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石綿による疾病の認定基準について
平成24年3月29日基発0329第2号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長通知)
石綿による疾病の認定基準については、平成18年2月9日付け基発第0209001号(以下「平成18年通達」という。)により指示してきたところであるが、今般、「石綿による疾病の認定基準に関する検討会」の検討結果を踏まえ、下記のとおり認定基準を改正したので、今後は本認定基準に基づき業務上外を判断されたい。
なお、本通達の施行に伴い、平成18年通達及び平成18年3月17日付け基発第0317010号「特別遺族給付金に係る対象疾病の認定について」は廃止する。
記
第1 石綿による疾病と石綿ばく露作業
1 石綿による疾病
石綿との関連が明らかな疾病としては、次のものがある。
(1) 石綿肺
(2) 肺がん
(3) 中皮腫
(4) 良性石綿胸水
(5) びまん性胸膜肥厚
2 石綿ばく露作業
石綿ばく露作業とは、次に掲げる作業をいう。
(1) 石綿鉱山又はその附属施設において行う石綿を含有する鉱石又は岩石の採掘、搬出又は粉砕その他石綿の精製に関連する作業
(2) 倉庫内等における石綿原料等の袋詰め又は運搬作業
(3) 次のアからオまでに掲げる石綿製品の製造工程における作業
ア 石綿糸、石綿布等の石綿紡織製品
イ 石綿セメント又はこれを原料として製造される石綿スレート、石綿高圧管、石綿円筒等のセメント製品
ウ ボイラーの被覆、船舶用隔壁のライニング、内燃機関のジョイントシーリング、ガスケット(パッキング)等に用いられる耐熱性石綿製品
エ 自動車、捲揚機等のブレーキライニング等の耐摩耗性石綿製品
オ 電気絶縁性、保温性、耐酸性等の性質を有する石綿紙、石綿フェルト等の石綿製品(電線絶縁紙、保温材、耐酸建材等に用いられている。)又は電解隔膜、タイル、プラスター等の充填剤、塗料等の石綿を含有する製品
(4) 石綿の吹付け作業
(5) 耐熱性の石綿製品を用いて行う断熱若しくは保温のための被覆又はその補修作業
(6) 石綿製品の切断等の加工作業
(7) 石綿製品が被覆材又は建材として用いられている建物、その附属施設等の補修又は解体作業
(8) 石綿製品が用いられている船舶又は車両の補修又は解体作業
(9) 石綿を不純物として含有する鉱物(タルク(滑石)等)等の取扱い作業
(10) (1)から(9)までに掲げるもののほか、これらの作業と同程度以上に石綿粉じんのばく露を受ける作業
(11) (1)から(10)までの作業の周辺等において、間接的なばく露を受ける作業
第2 認定要件
1 石綿肺(石綿肺合併症を含む。)
石綿ばく露作業(第1の2の(1)から(11)までに掲げる作業をいう。以下同じ。)に従事しているか又は従事したことのある労働者(労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)第33条に規定する特別加入者を含む。以下「石綿ばく露労働者」という。)に発生した疾病であって、じん肺法(昭和35年法律第30号)第4条第2項に規定するじん肺管理区分が管理4に該当する石綿肺又は石綿肺に合併したじん肺法施行規則(昭和35年労働省令第6号)第1条第1号から第5号までに掲げる疾病(じん肺管理区分が管理4の者に合併した場合も含む。)は、労働基準法施行規則(昭和22年厚生省令第23号)別表第1の2(以下「別表第1の2」という。)第5号に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
2 肺がん
石綿ばく露労働者に発症した原発性肺がんであって、次の(1)から(6)までのいずれかに該当するものは、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き、別表第1の2第7号8に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
(1) 石綿肺の所見が得られていること(じん肺法に定める胸部エックス線写真の像が第1型以上であるものに限る。以下同じ。)。
(2) 胸部エックス線検査、胸部CT検査等により、胸膜プラークが認められ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間(石綿ばく露労働者としての従事期間に限る。以下同じ。)が10年以上あること。ただし、第1の2の(3)の作業に係る従事期間の算定において、平成8年以降の従事期間は、実際の従事期間の1/2とする。
(3) 次のアからオまでのいずれかの所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業への従事期間が1年以上あること。
ア 乾燥肺重量1g当たり5,000本以上の石綿小体
イ 乾燥肺重量1g当たり200万本以上の石綿繊維(5μm超)
ウ 乾燥肺重量1g当たり500万本以上の石綿繊維(1μm超)
エ 気管支肺胞洗浄液1ml中5本以上の石綿小体
オ 肺組織切片中の石綿小体又は石綿繊維
(4) 次のア又はイのいずれかの所見が得られ、かつ、石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること。
ア 胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影が認められ、かつ、胸部CT画像により当該陰影が胸膜プラークとして確認されるもの。
胸膜プラークと判断できる明らかな陰影とは、次の(ア)又は(イ)のいずれかに該当する場合をいう。
(ア) 両側又は片側の横隔膜に、太い線状又は斑状の石灰化陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。
(イ) 両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に、石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。
イ 胸部CT画像で胸膜プラークを認め、左右いずれか一側の胸部CT画像上、胸膜プラークが最も広範囲に描出されたスライスで、その広がりが胸壁内側の1/4以上のもの。
(5) 第1の2の石綿ばく露作業のうち、(3)のア、イ若しくは(4)のいずれかの作業への従事期間又はそれらを合算した従事期間が5年以上あること。ただし、従事期間の算定において、平成8年以降の従事期間は、実際の従事期間の1/2とする。
(6) 第2の4の要件を満たすびまん性胸膜肥厚を発症している者に併発したもの。
3 中皮腫
石綿ばく露労働者に発症した胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜の中皮腫であって、次の(1)又は(2)に該当するものは、最初の石綿ばく露作業(労働者として従事したものに限らない。)を開始したときから10年未満で発症したものを除き、別表第1の2第7号8に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
(1) 石綿肺の所見が得られていること。
(2) 石綿ばく露作業の従事期間が1年以上あること。
4 びまん性胸膜肥厚
石綿ばく露労働者に発症したびまん性胸膜肥厚であって、次の(1)から(3)までのいずれの要件にも該当する場合には、別表第1の2第4号7に該当する業務上の疾病として取り扱うこと。
(1) 胸部CT画像上、肥厚の広がりが、片側にのみ肥厚がある場合は側胸壁の1/2以上、両側に肥厚がある場合は側胸壁の1/4以上あるものであること。
(2) 著しい呼吸機能障害を伴うこと。
この著しい呼吸機能障害とは、次のア又はイに該当する場合をいうものであること。
ア パーセント肺活量(%VC)が60%未満である場合
イ パーセント肺活量(%VC)が60%以上80%未満であって、次の(ア)又は(イ)に該当する場合
(ア) 1秒率が70%未満であり、かつ、パーセント1秒量が50%未満である場合
(イ) 動脈血酸素分圧(PaO2)が60Torr以下である場合又は肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)が別表の限界値を超える場合
(3) 石綿ばく露作業への従事期間が3年以上あること。
第3 認定に当たっての留意事項
1 肺がん関係
(1) 第2の2の(3)のアに示す乾燥肺重量1g当たりの石綿小体の数については、標準的な方法(現時点においては独立行政法人労働者健康福祉機構・同環境再生保全機構発行の「石綿小体計測マニュアル(第2版)」に示された方法)により計測されたものを用いること。
(2) 第2の2の(3)のオに示す「肺組織切片中の石綿小体又は石綿繊維」の所見とは、通常、プレパラート上に作成された肺組織の薄切り試料の中に石綿小体又は石綿繊維が光学顕微鏡で確認された場合をいうものであること。
(3) 第2の2の(4)のアにおける「胸膜プラークと判断できる明らかな陰影」の所見については、別添1(「胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影」に係る画像例及び読影における留意点等)の内容に則して判断されるべきものであること。
2 中皮腫関係
中皮腫は診断が困難な疾病であるため、臨床所見、臨床検査結果だけではなく、病理組織検査結果に基づく確定診断がなされることが重要である。確定診断に当たっては、肺がん、その他のがん、結核性胸膜炎、その他の炎症性胸水などとの鑑別が必要となる。
このため、中皮腫の業務上外の判断に当たっては、病理組織検査記録等も収集の上、確定診断がなされているかを必ず確認すること。
なお、病理組織検査が行われていない事案については、改めて病理組織検査に基づく確定診断が行われるようにし、それが実施できないものであるときは、体液腔細胞診、臨床検査結果(腫瘍マーカーを含む。)、画像所見、臨床経過、他疾患との鑑別を踏まえて診断が行われるようにすること。
3 びまん性胸膜肥厚関係
(1) びまん性胸膜肥厚は、胸郭の臓側胸膜に炎症があり、それが壁側胸膜に波及し、両者がゆ着している病態のうち、石綿ばく露を原因として生じたものをいうが、びまん性胸膜肥厚の診断は、別添2(「びまん性胸膜肥厚」の診断方法)の内容に則して行われるべきものであること。
(2) びまん性胸膜肥厚と同様の病態、すなわち胸郭の臓側胸膜に炎症があり、それが壁側胸膜に波及し、両者がゆ着している病態は、臨床上、以下に示すような石綿による疾病以外の肺疾患等に伴いよくみられるものであることから、びまん性胸膜肥厚の業務上外の判断に当たっては、その診断根拠となった臨床所見、臨床経過、臨床検査結果等の資料を収集し、石綿ばく露を原因として生じたものとの診断が適切になされていることを確認すること。
ア 感染症(細菌性膿胸、結核性胸膜炎)
イ 膠原病(リウマチ性胸膜炎ほか)
ウ 薬剤性線維性胸膜炎
エ 放射線治療(後)
オ 外傷性血胸
カ 冠動脈バイパス術等の開胸術(後)
キ 尿毒症性胸膜炎
ク 悪性腫瘍
(3) びまん性胸膜肥厚について、著しい呼吸機能障害を伴うものであるか否かを判定する際に、「パーセント肺活量(%VC)」並びに「1秒率」、「パーセント1秒量」、「動脈血酸素分圧(PaO2)」及び「肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)」(以下「1秒率等」という。)の各指標を用いる意義は、それぞれ次のとおりであること。
ア パーセント肺活量(%VC)
パーセント肺活量(%VC)は、肺活量の正常予測値に対する実測値の割合(%)で示される指標である。
びまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害は、通常、拘束性換気障害を呈するものであることから、拘束性換気障害の程度を評価する指標としてこれを用いる。
なお、肺活量の正常予測値は、2001年に日本呼吸器学会が提案した次の予測式により算出する(次のイの予測式も同様である。)。
[予測式]
男性:0.045×身長(cm)-0.023×年齢-2.258(L)
女性:0.032×身長(cm)-0.018×年齢-1.178(L)
イ 1秒率等
1秒率は、努力肺活量に対する1秒間の呼出量(1秒量)の割合(%)で示される指標であり、また、パーセント1秒量は、1秒量の正常予測値に対する実測値の割合(%)で示される指標である。
現段階では、びまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害について、拘束性換気障害に閉塞性換気障害が合併することがあり得ることも否定できないことから、閉塞性換気障害の程度を評価する指標としてこれらを用いる。
[予測式]
男性:0.036×身長(cm)-0.028×年齢-1.178(L)
女性:0.022×身長(cm)-0.022×年齢-0.005(L)
さらに、動脈血酸素分圧(PaO2)は、低酸素血症の程度を示す指標であり、肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)は、ガス交換障害の程度を示す指標であり、びまん性胸膜肥厚による呼吸機能障害の程度を判定するための補完的な指標として用いる。
4 特別遺族給付金に係る対象疾病の認定について
石綿による健康被害の救済に関する法律(平成18年法律第4号)に基づく特別遺族給付金の認定における疾病の特定及び死亡の原因の判断については、上記2及び3にかかわらず、特別遺族給付金の支給請求書に添付された死亡診断書等の記載事項証明書等の記載内容により判断すれば足りるものであること。
ただし、死亡の原因の判断については、石綿肺(石綿肺合併症を含む。)、中皮腫、肺がん及びびまん性胸膜肥厚に限るものであること。
5 本省協議
以下の事案については、関係資料を添えて本省に協議すること。
(1) 肺がん
ア 最初の石綿ばく露作業を開始したときから10年未満で発症したもの(第2の2のいずれかの要件に該当するものに限る。)。
イ 第2の2の(2)において、胸膜プラークは認められるものの、石綿ばく露作業への従事期間が10年に満たないもの(ただし書きが適用された結果、算定した従事期間が10年に満たないものを含む。)。
ウ 乾燥肺重量1g当たり1,000本以上5,000本未満又は気管支肺胞洗浄液1ml中1本以上5本未満の石綿小体が認められるもの。
エ 第2の2の(3)又は(4)のいずれかの所見は得られているが、石綿ばく露作業への従事期間が1年に満たないもの。
オ 第2の2の(5)のただし書きが適用された結果、算定した従事期間が5年に満たないもの。
(2) 中皮腫
ア 胸膜、腹膜、心膜又は精巣鞘膜以外の中皮腫と診断されたもの。
イ 第2の3の(1)又は(2)に該当するが、最初の石綿ばく露作業を開始したときから10年未満で発症したもの。
ウ 第2の3の(1)及び(2)のいずれにも該当しないもの。
(3) 良性石綿胸水
全事案
(4) びまん性胸膜肥厚
第2の4の(1)及び(2)の要件に該当するが、(3)の要件に該当しないもの。
(5) その他の疾病
第2で認定要件を定めていない疾病で、石綿により発症したものとして請求があったもの。
別表
肺胞気動脈血酸素分圧較差(AaDO2)限界値
年齢 (歳) |
限界値 (Torr) |
年齢 (歳) |
限界値 (Torr) |
21 |
28.21 |
51 |
34.51 |
22 |
28.42 |
52 |
34.72 |
23 |
28.63 |
53 |
34.93 |
24 |
28.84 |
54 |
35.14 |
25 |
29.05 |
55 |
35.35 |
26 |
29.26 |
56 |
35.56 |
27 |
29.47 |
57 |
35.77 |
28 |
29.68 |
58 |
35.98 |
29 |
29.89 |
59 |
36.19 |
30 |
30.10 |
60 |
36.40 |
31 |
30.31 |
61 |
36.61 |
32 |
30.52 |
62 |
36.82 |
33 |
30.73 |
63 |
37.03 |
34 |
30.94 |
64 |
37.24 |
35 |
31.15 |
65 |
37.45 |
36 |
31.36 |
66 |
37.66 |
37 |
31.57 |
67 |
37.87 |
38 |
31.78 |
68 |
38.08 |
39 |
31.99 |
69 |
38.29 |
40 |
32.20 |
70 |
38.50 |
41 |
32.41 |
71 |
38.71 |
42 |
32.62 |
72 |
38.92 |
43 |
32.83 |
73 |
39.13 |
44 |
33.04 |
74 |
39.34 |
45 |
33.25 |
75 |
39.55 |
46 |
33.46 |
76 |
39.76 |
47 |
33.67 |
77 |
39.97 |
48 |
33.88 |
78 |
40.18 |
49 |
34.09 |
79 |
40.39 |
50 |
34.30 |
80 |
40.60 |
注) AaDO2が各年齢の限界値を超える場合に著しい呼吸機能障害があると判定する。
別添1
「胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影」に係る画像例及び読影における留意点等
1 「胸部正面エックス線写真により胸膜プラークと判断できる明らかな陰影」に係る画像例
(1) 「両側又は片側の横隔膜に、太い線状又は斑状の石灰化陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。」に係るもの―図1及び写真1、2
図1 典型的な種々の横隔膜部石灰化像
参考写真1 典型的石灰化胸膜プラークの一例
両側横隔膜に太い線状の石灰化陰影が認められ、肋横角は消失していない。
参考写真2 写真1の右拡大図
(2) 「両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に、石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ、肋横角の消失を伴わないもの。」に係るもの―写真3、4
参考写真3 側胸部にみられる非石灰化胸膜プラーク例
両側側胸壁の第6から第10肋骨内側に、石灰化の有無を問わず非対称性の限局性胸膜肥厚陰影が認められ、肋横角の消失を伴わない。
参考写真4 写真3の右拡大図
2 胸部CT画像における胸膜プラークの広がりに関する計測方法
胸部CT画像での胸膜プラークの広がりは、左右いずれか一側の胸部CT画像において最も広範囲に胸膜プラークが描出されたスライスを選択し、胸壁内側の長さを4等分し、胸膜プラークの広がりが1/4以上であるか否かを計測する。一側胸壁の範囲は、腹側は胸骨縁から背側は肋骨起始部に至るまでの胸壁内側とする(写真5)。胸膜プラークが複数ある場合(同一スライスで縦隔胸膜に認められる胸膜プラークを含む。)は、各胸膜プラークの範囲を合計する(写真6)。
参考写真5 胸膜プラークのCT画像における胸壁内側の拡がりの測定法
胸壁内側の長さの4等分を示す。
参考写真6 CT画像における胸膜プラークの広がりの実測例
胸膜プラークの広がりが、同一スライスの胸壁内側の長さの1/4以上か否かを計測する。この例では、4個の胸膜プラーク(写真中に図示)を合計した範囲は1/4以上と判断される。
3 胸部画像の撮像条件及び胸膜プラークの読影における留意点
(1) 胸部正面エックス線写真及び胸部CTの撮像条件について
胸部正面エックス線写真は、じん肺健康診断における撮影条件(じん肺診査ハンドブック)に基づいて適切な条件のもとに撮影されたもので読影に供されるべきである。DR写真、CR写真については、「じん肺健康診断及びじん肺管理区分の決定におけるDR(FPD)写真及びCR写真の取扱い等について」の一部改正について(基安労発1216第1号、平成22年12月16日)及び「じん肺健康診断及びじん肺管理区分の決定におけるDR(FPD)写真及びCR写真の取扱い等について」の一部改正について(基安労発0926第3号、平成23年9月26日)に基づいて撮像されたものであること。
胸部CTは、背臥位又は腹臥位で深吸気位にて撮像する。画像は、できれば5mm幅、5mm間隔が望ましい。機種にもよるが、おおむね肺野条件(window level-600~-700HU、window幅1,000~2,000HU)と縦隔条件(window leve10~50HU、window幅300~500HU)の範囲内で、使用する機器に応じた条件で表示する。胸膜プラークが疑われる場合には、可能な限り高分解能CT(HRCT)を行うのが望ましい。なお、早期の石綿肺の検出には腹臥位がよい。
(2) 胸膜プラーク読影における留意点
胸膜プラークは、石綿ばく露に起因する壁側胸膜の線維性組織の増生からなる変化で、限局性の平板状隆起を示す。通常は両側に多発するが、肺尖部や肋横角部近辺にはみられない。
胸部正面エックス線写真で肋横角の消失がある場合には、結核性胸膜炎や膿胸などの胸膜疾患の後遺症の可能性がある。このため、肋横角の消失がある側では胸膜プラークの有無についての診断は行わない。
胸部正面エックス線写真での側胸壁内側の胸膜肥厚所見については、胸筋による陰影、胸膜下脂肪組織による陰影、肋骨随伴陰影(肋間筋、脂肪組織)との鑑別が必要である。これらは、両側で左右対称性の陰影として描出される場合が多い。また、古い肋骨々折後の化骨像や胸壁腫瘍などが胸膜プラークと混同される場合がある。胸膜プラークによる側胸壁内側の胸膜肥厚は、限局性で左右の形状は非対称性であり、内部に石灰化を伴う場合もある。
胸部CT画像上の胸膜プラークは、壁側胸膜の限局性肥厚を示す所見である。縦隔条件で肥厚の境界部が明らかで、かつ、肥厚部分の陰影濃度(CT値)が胸筋と比べて同等又はそれ以上であることが確認できるものとする。また、縦隔条件ばかりでなく肺野条件も用いて肺野の変化に伴う胸膜の肥厚でないことを確認する。胸膜プラークと紛らわしい脂肪や肋間静脈の肥厚像を例示する(写真7,8)。
参考写真7 胸膜プラークと見誤りやすいものの一例(脂肪)
参考写真8 胸膜プラークと見誤りやすいものの一例(肋間静脈)
別添2
「びまん性胸膜肥厚」の診断方法
「びまん性胸膜肥厚」の診断は、画像による以外に有効なものはなく、専ら胸部エックス線写真、胸部CT画像の読影によることとなる。石綿ばく露以外の原因による疾患との鑑別がなされ、かつ石綿の職業ばく露歴が認められることを前提に以下の画像診断を行うことが適当である。
1 胸部エックス線写真による診断
びまん性胸膜肥厚の診断に関し、レントゲン学的にさまざまな定義が試みられているが、国際的に統一されたものはなく、2000年のILO国際じん肺標準フィルムによるびまん性胸膜肥厚の定義は、厚さが3mm以上としている。しかし、厚さや広がりだけで、びまん性胸膜肥厚と、胸膜外脂肪組織との鑑別ができないのも事実である。また、融合した胸膜プラークとの鑑別もできない。
他方、肋横角(costophrenic angle)の消失(obliteration)をびまん性胸膜肥厚の所見とした場合には、肋横角消失を伴わない非常に稀なびまん性胸膜肥厚例が除外されるが、読影者間のばらつきが極めて小さくなるという意味で有用である。胸部CT画像所見に基づく精査を踏まえた結果においても、肋横角の消失による定義の方が一定の厚みと広がりによる定義よりも信頼性が高いとされており、胸部エックス線写真上の定義としては、肋横角の消失の方が最近では重要視されている。
ただし、胸部エックス線写真では、びまん性胸膜肥厚が十分に疑われるものでありながら肋横角の消失が認められない症例や胸膜外脂肪組織や融合した胸膜プラークとの鑑別が必要な症例もあることから、胸部CT画像による診断を併せて行うべきである。
2 胸部CT画像
多くの研究報告によれば、胸部エックス線写真と比べて、胸部CT画像は胸膜プラークやびまん性胸膜肥厚の所見、さらには軽度の肺線維化の所見を検出し、胸膜外脂肪との鑑別にはるかに有用であることは明らかである。我が国でのCT機器の普及を考慮すると、胸部エックス線写真による診断と胸部CT画像による診断を併せて評価するべきである。
なお、胸部CT画像による診断においては、胸膜がびまん性に肥厚している状態を確認するとともに、胸膜プラークの有無のチェックも重要である。
○(参考画像)びまん性胸膜肥厚の胸部エックス線写真及び胸部CT画像例