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通達:化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について

 

化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について

平成27年9月18日基発0918第3号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

 

労働安全衛生法の一部を改正する法律(平成26年法律第82号。以下「改正法」という。)による改正後の労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)(以下「法」という。)第57条の3第3項の規定に基づき、「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(以下「指針」という。)を制定し、平成28年6月1日から適用するとともに、法第28条の2第2項の規定に基づく「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成18年3月30日付け指針公示第2号。以下「旧指針」という。)を廃止することとし、別添1のとおり平成27年9月18日付け官報に公示した。

改正法をはじめとする今般の化学物質管理に係る法令改正は、人に対する一定の危険性又は有害性が明らかになっている労働安全衛生法施行令別表第9に掲げる640の化学物質等について、譲渡又は提供する際の容器又は包装へのラベル表示、安全データシート(SDS)の交付及び化学物質等を取り扱う際のリスクアセスメントの3つの対策を講じることが柱となっている。

今般の指針の制定は、改正法により、化学物質等による危険性又は有害性等の調査(以下「リスクアセスメント」という。)の実施に係る主たる根拠条文が変更されたことに伴い、旧指針を廃止し、新たに法第57条の3第3項に基づくものとして同名の指針を策定するものであり、内容としては、基本的に旧指針の構成を維持しつつ、改正法の内容等に合わせてその一部を見直したものである。

ついては、別添2のとおり指針を送付するので、労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第34条の2の9において準用する第24条の規定により、都道府県労働局健康主務課において閲覧に供されたい。

また、その趣旨、内容等について、下記事項に留意の上、事業者及び関係事業者団体等に対する周知等を図られたい。

なお、平成18年3月30日付け基発第0330004号「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」は、旧指針の廃止に伴い本通達をもって廃止することとする。

1 趣旨等について

(1) 指針の1は、本指針の趣旨及び位置付けを定めたものであること。

(2) 指針の1の「危険性又は有害性」とは、ILO等において、「危険有害要因」、「ハザード(hazard)」等の用語で表現されているものであること。

2 適用について

(1) 指針の2は、法第57条の3第1項の規定に基づくリスクアセスメントは、化学物質等のみならず、作業方法、設備等、労働者の就業に係る全てのものを含めて実施すべきことを定めたものであること。

(2) 指針の2の「化学物質等」には、製造中間体(製品の製造工程中において生成し、同一事業場内で他の化学物質に変化する化学物質をいう。)が含まれること。

3 実施内容について

(1) 指針の3は、指針に基づき実施すべき事項の骨子を定めたものであること。また、法及び関係規則の規定に従い、事業者に義務付けられている事項と努力義務となっている事項を明示したこと。

(2) 指針の3(1)の「危険性又は有害性の特定」は、ILO等においては「危険有害要因の特定(hazard identification)」等の用語で表現されているものであること。

4 実施体制等について

(1) 指針の4は、リスクアセスメント及びリスク低減措置(以下「リスクアセスメント等」という。)を実施する際の体制について定めたものであること。

(2) 指針の4(1)アの「事業の実施を統括管理する者」には、統括安全衛生責任者等、事業場を実質的に統括管理する者が含まれること。

(3) 指針の4(1)イの「職長その他の当該作業に従事する労働者を直接指導し、又は監督する者」には、職長のほか、作業主任者、班長、組長、係長等が含まれること。

(4) 指針の4(1)ウの「化学物質管理者」は、事業場で製造等を行う化学物質等、作業方法、設備等の事業場の実態に精通していることが必要であるため、当該事業場に所属する労働者から指名されることが望ましいものであること。

(5) 指針の4(1)エは、安全衛生委員会等において、安衛則第21条各号及び第22条各号に掲げる付議事項を調査審議するなど労働者の参画について定めたものであること。

(6) 指針の4(1)オの「専門的知識を有する者」は、原則として当該事業場の実際の作業や設備に精通している内部関係者とすること。

(7) 指針の4(1)カの「労働衛生コンサルタント等」の「等」には、労働安全コンサルタント、作業環境測定士、インダストリアル・ハイジニスト等の民間団体が養成しているリスクアセスメント等の専門家等が含まれること。

5 実施時期について

(1) 指針の5は、リスクアセスメントを実施すべき時期について定めたものであること。

(2) 化学物質等に係る建設物を設置し、移転し、変更し、若しくは解体するとき、又は化学設備等に係る設備を新規に採用し、若しくは変更するときは、それが指針の5(1)ア又はイに掲げるいずれかに該当する場合に、リスクアセスメントを実施する必要があること。

(3) 指針の5(1)ウの「化学物質等による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき」とは、化学物質等による危険性又は有害性に係る新たな知見が確認されたことを意味するものであり、例えば、国連勧告の化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(以下「GHS」という。)又は日本工業規格Z7252に基づき分類された化学物質等の危険性又は有害性の区分が変更された場合、日本産業衛生学会の許容濃度又は米国産業衛生専門家会議(ACGIH)が勧告するTLV―TWA等により化学物質等のばく露限界が新規に設定され、又は変更された場合などがあること。したがって、当該化学物質等を譲渡し、又は提供した者が当該化学物質等に係る安全データシート(以下「SDS」という。)の危険性又は有害性に係る情報を変更し、法第57条の2第2項の規定に基づき、その内容が事業者に提供された場合にリスクアセスメントを実施する必要があること。

(4) 指針の5(2)は、安衛則第34条の2の7第1項に規定する時期以外にもリスクアセスメントを行うよう努めるべきことを定めたものであること。

(5) 指針の5(2)イは、過去に実施したリスクアセスメント等について、設備の経年劣化等の状況の変化が当該リスクアセスメント等の想定する範囲を超える場合に、その変化を的確に把握するため、定期的に再度のリスクアセスメント等を実施するよう努める必要があることを定めたものであること。なお、ここでいう「一定の期間」については、事業者が設備や作業等の状況を踏まえ決定し、それに基づき計画的にリスクアセスメント等を実施すること。

また、「新たな安全衛生に係る知見」には、例えば、社外における類似作業で発生した災害など、従前は想定していなかったリスクを明らかにする情報が含まれること。

(6) 指針の5(2)ウは、「既に製造し、又は取り扱っていた物質がリスクアセスメントの対象物質として新たに追加された場合」のほか、改正法のリスクアセスメント等の義務化に係る規定の施行日(平成28年6月1日)前から使用している物質を施行日以降、施行日前と同様の作業方法で取り扱う場合には、リスクアセスメントの実施義務が生じないものであるが、これらの既存業務について、過去にリスクアセスメント等を実施したことのない場合又はリスクアセスメント等の結果が残っていない場合は、実施するよう努める必要があることを定めたものであること。

(7) 指針の5(4)は、設備改修等の作業を開始する前の施工計画等を作成する段階で、リスクアセスメント等を実施することで、より効果的なリスク低減措置の実施が可能となることから定めたものであること。また、計画策定時にリスクアセスメント等を行った後に指針の5(1)の作業等を行う場合、同じ作業等を対象に重ねてリスクアセスメント等を実施する必要はないこと。

6 リスクアセスメント等の対象の選定について

(1) 指針の6は、リスクアセスメント等の実施対象の選定基準について定めたものであること。

(2) 指針の6(3)の「同一の場所で作業を行うことによって生ずる労働災害」には、例えば、引火性のある塗料を用いた塗装作業と設備の改修に係る溶接作業との混在作業がある場合に、溶接による火花等が引火性のある塗料に引火することによる労働災害などが想定されること。

7 情報の入手等について

(1) 指針の7は、調査等の実施に当たり、事前に入手すべき情報を定めたものであること。

(2) 指針の7(1)の「非定常作業」には、機械設備等の保守点検作業や補修作業に加え、工程の切替え(いわゆる段取替え)や緊急事態への対応に関する作業も含まれること。

(3) 指針の7(1)については、以下の事項に留意すること。

ア 指針の7(1)アの「危険性又は有害性に関する情報」は、使用する化学物質のSDS等から入手できること。

イ 指針の7(1)イの「作業手順書等」の「等」には、例えば、操作説明書、マニュアルがあり、「機械設備等に関する情報」には、例えば、使用する設備等の仕様書のほか、取扱説明書、「機械等の包括的な安全基準に関する指針」(平成13年6月1日付け基発第501号)に基づき提供される「使用上の情報」があること。

(4) 指針の7(2)については、以下の事項に留意すること。

ア 指針の7(2)アの「作業の周辺の環境に関する情報」には、例えば、周辺の化学物質等に係る機械設備等の配置状況や当該機械設備等から外部へ拡散する化学物質等の情報があること。また、発注者において行われたこれらに係る調査等の結果も含まれること。

イ 指針の7(2)イの「作業環境測定結果等」の「等」には、例えば、特殊健康診断結果、生物学的モニタリング結果があること。

ウ 指針の7(2)ウの「災害事例、災害統計等」には、例えば、事業場内の災害事例、災害の統計・発生傾向分析、ヒヤリハット、トラブルの記録、労働者が日常不安を感じている作業等の情報があること。また、同業他社、関連業界の災害事例等を収集することが望ましいこと。

エ 指針の7(2)エの「参考となる資料等」には、例えば、化学物質等による危険性又は有害性に係る文献、作業を行うために必要な資格・教育の要件、「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」(平成12年3月21日付け基発第149号)等に基づく調査等の結果、危険予知活動(KYT)の実施結果、職場巡視の実施結果があること。

(5) 指針の7(3)については、以下の事項に留意すること。

ア 指針の7(3)アは、化学物質等による危険性又は有害性に係る情報が記載されたSDSはリスクアセスメント等において重要であることから、事業者は当該化学物質等のSDSを必ず入手すべきことを定めたものであること。

イ 指針の7(3)イは、「機械等の包括的な安全基準に関する指針」、ISO、JISの「機械類の安全性」の考え方に基づき、化学物質等に係る機械設備等の設計・製造段階における安全対策が講じられるよう、機械設備等の導入前に製造者にリスクアセスメント等の実施を求め、使用上の情報等の結果を入手することを定めたものであること。

ウ 指針の7(3)ウは、使用する機械設備等に対する設備的改善は管理権原を有する者のみが行い得ることから、管理権原を有する者が実施したリスクアセスメント等の結果を入手することを定めたものであること。

また、爆発等の危険性のある物を取り扱う機械設備等の改造等を請け負った事業者が、内容物等の危険性を把握することは困難であることから、管理権原を有する者がリスクアセスメント等を実施し、その結果を関係請負人に提供するなど、関係請負人がリスクアセスメント等を行うために必要な情報を入手できることを定めたものであること。

(6) 指針の7(4)については、以下の事項に留意すること。

ア 指針の7(4)アは、同一の場所で複数の事業者が混在作業を行う場合、当該作業を請け負った事業者は、作業の混在の有無や混在作業において他の事業者が使用する化学物質等による危険性又は有害性を把握できないので、元方事業者がこれらの事項について事前にリスクアセスメント等を実施し、その結果を関係請負人に提供する必要があることを定めたものであること。

イ 指針の7(4)イは、化学物質等の製造工場や化学プラント等の建設、改造、修理等の現場においては、関係請負人が混在して作業を行っていることから、どの関係請負人がリスクアセスメント等を実施すべきか明確でない場合があるため、元方事業者がリスクアセスメント等を実施し、その結果を関係請負人に提供する必要があることを定めたものであること。

8 危険性又は有害性の特定について

(1) 指針の8は、危険性又は有害性の特定の方法について定めたものであること。

(2) 指針の8の「リスクアセスメント等の対象となる業務」のうち化学物質等を製造する業務には、当該化学物質等を最終製品として製造する業務のほか、当該化学物質等を製造中間体として生成する業務が含まれ、化学物質等を取り扱う業務には、譲渡・提供され、又は自ら製造した当該化学物質等を単に使用する業務のほか、他の製品の原料として使用する業務が含まれること。

(3) 指針の8ア及びイは、化学物質等の危険性又は有害性の特定は、まずSDSに記載されているGHS分類結果及び日本産業衛生学会等の許容濃度等のばく露限界を把握することによることを定めたものであること。なお、指針の8アのGHS分類に基づく化学物質等の危険性又は有害性には、別紙1に示すものがあること。

また、化学物質等の「危険性又は有害性」は、個々の化学物質等に関するものであるが、これらの化学物質等の相互間の化学反応による危険性又は有害性(発熱等の事象)が予測される場合には、事象に即してその危険性又は有害性にも留意すること。

(4) 指針の8ウにおける「負傷又は疾病の原因となるおそれのある化学物質等の危険性又は有害性」とは、SDSに記載された危険性又は有害性クラス及び区分に該当しない場合であっても、過去の災害事例等の入手しうる情報によって災害の原因となるおそれがあると判断される危険性又は有害性をいうこと。また、「化学物質等による危険又は健康障害のおそれがある事象が発生した作業等」の「等」には、労働災害を伴わなかった危険又は健康障害のおそれのある事象(ヒヤリハット事例)のあった作業、労働者が日常不安を感じている作業、過去に事故のあった設備等を使用する作業、又は操作が複雑な化学物質等に係る機械設備等の操作が含まれること。

9 リスクの見積りについて

(1) 指針の9はリスクの見積りの方法等について定めたものであるが、その実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。

ア リスクの見積りは、危険性又は有害性のいずれかについて行う趣旨ではなく、対象となる化学物質等に応じて特定された危険性又は有害性のそれぞれについて行うべきものであること。したがって、化学物質等によっては危険性及び有害性の両方についてリスクを見積もる必要があること。

イ 指針の9(1)ア(ア)から(オ)まで、イ(ア)から(ウ)まで、並びにウ(ア)及び(イ)に掲げる方法は、代表的な手法の例であり、指針の9(1)ア、イ又はウの柱書きに定める事項を満たしている限り、他の手法によっても差し支えないこと。

(2) 指針の9(1)アに示す方法の実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。

ア 指針の9(1)アのリスクの見積りは、必ずしも数値化する必要はなく、相対的な分類でも差し支えないこと。

イ 指針の9(1)アの「危険又は健康障害」には、それらによる死亡も含まれること。また、「危険又は健康障害」は、ISO等において「危害」(harm)、「危険又は健康障害の程度(重篤度)」は、ISO等において「危害のひどさ」(severity of harm)等の用語で表現されているものであること。

ウ 指針の9(1)ア(ア)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度をそれぞれ縦軸と横軸とした表(行列:マトリクス)に、あらかじめ発生可能性と重篤度に応じたリスクを割り付けておき、発生可能性に該当する行を選び、次に見積り対象となる危険又は健康障害の重篤度に該当する列を選ぶことにより、リスクを見積もる方法であること。(別紙2の例1を参照。)

エ 指針の9(1)ア(イ)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを数値演算(足し算、掛け算等)してリスクを見積もる方法であること。(別紙2の例2を参照。)

オ 指針の9(1)ア(ウ)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度について、危険性への遭遇の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐していくことにより、リスクを見積もる方法(リスクグラフ)であること。

カ 指針の9(1)ア(エ)の「コントロール・バンディング」は、ILOが開発途上国の中小企業を対象に有害性のある化学物質から労働者の健康を保護するため開発した簡易なリスクアセスメント手法である。厚生労働省では「職場のあんぜんサイト」ホームページにおいて、ILOが公表しているコントロール・バンディングのツールを翻訳、修正追加したものを「リスクアセスメント実施支援システム」として提供していること。(別紙2の例3参照)

キ 指針の9(1)ア(オ)に示す方法は、「化学プラントにかかるセーフティ・アセスメントに関する指針」(平成12年3月21日付け基発第149号)による方法等があること。

(3) 指針の9(1)イに示す方法は化学物質等による健康障害に係るリスクの見積りの方法について定めたものであるが、その実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。

ア 指針の9(1)イ(ア)は、化学物質等の気中濃度等を実際に測定し、ばく露限界と比較する手法であり、ばく露の程度を把握するに当たって指針の9(1)イ(イ)及び(ウ)の手法より確実性が高い手法であること。(別紙3の1参照)

イ 指針の9(1)イ(ア)の「気中濃度等」には、作業環境測定結果の評価値を用いる方法、個人サンプラーを用いて測定した個人ばく露濃度を用いる方法、検知管により簡易に気中濃度を測定する方法等が含まれること。なお、簡易な測定方法を用いた場合には、測定条件に応じた適切な安全率を考慮する必要があること。また、「ばく露限界」には、日本産業衛生学会の許容濃度、ACGIH(米国産業衛生専門家会議)のTLV―TWA(Threshold Limit Value ― Time Weighted Average8時間加重平均濃度)等があること。

ウ 指針の9(1)イ(ア)の方法による場合には、単位作業場所(作業環境測定基準第2条第1項に定義するものをいう。)に準じた区域に含まれる業務を測定の単位とするほか、化学物質等の発散源ごとに測定の対象とする方法があること。

エ 指針の9(1)イ(イ)の数理モデルを用いてばく露濃度等を推定する場合には、推定方法及び推定に用いた条件に応じて適切な安全率を考慮する必要があること。

オ 指針の9(1)イ(イ)の気中濃度の推定方法には、以下に掲げる方法が含まれること。

a 調査対象の作業場所以外の作業場所において、調査対象の化学物質等について調査対象の業務と同様の業務が行われており、かつ、作業場所の形状や換気条件が同程度である場合に、当該業務に係る作業環境測定の結果から平均的な濃度を推定する方法

b 調査対象の作業場所における単位時間当たりの化学物質等の消費量及び当該作業場所の気積から推定する方法並びにこれに加えて物質の拡散又は換気を考慮して推定する方法

c 欧州化学物質生態毒性・毒性センターが提供しているリスクアセスメントツール(ECETOC―TRA)を用いてリスクを見積もる方法(別紙3の例4参照)

カ 指針の9(1)イ(ウ)は、指針の9(1)ア(ア)の方法の横軸と縦軸を当該化学物質等のばく露の程度と有害性の程度に置き換えたものであること。(別紙3の例5参照)

(4) 指針の9(1)ウは、「準ずる方法」として、リスクアセスメント対象の化学物質等そのもの又は同様の危険性又は有害性を有する他の物質を対象として、当該物質に係る危険又は健康障害を防止するための具体的な措置が労働安全衛生法関係法令に規定されている場合に、当該条項を確認する方法があることを定めたものであり、次に掲げる事項に留意すること。

ア 指針の9(1)ウ(ア)は、労働安全衛生法関係法令に規定する特定化学物質、有機溶剤、鉛、四アルキル鉛等及び危険物に該当する物質については、対応する有機溶剤中毒予防規則等の各条項の履行状況を確認することをもって、リスクアセスメントを実施したこととみなす方法があること。

イ 指針の9(1)ウ(イ)に示す方法は、危険物ではないが危険物と同様の危険性を有する化学物質等(GHS又はJISZ7252に基づき分類された物理化学的危険性のうち爆発物、有機過酸化物、可燃性固体、支燃性/酸化性ガス、酸化性液体、酸化性固体、引火性液体又は可燃性/引火性ガスに該当する物)について、危険物を対象として規定された安衛則第4章等の各条項を確認する方法であること。

(5) 指針の9(2)については、次に掲げる事項に留意すること。

ア 指針の9(2)アの「性状」には、固体、スラッジ、液体、ミスト、気体等があり、例えば、固体の場合には、塊、フレーク、粒、粉等があること。

イ 指針の9(2)イの「製造量又は取扱量」は、化学物質等の種類ごとに把握すべきものであること。また、タンク等に保管されている化学物質等の量も把握すること。

ウ 指針の9(2)ウの「作業」とは、定常作業であるか非定常作業であるかを問わず、化学物質等により労働者の危険又は健康障害を生ずる可能性のある作業の全てをいうこと。

エ 指針の9(2)エの「製造等に係る作業の条件」には、例えば、製造等を行う化学物質等を取り扱う温度、圧力があること。また、「関連設備の状況」には、例えば、設備の密閉度合、温度や圧力の測定装置の設置状況があること。

オ 指針の9(2)オの「製造等に係る作業への人員配置の状況」には、化学物質等による危険性又は有害性により、負傷し、又はばく露を受ける可能性のある者の人員配置の状況が含まれること。

カ 指針の9(2)カの「作業の頻度」とは、当該作業の1週間当たり、1か月当たり等の頻度が含まれること。

キ 指針の9(2)キの「換気設備の設置状況」には、例えば、局所排気装置、全体換気装置及びプッシュプル型換気装置の設置状況及びその制御風速、換気量があること。

ク 指針の9(2)クの「保護具の使用状況」には、労働者への保護具の配布状況、保護具の着用義務を労働者に履行させるための手段の運用状況及び保護具の保守点検状況が含まれること。

ケ 指針の9(2)ケの「作業環境中の濃度若しくはばく露濃度の測定結果」には、調査対象作業場所での測定結果が無く、類似作業場所での測定結果がある場合には、当該結果が含まれること。

(6) 指針の9(3)の留意事項の趣旨は次のとおりであること。

ア 指針の9(3)アの重篤度の見積りに当たっては、どのような負傷や疾病がどの作業者に発生するのかをできるだけ具体的に予測した上で、その重篤度を見積もること。また、直接作業を行う者のみならず、作業の工程上その作業場所の周辺にいる作業者等も検討の対象に含むこと。

化学物質等による負傷の重篤度又はそれらの発生可能性の見積りに当たっては、必要に応じ、以下の事項を考慮すること。

(ア) 反応、分解、発火、爆発、火災等の起こしやすさに関する化学物質等の特性(感度)

(イ) 爆発を起こした場合のエネルギーの発生挙動に関する化学物質等の特性(威力)

(ウ) タンク等に保管されている化学物質等の保管量等

イ 指針の9(3)イの「休業日数等」の「等」には、後遺障害の等級や死亡が含まれること。

ウ 指針の9(3)ウは、労働者の疲労等により、危険又は健康障害が生ずる可能性やその重篤度が高まることを踏まえ、リスクの見積りにおいても、これら疲労等による発生可能性と重篤度の付加を考慮することが望ましいことを定めたものであること。なお、「疲労等」には、単調作業の連続による集中力の欠如や、深夜労働による居眠り等が含まれること。

(7) 指針の9(4)の安全衛生機能等に関する考慮については、次に掲げる事項に留意すること。

ア 指針の9(4)アの「安全衛生機能等の信頼性及び維持能力」に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。

(ア) 安全装置等の機能の故障頻度・故障対策、メンテナンス状況、局所排気装置、全体換気装置の点検状況、密閉装置の密閉度の点検、保護具の管理状況、作業者の訓練状況等

(イ) 立入禁止措置等の管理的方策の周知状況、柵等のメンテナンス状況

イ 指針の9(4)イの「安全衛生機能等を無効化する又は無視する可能性」に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。

(ア) 生産性が低下する、短時間作業である等の理由による保護具の非着用等、労働災害防止のための機能・方策を無効化させる動機

(イ) スイッチの誤作動防止のための保護錠が設けられていない、局所排気装置のダクトのダンパーが担当者以外でも操作できる等、労働災害防止のための機能・方策の無効化のしやすさ

ウ 指針の9(4)ウの作業手順の逸脱等の予見可能な「意図的」な誤使用又は危険行動の可能性に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。

(ア) 作業手順等の周知状況

(イ) 近道行動(最小抵抗経路行動)

(ウ) 監視の有無等の意図的な誤使用等のしやすさ

(エ) 作業者の資格・教育等

また、操作ミス等の予見可能な「非意図的」な誤使用の可能性に関して必要に応じ考慮すべき事項には、以下の事項があること。

(ア) ボタンの配置、ハンドルの操作方向のばらつき等の人間工学的な誤使用等の誘発しやすさ、化学物質等を入れた容器への内容物の記載手順

(イ) 作業者の資格・教育等

エ 指針の9(4)エは、健康障害の程度(重篤度)の見積りに当たっては、いわゆる予防原則に則り、有害性が立証されておらず、SDSが添付されていない化学物質等を使用する場合にあっては、関連する情報を供給者や専門機関等に求め、その結果、一定の有害性が指摘されている場合は、その有害性を考慮すること。

10 リスク低減措置の検討及び実施について

(1) 指針の10(1)については、次に掲げる事項に留意すること。

ア 指針の10(1)アの「危険性又は有害性のより低い物質への代替には、危険性又は有害性が低いことが明らかな化学物質等への代替が含まれ、例えば以下のものがあること。なお、危険性又は有害性が不明な化学物質等を、危険性又は有害性が低いものとして扱うことは避けなければならないこと。

(ア) ばく露限界がより高い化学物質等

(イ) GHS又は日本工業規格Z7252に基づく危険性又は有害性の区分がより低い化学物質等(作業内容等に鑑み比較する危険性又は有害性のクラスを限定して差し支えない。)

イ 指針の10(1)アの「併用によるリスクの低減」は、より有害性又は危険性の低い化学物質等に代替した場合でも、当該代替に伴い使用量が増加すること、代替物質の揮発性が高く気中濃度が高くなること、あるいは、爆発限界との関係で引火・爆発の可能性が高くなることなど、リスクが増加する場合があることから、必要に応じ化学物質等の代替と化学反応のプロセス等の運転条件の変更等とを併用しリスクの低減を図るべきことを定めたものであること。

ウ 指針の10(1)イの「工学的対策」とは、指針の10(1)アの措置を講ずることができず抜本的には低減できなかった労働者に危険を生ずるおそれの程度に対し、防爆構造化、安全装置の多重化等の措置を実施し、当該化学物質等による危険性による負傷の発生可能性の低減を図る措置をいうこと。

また、「衛生工学的対策」とは、指針の10(1)アの措置を講ずることができず抜本的には低減できなかった労働者の健康障害を生ずるおそれの程度に対し、機械設備等の密閉化、局所排気装置等の設置等の措置を実施し、当該化学物質等の有害性による疾病の発生可能性の低減を図る措置をいうこと。

エ 指針の10(1)ウの「管理的対策」には、作業手順の改善、立入禁止措置のほか、マニュアルの整備、ばく露管理、警報の運用、複数人数制の採用、教育訓練、健康管理等の作業者等を管理することによる対策が含まれること。

オ 指針の10(1)エの「有効な保護具」は、その対象物質及び性能を確認した上で、有効と判断される場合に使用するものであること。例えば、呼吸用保護具の吸収缶及びろ過材は、本来の対象物質と異なる化学物質等に対して除毒能力又は捕集性能が著しく不足する場合があることから、保護具の選定に当たっては、必要に応じてその対象物質及び性能を製造者に確認すること。なお、有効な保護具が存在しない又は入手できない場合には、指針の10(1)アからウまでの措置により十分にリスクを低減させるよう検討すること。

(2) 指針の10(2)は、合理的に実現可能な限り、より高い優先順位のリスク低減措置を実施することにより、「合理的に実現可能な程度に低い」(ALARP:As Low As Reasonably Practicable)レベルにまで適切にリスクを低減するという考え方を定めたものであること。

なお、死亡や重篤な後遺障害をもたらす可能性が高い場合等には、費用等を理由に合理性を判断することは適切ではないことから、措置を実施すべきものであること。

11 リスクアセスメント結果等の労働者への周知等について

(1) 指針の11(1)アからエまでに掲げる事項を速やかに労働者に周知すること。その際、リスクアセスメント等を実施した日付及び実施者についても情報提供することが望ましいこと。

(2) 指針の11(1)エの「リスク低減措置の内容」には、当該措置を実施した場合のリスクの見積り結果も含めて周知することが望ましいこと。

(3) 指針の11(4)は、指針の11(2)の周知を次回リスクアセスメント等を実施する時期まで継続して行うこととし、周知の内容が逸失しないよう、別途保存しておくことが望ましいこと。(別紙4参照)

12 その他について

指針の12は、本指針の制定により法第28条の2に基づく同名の指針が廃止されるが、同条に基づく化学物質のリスクアセスメント等を実施する際には、本指針に準じて適切に実施するよう努めるべきことを定めたものであること。

 

(別紙1)

化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)で示されている危険性又は有害性の分類

1 物理化学的危険性

(1) 爆発物

(2) 可燃性/引火性ガス

(3) エアゾール

(4) 支燃性/酸化性ガス

(5) 高圧ガス

(6) 引火性液体

(7) 可燃性固体

(8) 自己反応性化学品

(9) 自然発火性液体

(10) 自然発火性固体

(11) 自己発熱性化学品

(12) 水反応可燃性化学品

(13) 酸化性液体

(14) 酸化性固体

(15) 有機過酸化物

(16) 金属腐食性物質

2 健康有害性

(1) 急性毒性

(2) 皮膚腐食性/刺激性

(3) 眼に対する重篤な損傷性/眼刺激性

(4) 呼吸器感作性又は皮膚感作性

(5) 生殖細胞変異原性

(6) 発がん性

(7) 生殖毒性

(8) 特定標的臓器毒性(単回ばく露)

(9) 特定標的臓器毒性(反復ばく露)

(10) 吸引性呼吸器有害性



(別紙4)(記録の記載例

(続き)


(別添1)(別添2)<編注:略。指針名をクリックして表示。>

危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号

労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第57条の3第3項の規定に基づき、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針を次のとおり公表する。

なお、化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針(平成18年3月30日付け危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第2号)は、平成28年6月1日をもって廃止する。

平成27年9月18日

厚生労働大臣

1 名称 化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針

2 趣旨 本指針は、化学物質、化学物質を含有する製剤その他の物で労働者の危険又は健康障害を生ずるおそれのあるものに係る労働安全衛生法第57条の3第1項及び第2項の規定に基づく措置の基本的な考え方及び実施事項について定めたものであり、その適切かつ有効な実施を図ることを目的とするものである。

3 適用日 平成28年6月1日

4 内容の閲覧 内容は、厚生労働省ホームページ(http://www.mhlw.go.jp)において閲覧に供する。また、厚生労働省労働基準局安全衛生部化学物質対策課及び都道府県労働局労働基準部健康主務課において閲覧に供する。