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通達:訪問介護労働者の法定労働条件の確保について

 

訪問介護労働者の法定労働条件の確保について

平成16年8月27日基発第0827001号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

 

訪問介護事業においては、介護保険法(平成9年法律第123号)の施行以来事業場数が増加する中で、同事業に使用される労働者の多くが通常単独で利用者宅を訪問し介護に従事するため、使用者が労働者を直接に指揮しその勤務状況を把握する機会が限られるなどの勤務実態があること、また、事業開始後間もないため、労働基準法等関係法令に関する理解が必ずしも十分ではない事業場が少なくないことなどから、賃金、労働時間等に係る法定労働条件が適正に確保されていない状況がみられるところである。

このような状況を踏まえ、今般、訪問介護労働者に係る労働基準法等関係法令の適用について、下記のとおり取りまとめたところである。

ついては、監督指導時はもとより、関係行政機関と連携・協力の上、別途送付する周知用資料を活用して、関係事業者団体への周知、集団指導の実施等により、この内容を徹底し、訪問介護労働者の法定労働条件の確保に遺憾なきを期されたい。

 

1 定義等

(1) 本通達における訪問介護労働者の定義

本通達における訪問介護労働者とは、訪問介護事業に使用される者であって、介護保険法に定める訪問介護に従事する訪問介護員若しくは介護福祉士(以下「訪問介護員等」という。)又は、老人、障害者等の居宅において、入浴、食事等の介護やその他の日常生活上の世話を行う業務(「日本標準産業分類(平成14年3月改訂)」中の7592「訪問介護事業」参照。)に従事するものをいう。したがって、介護保険法の適用の有無にかかわらないものであること(訪問介護労働者が従事するこれらの業務を以下「訪問介護の業務」という。)。

この訪問介護の業務に従事する者の中には、委託、委任等の呼称が用いられている場合もあるが、労働者に該当するかどうかについては、使用者の指揮監督等の実態に即し総合的に判断すること。

なお、介護保険法に基づく訪問介護の業務に従事する訪問介護員等については、一般的には使用者の指揮監督の下にあること等から、労働基準法(以下「法」という。)第9条の労働者に該当するものと考えられること。

(2) 訪問介護労働者の勤務形態

訪問介護労働者については、①正社員、嘱託社員等の名称にかかわらず、当該事業場で定める所定労働時間を勤務する労働者、②短時間労働者であって、労働日及び労働日における労働時間が定型的・固定的に定まっている労働者のほか、③短時間労働者であって、月、週又は日の所定労働時間が、一定期間ごとに作成される勤務表により、非定型的に特定される労働者(以下「非定型的パートタイムヘルパー」という。)、④短時間労働者であって、急な需要が生じた場合にのみ臨時に雇入れられる労働者など、種々の勤務形態のものがみられる。

これらの中で、非定型的パートタイムヘルパーは、訪問介護労働者の多数を占めており、利用者からの訪問介護サービスの利用申込みに連動して、月、週又は日の所定労働時間が非定型的に特定されるため、労働条件の明示、労働時間の把握、休業手当の支払、賃金の算定等に関して、労働基準法等関係法令上の問題点が多くみられること。

2 訪問介護労働者の法定労働条件の確保上の問題点及びこれに関連する法令の適用

(1) 労働条件の明示

訪問介護事業においては、訪問介護労働者の雇入れ時に、労働条件の明示がなされないことやその明示内容が不十分であることなどにより、労働条件の内容を巡る問題が生じている場合も認められるところであるが、労働条件の明示に当たっては、以下の事項に特に留意する必要があること。

ア 労働契約の期間

非定型的パートタイムヘルパー等については、労働日と次の労働日との間に相当の期間が生じることがあるが、当該期間も労働契約が継続しているのかどうかを明確にするため、労働条件の明示に当たっては、労働契約の期間の定めの有無並びに期間の定めのある労働契約の場合はその期間及び労働契約を更新する場合の基準を明確に定めて書面を交付することにより明示する必要があること(法第15条第1項、労働基準法施行規則(以下「規則」という。)第5条第1項第1号及び第1号の2、同条第3項)。

なお、労働契約を更新する場合においては、その都度改めて労働条件を明示する必要があること。

イ 就業の場所及び従事すべき業務等

明示しなければならない労働条件のうち、就業の場所及び従事すべき業務(規則第5条第1項第1号の3)、労働日並びにその始業及び終業の時刻、休憩時間(同項第2号。以下「労働日及びその勤務時間帯」という。)については、これが月ごと等の勤務表により特定される場合には、勤務の種類ごとのこれらに関する考え方を示した上で、当該労働者に適用される就業規則上の関係条項名を網羅的に示し、契約締結時点での勤務表を示すことで足りること。

(2) 労働時間及びその把握

訪問介護事業においては、非定型的パートタイムヘルパー等が訪問介護の業務に直接従事する時間以外の時間を労働時間としていないものが認められるところであるが、訪問介護労働者の移動時間や業務報告書等の作成時間などについて、以下のアからエにより労働時間に該当する場合には、適正にこれを把握する必要があること(法第32条)。

ア 移動時間

移動時間とは、事業場、集合場所、利用者宅の相互間を移動する時間をいい、この移動時間については、使用者が、業務に従事するために必要な移動を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。

具体的には、使用者の指揮監督の実態により判断するものであり、例えば、訪問介護の業務に従事するため、事業場から利用者宅への移動に要した時間や一の利用者宅から次の利用者宅への移動時間であって、その時間が通常の移動に要する時間程度である場合には労働時間に該当するものと考えられること。

イ 業務報告書等の作成時間

業務報告書等を作成する時間については、その作成が介護保険制度や業務規定等により業務上義務付けられているものであって、使用者の指揮監督に基づき、事業場や利用者宅等において作成している場合には、労働時間に該当するものであること。

ウ 待機時間

待機時間については、使用者が急な需要等に対応するため事業場等において待機を命じ、当該時間の自由利用が労働者に保障されていないと認められる場合には、労働時間に該当するものであること。

エ 研修時間

研修時間については、使用者の明示的な指示に基づいて行われる場合は、労働時間であること。また、研修を受講しないことに対する就業規則上の制裁等の不利益な取扱いがある場合や研修内容と業務との関連性が強く、それに参加しないことにより、本人の業務に具体的に支障が生ずるなど実質的に使用者から出席の強制があると認められる場合などは、たとえ使用者の明示的な指示がなくとも労働時間に該当するものであること。

(3) 休業手当

訪問介護事業においては、利用者からの利用申込みの撤回を理由として労働者を休業させた場合に、休業手当を支払っていないものが認められるところであるが、労働日及びその勤務時間帯が、月ごと等の勤務表により訪問介護労働者に示され、特定された後、労働者が労働契約に従って労働の用意をなし、労働の意思を持っているにもかかわらず、使用者が労働日の全部又は一部を休業させ、これが使用者の責めに帰すべき事由によるものである場合には、使用者は休業手当としてその平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならないこと(法第26条)。

したがって、利用者からの利用申込みの撤回、利用時間帯の変更を理由として労働者を休業させる場合には、例えば、他の利用者宅での勤務の可能性について然るべき検討を十分に行ったかどうか等当該労働者に代替業務を行わせる可能性等を含めて判断し、使用者として行うべき最善の努力を尽くしたと認められない場合には、使用者の責に帰すべき事由があるものとして休業手当の支払が必要となること。

ただし、利用者からの利用申込みの撤回、利用時間帯の変更の要請に対し、使用者が当該労働者に対し他の利用者宅で勤務させる等代替業務の提供を行った場合、あるいは、就業規則の規定に基づく始業・終業時刻の繰上げ、繰下げによる勤務時間帯の変更や休日の振替による労働日の変更を行い他の利用者宅で勤務させる等必要な業務の提供を行った場合には、休業手当の支払は必要ないこと。

なお、1日の労働日の一部のみ、使用者の責めに帰すべき事由により休業させた場合についても、現実に就労した時間に対して支払われる賃金が1日分の平均賃金の100分の60に満たないときは、その差額を支払わなければならないこと。

(4) 賃金の算定

ア 訪問介護事業においては、訪問介護の業務に直接従事する時間以外の労働時間である移動時間等について、賃金支払の対象としているのかどうかが判然としないものが認められるところであるが、賃金はいかなる労働時間についても支払われなければならないものであるので、労働時間に応じた賃金の算定を行う場合は、訪問介護の業務に直接従事する時間のみならず、上記(2)の労働時間を通算した時間数に応じた賃金の算定を行うこと。

イ 訪問介護の業務に直接従事する時間と、それ以外の業務に従事する時間の賃金水準については、最低賃金額を下回らない範囲で、労使の話合いにより決定されるべきものであること。

賃金が最低賃金額以上となっているかどうかは、

① 時間によって定められた賃金(以下「時間給」という。)の場合は、当該時間給を時間によって定められた最低賃金額(時間額)と、

② 日、週、月によって定められた賃金の場合は、その金額を当該期間における所定労働時間数で除した当該時間当たりの金額を時間によって定められた最低賃金額(時間額)と、

比較することにより判断するものであること(最低賃金法第4条、最低賃金法施行規則第2条)。

なお、労働者の受ける賃金について、基本給が時間給により、その他職務手当等が月によって定められた賃金により定められているなど、上記①及び②の賃金で構成される場合には、当該基本給と職務手当等についてそれぞれ①及び②の方法により時間当たりの金額を算出し、その合計額を、時間によって定められた最低賃金額(時間額)と比較すること。

ウ 訪問介護労働者は、利用者宅に移動することを前提に訪問介護の業務に従事するものであり、通常その移動に要する費用については、事業の必要経費との性格を有し、事業場が実費弁償として支給している旅費、交通費等は、一般的には労働の対償ではないことから賃金とは認められないので、最低賃金額との比較に当たっては、比較対象の賃金額には算入しないこと。

(5) 年次有給休暇の付与

訪問介護事業においては、年次有給休暇について、短期間の契約期間が更新され6箇月以上に及んでいる場合であっても、例えば、労働契約が1箇月ごとの更新であることを理由に付与しない例が認められるところであるが、雇入れの日から起算して6箇月間継続勤務し、全労働日の8割以上出勤している場合には、法に定めるところにより年次有給休暇を付与する必要があること(法第39条)。なお、年次有給休暇の付与要件である「継続勤務」とは、在籍期間を意味し、継続勤務かどうかについては、単に形式的にのみ判断すべきものでなく、勤務の実態に即し実質的に判断すべきものであること。

また、非定型的パートタイムヘルパー等について、年次有給休暇が比例付与される日数は、原則として基準日において予定されている今後1年間の所定労働日数に応じた日数であるが、予定されている所定労働日数を算出し難い場合には、基準日直前の実績を考慮して所定労働日数を算出することとして差し支えないこと。したがって、例えば、雇入れの日から起算して6箇月経過後に付与される年次有給休暇の日数については、過去6箇月の労働日数の実績を2倍したものを「1年間の所定労働日数」とみなして判断することで差し支えないこと。

(6) 就業規則の作成及び周知

使用者の中には、短時間労働者である訪問介護労働者については、就業規則の作成要件である「常時10人以上の労働者」には含まれないと誤解をしているものが認められるが、短時間労働者であっても「常時10人以上の労働者」に含まれるものであること(法第89条)。

また、就業規則については、常時事業場内の各作業場ごとに掲示し、又は備え付ける等の方法により労働者に周知する必要があること(法第106条第1項)。なお、事業場等に赴く機会の少ない非定型的パートタイムヘルパー等への周知については、書面を交付することによる方法を講ずることが望ましいこと(規則第52条の2第2号参照)。

(7) 労働者名簿及び賃金台帳の調製及び保存

訪問介護事業においては、訪問介護労働者の労務管理を適切に行うため、各事業場ごとに労働者名簿を調製し、労働者の氏名、雇入の年月日、退職の年月日及びその事由等を記入するとともに(法第107条、規則第53条)、賃金台帳を調製し、労働者の氏名、賃金計算期間、労働日数、労働時間数、時間外労働時間数、基本給、手当その他賃金の種類毎にその額等を賃金の支払の都度遅滞なく記入する必要があること(法第108条、規則第54条)。

なお、訪問介護労働者に係る労働時間数等について、当該労働者が作成する業務報告書等により把握している場合は、使用者は、労働時間の実態を正しく記録し、適正に報告を行うことについて、当該労働者に対し十分な説明を行うこと。

また、労働者名簿及び賃金台帳については、労働関係に関する重要な書類であるので、労働者名簿については労働者の退職等の日から、賃金台帳については最後の記入をした日から、それぞれ3年間保存する必要があること(法第109条、規則第56条)。