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通達:障害等級認定基準について

 

障害等級認定基準について〔労働者災害補償保険法〕

昭和50年9月30日基発第565号

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)

 

労働基準法施行規則及び労働者災害補償保険法施行規則の一部を改正する省令(昭和50年労働省令第23号)が本年9月1日から施行され、その施行に当っての留意事項について、昭和50年8月28日付基発第509号をもって指示したところであるが、今後、この改正省令施行を機に、新設又は改正された省令部分に係る障害等級の認定基準及び従来まで通達等により示してきたところの障害等級の認定基準を各科別に専門医師の意見を参酌して集大成し、別冊のとおり「障害等級認定基準」(以下「認定基準」という。)として定めたので、昭和50年9月1日以降に支給事由の生じた障害補償、障害補償給付及び障害給付に係る障害等級の認定等に関する取扱いについては、下記事項に留意のうえ、この「認定基準」により遺漏のないよう行うこととされたい。

なお、「障害等級認定基準(要旨)の新旧比較表」を添付するので参考とされたい。

 

1 「認定基準」の概要

(1) 障害等級の新設に伴い、認定基準を新設し又は改正したもの

イ 聴力障害関係

(イ) 両耳の聴力障害について、第6級の3の2、第7級の2の2、第9級の6の2、第9級の6の3、第10級の3の2及び第11級の3の3を、また、1耳の聴力障害について、第14級の2の2を新設したことに伴い、それぞれについての認定基準を定めたものであること。

また、等級の新設に伴い、聴力障害に係る従来までの認定基準を改めたものであること。

(ロ) 従来は、聴力障害の障害程度の評価は、原則として純音聴力検査結果のみにより行うこととしていたが、今後は、語音聴力検査結果をも加味したものに改めたものであること。

また、認定の時期及び聴力検査についても改正を行い、聴力検査方法については、日本オージオロジー学会制定の「標準聴力検査法」によることを明らかにしたものであること。

ロ 神経系統の機能又は精神の障害関係

(イ) 神経系統の機能又は精神の障害については、中枢神経系(脳)の障害、せき髄の障害、根性・末梢神経麻痺及びその他の特徴的な障害に大別し、またその他の特徴的な障害を、外傷性てんかん、頭痛、失調・めまい及び平衡機能障害、疼痛等感覚及び外傷性神経症に細分し、それぞれについて認定基準を定めたものであること。

(ロ) 第5級の1の2の新設に伴い、これに係る認定基準を定めたものであること。

また、このため、従来の第7級に係る認定基準を一部定めたものであること。

ハ 胸腹部臓器の障害関係

(イ) 第5級の1の3及び第9級の7の3の新設に伴い、それぞれについての認定基準を定めたものであること。

また、このため、従来の認定基準を一部改めたものであること。

(ロ) 新たに、じん肺による障害を障害補償の対象としたことに伴い、じん肺による障害に係る認定基準を定めたものであること。

なお、じん肺による障害の認定は、基本的には胸腹部臓器の障害について定めた方法によることとなるが、じん肺の特異性、複雑性に鑑み、特にじん肺による障害についての認定基準を定めたものであること。

(2) 従来の認定基準を改正整備したもの(障害等級の新設に伴って改正したものを除く。)

イ 同一眼球に2以上の障害を残す場合の取扱いについて

同一眼球に系列を異にする2以上の障害が存する場合の取扱いを改めたものであること。

ロ 外傷性散瞳について

外傷性散瞳については、従来の認定基準をより具体的にするとともに、当該障害が両眼に存する場合及び当該障害と視力障害とが併存する場合の取扱いを明らかにしたものであること。

ハ 視野の測定方法について

視野の測定方法を明らかにしたものであること。

ニ 鼓膜の外傷性せん孔に伴う耳漏等について

鼓膜の外傷性せん孔に伴う耳漏については、従来の認定基準を改めるとともに、外傷による外耳道の高度の狭さくで耳漏を伴わないものについても認定の基準を定めたものであること。

ホ 耳鳴について

耳鳴の取扱いを明らかにしたものであること。

ヘ 内耳損傷による平衡機能障害について

内耳損傷による平衡機能障害については、労働能力そう失の程度が近似している胸腹部臓器障害の等級に準じて取り扱っていたが、神経系統の機能の障害として取り扱うことと改めたものであること。

ト 頭蓋骨欠損に係る醜状障害の取扱いについて

頭蓋骨欠損に係る醜状障害の取扱いを定めたものであること。

チ せき柱の変形及び運動障害について

せき柱の変形及び運動障害の取扱いの一部を改めたものであること。

リ 指骨の一部欠損について

「指骨の一部を失ったもの」の取扱いの一部を改めたものであること。

ヌ 手指の用廃について

「手指の用を廃したもの」の取扱いの一部を改めたものであること。

ル 手指の末関節の屈伸不能について

「手指の末関節を屈伸することができないもの」の取扱いの一部を改めたものであること。

ヲ 母指の造指術後の障害について

母指の造指術後の障害の取扱いを明らかにしたものであること。

ワ 人工骨頭及び人工関節について

人工骨頭及び人工関節をそう入置換した場合の取扱いを明らかにしたものであること。

カ 関節運動可動域の測定方法について

関節運動可動域の測定は、日本整形外科学会及び日本リハビリテーション医学会において決定された「関節可動域表示並びに測定法」によることに改めたものであること。

2 「認定基準」運用上の留意事項

(1) この「認定基準」の施行に伴い、障害等級の認定基準に関する従来の通達(障害等級の認定基準以外の事項を併せ通達しているものについては、その認定基準に関する部分に限る。)は、昭和50年8月23日付基発第502号を除いて廃止するものであること。

(2) 「認定基準」の中の「注」書の部分は、それぞれの認定基準の理解を容意にするために解説したものであるので、それぞれの認定基準と一体として運用すべきものであること。

(3) 「認定基準」の「第2 障害等級認定の具体的要領」は、主として労働者災害補償保険法における取扱いの基準を示しているものであるが、労働基準法における取扱いについても、年金たる障害補償給付又は障害給付に係る取扱いを除いてこれによること。

(4) 労災病院、労災保険指定病院等関係医療機関の医師に対し、「認定基準」の周知徹底を図ること。

 

[昭和50年9月30日付基発第565号][別冊]

障害等級認定基準

労働省労働基準局

目次

第1 障害等級認定にあたっての基本的事項

 1 障害補償の意義

 2 障害補償に係る規定の概要

  (1) 障害等級

  (2) 障害補償の額

  (3) 障害等級の変更(年金たる障害補償の場合)

 3 障害等級表の仕組みとその意義

  (1) 部位

  (2) 障害の系列

  (3) 障害の序列

 4 障害等級認定にあたっての原則と準則

 5 障害等級認定の具体的方法(例示解説)

  (1) 併合

  (2) 準用

  (3) 加重

第2 障害等級認定の具体的要領

 1 削除

 2 耳(内耳等及び耳介)

  (1) 耳の障害と障害等級

  (2) 障害等級認定の基準

   イ 聴力障害

   ロ 耳介の欠損障害

  (3) 併合、準用、加重

   イ 併合

   ロ 準用

   ハ 加重

 3 鼻

  (1) 鼻の障害と障害等級

  (2) 障害等級認定の基準

    鼻の欠損及び機能障害

  (3) 準用

 4 口

  (1) 口の障害と障害等級

  (2) 障害等級認定の基準

   イ そしゃく及び言語機能障害

   ロ 歯牙障害

  (3) 併合、準用、加重

   イ 併合

   ロ 準用

   ハ 加重

 5 削除

 6 削除

 7 削除

 8 削除

 9 削除

 10 削除

別紙1 「標準聴力検査法」

別紙2 削除

 

第1 障害等級認定にあたっての基本的事項

1 障害補償の意義

労働基準法における障害補償並びに労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)における障害補償給付及び障害給付(以下「障害補償」という。)は、労働者が業務上(又は通勤により)負傷し、又は疾病にかかり、なおったとき身体に障害が存する場合に、その障害の程度に応じて行うこととされており(労働基準法第77条、労災保険法第12条の8及び第22条の3)、障害補償の対象となる障害の程度は、労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)別表第2身体障害等級表及び労働者災害補償保険法施行規則(以下「労災則」という。)別表障害等級表(以下これらを「障害等級表」という。)に定められている。

ところで、障害補償は、障害による労働能力のそう失に対する損失てん補を目的とするものである。したがって、負傷又は疾病(以下「傷病」という。)がなおったときに残存する、当該傷病と相当因果関係を有し、かつ、将来においても回復が困難と見込まれる精神的又は身体的なき損状態(以下「廃疾」という。)であって、その存在が医学的に認められ、労働能力のそう失を伴うものを障害補償の対象としているものである。

なお、ここにいう「なおったとき」とは、傷病に対して行われる医学上一般に承認された治療方法(以下「療養」という。)をもってしても、その効果が期待し得ない状態(療養の終了)で、かつ、残存する症状が、自然的経過によって到達すると認められる最終の状態(症状の固定)に達したときをいう。したがって、障害程度の評価は、原則として療養効果が期待し得ない状態となり、症状が固定したときにこれを行うこととなる。ただし、療養効果が期待し得ない状態であっても、症状の固定に至るまでにかなりの期間を要すると見込まれるものもあるので、この場合は、医学上妥当と認められる期間を待って、障害程度を評価することとし、症状の固定の見込みが6カ月以内の期間において認められないものにあっては、療養の終了時において、将来固定すると認められる症状によって等級を認定することとする。

また、「労働能力」とは、一般的な平均的労働能力をいうものであって、被災労働者の年令、職種、利き腕、知識、経験等の職業能力的諸条件については、障害の程度を決定する要素とはなっていない。

2 障害補償に係る規定の概要

(1) 障害等級

障害補償は、前記のとおり、障害の程度に応じて行うこととされており、またその対象とすべき身体障害の等級は、障害等級表に定めるところによることとされている(労基則第40条第1項、労災則第14条第1項)。したがって、障害等級表は、障害程度の評価にあたって適正に取り扱われるべきものである。

障害等級表においては、労働能力のそう失の程度の若干異なる身体障害が同一等級として格付けされ、また、同種の身体障害についてみると、労働能力のそう失の程度が一定の範囲内にあるものをくくって同一の等級に格付けしているものがある。

これらは、障害等級表が労働能力そう失の程度に応じ、障害の等級を第1級から第14級までの14段階に区分していること、及び137種の類型的な身体障害を掲げるにとどまることからくる制約によるものである。

したがって、同一等級に格付けされている身体障害相互間においても、労働能力そう失の程度に若干の相異があるものがあり、また、各等級に掲げられている身体障害についても、一定の幅のあるものがあるが、前記の制約によりやむを得ない結果であり、障害程度の評価にあたっては、労働能力のそう失の程度が同一であるとして取り扱われているものである。

なお、障害等級表に掲げる身体障害が2以上ある場合の取扱い及び障害等級表に掲げるもの以外の身体障害の取扱いについては、次のとおり定められている。

イ 障害等級表に掲げる身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する等級によることとし(労基則第40条第2項、労災則第14条第2項)、次に掲げる場合にあっては、それぞれの方法により等級を繰上げ、当該身体障害の等級とする(労基則第40条第3項、労災則第14条第3項)(以下これを「併合」という。)。

(イ) 第13級以上に該当する身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する等級を1級繰上げる。

(ロ) 第8級以上に該当する身体障害が2以上ある場合は、重い方の身体障害の該当する等級を2級繰上げる。

(ハ) 第5級以上に該当する身体障害が2以上ある場合は重い方の身体障害の該当する等級を3級繰上げる。

ロ 障害等級表に掲げるもの以外の身体障害については、その障害の程度に応じ、障害等級表に掲げる身体障害に準じてその等級を定めることとされている(労基則第40条第4項、労災則第14条第4項)(以下これを「準用」といい、これにより定められた等級を「準用等級」という。)。

(2) 障害補償の額

イ 上記(1)のイの(イ)、(ロ)又は(ハ)により併合し、等級の繰上げを行った場合の障害補償の額は、労災保険法における障害補償給付又は障害給付であって、等級を繰上げた結果が障害補償年金又は障害年金に該当する場合(第7級以上に該当する場合)を除き、各々の身体障害の該当する等級による障害補償の額の合算額を超えないこととされている(労基則第40条第3項ただし書、労災則第14条第3項ただし書)。

ロ 既に身体障害のあった者が、同一の部立について障害の程度を加重した場合の当該事由に係る障害補償の額は、現在の身体障害の該当する等級に応ずる額から、既にあった身体障害の該当する等級に応ずる障害補償の額を差し引いた額とされている(労基則第40条第5項、労災則第14条第5項)。

なお、労災保険法における障害補償給付又は障害給付の場合で、現在の身体障害の該当する等級に応ずる障害補償給付又は障害給付が障害補償年金又は障害年金であって、既にあった身体障害の該当する等級に応ずる障害補償給付又は障害給付が障害補償一時金又は障害一時金である場合には、現在の身体障害の該当する等級に応ずる障害補償年金又は障害年金の額から、既にあった身体障害の該当する障害補償一時金又は障害一時金の額を25で除して得た額を差し引いた額とされている(労災則第14条第5項)。

(3) 障害等級の変更(年金たる障害補償の場合)

障害補償年金又は障害年金を受ける労働者の当該障害の程度に変更があったために、新たに他の等級に該当するに至った場合には、新たに該当するに至った等級に応ずる障害補償年金又は障害年金若しくは障害補償一時金又は障害一時金を支給することとし、従前の等級に応ずる障害補償年金又は障害年金は、等級に変更のあった月の翌月から支給しないこととされている(労災保険法第9条第1項、第15条の2及び第22条の3)。

3 障害等級表の仕組みとその意義

障害補償の対象とすべき身体障害の程度を定めている障害等級表は、次のごとき考え方に基づいて定められている。

即ち、障害等級表は、身体をまず解剖学的観点から部位に分け、次にそれぞれの部位における身体障害を機能の面に重点を置いた生理学的観点から、たとえば、眼における視力障害、運動障害、調節機能障害及び視野障害のように一種又は数種の障害群に分け(これを便宜上「障害の系列」と呼ぶ。)、さらに、各障害は、その労働能力のそう失の程度に応じて一定の順序のもとに配列されている(これを便宜上「障害の序列」と呼ぶ。)。

障害等級の認定の適正を期するためには、障害の系列及び障害の序列についての認識を深めることにより、障害等級表の仕組みを理解することが、重要である。

(1) 部位

身体障害は、まず解剖学的な観点から次の部位ごとに区分されている。

イ 眼

(イ) 眼球

(ロ) まぶた(右又は左)

ロ 耳

(イ) 内耳等

(ロ) 耳介(右又は左)

ハ 鼻

ニ 口

ホ 神経系統の機能又は精神

ヘ 頭部、顔面、頸部

ト 胸腹部臓器(外生殖器を含む。)

チ 体幹

(イ) せき柱

(ロ) その他の体幹骨

リ 上肢(右又は左)

(イ) 上肢

(ロ) 手指

ヌ 下肢(右又は左)

(イ) 下肢

(ロ) 足指

なお、以上の区分にあたって、眼球及び内耳等については、左右両器官をもって1の機能を営むいわゆる相対性器官としての特質から、両眼球、両内耳等を同一部位とし、また、上肢及び下肢は、左右一対をなす器官ではあるが、左右それぞれを別個の部位とされている。

(2) 障害の系列

上記のとおり部位ごとに区分された身体障害は、さらに生理学的な観点から、次表のとおり35種の系列に細分され、同一欄内の身体障害については、これを同一の系列にあるものとして取り扱うこととする。

なお、下記のごとく、同一部位に系列を異にする身体障害を生じた場合は、同一もしくは相関連するものとして取り扱うことが、認定実務上合理的であるので、具体的な運用にあたっては同一系列とみなして(以下「みなし系列」という。)取り扱う。

イ 両眼球の視力障害、運動障害、調節機能障害、視野障害の各相互間

ロ 同一上肢の機能障害と手指の欠損又は機能障害

ハ 同一下肢の機能障害と足指の欠損又は機能障害

障害系列表

部 位

器質的障害

機能的障害

系列区分

眼球

(両眼)

 

視力障害

1

調節機能障害

2

運動障害

3

視野障害

4

まぶた

欠損障害

運動障害

5

欠損障害

運動障害

6

内耳等(両耳)

 

聴力障害

7

耳かく

(耳介)

欠損障害

 

8

欠損障害

 

9

欠損及び機能障害

10

 

そしゃく及び言語機能障害

11

歯牙障害

 

12

神経系統の機能又は精神

神経系統の機能又は精神の障害

13

頭部、顔面、頸部

醜状障害

 

14

胸腹部臓器

(外生殖器を含む)

胸腹部臓器の障害

15

体幹

せき柱

変形障害

運動障害

16

その他の体幹骨

変形障害

(鎖骨、胸骨、ろく肩、肩こう骨又は骨盤骨)

 

17

上肢

上肢

欠損障害

機能障害

18

変形障害

(上腕骨又は前腕骨)

 

19

醜状障害

 

20

欠損障害

機能障害

21

変形障害

(上腕骨又は前腕骨)

 

22

醜状障害

 

23

手指

欠損障害

機能障害

24

欠損障害

機能障害

25

下肢

下肢

欠損障害

機能障害

26

変形障害

(大腿骨又は下腿骨)

 

27

短縮障害

 

28

醜状障害

 

29

欠損障害

機能障害

30

変形障害

(大腿骨又は下腿骨)

 

31

短縮障害

 

32

醜状障害

 

33

足指

欠損障害

機能障害

34

欠損障害

機能障害

35

備考 「耳かく」については、以下「耳介」という。

(3) 障害の序列

イ 障害等級表は、上記のとおり労働能力のそう失の程度に応じて身体障害を第1級から第14級までの14段階に区分しており、この場合の同一系列の障害相互間における等級の上位、下位の関係を障害の序列(以下「序列」という。)という。

障害等級表上定めのない身体障害及び同一系列に2以上の身体障害が存する場合の等級の認定にあたっては、障害の序列を十分に考慮すべきものである。(後記「5 障害等級認定の具体的方法(例示解説)」を参照のこと。)

なお、同一系列における序列については、次の類型に大別されるので、それぞれの等級の認定にあたっては留意する必要がある。

(イ) 障害の程度を一定の幅で評価することから、上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との間に中間の等級を定めていないもの

1 1眼の視力障害については、視力0.1以下を第10級に視力0.6以下を第13級に格付けているので、第13級には、視力0.1をこえて0.6までの視力障害が含まれることとなり、その中間にあたる視力0.4の視力障害は、第13級となり、視力が0.1以下にならない限り、上位の等級には格付けされない。

2 両眼の視力障害については、両眼の視力0.1以下を第6級に、両眼の視力0.6以下を第9級に格付けているので、第9級には両眼の視力が0.1をこえて0.6までの視力障害が含まれることとなり、1眼の視力0.6、他眼の視力0.1の視力障害は、第9級となる。

(ロ) 上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との区別を、労働能力に及ぼす影響の総合的な判定により行っているもの

例 胸腹部臓器の障害については、「常に介護を要するもの」(第1級)、「終身労務に服することができないもの」(第3級)、「特に軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(第5級)、「軽易な労務以外の労務に服することができないもの」(第7級)、「服することができる労務が相当な程度に制限されるもの」(第9級)、「障害を残すもの」(第11級)の6段階に区分されており、その労働能力に及ぼす影響を総合的に判定して等級を認定することとしている。

(ハ) 障害等級表上、最も典型的な身体障害を掲げるにとどまり上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との間に中間の身体障害が予想されるにかかわらず定めていないもの

1 1上肢の機能障害については、「1上肢の用を廃したもの」(第5級)、「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」(第6級)、「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃したもの」(第8級)、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に著しい障害を残すもの」(第10級)、「1上肢の3大関節中の1関節の機能に障害を残すもの」(第12級)の5段階に区分されており、1上肢の3大関節中の2関節の機能に障害を残すものは、第10級と第12級の中間の程度の身体障害であるにもかかわらず、障害等級表上には格付けられていない。

このように障害等級表における身体障害の定め方が最も典型的な身体障害を掲げるにとどまる場合に、上位等級の身体障害と下位等級の身体障害との等級差が2以上である場合は、障害の序列にしたがって、中間の等級を定めることができる。

2 しかしながら、たとえば「1上肢の用を全廃したもの」(第5級)と「1上肢の3大関節中の2関節の用を廃したもの」(第6級)のごとく、等級差が1である場合には、障害等級表上、これらの中間の等級はないので、上位等級に達しない限り、下位等級に該当するものとして取り扱うこととなる。)

ロ 欠損障害は、労働能力の完全なそう失であり、障害等級表上、同一部位に係る機能障害よりも上位に格付けられているので、同一部位に欠損障害以外のいかなる身体障害が残存したとしても、その程度は欠損障害の程度に達することはない。

ただし、その例外として、機能の全部そう失については欠損障害と同等に評価されている場合がある(第1級の6と第1級の7又は第1級の8と第1級の9)。

ハ 上記イ、ロによるほか、系列を異にする2以上の身体障害が残存した場合で、障害等級表上組合せにより等級が定められているものについても、その等級間に、いわゆる序列に類する上位下位の関係が明らかにされている。したがって系列を異にする2以上の身体障害のうちこれら組合せのあるもの以外のものの等級の認定については、原則として併合の方法により、行うこととなるが、上位、下位の関係に留意のうえ等級を認定することが必要である。なお、この場合、両上肢及び両下肢の欠損障害については、障害等級表に組合せによる等級が掲げられているので、その等級以外の格付けはあり得ない。したがって、上位等級(第1級の6又は第1級の8)に達しないものは、すべて下位等級(第2級の3又は第2級の4)に該当するものとして取り扱うこととなる。

4 障害等級認定にあたっての原則と準則

障害等級の認定にあたっては、前記2(障害補償に係る規定の概要)のとおり、法令の定めるところによることを原則とするが、なお、これが運用にあたっては、次のごとき準則により取り扱うものとする。

(1) 併合(労基則第40条第2項、3項及び労災則第14条第2項、3項)の場合

イ 「併合」とは、系列を異にする身体障害が2以上ある場合に、重い方の身体障害の等級によるか、又はその重い方の等級を1級ないし3級を繰り上げて当該複数の障害の等級とすることをいう。

ロ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害の序列を乱すこととなる場合は、障害の序列にしたがって等級を定めることとなる。

ハ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害等級が第1級をこえる場合であっても、障害等級表上、第1級以上の障害等級は存在しないので、第1級にとどめることとなる。

ニ 系列を異にする身体障害が2以上存する場合には、併合して等級を認定することとなるが、次の場合にあっては、併合の方法を用いることなく等級を定めることとなる。

(イ) 両上肢の欠損障害及び両下肢の欠損障害については、本来、系列を異にする複数の身体障害として取り扱うべきものであるが、障害等級表上では組み合わせ等級として定められているので(第1級の6、第1級の8、第2級の3、第2級の4)、それぞれの等級を併合の方法を用いることなく、障害等級表に定められた当該等級により認定する。

(ロ) 1の身体障害が観察の方法によっては、障害等級表上の2以上の等級に該当すると考えられる場合であるが、これは、その1の身体障害を複数の観点(複数の系列)で評価しているにすぎないものであるから、この場合には、いずれか上位の等級をもって、当該身体障害の等級とする。

(ハ) 1の身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合には、いずれか上位の等級をもって、当該身体障害の等級とする。

(2) 準用(労基則第40条第4項及び労災則第14条第4項)の場合

イ 障害等級表に掲げるもの以外の身体障害については、その障害の程度に応じ障害等級表に掲げる身体障害に準じて、その等級を定めることとなるが、この「障害等級表に掲げるもの以外の身体障害」とは、次の2つの場合をいう。

(イ) ある身体障害が、障害等級表上のいかなる障害の系列にも属さない場合

(ロ) 障害等級表上に、その属する障害の系列はあるが、該当する身体障害がない場合

ロ この場合においては、次により、その準用等級を定めるものとする。

(イ) いかなる障害の系列にも属さない場合

その障害によって生ずる労働能力のそう失の程度を医学的検査結果等に基づいて判断し、その障害が最も近似している系列の障害における労働能力のそう失の程度に相当する等級を準用等級として定める。

(ロ) 障害の系列は存在するが、該当する障害がない場合

a この準用等級を定めることができるのは、同一系列に属する障害群についてであるので、この場合は、同一系列に属する2以上の障害が該当するそれぞれの等級を定め、併合の方法を用いて準用等級を定める。ただし、併合の方法を用いた結果、序列を乱すときは、その等級の直近上位又は直近下位の等級を当該身体障害の該当する等級として認定する。

b 本来は異なる系列のものを、同一系列の障害として取り扱っているもの(「3 障害等級表の仕組みとその意議」の(2)のイ~ハ)については、それぞれの障害について各々別個に等級を定め、さらにこれを併合して得られる等級を準用等級とする。ただし、併合の結果、序列を乱すときは、その等級の直近下位の等級を当該身体障害の該当する等級として認定する。

(3) 加重(労基則第40条第5項、労災則第14条第5項)の場合

イ 既に身体障害のあった者が業務災害(又は通勤災害)によって同一の部位について障害の程度を加重した場合は、加重した限度で障害補償を行う。

(イ) 「既に身体障害のあった者」とは、新たな業務災害(又は通勤災害)の発生前において、既に身体障害のあった者をいい、その身体障害が、当該事業場に雇用される前の災害によるものであると、当該事業場に雇用された後の災害によるものであるとを問うところでないし、また先天性のものであると、後天性のものであると、業務上の事由によるものであると、業務外の事由によるものであると、現実に給付を受けたものであると否とにかかわらず、既に障害等級表に定められている程度の身体障害が存していた者をいう。

(ロ) 「加重」とは、業務災害(又は通勤災害)によって新たに障害が加わった結果、障害等級表上、現存する障害が既存の障害より重くなった場合をいう。したがって、自然的経過又は既存の障害の原因となった疾病の再発など、新たな業務災害(又は通勤災害)以外の事由により障害の程度を重くしたとしても、ここにいう「加重」には該当しない。また、同一部位に新たな障害が加わったとしても、その結果、障害等級表上、既存の障害よりも現存する障害が重くならなければ、「加重」には該当しない。

なお、既存の障害が、業務災害(又は通勤災害)によるものである場合は、その後の障害の程度の変更いかんにかかわらず、既に障害補償のなされた等級(労災保険法第15条の2の規定により新たに該当するに至った等級の障害補償を行ったときは当該等級)を既存の障害の等級とする。

(ハ) ここにいう「同一の部位」とは、前記3の(2)の「同一系列」の範囲内をいう。ただし、異なる系列であったとしても、「欠損」又は「機能の全部そう失」は、その部位における最上位の等級であるので、障害が存する部位に「欠損」又は「機能の全部そう失」という障害が後に加わった場合(たとえば、右下肢の下腿骨に変形の既存障害が存する場合に、その後新たに右下肢をひざ関節以上で失ったとき)は、それが系列を異にする障害であったとしても、「同一部位」の加重として取り扱うこととする。

ロ 加重の場合の障害補償の額は、加重された身体障害の該当する障害等級の障害補償の額(日数)から、既に存していた身体障害の該当する障害等級の障害補償の額(日数)を控除して得た額(日数)とする。

ただし、既存の身体障害が第8級以下に該当するものであって、新たに加重の結果、第7級(年金)以上になった場合には、現在の身体障害の該当する障害等級の障害補償の年額(日数)から既存の身体障害の障害補償の額(日数)の1/25を控除して得た額とする。

ハ 同一の部位に身体障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな身体障害が残った場合は、まず、同一部位の加重された後の身体障害についてその障害等級を定め、次に、他の部位の身体障害について障害等級を定め、両者を併合して現在の身体障害の該当する障害等級を認定する。

ニ 系列を異にする身体障害で障害等級表上、特にその組合せを規定しているために、同一系列とされている次の場合に、既存障害としてその一方に身体障害を有していた者が、新たに他方に身体障害を加え、その結果組合せ等級に該当するに至ったときは、新たな身体障害のみの該当する等級によることなく、加重として取り扱うものとする。

(イ) 両上肢の欠損又は機能障害

(第1級の6、第1級の7、第2級の3)

(ロ) 両手指の欠損又は機能障害

(第3級の5、第4級の6)

(ハ) 両下肢の欠損又は機能障害

(第1級の8、第1級の9、第2級の4、第4級の7)

(ニ) 両足指の欠損又は機能障害

(第5級の6、第7級の11)

(ホ) 両まぶたの欠損又は運動障害

(第9級の4、第11級の2、第13級の3)

ホ 手指及び足指並びに相対性器官(眼球及び内耳等)で身体障害の程度を加重した場合であっても、次の場合には、以下の準則により取り扱うこととする。

(イ) 手(足)指に既に身体障害を有する者が、同一手(足)の他指に新たに身体障害を加えた場合及び相対性器官の一側に既に身体障害を有する者が、他側に新たに身体障害を残した場合において、前記ロの方法により算定した障害補償の額(日数)が、新たな身体障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その新たな身体障害のみが生じたものとみなして障害等級の認定を行う。

(ロ) 一手(足)の2以上の手(足)指に既に身体障害を有する者が、その身体障害を有している手(足)指の一部について身体障害の程度を重くした場合において、前記ロの方法により算定した障害補償の額(日数)が、その一部の手(足)指のみに身体障害が存したものとみなして新たに身体障害の程度を加重したこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その一部の手(足)指にのみ新たに身体障害の程度を加重したものとみなし、取り扱うこととする。

(ハ) 相対性器官の両側に既に身体障害を有する者が、その1側について既存の障害の程度を重くした場合に、前記ロの方法により算出した障害補償の額(日数)が、その1側のみに身体障害が存したものとみなして新たに身体障害の程度を加重したこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その1側にのみ新たに身体障害の程度を加重したものとみなして障害等級の認定を行うこととする。

(ニ) 障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな身体障害を残した場合には、前記ロの方法により算定した障害補償の額(日数)が、他の部位の新たな身体障害のみが生じたこととした場合における障害補償の額(日数)より少ないときは、その新たな身体障害のみが生じたものとみなして取り扱うこととする。

(ホ) 上記(イ)、(ロ)、(ハ)及び(ニ)の場合において、前記ロの方法による加重後の身体障害の等級が第7級以上(年金)に該当し、新たに加わった身体障害が単独で生じたこととした場合の等級が第8級以下に該当するとき(既存の身体障害の等級と加重後の身体障害の等級が同等級である場合を除く。)は、加重後の等級により認定し、障害補償の額の算定にあたっては、その加重後の等級の障害補償の年額(日数)から既存の身体障害の障害補償の額(日数)の1/25を控除して得た額とする。

5 障害等級認定の具体的方法(例示解説)

(1) 併合

イ 併合の原則的取扱い

(イ) 重い方の身体障害の等級により等級を認定するもの

例 ひじ関節の機能に障害を残し(第12級の6)、かつ、4歯に対し歯科補てつを加えた(第14級の2)場合には、併合して重い方の障害の該当する等級により、併合第12級とする。

(ロ) 併合繰上げにより等級を認定するもの

例 せき柱に運動障害を残し(第8級の2)、かつ、1下肢を4センチメートル短縮した(第10級の7)場合には、併合して重い方の等級を1級繰上げ、併合第7級とする。

ロ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害の序列を乱すこととなる場合で、障害の序列にしたがって等級を定めたもの

例 1上肢を手関節以上で失い(第5級の2)、かつ、他の上肢をひじ関節以上で失った(第4級の4)場合は、併合して等級を繰り上げると第1級となるが、当該障害は、「両上肢をひじ関節以上で失ったもの」(第1級の6)の障害の程度に達しないので併合第2級とする。

ハ 併合して等級が繰り上げられた結果、障害等級が第1級をこえる場合で、第1級にとどめたもの

例 両眼の視力が0.02以下になり(第2級の2)、かつ、両手の手指の全部を失った(第3級の5)場合は、併合して等級を繰り上げると第1級をこえることとなるが、第1級以上の障害等級はあり得ないので併合第1級とする。

ニ 併合の方法を用いることなく等級を定めたもの

(イ) 両上肢の欠損障害及び両下肢の欠損障害について、障害等級表に定められた当該等級により認定するもの

例 1下肢をひざ関節以上で失い(第4級の5)、かつ、他の下肢をひざ関節で失った(第4級の5)場合は、併合の方法を用いることなく「両下肢をひざ関節以上で失ったもの」(第1級の8)の等級に該当する。

(ロ) 1の身体障害が観察の方法によっては、障害等級表上の2以上の等級に該当すると考えられる場合に、いずれか上位の等級をもって当該障害の等級とするもの

例 大腿骨に変形を残した(第12級の8)結果、同一下肢を1センチメートル短縮した(第13級の8)場合は、上位の等級である第12級の8をもって当該障害の等級とする。

(ハ) 1の身体障害に他の身体障害が通常派生する関係にある場合に、いずれか上位の等級をもって当該障害の等級とするもの

例 1上肢に偽関節を残す(第8級の8)とともに、当該箇所にがん固な神経症状を残した(第12級の12)場合は、上位等級である第8級の8をもって当該障害の等級とする。

ホ 併合の結果が第8級以下である場合における障害補償の額の算定方法(労基則第40条第3項ただし書及び労災則第14条第3項ただし書)

例 右手の母指の亡失(第9級、給付基礎日額の391日分)及び左手の母指の指骨の一部欠損(第13級、給付基礎日額の101日分)が存する場合には等級を繰上げて第8級(給付基礎日額の503日分)となるが、第9級と第13級の障害補償の合算額(給付基礎日額の492日分)がこれに満たないので、この場合の障害補償の額は当該合算額(492日分)となる。

(2) 準用

イ いかなる障害の系列にも属さない場合

「嗅覚脱失」および「味覚脱失」については、ともに準用第12級の障害として取り扱う。嗅覚脱失等の鼻機能障害、味覚脱失等の口腔障害は、神経障害ではないが、全体としては神経障害に近い障害とみなされているところから、一般の神経障害の等級として定められている第12級の12「局部にがん固な神経症状を残すもの」を準用して等級を認定する。また、「嗅覚減退」については第14級の9「局部に神経症状を残すもの」を準用して等級を認定する。

ロ 障害の系列は存在するが、該当する障害がない場合

(イ) 併合繰上げの方法を用いて、準用等級を定めたもの

例 「1上肢の3大関節中の1関節の用を廃し」(第8級の6)、かつ、「他の1関節の機能に著しい障害を残す」(第10級の9)場合には、併合繰上げの方法を用いて準用第7級に認定する。

(ロ) 併合繰上げの方法を用いて準用等級を定めるが、序列を乱すため、直近上位又は直近下位の等級に認定したもの

a 直近上位の等級に認定したもの

例 1手の「中指の用を廃し」(第12級の9)、かつ、「小指を失った」(第12級の8の2)場合は、併合の方法を用いると第11級となるが、この場合、当該障害の程度は、「1手の母指以外の2の手指の用を廃したもの」(第10級の6)よりも重く、「1手の母指以外の2の手指を失ったもの」(第9級の8)よりは軽いので、準用第10級に認定する。

b 直近下位の等級に認定したもの

1 「上肢の3大関節中の2関節の用を廃し」(第6級の5)、かつ、「他の1関節の機能に著しい障害を残す」(第10級の9)場合には、併合の方法を用いると第5級となるが、「1上肢の用を廃した」(第5級の4)障害の程度より軽いので、その直近下位の準用第6級に認定する。

2 ―本来、異系列のものを同一系列のものとして取り扱う場合の例―

「1手の5の手指を失い」(第6級の7)、かつ、「1上肢の3大関節中の1関節(手関節)の用を廃した」(第8級の6)場合には、併合の方法を用いると第4級となるが、「1上肢を手関節以上で失ったもの」(第5級の2)には達しないので、その直近下位の準用第6級に認定する。)

(3) 加重

イ 既に身体障害を有していた者が新たな災害により、同一部位に身体障害の程度を加重したもの

例 既に、3歯に対し、歯科補てつを加えていた(第14級の2)者が、新たに3歯に対し歯科補てつを加えた場合には、現存する障害に係る等級は第13級の3の2となる。

ロ 身体障害を加重した場合の障害補償の額の算定

1 既に右示指の用を廃していた(第12級の9)者が、新たに同一示指を亡失した場合には、現存する身体障害に係る等級は第11級の6となるが、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第11級の6、給付基礎日額の223日分)から既存の障害の障害補償の額(第12級の9、給付基礎日額の156日分)を差し引いて給付基礎日額の67日分となる。

2 既に、1上肢の手関節の用を廃していた(第8級の6)者が、新たに同一上肢の手関節を亡失した場合には、現存する障害は、第5級の2(年金)となるが、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第5級の2、当該障害の存する期間1年につき給付基礎日額の184日分)から既存の障害の障害補償の額(第8級の6、給付基礎日額の503日分)の1/25を差し引いて、当該障害の存する期間1年について給付基礎日額の163.88日分となる。)

ハ 同一の部位に身体障害の程度を加重するとともに他の部位にも新たな身体障害を残したもの

例 既に、1下肢を1センチメートル短縮していた(第13級の8)者が、新たに同一下肢を3センチメートル短縮(第10級の7)し、かつ、1手の小指を失った(第12級の8の2)場合の障害補償の額は、同一部位の加重後の障害(第10級の7)と他の部位の障害(第12級の8の2)を併合して繰上げた障害補償の額(第9級、給付基礎日額の391日分)から既存の障害の障害補償の額(第13級の8、給付基礎日額の101日分)を差し引いて、給付基礎日額の290日分となる。

ニ 組合せ等級が定められているため、既にその一方に身体障害を有していた者が、新たに他方に身体障害を生じ、組合せ等級に該当するに至ったもの。

例 既に、1上肢を手関節以上で失っていた(第5級の2)者が、新たに他方の上肢を手関節以上で失った場合は、その新たな障害(第5級の2)のみにより等級の認定を行うことなく、両上肢を手関節以上で失ったもの(第2級の3)として認定する。

なお、この場合の障害補償の額は、現存する障害の障害補償の額(第2級の3、給付基礎日額の277日分)から、既存の障害の障害補償の額(第5級の2、給付基礎日額の184日分)を差し引いて給付基礎日額の93日分となる。

ホ 手指及び足指並びに相対性器官の場合

(イ) 手(足)指に既に身体障害を有する者が、同一手(足)の他指に新たに身体障害を加えた者

例 「1手の示指を亡失」(第11級の6)していた者が、新たに「同一手の環指を亡失」(第11級の6)した場合、現存する障害は第9級の8となるが、この場合、現存する障害の障害補償の額(第9級の8、給付基礎日額の391日分)から既存の障害の障害補償の額(第11級の6、給付基礎日額223日分)を差し引くと、障害補償の額は給付基礎日額の168日分となり、新たな障害(第11級の6、給付基礎日額の223日分)のみが生じたこととした場合の障害補償の額より少ないので、この場合は、第11級の6の障害のみが生じたものとみなして、給付基礎日額の223日分を支給する。

(ロ) 1手(足)の2以上の手(足)指に、既に身体障害を有する者が新たにその一部の手(足)指について身体障害の程度を重くしたもの

例 「1手の中指、環指及び小指の用を廃していた」(第9級の9)者が、新たに「同一手の小指を亡失」(第12級の8の2)した場合であっても、現存する障害は第8級には及ばないので第9級となり、加重の取扱いによれば、障害補償の額は0となるが、新たに障害が生じた小指についてのみ加重の取扱いをして「小指の亡失」の障害補償の額(第12級の8の2、給付基礎日額の156日分)から、既存の「小指の用廃」の障害補償の額(第13級の4、給付基礎日額の101日分)を差し引くと障害補償の額は給付基礎日額の55日分となるので、この場合の障害補償の額は、新たに小指のみに障害が加重されたものとみなして給付基礎日額の55日分を支給する。

(ハ) 相対性器官の両側に、既に身体障害を有していた者が、その1側について既存の障害の程度を重くしたもの

例 「両眼の視力が0.6以下に減じていた」(第9級の1)者が、新たに「1眼の視力が0.06以下に減じた」(第9級の2)場合の現存する障害は第9級の1となり、前記ロの方法によれば障害補償の額は0となるが、新たに障害が生じた1眼についてのみ加重の取扱いをして「1眼の視力が0.06以下に減じたもの」の障害補償の額(第9級の2、給付基礎日額の391日分)から、既存の「1眼の視力が0.6以下に減じたもの」の障害補償の額(第13級の1、給付基礎日額の101日分)を差し引くと、障害補償の額は給付基礎日額の290日分となるので、この場合の障害補償の額は、新たに1眼のみに障害が加重されたものとみなして給付基礎日額の290日分を支給する。

(ニ) 障害の程度を加重するとともに、他の部位にも新たな障害を残したもの

例 「言語の機能に障害を残し」(第10級の2)ていた者が、新たに「そしゃくの機能に障害を残し」(第10級の2)、かつ、「両眼の視力が0.6以下に減じた」(第9級の1)の場合は、同一部位の加重後の障害である「そしゃく及び言語の機能に障害を残したもの」(第9級の6)と他部位の「両眼の視力が0.6以下に減じたもの」(第9級の1)を併合し、現存する障害は第8級となるが、加重の取扱いによれば、現存する障害の障害補償の額(第8級、給付基礎日額の503日分)から既存の障害の障害補償の額(第10級の2、給付基礎日額の302日分)を差し引くと障害補償の額は給付基礎日額の201日分となり、他部位の新たな障害(第9級の1、給付基礎日額の391日分)のみが生じたこととした場合の障害補償の額より少ないので、この場合は、両眼の視力が0.6以下に減じた障害のみが生じたものとみなして、給付基礎日額の391日分を支給する。

 

第2 障害等級認定の具体的要領

1 削除

2 耳(内耳等及び耳介)

(1) 耳の障害と障害等級

イ 耳の障害については、障害等級表において、次のごとく聴力障害と耳介の欠損障害について等級を定めている。

(イ) 聴力障害

a 両耳の障害

両耳の聴力を全く失ったもの 第4級の3

両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 第6級の3

1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 第6級の3の2

両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの 第7級の2

1耳の聴力を全く失い他耳の聴力が1メートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの 第7級の2の2

両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 第9級の6の2

1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 第9級の6の3

両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの 第10級の3の2

両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 第11級の3の3

b 1耳の障害

1耳の聴力を全く失ったもの 第9級の7

1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの 第10級の4

1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの 第11級の4

1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの 第14級の2の2

(ロ) 耳介の欠損障害

1耳の耳かく(耳介)の大部分を欠損したもの 第12級の4

ロ 障害等級表に掲げていない耳の障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。

(2) 障害等級認定の基準

イ 聴力障害

(イ) 聴力障害に係る等級は、純音による聴力レベル(以下「純音聴力レベル」という。)の測定結果及び語音による聴力検査結果(以下「明瞭度」という。)を基礎として、次により認定すること。

a 両耳の障害

(a) 「両耳の聴力を全く失ったもの」とは、両耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のものをいう。

(b) 「両耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力レベルが80dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が30%以下のものをいう。

(c) 「1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力損失値が90dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のものをいう。

(d) 「両耳の聴力が40センチメートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のものをいう。

(e) 「1耳の聴力を全く失い、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のものをいう。

(f) 「両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力レベルが60dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のものをいう。

(g) 「1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になり、他耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが80dB以上であり、かつ、他耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のものをいう。

(h) 「両耳の聴力が1メートル以上の距離では普通の話声を解することが困難である程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力レベルが50dB以上のもの又は両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上であり、かつ、最高明瞭度が70%以下のものをいう。

(i) 「両耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」とは、両耳の平均純音聴力レベルが40dB以上のものをいう。

b 1耳の障害

(a) 「1耳の聴力を全く失ったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが90dB以上のものをいう。

(b) 「1耳の聴力が耳に接しなければ大声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが80dB以上のものをいう。

(c) 「1耳の聴力が40センチメートル以上の距離では、普通の話声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが70dB以上のもの又は1耳の平均純音聴力レベルが50dB以上であり、かつ、最高明瞭度が50%以下のものをいう。

(d) 「1耳の聴力が1メートル以上の距離では小声を解することができない程度になったもの」とは、1耳の平均純音聴力レベルが40dB以上のものをいう。

(ロ) 両耳の聴力障害については、障害等級表に掲げている両耳の聴力障害の該当する等級により認定することとし、1耳ごとの等級により併合の方法を用いて準用等級を定める取扱いは行わないこと。

(ハ) 騒音性難聴については、強烈な騒音を発する場所における業務に従事している限り、その症状は漸次進行する傾向が認められるので、等級の認定は、当該労働者が強烈な騒音を発する場所における業務を離れたときに行うこと。

(ニ) 難聴の聴力検査は、次により行うこと。

a 聴力検査の実施時期

(a) 騒音性難聴

騒音性難聴の聴力検査は、85dB以上の騒音にさらされた日以後7日間は行わないこと。

(b) 騒音性難聴以外の難聴

騒音性難聴以外の難聴については、療養効果が期待できることから、治ゆした後すなわち療養が終了し症状が固定した後に検査を行うこと。

b 聴力検査の方法

(a) 聴覚検査法

障害等級認定のための聴力検査は、別紙1「聴覚検査法(1990)」(日本聴覚医学会制定)により行うこと(語音聴力検査については、日本聴覚医学会制定「聴覚検査法(1990)」における語音聴力検査法が新たに制定されるまでの間は、日本オージオロジー学会制定「標準聴力検査法Ⅱ語音による聴力検査」により行うこととし、検査用語音は、57式、67式、57S式又は67S式のいずれを用いても差し支えないものとする。)。

(b) 聴力検査回数

聴力検査は日を変えて3回行うこと。

但し、聴力検査のうち語音による聴力検査の回数は、検査結果が適正と判断できる場合には1回で差し支えないこと。

(c) 聴力検査の間隔

検査と検査の間隔は7日程度あければ足りること。

c 障害等級の認定

障害等級の認定は、2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルの平均により行うこと。

2回目と3回目の測定値の平均純音聴力レベルに10dB以上の差がある場合には、更に聴力検査を行い、2回目以降の検査の中で、その差が最も小さい2つの平均純音聴力レベル(差は10dB未満とする。)の平均により、障害認定を行うこと。

(ホ) 平均純音聴力レベルは、周波数が500ヘルツ、1000ヘルツ、2000ヘルツ及び4000ヘルツの音に対する聴力レベルを測定し、次式により求めること。

(A+2B+2C+D)/6

A:周波数500ヘルツの音に対する純音聴力レベル

B:周波数1000ヘルツの音に対する純音聴力レベル

C:周波数2000ヘルツの音に対する純音聴力レベル

D:周波数4000ヘルツの音に対する純音聴力レベル

ロ 耳介の欠損障害

(イ) 「耳介の大部分の欠損」とは、耳介の軟骨部の1/2以上を欠損したものをいう。

(ロ) 耳介の大部分を欠損したものについては、耳介の欠損障害としてとらえた場合の等級と外貌の醜状障害としてとらえた場合の等級のうち、いずれか上位の等級に認定すること。

例 「耳介の大部分の欠損」は第12級の4に該当するが、一方、醜状障害としては第7級の12に該当するので、この場合は、外貌の醜状障害として第7級の12に認定する。

(ハ) 耳介軟骨部の1/2以上には達しない欠損であっても、これが、「外貌の単なる醜状」の程度に達する場合は、第12級の14とすること。

(3) 併合、準用、加重

イ 併合

(イ) 障害等級表では、耳介の欠損障害について、1耳のみの等級を定めているので、両耳の耳介を欠損した場合には、1耳ごとに等級を定め、これを併合して認定すること。

なお、耳介の欠損を醜状障害としてとらえる場合は、上記の取扱いは行わないこと。

(ロ) 耳介の欠損障害と聴力障害が存する場合は、それぞれの該当する等級の併合して認定すること。

ロ 準用

(イ) 鼓膜の外傷性穿孔及びそれによる耳漏は、手術的処置により治ゆを図り、そののちに聴力障害が残れば、その障害の程度に応じて等級を認定することとなるが、この場合、聴力障害が障害等級に該当しない程度のものであっても、常時耳漏があるものは第12級を、その他のものについては、第14級を準用すること。また、外傷による外耳道の高度の狭さくで耳漏を伴わないものについては、第14級を準用すること。

(ロ) 耳鳴に係る検査によって難聴に伴い著しい耳鳴が常時あると評価できるものについては第12級を、また、難聴に伴い常時耳鳴のあることが合理的に説明できるものについては第14級を、それぞれ準用する。

a 「耳鳴に係る検査」とは、ピッチ・マッチ検査及びラウドネス・バランス検査をいう。

b 「難聴に伴い」とは、騒音性難聴にあっては、騒音職場を離職した者の難聴が業務上と判断され当該難聴に伴い耳鳴がある場合をいう。

騒音性難聴以外の難聴にあっては、当該難聴が業務上と判断され治ゆ後にも継続して当該難聴に伴い耳鳴がある場合をいう。

c 耳鳴に係る検査により耳鳴が存在すると医学的に評価できる場合には、「著しい耳鳴」があるものとして取り扱うこと。

d 耳鳴が常時存在するものの、昼間外部の音によって耳鳴が遮蔽されるため自覚症状がなく、夜間のみ耳鳴の自覚症状を有する場合には、耳鳴が常時あるものとして取り扱うこと。

e 「耳鳴のあることが合理的に説明できる」とは、耳鳴の自訴があり、かつ、耳鳴のあることが騒音ばく露歴や音響外傷等から合理的に説明できることをいう。

(ハ) 内耳の損傷による平衡機能障害については、神経系統の機能の障害の一部として評価できるので、神経系統の機能の障害について定められている認定基準に準じて等級を認定すること。

(ニ) 内耳の機能障害のため、平衡機能障害のみでなく、聴力障害も現存する場合には、併合の方法を用いて準用等級を定めること。

ハ 加重

(イ) 耳については、両耳を同一部位としているので、1耳に聴力障害が存する者が、新たに他耳に聴力障害を存した場合には、加重として取り扱うこと。

例 1耳の聴力を全く失っていた者が、新たに他耳の聴力を全く失った場合の障害補償の額は、両耳の聴力障害に該当する障害補償の額(第4級の3、給付基礎日額の213日分の年金)から既存の1耳の聴力障害に該当する障害補償の額(第9級の7、給付基礎日額の391日分)の1/25の額を差し引いた額となる。

(ロ) ただし、既に両耳の聴力を減じていた者が、1耳について障害の程度を加重した場合に、労災則第14条第5項により算定した障害補償の額(日数)が、その1耳に新たな障害のみが生じたこととした場合の障害補償の額(日数)より少ないときは、その1耳に新たな障害のみが生じたものとみなして障害補償の額を算定すること。

例 既に両耳の聴力レベルが50dB(第10級の3の2)である者の1耳の聴力レベルが70dBとなった場合の障害補償の額は、第11級の4(1耳の聴力レベルが70dB以上)の障害補償の額から第14級の2の2(1耳の聴力レベルが40dB以上)の障害補償の額を差し引いた額となる。

3 鼻

(1) 鼻の障害と障害等級

イ 鼻の障害については、障害等級表上鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残すもの 第9級の5のみを定めている。

ロ 鼻の欠損を伴わない機能障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。

(2) 障害等級認定の基準

イ 「鼻の欠損」とは、鼻軟骨部の全部又は大部分の欠損をいう。

また、「機能に著しい障害を残すもの」とは、鼻呼吸困難又は嗅覚脱失をいう。

ロ 鼻の欠損が、鼻軟骨部の全部又は大部分に達しないものであっても、これが単なる「外貌の醜状」の程度に達するものである場合は、第12級の14とすること。

ハ 鼻の欠損は、一方では「外貌の醜状」としてもとらえうるが、耳介の欠損の場合と同様、それぞれの等級を併合することなく、いずれか上位の等級によること。

例 鼻を欠損し、その機能に著しい障害を残す場合は、鼻の障害としては第9級の5に該当するが、一方、外貌の醜状障害として第7級の12に該当するので、この場合は、第7級の12とする。

ニ 鼻の欠損を外貌の醜状障害としてとらえる場合であって、鼻以外の顔面にも瘢痕等を存する場合にあっては、鼻の欠損と顔面の瘢痕等を併せて、その程度により、単なる「醜状」か「著しい醜状」かを判断すること。

(3) 準用

イ 鼻の機能障害のみを残すものについては、障害等級表上特に定めていないので、その機能障害の程度に応じて、次により準用等級を定めること。

(イ) 嗅覚脱失又は鼻呼吸困難については、第12級の12を準用すること。

(ロ) 嗅覚の減退については、第14級の9を準用すること。

ロ 嗅覚脱失及び嗅覚の減退については、T&Tオルファクトメータによる基準嗅力検査の認知域値の平均嗅覚損失値により、次のように区分する。

5.6以上 嗅覚脱失

2.6以上5.5以下 嗅覚の減退

なお、嗅覚脱失については、アリナミン静脈注射(「アリナミンF」を除く。)による静脈性嗅覚検査による検査所見のみによって確認しても差し支えないこと。

4 口

(1) 口の障害と障害等級

イ 口の障害については、障害等級表上、次のごとく、そしゃく及び言語機能障害並びに歯牙障害について等級を定めている。

(イ) そしゃく及び言語機能障害

そしゃく及び言語の機能を廃したもの 第1級の2

そしゃく又は言語の機能を廃したもの 第3級の2

そしゃく及び言語の機能に著しい障害を残すもの 第4級の2

そしゃく又は言語の機能に著しい障害を残すもの 第6級の2

そしゃく及び言語の機能に障害を残すもの 第9級の6

そしゃく又は言語の機能に障害を残すもの 第10級の2

(ロ) 歯牙障害

14歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第10級の3

10歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第11級の3の2

7歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第12級の3

5歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第13級の3の2

3歯以上に対し歯科補てつを加えたもの 第14級の2

ロ 嚥下障害、味覚脱失等障害等級表に掲げていない口の障害については、労災則第14条第4項により、その障害の程度に応じて、障害等級表に掲げている他の障害に準じて等級を認定すること。

(2) 障害等級認定の基準

イ そしゃく及び言語機能障害

(イ) そしゃく機能の障害は、上下咬合及び排列状態並びに下顎の開閉運動等により、総合的に判断すること。

(ロ) 「そしゃく機能を廃したもの」とは、流動食以外は摂取できないものをいう。

(ハ) 「そしゃく機能に著しい障害を残すもの」とは、粥食又はこれに準ずる程度の飲食物以外は摂取できないものをいう。

(ニ) 「そしゃく機能に障害を残すもの」とは、固形食物の中にそしゃくができないものがあること又はそしゃくが十分にできないものがあり、そのことが医学的に確認できる場合をいう。

a 「医学的に確認できる場合」とは、不正咬合、そしゃく関与筋群の異常、顎関節の障害、開口障害、歯牙損傷(補てつができない場合)等そしゃくができないものがあること又はそしゃくが十分にできないものがあることの原因が医学的に確認できることをいう。

b 「固形食物の中にそしゃくができないものがあること又はそしゃくが十分にできないものがあり」の例としては、ごはん、煮魚、ハム等はそしゃくできるが、たくあん、らっきょう、ピーナッツ等の一定の固さの食物中にそしゃくができないものがあること又はそしゃくが十分にできないものがあるなどの場合をいう。

(ホ) 「言語の機能を廃したもの」とは、4種の語音(口唇音、歯舌音、口蓋音、喉頭音)のうち、3種以上の発音不能のものをいう。

(ヘ) 「言語の機能に著しい障害を残すもの」とは、4種の語音のうち2種の発音不能のもの又は綴音機能に障害があるため、言語のみを用いては意思を疎通することができないものをいう。

(ト) 「言語の機能に障害を残すもの」とは、4種の語音のうち、1種の発音不能のものをいう。

注 語音は、口腔等附属管の形の変化によって形成されるが、この語音を形成するために、口腔等附属管の形を変えることを構音という。

また、語音が一定の順序に連絡され、それに特殊の意味が付けられて言語ができあがるのであるが、これを綴音という。言語は普通に声を伴うが(有声言語)、声を伴わずに呼息音のみを用いてものをいうこともできる(無声言語)。

語音は、母音と子音とに区別される。この区別は、母音は声の音であって、単独に持続して発せられるもの、子音は、母音とあわせて初めて発せられるものであるという点にある。しかし、子音のうちには半母音のごとく母音と区別できないものがある。

子音を構音部位に分類すると、次の4種類となる。

1 口唇音(ま行音、ば行音、ぱ行音、わ行音、ふ)

2 歯舌音(な行音、た行音、だ行音、ら行音、さ行音、しゅ、し、ざ行音、じゅ)

3 口蓋音(か行音、が行音、や行音、ひ、にゅ、ぎゅ、ん)

4 喉頭音(は行音))

ロ 歯牙障害

「歯科補てつを加えたもの」とは、現実にそう失又は著しく欠損した歯牙に対する補てつをいう。したがって、有床義歯又は架橋義歯等を補てつした場合における支台冠又は鈎の装着歯やポスト・インレーを行うに留まった歯牙は、補てつ歯数に算入せず、また、そう失した歯牙が大きいか又は歯間に隙間があったため、そう失した歯数と義歯の歯数が異なる場合は、そう失した歯数により等級を認定すること。

例 3歯のそう失に対して、4本の義歯を補てつした場合は、3歯の補てつとして取り扱う。

(3) 併合、準用、加重

イ 併合

そしゃく又は言語機能障害と歯牙障害が存する場合であって、そしゃく又は言語機能障害が歯牙障害以外の原因(たとえば、顎骨骨折や下顎関節の開閉運動制限等による不正咬合)にもとづく場合は、労災則第14条第2項及び第3項により併合して等級を認定すること。

ただし、歯科補てつを行った後に、なお、歯牙損傷にもとづくそしゃく又は言語機能障害が残った場合は、各障害に係る等級のうち、上位の等級をもって認定すること。

ロ 準用

(イ) 舌の異常、咽喉支配神経の麻痺等によって生ずる嚥下障害については、その障害の程度に応じて、そしゃく機能障害に係る等級を準用すること。

(ロ) 味覚障害については、次により取り扱うこと。

a 味覚脱失

(a) 頭部外傷その他顎周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚脱失については、第12級を準用すること。

(b) 味覚脱失は、濾紙ディスク法における最高濃度液による検査により、基本4味質すべてが認知できないものをいう。

b 味覚減退

(a) 頭部外傷その他顎周囲組織の損傷及び舌の損傷によって生じた味覚減退については、第14級を準用すること。

(b) 味覚減退は、濾紙ディスク法における最高濃度液による検査により、基本4味質のうち1味質以上が認知できないものをいう。

c 検査を行う領域

検査を行う領域は、舌とする。

d 障害認定の時期

味覚障害については、その症状が時日の経過により漸次回復する場合が多いので、原則として療養を終了してから6ケ月を経過したのちに等級を認定すること。

(ハ) 障害等級表上組合せのないそしゃく及び言語機能障害については、各障害の該当する等級により併合の方法を用いて準用等級を定めること。

1 そしゃく機能の著しい障害(第6級の2)と言語機能の障害(第10級の2)が存する場合は、第5級とする。

2 そしゃく機能の用を廃し(第3級の2)、言語機能の著しい障害(第6級の2)が存する場合は、併合すると第1級となるが、序列を乱すこととなるので、第2級とする。

(ニ) 声帯麻痺による著しいかすれ声については、第12級を準用すること。

(ホ) 開口障害等を原因としてそしゃくに相当時間を要する場合は、第12級を準用すること。

a 「開口障害等を原因として」とは、開口障害、不正咬合、そしゃく関与筋群の脆弱化等を原因として、そしゃくに相当時間を要することが医学的に確認できることをいう。

b 「そしゃくに相当時間を要する場合」とは、日常の食事において食物のそしゃくはできるものの、食物によってはそしゃくに相当時間を要することがあることをいう。

c 開口障害等の原因から、そしゃくに相当時間を要することが合理的に推測できれば、「相当時間を要する」に該当するものとして取り扱って差し支えないこと。

ハ 加重

何歯かについて歯科補てつを加えていた者が、さらに歯科補てつを加えた結果、上位等級に該当するに至ったときは、加重として取り扱うこと。

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別紙1

聴覚検査法(1990)

1.オージオメータによる純音聴力(閾値)レベル測定法

目次

 1.緒言および適用範囲

  1―1.緒言

  1―2.適用範囲

 2.聴力検査に先立つ準備および被検者への説明

  2―1.検査機器

  2―2.測定環境

  2―3.検者の資格

  2―4.被検者の準備

  2―5.被検者への検査方法の説明

  2―6.受話器の装着法

 3.気導純音聴力(閾値)レベル測定法

  3―1.検査音の呈示法、呈示時間と休止時間

  3―2.検査耳の順序、検査周波数の順序

  3―3.予備測定

  3―4.本測定の手順

  3―5.マスキングを必要とする場合の測定法

 4.骨導純音聴力(閾値)レベル測定法

  4―1.受話器の装着法

  4―2.測定方法

  4―3.振動感覚と骨導による聴覚

  4―4.検査音の呈示時間と休止時間

  4―5.検査耳の順序と検査周波数の順序

  4―6.予備測定

  4―7.本測定の手順

  4―8.骨導聴力(閾値)レベル測定時のマスキング法の手順

 5.オージオグラムの記載法

  5―1.オージオグラムの形式

  5―2.検査成績の記入法

 6.オージオメータの保守、点検、整備

  6―1.点検手続

  6―2.主観的点検

  6―3.主観的校正点検

  6―4.客観的校正点検

  6―5.基本的校正

[解説]

解説1.マスキングに関する基礎事項

解1―1.両耳間移行現象(陰影聴取)

解1―2.骨導の外耳導閉鎖効果

解1―3.マスキング現象

解説2.マスキングを必要とする場合の気導(骨導)測定の別法

―ノイズ、検査音同時変化法―

解説3.骨導ノイズを用いた骨導聴力(閾値)レベルの測定法

解3―1.既知の感覚レベルの気導音を骨導ノイズでマスキングする測定法(M―Rの変法)

解3―2.既知のマスキング・ノイズ・レベルを有する骨導ノイズを用いる測定法

解説4.環境音

解4―1.気導聴力(閾値)レベル0dBの測定時の環境音

解4―2.骨導聴力(閾値)レベル0dBの測定時の環境音

[用語解説]

[文献]

1.緒言および適用範囲

1―1.緒言

日本聴覚医学会は、1972年までに報告された各種聴覚検査法全般にわたって基準化の作業を進め、1975年にその原案をAudiology Japan,vol.18,20―46頁に掲載し、さらに1976年には若干の修正と補足を行って、同紙vol.18,142―145頁に“聴力検査法1972年基準化案”として報告した。しかしその後、オージオメータの日本工業規格が改定され(JIS T1201―1982オージオメータ)、国際的には国際標準化機構(ISO)よりBasic pure―tone audiometric test methodsが提示されるに及んで、純音聴力検査法について再検討が必要となった。ここに述べる検査法の骨子は従来からわが国において行われている方法と、ISO/DIS8253.2,1986(文献13)およびISO6189,1983(文献11)に基づいて、一つの指針としてまとめた検査法であって、この情報によることを強制するものではない。

1―2.適用範囲

(1) 純音による聴力(閾値)レベル(用語解説13項参照)の測定は、

イ) 主として耳科学的診断を目的としたもの。

ロ) 聴覚保護を目的とした聴覚管理のためにイ)より限定された周波数で検査が行われるもの。

ハ) 選別検査を目的としたもの。

があるが、ロ)ハ)については章を改めてまとめられる予定である。

(2) 本検査法は、この検査法をある程度理解し正しく応答しようとする者を対象としている。したがって乳幼児その他特殊な被検者には適用することはできない。

(3) 本検査法に記載した測定法の手順は1つの指針であって、熟練した検者が測定を行う場合に、その精度を落とさぬ能率的な測定法を採用することを妨げるものではない。また聴覚検査機器の進歩に伴う新しい検査法の発展や、新しい構想による検査法の開発を抑止するものでもない。

2.聴覚検査に先立つ準備および被験者への説明

2―1.検査機器

JIS T1201―1982オージオメータ(診断用あるいは選別用)の規格をみたし、かつ正しく校正されたオージオメータを使用する。

注―輸入オージオメータを使用する場合はIEC645―1979の規格をみたし、かつISO389―1975およびISO7566―1987に従って校正されたオージオメータを使用する。

2―2.測定環境

聴覚検査は妨害騒音レベルの低い防音室で行う。

被検者を楽な姿勢で着席させる。測定時には、検者が被検者を明視でき、被検者は検者のオージオメータ操作が見えないようにする。

聴覚検査室の温度・湿度は事務室として許容される範囲内とする必要があり、また充分な換気がなされなければならない。

妨害雑音についての詳細は解説4.を参照のこと。

2―3.検者の資格

聴覚検査の準備、被検者への指示、検査の実施は有資格者が責任をもって行うものとする。有資格者とは聴覚測定の理論と実践のしかるべき教育課程を経たものをいう。

2―4.被検者の準備

聴覚検査に先立ち医師が耳鏡検査を行い、外耳道に検査の障害となる耳垢などがある場合にこれを除去する。また、外耳炎や湿疹があるときなど、検査の実施を延期する必要があるか否かを判断する。被検者は聴覚検査の少なくとも15分前から過大な騒音から隔離されている必要がある。

注―検査前に過大な騒音にさらされていると一過性閾値上昇のため本来のより大きな測定値が得られることがある。

検査に先立ち、下記の指示を行う。

(イ) 眼鏡、髪飾り、イヤリング、補聴器などを着けている場合はそれを取りはずす。

(ロ) 検査を妨害する騒音の発生を防ぐため、不必要な動きをしないようにする。

2―5.被検者への検査方法の説明

検査方法について的確な説明をおこない、被検者にそれを充分理解させることが肝要である。その説明には下記の項目を含む必要がある。

(イ) 音が聞こえたときの応答方法(検査音が聞こえている間―断続音の場合は断続音が聞こえている間―ずっとボタンを押し続け、あるいは指か手を上げ続けて応答する)。

(ロ) 音が聞こえなくなったときの応答方法(ボタンを放すとか指か手を下げるなど)。

(ハ) 応答(上記(イ)および(ロ))はできるだけ速やかにする必要があること。

(ニ) 聞こえる音が非常に小さくても応答する必要性があること。

(ホ) 検査耳の順序、検査周波数の順序の説明。

(ヘ) 検査の続行に支障が生じた時、被検者から検査の中断を申し出ることができること。

説明を被検者が理解できたか否か確かめることが望ましい。疑問がある場合は説明を反復する。

2―6.受話器の装着法

気導受話器は両耳要ヘッド・バンド(圧抵力500g重以上)を用い、耳介部に正しく装着し、周囲にすき間ができないよう、また毛髪がはさまったりしないようにする。受話器が1個の機器では対側に受話器ダミーを用いる。

骨導受話器は乳突部にヘッド・バンドを用い振動面が圧抵面に平行になるよう、また、毛髪がはさまったり、耳介に接触しないように装着する。受話器は検者が装着し、被検者には受話器装着後、特別な指示がない限り受話器に触れないよう指示する。検者も検査中に不必要に受話器に触れたりしないようにする。装着状態に異常を感じた時は直ちに知らせるよう、あらかじめ被検者に指示しておく。

注―1 受話器の装着状態が正しい状態にあることを随時監視する。特に骨導受話器の装着状態には注意が必要である。

注―2 骨導受話器は前額正中部に装着する場合もある。

3.気導純音聴力(閾値)レベル測定法

3―1.検査音の呈示法、呈示時間と休止時間

閾値の測定は原則として断続上昇法による。

1回の検査音は同一レベルで1~2秒呈示する。聞こえるとの応答があったときは一旦検査音を断ち、不定の休止時間をおいて再び検査音を呈示する。その際休止時間が呈示時間よりも短くならないようにする。

注―検査音は原則として断続器によって断続した音を用いる。自動断続音を用いるときは衝撃係数50%、原則として1秒間2回の断続とし、約2秒間聴取させる。自動断続音のときは断続のたびに応答するのではなく、一連の断続音が聞こえている間ずっと(聞こえるとの)応答を続けるように指示する。(2―5.(イ))

3―2.検査耳の順序、検査周波数の順序

原則として自覚的によく聞こえる方の耳から検査をはじめる。検査周波数の順序は原則として1000Hzから始め、2000Hz、4000Hz、8000Hzと順次高い周波数に進み、再び1000Hzを測定し、その後500Hz、250Hz、125Hzと順を追って低い周波数に進む。800Hz、1500Hz、3000Hz、6000Hzなどについては必要に応じ適宜検査する。

注―1 初回と2回目の1000Hzの測定値が10dB以上異なる時は、3―4.(ホ)に従って測定しなおすものとする。

注―2 高度難聴があることが予めはっきりとしているときは1000Hzからはじめ低い周波数を先に検査してもよい。

3―3.予備測定

本測定に先立ち、はっきり聞こえる検査音を用い、被検者を検査に慣れさせるとともに、応答方法など、2―5.項の説明を正しく理解しているか否か確かめるために予備測定を行う。

予備測定手順の例

(イ) 良聴耳にたとえば1000Hz、聴力レベル40dBの検査音を聞かせる。応答が得られたときは、出力レベルを10~20dBステップで応答が得られなくなるまで検査音のレベルを下げる。

(ロ) 40dBで応答が無いときは10~20dBステップで応答のあるまで検査音のレベルを上げたのち、10~20dBステップで応答が無くなるまで検査音のレベルを下げる。

(ハ) (イ)(ロ)に次いで5dBステップで検査音のレベルを、応答が得られるまで徐々に上げる。

(ニ) 初めて応答が得られたレベルあるいはそれより5dB上のレベルで、出力レベルを固定したまま、検査音の呈示と休止を1~2回繰り返す。応答が呈示パターンとおおむね一致したら予備測定終了とする。

(ホ) 応答と呈示パターンとが一致しないときは(ハ)以降の手順を繰り返す。それでも応答と呈示パターンが一致しないときは2―5.項の説明を繰り返す。

注―1 この測定法では検査が円滑に行えないと判断されたときは、被検者に応じて検査音の呈示法、応答方法を変更して測定を行う。

注―2 充分に習熟していて安定した成績の得られる被検者の場合には予備測定を省略してもよい。

3―4.本測定の手順

(イ) 予備測定で得られた1000Hzの応答レベル(3―3.項(ハ)のレベル)から出力レベルを10~20dB下げ、5dBステップで段階的に検査音レベルを上げ、初めて確実な応答が得られる1000Hzの聴力(閾値)レベルを求める。つぎにレベルを5~10dB上げて明確に検査音を聞かせたのち、初めて応答が得られたレベルより10~20dBレベルを下げ、前述と同様な手順で確実な応答が得られる最小のレベルを求める。

注―1) 確実な応答とは、検査音の呈示パターンと応答パターンが一致することを意味する。

注―2) 本測定法では原則として上昇法を採用するが、他の適当な測定法を用いることも可能である。

(ロ) 3回の試行で2回同一レベルで応答が得られたら、その値を聴力(閾値)レベルとする。3回とも異なった値が得られた時は、測定回数を増やして、過半数の回数以上一致するレベルを求め聴力(閾値)レベルとする。

(ハ) 3回の測定値に15dB以上異なる値から得られた時は、検査結果の信頼性が疑わしいとみなし、説明を繰り返したのち、再び3―3.予備測定以下の手順を行う。

(ニ) 次に周波数を変え前述(イ)~(ハ)と同様な測定法を繰り返す。

注―この場合直前の隣接した周波数の聴力(閾値)レベルより10~20dB低いレベルから測定を始めると能率的なことが多い。

(ホ) 2回目の1000Hzの測定は、初回に得られたレベルの15dB以下のレベルから聞かせ始める。初回の測定に比し、10dB以上の差がみられたときは、1000Hzより上の周波数についても初回との差が5dB以上となる周波数まで検査を繰り返す。

1000Hzを含め2回検査を繰り返した周波数については、小さい方の値を聴力(閾値)レベルとする。

(ヘ) 一側の検査が終了したら、同様な手順で反対側耳を測定する。

3―5.マスキングを必要とする場合の測定法

被検者の両耳の閾値反応が気導受話器の両耳間移行減衰量(解1―1.参照)に近い聴力レベルの差で起こる場合、聴力の悪い方の耳では非検査耳のマスキングを行った測定法が必要になる。

注―正しくは検査耳の気導聴力(閾値)レベルと反対側の骨導聴力(閾値)レベルとの差が、気導受話器の両耳間移行減衰量に近い場合にマスキングが必要となるので、骨導聴力(閾値)レベル測定後に検討しなおす必要がある。

この場合マスキングの必要性は次の方法で判断することができる。

(イ) マスキングなしで測定された聴力(閾値)レベルより5dB強いレベルの検査音を聞かせながら、非検査耳に実効レベル(解1―3.参照)10dB以上でかつオーバー・マスキングにならないマスキング・ノイズを負荷する。

(ロ) ノイズを負荷しても検査音が聞こえるときは、3―4.項で得られた値を検査耳の聴力(閾値)レベルとし、マスキングを用いた測定を続行する必要はない。

(ハ) マスキング・ノイズの負荷によって検査音が聞こえなくなるときは、3―4.項の閾値反応は陰影聴取によるものであるから、マスキングを用いた気導聴力(閾値)レベルの測定(次項以下)に進む。

注―1 オーバー・マスキングを起こさないために許容されるマスキング・ノイズ・レベルの最大値は両耳間移行減衰量に検査耳の骨導聴力(閾値)レベルを加えた値である。検査耳に感音難聴があれば、その分だけ許容ノイズ・レベルの最大値が大きくなる。正常または伝音難聴ではオーバー・マスキングを起こしやすいので、両耳間移行減衰量に等しい値でマスキングする。

注―2 マスキングを行って測定した閾値を検査耳の聴力(閾値)レベルと決定したとき、マスキング・ノイズの種類とマスキング・ノイズ・レベルをオージオグラムの欄外に周波数ごとに記入する。

(ニ) 実効マスキング・レベル(解1―3.参照)が50dBのノイズを負荷して気導聴力(閾値)レベルを3―4.項に従って測定する。

マスキングを行った耳の聴力(閾値)レベルが正常な場合はこの測定値が求める閾値である。

(ホ) 次に実効マスキング・レベルを65dBとして測定する。その値と(ニ)の値との差が5dB以内のときは(ニ)の値を閾値とする。

(ニ)の値より10dB以上閾値上昇するときは、さらに15dBずつ増して閾値を測定し、閾値変化が見られなくなるまで繰り返す。

(ヘ) この方法で一定の値を得ることができないときは、プラトー法(4―8―1.項参照)に従って測定する。

4.骨導純音聴力(閾値)レベル測定法

4―1.受話器の装着法

2―6.項による。

4―2.測定方法

(イ) 閾値検査においては、測定法によって聴力(閾値)レベルが異なることが知られている。したがって気導聴力(閾値)と骨導聴力(閾値)レベルの測定は、同一方式で行われるべきである。

(ロ) 片耳ごとの骨導聴力(閾値)レベルの測定のためには非検査耳をマスキングする必要がある。

注―検査耳を特定しない骨導良聴耳の骨導聴力(閾値)レベルを測定する場合にはマスキングなしで測定可能である。

(ハ) 骨導閾値検査を行う耳は外耳道を閉鎖してはならない。もし閉鎖したときはオージオグラムにその旨明記しなければならない。

4―3.振動感覚と骨導による聴感

骨導受話器を乳突部に装着したときには、平均的にみると、聴力レベル表示で250Hzでは40dB、500Hzでは60dB、1000Hzでは70dBで振動感覚を生ずる。しかしその値には大きな個人差があるので、振動感覚を骨導による聴覚と誤認しないよう注意しなければならない。

両者を区別するには、乳突部装着時と前額正中部装着時における反応閾値の差が参考となる。

注―乳突部と前額正中部に装着したときに感度差を参考のため表示する(表1)。

表1―乳突部と前額正中部に骨導受話器を装着したときの基準等価閾値の力のレベルの感度差

周波数

Hz

(前額正中部での基準等価閾値の力のレベル)-(乳突部での基準等価閾値の力のレベル)

dB

250

12.0

500

14.0

1000

8.5

2000

11.5

3000

12.0

4000

8.0

(ISO/DIS7566,1987より抜粋)

4―4.検査音の呈示時間と休止時間

3―1.項による。

4―5.検査耳の順序と検査周波数の順序

3―2.項による。

注―125Hz、800Hzは通常検査しない。

4―6.予備測定

骨導閾値検査は通常気導閾値検査終了後に行われるので、予備測定は行わない。

4―7.本測定の手順

3―4.項の気導聴力(閾値)レベル測定の手順による。

4―8.骨導聴力(閾値)レベル測定時のマスキング法の手順

(イ) 骨導受話器を骨導聴力レベルの0dBが校正されている圧抵部位(乳突部または前額正中)に装着し、非検査耳にマスキング用受話器を装着する。まずマスキング・ノイズなしで骨導聴力(閾値)レベルを測定する(3―4.項参照)。

注―この測定値は検査耳の反応で正しい聴力(閾値)レベルである場合と非検査耳の陰影聴取による場合がある。たとえ検査耳が骨導良聴耳であっても、閉鎖効果によって陰影聴取となる場合もある。

(ロ) ついですでに測定されている両耳の気導聴力(閾値)レベルを参考にして適正なノイズ・レベルを設定し、気導聴力(閾値)レベル測定法(3―5.項)に準じて測定する。

マスキング・ノイズのレベルが適正かどうか、測定された値が正しいかどうかは、症例ごとにマスキングに関する基礎事項(解説1.参照)によって判断する。

注―1 一側聾の良聴耳または両側が全く同一骨導閾値であるような特別な場合を除いて、マスキングなしに一側ごとの骨導聴力(閾値)レベルを測定することは不可能でありマスキングは不可欠である。

注―2 マスキングはいくつかの方法があるが、ここは一例としてプラトー法について述べる。

4―8―1.プラトー法の手順

(イ) 非検査側の骨導閾値に対するノイズの実効レベル(解1―3.参照)が10dBになるマスキング・ノイズを非検査耳に負荷しながら骨導聴力(閾値)レベルを測定する。この測定値が実質的にマスキング・ノイズなしの骨導聴力(閾値)レベルに等しければ、その測定値を検査耳の骨導聴力(閾値)レベルとする。

(ロ) マスキング・ノイズ・レベル(解1―3.参照)を(イ)のレベルから5dBずつ増大しながら各マスキング・レベルで3―4.項の測定を繰り返し、各マスキング・レベルごとに聴力(閾値)レベルを測定する。マスキング・ノイズ・レベルの増大により増加していた聴力(閾値)レベルが、増加しなくなるレベル(プラトー)が得られた時の測定値を検査耳の聴力(閾値)レベルとする。

(ハ) オーバー・マスキングは気導閾値測定時よりも機会が多い。マスキング・ノイズ・レベルが検査周波数における気導のマスキング・ノイズの両耳間移行減衰量(解1―1.)に、得られた骨導聴力(閾値)レベルの測定値を加算(符号注意)した値に達するとオーバー・マスキングを考えねばならない。

(ニ) この許容最大マスキング・ノイズ・レベルによってマスキングされる検査側不明の骨導閾値レベルが測定可能な骨導聴力レベルの最大値になる。

注―1 上に述べたプラトー法は検査者の考慮すべき項目は少なくてすむが、その代わり被検者の負担は増大する。

注―2 プラトー法以外の方法については解説2.解説3.を参照すること。

5.オージオグラムの記載法

5―1.オージオグラムの形式

横軸に周波数を対数目盛りでとり、縦軸に聴力(閾値)レベルをdB目盛りで表示する。1オクターブの間隔と聴力(閾値)レベル20dBの間隔を等しくする。

5―2.検査成績の記入法

検査成績をオージオグラムに記入する場合は表2に示す記号を用いる。気導聴力(閾値)レベルは直線で結び(右耳を実線、左耳を破線と分けてもよい)、骨導聴力(閾値)レベルは原則として線では結ばれない。

オージオメータの最大出力で検査音を聴取出来ないときは、使用オージオメータの最大出力レベルの値にそれぞれの記号を記入し、矢印を斜め下方に入れて、隣の周波数とは線で結ばない。

表2―オージオグラムに記入する記号

検査音呈示法

記号

左耳

右耳

気導

骨導(マスキングしての)乳突部前額正中部

   図1

   図2

注―1) 図3

または 図4
の印は周波数の線に接して記入する。

注―2)  図5
:マスキングなしで測られた骨導良聴耳の(左右不明)の骨導聴力(閾値)レベル

黒以外の色で記号を記入するときは右耳は赤、左耳は青を用いる。

6.オージオメータの保守、点検、整備

オージオメータは常に正規の状態で作動するよう整備する必要がある。これを確実に行うためには定期的に点検および基本的校正を行う必要がある。

6―1.点検手続

6―2.項に従った主観的点検を検査開始前に実施する。6―3.項に従った主観的校正点検は少なくとも週1回、できれば毎日行う。6―4.項による客観的校正点検は1年に1回以上行う。

6―2.主観的点検

6―2―1.外観的点検

オージオメータおよびその附属品に関し、下記の点について点検、整備する。

(イ) 受話器のクッションの状態、プラグの錆、接触不良、コードのねじれなど

(ロ) 応答用シグナル装置の作動状態

(ハ) ヘッド・バンドの破損、ゆるみなど

6―2―2.聴取点検

電源スイッチを入れて、電源電圧が正常に保たれていることを確認し、製造者によって指定された時間を経過したのち、正常聴力(閾値)レベルを有する熟練した検者により下記の点を聴取点検する。

(イ) すべての周波数について、少なくとも3つの出力段階で、検査音にひずみのないこと、減衰器、周波数変換器・出力断続器を操作した時に、過渡音その他好ましくない音が聞こえないことを確認する。

(ロ) 以上の点検は気導音、骨導音について行う。

6―3.主観的校正点検

各検査周波数について聴力(閾値)レベル25dB以下の、既知の最小可聴閾値を有する人のオージオグラムを作成し、既知オージオグラムと比較する。10dBを越える差が認められるときは、そのオージオメータの使用を中止し、客観的校正点検あるいは基本的校正を行う。

注―熟練した検者であれば自分の検査成績を利用しても良い。

6―4.客観的校正点検

各検査音の周波数、または各検査音の出力を測定し正確か否か点検する。

JIS T1201―1982によると、骨導の最小可聴閾値は気導聴力(閾値)レベル0dBの正常耳をもつ6名6耳の最小可聴閾値の平均値をとることになっている。

注―骨導受話器の出力フォースレベルの客観的校正法は国際的に規定されている。(IES 373―1981、ISO 7566―1987)

6―5.基本的校正

検査音の周波数、気導検査音の出力音圧、骨導検査音の出力の力のレベル、マスキング・ノイズの出力音圧、減衰器の減衰度などの正確さ、高調波ひずみを点検する。またオージオメータの検査音出力断続器のON/OFF比、および上昇/下降時間、断続周波数、オージオメータおよびその附属品の電気的性能、機械的機構を点検し、必要に応じてJIS T1201―1982に合致するよう修正する。

【解説】

解説1 マスキングに関する基礎事項

聴覚検査におけるマスキングに関しては、検査者は1)マスキングの要・不要、2)マスキング・ノイズ・レベルの設定、3)陰影聴取やオーバー・マスキングの可能性に関する判断が要求されている。これらの判断はマスキングに関する基本的な事項の定量的考察を必要とする場合が多い。これらの事項のうち臨床的マスキングに必要最小限のものを抜粋し簡略化したものを以下に述べる。したがって以下の表は平均値を5dBで丸めた概略値であり、標準的気導受話器以外の受話器を使用した場合の値や個人差については省略してある。

解1―1.両耳間移行現象(陰影聴取)

(1) 気導受話器による陰影聴取は気導受話器の骨導出力が反対耳の骨導聴覚によって聴取されることによって起こるものと理解する。

両耳間移行減衰量

周波数 Hz

125

250

500

1000

2000

4000

8000

両耳間移行減衰量(dB)

50

55

60

60

60

60

60

(竹内義夫「Audiometry Training Simulatorを用いた聴力検査の実習」より)

(2) 骨導受話器を乳突部に圧抵したときの両耳間移行減衰量は次の表による。前額正中部に圧抵したときは0dBである。

骨導受話器乳突部圧抵時の両耳間移行減衰量

周波数 Hz

250

500

1000

2000

4000

8000

骨両耳間移行減衰量(dB)

0

5

5

10

10

10

(竹内義夫「Audiometry Training Simulatorを用いた聴力検査の実習」より)

解1―2.骨導の外耳道閉鎖効果

骨導の外耳道成分(Tonndorfによる)は外耳導閉鎖により増強される。外耳導閉鎖による骨導閾値の低下は閉鎖の様式によって異なる。

標準的気導受話器による外耳道閉鎖効果

周波数 Hz

250

500

1000

2000

4000

閉鎖効果(dB)

20

20

5

0

0

(竹内義夫「Audiometry Training Simulatorを用いた聴力検査の実習」より)

解1―3.マスキング現象

定義

a)臨界帯域幅(クリチカル・バンド)

連続スペクトルを持つノイズが純音をマスキングするとき、その純音の周波数を中心とする特定の帯域幅のノイズの成分だけがマスキングに寄与する。この帯域幅をクリチカル・バンドと呼び、内耳の周波数分析機能を反映する基本的定数であるが、測定法や定義の仕方によって多少変化する。ここでは聴覚検査との関係上、ISOの狭帯域雑音の帯域幅をあげる。

臨界帯域幅

周波数

Hz

125

250

500

1000

1500

2000

3000

4000

6000

8000

帯域幅

Hz

100

100

115

160

225

300

470

700

1100

1600

帯域幅

dB

20

20

21

22

24

25

27

28

31

32

(ISO 7566、1984より)

b)実効レベル

ある雑音の特定の周波数における実効レベルとは、その周波数を中心とする臨界帯域に含まれるノイズ成分の特定の個人における感覚レベル[(実効マスキング・レベル)-(気導聴力(閾値)レベル)]である。このレベルは帯域の中心にあたる純音の閾値からのレベルに等しいものとする。

c)実効マスキング・レベル

前述の実効レベルの基準を感覚レベルからオージオメータの0dBHLに置き換えたノイズのレベルである。実効レベルは個人の閾値に対する相対レベルであるが実効マスキング・レベルは個人の閾値を越えた客観的なレベル表示である。オージオメータの純音のマスキングに用いられる狭帯域雑音は実効マスキング・レベルが直続できるようにマスキング・ノイズのダイヤル目盛りが校正されている。加重雑音は実効マスキング・レベルに近似な値が直読できるように校正されている。実効マスキング・レベルは実効レベルと混乱を引き起こしやすいので、実効マスキング・レベルと同じ意味でマスキング・ノイズ・レベルを用いる。

(1) クリチカル・バンドの法則

実効レベルが正の値であればクリチカル・バンドの中心周波数に等しい純音に対するそのノイズによって生ずるマスキング量[(マスキング閾値)-(マスキングなしの閾値)]は実効レベルに等しい。この実効レベルとマスキング量が等しいというマスキングの直線性は実効レベルが10dB以上において成り立つ。

注) Fletcherのクリチカル・レシオの法則を聴覚検査に便利なように変形したものである。

(2) 実効マスキング・レベルとマスキング閾値の関係

オージオメータの気導音が狭帯域雑音でマスキングされるとき、実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)が気導聴力(閾値)レベルより大きければ、もとの気導聴力(閾値)レベルに関係なくマスキング閾値は実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)に等しくなる。小さいときはマスキングは起こらない。

気導ノイズが骨導音をマスキングするときは気導ノイズが負荷されている耳の気導閾値に対して持つ実効レベルが正ならば実効レベルに等しい量だけ骨導閾値が上昇する。すなわち実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)の実効レベルを求め、これをもとの骨導閾値に加算することになる。もちろん実効レベルが負ならばマスキングは起こらない。骨導ノイズが骨導音をマスキングするときは気導ノイズが気導音をマスキングするときと同じ関係が成り立つ。

オーバー・マスキング 気導ノイズの実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)の気導受話器の両耳間移行減衰量との差分が骨導ノイズとなり検査側の検査音(気導・骨導)聴取をマスキングする。気導測定時のオーバー・マスキングは骨導閾値がマスキングされ、それが気導閾値に反映する。

解説2.マスキングを必要とする場合の気導(骨導)測定法の別法

―ノイズ、検査音同時変化法―

(a) 非検査耳に加えるノイズの実効マスキング・レベル(マスキング・ノイズ・レベル)を非検査耳の聴力レベルと等しくなるよう設定する。気導(骨導)検査音は3―4.項(4―7.項)で得られたマスキングなしでの気導(骨導)聴力(閾値)レベルよ15dB小さい値に設定する。これらがノイズと検査音の開始レベルである。

(b) まず、マスキング・ノイズ・レベルを5dB上げ、続いて検査音のレベルを5dB上げる。

(c) (b)の操作を閾値反応がえられるまで繰り返し、反応があった時点での検査音のレベルを求める。検査音だけを5dB増大させて閾値であることを確かめる。

(d) (c)のレベルより検査音とノイズを共に10~20dB下げて(b)を繰り返す。

注―非検査耳に高度の伝音難聴があり、検査音を最大のレベルまで上げても応答のない場合はオーバー・マスキングの可能性がある。

解説3.骨導ノイズを用いた骨導聴力(閾値)レベルの測定法

検査音を被検査耳にあてた気導受話器から気導音として聞かせ、前額正中部にあてた骨導受話器から聞かせるノイズ(以下単に骨導ノイズとよぶ)によって気導検査音をマスキングして、骨導聴力(閾値)レベルを測定する方法である。

注―1 検査耳を気導受話器によって閉鎖しているため、伝音障害耳ではマスキングに関する解説1―2.の外耳道閉鎖効果に示された値(標準値)だけ、骨導聴力(閾値)レベルの測定値が本来の値より大きくなることを考慮して判定する必要がある。(上記の標準値を差し引く)

注―2 本法によれば、振動感覚を骨導による聴覚と誤認するおそれはない。

注―3 本法によれば、不適切なマスキングによって骨導聴力(閾値)レベルとして誤った値を得るおそれはほとんどない。

解3―1.既知の感覚レベルの気導音を骨導ノイズでマスキングする測定法(M―Rの変法)

解3―1―1.受話器の装着法

本文2―6.項による。ただし骨導受話器は前額正中部に置く。

注―前額正中部と乳突部に装着したときの感度差は、本文4―3.項の表1参照。

解3―1―2.測定手順

(1) 耳科的に正常な人間(用語解説7.項)6名以上について、本文2項、3項、6項および7項により気導聴力(閾値)レベルを測定する。(Anとする)

(検査音は断続音とする。以下同様)

(2) 骨導受話器を前額正中部に装着し、An+5dBの気導検査音をマスキングするのに必要な骨導ノイズの最小レベルをもとめ、その時の出力ダイヤル目盛りを記録しこれをBnとする。6名以上について得られた(Bn-An)の算術平均値を基準値(Zn)とする。

(3) 被検者については、断続音を用いて測定された気導聴力(閾値)レベルがAであるとき、A+5dBの検査音をマスキングするのに必要な最小の骨導ノイズ・レベルを求め、そのときの出力ダイヤル目盛りを記録する。(Zとする)

解3―1―3.気導聴力(閾値)レベルの求めかた

Z-Znの値を求める。

注―伝音障害耳では既述の補正を行う。

解3―2.既知のマスキング・ノイズ・レベルを有する骨導ノイズを用いる測定法

解3―2―1.受話器の装着法

解3―1―1.項による。

解3―2―2.測定手続

(1) 耳科的に正常な人間(用語解説7.項)6名以上について、骨導ノイズによってマスキングされたときの気導聴力(閾値)レベルを測定し、骨導ノイズのマスキング・ノイズ・レベルを求めておく。

(2) 上に求めたマスキング・ノイズ・レベルの骨導ノイズを聴取させながら、被検耳の気導聴力(閾値)レベルを測定する。その値をA’とする。

解3―2―3.骨導聴力(閾値)レベルの求めかた

断続音を用いて測定された気導聴力(閾値)レベルをA、付加した骨導ノイズのマスキング・ノイズ・レベルをBとし、A-A’+Bの値を求める。

解説4.環境音

解4―1.気導聴力(閾値)レベル0dBの測定時の環境音

被検者不在の状態における検査室の頭の高さに相当する位置の妨害音音圧レベルは表3.、表4.および表5.のLmax以下とする必要がある。妨害音音圧レベルがLmaxを越えるときは、その越えた値によって測定可能な聴力レベル値が上昇する。そのため正常聴覚に近い耳の聴力レベル測定値の解釈については誤った判断を行わないよう注意が必要である。

 Lmaxは次式で示される。

 Lmax=x+A

 ただし

 x=表4.および表5.に示される値

 A=気導受話器装着による平均遮音量(表6)

注―妨害騒音に対する音響心理学的点検

音圧レベル測定が行えない場合の方法:音圧レベルが既知の環境下での測定で、全周波数とも聴力(閾値)レベル0dB以下の値が得られた被検者2名以上について、音圧レベルを測定できない騒音下において聴力(閾値)レベルを測定する。この2つのオージオグラムを比較することによって妨害音の音圧レベルを推定することが出来る。0dB以下の値の得られない場合は、必要とする最小の聴力(閾値)レベル以下の値の得られた被検者について行う。この方法は骨導聴力(閾値)レベル測定の場合にも応用可能である。

表3―代表的な気導受話器を用いて気導聴力(閾値)レベル測定を行うときに許容される。1/3オクターブ・バンド・レベルとして表された暗騒音レベルの最大値。

表3の値を用いれば、聴力(閾値)レベル0dBが2dB以内の誤差(暗騒音による)で測定できる。暗騒音により測定可能な聴力(閾値)レベルが+5dBになってもよければ表3の値にそれぞれ8dB加える。

1/3オクターブ・バンドの中心周波数

Hz

許容される暗騒音の最大値

Lmax(基準値:20μPa)

dB

検査周波数範囲

125~8000Hz

250~8000Hz

500~8000Hz

31.5

56

66

78

40

52

62

73

50

47

57

68

63

42

52

64

80

48

48

59

100

43

43

55

125

39

39

51

160

30

30

47

200

20

20

42

250

19

19

37

315

18

18

33

400

18

18

24

500

18

18

18

630

18

18

18

800

20

20

20

1000

23

23

23

1250

25

25

25

1600

27

27

27

2000

30

30

30

2500

32

32

32

3150

34

34

34

4000

36

36

36

5000

35

35

35

6300

34

34

34

8000

33

33

33

(ISO/DIS 8253.2、1986より)

表4―聴力(閾値)レベル0dBまで測定するときの、オクターブ・バンドで表したxとLmaxの最大値

オクターブ・バンドの中心周波数

x

Lmax

(基準値:20μPa)

Hz

dB

dB

31.5

73

73

63

58

59

125

43

47

250

28

33

500

9

18

1000

7

20

2000

6

27

4000

7

38

8000

10

36

注―検査周波数範囲500Hz以上(ISO 6189、1983より)

表5―表示した値(オクターブ・バンド・レベル)以上では、聴力(閾値)レベル0dBまで測定しようとする聴覚検査は行うべきでないxとLmax

オクターブ・バンドの中心周波数

x

Lmax

(基本値:20μPa)

Hz

dB

dB

31.5

80

80

63

70

70

125

55

57

250

39

44

500

19

26

1000

13

28

2000

11

37

4000

13

44

8000

16

41

注―検査周波数範囲500Hz以上(ISO 6189、1983より)

表6―代表的耳載せ型受話器における平均的遮音量

周波数(Hz)

平均遮音量(dB)

31.5

0

40

0

50

0

63

1

80

1

100

2

125

3

160

4

200

5

250

5

315

5

400

6

500

7

630

9

800

11

1000

15

1250

18

1600

21

2000

26

2500

28

3150

31

4000

32

5000

29

6300

26

8000

24

(ISO/DIS 8253.2、1986より)

注―表6に示した値は、Telephonics TDH39(MX41/ARつき)およびBeyerDT48受話器を使用し、自由音場内で純音を用いて測定した成績にもとづいたものである。

解4―2.骨導聴力(閾値)レベル0dBの測定時の環境音

気導聴力(閾値)レベル測定時と異なり、受話器装着による妨害音域衰が無いため、許容される妨害音レベルLmaxは表7の値となる。

表7―骨導聴力(閾値)レベル測定時に許容される1/3オクターブ・バンド・レベルとして表した暗騒音の最大値

1/3オクターブ・バンドの中心周波数

Hz

許容される暗騒音の最大値

Lmax(基準値:20μPa)

dB

検査周波数範囲

125~8000Hz

250~8000Hz

31.5

55

63

40

47

59

50

41

49

63

35

44

80

30

39

100

25

35

125

20

28

160

17

21

200

15

15

250

13

13

315

11

11

400

9

9

500

8

8

630

8

8

800

7

7

1000

7

7

1250

7

7

1600

8

8

2000

8

8

2500

6

6

3150

4

4

4000

2

2

5000

4

4

6300

9

9

8000

15

15

(ISO/DIS 8253.2、1986より)

注―大部分の通常の騒音計では、5dB以下の音圧レベルを測定するのは困難である。

【用語解説】

この検査法のため下記の語義を用いる。

注―( )内のJIS以下の記号、数値はJISで定められた語であることを意味し(文献4)、5)、6)参照)、また[用]の字は日本聴覚医学会用語に定められた語であることを意味している。

1.気導:音が外耳道の空気を通して内耳に伝えられること。(JIS Z8109―1986.4023.用)

2.音響カプラ:イヤホンやマイクロホンの校正に用いる、所定の形状及び容積の空洞をもつカプラ。(JIS Z8107―1984.2018.用)

カプラとは電気音響変換器や電気機械変換器の校正又は試験を行うために、二つの変換器を結合する装置である。(JIS Z8107―1984.2029.用)

注―音響カプラはJIS T1201―1982オージオメータに規定されている。

3.人工の耳(疑似耳):受話器の校正のために用いる装置で、耳科的に正常な人間の耳の平均的な音響インピーダンスに等価なインピーダンスを受話器に負荷するものである。校正されたマイクロホンを装備しており、受話器によって生じる音圧を測定する。(JIS Z8107―1984.2074.用)

注―人工の耳はIEC Publication 318に規定されている。

4.骨導:音が頭蓋骨を通して内耳へ伝えられること。(JIS Z8109―1986.4024.用)

5.骨導受話器:頭の骨を振動させて聴感を起こさせる受話器。(JIS Z8107―1984.2044用)

6.メカニカルカプラ(機械カプラ):規定された圧抵力でとりつけられた骨導受話器に、決められた機械インピーダンスを与えるように作られた装置で、機械電気変換器を装備し、骨導受話器とメカニカルカプラとの接触面の振動の力のレベルを測定する。(JIS Z8107―1984.2044.用)

注―メカニカルカプラはIEC Publication 373に規定されている。

7.耳科的に正常な人間:健康的であり、耳疾患の症状所見がなく、耳垢栓塞もなく、過度の騒音に被暴した経験もない18歳から30歳までの人間。

8.最小可聴(閾)値:音の感覚を生じさせることができる最小音圧の実効値。(JIS Z8109―1986.4006.用)

備考

1) 通常は、音圧レベルによって表す。

2) 通常は、その音に対して50%の確率で聞こえると判断されるレベルを採る。

3) 通常は、周囲騒音が無視できる場合を指す。

4) 最小可聴(閾)値には、自由音場におけるものと片耳受話器を用いて測定するものとがある。

5) 最小可聴(閾)値は、音の性質、聞かせる手続き、音圧を測定した位置などにも影響されるから、必要な場合には測定条件を明記する。

9.等価閾値音圧レベル(単耳聴):特定の耳について、定められた周波数で、定められた型式の受話器を規定の圧で耳にあて、その耳の最小可聴閾値に相当する電圧をかけた場合に、規定されたカプラあるいは人工の耳に生じる音圧レベル。

10.基準等価閾値音圧レベル(RETSPL):定められた周波数において、充分な数の耳科的に正常な18歳から30歳までの男女の等価閾値音圧レベルの最頻値であり、特定の受話器について特定の音響カプラあるいは人工の耳によって最小可聴閾値を表したもの。

11.等価閾値の力のレベル(単耳聴):特定の耳について、定められた周波数で、定められた骨導受話器を、定められた力で人の乳突部に圧着し、その時に得られた最小可聴閾値に対応する電圧を加えた場合に骨導受話器が定められたメカニカルカプラに生ずる振動の力のレベル。実効値を1μNを基準とするdBで表示したもの。

12.基準等価閾値の力のレベル(RETFL):特定の周波数において、充分な数の18歳から30歳までの耳科的に正常な男女の等価閾値の力のレベルの平均値で、特定の骨導受話器について、特定のメカニカルカプラによって表された最小可聴閾値。

13―1.聴力(閾値)レベル(HTL):ある耳について、ある周波数における最小可聴閾値と基準の最小可聴閾値として定められた値とのレベル差。

(JIS Z8109―1986.4031(1).用)

注―基準の最小可聴閾値として定めた値はJIS T1201―1982オージオメータによる。

13―2.聴力レベル(HL):ある周波数における、オージオメータ用イヤホンの規定のカプラ内での出力音圧と基準の最小可聴域値とのレベル差。

(JIS Z8109―1986.4031(2).用)

注―

1) 規定のカプラ、基準の最小可聴域値は、JIS T1201―1982オージオメータによる。

2) 我が国では13―1.および13―2.ともにJISで、聴力レベルと呼ぶことになっているが、本検査法では区別しやすいように上記の語義を用いた。

14.閉鎖効果:外耳道入口を受話器でおおうか、耳栓でふさいだ時、外耳道に閉鎖腔ができ、内耳に達する骨導のレベルに生ずる変化(通常は増加する)。この効果は低い周波数で大きくなる。

15.マスキング:

(1) ある音の最小可聴閾値が、他の音の存在によって上昇する現象。

(2) (1)の現象による上昇量。(JIS Z8109―1986.4013.用)

備考

1) マスキングの量はデジベルで表す。

2) ある音の大きさが、他の音の存在によって小さくなる現象を、特に部分マスキング(partial masking)という。

16.狭帯域雑音の実効マスキング・レベル:狭帯域雑音の存在下で上昇した(狭帯域雑音の幾何平均周波数の)純音の最小可聴閾値レベルの数値。

注―マスキング用の狭帯域雑音はIEC Publication 645に規定されている。

17.振動覚閾値レベル:繰り返しの検査で、あらかじめ決められた割合で振動覚を生じさせる振動の力のレベル、あるいは音圧レベル。

18.オージオメータ:被検者に、電気的に発生した検査音を減衰器を通して与え、被検者自身の認知、応答によって、聴覚機能を検査する装置。

(JIS Z8109―1986.4020.用)

単に「オージオメータ」というときは「純音オージオメータ」を意味することが多い。

規格はJIS T1201―1982オージオメータによって規定されている。

19.手動オージオメータ:検査音の呈示、周波数や聴力レベルの選択、そして記録を手動で行うオージオメータ。

20.オージオグラム:純音の聴力(閾値)レベルを図によって表現したもの。

(JIS Z8109―1986.4021.用)

注―オージオメータの規格が、JIS T1201―1956によって測定したものは聴力損失となり、JIS T1201―1982によって測定したものは聴力(閾値)レベルとなる。

【文献】

1)立木孝:聴力検査,chap2南江堂,1972,

2)竹内義夫:Audiometry Training simulatorを用いた聴力検査の実習―マスキング法の原理と実際―,シードル社,1975.

3)松平登志正:純音聴力検査におけるマスキング法の改良―必要最小限のマスキング量による方法―,耳鼻臨床,82:1541―1548,1989.

4)JIS T1201―1982,オージオメータ

5)JIS Z8106―1988,音響用語(一般)

6)JIS Z8107―1984,音響用語(機器)

7)JIS Z8109―1986,音響用語(聴覚・音声・音楽)

8)Zwislocki,J.:Acoustic attenuation between the ears.J.A.S.A.25,:752-759,1953.

9)Chaiklin,J.B.:Interaural attenuation and cross-hearing in air-conduction audiometry.J.Aud.Res.,7:413-424,1967.

10)Hodgson,W.R.&Tillman,T.W.:Reliability of bone conduction occlusion effects.J.Aud.Res.,6:141-151,1966.

11)ISO 389,1975,Acoustics-Standard reference zero for the calibration of pure-tone air conduction audiometers.

12)ISO 6189,1983,Acoustics-Pure tone air conduction threshold audiometry for hearing conservation purposes.

13)ISO 7566,1987,Acoustics-Standard reference zero for the calibration of pure-tone bone conduction audiometers.

14)ISO/DIS 8253.2,1986,Acoustics-Basic pure-tone audiometric test methods.

15)IES Publication 318, An IEC artificial ear of the wideband type,for the calibration of earphones used in audiometry.

16)IES Publication373,Mechanical coupler for measurements on bone vibrators.

17)IEC Publication645,1979,Audiometers.

標準聴力検査法(日本オージオロジー学会制定)

Ⅱ 語音による聴力検査

1 語音聴取域値検査

定義:語音によって語音聴取域を測定する検査である。了解度の高い特定語音の50%正答率が得られるレベルを求める。

使用機器:語音再生装置、(JISまたはJISに準ずる)出力調整装置、JIS T1201に準ずる気導イヤホン、57式語表レコードまたは67式語表テープ、マスキング用雑音発生装置。

注 検査用語はあらかじめレコードあるいは磁気録音テープに録音された語音を語音再生装置を用いて発生させる方法と、マイクロホンを用いて一定のレベルで発声された生の語音をオージオメータに送って用いる方法がある。そのいずれの方法をとったかは明記しておく必要がある。

テープレコーダを使用する場合には次の項目をチェックする必要がある。

① トーンコントロールはmax,minは避けて中点にセットする。

② テープに録音されている較正用1000Hz純音信号が大幅に波打ったり音が飛んだりしないことを確かめる。

③ ヘッドの汚れに注意し適切な処置をとる。

測定法およびその注意:

(1) 録音された較正用1000Hzの出力をオージオメータまたはこれに準じた出力調整装置のVUメータの0dBに合うように調整する。

(2) 検査の条件は純音気導聴力検査に準じて行う。語音検査のレベル60dB以上の語音をきかせる場合は、非検査耳のマスキングを考慮する必要がある。マスキング用雑音は少なくとも250~4000Hzまでの広帯域雑音を用い、そのレベルは純音気導聴力検査に準ずる。

(3) 検査用語音は一桁数字のうち「ニ」、「サン」、「ヨン」、「ゴ」、「ロク」、「ナナ」の6個を用いる。

注 語音聴取域値検査の目的にはできるだけ了解しやすい有意の単語を用いるのがよい。日本オージオロジー学会では検討の結果、一桁数字がこの目的に最も適しているのでこれを採用し、「57式語表レコード」および「67式語表テープ」に一定のレベルで録音されている。語音聴取域値測定用語表の一例(57式語表)

4,2,7,3,5,7,

5,3,2,6,2,3,

7,4,6,7,3,6,

2,6,5,4,7,5,

6,7,3,5,4,4,

3,5,4,2,6,2,

(4) 検査用語音は域値上の充分きこえる強さからきかせはじめ、下降法で6個きかせる。同じことを6回くり返し、その中で50%了解できたレベルを求めこれを語音聴取域値とする。

注 まず充分にきこえる音の強さ、たとえば500Hz、1000Hz、2000Hz平均聴力損失値のレベルより15~20dB強いレベルで最初の数字をきかせ、1語につき5~10dBずつ音の強さを弱めてゆく。数字は次第にきこえにくくなり、ついにきこえなくなる。この方法を各行について行うが、最初にきかせる音の強さや、つぎつぎと弱めてゆく音の強さは同じでなければならない。被検者はきこえた通りの数字を録音されている指示に従って「数字のきこえ方検査用紙」に横に記入する。このようにして6個の数字を6回きかせると、検査用紙に記録された6行の縦の列はすべて同じレベルできかされた数字が記録されていることになる。これらのいろいろなレベルできかされた時の正答率を語音オージオグラムに記入し各点を結んでその線が50%横軸と交叉するレベルを5dBステップで求める。

2 語音弁別検査

定義:語音をきかせて被検者がどのくらい聴きわけられるかを検査し、被検者の言語の受聴能力について判定の資料を得るための検査である。

使用機器:(1) 測定装置および検査の条件は語音聴取域値検査に準ずる。

方法および測定上の注意:(2) 検査用語音は単音節を用いる。

注 用いる語音の種類によって結果は異なるので、わが国では無意単音節の特定の語音をえらんで検査用語とされている。検査用語表としては日本オージオロジー学会では「57式語音表」(50語音構成)と「67式語音表」(20語音構成)を採用することにし、前者はレコード、後者はテープに録音されたものを作成し、一般に提供している。検査結果は検査語音の種類、発声者、録音状態によって異なるので検査結果にはこれらの項目を明記する必要がある。

語音弁別検査用語表の例

57式語表

ガデワコクニテトカナ

マノオタシイスキサウ

ラモルアツリダヨチハ

ミムフヒメシバロセケ

ドネヤソエレゴホユズ

67式語表

アキシタニヨジウクス

ネハリバオテモワトガ

1つのレベルできかせる語音の数は多い方が検査結果のばらつきが少なくなる。実験結果では語音の数が50以上になると、それ以上用いた場合と差はなくなり、40以下では少しずつばらつきが大きくなる傾向がある。10以下になると急激にばらつきが大きくなり検査の目的には不適当となるが、現在のところ57式、67式語表のどちらを使ってもよい。一つの語表の一部のみを使ってはいけない。

(3) 検査は原則として被検者にきこえた通り検査用紙に記入させる。被検者が自分で記入できない場合は、きこえたままを復唱させ、検者または介助者がかわって記入する。

(4) 検査は充分なレベルからはじめ、一つの表を検査するあいだ検査音の強さを変えない。一つの表が終れば音の強さを10~20dB変えて次の語音表で検査する。このようにしていろいろなレベルで検査をおこない、それぞれのレベルごとに正答率(%)を求め、これを語音明瞭度としてスピーチオージオグラムに記入する。

注 普通は最初語音聴取域値あるいは純音気導聴力検査による500、1000、2000Hzの域値の平均値から40dB大きい音から検査をはじめる。一般には4~5つの異なったレベルで検査を行い、それぞれの明瞭度を語音オージオグラムの上で結び、語音明瞭度曲線を作成する。一つの曲線で最も明瞭度の高い値を最高明瞭度または語音弁別能という。

付記:スピーチオージオグラムの記載法

(1) スピーチオージオグラムの用紙の形式は、横軸に語音検査のレベルをdB目盛で表示し、縦軸には語音明瞭度を%で示す。さらに10dBの間隔と15%の間隔を等しくする。

(2) 語音検査のレベルの0dB基準値は1000Hz純音のJIS規格による気導検査の0dBの値と等しくする。

(3) 各レベルにおける明瞭度測定値は右耳は○記号、左耳は×記号で記入する。語音弁別検査ではそれぞれの測定値を実線で結び、語音聴取域値検査では測定値を破線で結ぶ。

(4) 100%から最高明瞭度の値を引いた値を語音弁別損失とよぶ。

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