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心理的負荷による精神障害の認定基準の運用等について
平成23年12月26日基労補発1226第1号
(都道府県労働局労働基準部長あて厚生労働省労働基準局労災補償部補償課長通知)
心理的負荷による精神障害の認定基準については、平成23年12月26日付け基発1226第1号「心理的負荷による精神障害の認定基準について」(以下「認定基準」という。)をもって示されたところであるが、地方労災医員協議会精神障害等部会(以下「専門部会」という。)の運用等については下記によられたい。
また、判断指針との相違点等について別添のとおり整理したので、業務の参考とされたい。
さらに、「精神障害の労災認定の基準に関する専門検討会報告書(平成23年11月)」には、認定基準の要件等に関する背景や考え方が記述されているので、精読されたい。
記
1 専門部会の運用
(1) 都道府県労働局への報告等
認定基準第6の1及び2に基づき専門部会の意見を求めず決定する事案(以下「主治医等決定事案」という。)については、当分の間、決定前に都道府県労働局労働基準部労災補償課(以下「局」という。)に事案の概要を報告すること。
局においては、その内容を検討し、慎重な医学的検討が必要と認められる場合には、認定基準第6の3④により専門部会の意見を求めるよう指示すること。
(2) 専門部会への報告
主治医等決定事案については、決定後、事案の概要について専門部会に定期的に報告すること。
2 認定基準の周知等
(1) 認定基準の周知
精神障害の労災認定に関し相談等があった場合には、おって配付するパンフレット等を活用することにより、認定基準等について懇切・丁寧に説明をすること。
また、医療機関及びその関係団体、事業主団体、労働組合、労働相談等を実施している地方公共団体等の関係機関に対しても、機会をとらえて周知を図ること。
(2) 職員研修等の実施
精神障害の労災認定に関する十分な理解や専門的知識等を修得させるため、別途送付する資料を活用する等により、職員研修等を計画的に実施し、職員の資質向上に努めること。
また、地方労災医員に対しても、同様に認定基準について情報提供し、その考え方等について説明すること。
3 調査中の事案等の取扱い
認定基準発出日において調査中の事案及び審査請求中の事案は、認定基準に基づいて決定すること。
また、認定基準発出日において係争中の訴訟事案のうち、認定基準に基づいて判断した場合に訴訟追行上の問題が生じる可能性のある事件については、当課労災保険審理室に協議すること。
4 通達の改廃
平成11年9月14日付け事務連絡第9号、平成12年3月24日付け事務連絡第3号、平成17年12月1日付け基労補発第1201001号、平成20年2月6日付け基労補発第0206001号及び平成21年4月6日付け基労補発第0406001号は廃止する。
(別添)
認定基準と判断指針の主な相違点
1 通達の標題について
(1) 「認定基準」の名称
平成11年9月14日付け基発第544号「心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針について」(以下「判断指針」という。)の標題にある「判断指針」の名称は、すべての事案について専門部会の判断に基づいて業務上外を決定する等、他の疾病の認定基準とは異なる点も多い等の理由から用いられたものである。
平成22年5月に労働基準法施行規則別表第1の2第9号に「人の生命にかかわる事故への遭遇その他心理的に過度の負担を与える事象を伴う業務による精神及び行動の障害又はこれに付随する疾病」が追加されたこと等も踏まえ、今回、精神障害の業務起因性を肯定し得る要素をより具体的に定め、一部は専門部会の判断を要しないものとしたこと等から、他の疾病に関するものと同様、「認定基準」の名称を用いることとした。
したがって、精神障害について認定基準に定める要件に該当した場合には、原則として業務上と判断できるものである。
(2) 「精神障害」
判断指針の標題は「精神障害等」となっており、「等」は自殺を指すものとされていたが、従来より、自殺の業務起因性の判断の前提として、精神障害の業務起因性の判断を行っていたことから、この趣旨を明確にするため「等」を削除したものであり、実質的な変更はない。
2 対象疾病について(認定基準第1関係)
対象疾病について一部字句の変更があるが、従来の取扱いを明確にする趣旨のもので、実質的な変更はない。
3 認定要件等について(認定基準第2及び第3関係)
認定要件について一部字句の変更があるが、実質的な変更はない。
また、認定要件に関する基本的な考え方についても同様である。
4 発病の有無等の判断について(認定基準第4の1関係)
発病の時期の特定が難しい場合の取扱いについて、次の2点を明確にした。
第一に、できる限り発病の時期の範囲を絞り込むことであり、少なくとも「○月○旬頃」まで絞り込んだ医学意見を求めることを意図している。この点は、労働時間数の算定等において重要となる。
第二に、出来事の前と後に発病と考えられる言動がみられ、発病時期はどちらとも考えられるが特定が難しい場合は、出来事の後に発病したと取り扱うことであり、発病後の悪化の事案として判断するか否かにおいてこの点は重要となる。
5 業務による心理的負荷の強度の判断について(認定基準第4の2関係)
(1) 業務による心理的負荷評価表
業務による心理的負荷の評価方法を明確にするため、新たに「業務による心理的負荷評価表」(以下「別表1」という。)を定めた。
なお、従来「強」と判断されていたものは、別表1に基づく評価によっても、基本的に「強」と判断される。
主な変更点は次のとおりである(参考1及び参考2参照)。
ア 「出来事」と「出来事後の状況」の一括評価
判断指針では、業務による心理的負荷の強度について、まず出来事の心理的負荷の強度を評価し、次に、出来事後の状況が持続する程度を評価し、これらを総合評価して業務による心理的負荷を判断していたが、認定基準では、「出来事」と「出来事後の状況」を一括して心理的負荷を「強」、「中」、「弱」と判断することとして、別表1の中に具体例を示した。
このうち、類型①「事故や災害の体験」については、出来事後の状況が相当程度過重といえない場合でも心理的負荷が「強」と認められ得るものとなっている。
イ 「出来事の類型」の見直し
「出来事の類型」については、類似するものを統合する等の観点から、次のとおり見直している。
(ア) 「仕事の量・質」
判断指針の「仕事の量・質の変化」とほぼ同趣旨であるが、「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」等、必ずしも「変化」を伴わない状況を出来事として本類型に含めたことから、表現を改めた。
(イ) 「役割・地位の変化等」
判断指針の「身分の変化等」及び「役割・地位等の変化」については、類似することから統合した。
(ウ) 「対人関係」
判断指針の「対人関係のトラブル」及び「対人関係の変化」については、類似することから統合した。
(エ) 「セクシユアルハラスメント」
「セクシュアルハラスメントを受けた」は、判断指針では「対人関係のトラブル」に分類されていたが、セクシュアルハラスメントは「対人関係のトラブル」という分類から想定される、対人関係の相互性の中で生じるものに限らないことから、独立した類型とした。
ウ 「具体的出来事」の見直し
「具体的出来事」については、類似する項目や発生頻度が小さい項目は統合し、最近の職場環境の変化に伴い業務による心理的負荷として感じられることが多い出来事は追加する等の観点から、次のとおり見直している。
(ア) 「(重度の)病気やケガをした」等
「(重度の)病気やケガをした」は、「重度の」病気やケガであることを前提に、平均的な心理的負荷(Ⅲ)を定めているが、重度とはいえない病気やケガの場合にも、本項目に当てはめる(その上で、心理的負荷の総合評価は「中」や「弱」となる)こととなる。その趣旨を明確にするため、「重度の」という表現をカッコ書きにした。
また、「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」、「(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた」のカッコ書きも同じ趣旨である。
(イ) 「業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした」
判断指針の「交通事故(重大な人身事故、重大事故)を起こした」及び「労働災害(重大な人身事故、重大事故)の発生に直接関与した」については、類似することから統合するとともに、業務に関連してなされた場合に評価することを明確にした。
(ウ) 「自分の関係する仕事で多額の損失等が生じた」
判断指針の「自分の関係する仕事で多額の損失を出した」と同趣旨であるが、本項目は、自分のミスによらずに多額の損失等が生じた場合の心理的負荷を評価する項目であることを明確にした。
(エ) 「業務に関連し、違法行為を強要された」
判断指針の「違法行為を強要された」と同趣旨であるが、当該違法行為の強要が、業務に関連してなされた場合に評価することを明確にした。
(オ) 「仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった」
判断指針の「仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった」及び「勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた」については、類似することから統合した。
また、判断指針の「研修、会議等の参加を強要された」、「職場のOA化が進んだ」、「部下が増えた」、「同一事業場内での所属部署が統廃合された」、「担当ではない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った」については、発生頻度が小さい(決定件数が少ない)ことと、通常、本項目としての評価が可能であることから、これらの項目を廃止した。
(カ) 「1か月に80時間以上の時間外労働を行った」
判断指針においては、極度の長時間労働の場合を除き、長時間労働それ自体は心理的負荷の生じる「出来事」として評価されなかったが、他に特段の出来事が存在しない場合を想定して、長時間労働それ自体を「出来事」とみなし、本項目を新設した。
(キ) 「2週間(12日)以上にわたって、連続勤務を行った」
最近の職場環境の変化に伴い、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設した。業務量が多いこと等から本来取得できるはずの休日が取得できず、連続勤務を行ったことの心理的負荷を評価する項目である。
(ク) 「配置転換があった」及び「転勤をした」
いずれも判断指針にあった項目であるが、人事異動のうち「転勤をした」は転居を伴うものが該当し、「配置転換があった」は転居を伴わないものが該当すること等が明確となるよう説明を加えた。
また、判断指針の「出向した」及び「左遷された」について、いずれも人事異動の一形態であることから、「配置転換があった」及び「転勤をした」に統合した。その際、判断指針では「左遷された」の平均的な心理的負荷は「Ⅱ」であったが、ストレス評価に関する調査研究の結果に基づき、心理的負荷が「強」になる具体例として示している。
(ケ) 「非正規社員である自分の契約満了が迫った」
最近の職場環境の変化に伴い、業務による心理的負荷として感じられる出来事として新設した。期間の定めのある労働契約を締結している労働者について、その契約期間の満了が迫ったことの心理的負荷を評価する項目である。
(コ) 「同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された」
判断指針の「昇進で先を越された」及び「同僚の昇進・昇格があった」については、類似することから統合した。
エ 平均的な心理的負荷の強度の見直し
「具体的出来事」のうち、「同僚とのトラブルがあった」については、ストレス評価に関する調査研究の結果に基づき、平均的な心理的負荷の程度を「Ⅰ」から「Ⅱ」に引き上げた。
(2) 出来事の評価に当たっての留意点
認定基準第4の2(5)のうち、①の発病前おおむね6か月の間に生じた苦痛等を出来事とみなすこと及び②の出来事が繰り返されるものについては開始時からのすべての行為を評価の対象とすることについては、取扱いを変更した。
6 業務以外の心理的負荷及び個体側要因の判断(認定基準第4の3関係)
認定要件における業務以外の心理的負荷及び個体側要因の意義は判断指針と同一であるが、業務による強い心理的負荷が認められたにもかかわらず業務以外の心理的負荷又は個体側要因により発病したとして業務外と判断しているものがほとんとない等の実情も勘案し、審査の迅速化、請求人の負担軽減を図る観点から、これらの事項に係る調査・判断について簡略化するための変更をした。
7 精神障害の悪化の業務起因性(認定基準第5関係)
判断指針では、精神障害の発病の業務起因性のみを検討の対象としていたが、認定基準では発病後の悪化についても特例的に業務起因性を認めることとした。
8 専門家意見と認定要件の判断(認定基準第6関係)
判断指針では、すべての事案について、複数の専門家による合議等の結果に基づき業務上外を判断することとしていたが、これを変更し、主治医の意見に基づき判断する事案、専門医の意見も求めて判断する事案及び引き続き専門部会の意見に基づき判断する事案に区分することとした(参考3参照)。
9 本省協議(認定基準第8の3関係)
従来、平成11年9月14日付け事務連絡第9号において本省協議を指示していたものであり、実質的な変更はない。
なお、別表1に示した「具体的出来事」のいずれにも類推適用できない出来事の評価についても、「本認定基準により判断することが適当ではない事案」に含まれ協議対象となる。
参考1
業務による具体的出来事等の新旧対照表
現 行 |
改 正 |
||||
出来事の類型 |
具体的出来事 |
平均的な心理的負荷の強度 |
出来事の類型 |
具体的出来事 |
平均的な心理的負荷の強度 |
①事故や災害の体験 |
重度の病気やケガをした |
Ⅲ |
①事故や災害の体験 |
(重度の)病気やケガをした |
|
悲惨な事故や災害の体験(目撃)をした |
Ⅱ |
悲惨な事故や災害の体験、目撃をした |
|
||
②仕事の失敗、過重な責任の発生等 |
交通事故(重大な人身事故、重大事故)を起こした |
Ⅲ |
②仕事の失敗、過重な責任の発生等 |
業務に関連し、重大な人身事故、重大事故を起こした(※1) |
|
労働災害(重大な人身事故、重大事故)の発生に直接関与した |
Ⅲ |
削除(※1で評価) |
|
||
会社の経営に影響するなどの重大な仕事上のミスをした |
Ⅲ |
|
|
||
会社で起きた事故(事件)について、責任を問われた |
Ⅱ |
会社で起きた事故、事件について、責任を問われた |
|
||
違法行為を強要された |
Ⅱ |
業務に関連し、違法行為を強要された |
|
||
自分の関係する仕事で多額の損失を出した |
Ⅱ |
自分の関係する仕事で多額の 損失等が生じた |
|
||
達成困難なノルマが課された |
Ⅱ |
|
|
||
ノルマが達成できなかった |
Ⅱ |
|
|
||
新規事業の担当になった、会社の建て直しの担当になった |
Ⅱ |
|
|
||
顧客や取引先から無理な注文を受けた |
Ⅱ |
|
|
||
顧客や取引先からクレームを受けた |
Ⅱ |
|
|
||
研修、会議等の参加を強要された |
Ⅰ |
削除(※2で評価) |
|
||
大きな説明会や公式の場での発表を強いられた |
Ⅰ |
|
|
||
上司が不在になることにより、その代行を任された |
Ⅰ |
|
|
||
③仕事の量・質の変化 |
仕事内容・仕事量の大きな変化を生じさせる出来事があった |
Ⅱ |
③仕事の量・質 |
仕事内容・仕事量の(大きな)変化を生じさせる出来事があった(※2) |
|
勤務・拘束時間が長時間化する出来事が生じた |
Ⅱ |
削除(※2で評価) |
|
||
新規追加 |
|
1か月に80時間以上の時間外労働を行った |
Ⅱ |
||
新規追加 |
|
2週間以上にわたって連続勤務を行った |
Ⅱ |
||
勤務形態に変化があった |
Ⅰ |
|
|
||
仕事のペース、活動の変化があった |
Ⅰ |
|
|
||
職場のOA化が進んだ |
Ⅰ |
削除(※2で評価) |
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||
④身分の変化等 |
退職を強要された |
Ⅲ |
④役割・地位の変化等 |
|
|
出向した |
Ⅱ |
削除(※3で評価) |
|
||
左遷された |
Ⅱ |
削除(※3で評価) |
|
||
非正規社員であるとの理由等により、仕事上の差別、不利益取扱いを受けた |
Ⅱ |
|
|
||
早期退職制度の対象となった |
Ⅰ |
|
|
||
⑤役割・地位等の変化 |
転勤をした |
Ⅱ |
(※3) |
|
|
複数名で担当していた業務を1人で担当するようになった |
Ⅱ |
|
|
||
配置転換があった |
Ⅱ |
(※3) |
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||
自分の昇格・昇進があった |
Ⅰ |
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|
||
部下が減った |
Ⅰ |
|
|
||
部下が増えた |
Ⅰ |
削除(※2で評価) |
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||
同一事業場内での所属部署が統廃合された |
Ⅰ |
削除(※2で評価) |
|
||
担当ではない業務として非正規社員のマネージメント、教育を行った |
Ⅰ |
削除(※2で評価) |
|
||
新規追加 |
|
非正規社員である自分の契約満了が迫った |
Ⅰ |
||
⑥対人関係のトラブル |
ひどい嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた |
Ⅲ |
⑤対人関係 |
(ひどい)嫌がらせ、いじめ、又は暴行を受けた |
|
セクシュアルハラスメントを受けた |
Ⅱ |
類型⑥へ |
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||
上司とのトラブルがあった |
Ⅱ |
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||
部下とのトラブルがあった |
Ⅱ |
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同僚とのトラブルがあった |
Ⅰ |
|
Ⅱ |
||
⑦対人関係の変化 |
理解してくれていた人の異動があった |
Ⅰ |
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|
上司が替わった |
Ⅰ |
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|
||
昇進で先を越された |
Ⅰ |
同僚等の昇進・昇格があり、昇進で先を越された(※4) |
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||
同僚の昇進・昇格があった |
Ⅰ |
削除(※4で評価) |
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||
|
⑥セクシュアルハラスメント |
セクシュアルハラスメントを受けた |
Ⅱ |