禁制型尿路変向術(禁制型尿リザボア及び外尿道口形成術を除く。)を行ったものは、第9級の7の3とする。

c 外尿道口形成術を行ったものは、第11級の9とする。

なお、外尿道口形成術は、外性器の全部又は一部を失ったことにより行うものであるから、外尿道口形成術の障害等級と外性器の亡失の障害等級のうち、いずれか上位の障害等級により認定すること。

d 尿道カテーテルを留置したものは、第11級の9とする。

イ 排尿障害を残すもの

(ア) 膀胱の機能の障害によるもの

a 残尿が100ml以上であるものは、第9級の7の3とする。

b 残尿が50ml以上100ml未満であるものは、第11級の9とする。

(イ) 尿道狭さくによるもの

尿道狭さくによるものの障害等級は、次により認定すること。ただし、尿道狭さくのため、じん機能に障害を来すものは、じん臓の障害の等級により認定すること。

a 糸状ブジーを必要とするものは、第11級の9とする。

b 「シャリエ式」尿道ブジー第20番(ネラトンカテーテル第11号に相当する。)が辛うじて通り、時々拡張術を行う必要があるものは、第14級(準用)とする。

ウ 蓄尿障害を残すもの

(ア) 尿失禁を残すもの

a 持続性尿失禁

持続性尿失禁を残すものは、第7級の5とする。

b 切迫性尿失禁及び腹圧性尿失禁

(a) 終日パッド等を装着し、かつ、パッドをしばしば交換しなければならないものは、第7級の5とする。

(b) 常時パッド等を装着しなければならないが、パッドの交換までは要しないものは、第9級の7の3とする。

(c) 常時パッド等の装着は要しないが、下着が少しぬれるものは、第11級の9とする。

(イ) 頻尿を残すもの

頻尿を残すものは、第11級の9とする。

「頻尿」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

a 器質的病変による膀胱容量の器質的な減少又は膀胱若しくは尿道の支配神経の損傷が認められること

b 日中8回以上の排尿が認められること

c 多飲等の他の原因が認められないこと

5 生殖器の障害

生殖器の障害については、次により等級を認定すること。

(1) 生殖機能を完全に喪失したもの

ア 両側のこう丸を失ったものは、第7級の13とする。

イ 次のものは第7級の13を準用すること。

(ア) 常態として精液中に精子が存在しないもの

(イ) 両側の卵巣を失ったもの

(ウ) 常態として卵子が形成されないもの

(2) 生殖機能に著しい障害を残すもの(生殖機能は残存しているものの、通常の性交では生殖を行うことができないものが該当する。)

次のものは、第9級の12とする。

ア 陰茎の大部分を欠損したもの(陰茎を膣に挿入することができないと認められるものに限る。)

イ 勃起障害を残すもの

「勃起障害」とは、次のいずれにも該当するものをいう。

(ア) 夜間睡眠時に十分な勃起が認められないことがリジスキャン(R)による夜間陰茎勃起検査により証明されること

(イ) 支配神経の損傷等勃起障害の原因となり得る所見が次に掲げる検査のいずれかにより認められること

a 会陰部の知覚、肛門括約筋のトーヌス・自律収縮、肛門反射及び球海綿反射筋反射に係る検査(神経系検査)

b プロスタグランジンE1海綿体注射による各種検査(血管系検査)

ウ 射精障害を残すもの

「射精障害」とは、次のいずれかに該当するものをいう。

(ア) 尿道又は射精管が断裂していること

(イ) 両側の下腹神経の断裂により当該神経の機能が失われていること

(ウ) 膀胱頚部の機能が失われていること

エ 膣口狭さくを残すもの(陰茎を膣に挿入することができないと認められるものに限る。)

オ 両側の卵管に閉塞若しくは癒着を残すもの、頸管に閉塞を残すもの又は子宮を失ったもの(画像所見により認められるものに限る。)

(3) 生殖機能に障害を残すもの(通常の性交で生殖を行うことができるものの、生殖機能に一定以上の障害を残すものが該当する。)

狭骨盤又は比較的狭骨盤(産科的真結合線が10.5cm未満又は入口部横径が11.5cm未満のもの)は,第11級の9を準用すること。

(4) 生殖機能に軽微な障害を残すもの(通常の性交で生殖を行うことができるものの、生殖機能にわずかな障害を残すものが該当する。)

次のものは、第13級の3の3を準用すること。

ア 一側のこう丸を失ったもの(一側のこう丸の亡失に準ずべき程度の萎縮を含む。)

イ 一側の卵巣を失ったもの

 

第3 併合及び準用

1 併合

胸腹部臓器の障害と系列を異にする障害が通常派生する関係にある場合には、併合することなく、いずれか上位の等級により認定すること。

(例) 外傷により、ろく骨の著しい変形(第12級の5)が生じ、それを原因として呼吸機能の障害(第11級の9)を残した場合は、上位等級である第11級の9に認定する。

2 準用

(1) 胸腹部臓器(生殖器を含む。)に障害等級認定基準に該当する障害が2以上ある場合には、労働者災害補償保険法施行規則第14条第4項により、併合の方法を用いて準用等級を定めること。

(例) 心機能の低下による軽度の運動耐容能の低下(第11級の9)があり、ペースメーカを植え込み(第9級の7の3)、かつ、食道狭さくによる通過障害を残した(第9級の7の3)場合は、準用第8級に認定する。

(2) 生殖器の障害のみがある者であって、生殖機能を完全に喪失したものに該当する場合は、その他の生殖機能の障害に該当する障害がある場合であっても、準用第7級に認定する。

(例) 両側のこう丸を失い(第7級の13)、かつ、器質的な原因による勃起障害(第9級の12)がある場合は、準用第7級に認定する。

 

別添

胸腹部臓器の障害に関する医学的事項等

1 呼吸器の障害

(1) 治ゆの判断

低酸素血症や肺性心の有無は療養の要否について重要な情報を与えてくれるものの、その程度及び個々の症例により療養の要否は異なる。

したがって、治ゆに該当するか否かについて一律に基準を設けることは適当ではないことから、呼吸機能の障害を有するものについては、個々の症例に応じて治ゆの判断を行う必要がある。

(2) 評価の考え方

呼吸器の障害については、呼吸機能の障害として評価することとした。

ア 安静時の検査結果による判定

呼吸機能に障害を残したものの障害等級は、原則として、動脈血酸素分圧と動脈血炭酸ガス分圧との検査結果の組合せにより判定された等級に認定するが、その等級がスパイロメトリーの結果と呼吸困難の程度により判定された等級より低い場合には、スパイロメトリーの結果と呼吸困難の程度により判定された等級により認定する。

イ 運動負荷試験の結果による判定

安静時の検査結果による判定で障害等級に該当しないものについては、呼吸困難が呼吸機能の低下によると認められ、運動負荷試験の結果から明らかに呼吸機能に障害があると認められるものに限り、呼吸機能障害があるものとして認定する。

(3) 評価の指標等

ア 安静時の検査に関する指標

(ア) 動脈血酸素分圧(PaO2)

動脈血酸素分圧は、少なくとも換気・ガス交換・肺循環・呼吸中枢制御機能という4つの機能の結果として血液の中の酸素を供給できているかということを表す指標である。

(イ) 動脈血炭酸ガス分圧(PaCO2)

安静恒常状態で求めた動脈血炭酸ガス分圧の異常は、動脈血酸素分圧が異常に低下した低酸素血症とともに、労作能力に関連しており、特に継続的な労作の能力の評価に影響を及ぼすことから、動脈血炭酸ガス分圧を呼吸機能障害の評価の指標とした。

動脈血炭酸ガス分圧は、性別・年齢・体格によって若干の差異が存在する。しかしながら、その差異は大きくないので、値の変動幅を勘案して、障害等級認定基準においては、動脈血炭酸ガス分圧について40±3Torrを限界値範囲とした。

(ウ) %1秒量(%FEV1.0)

%1秒量は、1秒量の予測値に対する実測値の割合を示すものであり、閉塞性換気機能障害(気道が狭くなることにより、換気量が減少することをいう。)を示す指標である。

なお、%1秒量は、次の式により求められる。

%1秒量=(1秒量実測値)/(1秒量予測値)×100

(エ) %肺活量

%肺活量は、肺活量の予測値に対する実測値の割合を示すものであり、拘束性換気機能障害(肺の弾性の減弱等により、換気量が減少することをいう。)を示す指標である。

なお、%肺活量は、次の式により求められる。

%肺活量=(肺活量実測値)/(肺活量予測値)×100

イ 運動負荷試験の意義

安静時の検査において正常である場合であっても、体動時に呼吸困難を示すことがあることから、呼吸困難が呼吸機能の低下によると認められ、かつ、運動負荷試験の結果から、呼吸困難があると判断されるときには、障害等級の認定を行うことができることとした。

運動負荷試験の結果から呼吸困難があると判断するためには、次の事項について主治医から意見等を徴した上で呼吸器専門医の意見を求める必要がある。

① 実施した運動負荷試験の内容

② 運動負荷試験の結果

③ 呼吸機能障害があると考える根拠

④ 運動負荷試験が適正に行われたことを示す根拠

⑤ その他参考となる事項

なお、運動負荷試験には、漸増運動負荷試験、6分間・10分間等の歩行試験やシャトルウォーキングテスト等の時間内歩行試験、50m歩行試験等がある。

2 循環器の障害

(1) 治ゆの判断

ア 心筋梗塞

心筋梗塞を発症したものについては、左室駆出率がおおむね40%以上を維持している場合に心機能の低下が軽度であるといえるから、左室駆出率がおおむね40%以上であることをひとつの目安とした上で、様々な指標を総合的に勘案して治ゆの判断を行う必要がある。

イ 狭心症

狭心症を発症したものについては、原則として、症状が軽度(日常生活や通常の身体活動には支障がない程度)に改善されたものでなければ、治ゆと判断することはできない。ただし、軽度を超える症状を残したまま、積極的な治療が困難になることがある。この場合、まれに症状が安定していると認められる場合があり、そうしたものは治ゆと判断することができる。

ウ 大動脈解離

偽腔開存型の解離を残すものは症状が安定しないものが多いことから、その治ゆの判断にあたっては、急性期経過後少なくとも5年間にわたって大動脈径がほとんど拡大しないことを確認するなど、症状の経過を慎重に見極めることが必要である。

エ 房室弁又は大動脈弁の損傷

房室弁又は大動脈弁が損傷し、心機能の低下による運動耐容能の低下が軽度を超えるものは、通常、療養を要することから、治ゆと判断することはできない。

(2) 評価の考え方

ア 心機能の低下による運動耐容能の低下

心筋梗塞の後遺症や狭心症状を残す場合は、一定以上の強度の負荷により後遺症による症状が生じる。そのため、これらの症状を生じるおそれのある強度の運動が制限されるのは当然であるが、心機能の低下による運動耐容能の低下の程度について日本循環器学会等10学会が2003年にまとめた「心疾患患者の学校、職域、スポーツにおける運動許容条件に関するガイドライン」(以下「許容条件ガイドライン」という。)においては、運動・作業強度を最大運動能の60%で行うとすることを前提としている。

心機能の低下による運動耐容能の低下の程度による障害等級の認定基準は、許容条件ガイドライン等を参考にしたものである。

イ ペースメーカ又は除細動器を植え込んだもの

ペースメーカを植え込んだ場合は、リードの損傷の危険をできるだけ避けるため、リード挿入側の上肢を過度に伸展することを避ける必要があり、そのため、そうした特定の姿勢をとることだけではなく、そうした姿勢をとることになる可能性の高い運動や労働についても制限する必要がある。また、電磁波の影響により、設定されたペーシングモードがリセットされたり、最悪の場合、ペースメーカが全く作動しなくなる可能性も否定できないことから、電磁波の影響を避けるため、変電設備やスポット溶接機、MRI等の医療器具のほか、金属探知器、盗難防止ゲート、携帯電話等様々な機器に就業中を含む社会生活の様々な場面で注意を払う必要がある。

除細動器を植え込んだ場合は、ペースメーカを植え込んだ場合と同様の行動等の制限に加え、除細動器が頻脈を感知して強力な電気ショックを発生させる際の患者への影響がある。

ウ 大動脈解離

大動脈の基本的機能は、全身が必要とする量の血液を通すことであるが、解離した部位を全て人工血管に置換した場合又は偽腔閉塞型の大動脈解離であって、解離部の線維化が完成した場合は、それらの部位に脆弱性はなく瞬間的に血圧が上昇するような動きをすることを含め、運動等の制限は必要ないことから、障害等級に該当する程度の障害を残すことはない。

(3) 評価の指標

ア 左室駆出率

左室駆出率は、心機能の程度を表す客観的指標の代表的なものである。左室駆出率は、次の式により求められ、健常人ではおおむね60%台を示す。

左室駆出率=(左室拡張末期容積-左室収縮末期容積)/(左室拡張末期容積)×100

イ METS単位

METS単位は、安静座位の酸素摂取量1MET(3.5ml/Kg/min)の何倍の酸素摂取量に当たるかを示す単位であり、運動・作業強度の単位として広く用いられている。

なお、作業・運動の内容と運動強度との関連は下表を参照のこと。

作業・運動の内容

運動強度

(METS)

・机上の事務的な仕事

1~2

・パソコン、タイプ作業

 

・ゆっくりとした歩行(時速1~2km程度)

 

・食事、洗顔、歯磨き

 

・守衛・管理人の業務

2~3

・調理作業

 

・立って電車等に乗る

 

・機械の組立作業

3~4

・溶接作業

 

・トラックの運転

 

・タクシーの運転

 

・普通の歩行(時速4km程度)

 

・シャワーを浴びる

 

・軽い大工仕事

4~5

・草むしり

 

・階段を降りる

 

・大工作業

5~6

・農作業

 

・垣根の刈り込み

 

・階段を昇る

 

・シャベルを使う穴掘りの作業

6~7

・雪かき

 

・早足での歩行

 

・ジョギング(時速8km程度)

7~8

・階段を連続して昇る

8~

・ジョギング(時速10km程度)