img1 img1 img1

◆トップページに移動 │ ★目次のページに移動 │ ※文字列検索は Ctrl+Fキー  

通達:当面の労働時間対策の具体的推進について

 

当面の労働時間対策の具体的推進について

平成31年4月1日基発0401第25号・雇均発0401第39号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長、厚生労働省雇用環境・均等局長通知)

 

労働時間対策については、「当面の労働時間対策の具体的推進について」(平成23年4月1日付け基発0401第19号)により推進してきたところであるが、平成30年7月に「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律」(平成30年法律第71号。以下「働き方改革関連法」という。)が公布され、これにより改正された労働基準法(昭和22年法律第49号)や労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号。以下「労働時間等設定改善法」という。)などが、平成31年4月から順次施行されることを踏まえ、当面の労働時間対策の具体的な進め方を下記のとおり定めたので、これに基づき労働時間対策を的確に推進されたい。

なお、「当面の労働時間対策の具体的推進について」(平成23年4月1日付け基発0401第19号)は、本通達をもって廃止する。

 

第1 基本的考え方

働き方改革関連法は、急速に少子高齢化が進展する中、働く方の働き方に関するニーズが多様化し、非正規雇用で働く方の待遇を改善するなど、働く方がそれぞれの事情に応じた多様な働き方を選択できる社会を実現することが重要とされ、このことは、働く方の就業機会の拡大、職業生活の充実や労働生産性の向上を促進し、働く方の意欲や能力を最大限に発揮できるようにし、ひいては日本経済における成長と分配の好循環につながるものである。また、過労死を二度と繰り返さないため、長時間労働の是正を急務とし、このような社会を実現する「働き方改革」を推進するため、この法律改正が行われたものである。

その概要の1つに、働く方がその健康を確保しつつ、ワーク・ライフ・バランスを図り、能力を有効に発揮できる労働時間制度等を構築することとされ、具体的には、長時間労働を抑制するため、時間外労働に上限を設け、これに違反した場合には、罰則が設けられたほか、月60時間を超える法定時間外労働に係る5割以上の割増賃金率の中小事業主への適用猶予の廃止や、年5日の年次有給休暇の時季指定の事業主への義務付け等が行われたところである。

これに加え、高度な専門的知識等を要する対象業務に就き、かつ、一定額以上の年収を有するとともに、職務が明確に定められている方を対象として、法令に定める手続を経た上で、労働時間等に関する規定を適用除外とする一方、年間104日の休日確保等の健康確保措置を義務付ける新たな制度の創設を行うとともに、フレックスタイム制の清算期間の上限について1箇月から3箇月に延長することとされたものである。

さらに、勤務間インターバルの努力義務の創設や、産業医・産業保健機能の強化等が行われたものである。

上記のほか、「仕事と生活の調和(ワーク・ライフ・バランス)憲章」(以下「憲章」という。)及び「仕事と生活の調和推進のための行動指針」(以下「行動指針」という。)についても、平成22年6月29日の政労使トップ合意により改定され、2020年までの数値目標として、「労働時間等の課題について労使が話し合いの機会を設けている割合を52.1%(2009年)から全ての企業で実施」、「週労働時間60時間以上の雇用者の割合を10.0%(2008年)から5割減」、「年次有給休暇取得率70%」等の目標が設定されているところである。

これらのことを踏まえ、働き方改革関連法が遵守されるべく周知啓発を図ることはもとより、労働時間等の設定の改善を通じた仕事と生活の調和の実現に向けた社会的機運の醸成に取り組むため、引き続き労働時間等見直しガイドライン(労働時間等設定改善指針(平成20年厚生労働省告示第108号))の周知等を通じて、企業の取組の促進を図る。

具体的推進策として、法定労働時間の遵守の徹底、時間外労働の削減、1年単位の変形労働時間制等の労働時間制度の普及促進・適正な運用の確保はもとより、労働時間等設定改善委員会・労働時間等設定改善企業委員会の設置等による労働時間等設定改善実施体制の整備、年次有給休暇の取得促進に係る対策を推進する。

なお、これら対策を推進するに当たっては、「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」(平成18年3月17日付け基発第0317008号)に基づく事業者が講ずべき措置の中の労働時間等に係る措置の周知徹底・指導等と密接な関連をもって実施するものである。

以上のことを着実に推進するため、雇用環境・均等部(室)と労働基準部が有機的かつ密接な連携を図りながら実施すること。

 

第2 仕事と生活の調和の実現に向けた主な取組等

1 仕事と生活の調和の実現に向けた社会的機運の醸成

仕事と生活の調和の実現に向けた社会的機運の醸成を図るため、年度当初に働き方改革関連法の周知と相まった年間広報計画を策定し、都道府県等の関係機関と連携を図りつつ積極的な広報活動を実施すること。

特に、時間外労働の削減と相まった労働時間等の設定の改善の促進を通じた仕事と生活の調和のとれた働き方の好事例等を収集し、事業主団体等へ情報提供する等の周知啓発を行うこと。

2 労働時間等の設定の改善を促進するための支援

 (1) 労働時間等設定改善法、労働時間等見直しガイドラインの周知

労働時間等設定改善法、労働時間等見直しガイドラインについては、引き続き、あらゆる機会を通じて周知啓発を図ること。

特に、経営者に対し労働時間等見直しガイドラインの趣旨等を周知することが肝要であり、そのためには、都道府県労働局及び労働基準監督署が同じ視点を持ち連携しながら行うことが重要である。

具体的には、都道府県労働局においては労働局長をはじめ幹部が、また、労働基準監督署においては労働基準監督署長自らが、事業主団体との会合及び地域を代表する事業主への訪問等の機会を活用し、積極的に周知啓発を図るよう努めること。

 (2) 労働時間等の設定の改善に係る支援の実施

事業主等に対する労働時間等の設定の改善を促進するための支援として、以下の事項を実施することとしているので、事業主等に対する積極的な活用を勧奨するとともに、次のことに留意すること。

  ア 働き方改革推進支援センター

働き方改革関連法の施行に向けて、特に経営基盤が脆弱である中小企業・小規模事業者等を中心に技術的な支援を行うため、全都道府県に設置されている「働き方改革推進支援センター」について、商工団体をはじめとした関係機関と連携が図られ、労務管理・企業経営等の専門家による個別相談支援が実施されるよう配慮すること。

  イ 時間外労働等改善助成金

中小企業・小規模事業者が時間外労働の上限規制等に円滑に対応するため、生産性を高めながら労働時間の縮減に取り組む場合において助成金を支給するものであるが、特に中小企業や傘下企業を支援する事業主団体に対する助成金(団体推進コース)の積極的な活用がなされるよう配慮すること。

  ウ 特に時間外労働が長い事業場の事業主に対する自主的取組の推進

自主点検等から、特に時間外労働が長い等改善が必要と考えられる事業場に対して、都道府県労働局に配置された働き方・休み方改善コンサルタント等(以下「コンサルタント」という。)を活用し、個別訪問や集団に対する研修会等を実施し、長時間労働の抑制、年次有給休暇の取得促進とともに、勤務間インターバル制度の導入を促すこと。

3 長時間労働につながる取引慣行の見直しの推進

労働時間等設定改善法では、他の事業主との取引において長時間労働につながる短納期発注や発注内容の頻繁な変更を行わないよう配慮することが事業主の努力義務となったところであり、個々の事業主の努力とともに、社会全体として長時間労働につながる取引が生じないよう配慮することが必要となっている。

このため、労働施策の総合的な推進並びに労働者の雇用の安定及び職業生活の充実等に関する法律(昭和41年法律第132号)第10条の3に基づく協議会や、事業主団体との会合及び地域を代表する事業主への訪問等の機会を活用し、積極的に働きかけを行うこと。

 

第3 労働時間対策の具体的推進

1 労働時間等設定改善実施体制の整備

労働時間等設定改善を推進するためには、企業において労働時間等をめぐる様々な問題について労使が日常的に話し合うとともに、話し合いの成果を適切に実施するための体制を整備することが重要である。

さらに、行動指針における2020年までの数値目標である「全企業で実施」を達成するために、引き続き労働時間等設定改善委員会や労働時間等設定改善企業委員会の設置等による労働時間等設定改善実施体制の整備が図られるよう、あらゆる機会を通じて周知啓発を図ること。

2 法定労働時間の遵守の徹底

依然として、一部の中小零細企業を中心に法定労働時間の認識が低いことから、働き方改革関連法の周知と併せ、引き続き集団指導等を実施するなどにより、法定労働時間の遵守の徹底を図ること。

3 時間外労働の削減

時間外労働については、行動指針における2020年までの数値目標である「週労働時間60時間以上の雇用者の割合を10.0%(2008年)から5割減」を達成するため、働き方改革関連法による時間外労働の上限規制についての遵守に向けた周知啓発はもとより、中小企業事業主への対応については、「労働基準法第36条第1項の協定で定める労働時間の延長の限度等に関する基準」(平成10年労働省告示第154号。以下「限度基準」という。)等により、引き続き、労使の自主的努力による取組を基本として、以下により、時間外労働の削減を図ること。

 (1) 労働時間管理の適正化等

時間外労働の削減を図るためには、その前提となる始業・終業の時刻を適正に把握するなど労働時間の管理を適正なものとする必要がある。

このため、「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」(平成29年1月29日作成)により、労働時間管理の適正化のための指導を行うこと。

また、労働基準法第37条第1項の規定に基づき、1箇月について60時間を超える時間外労働を行わせた場合は、5割以上の率で計算した割増賃金を支払わなければならないこと(中小企業については、平成35年4月1日から適用)について遵守の徹底を図ること。

 (2) 時間外・休日労働協定の適正化

時間外・休日労働協定に関する労働基準法等の関係法令(以下「関係法令」という。)が労使当事者に遵守されるよう、労使の自主的な取組を促進する観点からもあらゆる機会を通じて周知及び指導を行うこと。

また、時間外・休日労働協定届が所轄労働基準監督署長に届け出られた場合には、関係法令等の適用関係を踏まえ、当該協定届の内容について必要な指導を行うこと。

特に、限度時間を超えて労働させることができる場合について、「業務の都合上必要な場合」や「業務上やむを得ない場合」など恒常的な長時間労働を招くおそれがあるものと認められる内容を協定している場合は、関係法令等の周知を行うとともに、当該協定の適正化について必要な指導を行うこと。

さらに、時間外・休日労働協定の締結当事者である労働者の過半数代表者については、職制上の地位及び選出方法が労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)第6条の2第1項に基づく要件を充足していることについて確認を徹底すること。

 (3) 交替制勤務、恒常的な時間外労働等の改善指導

次のような実態が認められた場合には、予備要員の配置、又は非操業日を設けた3組2交替制、4組3交替制への変更、あるいは業務執行体制の見直しを行うなどにより、勤務体制の改善を図り、限度基準を超える恒常的な時間外労働が行われないよう指導すること。

  ア 2組2交替制により、24時間連続操業を行っているもの

  イ 予備要員が置かれていない3組3交替制、2組2交替制により、連勤が頻繁に行われているもの

  ウ 一定期間内の所定労働日の大部分に及ぶ程度に時間外労働が恒常的に行われ、その程度が甚だしいもの

  エ 深夜にわたる時間外労働がしばしば行われているもの

4 1年単位の変形労働時間制等の労働時間制度の適正な運用の確保

1年単位の変形労働時間制、フレックスタイム制、専門業務型・企画業務型裁量労働制、高度プロフェッショナル制度等の労働時間制度については、導入を検討している事業場が制度を適正に導入・運用できるよう的確な助言を行うとともに、制度が適用される労働者の適正な労働条件が確保されるよう事業主に対する指導を行うこと。

なお、裁量労働制については、業務量が過大である場合や期限の設定が不適切である場合には、労働者から時間配分の決定に関する裁量が事実上失われることがあることから、同制度の趣旨に適合した上での適正な導入・運用がなされるよう必要な指導を行うこと。

また、企画業務型裁量労働制については、対象業務の範囲等について適切な導入・運用がなされるよう、「労働基準法第38条の4第1項の規定による同項第1号の業務に従事する労働者の適正な労働条件の確保を図るための指針」(平成11年労働省告示第149号)等により指導を行うこと。

さらに、フレックスタイム制については、働き方改革関連法により、清算期間の上限が1箇月以内から3箇月以内に延長されたことなどを踏まえ、同制度の適正な導入・運用がなされるよう必要な指導を行うこと。

平成31年4月1日から施行される高度プロフェッショナル制度については、労使委員会の開催等の当該制度を導入するための手続や、対象業務及び対象労働者の範囲が関係法令に沿った適正なものとなるよう、事業主に対する周知・指導を行うこと。

5 勤務間インターバル制度の導入促進

勤務間インターバル制度は、労働者の生活時間や睡眠時間を確保し、健康な生活を送るために重要な制度であり、労働時間等設定改善法において、事業主の責務として、健康及び福祉を確保するために必要な終業から始業までの時間の設定を講ずるように努めなければならないことが定められたところである。

ついては、勤務間インターバル制度を導入する中小企業への助成金の活用促進や、導入している企業の好事例の周知等、制度導入に向けた取組を推進すること。

6 年次有給休暇の取得促進

年次有給休暇は、労働者の心身の疲労を回復させ、また、健康で充実した生活の実現にも資するものである。しかし、その取得状況をみると、労働者1人平均の年次有給休暇取得率は、平成29年が51.1%と、18年ぶりに5割を超えたものの、依然として、数値目標である70%とは大きな乖離がある。

このような中で、年次有給休暇の取得促進を図り、行動指針における数値目標を達成するためには、労使が協力して休暇の意義や在り方についてこれまで以上に意識を高めるとともに、年次有給休暇の取得計画表の作成、取得率の目標設定の検討等、年次有給休暇取得のための条件整備や環境づくりに具体的に取り組むことがより一層重要である。

このため、働き方改革関連法による年次有給休暇の確実な取得を徹底するとともに、労働時間等見直しガイドラインを踏まえた、次の取組を行うことにより、労使の自主的かつ積極的な取組の促進により、年次有給休暇の取得促進を図ること。

 (1) 年5日の年次有給休暇の確実な取得等

平成31年4月1日から、すべての事業場において、10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対し、そのうち5日については付与日(基準日)から1年以内に使用者が時季を指定して取得させなければならないことから、計画的な取得について必要な指導を行うこと。

また、労働基準法第39条第6項の規定に基づく計画的付与制度の積極的な活用は、年度当初に、個々の労働者の年次有給休暇の取得希望と企業の業務との調整を図り、年間を通じて年次有給休暇の取得を促進するために特に効果的であるため、十分な周知を図るとともに、必要な指導を行うこと。その際、連続した休暇の取得促進に配慮するとともに、計画的付与制度の導入に向けた課題及び解決策について検討するよう併せて指導すること。

加えて、労働基準法第39条第4項の規定に基づく時間単位付与制度についても周知を図ること。

 (2) 年次有給休暇取得日数等の管理等

平成31年4月1日から、すべての事業場において、年次有給休暇を与えたときは、時季、日数及び基準日を労働者ごとに明らかにした書類(以下「年次有給休暇管理簿」という。)を作成し、3年間保存しなければならないことから、年次有給休暇管理簿が適正に作成、保存されるよう、必要な指導を行うこと。

さらに、業務量を正確に把握し、個人別年次有給休暇取得計画表の作成、年次有給休暇の完全取得に向けた取得率の目標設定の検討及び業務体制の整備、取得状況の把握等を行うよう必要な指導を行うこと。その際、労働時間等設定改善委員会をはじめとする労使間の話合いの機会において年次有給休暇の取得状況を確認する制度を導入するとともに、取得率向上に向けた具体的な方策を検討するよう併せて指導すること。

 (3) 年次有給休暇の取得促進に向けた機運の醸成

年次有給休暇の取得については、周囲に迷惑がかかること、後で多忙になること、職場の雰囲気が取得しづらいことなどを理由に、多くの労働者がその取得にためらいを感じている。

年次有給休暇の取得は、企業の活力や競争力の源泉である人材がその能力を十分に発揮するための大きな要素であって、生産性の向上にも資するものであり、事業主にとっても大きな意味を持つものである。

また、行動指針では、2020年までの数値目標として「年次有給休暇の取得率70%」が掲げられているところであり、事業主からの積極的な取得の呼びかけ等による取得しやすい雰囲気づくりや、労使の年次有給休暇取得に対する機運の醸成に努めるよう指導すること。

 (4) 年次有給休暇の取得に伴う不利益取扱いの禁止

年次有給休暇の取得に伴う不利益取扱いの禁止については、その趣旨の周知徹底を図るとともに、精皆勤手当及び賞与の額の算定等に際して、年次有給休暇を取得した日を欠勤又は欠勤に準じて取り扱うことその他の不利益取扱いを行わないよう引き続き指導すること。

 (5) 長期休暇制度の普及促進

長期休暇制度については、労働時間等見直しガイドラインにおいて、事業主に対して、週休日と年次有給休暇と組み合わせた2週間程度の連続した長期休暇の取得促進を図ることを促しており、その普及促進に努めること。

7 その他の具体的留意事項

 (1) 局署窓口における対応及び相談体制の確立

事業主等が労働時間等の設定の改善を行うに当たっては、労働時間法制や労働時間等見直しガイドラインの内容についての理解が肝要であることを踏まえ、労使から局署窓口に対し相談があった場合には、きめ細やかな相談・支援を行うとともに、働き方改革推進支援センターやコンサルタントの積極的な活用を図ること。

 (2) 関係行政機関等との連携

広報活動の実施、事業主に対する指導等について効果的な実施を図るため、都道府県労働関係部局のほか関係行政機関等との連携を図ること。

 (3) 労使団体との連携

労働時間対策を円滑に推進するためには、労使の自主的な取組が重要であることから、都道府県や地域レベルでの主要な事業主団体や労働団体と日頃からの連携に配意し、これらの団体の各種会議、広報誌等の活用を図ること。