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労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令の施行に係る留意点について
平成20年11月19日基安発第1119002号
(都道府県労働局労働局長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)
労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成19年政令第375号。以下「改正政令」という。)及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令(平成19年厚生労働省令第155号。以下「改正省令」という。)の施行については、平成20年2月29日付け基発第0229001号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令等の施行等について」により指示されているところであるが、ホルムアルデヒドは歯科医療、医療機関等による病理学的検査、大学の解剖実習等において幅広く使用されており、多くの疑義照会等があることから、専門家による検討会を設け、関係団体等からのヒアリング等を行い、別添のとおり整理を行ったところである。
具体的な施行に当たっては、下記の点に留意の上、関係事業者等に対する改正政令及び改正省令の照会への対応及び周知に遺漏なきを期されたい。なお、関係団体に対し、別添のとおり周知していることを申し添える。
記
1 歯科医療について
次に示す事項に留意し、局署管内の照会へ適切に対応し、必要な周知等を行うこと。
(1) 作業環境測定等
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤による治療が行われている場合があるが、当該治療に係る作業が1回当たり30秒程度で、月間取扱い頻度が12回程度である等ホルムアルデヒド製剤の取扱いが短時間、低頻度であり、気中濃度が著しく低い場合には、作業環境測定の対象とはならないこと。
また、その場合には、当該取扱いに係る労働者は労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第45条第1項の特定業務従事者の健康診断の対象とはならないこと。
(2) 作業主任者
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤の保管及び配置に際し、作業に従事する労働者がホルムアルデヒドに汚染され、又は吸入しないように作業方法を決定するよう、事業者は作業主任者に労働者を指揮させることが重要であること。
(3) 発散抑制措置
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤の発散源は口腔内等であり、発散源を囲い込み、又は発散源にフードを近づけることが医療行為を妨げることがあることから、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合があること。その場合は、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)第5条第2項に基づき、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならないこと。
2 病理学的検査について
次に示す事項に留意し、局署管内の照会へ適切に対応し、必要な周知等を行うこと。
(1) 作業環境測定等
医療機関の病理検査室、衛生検査所等において行われている病理学的検査においては、通常常態としてホルムアルデヒドが使用されており、法令に基づき定期的に作業環境測定を行い、その結果に基づき作業環境改善を進めることが必要であること。
一方、医療機関においては、病理検査室、衛生検査所等以外の場所で行われる内視鏡検体等の浸漬のため、ホルムアルデヒドの溶液の小瓶を開閉する作業を行う場合があるが、当該作業が1回5秒程度で、1日当たりの取扱い頻度が10回程度である等ホルムアルデヒドの取扱いが短時間、低頻度であり、気中濃度が著しく低い場合には、作業環境測定の対象とはならないこと。
また、その場合には、当該取扱いに係る労働者は安衛則第45条第1項の特定業務従事者の健康診断の対象とはならないこと。
(2) 作業主任者
病理学的検査においては、当該検査を行う場所の空気中のホルムアルデヒドの濃度低減を行うため、ホルムアルデヒドを使用する場所の集中化、有害性の少ない製品への変更、臓器等の保管室での二重包装等の作業方法の改善等が有効であることから、事業者は、作業主任者にこうした事項を労働者に指揮させることが重要であること。
(3) 発散抑制措置
病理学的検査においては、作業を人員及び設備の整っている病理検査室、衛生検査所等に可能な限り集中化することがホルムアルデヒドにばく露するリスクの低減化には重要であること。作業を集中化した病理検査室、衛生検査所等は、局所排気装置等を設置し、労働者のばく露防止対策を行うことが必要であること。
一方、病理検査室、衛生検査所等以外においては、手術室では患者の感染防止のため室内を陽圧に保つ必要があること、その設置が医療行為を妨げること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合がある。その場合は、特化則第5条第2項に基づき、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならないこと。
(4) その他
(2)の作業方法の改善等については、日本病理学会が示している具体的な作業改善事例等を参考とすることが有効であること。
3 解剖について
次に示す事項に留意し、局署管内の照会へ適切に対応し、必要な周知等を行うこと。
(1) 作業環境測定
大学の解剖準備室における解剖体の防腐処置等の作業及び司法解剖については、通常年間を通じてホルムアルデヒドが取り扱われており、法令に基づき定期的に作業環境測定を行い、その結果に基づき作業環境改善を進めることが必要であること。
大学の解剖実習室における解剖実習については、通常実習期間が6か月に満たない作業であるが、毎年繰り返し行う作業であり、解剖実習室の作業環境改善に有効であることから、ホルムアルデヒドの発生が多いと考えられる解剖の開始時等に定期的に測定を行い、測定結果に基づき、作業環境改善を行うことが望ましいこと。
(2) 作業主任者
解剖においては、事業者は作業主任者に、作業に従事する労働者等がホルムアルデヒドに汚染され、又はこれを吸入しないように、作業方法を決定させるとともに、保護具の使用状況を監視させること等が重要であること。
(3) 発散抑制措置
解剖準備室、解剖実習室及び司法解剖室においては、局所排気装置等の設置による労働者のばく露防止対策を行うことが基本であるが、特に解剖実習室では、実習のための解剖体が25体程度と発散源が多いこと、実習の作業の特性上剖出した臓器が新たな発散源となること、剖出した臓器を計測する場合には発散源を移動させることになること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合があること。その場合は、特化則第5条第2項に基づき、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならないこと。
(4) その他
解剖におけるホルムアルデヒドのばく露防止対策については、日本解剖学会が具体的な作業事例等を示す予定であること。
4 その他
検討会の資料については、http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#roudou で公表していること。
(別添)
○労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令の施行に係る留意点について
平成20年11月19日基安発第1119001号
(別添団体の長あて厚生労働省労働基準局安全衛生部長通知)
日頃より労働安全衛生行政の推進に当たり、御理解と御協力を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、ホルムアルデヒドについては、労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成19年政令第375号)及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令(平成19年厚生労働省令第155号)が施行され、特定化学物質の第3類物質から第2類物質に変更等されたところでありますが、ホルムアルデヒドが歯科医療、医療機関、大学の解剖実習等において比較的少量ではあるものの幅広く使用されており、多くの関係者から疑義照会等をいただいたことから、国では専門家による検討会を設け、検討を進めた結果、今般別添のとおり報告書が取りまとめられたところです。
つきましては、歯科医療、医療機関、大学の解剖実習等におけるホルムアルデヒドの取扱いに当たりましては、下記の事項に御留意いただくとともに、傘下会員機関等に対し、本内容の周知徹底等が図られるよう、御協力を賜りますようお願い申し上げます。
記
1 歯科医療について
(1) 作業環境測定等
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤による治療が行われている場合があるが、当該治療に係る作業が1回当たり30秒程度で、月間取扱い頻度が12回程度である等ホルムアルデヒド製剤の取扱いが短時間、低頻度であり、気中濃度が著しく低い場合には、作業環境測定の対象とはならないこと。
また、その場合には、当該取扱いに係る労働者は労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号。以下「安衛則」という。)第45条第1項の特定業務従事者の健康診断の対象とはならないこと。
(2) 作業主任者
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤の保管及び配置に際し、作業に従事する労働者がホルムアルデヒドに汚染され、又は吸入しないように作業方法を決定するよう、事業者は作業主任者に労働者を指揮させることが重要であること。
(3) 発散抑制措置
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤の発散源は口腔内等であり、発散源を囲い込み、又は発散源にフードを近づけることが医療行為を妨げることがあることから、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合があること。その場合は、特定化学物質障害予防規則(昭和47年労働省令第39号。以下「特化則」という。)第5条第2項に基づき、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならないこと。
2 病理学的検査について
(1) 作業環境測定等
医療機関の病理検査室、衛生検査所等において行われている病理学的検査においては、通常常態としてホルムアルデヒドが使用されており、法令に基づき定期的に作業環境測定を行い、その結果に基づき作業環境改善を進めることが必要であること。
一方、医療機関においては、病理検査室、衛生検査所等以外の場所で行われる内視鏡検体等の浸漬のため、ホルムアルデヒドの溶液の小瓶を開閉する作業を行う場合があるが、当該作業が1回5秒程度で、1日当たりの取扱い頻度が10回程度である等ホルムアルデヒドの取扱いが短時間、低頻度であり、気中濃度が著しく低い場合には、作業環境測定の対象とはならないこと。
また、その場合には、当該取扱いに係る労働者は安衛則第45条第1項の特定業務従事者の健康診断の対象とはならないこと。
(2) 作業主任者
病理学的検査においては、当該検査を行う場所の空気中のホルムアルデヒドの濃度低減を行うため、ホルムアルデヒドを使用する場所の集中化、有害性の少ない製品への変更、臓器等の保管室での二重包装等の作業方法の改善等が有効であることから、事業者は、作業主任者にこうした事項を労働者に指揮させることが重要であること。
(3) 発散抑制措置
病理学的検査においては、作業を人員及び設備の整っている病理検査室、衛生検査所等に可能な限り集中化することがホルムアルデヒドにばく露するリスクの低減化には重要であること。作業を集中化した病理検査室、衛生検査所等は、局所排気装置等を設置し、労働者のばく露防止対策を行うことが必要であること。
一方、病理検査室、衛生検査所等以外においては、手術室では患者の感染防止のため室内を陽圧に保つ必要があること、その設置が医療行為を妨げること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合がある。その場合は、特化則第5条第2項に基づき、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならないこと。
3 解剖について
(1) 作業環境測定
大学の解剖準備室における解剖体の防腐処置等の作業及び司法解剖については、通常年間を通じてホルムアルデヒドが取り扱われており、法令に基づき定期的に作業環境測定を行い、その結果に基づき作業環境改善を進めることが必要であること。
大学の解剖実習室における解剖実習については、通常実習期間が6か月に満たない作業であるが、毎年繰り返し行う作業であり、解剖実習室の作業環境改善に有効であることから、ホルムアルデヒドの発生が多いと考えられる解剖の開始時等に定期的に測定を行い、測定結果に基づき、作業環境改善を行うことが望ましいこと。
(2) 作業主任者
解剖においては、事業者は作業主任者に、作業に従事する労働者等がホルムアルデヒドに汚染され、又はこれを吸入しないように、作業方法を決定させるとともに、保護具の使用状況を監視させること等が重要であること。
(3) 発散抑制措置
解剖準備室、解剖実習室及び司法解剖室においては、局所排気装置等の設置による労働者のばく露防止対策を行うことが基本であるが、特に解剖実習室では、実習のための解剖体が25体程度と発散源が多いこと、実習の作業の特性上剖出した臓器が新たな発散源となること、剖出した臓器を計測する場合には発散源を移動させることになること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合があること。その場合は、特化則第5条第2項に基づき、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を防止するための必要な措置を講じなければならないこと。
4 その他
検討会の資料については、http://www.mhlw.go.jp/shingi/other.html#roudouで公表していること。
(別添)
社団法人日本医師会
社団法人日本歯科医師会
社団法人全日本病院協会
社団法人日本病理学会
社団法人日本解剖学会
化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書(医療現場におけるホルムアルデヒドについて)
平成20年11月
Ⅰ はじめに
ホルムアルデヒドについては、「平成18年度化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会報告書」において、関係法令の整備を検討すべき旨の検討結果が取りまとめられたこと等を受け、平成19年末に労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令(平成19年政令第375号)等が公布又は公示され、これらの施行については、平成20年2月29日付け基発第0229001号「労働安全衛生法施行令の一部を改正する政令及び特定化学物質障害予防規則等の一部を改正する省令等の施行等について」により各都道府県労働局に指示されているところであるが、ホルムアルデヒドは歯科医療、医療機関等における病理学的検査、大学の解剖実習等において幅広く使用されていることから、円滑な施行に資するため、本検討会において、関係団体等からのヒアリング等を行った上で下記のとおり整理を行ったところである。
今後、この報告書の内容については、行政において、学会等を通じて事業者に対し、作業改善事例等と併せて広く周知を行い、ホルムアルデヒドによる労働者の健康障害防止に資することが望まれる。
Ⅱ 医療現場におけるホルムアルデヒド規制の整理について
1 歯科医療
(1) ヒアリング概要
検討会においては、歯科医療におけるホルムアルデヒドの使用実態について、社団法人日本歯科医師会よりヒアリングを行い、以下のような使用実態が確認された。
ア 歯科医療においては、①乳歯の歯髄切断後の貼薬、②永久歯の抜髄治療、③永久歯の感染根管治療の3つの治療においてホルムアルデヒド製剤が使用されている事業場がある。
イ ホルムアルデヒド製剤による治療は、むし歯が進行し、根管治療を行う際に、根管内の殺菌のため、極少量のホルムアルデヒド製剤を染み込ませたペーパーポイントを根管に差し込む処置(貼薬処置)を行っている。
ウ ペーパーポイントは、貼薬処置後、不要な柄の部分を切除し、根管内に残した状態で、仮封材を詰めて封入され、ホルムアルデヒドは患者の歯に貼薬処置するため、使用済みのペーパーポイントには残らない。使用済みのペーパーポイントは、仮封材を外す時点で、一緒に取り出され、蓋のある廃棄物入れに廃棄されている。
エ ホルムアルデヒド製剤の使用頻度は、乳歯治療の貼薬が0.2件/月、永久歯の抜髄及び感染根管治療が12件/月程度、1回の治療時間も10秒から30秒程度である。
オ 治療1回あたりの使用量は約10mg。これから換算すると診療室を50m3の場合、最大限に飛散した場合の気中濃度は0.024ppmとなり管理濃度(0.1ppm)に比べ低い。
カ ホルムアルデヒド製剤は、当該治療に備えて、歯科治療台のテーブルや薬品庫に保管するのが一般的である。
キ 歯科診療室においては、歯を削る際に粉じんが発生するため、通常、換気扇、空気清浄機、集塵機等の全体換気装置が設置されている。また、最近は口腔外バキュームの導入も進んでいる。
(2) ヒアリングを踏まえた下記作業の評価
ア ホルムアルデヒド製剤の保管及び配置
ホルムアルデヒド製剤は、通常瓶などで、治療に備えて歯科治療台のテーブルや薬品庫に保管等されており、適切な管理がなされることが重要である。なお、ホルムアルデヒド製剤については、薬事法により劇薬として指定されており、他の薬剤とは別個保管することとされている。
イ ホルムアルデヒド製剤による治療
ホルムアルデヒド製剤による治療は、1回の治療時間が10~30秒程度、平均的な使用頻度が月12件程度、1ヶ月当たりの延べ作業時間が約2分から6分程度と短時間であり、また、治療1回当たりに使用するホルムアルデヒド製剤の量も最大限発散したとして気中濃度が0.024ppmと管理濃度(及び日本産業衛生学会許容濃度)(0.1ppm)と比較しても低いことから、一般的には歯科医療においてホルムアルデヒドを取り扱う作業については健康影響リスクが低いと考えられる。
(3) 整理
ア 作業環境測定等について
歯科医療においては、ホルムアルデヒド製剤による治療が行われている場合があるが、ホルムアルデヒド製剤の瓶が通常は密閉され、治療以外には発散されない状態で、当該治療に係る作業が1回当たり10~30秒程度、月間取扱い頻度が12回程度である等取扱いが短時間、低頻度であり、気中濃度が著しく低い場合には、作業環境測定の実施の必要性は低いと考えられる。ただし、歯科医療においてホルムアルデヒド製剤が取り扱われる場合であっても、その取扱いが長時間であり、又は高頻度である場合はこの限りではないと考えられる。また同様に、上記のような歯科医療においてはホルムアルデヒドの取扱いが短時間、低頻度であり、気中濃度が著しく低い場合には、健康影響についてもリスクは低いことから特定業務従事者の健康診断実施の必要性は低いと考えられる。
イ 作業主任者
歯科医療においては、事業者は作業主任者を選任し、その者に主にホルムアルデヒド製剤の保管及び配置に際し、作業に従事する労働者がホルムアルデヒドに汚染され、又は吸入しないように作業方法を決定するよう、事業者は作業主任者に労働者を指揮させることが重要であると考えられる。
ウ 発散抑制装置
歯科医療においては、ホルムアルデヒドの発散源は口腔内等であり、局所排気装置等を設置する場合に、発散源を囲い込み、又は発散源にフードを近づけることが医療行為を妨げる可能性が高いことが考えられることから、一般的には局所排気装置等の設置が著しく困難な場合が多いと考えられる。
なお、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合は、特定化学物質障害予防規則(以下「特化則」という。)5条のただし書により、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を予防するための必要な措置を講じなければならないが、今回ヒアリングにより、多くの歯科医療の事業場では、通常、換気扇、集塵機等の全体換気装置が設置されており、また、最近は口腔外バキュームの導入も進んでいることが確認された。
2 病理学的検査等
(1) ヒアリング概要
検討会においては、病理学的検査等におけるホルムアルデヒドの使用実態について、社団法人日本病理学会よりヒアリングを行い、以下のような使用実態が確認された。
ア 日本病理学会においては、今般のホルムアルデヒド規制に際し、各医療機関の作業ごとの危険度評価を実施する等により、「病理部門を中心とした具体的対応策」を策定し会員に周知する等の対応を行っている。
イ 通常の病理学的検査は、ホルムアルデヒドを取り扱う作業として
(ア) 生検、手術、病理解剖等で摘出された臓器組織等(以下「臓器等」という。)のホルムアルデヒドによる固定作業
(イ) 固定臓器等の切出し準備作業(移動、水洗、水拭き取り等)
(ウ) 固定臓器等の切出し等(切出し作業、写真撮影)
(エ) 切出し後の処理(使用済み臓器等、ガーゼ、ホルムアルデヒド溶液等の廃棄)
(オ) 使用済み器具及び容器の洗浄 が該当する。
その他の作業として
(ア) ホルムアルデヒド溶液の作製(溶液の分注、攪拌)
(イ) 溶液の小分け・分注
(ウ) 床等に漏洩した場合におけるホルムアルデヒド溶液の清掃 がある。
ウ 社団法人日本病理学会が調査した病理検査室におけるホルムアルデヒド濃度は、室内の中央付近の平均濃度が0.4ppm以上、固定臓器等の切り出し後のごみ箱付近で8ppmであった。
※ 土屋眞知子他 試験・研究・分析室における有害物の作業環境管理について 病理技術2002年65巻24―27)
エ 臓器等の固定に使用する薬剤は、ホルムアルデヒド溶液以外に、フェノールやエタノールがあるが、フェノールは化学熱傷の危険性があること、エタノールは臓器等の収縮が生ずること等、固定臓器等の保存、取扱いの安全性等から、代替化は困難な状況である。ただし、病理学的検査等に支障がなければ濃度の変更も検討すべき事項である。
オ ホルムアルデヒドのばく露防止対策は、特化則により義務づけられている対策以外に以下のような作業改善が有効である。
(ア) 空気清浄機の設置
(イ) 容器持ち出し等管理ノートの作製
(ウ) ホルマリン容器及び保存臓器等の二重密閉
(エ) 事業場による作業場の集中化(臓器等の固定を行う作業場でのホルムアルデヒド溶液作製の禁止、病理検査室等に作業場所を集中化等)
カ 内視鏡検体等生検及び外来等において採取された小組織片の固定を臨床の場等で行う場合がある。この場合、内視鏡等で組織を採取後、ホルムアルデヒドの小瓶溶液の蓋を開閉し浸漬する作業であるが、その作業は1回の瓶を開けている時間が5秒程度、大病院の1つの室における平均的な使用頻度が日に10回程度である。なお、小瓶の蓋を開けている際のホルムアルデヒド濃度は、近傍で検出下限以下であった。その浸漬した組織は、通常医療機関の病理検査室や衛生検査所に運ばれて、病理検査が行われている。
キ 病理検査室以外においては、感染防止の観点から室内を陽圧に保つ必要があること、その設置が医療行為を妨げる場合があること等から局所排気装置の設置が著しく困難な場合がある。
ク ホルムアルデヒドにより固定された臓器等の保管は、作業場とは別の保管庫を設置するとともに、保管に際し、臓器等を二重密閉することが重要である。
(2) ヒアリングを踏まえた下記作業の評価
ア 病理学的検査
医療機関の病理検査室、衛生検査所等において行われている病理学的検査については、病理検査室内のホルムアルデヒド濃度が管理濃度(0.1ppm)を大幅に超過しており、また通常作業が年間を通じて行われていることから、一般的にはリスクが高いと考えられる。
また、病理学的検査においては、ホルムアルデヒドの濃度低減を行うための対策として、事業場によるホルムアルデヒドを使用する場所の集中化、有害性の少ない製品への変更、ホルムアルデヒド容器等の二重密閉等の作業方法の改善等が有効である。
一方、内視鏡検体等生検及び外来等において採取された小組織片の浸漬のためにホルムアルデヒドの小瓶を開閉する作業を行う場合があるが、当該作業において1回の瓶を開けている時間が5秒程度で、平均的な使用頻度が日に10回程度、1日あたりの延べ作業時間が約1分程度であり、また小瓶の蓋を開けている際の濃度測定でも近傍で検出下限以下であることから、一般的には健康影響リスクが低いと考える。
イ 臓器等の保管
摘出された臓器等については、保管庫等に保管され、二重密閉がされる等の適切な管理を行うことが重要である。
(3) 整理
ア 作業環境測定等について
医療機関の病理検査室、衛生検査所等によって行われている病理学的検査は、通常常時ホルムアルデヒドが使用されていることから、当該検査が行われている場所においては、定期的に作業環境測定を行い、その結果に基づき作業環境改善を行うことが求められると考えられる。
一方、生検等の病理学的検査のため、ホルムアルデヒドの小瓶溶液を開閉する作業を行う場合があるが、ホルムアルデヒド製剤の瓶が通常密閉され、治療以外には発散されない状態で、当該作業が1回5秒程度で、1日当たりの取扱い頻度が10回程度等ホルムアルデヒドの取扱いが短時間、低頻度であり気中濃度が著しく低い場合には、作業環境測定の実施の必要性は低いと考えられる。ただし、当該作業を行う場所であっても、ホルムアルデヒドの取扱いが長時間であり、又は高頻度である場合には、この限りではないと考えられる。また同様に、当該作業においては、ホルムアルデヒドの取扱いが短時間、低頻度であり気中濃度が著しく低い場合には、健康影響についてもリスクは低いことから特定業務従事者の健康診断実施の必要性は低いと考えられる。
イ 作業主任者
病理学的検査においては、当該検査を行う場所の空気中のホルムアルデヒドの濃度低減を行うため、ホルムアルデヒドを使用する場所の集中化、有害性の少ない製品への変更、臓器等の保管室での二重密閉等の作業方法の改善等が有効であることから、事業者は、作業主任者にこうした事項を労働者に指揮させることが重要であると考えられる。
ウ 発散抑制装置
病理学的検査においては、作業を人員及び設備の整っている病理検査室等に可能な限り集中化することがホルムアルデヒドにばく露するリスクの低減化には重要であり、こうした作業を集中化した病理検査室等は、局所排気装置等を設置し、労働者のばく露防止対策を行うことが重要であると考えられる。
なお、病理検査室以外においては、手術室内においては感染防止のため陽圧に保つ必要があること、その設置が医療行為を妨げること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合があると考えられる。その場合は、全体換気装置の設置その他の労働者の健康障害を予防するための必要な措置を講じなければならないと考えられる。
3 解剖(系統解剖及び司法解剖)
(1) ヒアリング概要
本検討会においては、系統解剖及び司法解剖におけるホルムアルデヒドの使用実態について、社団法人日本解剖学会等よりヒアリングを行い、以下のような使用実態が確認された。
ア 系統解剖については、
(ア) 解剖準備室等における解剖体の防腐処置、保存及び実習終了後の解剖体の処置
(イ) 解剖実習室における解剖実習
に分類することができる。
イ 解剖準備室等で行う解剖体の防腐処置等
(ア) 大学技術職員が、解剖準備室等において、防腐処置(ホルムアルデヒドによる固定)を行い、1年間に約40―50体の防腐処置を行う。防腐された解剖体は解剖実習時期まで保管庫で保存される。
(イ) 解剖体の防腐処置は、解剖体の動脈から10%ホルムアルデヒド溶液を7リットル注入する。その1,2日後に頭蓋骨を開け、脳を摘出、防腐処置後1週間は室温に置き、迅速防腐処理装置(60%エタノール 40度)で3週間程度処理、その後は保管庫で保存される。
(ウ) 解剖体の防腐処置においては、遺体内に残留しているホルムアルデヒド製剤をエタノール置換する方法や中和するための中和剤の開発等も進んでいる。
(エ) 一部の大学においては、ホルムアルデヒドの注入に際し、密閉式の点滴バッグを使用してばく露低減措置を図っている。
(オ) 全ての解剖が終了した臓器等は、実習終了後、棺に納め、短期間保管し、その後火葬場で火葬し、遺骨をご遺族へ返却する。
ウ 解剖実習室における解剖実習
(ア) 医学部及び歯学部の学生は、一般的には4月から6月までの3か月間程度正常解剖の教育・実習を受ける。解剖体1体につき4名の学生が担当となることが多い。100名の学生であれば解剖体が25体となる。
(イ) 一部の大学においては、局所排気装置の各実習台への設置が可能となり、解剖体の周囲をアクリル板で覆う等のばく露低減措置を行っているが、これらの大学では全体換気の余力が大きく、部屋全体も大きいことから導入が可能であったとのことであった。
(ウ) 実習のための解剖体が20体程度と発散源が多いこと、実習の作業の特性上、剖出した臓器が新たな発散源となり得ること、剖出した臓器を計測する場合や顕微鏡で観察する場合には発散源が移動すること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難である場合がある。
(エ) 社団法人日本解剖学会が全国の医科大学及び歯科大学に対し行ったアンケートでは、解剖実習室におけるホルムアルデヒド濃度の平均値は0.55ppm、管理濃度をクリアできた大学は99校中6校である。換気設備の導入状況は、自然換気が12校、全体換気装置が69校、プッシュプル型排気装置が25校、局所排気装置が7校である。
(オ) 学生等の保護具の使用については、ご遺体への敬意の面から行われていない大学とばく露防止の観点から行われている大学とがある。
エ 司法解剖
(ア) 司法解剖は、不審死等の事案があった場合に警察等の依頼により、死因等の調査を行っており、件数としてはある大学で年間80体程度、1回の解剖に2時間から4時間程度かかる。
(イ) 司法解剖は、運ばれているご遺体がどのような病原体(肝炎、結核等)に罹患しているか不明な状態で行われるため、保護衣、手袋、保護眼鏡等が重要であるが、防毒マスクは作業性の面では厳しく、通常、簡易マスクが使用されている。
(ウ) 司法解剖におけるホルムアルデヒドについては、解剖体の臓器保存のため使用されており、解剖1回で15リットル程度(35%溶液)使用される。
(エ) 当該大学の司法解剖室は、全体換気装置が使用されており、建物上部から新鮮な外気を入れ、建物下部から外部へ排気している。室内は陰圧に保たれている。
(オ) ホルムアルデヒドを使用する作業をある限定されたスペースで行うことは可能ではないかと考えられる。
(カ) 臓器保管室は、全体換気装置を使用している。
(2) ヒアリングを踏まえた下記作業の評価
ア 解剖準備室等における解剖体の防腐処置等
解剖準備室等における解剖体の防腐処置、保存等の作業については、通常年間を通じてホルムアルデヒドが取扱われていること、直接ホルムアルデヒドを注入又は浸漬する作業を行っていること等から一般的には健康影響リスクは高いと考えられる。
イ 解剖実習室における実習
解剖実習室における実習については、全国の大学でのアンケート調査において、作業環境を測定した平均値は0.55ppmであり、管理濃度(及び日本産業衛生学会許容濃度(0.1ppm))と比較して高いことから、解剖実習室においてホルムアルデヒドを取り扱う作業については総じて健康影響リスクが高いと考えられる。
ウ 司法解剖
司法解剖においては、通常年間を通じてホルムアルデヒドが取扱われていること、直接ホルムアルデヒドを注入する作業を行っていること等から一般的には健康影響リスクは高いと考えられる。
(3) 整理
ア 作業環境測定等について
解剖準備室及び司法解剖室においては、通常年間を通じてホルムアルデヒドが取扱われており、法令に基づき、定期的に作業環境測定を行い、その結果に基づき作業環境改善を進めることが必要であると考えられる。
解剖実習室における作業環境測定については、通常実習期間が6か月に満たない作業であるが、毎年繰り返し行う作業であり、ホルムアルデヒドの発生が多いとされる解剖の開始時を含め定期的に測定を行い、測定結果に基づき、作業環境改善を行うことが、作業環境改善に有効であることから望ましい。
イ 作業主任者
解剖においては、事業者は作業主任者に、作業に従事する労働者等がホルムアルデヒドに汚染され、又はこれを吸入しないように、作業方法を決定させるとともに、保護具の使用状況を監視させること等が重要である。
ウ 発散抑制装置
解剖準備室、解剖実習室及び司法解剖室においては、局所排気装置等を設置し、労働者のばく露防止対策を行うことが基本であるが、特に解剖実習室においては、実習のための解剖体が25体程度と発散源が多いこと、実習の作業の特性上剖出した臓器が新たな発散源となり得ること、剖出した臓器を計測する場合や顕微鏡で観察する場合には発散源を移動させることになること等から、局所排気装置等の設置が著しく困難である場合があると考えられる。このような場合には、特化則第5条第2項のただし書きに基づき、全体換気装置の設置等が義務付けられるところである。
なお、こうした実態を踏まえ、各社より全体換気装置等を補助する装置として、排気装置付の解剖実習台や解剖実習台に付設する移動型の換気装置が開発され、各実習室の実態に応じて設備改善等が行われていることがヒアリングにより確認された。解剖準備室、解剖実習室及び司法解剖室においては、こうした発散源対策、設備対策等を総合的に行うことにより、室内を管理濃度(0.1ppm)以下とすることが必要である。
エ 解剖における全体換気装置を補助する機器の導入
今般、ホルムアルデヒドについては、解剖実習室において、局所排気装置等の設置が著しく困難な場合があることから、一部の大学では関係各社が開発した全体換気装置を補助する装置としての換気装置付の解剖実習台や解剖実習台に付設する移動型の換気装置の導入が行われている。
こうした機器については、全体換気装置等を補助し、作業環境改善を行うための対策として、ホルムアルデヒド濃度を低減するという一定の有効性は認められる。今後、機器を単独で使用した場合、管理濃度以下となるような装置の開発が期待されるところである。
なお、こうした機器として排気が作業環境中に戻されるような装置を全体換気装置を補助する目的で導入される場合には、以下のような点に留意すべきである。
○ 新たな有害物質が発生しないようにすること。
○ 検知管、ガスセンサー等により、排ガス処理のためのフィルター等の有効性を確認すること。
○ 作業環境中に戻される空気のホルムアルデヒド濃度は、少なくとも管理濃度以下とすること。
○ これらの装置を使用する際の作業方法等について、これらの装置を使用する労働者その他の関係者に周知又は情報提供を十分行うこと。
どのような場合にこうした換気装置を単独で使用することが可能であるか等については、今後継続して検討することが望まれる。
4 ホルムアルデヒド規制についての周知のあり方について
歯科医療、病理学的検査及び解剖については、それぞれ関係団体が規制の周知に重要な役割を果たすことから、こうした関係団体との協力の下、適切な周知を図ることが重要であるとともに、ホルムアルデヒド製剤を提供する者、換気装置を製造販売する者等関係会社による周知も重要である。
また、病理学的検査におけるホルムアルデヒド対策については、有害性の少ない製品への変更、組織保存室での二重包装、ホルムアルデヒドを使用する作業場を病理検査室等へ集中化すること等が効果的であるが、こうした具体的な作業改善事例等の周知については、日本病理学会等が進めており、行政としても協力していくことが望まれる。
また、解剖におけるホルムアルデヒド対策については、設備改善、作業改善等を総合的に行うことが効果的であるが、こうした具体的な作業改善事例等の周知については、社団法人日本解剖学会等が進めており、行政としても協力していくことが望まれる。
Ⅲ 委員会開催状況
「化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会」開催状況
第3回 平成20年10月27日(月)
「少量製造・取り扱いの規制等に係る小検討会」開催状況
第1回 平成20年7月22日(水)
第2回 平成20年8月6日(水)
第3回 平成20年8月28日(木)
第4回 平成20年9月11日(木)
第5回 平成20年10月8日(水)
「化学物質による労働者の健康障害防止に係るリスク評価検討会」参集者名簿
○櫻井治彦 中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター技術顧問
内山巌雄 京都大学大学院工学研究科教授
江馬眞 (独)産業技術総合研究所安全科学研究部門招聘研究員
大前和幸 慶應義塾大学医学部教授
小西淑人 (社)日本作業環境測定協会調査研究部長
清水英佑 中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター所長
名古屋俊士 早稲田大学理工学術院教授
本間健資 (社)日本作業環境測定協会研修センター所長
和田攻 産業医科大学学長
○ 座長
「少量製造・取り扱いの規制等に係る小検討会」参集者名簿
○名古屋俊士 早稲田大学理工学術院教授
圓藤陽子 (独)労働者健康福祉機構東京労災病院産業中毒センター長
大前和幸 慶應義塾大学医学部教授
唐沢正義 労働衛生コンサルタント
櫻井治彦 中央労働災害防止協会労働衛生調査分析センター技術顧問
○ 座長