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告示:医師の労働時間短縮等に関する指針

 

医師の労働時間短縮等に関する指針

令和四年一月十九日厚生労働省告示第七号

 

医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第百五条の規定に基づき医師の労働時間短縮等に関する指針を次のように定め、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(令和三年法律第四十九号)附則第一条第四号に掲げる規定の施行の日(令和四年二月一日)から適用する。

 

医師の労働時間短縮等に関する指針

本指針は、医師の労働時間短縮等に関する基本的な考え方、医師の時間外労働短縮目標ライン及び各関係者が取り組むべき事項等を示すものである。

第1 基本的な考え方

医師の働き方改革を進めるに当たっては、我が国の医療は医師の自己犠牲的な長時間労働により支えられており、危機的な状況にあるという現状認識を関係者間で共有することが必要である。長時間労働を解消し、医師の健康を確保することは、医師本人にとってはもとより、医療の質や安全を確保することにつながり、今後も良質かつ適切な医療を提供する体制を維持していく上での喫緊の課題である。

同時に、医師の働き方改革については、医師の偏在の解消を含む地域における医療提供体制(医療法

昭和23年法律第205号)第30条の3第1項に規定する医療提供体制をいう。以下同じ。)の改革と一体的に進めなければ、医師の長時間労働の本質的な解消を図ることはできない。

このため、国及び地方公共団体、医療機関、医療従事者並びに医療の受け手である国民その他の全ての関係者が一丸となって、改革を進めるために不断の取組を重ねていく必要がある。

 

第2 医師の時間外労働短縮目標ライン

国は、令和17年度末を目途に、良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律(令和3年法律第49号。以下「改正法」という。)第3条の規定による改正後の医療法(以下「新医療法」という。)第113条第1項に規定する特定地域医療提供機関において同項に規定する業務に従事する医師及び連携型特定地域医療提供機関(新医療法第118条第1項に規定する連携型特定地域医療提供機関をいう。以下この第2において同じ。)から他の病院又は診療所に派遣される医師(新医療法第118条第1項に規定する派遣に係るものに限る。以下この第2において同じ。)に適用される労働基準法(昭和22年法律第49号)に基づく時間外・休日労働時間の上限時間数の水準(以下「地域医療確保暫定特例水準」という。)を解消するために、「全ての地域医療確保暫定特例水準が適用される医師が到達することを目指すべき年間の時間外・休日労働時間の上限時間数の目標値」として医師の時間外労働短縮目標ライン(以下「短縮目標ライン」という。)を設定する。

短縮目標ラインは、、各医療機関が着実に対象となる医師の労働時間を短縮することができるよう、令和17年度末に年間の時間外・休日労働時間数が960時間以下となることを目指し、3年ごとの段階的な目標値を設定することとし、令和6年4月時点における年間の時間外・休日労働時間数に応じて別表のとおり設定する。

地域医療確保暫定特例水準の対象となる医療機関が労働時間短縮計画(新医療法第113条第2項(新医療法第118条第2項において準用する場合を含む。)に規定する労働時間短縮計画をいう。以下同じ。)において設定することとされている時間外・休日労働時間の上限時間数の目標は、この短縮目標ラインを目安に、各医療機関において設定し、労働時間短縮計画に基づく労働時間の短縮を行うものとする。

各医療機関は、それぞれの状況に応じ、できる限り、令和17年度末よりも早い段階で、年間の時間外・休日労働時間を960時間以下とする目標を達成できるよう取り組むことが望ましく、また、当該目標を達成した医療機関については、さらなる勤務環境の改善に取り組むことが望ましい。また、国は、地域医療確保暫定特例水準について、段階的な見直しの検討を行いつつ、労働基準法に基づく時間外・休日労働時間の上限時間数の必要な引下げを実施するとともに、短縮目標ラインについても、3年ごとに見直しを検討することとする。

なお、地域医療確保暫定特例水準の引下げは、短縮目標ラインとは別途見直しの検討を行い、また、連携型特定地域医療提供機関から他の病院又は診療所に派遣される医師に適用される時間外・休日労働時間の上限時間数の水準については、地域の医療提供体制確保の観点から、特に丁寧に実態を踏まえて検討を行うこととする。

 

第3 各関係者が取り組むべき推奨事項等

医師の労働時間の短縮のためには、個々の医療機関における取組だけではなく、地域の医療提供体制確保の観点からの都道府県における取組や、国も含めた関係機関における取組・支援のほか、国民の医療のかかり方など、様々な立場からの取組が不可欠である。

このため、次に掲げる主体の区分に応じて、それぞれ次に定める事項に取り組むこととする。

1 国及び都道府県に求められる事項

(1) 国に求められる地域における医療提供体制改革と一体となった医師の働き方改革の推進に関する事項

イ 国は、都道府県と緊密に連携し、医師の働き方改革を、地域における医療提供体制の機能分化・連携、医師偏在対策と一体的に推進し、地域医療確保暫定特例水準の終了年限の目標である令和17年度末に向けて、どの地域にあっても、切れ目のない医療を安心して受けられる体制の構築に取り組むこと。

ロ 国は、医師偏在対策を含む地域における医療提供体制改革の進捗状況や、時間外・休日労働の上限時間規制の適用による地域医療への影響を踏まえて、医師の働き方改革の取組状況を検証すること。

ハ 国は、医師の働き方改革について、医師を始めとした医療関係者の理解の醸成に努めるとともに、各医療機関において、雇用する医師の適切な労務管理や健康確保のための取組が実施されるよう、医療機関に対し必要な支援を行うこと。

(2) 都道府県に求められる国民の適切な医療のかかり方につながるような評価結果の公表に関する事項

都道府県は、各医療機関の労働時間短縮に向けた取組状況等について、改正法第2条の規定による改正後の医療法第107条第1項に規定する医療機関勤務環境評価センターが行った評価の結果を公表するに当たっては、国民の適切な医療のかかり方につながるよう、当該医療機関勤務環境評価センタの所見とともに、地域における医療提供体制の全体像や各医療機関の役割等を公表し、より多面的な視点での情報公開を行うこと。

(3) 国及び都道府県に求められる各都道府県における地域医療確保暫定特例水準及び集中的技能向上水準の運用に関する事項

イ 国は、、各都道府県における地域医療確保暫定特例水準並びに新医療法第119条第1項に規定する技能向上集中研修機関において同項に規定する業務に従事する医師及び特定高度技能研修機関(新医療法第120条第1項に規定する特定高度技能研修機関をいう。3の(6)において同じ。)において新医療法第120条第1項に規定する業務に従事する医師に適用される労働基準法に基づく時間外・休日労働時間の上限時間数の水準(以下「集中的技能向上水準」という。)の運用状況(特定労務管理対象機関(新医療法第122条第1項に規定する特定労務管理対象機関をいう。以下同じ。)の指定や評価の状況を含む。)について情報収集を行い、必要に応じて、地方自治法(昭和22年法律第67号)第245条の4第1項の規定により、都道府県に対し技術的助言等を行うとともに、各都道府県における着実な医師の働き方改革の推進に資するよう、必要な情報の横展開等を行うこと。

ロ 都道府県は、地域医療確保暫定特例水準及び集中的技能向上水準の適切な運用を通じて、各都道府県における着実な医師の働き方改革の推進に取り組むこと。

ハ 都道府県知事、保健所を設置する市の市長又は特別区の区長は、面接指導(新医療法第108条第1項の面接指導をいう。3の(3)のイにおいて同じ。)、同条第5項及び第6項の規定による措置並びに新医療法第123条第1項本文及び第2項後段の規定による休息時間の確保(以下「追加的健康確保措置」と総称する。)の履行確保のため、医療法第25条第1項の規定に基づく立入検査において、医療機関における追加的健康確保措置の実施状況の確認を行い、医療機関に対し必要な助言・指導を行うこと。

2 地域の医療関係者に対する推奨事項

地域の医療関係者は、個々の医療機関においては解消できない、地域における構造的な医師の長時間労働の要因に対し、医療法第30条の14第1項に規定する協議の場(地域医療構想調整会議)、同法第30条の18の2第1項に規定する協議の場(地域の外来医療に関する協議の場)又は同法第30条の23第1項に規定する地域医療対策協議会における協議等を通じて、地域の医療機関の役割分担や夜間及び休日における救急対応の輪番制の構築等、地域における医療提供体制における機能分化・連携を推進し、地域全体で医師の働き方改革に取り組むことが推奨される。

3 医療機関に対する推奨事項

医療機関は、次の事項に取り組むことが推奨される。

(1) 適切な労務管理の実施等に関する事項

イ 医療機関は、、雇用する医師の適切な労務管理を実施することが求められるとともに、自院における医師の働き方改革の取組内容について院内に周知を図る等、医療機関を挙げて改革に取り組む環境を整備すること。

ロ 特定労務管理対象機関の指定を受けた医療機関においては、労働基準法第36条第1項の協定で定める時間外・休日労働時間の上限時間数について、当該医療機関における地域医療確保暫定特例水準又は集中的技能向上水準の対象となる業務に必要とされる時間数であることを合理的に説明可能な時間数を設定するとともに、当該医療機関の労働時間短縮の取組実績に応じて上限時間数の引下げを行うこと。

(2) タスク・シフト/シェアの実施等に関する事項

各医療機関の実情に合わせ、、各医療専門職種の職能を活かして良質かつ適切な医療を効率的に提供するためにタスク・シフト/シェアに取り組み、当該取り組みを推進するために研修や説明会の開催等の方策を講ずること。

(3) 医師の健康確保に関する事項

イ 医療機関の管理者は、面接指導において、新医療法第108条第1項に規定する面接指導実施医師が何らかの措置が必要と判定・報告を行った場合には、その判定・報告を最大限尊重し、同条第5項に規定する面接指導対象医師の健康確保のため必要な措置を講じること。

ロ 特定労務管理対象機関の管理者は、医師の副業・兼業先の労働時間を把握する仕組みを設け、副業・兼業先の労働時間も考慮して新医療法第123条第1項本文の休息時間(ハにおいて「勤務間インタバル」という。)を確保できるような勤務計画を作成すること。

ハ 副業・兼業先との間の往復の移動時間は、各職場に向かう通勤時間であり、通常、労働時間に該当しないが、遠距離の自動車の運転を行う場合のように休息がとれないことも想定されることから、別に休息の時間を確保するため、特定労務管理対象機関の管理者は、十分な勤務間インターバルが確保できるような勤務計画を作成すること。

ニ 特定労務管理対象機関の管理者は災害時等の場合において、新医療法第123条第4項の規定により新医療法第123条第1項本文及び第2項後段の規定による休息時間の確保を行わないことができるとされた場合であっても、休息時間の確保が可能となり次第速やかに、十分な休息を付与すること。

(4) 各診療科において取り組むべき事項

イ 各診療科の長等は、各診療科の医師の労働時間が所定労働時間内に収まるよう、管理責任を自覚し、必要に応じ、業務内容を見直すこと。

ロ 特にタスク・シフト/シェアの観点から業務を見直し、医師以外の医療専門職種等と協議の場を持ち、効率的な業務遂行に向けた取組を計画し、実行すること。

(5) 労働時間短縮計画のPDCAサイクルにおける具体的な取組に関する事項

イ 医師を含む各医療専門職種が参加しながら、年1回のPDCAサイクルで、当該医療機関に勤務する医師の労働時間の状況の分析、労働時間短縮計画の作成及び取組状況の自己評価を行うこと。

ロ 労働時間短縮計画については、対象となる医師に対して、時間外・休日労働時間の上限時間数及び同計画の内容について十分な説明を行い、意見聴取等により十分な納得を得た上で作成すること。

ハ 各医療機関の状況に応じ、当該医療機関に勤務する医師のうち、労働基準法に基づく時間外・休日労働時間の上限時間数が年960時間以下の水準が適用される医師についても労働時間短縮計画を自主的に作成し、同計画に基づいて取組を進めること。

(6) 技能研修計画に関する医療機関内における相談体制の構築(特定高度技能研修機関関係)

良質かつ適切な医療を効率的に提供する体制の確保を推進するための医療法等の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令(令和四年厚生労働省令第七号)第2条の規定による改正後の医療法施行規則(昭和23年厚生省令第50号)第101条第1項の高度な技能を習得するための研修に関する計画(技能研修計画)と当該技能を修得するための研修の実態が乖離するような場合に対応できるよう、医療機関内において、医師からの相談に対応できる体制を構築すること。

4 医師に対する推奨事項

医師は、医師自身の働き方改革に関して次の事項に取り組むことが推奨される。

(1) 医師は、長時間労働による疲労蓄積や睡眠負債が、提供する医療の質や安全性の低下につながることを踏まえ、自らの健康を確保することが、自身にとっても、また、医療機関全体としてより良質かつ適切な医療を提供する上でも重要であることを自覚し、その認識の下に自らの業務内容や業務体制の見直し等を行い、働き方改革に自主的に取り組むこと。

(2) 副業・兼業を行うに当たっては、自己の労働時間や健康状態の把握・管理に努め、副業・兼業先の労働時間を主たる勤務先に適切に自己申告すること。

5 国民に対する推奨事項

医師の働き方改革を進め、医師の健康を確保することは、医師によって提供される医療の質や安全を確保することにつながり、国民にとっても重要な問題であることから、国民は、医療のかかり方に関して次の事項に取り組むことが推奨される。

(1) 医師の働き方改革は、医療提供者だけで完結するものではなく、国民の医療のかかり方に関する理解が不可欠であり、国民は、自らの医療のかかり方を見直すこと。

(2) 具体的には、かかりつけの医療機関を持つ、子ども医療電話相談事業(♯8000)や救急安心センタ事業(♯7119)等の電話相談を利用し、夜間・休日の不急の受診を控える、救急車の適切な利用を心がける等の取組を行うこと。

 

別表(第2関係)

  短縮目標ライン
令和9年の時間外・休日労働時間数 t-(t-960)/4 時間以下
令和12年の時間外・休日労働時間数 t-2 ×(t-960)/4 時間以下
令和15年の時間外・休日労働時間数 t-3 ×(t-960)/4  時間以下
令和18年の時間外・休日労働時間数 960 時間以下

備考

この表における算定式中tは令和6年4月時点における年間の時間外・休日労働時間数とする。