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通達:職業訓練所における生活指導の実施について

 

職業訓練所における生活指導の実施について

昭和34年6月6日職発第401号

(都道府県知事、労働福祉事業団理事長あて職業安定局長通達)

 

生活指導は、訓練生の持つ素質及び能力を見出し、これを伸長する一方、社会人として共同生活を営むにふさわしい態度と能力を涵養し、人間性の形成を図ろうとするものであつて、その内容は、社会的な事項に関する指導はもとより、余暇の善用指導、健康指導及び職業指導等各般の分野に亘り、しかも職業訓練所における社会の課程を通じて行われる知識的な指導から、訓練の課程を通じての規律、態度の練成、さらに訓練時間以外の生活における指導にまで及ぶものである。

本省においては、客年一〇月訓練生に対する生活指導の実態について調査中であつたが、今回別添「職業訓練所における訓練生に対する生活指導実施の実態調査結果について」のとおり、取纒めたので、生活指導の実施にあたつては、右資料を参考にされるとともに、特に次の事項に留意の上、適切な指導を行われるよう格段の御配慮をお願いする。

 

目次

 一 一般の訓練生の生活指導について

 二 寮生の生活指導について

 三 身体障害者に対する生活指導について

 四 生活指導の方法について

 

一 一般の訓練生の生活指導について

(一) 生活指導は、思い付や場当りで実施しても、効果は期待されない。教科の訓練と生活指導との関連に配意しつつ、全職員の協議の下に周到な計画要すれば年間実施計画を樹てて実施するよう努めること。

(二) 生活指導の重要性を十分認識し、これが実施に際しては独り生活指導担当職員に委ねることなく、所長を中心とし、全職員の一体的な活動が行われるようすること。

(三) 生活指導は、指導に当る職員と訓練生の人間的な接触を深めることによつて、一層その効果を発揮し得る。従つて職員は訓練生の個人的な悩みや、問題も積極的に相談できるような雰囲気を醸成するよう十分配意すること。

(四) 生活指導の根本は、よく訓練生の個性を知ることである。なお個性の把握には、通例身上調査、個人面接、父兄との懇談等の方法による場合が多いが、これによつて把握した資料を基として、不断の観察を行い、適切な指導を行うよう努めること。

(五) 父兄会の開催、父兄の訓練所の参観ならびに訓練生の生活指導について父兄へ連絡通報を行うことは、職業訓練に関し、父兄の理解を深めるのみならず、生活指導についても理解を深めることとなるので、積極的に行うようすること。

(六) 生活指導は、人間形成のための手段であるので、訓練所において計画された指導目標が、完遂されるまで、根気よく継続的に実施することを必要とすること。

しかしながら、その方法を押しつけ、命令的若しくは説教的であつては、却つて効果を減殺するものであることに留意すること。

(七) 生活指導は、特別の時間を設けて実施すべきものと考えている向があるが、訓練所におけると訓練所外又は通所時若しくはレクリエーシヨンの間におけるとを問わず、日常生活の中で指導が行われるよう配意すること。

(八) 生活指導は、訓練生自らの実践によつて培われるものが多い。特に態度、規律の厳正、若しくは機械器具、材料の愛護の精神等は、実技の訓練の過程において培われ、責任感、協調性等は週番制(例えば所内取締、服装の点検又は掃除の当番等)の実施等により涵養されることに留意すること。

(九) 災害の防止、危害の予防についての安全教育又は衛生知識を広め、健康の保持に努めさせる衛生教育は現下の重要な課題であることに留意すること。

(一〇) 訓練生に対する指導状況を記録し、指導の結果について、変化発達、進歩向上等の状況を常に観察し、自己評価を行い、適正な指導を行うよう努めること。

(一一) 訓練生に職業に関する知識又は職業の情勢等を知らしめ、適職選定を指導することは極めて重要な問題であるので、関係公共職業安定所と連絡の上遺憾のないようすること。

二 寮生の生活指導について

寮に収容されている訓練生は、家庭を離れて単独で生活することとなるので、父母の下での家庭生活におけると同様温い雰囲気を持たせるとともに、寮生として共同生活を営むにふさわしい秩序の維持と訓練生としての誇りを持ち生活するよう指導することを必要とする。

寮生の生活指導の問題は、職業訓練所における生活指導と同様に、重要性を持つものであるので、これが指導には、寮生心得等を定め、右の徹底等により目的の達成に配意すること。

三 身体障害者に対する生活指導について

身体障害者に対する生活指導は、一般の訓練生に対する生活指導以上に特別の注意が必要である。すなわち身体障害者に対する職業訓練は、個々の訓練生の身体的障害に対応する訓練を行うことであり、その訓練は男女共学制であること又寮に収容して共同生活を営ましめることを原則とする等一般の訓練生とは、異つた条件の下において行われるものであるから、そこには種々の問題の派生することをも考慮しなければならない。従つて身体障害者に対する生活指導については、右一及び二の事項を配意することはもとより、さらに身体的な特殊性に加えて、父母の膝下を離れて寮生活を送るものであるので、訓練生の立場に立つて、愛情と細心の注意をもつて、共同生活における訓練ならびに寮生活の秩序の維持等について特に慎重に配慮すること。

四 生活指導の方法について

生活指導の方法は、別添「職業訓練所における訓練生に対する生活指導実施の実態調査の結果について」(以下別添資料という)の生活指導の方法において述べているとおり、集団指導と個人指導の二つの方法があるが、生活指導は、訓練生の生活活動を通じて人間性の形成を目的として行うものであり、社会生活を営む上に必要とされる知識、協同性等の涵養を図ることはもとより、成長期にある訓練生の健康の保持増進ならびに各般の分野に亘つて指導することを必要とするところである。

よつて生活指導は次の事項に関し指導を行うことが効果的と認められる。

 1 社会的事項に関する指導

 2 余暇の善用に関する指導

 3 健康に関する指導

 4 職業に関する指導

これらの指導目的ならびに意義については、別添資料(三)生活指導実施の具体的方法の項においてそれぞれ述べているところであるので右によつて了知せられたい。

(一) 社会的事項に関する指導について

この目的を達成するためには、次の指導事項に留意し、後に掲げる指導主題について計画的に実施することを必要とする。

指導主題については、一、四半期に概ね二、三の主題を実施するよう計画し年間をもつて完了するよう考慮すること。

指導事項

(1) 教科の課程としての社会の指導を通じて時事問題の解説を行う等によつて、社会常識の涵養に資し又訓練生と政治、経済、社会ならびに労働等との関係について指導し、教養を高めること。

(2) 週番制の実施により実践によつて、自ら責任感の醸成に資せしめること。

(3) 正しい言葉の使い方、礼儀又は規律の遵守、態度の厳正等は、訓練所における訓練期間中はもとより、社会生活上必要とするところであるので、これが指導には力を注ぐこと。

(4) 個人的な悩みを持つ者、性格的な癖のある者、家庭的な苦悩を持つ者等個人の問題についても、個人指導によつて、問題の解決を図るか又は善導に努めること。

指導主題としては概ね次のものが適当である。

主題

指導すべき内容

指導上の要点

責任

1 分担された仕事には責任を持つ

2 申し合せたことは必ずやりとげる

週番制の実施により責任の自覚と習慣をつけさせる

節度

わがままな行動をしないで節度ある生活をする

団体行動におけるきまりを守らせる

礼儀

服装、言語、動作、礼儀を正しくする

1訓練生であることの自覚を持たす

2さつぱりした服装をし人にいやな気持を与えない

3日常の挨拶を実行させ礼儀を体得させる

協調性

1 自分の責任や義務を果し、さらに他人の仕事をも助ける

2 自分の意思のみを主張しないで人の意見を受け入れる

1 責任の意義をよく考えさせる

2 どうしたら仲間ができよい協力が得られるかを考えさせる

寛容

人の立場を理解し、広い心で人の過ちを許す

お互の立場や人格を認め合う

作業規律

規律及びきまりの意義を理解せしめ正しく守るような態度と習慣を養う

実技の訓練において実地に即して指導する

技能労働者としての誇り

1 地域社会より信頼される技能労働者となるべく指導する

2 技能労働者として社会に奉仕する気持を養う

社会人として技能を通じて社会に奉仕することを悟らせる

(二) 余暇の善用に関する指導

この目的を達成するためには、次に掲げる各種の指導活動が系統的に実施させるとともに後に掲げる指導主題について計画的に実施することを必要とする。

指導主題については、一、四半期に二、三の主題を計画的に実施するよう考慮すること。

指導活動の方法

(1) 自治会結成

(2) クラブ活動

(3) ホーム・ルーム

(4) 映画、音楽の鑑賞

(5) 図書、文庫の回覧

(6) 名士、学識経験者による教養講座

(7) レクリエーション(野球、バレー、卓球、バドミントン、ハイキング、体操、体育大会ならびに教養、娯楽等)

(8) 機関雑誌の刊行

指導主題としては概ね次のものが適当である。

指導主題

指導すべき内容

指導上の要点

自主自立

1 自分のことは自分で行い他人に頼らない

2 自分で反省し、正しい信念をもつて行動する

何事も積極的に率先して行う気風を養う

個性を生かす

1 自分の個性や能力を自覚せしめる

2 自分の幸福と社会のためを考え行動せしめる

1 個性の発見に努めさせる

2 個性を将来どう生かすかについて討議せしめる

積極性

よいと思つたことは進んで新しい分野を開いて行く

正しいと思つたことは敢然と実行する気風を養う

忍耐

正しい目標の実現のためには困難に耐えて最後まで辛棒強くやり通す

一つの仕事を完全にやりとげさせる。

読書

読書の関心と興味を育てそれを生活に生かす

1 良い本を選んで読むことについて討議する

2 良い本を紹介する

研究

常に研究的態度をもつて真理の探究に努める

1 判らない点は判るまで研究させる

2 勉強しようとする意慾を高めさせる

(三) 健康に関する指導

この目的を達成するためには、(1)体育指導、(2)健康管理、(3)環境の整理、整とん及び美化清掃ならびに、(4)安全、衛生教育等各種の指導が行われるとともに、後に掲げる指導主題について計画的に実施することを必要とする。

指導主題については毎四半期を通じて計画的に実施するよう考慮すること。

指導主題

指導すべき内容

指導上の要点

衛生

疾病に関する知識を与えて衛生観念を養う

病気が人生の生活に不幸をもたらすものであることを知らしめる

健康

社会人として活躍するためには健康な心と身体の必要性を認識せしめる

健康の意義を自覚せしめる

清潔

病気は不潔な環境から起るものであることを知らしめる

掃除、清潔の励行により衛生的な環境を作ることによつて体得せしめる

環境の美化

日常の生活において環境を美化する習慣を養う

環境を整理し、美化することは、健全な心になることをも知らしめる

安全

産業災害に対する知識を与え安全観念を養う

産業災害による被害の大きいことを知らしめる

(四) 職業に関する指導

職業の選定に関しては、適切な指導を必要とするところであるので、実施にあたつては、関係公共職業安定所と連絡を密にし指導に努めること。