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自然災害時における労働基準関係行政の運営について
令和2年7月30日基発0730第1号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
最終改正 令和5年9月14日基発0914第7号
自然災害により多くの被害をもたらし、産業活動に対する甚大な影響が生じた場合、事業場における事業活動の停止等により、労働基準関係行政に関する各種手続き等の困難が生じる恐れがある。
このため、今後、自然災害が発生した場合については、労働基準関係行政の運営について下記によることとしたので、了知するとともに、労働者等の置かれている状況に十分配慮し、対応に遺漏なきを期されたい。
記
第1 本通達の適用等
1 本通達の適用について
次のいずれかに該当した場合に、該当した日から当面の間、被災地域及び被災地域に関連する事業者又は労働者からの各種手続き等に係る労働関係行政の運営において適用する。ここでの被災地域とは、適用の原因となる自然災害(以下「本災害」という。)により被害を受けた地域をいう。ただし、第2に係る措置については、医療機関等における被災状況を勘案して必要と認められる場合に適用し、本省労働基準局補償課長が別途指示する。
ア いずれかの地域で災害救助法(昭和22年法律第118号)第2条の規定に基づく適用がなされた場合
イ ア以外で被災状況から本通達の適用が適当であるとして本省労働基準局総務課長から被災地域の労働局に対して指示をした場合
2 適用後の被災状況の把握等及び適切な対応について
本通達の適用後、必要な体制を整え、日々刻々と変わる管内の被災状況の把握を行うこと。
その際、厚生労働省防災業務計画及び厚生労働省業務継続計画(首都直下地震編)に基づいて制定された平成25年6月24日付け「都道府県労働局における厚生労働省防災業務計画の留意点及び業務継続計画について」(以下「業務継続計画通達」という。)の第2編の第1の4及び6に基づく被害状況の本省報告、第3編の第3の2に基づく解雇、雇止め等に関する情報の本省報告等に留意すること。
その上で、後述する対応以外でも、被災状況に応じて必要と判断される行政運営上の対応があれば、必要に応じ本省担当部署に照会の上、迅速かつ適切な措置を行うこと。
第2 労災診療費等の請求の取扱いについて
1 被災により診療録等を滅失又は棄損等した場合に係る労災診療費等の請求について被災により診療録等を滅失又は棄損等した場合の労災診療費等の請求については、下記の場合において、昭和51年1月13日付け基発第72号「労災診療費算定基準について」の定めにかかわらず、下記2による特例の請求(以下「特例請求」という。)を行うことができるものとすること。
・診療録等の滅失等の場合の特例請求
本災害により、診療録等を滅失又は棄損等した労災保険指定医療機関、労災保険指定薬局及び労災保険指定訪問看護事業者(以下「指定医療機関等」という。)は、別途指定する月(以下「指定月」という。)の診療等分について特例請求を行うことができるものであること。
上記による場合以外については、下記3により労災診療費等の請求を行うものとすること。
2 特例請求を行う場合の取扱いについて
(1) 特例請求を選択する指定医療機関等については、やむを得ない事情がある場合を除き、別途指示する日までに別紙の「労働者災害補償保険診療費等特例請求書」(以下「特例請求書」という。)に診療実日数等の必要事項を記入の上、その所在地を管轄する都道府県労働局長に提出すること。
(2) 特例請求額の算出方法
原則として、指定月を除く直近3か月診療等分(この期間内に診療報酬改定を行っている場合など、これによらない場合は、別途指示する。)の労災診療費等支払実績により(当該指定医療機関等について特別な事情がある場合には、別途指定医療機関等と調整をする。)、下記の①及び②により算出(①及び②によらない場合は、別途指示する。)し、それを合計して支払を行うこととなるため、指定医療機関等においては、特例請求書に当該指定医療機関等の指定月の入院、外来別の診療実日数を合わせて記入すること。
なお、労災保険指定薬局及び労災保険指定訪問看護事業者については、外来分として取り扱うものとする。
① 入院分
② 外来分
(3) 特例請求を選択した指定医療機関等については、当該特例請求額をもって指定月の診療
等分の労災診療費等支払額を確定するものであること。
3 通常の方法による請求を行う場合の取扱いについて
指定月の診療等分(翌月提出分)に係る診療費請求書等の提出期限に遅れたものについては、翌月以降に提出するものとすること。
なお、薬剤費及び訪問看護費用の請求についても同様の取扱いとすること。
4 その他
(1) 特例請求の機械処理等に当たっての詳細については、別途指示するところによること。
(2) 本件取扱いについては、関係機関と連携の上、管内の指定医療機関等に対して周知を徹底すること。
第3 労災保険給付の請求に係る事務処理について
1 労災保険給付請求書に係る事業主証明及び診療担当者の証明
本災害により、被災労働者の所属事業場等が一時休業した等の理由から、労災保険給付請求書(以下「請求書」という。)の事業主証明を受けることが困難な場合には、事業主証明がなくとも請求書を受理すること。
また、被災労働者が療養を受けていた医療機関が一時休業した等の理由から、診療担当者の証明が受けられない場合においては、診療担当者の証明がなくとも請求書を受理すること。
なお、この場合、請求書の事業主証明欄の記載事項及び診療担当者の証明欄の記載事項を請求人に記載させ、証明を受けられない事情を付記させること。
2 業務上外等基本的な考え方
本災害による業務上外等の考え方については、平成7年1月30日付け補償課長通達「兵庫県南部地震における業務上外等の考え方について」に基づき、業務上外等の判断を行って差し支えない。
したがって、個々の労災保険給付請求事案についての業務上外等の判断に当たっては、天災地変による災害については業務起因性等がないとの予断をもって処理することのないよう特に留意すること。
第4 労災保険給付の支払に係る事務処理について
本災害により、労災給付の振込先に指定された金融機関や郵便局の通帳・キャッシュカード・届出印を紛失した場合でも、各金融機関等において非常時の取り扱いがなされることがあるため、詳細については、金融機関や郵便局の窓口へ相談するよう受給者へ案内すること。
また、労災年金証書を紛失した場合は、労災年金の支給決定を受けた労働基準監督署に「年金証書再交付申請書」を提出することにより再発行を受けることができることについて、受給者へ案内すること。
第5 労働保険料等の取扱いについて
1 猶予制度の周知等について
労働保険の保険料の徴収等に関する法律(昭和44年法律第84号)第30条(失業保険法及び労働者災害補償保険法の一部を改正する法律及び労働保険の保険料の徴収等に関する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律(昭和44年法律第85号)第19条第3項又は石綿による健康被害の救済に関する法律(平成18年法律第4号)第38条第1項の規定により準用される場合を含む。)の規定により例によることとされている国税通則法(昭和37年法律第66号)第46条の規定により、事業主等からの申請に基づき、都道府県労働局労働保険特別会計歳入徴収官は、労働保険料、特別保険料及び一般拠出金の納付猶予措置等を行うことができる。
被災に伴い労働保険料等に係る相談があった場合は、これらの制度を踏まえ丁寧に対応するほか、これらの制度ついて労働局において被災事業主等へ周知を行うこと。
2 労働局における事務処理
別途示しているところにより、個別事情に応じて柔軟に対応すること
第6 未払賃金の立替払事業の運営について
1 趣旨本災害に伴い、事業場において事業活動の停止のやむなきに至り、賃金の支払のための資
金が確保されず、このため、賃金が未払のまま退職を余儀なくされた労働者に対する立替払事業について、その実情を踏まえつつ迅速に実施し、早急な救済を図るものである。
なお、このことによって、立替払事業の基本的な仕組みや要件が変更されるものではなく、また、労働者、事業主及び独立行政法人労働者健康安全機構の権利関係に変更をもたらすものではないこと。
2 対象となる範囲
(1) 対象事業主
本災害に伴い、災害救助法(昭和22年法律第118号)第2条の規定に基づき、その適用の対象とされた地域(以下「適用被災地域」という。)に本社機能を有する事業場が所在している中小企業事業主であって、本災害による建物の倒壊等の直接的な被害により事業活動が停止し、再開する見込みがなく、かつ、賃金支払能力がないもの。
(2) 対象労働者
上記(1)の事業主の適用被災地域に所在する事業場(以下「対象事業場」という。)において使用されていた労働者であって、本災害により退職を余儀なくされ、賃金が未払となっているもの。
3 適用被災地域における労働者等の実情を踏まえた対応
(1) 申請に必要な書類の簡略化等
立替払事業に係る申請に際して添付しなければならない書類を対象事業場が被災したことにより入手できない場合等にあっては、賃金の支払の確保等に関する法律施行規則(昭和51年労働省令第26号)第9条第3項ただし書及び第14条第2項ただし書の規定を踏まえ、地方公共団体が発行する罹災証明書等の申請者側において入手可能な各種資料を最大限活用する等により、申請に当たっての労働者等の負担をできるだけ軽減すること。
(2) 迅速な処理
事務処理体制の確保に配意するとともに、対象労働者からの立替払事業に係る申請等については迅速に処理すること。
4 破産管財人等との連携
破産等の法律上の倒産に至った企業については、破産管財人等が退職労働者の未払賃金額等の証明を行うことになるため、破産管財人等に対して証明に関して優先的な取扱いとするよう配慮を求めるなど、退職労働者が早期に未払賃金の立替払を受けられるよう働きかけを行うよう努めること。
5 その他
以下のことに留意すること。
(1) 立替払事業の実施については、
ア 適用被災地域の中小企業事業主や労働者等に対して、十分な周知に努めるとともに、その置かれている状況にかんがみ、適切に対応するよう配意すること。
イ 業務処理を迅速に行うため、特に事業主の協力が重要であることに留意し、事業主の来庁、関係資料の提供等が円滑に行われるよう配意すること。
(2) 不正受給の発生の防止に留意すること。
第7 第5以外の社会復帰促進等事業に係る事務処理について
1 アフターケアに関する事務処理
(1) 健康管理手帳(以下「手帳」という。)の交付を受けている者が、手帳を自宅に残したまま避難していること等により、実施医療機関に手帳を提示できない場合には、氏名、生年月日及び対象傷病名を申し立てることによりアフターケアを受診できる取扱いとして差し支えないこと。
なお、当該者より相談があった場合には、本取扱いについて説明を行うとともに、当該者の実施医療機関あてに氏名、生年月日及び対象傷病名を申立てを行うことでアフターケアを行うことができる旨周知すること。
(2) 手帳の交付を受けている者が、本災害により当該手帳を亡失又はき損したときには、「社会復帰促進等事業としてのアフターケア実施要領の制定について」(平成19年4月23日付け基発第0423002号)の別添「社会復帰促進等事業としてのアフターケア実施要領」の6(4)に基づき速やかに手帳を再交付すること。
(3) 本災害により、アフターケアを受けていた実施医療機関が患者受入れ不可となっている場合又は避難先でアフターケア実施医療機関が不明な場合には、最寄りの実施医療機関を紹介する等親切、丁寧な対応を行うこと。
(4) 本災害により診療録を滅失又はき損したためアフターケア委託費(以下「委託費」という。)を請求できないアフターケア実施医療機関から、委託費の算定及び請求について相談等があった場合には、補償課と協議すること。
2 義肢等補装具費に関する事務処理
(1) 義肢等の支給については、本災害により被災労働者が過去に支給を受けた義肢等補装具がやむを得ない理由により亡失・修理不能となった場合は、耐用年数が経過する前であっても新たな購入費用を支給して差し支えないこと。
また、修理が可能な場合には、修理の要件に該当するものとして、修理費用を支給すること。
(2) 請求人が費用の請求を行う際に請求書に添付する採型指導の証明書については、医療機関が損壊した等の理由から証明書が得られない場合には、添付を要しないとして差し支えないこと。この場合、医師の証明書が提出できない理由を請求人より聴取し、請求書の余白に記載しておくこと。
3 被災したアフターケア対象者及び義肢等補装具を使用している者等への周知について本通知の取扱いについては、相談に来庁した者に各局の問い合わせ先が印刷されたパンフレット等を配布することにより、被災したアフターケア対象者及び義肢等補装具を使用している者等に対して周知を図ること。
第8 災害防止対策について
1 二次災害防止のための安全衛生対策
業務継続計画通達の第2編の第1の7「労働災害の二次災害防止」基づき対応すること。
2 災害復旧工事等における安全衛生対策
業務継続計画通達の第3編の第2の2「災害復旧工事等における安全衛生対策」及び3「原子力施設における災害復旧作業等、除染作業に関する安全衛生対策」に基づき対応することとし、その他、具体的な対応については、その都度、本災害の被災状況に応じて、別途指示する。
別紙<編注:クリックして表示>