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労働基準法第三十八条の四第一項の規定により同項第一号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針
制 定 平成十一年十二月二十七日労働省告示第百四十九号
改 正 令和五年三月三十日厚生労働省告示第百十五号
労働基準法(昭和二十二年法律第四十九号)第三十八条の四第三項の規定に基づき、及び同法を実施するため、同条第一項の規定により同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針を次のように定め、平成十二年四月一日から適用する。
労働基準法第三十八条の四第一項の規定により同項第一号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針
第1 趣旨
この指針は、労働基準法(以下「法」という。)第38条の4第1項の規定により同項第1号に規定する対象業務(以下「対象業務」という。)に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るため、同項に規定する委員会(以下「労使委員会」という。)が決議する同項各号に掲げる事項その他同条の規定について具体的に明らかにする必要があると認められる事項を規定するとともに、対象業務に従事する労働者については同項第3号に掲げる時間労働したものとみなす法の制度(以下「企画業務型裁量労働制」という。)の実施に関し、同項の事業運営上の重要な決定が行われる事業場の使用者及び当該事業場の労働者等並びに労使委員会の委員が留意すべき事項を定めたものである。
第2 法第38条の4第1項の事業運営上の重要な決定が行われる事業場
1 当該事業場に関し具体的に明らかにする事項
法第38条の4第1項の事業運営上の重要な決定が行われる事業場(以下「対象事業場」という。)とは、当該事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われる事業場をいい、具体的には、次に掲げるものが該当する。
(1) 本社・本店である事業場
(2) (1)に掲げる事業場以外の事業場のうち、当該事業場の属する企業等に係る事業運営上の重要な決定を行う権限を分掌する事業本部又は地域本社、地域を統轄する支社・支店等である事業場等本社・本店に準ずるもの
2 留意事項
(1) 使用者は、本社・本店である事業場以外の事業場(以下「非本社事業場」という。)が1(2)に該当するか否か判断するに当たっては、当該非本社事業場に、当該非本社事業場の属する企業等に係る事業の運営に大きな影響を及ぼす決定を行う権限が与えられているか否かにより行うものであり、例えば、事業本部である事業場であれば、当該事業場の属する企業等が取り扱う主要な製品・サービス等についての事業計画の決定等を行っているか否かによるものであることに留意すること、また、例えば、地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場であれば、当該事業場の属する企業等が事業活動の対象としている主要な地域における生産、販売等についての事業計画の決定等を行っているか否かによるものであることに留意することが必要である。
(2) 事業場に役員が常駐している場合には、通常、当該役員の指揮の下に当該事業場の属する企業の事業の運営に大きな影響を及ぼす決定が行われていると推定されるものであることから、使用者は、(1)に規定するところによる判断に当たり、当該非本社事業場に役員が常駐していることは当該非本社事業場が1(2)に該当すると判断することについての判断材料になるものであることに留意することが必要である。
第3 労使委員会が決議する法第38条の4第1項各号に掲げる事項
1 法第38条の4第1項第1号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
対象業務は、次のイからニまでに掲げる要件のいずれにも該当するものである。
イ 事業の運営に関する事項についての業務であること法第38条の4第1項第1号の「事業の運営に関する事項」とは、対象事業場の属する企業等に係る事業の運営に影響を及ぼす事項をいい、対象事業場における事業の実施に関する事項が直ちにこれに該当するものではない。
例えば、本社である事業場においてその属する企業全体に係る管理・運営とあわせて対顧客営業を行っている場合、当該本社である事業場の管理・運営を担当する部署において策定される当該事業場の属する企業全体の営業方針については「事業の運営に関する事項」に該当するが、当該本社である事業場の対顧客営業を担当する部署に所属する個々の営業担当者が担当する営業については「事業の運営に関する事項」に該当しない。
企業が取り扱う主要な製品・サービスごとに当該主要な製品・サービスの取扱いに関して相当の権限を有する事業本部を設けている場合、こうした事業本部全体に係る事業計画については「事業の運営に関する事項」に該当する。
本社である事業場において基本的な事業方針や営業方針を決定し、これらに基づき具体化した事業計画や営業計画を地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場において策定している場合等企業に係る事業運営上の重要な決定を行う権限を地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場に分掌させていると考えられる場合には、当該地域本社や地域を統轄する支社・支店等である事業場の事業計画や営業計画については、「事業の運営に関する事項」に該当する。
ロ 企画、立案、調査及び分析の業務であること
法第38条の4第1項第1号の「企画、立案、調査及び分析の業務」とは、「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業を組み合わせて行うことを内容とする業務をいう。ここでいう「業務」とは、部署が所掌する業務ではなく、個々の労働者が使用者に遂行を命じられた業務をいう。
したがって、対象事業場に設けられた企画部、調査課等の「企画」、「立案」、「調査」又は「分析」に対応する語句をその名称に含む部署において行われる業務の全てが直ちに「企画、立案、調査及び分析の業務」に該当するものではない。
ハ 当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある業務であること
法第38条の4第1項第1号の「当該業務の性質上これを適切に遂行するにはその遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだねる必要がある」業務とは、使用者が主観的にその必要があると判断しその遂行の方法を大幅に労働者にゆだねている業務をいうものではなく、当該業務の性質に照らし客観的にその必要性が存するものであることが必要である。
ニ 当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること
法第38条の4第1項第1号の「当該業務の遂行の手段及び時間配分の決定等に関し使用者が具体的な指示をしないこととする業務」とは、当該業務の遂行に当たり、その内容である「企画」、「立案」、「調査」及び「分析」という相互に関連し合う作業をいつ、どのように行うか等についての広範な裁量が、労働者に認められている業務をいう。
したがって、日常的に使用者の具体的な指示の下に行われる業務や、あらかじめ使用者が示す業務の遂行方法等についての詳細な手順に即して遂行することを指示されている業務は、これに該当しない。
また、「時間配分の決定」には始業及び終業の時刻の決定も含まれるため、使用者から始業又は終業の時刻を指示されている業務も、これに該当しない。
(2) 留意事項
イ 対象業務は、(1)イからニまでのいずれにも該当するものであることが必要であり、その全部又は一部に該当しない業務を労使委員会において対象業務として決議したとしても、当該業務に従事する労働者に関し、企画業務型裁量労働制の法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものであることに、労使委員会の委員(以下「委員」という。)は留意することが必要である。
ロ 労使委員会において、対象業務について決議するに当たり、委員は、(イ)に掲げる対象業務となり得る業務の例及び(ロ)に掲げる対象業務となり得ない業務の例について留意することが必要である。
なお、(イ)に掲げる対象業務となり得る業務の例は、これに該当するもの以外は労使委員会において対象業務として決議し得ないものとして掲げるものではなく、また、(ロ)に掲げる対象業務となり得ない業務の例は、これに該当するもの以外は労使委員会において対象業務として決議し得るものとして掲げるものではないことに留意することが必要である。
(イ) 対象業務となり得る業務の例
① 経営企画を担当する部署における業務のうち、経営状態・経営環境等について調査及び分析を行い、経営に関する計画を策定する業務
② 経営企画を担当する部署における業務のうち、現行の社内組織の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな社内組織を編成する業務
③ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、現行の人事制度の問題点やその在り方等について調査及び分析を行い、新たな人事制度を策定する業務
④ 人事・労務を担当する部署における業務のうち、業務の内容やその遂行のために必要とされる能力等について調査及び分析を行い、社員の教育・研修計画を策定する業務
⑤ 財務・経理を担当する部署における業務のうち、財務状態等について調査及び分析を行い、財務に関する計画を策定する業務
⑥ 広報を担当する部署における業務のうち、効果的な広報手法等について調査及び分析を行い、広報を企画・立案する業務
⑦ 営業に関する企画を担当する部署における業務のうち、営業成績や営業活動上の問題点等について調査及び分析を行い、企業全体の営業方針や取り扱う商品ごとの全社的な営業に関する計画を策定する業務
⑧ 生産に関する企画を担当する部署における業務のうち、生産効率や原材料等に係る市場の動向等について調査及び分析を行い、原材料等の調達計画も含め全社的な生産計画を策定する業務
(ロ) 対象業務となり得ない業務の例
① 経営に関する会議の庶務等の業務
② 人事記録の作成及び保管、給与の計算及び支払、各種保険の加入及び脱退、採用・研修の実施等の業務
③ 金銭の出納、財務諸表・会計帳簿の作成及び保管、租税の申告及び納付、予算・決算に係る計算等の業務
④ 広報誌の原稿の校正等の業務
⑤ 個別の営業活動の業務
⑥ 個別の製造等の作業、物品の買い付け等の業務
ハ 対象業務について(1)ニにおいて「使用者が具体的な指示をしない」とされることに関し、企画業務型裁量労働制が適用されている場合であっても、業務の遂行の手段及び時間配分の決定等以外については、使用者は、労働者に対し必要な指示をすることについて制限を受けないものである。したがって、委員は、対象業務について決議するに当たり、使用者が労働者に対し業務の開始時に当該業務の目的、目標、期限等の基本的事項を指示することや、中途において経過の報告を受けつつこれらの基本的事項について所要の変更の指示をすることは可能であることに留意することが必要である。
また、企画業務型裁量労働制の実施に当たっては、これらの指示が的確になされることが重要である。このため、使用者は、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には、労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われることがあることに留意するとともに、労働者の上司に対し、これらの基本的事項を適正に設定し、指示を的確に行うよう必要な管理者教育を行うことが適当であることに留意することが必要である。
なお、使用者及び委員は、労働者から時間配分の決定等に関する裁量が失われたと認められる場合には、企画業務型裁量労働制の法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することが必要である。
2 法第38条の4第1項第2号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
法第38条の4第1項第2号の「対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者」であって使用者が対象業務に就かせる者(以下「対象労働者」という。)は、対象業務に常態として従事していることが原則である。
「対象業務を適切に遂行するために必要となる具体的な知識、経験等を有する労働者」の範囲については、対象業務ごとに異なり得るものであり、このため、対象労働者となり得る者の範囲を特定するために必要な職務経験年数、職能資格等の具体的な基準を明らかにすることが必要である。
(2) 留意事項
イ 労使委員会において、対象労働者となり得る者の範囲について決議するに当たっては、委員は、客観的にみて対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有しない労働者を含めて決議した場合、使用者が当該知識、経験等を有しない労働者を対象業務に就かせても企画業務型裁量労働制の法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないものであることに留意することが必要である。例えば、大学の学部を卒業した労働者であって全く職務経験がないものは、客観的にみて対象労働者に該当し得ず、少なくとも3年ないし5年程度の職務経験を経た上で、対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかどうかの判断の対象となり得るものであることに留意することが必要である。
ロ 労使委員会において、対象労働者となり得る者の範囲について決議するに当たっては、当該者が対象業務を適切に遂行するための知識、経験等を有する労働者であるかの判断に資するよう、使用者は、労使委員会に対し、当該事業場の属する企業等における労働者の賃金水準(労働者への賃金・手当の支給状況を含む。)を示すことが望ましいことに留意することが必要である。
3 法第38条の4第1項第3号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
イ 法第38条の4第1項第3号の「対象業務に従事する前号に掲げる労働者の範囲に属する労働者の労働時間として算定される時間」(以下「みなし労働時間」という。)については、法第4章の規定の適用に係る1日についての対象労働者の労働時間数として、具体的に定められたものであることが必要である。要である。
ロ 労使委員会において、みなし労働時間について決議するに当たっては、委員は、対象業務の内容並びに対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を考慮して適切な水準のものとなるよう決議することとし、対象労働者の相応の処遇を確保することが必要である。
(2) 留意事項
イ 労使委員会においては、みなし労働時間について決議するに当たっては、委員は、対象業務の内容を十分検討するとともに、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度について使用者から十分な説明を受け、それらの内容を十分理解した上で決議することが必要であることに留意することが必要である。
ロ 当該事業場における所定労働時間をみなし労働時間として決議するような場合において、使用者及び委員は、所定労働時間相当働いたとしても明らかに処理できない分量の業務を与えながら相応の処遇を確保しないといったことは、制度の趣旨を没却するものであり、不適当であることに留意することが必要である。
4 法第38条の4第1項第4号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
イ 法第38条の4第1項第4号の対象労働者の「労働時間の状況に応じた当該労働者の健康及び福祉を確保するための措置」(以下「健康・福祉確保措置」という。)を当該決議で定めるところにより使用者が講ずることについては、次のいずれにも該当する内容のものであることが必要である。
(イ) 使用者による対象労働者の労働時間の状況の把握は、いかなる時間帯にどの程度の時間、労務を提供し得る状態にあったかを把握するものであること。その方法は、タイムカードによる記録、パーソナルコンピュータ等の電子計算機の使用時間の記録等の客観的な方法その他の適切なものであることが必要であり、当該対象事業場の実態に応じて適当な当該方法を具体的に明らかにしていることが必要であること。
(ロ) (イ)により把握した労働時間の状況に基づいて、対象労働者の勤務状況(労働時間の状況を含む。以下同じ。)に応じ、使用者がいかなる健康・福祉確保措置をどのように講ずるかを明確にするものであること。
ロ 労使委員会において決議し、使用者が講ずる健康・福祉確保措置としては次のものが適切である。
(イ) 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。
(ロ) 法第37条第4項に規定する時刻の間において労働させる回数を1箇月について一定回数以内とすること。
(ハ) 把握した労働時間が一定時間を超えない範囲内とすること及び当該時間を超えたときは法第38条の4第1項の規定を適用しないこととすること。
(ニ) 働き過ぎの防止の観点から、年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。
(ホ) 把握した労働時間が一定時間を超える対象労働者に対し、医師による面接指導(問診その他の方法により心身の状況を把握し、これに応じて面接により必要な指導を行うことをいい、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)第66条の8第1項の規定による面接指導を除く。)を行うこと。
(ヘ) 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。
(ト) 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。
(チ) 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。
(リ) 把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。
(ヌ) 働き過ぎによる健康障害防止の観点から、必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は対象労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。
(2) 留意事項
イ 対象労働者については、業務の遂行の方法を大幅に労働者の裁量にゆだね、使用者が具体的な指示をしないこととなるが、使用者は、このために当該対象労働者について、労働者の生命、身体及び健康を危険から保護すべき義務(いわゆる安全配慮義務)を免れるものではないことに留意することが必要である。
ロ 使用者は、対象労働者の勤務状況を把握する際、対象労働者からの健康状態についての申告、健康状態についての上司による定期的なヒアリング等に基づき、対象労働者の健康状態を把握することが望ましい。このため、委員は、健康・福祉確保措置を講ずる前提として、使用者が対象労働者の勤務状況と併せてその健康状態を把握することを決議に含めることが望ましいことに留意することが必要である。
ハ 労使委員会において、健康・福祉確保措置を決議するに当たっては、委員は、長時間労働の抑制や休日確保を図るための当該事業場の対象労働者全員を対象とする措置として(1)ロ(イ)から(ニ)までに掲げる措置の中から一つ以上を実施することとし、かつ、勤務状況や健康状態の改善を図るための個々の対象労働者の状況に応じて講ずる措置として(1)ロ(ホ)から(ヌ)までに掲げる措置の中から一つ以上を実施することとすることが望ましいことに留意することが必要である。
ニ 使用者及び委員は、把握した対象労働者の勤務状況及びその健康状態を踏まえ、(1)ロ(ハ)の措置を決議することが望ましいものである。
ホ 使用者が健康・福祉確保措置を実施した結果を踏まえ、特定の対象労働者には法第38条の4第1項の規定を適用しないこととする場合における、当該規定を適用しないこととした後の配置及び処遇又はその決定方法について、委員は、あらかじめ決議で定めておくことが望ましいことに留意することが必要である。
ヘ 使用者は、(1)ロに例示した措置のほかに、対象労働者が創造的な能力を継続的に発揮し得る環境を整備する観点から、例えば、自己啓発のための特別な休暇の付与等対象労働者の能力開発を促進する措置を講ずることが望ましいものである。このため、委員は使用者が対象労働者の能力開発を促進する措置を講ずることを決議に含めることが望ましいことに留意することが必要である。
5 法第38条の4第1項第5号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
法第38条の4第1項第5号の対象業務に従事する対象労働者からの「苦情の処理に関する措置」(以下「苦情処理措置」という。)については、苦情の申出の窓口及び担当者、取り扱う苦情の範囲、処理の手順・方法等その具体的内容を明らかにするものであることが必要である。
(2) 留意事項
イ 労使委員会において、苦情処理措置について決議するに当たり、委員は、使用者や人事担当者以外の者を申出の窓口とすること等の工夫により、対象労働者が苦情を申し出やすい仕組みとすることが適当であることに留意することが必要である。
また、取り扱う苦情の範囲については、委員は、企画業務型裁量労働制の実施に関する苦情のみならず、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度等企画業務型裁量労働制に付随する事項に関する苦情も含むものとすることが適当であることに留意することが必要である。
ロ 苦情処理措置として、労使委員会が対象事業場において実施されている苦情処理制度を利用することを決議した場合には、使用者は、対象労働者にその旨を周知するとともに、当該実施されている苦情処理制度が企画業務型裁量労働制の運用の実態に応じて機能するよう配慮することが適当であることに留意することが必要である。
ハ 使用者及び委員は、労使委員会が苦情の申出の窓口としての役割を担うこと等により、委員が苦情の内容を確実に把握できるようにすることや、苦情には至らない運用上の問題点についても幅広く相談できる体制を整備することが望ましいことに留意することが必要である。
6 法第38条の4第1項第6号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
法第38条の4第1項第6号により、使用者が同項の規定により労働者を対象業務に就かせたときは同項第3号に掲げる時間労働したものとみなすことについての当該労働者の同意は、当該労働者ごとに、かつ、同項第7号に規定する決議事項として定められる決議の有効期間ごとに得られるものであることが必要である。
(2) 留意事項
イ 法第38条の4第1項第6号に規定する事項に関し決議するに当たり、委員は、対象業務の内容を始めとする決議の内容等当該事業場における企画業務型裁量労働制の制度の概要、企画業務型裁量労働制の適用を受けることに同意した場合に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容並びに同意しなかった場合の配置及び処遇について、使用者が労働者に対し、明示した上で説明して当該労働者の同意を得ることとすることを決議で定めることが適当であることに留意することが必要である。また、十分な説明がなされなかったこと等により、当該同意が労働者の自由な意思に基づいてされたものとは認められない場合には、企画業務型裁量労働制の法第4章の労働時間に関する規定の適用に当たっての労働時間のみなしの効果は生じないこととなる場合があることに留意することが必要である。
なお、使用者は、企画業務型裁量労働制の適用を受けることに同意しなかった場合の配置及び処遇は、同意をしなかった労働者をそのことを理由として不利益に取り扱うものであってはならないものであることに留意することが必要である。
ロ 委員は、企画業務型裁量労働制の適用を受けることについての労働者の同意については、書面によること等その手続を決議において具体的に定めることが適当であることに留意することが必要である。
ハ 使用者は、企画業務型裁量労働制の適用を受けることについての労働者の同意を得るに当たって、苦情の申出先、申出方法等を書面で明示する等、5(1)の苦情処理措置の具体的内容を対象労働者に説明することが適当であることに留意することが必要である。
7 法第38条の4第1項第7号に規定する事項関係
(1) 当該事項に関し具体的に明らかにする事項
法第38条の4第1項第7号に規定する「前各号に掲げるもののほか、命令で定める事項」として、次の事項が同項の労使委員会の決議事項として定められている。
イ 企画業務型裁量労働制の適用を受けることについての労働者の同意の撤回に関する手続を定めること。
(イ) 決議に際し、撤回の申出先となる部署及び担当者、撤回の申出の方法等その具体的内容を明らかにすることが必要である。
(ロ) 使用者は、同意を撤回した場合の配置及び処遇について、同意を撤回した労働者をそのことを理由として不利益に取り扱うものであってはならないものである。
ロ 使用者は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を変更する場合にあっては、労使委員会に対し、当該変更の内容について説明を行うこと。
ハ 法第38条の4第1項の決議には、有効期間(当分の間、1年以内の期間を定めるものに限る。)を定めること(労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号。以下「則」という。)第66条の2で読み替えて適用する則第24条の2の3第3項第1号)。
二 使用者は、対象労働者の労働時間の状況並びに当該労働者の健康・福祉確保措置の実施状況、対象労働者からの苦情の処理に関する措置の実施状況並びに企画業務型裁量労働制の適用に関し対象労働者から得た同意及びその撤回に関する労働者ごとの記録を、イの有効期間中及びその満了後3年間保存すること(労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号。以下「則」という。)第24条の2の3第3項第4号及び第71条)。
(2) 留意事項
イ 委員は、対象労働者が同意を撤回した場合の撤回後の配置及び処遇又はその決定方法について、あらかじめ決議で定めておくことが望ましいことに留意することが必要である。
ロ (1)ロの事項について、使用者は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度を変更しようとする場合、労使委員会に対し、事前に当該変更の内容について説明を行うことが適当であることに留意することが必要である。事前に説明を行うことが困難な場合であっても、変更後遅滞なく、その内容について説明を行うことが適当であることに留意することが必要である。
ハ (1)ハの事項に関連し、委員は、法第38条の4第1項の決議を行った後に当該決議の内容に関連して生じた当該決議の時点では予見し得なかった事情の変化に対応するため、委員の半数以上から決議の変更等のための労使委員会の開催の申出があった場合は、(1)ハの有効期間の中途であっても決議の変更等のための調査審議を行うものとすることを同項の決議において定めることが適当であることに留意することが必要である。また、委員は、委員の半数以上からの申出があった場合に限らず、制度の実施状況等について定期的に調査審議するために必要がある場合には、労使委員会を開催することが必要であることに留意することが必要である。
8 その他法第38条の4第1項の決議に関する事項
労使委員会が法第38条の4に基づき、同項各号に掲げる事項について決議を行うに当たっては、委員が、企画業務型裁量労働制の適用を受ける対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容を十分理解した上で、行うことが重要である。
このため、労使委員会が法第38条の4第1項各号に掲げる事項について決議を行うに先立ち、使用者は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容について、労使委員会に対し、十分に説明することが必要であることに留意することが必要である。
第4 法第38条の4第2項に規定する労使委員会の要件等労使委員会に関する事項
労使委員会に関する法第38条の4第2項の規定等に関し対象事業場の使用者並びに当該事業場の労働者、労働組合及び労働者の過半数を代表する者並びに委員が留意すべき事項等は、次のとおりである。
1 労使委員会に求められる役割
労使委員会においては、企画業務型裁量労働制が制度の趣旨に沿って実施されるよう、賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、この指針の内容に適合するように法第38条の4第1項各号に掲げる事項を決議するとともに、決議の有効期間中も、定期的に制度の実施状況に関する情報を把握し、対象労働者の働き方や処遇が制度の趣旨に沿ったものとなっているかを調査審議し、必要に応じて、運用の改善を図ることや決議の内容について見直しを行うことが求められる。委員は、労使委員会がこうした役割を担うことに留意することが必要である。
2 法第38条の4第1項による労使委員会の設置に先立つ話合い
対象事業場の使用者及び労働者の過半数を代表する者(以下「過半数代表者」という。)又は労働組合は、法第38条の4第1項により労使委員会が設置されるに先立ち、設置に係る日程、手順、使用者による一定の便宜の供与がなされる場合にあってはその在り方等について十分に話し合い、定めておくことが望ましいことに留意することが必要である。その際、委員の半数について同条第2項第1号に規定する指名(以下「委員指名」という。)の手続を経なければならないことにかんがみ、同号に規定する労働者の過半数で組織する労働組合がない場合も含めて、これらの手続を適切に実施できるようにする観点から話合いがなされることが望ましいことに留意することが必要である。特に、同号に規定する労働者の過半数で組織する労働組合がない場合において、使用者は、過半数代表者が必要な手続を円滑に実施できるよう十分に話し合い、必要な配慮を行うことが適当である。
なお、過半数代表者が適正に選出されていない場合や監督又は管理の地位にある者について委員指名が行われている場合は、当該労使委員会による決議は無効であり、過半数代表者は則第6条の2第1項各号に該当するよう適正に選出されている必要がある。また、労使を代表する委員それぞれ1名計2名で構成される委員会は労使委員会として認められない。
3 法第38条の4第2項第1号による委員の指名
対象事業場の使用者及び法第38条の4第2項第1号により委員の指名を行う当該事業場の労働組合又は労働者の過半数を代表する者は、法第38条の4第1項の決議のための調査審議等に当たり対象労働者となる労働者及び対象労働者の上司の意見を反映しやすくする観点から、指名する委員にそれらの者を含めることを検討することが望ましいことに留意することが必要である。
4 法第38条の4第2項第4号及び関係省令に基づく労使委員会の運営規程
(1) 法第38条の4第2項第4号に基づく労使委員会の要件として、労使委員会の招集、定足数及び議事に関する事項、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容の使用者からの説明に関する事項、制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項、開催頻度を6箇月以内ごとに1回とすることその他の労使委員会の運営について必要な事項に関する規程(以下「運営規程」という。)が定められていること、使用者は運営規程の作成又は変更について労使委員会の同意を得なければならないことが規定されている(則第24条の2の4第4項及び第5項)。この運営規程を定めるに当たっては、使用者及び委員は、労使委員会の招集に関する事項として法第38条の4第1項の決議の調査審議のための委員会、同項の決議に係る有効期間中における制度の運用状況の調査審議のための委員会等定例として予定されている委員会の開催に関すること及び必要に応じて開催される委員会の開催に関することを、議事に関する事項として議長の選出に関すること及び決議の方法に関することを、それぞれ規定することが適当であることに留意することが必要である。
(2) 運営規程において、定足数に関する事項を規定するに当たっては、労使委員会が法第38条の4第1項及び第5項に規定する決議をする場合の「委員の全員の合意」とは、労使委員会に出席した委員全員の合意で足りるものであることにかんがみ、使用者及び委員は、全委員に係る定足数のほか、労使各側を代表する委員ごとに一定割合又は一定数以上の出席を必要とすることを定めることが適当であることに留意することが必要である。
(3) 運営規程において、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容の使用者からの説明に関する事項を規定するに当たっては、使用者及び委員は、当該説明は、第3の8において労使委員会が法第38条の4第1項各号に掲げる事項について決議を行うに先立ち、使用者は、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容について、労使委員会に対し、十分に説明する必要があるとされていることを踏まえる必要があることに留意することが必要である。
(4) 運営規程において、制度の趣旨に沿った適正な運用の確保に関する事項を規定するに当たっては、労使委員会が企画業務型裁量労働制の実施状況を把握した上で、対象労働者の働き方や処遇が制度の趣旨に沿ったものとなっているかを調査審議し、運用の改善を図ることや決議の内容について必要な見直しを行うことが必要であること、決議や制度の運用状況に係る調査審議のため、労使委員会の開催頻度を6箇月以内ごとに1回とする必要があることを踏まえ、使用者及び委員は、当該実施状況の把握の頻度や方法を運営規程に定めることが必要であることに留意することが必要である。
5 労使委員会に対する使用者による情報の開示
(1)法第38条の4第1項に規定する決議が適切に行われるため、使用者は、労使委員会に対し、労使委員会が法第38条の4第1項の決議のための調査審議をする場合には、運営規程において定められた、第3の8において使用者が労使委員会に対し十分に説明する必要があるとされている対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の内容に加え、企画業務型裁量労働制が適用されることとなった場合における対象業務の具体的内容を開示することが適当であることに留意することが必要である。また、使用者は、労使委員会に対し、当該対象事業場の属する企業等における労働者の賃金水準(労働者への賃金・手当の支給状況を含む。)を開示することが望ましいことに留意することが必要である。
(2) 委員が、当該対象事業場における企画業務型裁量労働制の実施状況に関する情報を十分に把握するため、使用者は、労使委員会に対し、法第38条の4第1項第4号に係る決議で定めるところにより把握した対象労働者の勤務状況及びこれに応じて講じた対象労働者の健康・福祉確保措置の実施状況、対象労働者からの苦情の内容及びその処理状況等法第38条の4第1項第5号に係る決議に係る苦情処理措置の実施状況、対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の運用状況(対象労働者への賃金・手当の支給状況や評価結果等をいう。)並びに労使委員会の開催状況を開示することが適当であることに留意することが必要である。
なお、対象労働者からの苦情の内容及びその処理状況並びに対象労働者に適用される評価制度及びこれに対応する賃金制度の運用状況を労使委員会に開示するに当たっては、使用者は対象労働者のプライバシーの保護に十分留意することが必要である。
(3) 使用者及び委員は、使用者が開示すべき情報の範囲、開示手続、開示が行われる労使委員会の開催時期等必要な事項を運営規程で定めておくことが適当であることに留意することが必要である。
6 使用者による労働者側委員への配慮
使用者は、労働者側委員が法第38条の4第1項各号に掲げる事項についての決議等に関する事務を円滑に遂行することができるよう必要な配慮を行わなければならない(則第24条の2の4第7項)。
7 労使委員会と労働組合等との関係
(1) 労使委員会は、法第38条の4第1項により、「事業運営上の重要な決定が行われる事業場において、賃金、労働時間その他の当該事業場における労働条件に関する事項を調査審議し、事業主に対し当該事項について意見を述べることを目的とする委員会」とされている。この労働条件に関する事項についての労使委員会による調査審議は、同項の決議に基づく企画業務型裁量労働制の適正な実施を図る観点から行われるものであり、労働組合の有する団体交渉権を制約するものではない。
このため、使用者及び委員は、労使委員会と労働組合又は労働条件に関する事項を調査審議する労使協議機関との関係を明らかにしておくため、それらと協議の上
労使委員会の調査審議事項の範囲を運営規程で定めておくことが適当であることに留意することが必要である。
(2) 法第38条の4第5項に基づき、労使委員会において、委員の5分の4以上の多数による議決により法第38条の4第5項に掲げる規定(以下「特定条項」という。)において労使協定にゆだねられている事項について決議した場合には、当該労使委員会の決議をもって特定条項に基づく労使協定に代えることができることとされている。
このため、使用者及び委員は、労使委員会と特定条項に係る労使協定の締結当事者となり得る労働組合又は過半数代表者との関係を明らかにしておくため、これらと協議の上、労使委員会が特定条項のうち労使協定に代えて決議を行うこととする規定の範囲を運営規程で定めておくことが適当であることに留意することが必要である。
改正文(令和五年三月三〇日厚生労働省告示第一一五号 抄)
令和六年四月一日から適用する。