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通達:公共職業訓練における人格形成の指針について

 

公共職業訓練における人格形成の指針について

昭和35年5月13日職発第444号

(各都道府県知事あて労働省職業安定局長通達)

 

職業訓練は、産業界において直接生産に役立ち、また人間的にも信頼されるに足りる産業人としての技能労働者を育成するものである。したがつて、その実施にあたつては、生産現場に即応した実際的応用的知識技能の習得錬磨を基本とすると同時に職場や社会にあつて、正しい生活を営み、良い習慣を身につけた人間を育てるよう留意されなければならない。

しかして、公共職業訓練における人格形成については、従来より各職業訓練所において「訓練生の信条(又は心得)」、「訓練指標」又は「所訓」等の名のもとに種々配意されてきたところであるが、これが実情をみるに、訓練生の人間としての、将又技能労働者としての内面的自覚を深めるという点に関しては、必ずしも十分な成果をあげ得てきたとはいい難い向きもある。

よつてこの度、学校における道徳倫理教育の基礎の上に行われるべき公共職業訓練における人格形成の指針を別記のとおり定めたので、これに準拠しつつ、職業訓練所の伝統、当該地域社会の実情等を十分勘案の上、適切な指導理念を確立し、学科及び実技の訓練並びに生活指導と密接な関連を保持しつつ職業訓練活動の全体を通じてこれを補完し、深化することにより、近代的な技能労働者として望ましい心情、判断力及び創造力、実践的な態度、習慣を養うとともに、社会における個人のあり方について一層自覚を深めるよう格段の御配意を願いたい。

なお学校における倫理教育の基本は、別添のとおりであるから参考に資せられたい。

 

(自負と責任)

一 仕事に対する自信と誇りをもち、責任を重んずること。

人格の尊厳を自覚し、自信と誇りをもつて仕事を行い、また職責を重んじ、強固な意志をもつてその任務を全うすることは、技能労働者の本分である。

仕事に対する自信と誇りすなわち自負の念は、自己の人格を尊ぶとともに、その使命と役割を自覚し、全力をあげて仕事を完遂することによつてつちかわれ、責任を重んずる精神は、仕事の意義とその重要性を認識するとともに、絶えざる努力と忍耐を通じて直面する困難を克服し、その任務を遂行することによつて体得される。

訓練を通じて

仕事に対する能力を確信せしめるとともに、生産を通じて社会の進歩発展に直接参加する技能労働者としての生き甲斐と誇りを感得させ、また仕事の内容を理解し、不屈の精神をもつて課せられた任務を全うしようとする旺盛な責任観念を身につけさせる。

 

(誠実と勤勉)

二 事をなすにあたつては誠実を旨とし、働くことを喜びとする勤労観をもつこと。

事をなすにあたつては誠実を旨とし、また勤労を尊び、社会における文化の創造発展に貢献することは、技能労働者の大きな喜びである。

人間の誠実は、真実を愛し、常に自己を省みるとともに、良心の声をきくことによつて保たれ、勤労の精神は、働くことが自己および家族扶養の基本であり、社会人としての責務であることを自覚するとともに、仕事に努め励み、研究工夫して完成する創造の喜びを体験することによつてつちかわれる。

訓練を通じて

真摯な態度で仕事にのぞんでこそ、正しく、手落ちなくそして能率よく完成することができるものであり、また自己の作業能力の進歩向上も期待されるものであることを体験させる。

また仕事に対する興味と愛情を育てるとともに、積極的に働く意欲をもたせ、むらなく真面目に根気よく働くことが、人間としての真の生き甲斐と創造の喜びを生む源泉であり、健康の保持と相まつて産業人として最後の成功を収め得る基本的条件であることを認識させる。

 

(規律と節度)

三 規律を遵守し、節度を保持すること。

職場や社会の生活が、正しく明るく営まれるためには、個人個人がその分を守るとともに、職場や社会の規律規則を遵守し、また己にうちかつて節度を保ち、常に公正な態度を持する必要がある。

規律遵守の精神は、組織の一員であることを自覚し、規律の意義、定められた理由を認識するとともに、進んで他と協力し、集団生活を正しくしかも楽しく営む体験を通じてつちかわれ、節度を保つ生き方は、己の分を守るとともに、相手の立場を理解して、絶えず理性的建設的な態度行動をとることが大切であることを体験することによつて身につく。

訓練を通じて

職場や社会の組織と集団生活の意義、あり方を理解し、あわせて自己の分担すべき役割を認識するとともに、所定のきまりは自発的に守り、上長の命令指示等を理解し、協力することが、集団の秩序を確立するものであり、またその生活を明るく、楽しくするものであることを体験させ、

また感情に走ることなく、たかぶらず、へつらわず常に礼儀を守り、たしなみを失わず、品位ある態度行動を持する習慣を養う。

 

(良識と友愛)

四 良識をつちかい、友愛の精神を尚ぶこと。

職場や社会の健全な発展は、良識と友愛の精神によつて結ばれる良い人間関係によつて保たれる。

良識は、徒らに古いろう習にとらわれることなく、みだりに新を追わず奇を求めず、見識を広め、教養を高めることによつて修得され、友愛の精神は、自己および他人の人格を尊重するとともに、相互に親和敬愛の念と寛容の精神をもつて接するところにはぐくまれる。

訓練を通じて

視野を広め、正しい判断力を養うとともに、一方に偏した考え方に基く軽はずみな態度、ゆきすぎた行動をとることを避け、また人間的接触により相互に啓発しあつて良識をつちかう。

また相互に敬愛し合い、いたわり励まし合い、協力することが大切であることを認識させるとともに、他人の短所に対しては寛容にして雅量のある態度をもつてのぞみ、その長所は積極的に受け入れる習慣を養う。

 

(安全と愛護)

五 安全の確保に努め、資材愛護の精神に徹すること。

生命を尊び、健康を増進することは、人間共通の願望であり、また資材を大切にし、その経済的な利用を図ることは、技能労働者として最も関心を払うべきところである。

産業安全は、生命尊重の精神とともに作業環境の整備、正しい作業方法の習得および規律ある生活態度によつて確保され、資材愛護の精神は、物を大切にするとともに、常にその活用に努めることが、作業効果をあげることと相まつて事業経営の期待に応えるものであることを体験させることによつて養われる。

訓練を通じて

正しい作業態度、作業方法を習得するとともに、作業環境の整備、規律ある生活への配意等の習慣を養い、無理とむらのない職場生活を身につけて自己および他人の生命を尊重し、健康を増進する心構えをもたせ、また機械器具の維持管理、使用、運転等の方法を理解し、常に点検、手入れ、整理整頓を行う習慣を養うとともに、原価意識を涵養して、資材の最も経済的な利用に意を用いさせる。