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通達:年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の取扱いについて

 

年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の取扱いについて

平成25年7月10日基発0710第3号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)

 

平成25年6月6日、労働基準法(昭和22年法律第49号)第39条の解釈について、最高裁第一小法廷において別添のような判決がなされたことを受け、昭和63年3月14日付け基発第150号・婦発第47号「労働基準法関係解釈例規について」について、下記のとおり改めることとしたので、了知されたい。

 

第1 法第39条関係<出勤率の基礎となる全労働日>を次のように改める。

<出勤率の基礎となる全労働日>

年次有給休暇の請求権の発生について、法第三十九条が全労働日の八割出勤を条件としているのは、労働者の勤怠の状況を勘案して、特に出勤率の低い者を除外する立法趣旨であることから、全労働日の取扱いについては、次のとおりとする。

1 年次有給休暇算定の基礎となる全労働日の日数は就業規則その他によって定められた所定休日を除いた日をいい、各労働者の職種が異なること等により異なることもあり得る。

したがって、所定の休日に労働させた場合には、その日は、全労働日に含まれないものである。

2 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日は、3に該当する場合を除き、出勤率の算定に当たっては、出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものとする。

例えば、裁判所の判決により解雇が無効と確定した場合や、労働委員会による救済命令を受けて会社が解雇の取消しを行った場合の解雇日から復職日までの不就労日のように、労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日が考えられる。

3 労働者の責に帰すべき事由によるとはいえない不就労日であっても、次に掲げる日のように、当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でないものは、全労働日に含まれないものとする。

(一) 不可抗力による休業日

(二) 使用者側に起因する経営、管理上の障害による休業日

(三) 正当な同盟罷業その他正当な争議行為により労務の提供が全くなされなかった日

 

第2 法第39条関係<全労働日が零となる場合の年次有給休暇>を削る。

(別添)

平成23年(受)第2183号 年次有給休暇請求権存在確認等請求事件

平成25年6月6日 第一小法廷判決

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人大谷典孝の上告受理申立て理由について

1 本件は,解雇により2年余にわたり就労を拒まれた被上告人が,解雇が無効であると主張して上告人を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し,その勝訴判決が確定して復職した後に,合計5日間の労働日につき年次有給休暇の時季に係る請求(以下単に「請求」ともいう。)をして就労しなかったところ,労働基準法(以下「法」という。)39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして上記5日分の賃金を支払われなかったため,上告人を相手に,年次有給休暇権を有することの確認並びに上記未払賃金及びその遅延損害金の支払を求める事案である。

法39条1項及び2項は,雇入れの日から6か月の継続勤務期間又はその後の各1年ごとの継続勤務期間(以下,これらの継続勤務期間を「年度」という。)において全労働日の8割以上出勤した労働者に対して翌年度に所定日数の有給休暇を与えなければならない旨を定めており,本件では,被上告人が請求の前年度においてこの年次有給休暇権の成立要件を満たしているか否かが争われた。

2 原審の適法に確定した事実関係の概要は,次のとおりである。

(1) 上告人は,一般乗用旅客自動車運送事業等を営む株式会社である。上告人は,被上告人との間で,平成17年1月21日,被上告人をタクシー乗務員として雇用する旨の期間の定めのない労働契約を締結した。

(2) 上告人は,被上告人に対し,平成19年5月16日,同日をもって被上告人を解雇する旨の意思表示をし(以下,これによる解雇を「本件解雇」という。),同日以降の就労を拒んだ。被上告人は,本件解雇は無効であると主張して上告人を相手に労働契約上の権利を有することの確認等を求める訴えを提起し,その結果,本件解雇は無効であるとの理由で被上告人が労働契約上の権利を有することを確認する旨の判決(以下「前訴判決」という。)を得て,これが平成21年8月17日の経過により確定した。これを受けて,被上告人は,同年9月4日,上告人の職場に復帰し,同日以降再び就労を続けている。

(3) 被上告人は,平成21年9月13日から同月15日まで並びに同22年1月13日及び同年2月15日の合計5日間の労働日につき,年次有給休暇の時季に係る請求をして就労しなかった。

上告人は,被上告人は請求の前年度において法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たさないとして,被上告人が就労しなかった上記5日間につき欠勤として取り扱い,上記5日分の賃金を支払わなかった。

3 論旨は,使用者の責めに帰すべき事由により就労することができなかった日は法39条1項及び2項にいう全労働日に含まれないと解すべきであり,本件解雇の日から前訴判決が確定するまでの期間(平成19年5月16日から同21年8月17日まで。以下「本件係争期間」という。)は全労働日から除くべきであってこれを出勤日数に算入する余地はなく,請求の前年度(本件では平成20年7月21日から同21年7月20日まで)における全労働日が0日となる被上告人は上記年度において同条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしていないから,本件係争期間中の労働日を全労働日に含めた上でその全部を出勤日として取り扱い被上告人は上記成立要件を満たしているとした原審の判断には法令の解釈の誤りがあるなどというものである。

4 法39条1項及び2項における前年度の全労働日に係る出勤率が8割以上であることという年次有給休暇権の成立要件は,法の制定時の状況等を踏まえ,労働者の責めに帰すべき事由による欠勤率が特に高い者をその対象から除外する趣旨で定められたものと解される。このような同条1項及び2項の規定の趣旨に照らすと,前年度の総暦日の中で,就業規則や労働協約等に定められた休日以外の不就労日のうち,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえないものは,不可抗力や使用者側に起因する経営,管理上の障害による休業日等のように当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものは別として,上記出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものと解するのが相当である。

無効な解雇の場合のように労働者が使用者から正当な理由なく就労を拒まれたために就労することができなかった日は,労働者の責めに帰すべき事由によるとはいえない不就労日であり,このような日は使用者の責めに帰すべき事由による不就労日であっても当事者間の衡平等の観点から出勤日数に算入するのが相当でなく全労働日から除かれるべきものとはいえないから,法39条1項及び2項における出勤率の算定に当たっては,出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。

5 これを本件についてみると,前記事実関係によれば,被上告人は上告人から無効な解雇によって正当な理由なく就労を拒まれたために本件係争期間中就労することができなかったものであるから,本件係争期間は,法39条2項における出勤率の算定に当たっては,請求の前年度における出勤日数に算入すべきものとして全労働日に含まれるものというべきである。したがって,被上告人は,請求の前年度において同項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしているものということができる。

6 以上と同旨の見解に立って,被上告人が請求の前年度において法39条2項所定の年次有給休暇権の成立要件を満たしているとした原審の判断は,正当として是認することができる。論旨は採用することができない。

よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 金築誠志 裁判官 櫻井龍子 裁判官 横田尤孝 裁判官 白木 勇 裁判官 山浦善樹)