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農業者転職訓練の実施について
昭和45年7月20日訓発第161号
(各都道府県知事あて労働省職業訓練局長通達)
近年わが国の農業は、経済の高度成長の過程で、米の需給、農業構造、価格等の面において種々の困難な問題に直面するに至つている。政府はこれらの諸問題に対処して、農業の近代化等を図るため、総合農政を推進することとしているが、この総合農政展開の一環として農業従事者で他産業に就業を希望する者に対し、その能力を有効に発揮させることによつて、その職業の安定と経済及び社会の発展を図ることが喫緊の課題とされている。
このような情勢にかんがみ、他産業に就業することを希望する農業従事者に対し、新たな職業に必要な技能を習得させることを目的とする職業訓練を積極的に実施することとし、今般別添のとおり「農業者転職訓練実施要領」を定めたので、貴職におかれては、この趣旨を十分了知し、下記事項に留意のうえ、これが実施に格段の御配意をお願いする。
記
一 この訓練は、特別の職業転換訓練課程の能力再開発訓練として実施するものであること。
二 この訓練は、農業従事者の他産業への安定した就業を確保することを目的としていることにかんがみ、家族計画の策定にあたつては、訓練科、訓練期間及び訓練定員について、当該地域における農業従事者の状況、雇用需要等をきめ細かく配慮し、農業従事者の実態に即した計画を策定するものとすること。
三 この訓練の実施にあたつては、この訓練が総合農政の一環として実施するものであるので、職業安定機関及び都道府県農業関係機関はもとより、関係市町村、農業関係団体等と密接な連けいを図るとともに、受講希望者の実情に応じて弾力的に運営すること。
四 簡易訓練施設については、農業者の実態に即応した訓練を行なうために設置されるものであることにかんがみ、関係専修職業訓練校はもとより、都道府県職業訓練主務課においても管理及び運営が円滑に行なわれるよう十分配慮されたいこと。
五 簡易訓練施設における訓練生の選考にあたつては、関係専修職業訓練校において担当職員を派遣して実施するものとすること。
六 農業者転職訓練の受講資格を有する失業保険金受給資格者が関係公共職業安定所長の指示により訓練を受ける場合は、訓練期間中、所定の給付日数をこえて失業保険金等が支給されること。
七 国は、この訓練を実施する都道府県に対し、別に定めるところにより、その経費の一部を補助するものであること。
別添
農業者転職訓練実施要領
一 農業者転職訓練の目的
農業者転職訓練は、農業構造の近代化を図る総合農政推進の一環として、農業以外の産業へ就業を希望する農業従事者に対し、新たな職業に必要な能力を開発することにより、農業以外の産業への就業を容易にするため、農業従事者の実態に即した職業訓練を実施することを目的とする。
二 訓練対象者
農業者転職訓練の対象者は、農業委員会が農業構造の改善に伴い、農業従事者以外の職業につこうとする農業従事者(他の安定した職業についているものを除く。)であると認め、別紙一の証明書を交付した者とする。
なお「農業構造の改善に伴い、農業従事者以外の職業につこうとする農業従事者(他の安定した職業についているものを除く。)」とは、次のいずれにも該当すると認められるものであること。
(一) 農業従事者であること。
「農業従事者」とは、現に農業に従事している者および公共職業安定所に求職申込みをし、または公共職業訓練施設(簡易訓練施設を含む。)に入校申込みをする前一年以内に農業に従事していたことがあり離農後安定した職業についたことがない者をいうものとする。
(二) 他の安定した職業についているものでないこと。
「他の安定した職業についている」とは、農業従事者以外の職業に常用の雇用労働者として勤務している場合等をいい、出稼労働者として季節的に他の職業に従事する場合、日雇労働者、パートタイマー等として臨時的に雇用労働に従事する場合等は含まれないものとする。
(三) 農業構造の改善に伴い農業従事者以外の職業につこうとするものであること。
「農業構造の改善に伴うもの」とは、次のいずれかに該当し、または該当することとなることが確実であると認められる者およびその者と同一の世帯に属する者をいうものとする。
イ 農業若年金基金法附則第一一条第一項に規定する離農給付金の支給を受けた者、農業振興地域の整備に関する法律第一四条第二項の規定による勧告に係る協議、同法第一五条第一項の調停または同法第一八条の規定による農業委員会のあつせんによる自己の所有する土地を譲り渡した者、その他農地もしくは採草放牧地について所有権の移転または使用および収益を目的とする権利の設定もしくは移転を行なつた者、または農地もしくは採草放牧地を農地もしくは採草放牧地以外のものにした者
ロ 米生産調整奨励金の支給を受けた者
ハ 国または地方公共団体が実施する農業構造の改善に資するための施策の適用を受けた者
三 実施主体
農業者転職訓練の実施主体は都道府県とし、当該都道府県の専修職業訓練校において行なうものとする。
四 農業者転職訓練の種類
農業者転職訓練は、次により行なうものとする。
(一) 専修職業訓練校における訓練
専修職業訓練校における既設の訓練科または新たに増設した訓練科において訓練を行なうものとする。
(二) 簡易訓練施設における訓練
農村地域に設置する移動可能の簡易訓練施設(以下「移動施設」という。)および訓練に必要な建物、機械等を借り上げて設置する簡易訓練施設(以下「借上げ施設」という。)において訓練を行なうものとする。
五 施設の設置、運営等
(一) 施設の設置等
イ 訓練科の増設
農業者転職訓練を実施しようとする専修職業訓練校の既設の訓練科において訓練を行なうことができない場合、または農業者転職訓練に適した訓練科がない場合には、訓練科を増設することができるものとする。
ロ 簡易訓練施設の設置
(イ) 簡易訓練施設は、農業者転職訓練の受講希望者が多く、かつ、既設の専修職業訓練校へ通うことが困難であると認められる地域に設置するものとし、借上げ施設については、公民館、農業協同組合等の施設で訓練に適した施設を借り上げるものとする。
(ロ) 設備については、原則として基本実技を習得するに必要な設備を中心に整備するものとする。
(二) 簡易訓練施設の運営
イ 簡易訓練施設は、都道府県の指定する専修職業訓練校の施設または分校として運営するものとする。
ロ 簡易訓練施設には、原則として施設の管理を担当する職員一人以上を置くものとする。
ハ 移動施設は、おおむね一訓練期間ごとに移動して訓練を行なうものとするが、訓練受講希望者が多い等の場合には継続して訓練を行なう等、弾力的な運営を図るものとする。
六 農業者転職訓練実施計画の策定
(一) 都道府県農業者転職訓練実施計画の作成
イ 農業者転職訓練を実施しようとする都道府県においては、別紙二「都道府県農業者転職訓練実施計画書」により都道府県農業者転職訓練実施計画(以下「実施計画」という。)を作成し、労働省の承認を受けるものとする。
ロ 実施計画の作成にあたつては、次の点に留意するものとする。
(イ) 職業安定機関、都道府県農業関係機関、関係市町村、農業委員会、都道府県農業会議、農業協同組合等との連絡を緊密にし、地域ごとの総合農政の推進状況、離農転職希望者の状況、農業就業者の他産業への就業の実態、労働市場の動向等を十分に把握し、職業訓練の種類及び規模を決定すること。
(ロ) 工場誘致が予定されている農村地域にあつては、職業安定機関、都道府県農業・商工関係機関、関係市町村、農業委員会、農業協同組合、関係企業及び企業団体、商工会議所等関係機関と緊密な連けいをとり、労働力需給の見通し、技能程度等を十分に配慮し、計画を作成すること。
(ハ) 施設の設置計画については、特に訓練受講希望者の便宜、訓練実施可能期間等を配慮し、計画を作成すること。
(二) 実施計画の修正等
総合農政の推進状況等により実施計画の変更を必要とする事情が生じた場合は、労働省と協議のうえ、所要の修正を行なうものとする。
七 訓練の実施
(一) 受講手続
イ 訓練受講申込み
農業者転職訓練の受講を希望する者は、もよりの公共職業訓練施設、公共職業安定所(農村人材銀行を含む。)に対し「訓練受講申込書」に関係農業委員会の発行する証明書を添えて、受講申込みを行なうものとする。
なお、関係市町村、農業委員会および農業協同組合は、関係地域における農業者転職訓練受講希望者の訓練受講申込書および当該訓練受講者にかかる農業委員会の発行する証明書を取りまとめ、公共職業訓練施設、公共職業安定所または農村人材銀行に訓練受講申込みを行なうことができるものとする。
ロ 受入れの調整
公共職業訓練施設は、当該公共職業訓練施設に直接受講申込みを行なう者のほか、公共職業安定所および農村人材銀行のあつせんにより受講申込みを行なう者もあるので、これらの者の受入れについて支障が生じないよう、管轄公共職業安定所および農村人材銀行と調整を行なうものとする。
(二) 選考
イ 訓練生の選考
訓練生の選考は、関係公共職業訓練施設が行なうものとする。
ロ 選考の基準
訓練生の選考に当つては、疾病、身体的障害等により集合訓練を実施することが困難な者、その他明らかに訓練を修了する見込みがないと認められる者を除き、すべて入校させることができるものとするが、とくに三五歳以上の者または世帯主であるものについては、優先的に取り扱うものとする。
(三) 訓練基準
イ 訓練基準
農業者転職訓練の訓練基準は、職業訓練法施行規則別表第七に定める職業転換訓練課程の能力再開発訓練の基準によるものとするが、訓練受講者の希望、当該地域における労働力の需給動向等により、必要な場合には、職業訓練法施行規則第一五条の規定により当該地域の実情に即した訓練を実施するよう配慮するものとする。
ロ 訓練科
農業者転職訓練の訓練科は、溶接、配管、鉄筋、板金、建築(型枠大工)、ブロツク建築、左官、塗装、建設機械運転工、その他関係地域の実情に即して都道府県が選定する訓練科とするものとする。
ハ 訓練期間
訓練期間は、三カ月を標準として行なうものとするが、訓練受講者の実態を配慮し、必要に応じて変更することができるものとする。
ニ 教科
職業訓練法施行規則別表第七に掲げる教科に従い実施するものとするが、農業者転職訓練の特殊性を配慮し、特に実技の修得および安全衛生管理に重点をおいて実施するものとする。
ホ 訓練の編成単位
訓練の単位は、原則として一〇人以上五〇人を一単位として編成するものとする。
(四) 職業訓練指導員
職業訓練指導員に非常勤の講師をあてる場合は、職業訓練指導員免許を有する者で、かつ、当該職業訓練の実技指導にすぐれた指導能力を有するものを選定するよう努めるものとする。
(五) 修了証書
関係公共職業訓練施設の長は、農業者転職訓練修了者に対し、職業訓練法第一三条の規定に基づき、修了証書を交付するものとする。
八 訓練生に対する援護措置
(一) 訓練手当の支給
農業者転職訓練の受講を容易にするため、訓練受講者に対しては、雇用対策法第一三条第二号の規定に基づき、訓練手当および特定職種訓練受講奨励金を支給するものとする。
なお、訓練手当および特定職種訓練受講奨励金の受給資格については、別に定める「農業者転職訓練受講者の訓練手当等受給資格認定要領」によるものとする。
(二) 災害見舞金の支給
農業者転職訓練を受ける者が、訓練上負傷し、疾病にかかり、または死亡した場合には、訓練生災害見舞金支給要綱(昭和四二年一月二〇日付婦発第二一号、訓発第一三号)に基づき、災害見舞金を支給するものとする。
九 広報活動の実施
(一) 受講促進
都道府県は、総合農政の推進に伴い、他産業に就業を希望する者に対しては、積極的に農業者転職訓練の受講を奨励するとともに、職業安定機関はもとより関係市町村、農業委員会、農業協同組合等関係農業団体に対しても広報活動を積極的に行ない、訓練受講促進についての協力を要請するものとする。
(二) 農業者転職対策会議
公共職業訓練施設の長および簡易訓練施設の職員は、管轄公共職業安定所に設置される農業者転職対策会議に参加し、農業者転職訓練の推進についての協力を求めるものとする。
一〇 その他
(一) 就職に関する指導
イ 求職手続等の指導
公共職業訓練施設は、訓練受講者が訓練修了後就職しようとする際は、管轄の公共職業安定所または農業人材銀行へ求職申込みを行なうよう指導するものとする。
また、就職に関し職業相談を必要とする者については、農業者転職相談員および関係公共職業安定所および農村人材銀行による相談を受けるよう指導するものとする。
ロ 公共職業安定所等に対する連絡
関係公共職業訓練施設は、農業者転職訓練を修了した者については、その旨を管轄公共職業安定所または農村人材銀行に通知するものとする。
(二) 訓練生指導要録の作成および保管
関係公共職業訓練施設は、当該施設の行なう訓練受講者について「訓練生指導要録」を作成するものとし、訓練修了後は訓練を実施した専修職業訓練校においてこれを保管するものとする。
(三) 報告
都道府県は、農業者転職訓練の実施状況について、別に定めるところにより労働省職業訓練局あて報告するものとする。