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雇用対策法の施行について
昭和41年7月20日発職第131号
(各都道府県知事あて労働事務次官通達)
「雇用対策法(昭和四一年法律第一三二号)」(別添一以下「法」という。)は、七月二一日公布され、第二一条(大量の雇用変動の場合の届出等)の規定を除き、同日から施行されることとなる。また、これに伴い、「雇用対策法施行令(昭和四一年政令第二六二号)」(別添二)及び「予算決算及び会計令臨時特例及び失業保険特別会計法施行令の一部を改正する政令(昭和四一年政令第二六三号)」(別添三)並びに「雇用対策法施行規則(昭和四一年労働省令第二三号)」(別添四)及び「職業安定法施行規則等の一部を改正する省令」(昭和四一年労働省令第二四号)」(別添五)も同日公布施行される。
今後の労働市場においては、本春を頂点として新規学校卒業者を中心とする若年労働力が急激に減少し、また、その学歴構成が高度化する一方、平均寿命の伸長による人口構成の高齢化が進み、技術革新の進展、生産工程の変化等が見込まれるところであり、これらの結果、技能労働者等生産部門に従事する労働者の不足が一層激化することとなる反面、中高年齢者等の再就職問題等が懸念される。したがつて、放置すればわが国経済が人手不足基調へ移行する過程において年齢、職種、産業等によつて労働力需給の不均衡が顕著になる公算が大きいことにかんがみ、本法は、労働者が安定した職場でその能力を有効に発揮することができる条件及び態勢を整備し、労働者の経済的社会的地位の向上を図るとともに、国民経済の均衡ある発展と完全雇用の達成とに資することを目的として制定されたものである。
本法は、雇用政策と経済政策との連携強化を図る等雇用政策を国政全般の中に位置づけるとともに、これを今後積極的に展開するための基盤となるものであつて、わが国の雇用法制上画期的な意義をもつものである。したがつて、本法の理念に基づく雇用対策の推進については、関係方面から多大の関心と期待が寄せられており、その実施にあたる者の責務は極めて大であるから、下記の事項を御理解のうえ、職業紹介、職業訓練、職業転換給付金等に関する業務の運営にあたつては、本法の趣旨が十分生かされるよう配慮する等その施行に万全を期せられたく、命により通達する。
記
第一 法の基本的な考え
一 目的(法第一条関係)
本法は、国が、雇用に関し、その政策全般にわたり、必要な施策を総合的に講ずることにより、労働力の需給が質量両面にわたり均衡することを促進して、労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、これを通じて、労働者の職業の安定と経済的社会的地位の向上とを図るとともに、国民経済の均衡ある発展と完全雇用の達成とに資することを目的とするものであること。なお、本法の運用にあたつては、労働者の職業選択の自由及び事業主の雇用の管理についての自主性を尊重することはもとより、国が進んで、技能を習得し、職業を通じて自立しようとする労働者の意欲をたかめ、かつ、労働者の職業を安定させるための事業主の努力を助長するように努めなければならないものであること。
二 国の施策(法第三条関係)
(一) 国は、前記一の目的を達成するため、職業指導及び職業紹介の事業、技能に関する訓練及び検定の事業、労働者の福祉の増進に必要な施設、労働者の職業の転換、地域間の移動、職場への適応等を援助するために必要な措置、雇用形態の改善等を促進するために必要な施策その他労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするために必要な施策を充実するものとし、かつ、これらの施策を総合的に講じなければならないものとしたこと。
(二) さらに、これらの施策及びこれに関連する施策を講ずるに際しては、国民経済の健全な発展、それに即応する企業経営の基盤の改善、国土の均衡ある開発等の諸施策と相まつて、雇用機会の着実な増大及び地域間における就業機会等の不均衡の是正を図るとともに、労働者がその有する能力を有効に発揮することの妨げとなつている雇用慣行の是正を期するように配慮しなければならないことを宣明したところであること。
第二 雇用対策基本計画
雇用対策基本計画の策定等(法第四条関係)
国は雇用対策基本計画を策定しなければならないものとし、その中で、雇用の動向を明らかにするとともに、前記第一の二(一)の諸施策の基本となるべき事項を定めるものとしたこと。この場合に、職種、技能の程度その他労働力の質的側面を十分考慮しなければならず、かつ、特定の職種、中小規模の事業等に関して特別の配慮を加えることができるものとしたこと。
また、雇用対策基本計画の策定にあたつては、労働大臣が、ひろく関係行政機関の長と緊密な連携を保つてその案を作成し、雇用審議会の意見を聞き、かつ、都道府県が策定する開発計画等との関連を十分配慮すべく都道府県知事の意見を求めたうえ、閣議決定しなければならないものとしたこと。
第三 職業指導及び職業紹介
職業安定法等と相まつて、労働者がその有する能力に適合する職業につくことができるようにし、また、企業がその必要とする人材の確保ができるようにするため、雇用に関する諸情報の提供とこれに基づく指導、援助を充実するものとしたこと。
職業紹介機関(法第二条参照)は、労働大臣が収集、整理する労働力の需給の状況、求人、求職の条件その他の雇用情報及び労働大臣が行なう職業の現況及び動向、職業に関する適性、適応性の増大等職業に関する基礎的事項についての調査研究の成果等を提供して、求職者に対しては、その適性、能力、経験、技能の程度等にふさわしい職業を選択することができるよう(法第八条)、また、求人者に対してはその作業又は職務に適合する労働者を雇い入れることができるよう必要な指導、援助に努めなければならないものであること(法第四条及び第一〇条)。
第四 技能労働者の養成確保等(法第四章関係)
国は、職業訓練法等と相まつて、若年層の能力の開発向上及び中高年齢層の職業への適応性の増進を図るため、及び技能を軽視しがちな雇用慣行を改善し、労働者の技能の向上と技能労働者の地位の改善とを図り、能力を中心とする労働市場の形成を促進するため、職業訓練制度及び技能検定制度を充実するための施策を積極的に講ずるものとしたこと。
第五 職業転換給付金
労働者の求職活動、技能の習得、地域間の移動等を容易にさせるための給付金制度については、従来、職業安定法の規定若しくは予算措置により都道府県の業務として、又は雇用促進事業団法による同事業団の業務として行なわれてきたものを整備し、さらに今後の雇用情勢に即応して給付の種類を増し、その対象範囲を飛躍的に拡大するとともに、職業指導、職業紹介、職業訓練等と表裏一体をなしつつ効果的かつ機動的な運用が期せられるよう体系化したものである。
一 職業転換給付金の支給(法第一三条並びに雇用対策法施行令第一条及び第二条関係)
職業転換給付金のうち、法第一三条第一号(就職指導手当)、第三号(広域求職活動費)、第四号(移転資金)及び第六号(帰省旅費)の給付金については、国がその支給を行なうこととし、同条第二号(訓練手当と特定職種訓練受講奨励金)及び第五号(職場適応訓練費)の給付金については、都道府県がその支給を行なうこととしたこと。
職業転換給付金制度が創設されることに伴い、従来の職業安定法第二九条の規定に基づき国が支給してきた手当については法第一三条第一号の就職指導手当として、また、同法第二九条、職業訓練法第一一条第二項及び身体障害者雇用促進法第八条第二項の規定に基づき都道府県が支給してきた手当については法第一三条第二号の訓練手当として支給するものとしたこと。
また、従来、雇用促進事業団の業務として行なわれてきた公共職業訓練を受ける者に対する手当及び移転して就職する者に対する移転に要する費用の支給の業務は、駐留軍関係離職者等臨時措置法第一八条第一項及び炭鉱離職者臨時措置法第二三条第一項の規定に基づいて駐留軍関係離職者及び炭鉱離職者に対する援護業務として行なわれるものを除き、廃止したこと。
二 支給基準等(法第一四条及び雇用対策法施行規則関係)
(一) 職業転換給付金の支給に関し必要な基準は、労働省令で定めるものとし、当該基準は雇用対策法施行規則で定められているところであり、さらにその運用の細則については別途通達するから、業務の運営に遺憾のないようにせられたい。
(二) 雇用対策法施行規則第二条第二項第五号の労働大臣が定める不況産業とはさしあたり石炭鉱業とし、同条第四項の労働大臣が定める職種は、製かん工、金属プレス工、めつき工及び配管工とするよう定めるものであること。
三 国の負担(法第一五条及び雇用対策法施行令第三条関係)
国は、都道府県が訓練手当及び特定職種訓練受講奨励金並びに職場適応訓練費を雇用対策法施行規則で定める支給基準に則り給付する場合には、労働大臣により別途定められる算定基準に従い、訓練手当及び特定職種訓練受講奨励金については当該給付金に要する費用の三分の二、職場適応訓練費については当該給付金に要する費用の二分の一を負担するものとしたこと。
四 その他
(一) 失業保険の受給資格者には、職業転換給付金制度の発足に伴い、職業転換給付金に相当する給付を失業保険福祉施設による給付金として支給するものとし、特定職種訓練受講奨励給付金、広域求職活動給付金及び帰省給付金を新設するものとしたこと。
(二) 職業転換給付金(事業主に対して支給するものを除く。)については、譲渡等の禁止(法第一六条)及び公課の禁止(法第一七条)を規定し、その支給を受ける権利の保護を図るものとしたこと。
(三) 職業転換給付金のうち国が行なう給付に要する資金については、その資金を主任の職員に前渡することができるものとし(予算決算及び会計令臨時特例第一条第一項第五号)、これに伴い「労働省所管会計事務取扱規程の一部を改正する訓令(昭和四一年労働省訓令第九号)」が別添六のとおり定められること。また、失業保険の福祉施設給付金に関する資金も前渡することができることとしたこと(失業保険特別会計法施行令第六条第一項)。
第六 中高年齢者等の雇用の促進(法第六章、職業安定法第三章の二及び職業安定法施行令第五条関係)
中高年齢者又は身体障害者の雇用を促進するため、国が、別に法律で定めるところにより、雇用率を定め、これが達成されるよう必要な施策を講ずるものとし、これと並んでこれらの者の適職を選定してこれを公表するとともに、その就職の促進に努め、また、事業主その他の関係者に対し、その雇入れを容易にするための援助を行なうものとしたこと(法第一九条及び第二〇条)。
雇用率に関しては、従来より身体障害者については身体障害者雇用促進法に必要な規定を設け、その増進を図つてきているところであるが、今回職業安定法の一部を改正し、三五歳以上の者(職業安定法施行令第五条第一項及び職業安定法施行規則第三二条の二)についても、事業主は、労働大臣が適職に応じて定める雇用率を達成するようその雇入れに努めなければならないものとし、また、労働大臣又は公共職業安定所の長が常時一〇〇人以上の労働者を使用する事業所であつて中高年齢者の雇用に著しい困難を伴わないものに対し、雇用率の達成のために必要な措置をとることを要請することができるものとしたこと(職業安定法第四七条の二及び第四七条の三並びに職業安定法施行規則第三二条の三)。
第七 職業安定法の一部改正
一 職業紹介等の基準(職業安定法第一五条の二関係)
労働大臣は、身体に障害のある者、あらたに職業につこうとする者、中高年齢の失業者その他職業につくことについて特別の配慮を必要とする者に対して行なわれる職業紹介及び職業指導の実施に関し必要な基準を定めることができるものとしたこと。なお、本基準については、おつて定め通達する。
二 学校の行なう無料職業紹介事業の業務の執行の基準(職業安定法第三三条の二第四項関係)
学校教育法第一条の規定による学校の長が労働大臣に届け出て行なう無料の職業紹介事業の業務の執行に関し、労働大臣は文部大臣と協議して、当該業務の執行に関する基準を定めることができるものとしたこと。なお、本基準についてもおつて定め通達する。
三 労働者の募集の制限(職業安定法第三八条及び職業安定法施行規則第三〇条関係)
労働者の募集の制限を行なう行政機関として労働大臣を加えるとともに、従来制限しうる通勤圏外の文書募集のほか、通勤圏内の文書募集及び直接募集についても制限しうるよう改めたこと。
第八 炭鉱離職者臨時措置法の一部改正
一 炭鉱離職者求職手帳の発給(炭鉱離職者臨時措置法第九条の二並びに炭鉱離職者臨時措置法施行規則第二条の二及び第二条の三関係)
石炭鉱業の合理化に伴う炭鉱離職者が、他産業の安定した職業につくことなく、かつ、当該離職から相当期間を経過して労働者となり、重ねて炭鉱の合理化に伴い離職した場合等にも炭鉱離職者求職手帳を発給することができることとしたこと。
二 炭鉱離職者求職手帳の失効(炭鉱離職者臨時措置法第一一条第一項関係)
前記一に該当する者の炭鉱離職者求職手帳は、同法第八条の離職の日の翌日から起算して、三年に炭鉱に再雇用された期間を加えた期間を経過した日にその効力を失うものとしたこと。
三 就職促進手当の日額(炭鉱離職者臨時措置法第一七条第一項関係)
前記に該当する者の就職促進手当の日額の計算は、その者が炭鉱に再雇用された期間が一年を超えるときは、当該炭鉱からの離職の日前一年の賃金日額を基礎とするものとしたこと。
第九 雇用促進事業団法の一部改正
通年雇用融資(雇用促進事業団法第一九条第三項第二号及び雇用促進事業団法施行令第六条関係)
建設業その他事業の実施が季節の制約を受ける業種であつて政令で定めるものにおける労働者が年間を通じて雇用されることを促進するため、事業主に対し、これに必要な設備の設置又は整備に要する資金の貸付けを行なう業務を雇用促進事業団の業務に追加するものとしたこと。
なお、事業の実施が季節的制約を受ける業種として、政令で建設業を指定していること。
第一〇 その他
上記のほか、大量の雇用量の変動についての事業主の届出業務について規定したが(法第二一条)、事業主に対する周知等に必要な期間を考慮して、本法公布の日から起算して六月を経過した日から施行するものとし、必要な手続等は、おつて雇用対策法施行規則に挿入するものとしたこと。
また、本法の附則において職業訓練法、労働省設置法等について所要の整備を行なつたこと。
別添一~五(略)