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微生物を用いる変異原性試験の具体的手法及び試験結果の評価方法について
令和2年4月6日基安化発0406第1号
(都道府県労働局労働基準部健康主務課長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課長通知)
労働安全衛生法第57条の4第1項の規定に基づく有害性の調査については、その満たすべき基準が「労働安全衛生法第57条の4第1項の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準」(昭和63年労働省告示第77号。以下「厚生労働大臣の定める基準」という。)により規定されており、特に微生物を用いる変異原性試験の具体的手法等については、「微生物を用いる変異原性試験の具体的手法及び試験結果の評価方法について」(平成11年2月8日付け労働省労働基準局安全衛生部化学物質調査課長事務連絡)により示してきたところである。
今般、「化学物質のリスク評価検討会」の中の「遺伝毒性評価ワーキンググループ」における議論の結果を踏まえ、「労働安全衛生法第57条の4第1項の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準の一部を改正する件」(令和2年厚生労働省告示第172号)により厚生労働大臣の定める基準が改定され、「労働安全衛生法第57条の4第1項の規定に基づき厚生労働大臣の定める基準の一部を改正する件の適用について」(令和2年4月6日付け基発0406第1号)で示されたとおり、用量設定試験において使用するプレート数に係る要件が緩和された。
これに合わせて、「遺伝毒性評価ワーキンググループ」における他の議論の結果も反映させ、微生物を用いる変異原性試験の具体的手法等を別添のとおり改正することとしたので、了知されたい。
なお、本通知をもって、前記の平成11年2月8日付け事務連絡を廃止する。
[別添]
微生物を用いる変異原性試験の具体的手法及び試験結果の評価方法
Ⅰ 試験の手法
1 試験に用いる器具、試薬等
(1) テスト菌株
試験に用いるテスト菌株は、下記アに掲げる種類の中から、下記イの特性を検査し、それぞれの菌株に特有の性質を持っていることが確認されたものについて、単一コロニーより増殖させた菌懸濁液を少量ずつ凍結させたもの(以下「菌凍結液」という。)を用いる。菌凍結液を一度解凍したものは再使用してはならない。
なお、全てのテスト菌株の培養は、経時的に生菌数を求める方法で得られた生育曲線に基づき決定する適切な培養条件(以下「適切な培養条件」という。)により行われたものでなければならない。
ア 種類
① ネズミチフス菌 TA98
② ネズミチフス菌 TA100
③ ネズミチフス菌 TA1535
④ ネズミチフス菌 TA1537、TA97又はTA97a
⑤ 大腸菌 WP2uvrA、大腸菌WP2uvrA/pKM101又はネズミチフス菌TA102
ただし、試験の対象とする化学物質(以下「被験物質」という。)の性質からみて、これらの菌株以外の菌株を用いて試験を行う必要があると認められる場合には、当該菌株を追加しなければならない。
イ 特性等
a) アミノ酸要求性
b) 紫外線感受性
c) 膜変異特性
d) プラスミド由来の薬剤耐性
e) 陰性対照値及び陽性対照値
(2) S9mix
代謝活性化系を用いる場合のS9mixは、以下の組成とする。製造から6ヶ月以内のものであることが望ましい。
S9mix 1ml中の組成
S9分画 |
10~30%(0.1~0.3ml) |
MgCl2 |
8μmol |
KCl |
33μmol |
グルコース6―リン酸 |
5μmol |
NADPH |
4μmol |
NADH |
4μmol |
ナトリウム―リン酸緩衝液(pH7.4) |
100μmol |
(3) 被験物質
被験物質は、その性状に応じて下記のとおり調製したものを用いる。
ただし、被験物質に不純物が混入している場合には、「Ⅲ その他」の「1 不純物の取扱い」により取り扱う。
ア 水に可溶な場合
被験物質の水溶液を用いる。
イ 水に難溶であるが、有機溶媒※に可溶である場合
被験物質を有機溶媒に溶解したものを用いる。
※被験物質の溶解性及び安定性並びにテスト菌株及びS9mixに対する毒性を考慮して選んだ適切な有機溶媒(例:DMSO、アセトン等)で、被験物質が水に不安定な場合は適切な方法で脱水したもの。以下同じ。
ウ 水及び有機溶媒に難溶であって、水に懸濁可能である場合
被験物質を水に懸濁したものを用いる。
エ 水及び有機溶媒に難溶であって、水に懸濁可能でない場合
被験物質を有機溶媒に懸濁したものを用いる。
ここで、被験物質がある溶媒に「可溶」又は「懸濁可能」であるとは、単に被験物質が外見上、溶解又は懸濁すればよいものではなく、被験物質が溶媒に安定であって、被験物質が溶媒と反応し、試験結果に影響を与えるおそれ(例:偽陽性の結果を示す、発熱する等)が無いことが担保されていることも含む。被験物質を溶媒に溶解等させる際、発熱、着色等の現象が見られた場合には、他の溶媒の使用を検討すること(例:DMSO、アセトン等に安定でない場合はDMF、ジオキサン等を試すなど)。
(4) 対照物質
ア 陰性対照物質
上記(3)の被験物質の調整に用いた溶媒を用いる。
イ 陽性対照物質
代謝活性化系を用いる場合(S9mixを必要とするもの)と代謝活性化系を用いない場合(S9mixを必要としないもの)のそれぞれについて、適切な陽性対照物質を用いる。なお、代謝活性化を用いる場合の陽性対照物質であって、ミクロソーム酵素による代謝活性化を要求するものの場合には、2―アミノアントラセンをS9mixの有効性の唯一の指標とはせず、ベンゾピレン又はジメチルベンズアントラセンを併用することが望ましい。
(5) プレート
最小グルコース寒天平板培地をプレートとして用いる。
なお、全ての試験において、用いるプレートは2枚以上とするのが原則であるが、本試験で2枚以上のプレートを用いた試験を2回以上実施する場合には、用量設定試験において用いるプレートは1枚のみとして差し支えない。
(6) その他
雑菌の混入するおそれのある器具、試薬等であって、予め滅菌処理されたもの以外のものについては、滅菌処理を実施する。また、測定機器等については適切に補正を実施したものを用いる。
2 試験の流れ
試験は、プレート法又はプレインキュベーション法により、用量設定試験及び本試験、並びに、用量設定試験と本試験の結果が一致しない場合に再現性を確認するため追加的に実施する確認試験の2段階又は3段階で、代謝活性化系を用いる場合及び用いない場合の両条件下で行う。また、全ての試験において、最高用量の被験物質及び試験に用いた用量のS9mixについて無菌テストを実施する。
なお、被験物質が気体又は試験管若しくはプレートからの散出のおそれのある揮発性の液体であって、プレート法又はプレインキュベーション法による試験が困難である場合には、物性に応じた適切な方法で試験を実施する。
その他、具体的な試験の手法は以下によることとする。
(1) 試験方法の選択
原則としてプレインキュベーション法を採用する。
特に、プレート法による用量設定試験で陰性の結果が得られた場合の本試験、プレート法による本試験において陰性の結果が得られた場合の確認試験等については、プレインキュベーション法を採用し、試験の妥当性を確認することが望ましい。
(2) 前培養液の準備
菌凍結液を解凍したものをニュートリエントブロス培養液に一定量接種した後、適切な培養条件に基づき37℃で静止期の初期で培養を止め、それ以上増殖しないようにしたものを「前培養液」とし、生菌数が概ね1.0×109/ml以上となっていることを確認する。ここで、生菌数が1.0×109/mlに大きく満たない場合には、前培養液の調製を再度実施しなければならない。
(3) 用量設定試験
標準最高用量から、適切な公比で5段階以上の用量について試験を実施し、被験物質の沈殿の有無及び各テスト菌株に対する生育阻害を調べる。
なお、標準最高用量は、5mg/プレートとする(以下同様)。
(4) 本試験の用量設定
上記(3)の用量設定試験の結果に基づき、下記により本試験における用量を設定する。なお、いずれの場合にも、適切な公比で5段階以上の用量を設定する。
ア 用量設定試験において変異原性が認められた場合
用量依存性が得られるように適切な間隔で用量を設定する。
イ 用量設定試験において変異原性が認められなかった場合
(ア) 被験物質がテスト菌株に対して生育阻害を示さず、かつ、被験物質の沈殿が認められない場合は、最高用量5mg/プレートとし、適切な間隔で用量を設定する。
(イ) 被験物質がテスト菌株に対して生育阻害を示した場合は、沈殿の有無にかかわらず最高用量は被験物質がテスト菌株に対して生育阻害を示す用量とし、適切な間隔で用量を設定する。
(ウ) 被験物質がすべてのテスト菌株に対して生育阻害を示さず、かつ、被験物質の沈殿が認められた場合は、沈殿の認められる用量段階を1段階以上含めた適切な間隔で用量を設定する。
(5) 本試験
上記(4)で設定した用量により試験を実施する。
なお、本試験を2回実施する際には、試験の実施は別の日とすることが望ましい。
(6) 確認試験
用量設定試験と本試験の結果、又、本試験を2回実施した場合の本試験の結果が一致しない場合には、再現性を確認するために確認試験を実施する。
3 具体的な試験の方法
試験は、以下の流れにより実施する。
① 滅菌された試験管に被験物質溶液を入れる。
②
【代謝活性化系を用いない場合】
①に0.1Mナトリウム―リン酸緩衝液(pH7.4)を0.5ml添加し、続いて前培養液を0.1ml加えてよく混合する。
【代謝活性化系を用いる場合】
①にS9mixを0.5ml添加し、続いて前培養液を0.1ml加えてよく混合する。
③
【プレインキュベーション法の場合】
②を37℃で振盪しながら一定時間プレインキュベートする。
【プレート法の場合】
追加の操作をせず③以降に進む。
④ ③にトップアガーを2ml加えてよく混合する。
⑤ ④をプレートの上に注ぎ一様に広げる。
⑥ ⑤を37℃で48時間以上インキュベートする。
⑦ 全てのプレートについて、テスト菌株の生育阻害の有無を実体顕微鏡を用いて調べる。また、被験物質の沈殿の有無を肉眼で調べる。
⑧ 復帰突然変異により生じたコロニー数を数える。
4 報告書
(1) 最終報告書
最終報告書に記載すべき内容は、GLP基準(昭和63年労働省告示第76号)に記載された内容に以下の内容を加えて作成する。なお、復帰変異コロニー数については、各々のプレートの実測値とその平均値を表示し、用量―反応曲線の図を添付する。
ア 被験物質
保管方法、CAS番号(既知の場合)
イ 被験物質の調製方法及び溶媒の名称とその選択理由
ウ 陽性対照物質
陽性対照物質溶液の調製方法、溶液の保管及び方法
エ S9及びS9mix
S9の入手方法等、S9の調製方法、S9mixの組成
オ 試験系
試験に用いたテスト菌株の名称、選択理由、入手方法及び保存方法
カ 前培養の条件及び培地
前培養条件、ニュートリエントブロス、前培養終了時の生菌数、最少グルコース寒天平板培地、トップアガー
キ 試験方法等
採用した試験方法、使用プレート数、試験の操作手順、用量の設定理由、コロニーカウント方法、生育阻害の有無の確認方法、無菌テスト、沈殿の有無の確認方法、結果の判定基準
ク 試験結果及び考察
無菌テストの結果、生育阻害の有無、被験物質の沈殿の有無、陰性対照値と陽性対照値の背景データ
ケ その他必要とされる事項
参考文献
(2) 労働安全衛生法第57条の2第1項の規定に基づく新規化学物質の届出に用いる試験結果報告書
新規化学物質の製造又は輸入に係る届出に用いる試験結果報告書は、平成9年9月29日付け基発第653号「微生物を用いる変異原性試験結果報告書様式の改正について」の別添様式によること。
なお、記載する年の表記については、西暦又は和暦のいずれかに統一すること。
5 その他
(1) 試験に使用した化学物質等の取扱い及び廃棄に当たっては、法令の定めのあるものは、当該法令の定めによることはもとより、法令の定めないものであってもその取扱い及び廃棄には十分注意しなければならない。
(2) 被験物質の安全性を確認する上で、試験責任者がここに示した手法等から変更を必要とする場合は、試験責任者の判断によることとし、最終報告書及び届出に用いる試験結果報告書にその旨を記載すること。
Ⅱ 結果の評価
1 評価の前提条件
ある物質について行われた変異原性試験は、それが適正な菌、代謝活性化系及び試薬等を用い、上記Ⅰの手法に従って適切に実施された場合に初めて、当該試験結果が評価の対象となる。
2 結果の判定基準
被験物質の用量の増加とともに復帰変異コロニー数が明らかに増加し(原則として、陰性対照の2倍以上)、かつ、再現性が得られる場合に陽性と判定する。
3 評価指標
被験物質の変異原性の強さについては、被験物質の変異原性比活性を用いて相対的比較を行う。比活性は陽性と判定した用量で次式で計算し、被験物質の用量(単位mg/プレート)当たりの最高値を求める。
Ⅲ その他
1 不純物の取扱い
新規化学物質の有害性調査に際し、被験物質は可能な限り不純物を分離したものを用いる必要がある(特に当該不純物が新規化学物質であって分離が可能な場合には、当該不純物について独立した有害性調査が必要となる。)。
他方、当該不純物が反応副生成物、原料等であって有害性調査の対象とする新規化学物質からの分離が不可能な場合は、以下により取り扱う。
(1) 純度別の純度換算の要否
ア 純度95%以上
主成分の単一物質として扱う。純度換算は不要。
イ 純度90%超95%未満
主成分の単一物質として扱う。純度換算は必要。
ウ 純度90%以下
主成分と不純物の混合物として扱う。純度換算は主成分と不純物の純度の和による。
(2) 被験物質が溶液状の場合
溶液中の溶媒の割合が10%未満の場合は純度換算を行うだけでよいが、その割合が10%以上となる場合には以下のように取り扱う。
ア 溶媒が水、DMSO、アセトン等の場合
溶質成分を単一物質又は混合物として純度換算を行う。
イ 溶媒が特殊なものの場合
(ア) 溶液中の溶媒を除去する。
(イ) (ア)が不可能であれば、水、DMSO、アセトン等、試験系に与える影響がないことが判明している溶媒に置換した上で、溶質成分を単一物質又は混合物として純度換算を行う。
(ウ) (イ)が不可能であれば、溶媒が試験系に与える影響(ex.菌に対する影響(生育阻害)、S9に対する影響)を調査した上で、溶媒が試験系に与える影響がない場合には主成分の単一物質として扱い、純度換算を行う。逆に溶媒が試験系に与える影響がある場合には、主成分と溶媒の混合物として扱う。