img1 img1 img1

◆トップページに移動 │ ★目次のページに移動 │ ※文字列検索は Ctrl+Fキー  

通達:労働者災害補償保険法第31条第1項第3号に基づく費用徴収の適正な取扱いについて

 

労働者災害補償保険法第31条第1項第3号に基づく費用徴収の適正な取扱いについて

平成24年3月29日基労補発0329第2号

(都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知)

 

標記については、昭和47年9月30日付け基発第643号「事業主からの費用徴収の規定の取扱いについて」(以下「局長通達」という。)により指示されているが、その運用に当たっては、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号。以下「労災保険法」という。)第31条第1項第3号事案は、第1号事案や第2号事案と異なり、基本的には労災保険に加入し、労働保険料を納付していることを踏まえて対応する必要がある旨を指示し、平成14年3月には事例集を作成して例示したところである。

しかしながら、近年別紙のとおり、局長通達の趣旨等に沿わない事例が散見されることから、改めて下記の事項に留意し、適正な費用徴収の実施に遺漏なきよう期されたい。

 

1 局長通達の2の(1)のイの取扱いについて

局長通達の2の(1)のイに定める「法令に危害防止のための直接的かつ具体的な措置が規定されている場合に、事業主が当該規定に明白に違反したため、事故を発生させたと認められるとき」の「当該規定に明白に違反した」とは、送検事例のすべてが該当となるものではない。

すなわち、送検事例のうち、何ら防止措置を講じていなかったと認められる場合に費用徴収すべき事案に該当するものであり、不十分てあっても、事故の防止に寄与し得る一定の措置を講じていたと認められるときには、該当しないものであること。

また、「当該規定に明白に違反したため、事故を発生させたと認められるとき」に費用徴収を行う場合は限られることから、事故の直接発生原因ではない事項について法令違反が認められたとしても、費用徴収の対象にはならないこと。

2 労災保険法第31条第1項第3号の取扱いについて、なお疑義が生じた場合には、当課業務係まで協議すること。

 

別紙

違反が死亡災害の直接原因であるが、事業主が一定の措置を講じていた場合

○ 審査請求人

有限会社 A 代表取締役 B

○ 事案の概要

・ 被災者は、平成20年8月にプレスの運転を停止してプレスの材料送り装置の修理を行っていたところ、他のプレス担当職員(同僚)がプレスを稼働したため、材料自動送り装置のフィードバーが移動し、被災者はフィードバーと自動送り装置との間に挟まれて死亡した(以下「本件災害」という。)。

・ 福岡局長は、本件災害が審査請求人の故意又は重大な過失により発生した事故であるとして、平成21年12月に費用徴収決定(以下「本件処分」という。)を行った。

○ 処分庁の主張(概要)

・ 本件災害は機械等による危険を防止するための具体的な措置を規定している安衛法に明白に違反したために発生したものであり、当該法違反が書類送検され、罰金刑が確定している本件は費用徴収の対象であり、審査請求は棄却されるべきである。

○ 裁決(概要)

1 主文

本件処分を取り消す。

2 理由

(1) 被災者にプレスの修理を指示していたプレスの安全管理責任者は、プレス操作盤付近にいた他のプレス担当職員に、プレス材料自動送りのカバーを取り付けているので絶対にプレスを動かすなとの指示を行っていたと認められる。

(2) 請求人の上記(1)の指示は、プレス運転を停止している時にプレス運転の開始を防止するための一定の措置を講じていることから、法令の規定に明白に違反したとまではいえない。

(3) 請求人に安衛法違反は認められるが、当該違反に明白に違反したとまではいえず、本件処分を取り消すのが相当である。

【ポイント】

法令に定める措置を不十分とはいえ、講じていたと認められること。

違反が死亡災害の直接原因であるが、事業主が一定の措置を講じていた場合

○ 審査請求人

C (株) 代表取締役 D

○ 事案の概要

・ 被災者は、平成20年3月に水道菅を地面下に敷設するためにたて抗内で作業していたところ、掘削面の地山が崩壊し、土砂に埋まり死亡した(以下「本件災害」という。)。

・ 茨城局長は、本件災害が審査請求人の故意又は重大な過失により発生した事故であるとして、平成22年7月に費用徴収決定(以下「本件処分」という。)を行った。

○ 処分庁の主張(概要)

・ 本件災害が発生したたて抗において土止め支保工等を設ける等の安衛法に定める措置が講じられていれば、本件災害を防止し得た可能性が高いと認められる。

・ 本件は、地山の崩壊等により労働者に危害を及ぼすおそれがあったにもかかわらず、当該危険を防止する措置を講じなかったために災害が発生したもので、費用徴収の対象である。

○ 裁決(概要)

1 主文

本件処分を取り消す。

2 理由

(1) 請求人は、本件災害発生当日に、前日に埋設した水道管上の路床(舗装路盤の土台となる層)について、転圧機等を使用して入れ替える作業を行っていたことが認められる。

(2) 請求人の上記(1)の作業は、地山の崩壊することを防止するための一定の措置を講じているものと認められ、本件は、法令の規定に明白に違反したとまではいえず、本件処分を取り消すのが相当である。

【ポイント】法令の明文の規定や解釈では示されていない措置ではあるが、災害防止に寄与し得る措置を講じていたと認められること。

違反が死亡災害の直接原因に当たらない場合

○ 審査請求人

(有) D 代表取締役 E

○ 事案の概要

・ 被災労働者は、平成21年12月にタイヤ・ローラーで走行していたところ、下り坂で横転しタイヤ・ローラーの下敷きになり死亡し(以下「本件災害」という。)、業務災害と認定された。

・ 岡山局長は、本件災害が審査請求人の故意又は重大な過失により発生した事故であるとして、平成22年9月に費用徴収決定(以下「本件処分」という。)を行った。

○ 処分庁の主張(概要)

・ 本件災害は、タイヤ・ローラーを用いて作業を行う場合に作業計画を定めておらず、安衛法に定める労働者の危険を防止するため必要な措置を講じなかったことにより発生したものとして書類送検され、罰金刑が確定しており、本件は通達の費用徴収決定の要件に該当する。

○ 裁決(概要)

1 主文

本件処分を取り消す。

2 理由

(1) 被災労働者が運転するタイヤ・ローラーは、勾配8度の急カーブの坂を30km~40kmで進入し、急ブレーキをかけたところ横転したことから、本件災害の直接の原因は、被災者が運転を誤ったことによると考えられる。

(2) 処分庁は、本件災害は請求人がタイヤ・ローラーを用いて作業する際の作業計画を定めていなかったことを原因として発生したものとしているが、当該原因を本件災害の直接原因とするとまでは言えない。

(3) 請求人に安衛法違反は認められるが、当該違反が本件災害の直接原因となっているとまでは言えず、本件処分を取り消すのが相当である。

【ポイント】死亡災害に関連する違反ではあるが、当該違反が災害の直接原因でないこと。