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血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準に係る運用上の留意点について
令和3年9月14日基補発0914第1号
(都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局補償課長通知)
最終改正 令和5年10月18日基補発1018第1号
血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等(以下「脳・心臓疾患」という。)の認定基準については、令和3年9月14日付け基発0914第1号「血管病変等を著しく増悪させる業務による脳血管疾患及び虚血性心疾患等の認定基準について」(以下「認定基準」という。)をもって指示されたところであるが、その具体的運用に当たっては、下記の事項に留意の上、適切に対応されたい。
なお、本通達の施行に伴い、平成13年12月12日付け基労補発第31号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準の運用上の留意点等について」(以下「旧通達」という。)は廃止する。
また、「脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(令和3年7月)」(以下「報告書」という。)には、認定基準の考え方等が示されているので、認定基準の理解を深めるため、適宜参照されたい。
記
第1 検討の経緯及び改正の趣旨
脳・心臓疾患については、平成13年12月12日付け基発第1063号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」(以下「旧認定基準」という。)に基づき労災認定を行ってきたところであるが、旧認定基準の発出から約20年が経過する中で、働き方の多様化や職場環境の変化が生じていることから、脳・心臓疾患の労災認定の基準に関する専門検討会において、最新の医学的知見を踏まえた検証が行われたところである。
今般、その検討結果を踏まえ、基準の具体化、明確化により業務の過重性の客観的かつ総合的な評価を一層適切に行う等の観点から、認定基準の改正が行われたものである。
また、昭和62年10月26日付け基発第620号については、疾病名等について現行の医学的知見との齟齬が生じていることから、今般、併せて廃止されたものである。
第2 主な改正点
1 標題
認定基準の標題は、平成22年5月に改正された労働基準法施行規則別表第1の2(以下「別表第1の2」という。)第8号の規定を踏まえ改められたものであること。
2 基本的な考え方
過重負荷に関する旧認定基準の基本的な考え方は報告書において現時点でも妥当と判断されており、過重負荷の考え方に実質的な変更はないこと。
3 対象疾病
(1) 「重篤な心不全」の追加
旧認定基準においては不整脈が一義的な原因となった心不全症状等について、「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされていた。
しかし、心停止とは異なる病態である心不全を「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うことは適切でなく、また、不整脈によらず、心筋症等の基礎疾患を有する場合にも、業務による明らかな過重負荷によって当該基礎疾患が自然経過を超えて著しく増悪し、重篤な心不全が生じることが考えられる。
このため、不整脈によるものも含め「重篤な心不全」が対象疾病に追加されたこと。
(2) 「大動脈解離」への表記の修正
旧認定基準においては「解離性大動脈瘤」が対象疾病とされていたが、大動脈瘤を形成しない大動脈解離も対象疾病であることを明確にする必要があること、臨床的にも現在は解離性大動脈瘤の場合を含めて大動脈解離の診断名が付されることが多いこと等から、「大動脈解離」に表記が改められたこと。
旧認定基準にいう「解離性大動脈瘤」は、すべて「大動脈解離」に含まれることとなる。
4 認定要件
認定基準第3の認定要件の記載内容に変更はないが、別表第1の2第8号の規定等を踏まえ、記載順が変更されたものであること。
5 認定要件の具体的判断
(1) 長期間の過重業務
評価期間について変更はないが、発症に近接した時期の負荷についても総合的に評価すべき事案があることが明示されたこと。
また、過重負荷の有無の判断に当たって評価の基準となる労働者について、明確化等の観点から、「同種労働者」と表記を改めるとともにその定義が一部修正されたこと。
さらに、労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的な評価として業務と発症との関連性が強いと評価できる場合があることが明示されたこと。
あわせて、短期間の過重業務とも共通して、労働時間以外の負荷要因について、勤務時間の不規則性(拘束時間の長い勤務、休日のない連続勤務、勤務間インターバルが短い勤務、不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務)、事業場外における移動を伴う業務(出張の多い業務、その他事業場外における移動を伴う業務)、心理的負荷を伴う業務、身体的負荷を伴う業務及び作業環境(温度環境、騒音)に整理され、その検討の視点についても明確化されたこと。
(2) 短期間の過重業務
評価期間について、発症前1か月間より短い期間のみに過重な業務が集中し、それより前の業務の過重性が低い場合の取扱いが明示されたこと。なお、本取扱いは、旧通達において示していたものと同様である。
また、労働時間の負荷要因の検討の視点についてより明確化されるとともに、業務と発症との関連性が強いと評価できる場合の例示がなされたこと。
(3) 異常な出来事
異常な出来事の考え方が認定基準において示されるとともに、具体的な3つの出来事について、医学的知見や裁判例等を踏まえ、その表記が一部修正されたこと。
あわせて、検討の視点がより明確化されるとともに、業務と発症との関連性が強いと評価できる場合の例示がなされたこと。
6 その他
「基礎疾患を有する者についての考え方」及び「対象疾病以外の疾病の取扱い」について明確化されたこと。
なお、「基礎疾患を有する者についての考え方」については、平成7年2月1日付け基発第38号「脳血管疾患及び虚血性心疾患等(負傷に起因するものを除く。)の認定基準について」において示された考え方と同一である。
第3 運用上の留意点
1 対象疾病等
(1) 疾患名及び発症時期の特定
脳・心臓疾患の発症と業務との関連性を判断する上で、発症した疾患名は重要であることから、主治医意見書等から疾患名を特定し、対象疾病に該当することを確認すること。
なお、脳・心臓疾患の発症とは、血管病変等が破綻(出血)若しくは閉塞した状態又は循環異常を急性に来した状態をいう。
(2) 別表第1の2との関係
(削除)
(3) 心不全の取扱い
心不全とは、何らかの心臓機能障害が生じて心ポンプ機能の代償機転(心臓から十分な血液を送り出す機能)が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、運動耐容能が低下した状態を指す。その基礎となる疾患は様々であり、また、心不全は身体活動に制限がない状態から、急性心不全と呼ばれる急速に心原性ショックや心肺停止に移行する可能性のあるひっ迫した状態までを含む幅広い状態名であるものである。
労災補償の対象疾病としては、基礎疾患の自然経過によるものではなく、業務による明らかな過重負荷によって基礎疾患がその自然経過を超えて著しく増悪したものと判断できる必要があることから、入院による治療を必要とする急性心不全を念頭に、対象疾病が「重篤な心不全」と限定されたものである。
このため、疾患名が心不全である場合には、その基礎となる疾患及び心不全の程度についても併せて確認し、治療内容や予後等も含め病状の全体像をみて、業務による負荷及び基礎疾患の状況と心不全の発症との関係を判断する必要があり、基礎疾患がその自然経過を超えて著しく増悪したものと認められる場合に労災保険給付の対象となるものであること。
また、心不全は幅広い状態名であることから、その発症時期の特定が困難な事案については、当課職業病認定対策室に相談すること。
(4) 不整脈による突然死等の取扱い
平成8年1月22日付け基発第30号で対象疾病とされていた「不整脈による突然死等」は、旧認定基準においては「心停止(心臓性突然死を含む。)」に含めて取り扱うこととされていたところである。
当該疾病は、具体的には、心室細動や心室静止等の致死的不整脈による心停止、又は心室頻拍、心房頻拍、心房粗・細動等による心不全症状あるいは脳虚血症状などにより死亡又は療養が必要な状態になったものをいうことから、その症状に応じて、心停止、重篤な心不全、脳梗塞など対象疾病のいずれに当たるかを確認し、該当する疾病として取り扱うこと。
(5) 脳卒中の取扱い
脳内出血、くも膜下出血及び脳梗塞については、一過性脳虚血発作(脳梗塞の症状が短時間で消失するもの)も含めて脳卒中と総称される。
脳卒中として請求された事案については、疾患名を確認し、対象疾病以外の疾病であることが確認された場合を除き、認定基準によって判断して差し支えない。
(6) 対象疾病以外の疾病に係る請求の取扱い
認定基準においては、医学的に過重負荷に関連して発症すると考えられる脳・心臓疾患が対象疾病に掲げられ、取り扱う疾病の範囲が明確にされたものであるが、認定基準の第5の2(1)を踏まえ、対象疾病以外の疾病が過重負荷により発症したとして請求された事案については、当課職業病認定対策室に相談すること。
2 過重負荷
認定基準第1の基本的な考え方に基づき、過重負荷とは、医学経験則に照らして、脳・心臓疾患の発症の基礎となる血管病変等をその自然経過を超えて著しく増悪させ得ることが客観的に認められる負荷をいうものである。
また、ここでいう自然経過とは、加齢、一般生活等において生体が受ける通常の要因による血管病変等の形成、進行及び増悪の経過をいう。
なお、前記第2の4の認定要件の記載順の変更に関わらず、過重業務と発症との関連性を時間的にみた場合、医学的には業務による過重な負荷は発症に近ければ近いほど影響が強いと考えられるとする考え方については、旧認定基準から変更はないこと。
3 長期間の過重業務
(1) 過重負荷の評価の基準となる「同種労働者」
過重負荷の評価の基準となる「同種労働者」については、旧認定基準で示されていた年齢及び経験のほか、職種、職場における立場や職責などについても類似する者であることが明示されたことを踏まえ、心理的負荷・身体的負荷等の評価を適切に行うこと。
また、「基礎疾患を有していたとしても日常業務を支障なく遂行できる者」を同種労働者に含むことは旧認定基準と同様であり、このことから、基礎疾患の状況などの健康状態についても、年齢等と同様に考慮対象となることに留意すること。
(2) 評価期間
評価期間について変更はなく、疲労の蓄積を評価する期間として発症前おおむね6か月間を評価することとされた。なお、当該評価に当たっては、引き続き1か月間を30日として計算すること。
また、長期間の過重業務の判断に当たり、疲労の蓄積に加えて発症に近接した時期に一定の負荷要因が認められる場合には、それらの負荷も含め総合的に長期間の過重業務の評価を行うべきことは当然であるが、あらためて当該取扱いが明示されたものであり、適切な評価を行うこと。
(3) 業務の過重性の具体的な評価
ア 発症前1か月間におおむね100時間又は発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね80時間を超える時間外労働が認められる場合は、業務と発症との関連性が強いと評価できるとする考え方については、旧認定基準から変更はないこと。したがって、そのような時間外労働に就労した場合には、原則として特に過重な業務に就労したものと認められること。
ただし、そのような時間外労働に就労していても、例えば、労働基準法第41条第3号の監視又は断続的労働に相当する業務、すなわち、原則として一定部署にあって監視を行うことを本来の業務とし、常態として身体又は精神的緊張の少ない業務や作業自体が本来間欠的に行われるもので、休憩時間は少ないが手待時間が多い業務等、労働密度が特に低いと認められるものについては、直ちに業務と発症との関連性が強いと評価することは適切ではない場合があることに留意する必要があること。
なお、発症前2か月間ないし6か月間とは、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のいずれかの期間をいい、過重性の評価は、次の手順によること。
① 発症前6か月間のうち、まず、発症前1か月間の時間外労働時間数を算出し、次に発症前2か月間の1か月当たりの時間外労働時間数、さらに発症前3か月間の1か月当たりの時間外労働時間数と順次期間を拡げ、発症前6か月間までの6通りの1か月当たりの時間外労働時間数を算出する。
② ①で算出した時間外労働時間数の1か月当たりの時間数が最大となる期間を総合評価の対象とし、当該期間の1か月当たりの時間数を認定基準の第4の2(4)ウ(ア)に当てはめて検討した上で、当該期間における労働時間以外の負荷要因の評価と併せて業務の過重性を判断する。
ただし、より短い期間をもって特に過重な業務に就労したと評価できる場合は、その期間だけで判断して差し支えない。
イ 発症前1か月間ないし6か月間にわたって、1か月当たりおおむね45時間を超える時間外労働が認められない場合は、疲労の蓄積が生じないとされていることから、業務と発症との関連性が弱いと評価できるとされたことについても、旧認定基準から変更はないこと。したがって、一般的にこの時間外労働のみから、特に過重な業務に就労したとみることは困難であること。
なお、発症前1か月間ないし6か月間とは、発症前1か月間、発症前2か月間、発症前3か月間、発症前4か月間、発症前5か月間、発症前6か月間のすべての期間をいうものである。
ウ 労働時間と労働時間以外の負荷要因の総合的な評価として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準には至らないがこれに近い時間外労働に加えて一定の労働時間以外の負荷が認められる場合には、業務と発症との関連性が強いと評価できることが明示された。
ここでいう「これに近い時間外労働」については、労働時間がより長ければ労働時間以外の負荷要因による負荷がより小さくとも業務と発症との関連性が強い場合があり、また、労働時間以外の負荷要因による負荷がより大きければ又は多ければ労働時間がより短くとも業務と発症との関連性が強い場合があることから、労働時間以外の負荷要因の状況によって異なるものであり具体的な時間数について一律に示すことは困難である。
一方で、報告書においては、①長時間労働と脳・心臓疾患の発症等との間に有意性を認めた疫学調査では、長時間労働を「週55時間以上の労働時間」又は「1日11時間以上の労働時間」として調査・解析しており、これが1か月継続した状態としてはおおむね65時間を超える時間外労働の水準が想定されたこと、②支給決定事例において、労働時間に加えて一定の労働時間以外の負荷要因を考慮して認定した事例についてみると、1か月当たりの時間外労働は、おおむね65時間から70時間以上のものが多かったこと、そして、③このような時間外労働に加えて、労働時間以外の負荷要因で一定の強さのものが認められるときには、全体として、労働時間のみで業務と発症との関連性が強いと認められる水準と同等の過重負荷と評価し得る場合があることが掲記されている。
労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮するに当たっては、当該掲記を踏まえ、別紙1「労働時間以外の負荷要因の評価に当たっての留意事項」にも留意して、適切な評価を行うこと。また、別紙2の事例も参考とすること。
4 短期間の過重業務
(1) 過重負荷の評価の基準となる「同種労働者」
留意点は前記3(1)と同様であること。
(2) 業務の過重性の具体的な評価
負荷要因のうち労働時間の評価については、認定基準に示された検討の視点及び業務と発症との関連性が強いと評価できる場合の例示を踏まえ、過重負荷の有無の判断を適切に行うこと。
また、労働時間以外の負荷要因の評価についての留意点は、別紙1のとおりであり、労働時間及び労働時間以外の負荷要因を客観的かつ総合的に判断する必要があることは従前と同様であること。
5 異常な出来事
異常な出来事における「異常」とは、当該出来事によって急激な血圧変動や血管収縮等を引き起こすことが医学的にみて妥当と認められる程度のものであることを指しており、出来事の異常性・突発性や予測の困難性は、出来事による身体的、精神的負荷が著しいと認められるか否かの検討の視点として重要なものであるが、異常な出来事に不可欠のものではない。
認定基準においては、その趣旨で具体的な出来事から「突発的又は予測困難な異常な」の表記が削除されているものであり、認定基準に示された検討の視点及び業務と発症との関連性が強いと評価できる場合の例示を踏まえ、過重負荷の有無の判断を適切に行うこと。
6 危険因子の評価
脳・心臓疾患は、その発症の基礎となる血管病変等が、主に加齢、生活習慣等の日常生活による諸要因等の負荷により、長い年月の生活の営みの中で徐々に形成、進行及び増悪するといった自然経過をたどり発症するもので、血管病変等の進行には、高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、飲酒等の危険因子の関与が指摘されており、特に複数の危険因子を有する者は、発症のリスクが高いとされている。
このため、業務起因性の判断に当たっては、脳・心臓疾患を発症した労働者の健康状態を把握して、基礎疾患等の程度を十分検討する必要があるが、認定基準の要件に該当する事案については、明らかに業務以外の原因により発症したと認められる場合等の特段の事情がない限り、業務起因性が認められるものである。
第4 調査中の事案等の取扱い
認定基準施行日において調査中の事案及び審査請求中の事案については、認定基準に基づいて決定すること。
また、認定基準施行日において係争中の訴訟事案のうち、認定基準に基づいて判断した場合に訴訟追行上の問題が生じる可能性のある事件については、当課労災保険審理室に協議すること。
第5 認定基準の周知等
1 認定基準の周知
脳・心臓疾患の労災認定に関し相談等があった場合には、おって示すリーフレット等を活用することにより、認定基準等について懇切・丁寧に説明を行うこと。
また、各種関係団体に対しても、機会をとらえて周知を図ること。
なお、旧認定基準のパンフレットについては、当面、当該リーフレットを挟み込んで使用すること。
2 職員研修等の実施
労働局において、職員研修等を計画的に実施し、認定基準に関する職員の理解を深めること。
また、地方労災医員等に対しても、同様に認定基準について情報提供し、その考え方等について説明すること。
別紙1
労働時間以外の負荷要因の評価に当たっての留意事項
労働時間以外の負荷要因の評価に当たっての留意事項及び旧認定基準からの改正の趣旨は、次のとおりである。
なお、負荷要因の評価に当たっては、労働時間も含め、各負荷要因について全体を総合的に評価することが適切であり、ある就労実態について評価を行う際には、各負荷要因において示された検討の視点についてそれぞれ検討し、評価することが必要であるが、これは同一の実態について二重に評価する趣旨ではないことはこれまでと同様である。
1 勤務時間の不規則性
(1) 拘束時間の長い勤務
旧認定基準から大きな変更はなく、検討の視点について一部改正が行われるとともに、定義が明らかにされ、また、労働時間の項目における評価との重複を避けるための記載が追加されたものであること。
(2) 休日のない連続勤務
新規に追加された項目であり、旧認定基準においては、労働時間の項目の中で評価されていた内容について、独立した負荷要因として明らかにされたものであること。
なお、休日がない場合だけでなく、休日が少ない場合もこの項目で評価するものであること。ここでいう「連続勤務」は労働日が連続することを指し、24時間連続勤務のような引き続いて実施される一勤務が長い状況については、本項目ではなく「不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務」の項目において評価すること。
(3) 勤務間インターバルが短い勤務
新規に追加された項目であり、旧認定基準においては、「交替制勤務・深夜勤務」の項目で「勤務と次の勤務までの時間」として評価を行っていた内容であるが、交替制勤務等に限らず、時間外労働により終業時刻が遅くなり、次の始業時刻までの時間が短くなった場合も含めて本項目で評価すること。
また、長期間の過重業務の判断に当たって、検討の対象とする時間数が示されているが、勤務間インターバルがおおむね11時間未満であるか否かだけでなく、勤務間インターバルの時間数、頻度、連続性等についても検討する必要があるものであること。
(4) 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
旧認定基準における「不規則な勤務」と「交替制勤務・深夜勤務」について、負荷となる理由の共通性や、実際の事例における区分の困難性等の観点から統合されたものであること。
本項目は、勤務時間帯やその変更が生体リズム(概日リズム)と生活リズムの位相のずれを生じさせ、疲労の蓄積に影響を及ぼすことを評価するものであることから、交替制勤務がスケジュールどおり実施されている場合や、日常的に深夜勤務を行っている場合であっても、負荷要因として検討し、労働時間の状況等と合わせて評価する必要があるものであること。
2 事業場外における移動を伴う業務
旧認定基準における「出張の多い業務」について、出張を「特定の用務を果たすために通常の勤務地を離れて行うもの」と整理した上で、通常の勤務として事業場外における移動を伴う業務の負荷についても検討する必要があるとされたことから項目名が修正され、その細目として「出張の多い業務」と「その他事業場外における移動を伴う業務」が明示されたものであること。
(1) 出張の多い業務
旧認定基準における負荷要因の検討の視点について一部改正が行われるとともに、定義が明らかにされたものであること。
また、旧認定基準において作業環境の細目とされていた時差についても、出張に伴う負荷であることから本項目で評価することとされたものである。時差については、時間数を限定せず検討の対象とされたが、特に4時間以上の時差が負荷として重要であることに留意すること。
なお、時差を検討するに当たっては、東への移動(1日の時間が短くなる方向の移動)は、西への移動よりも負荷が大きいとされており、検討の視点に示された「移動の方向」とはその趣旨であること。
出張に伴う勤務時間の不規則性については、本項目ではなく、前記1の項目において併せて評価する必要があること。
(2) その他事業場外における移動を伴う業務
長距離輸送の業務に従事する運転手や航空機の客室乗務員等、通常の勤務として事業場外における移動を伴う業務の負荷について検討する項目であり、検討の視点は、一部を除き「出張の多い業務」とおおむね同様であること。
3 心理的負荷を伴う業務
旧認定基準における「精神的緊張を伴う業務」について、業務による心理的負荷を広く評価対象とする趣旨で、項目名が修正されたものであること。
認定基準別表1の「日常的に心理的負荷を伴う業務」は、旧認定基準の別紙のうち「日常的に精神的緊張を伴う業務」に対応したものであるところ、旧認定基準に記載があり、認定基準に記載がない業務については、認定基準別表2の「心理的負荷を伴う具体的出来事」として評価することが想定されているものである。
また、認定基準別表2の「心理的負荷を伴う具体的出来事」は、旧認定基準の別紙のうち「発症に近接した時期における精神的緊張を伴う業務に関連する出来事」に対応したものであるが、心理的負荷による精神障害の認定基準(平成23年12月26日付け基発1226第1号)が定める「業務による心理的負荷評価表を参考に、具体的出来事の内容が拡充され、さらにその後、改正された心理的負荷による精神障害の認定基準(令和5年9月1日付け基発0901第2号)が定める「業務による心理的負荷評価表」(以下「評価表」という。)を踏まえて改正がなされたものである。具体的には、評価表に記載された具体的出来事のうち、労働時間(仕事の量)に関するものを除き、平均的な心理的負荷の強度がⅢ及びⅡ(強~中程度)のものが掲記されている。したがって、別表2に記載された用語の解釈は評価表と同一である。
さらに、認定基準別表1及び別表2に掲げられていない具体的出来事等に関して強い心理的負荷が認められる場合には、検討の視点でいう具体的出来事「等」として評価することとなる。
なお、旧認定基準においては、精神的緊張の程度が特に著しいと認められるものについて評価することとされており、また、業務に関連する出来事について、発症に近接した時期におけるものが評価の対象とされていたが、認定基準においてはそれらの限定はなされていないことに留意すること。
4 身体的負荷を伴う業務
新規に追加された項目である。旧通達において、日常業務と質的に著しく異なる業務として、事務職の労働者が激しい肉体労働を行うことにより、日々の業務を超える身体的、精神的負荷を受けたと認められる場合を例示していたが、そのような場合も含めて本項目で評価すること。
また、日常的に強度の肉体労働を行っている場合にも負荷要因として検討し、労働時間の状況等と合わせて評価すること。
5 作業環境
作業環境については、旧認定基準において、過重性の評価に当たっては付加的に考慮することとされていたところ、認定基準においても、長期間の過重業務の判断に当たっては付加的に考慮するものとされたこと。
一方、短期間の過重業務の判断に当たっては、他の負荷要因と同じく十分に検討すること。
(1) 温度環境
旧認定基準における負荷要因の検討の視点について、旧認定基準では寒冷を高温より重視していたが、寒冷と高温を同様に検討する趣旨の改正が行われたこと。
(2) 騒音
旧認定基準から変更はないこと。
別紙2
労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合的に考慮して業務と発症との関連性が強いと評価される例
【事例1】
Aさんは、トラックの運転手として、県内で製造された電気製品等を国内各地に所在するホームセンターの物流センターに配送する業務に従事していた。Aさんは、これらの業務に従事し、発症前2か月平均で月約71時間の時間外労働を行っていた。
夜間運行を基本とし、20時から23時に出勤し、翌朝8時から9時、遅い日では15時頃まで勤務していた。発症前6か月の拘束時間は、発症前1か月から順に、216時間、302時間、278時間、266時間、219時間、291時間となっていた。
Aさんは、配送先の物流センターで製品の積み込み作業中に倒れた。物流センターの作業員が倒れていたAさんを発見し、救急車を呼び病院に搬送したが、Aさんは、心筋梗塞により死亡した。
【事例2】
Bさんは、関東に所在する水産加工工場に勤務し、水産物の仕入れや営業担当業務に従事していた。Bさんは、これらの業務に従事し、発症前3か月平均で月約64時間の時間外労働を行っていた。
この3か月の全ての勤務は泊付きの出張であり、主に仕入業者との商談や営業のため、関西と九州方面の港に出張していた。
発症前3か月の泊付きの出張日数は64日、工場から関西や九州方面へ移動を要した日数は24日に及んだ。
Bさんは出張先で、痙攣、めまい、吐き気の症状を訴え、救急車を呼び病院に搬送され、脳梗塞と診断された。