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通達:労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について

 

労災補償業務の運営に当たって留意すべき事項について

平成22年2月25日基労発0225第1号

(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局労災補償部長通知)

 

平成22年度における労災補償業務の運営に当たっては、特に下記に示したところに留意の上、実効ある行政の展開に遺憾なきを期されたい。

 

第1 労災補償行政を巡る状況変化への対応と職員の基本姿勢

労災補償行政の基本的使命は、被災労働者等に対する保険給付を適正に実施し、その迅速かつ公正な保護を図ることであり、この使命を的確に果たすためには、労災補償行政を巡る状況変化に即応した業務運営の改善及び推進が極めて重要であるとともに、労災行政組織を支える職員一人一人が、国民への重要な給付サービスを担う者としての基本姿勢を共有し、日々実践することが不可欠である。

1 労災補償行政を巡る状況変化への対応

労災補償業務については、労災保険給付の年度別新規受給者数が近年60万人余で推移する中、全体として概ね良好な運営が確保されつつあり、脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案を中心とする長期未決事案の早期解消、石綿関連疾患への対応、懇切・丁寧な窓口対応の推進、費用徴収等の厳正な実施等諸々の課題の解決に向けた組織的な取組も着実に浸透しつつある。

しかしながら、精神障害等事案や石綿関連疾患に係る事案の請求件数の増加、船員保険(職務上疾病・年金部分)の統合、労災不支給処分等に対する行政争訟案件の急増等により今後さらなる業務量の増大が見込まれる中、引き続き、上記諸課題の解決に向けた取組を円滑に進めるためには、都道府県労働局(以下「局」という。)と労働基準監督署(以下「署」という。)との間の無駄のない連携による組織的な進行管理を基盤とした効率的かつ計画的な業務の実施を一層徹底し、労災補償業務を巡る状況変化への組織としての即応力を維持・向上させることが不可欠である。

また、厳しい定員事情の下で、労災補償業務の質的向上を図るためには、職員一人一人がその能力を十分に発揮することが必要となることから、計画的な研修の実施、職員相互の知識伝達・経験交流の機会の増大等を通じ、職員の業務遂行能力の更なる向上が図られるよう取り組むことが重要である。

2 職員の基本姿勢

労災補償業務の遂行が、国民への重要な給付の提供を行う行政サービスであることを踏まえ、その決定と実施に関する権限と責務を担う職員として、次の基本姿勢をもって日々の業務に臨むべきことを、すべての職員に周知・徹底すること。

① 親切で、わかりやすく、迅速な対応

② 公平、かつ、納得性の高い対応

 

第2 迅速・適正な労災補償業務の徹底

1 労災請求事案等に対する基本的な事務処理の徹底

労災請求事案の事務処理は、業務上外の判断に必要な要件を明確にした上で、調査すべき事項を整理し、法令・通達に照らし適正な決定を行うことが必要であるが、そのためには基本的な事務処理の徹底が不可欠であること。

また、局及び署の管理者はこれらの事項について定期的な検証を行い、問題点の把握及び改善のための方策を講じ、必要な指導を行うこと。

(1) 請求書の即日又は翌日入力の徹底

迅速・適正な保険給付の実施に必要となる組織的な進行管理を行うためには、請求書の即日又は翌日入力を徹底することが不可欠であり、従来から指示しているところであるが、引き続き入力前の請求書の保管場所の特定や入力状況の始業・終業時の確認を行うほか、必要に応じて入力担当者を指定することにより、即日又は翌日入力を確実に実施する事務処理の徹底を図ること。

(2) 適正な事務処理体制の確立と組織的な進行管理

適正な事務処理体制の確立と組織的な進行管理については、昨年度の留意通達でも指示したところであるが、一部の局において依然として不適切な事務処理が発生したところである。

局・署においては、請求(申請)書の受付、審査、支給決定、支払等の事務処理の各段階における役割分担を明白にし、事務処理の進ちょく状況について管理者が把握・管理できる体制を整備の上、的確な進行管理を徹底すること。

なお、管理者の進行管理に当たっては、労災行政情報管理システムから配信される各種未処理事案リストを活用すること。

また、不適正な事務処理防止の観点から、操作カードの管理及び保管は、特に徹底を図ること。

(3) 効率的な調査の実施等

請求があった場合に行う調査は、法令や通達に定める要件を満たすか否かを明らかにするために行うものであり、その結果は労働基準監督署長(以下「署長」という。)が的確な保険給付の決定を行うことができるよう、決定に必要な根拠となる情報について理由を示して記載しなければならない。

したがって、請求事案に応じて請求人の主張も踏まえた必要な調査項目を的確に把握した上で、無駄のない効率的な調査を行い、調査結果復命書に調査の結果として認定した事実とその根拠を記載すること。

なお、適正な障害等級の認定のためには、障害(補償)請求書裏面の診断書の障害の部位及び障害の状態の欄に記載されている障害や既存障害の欄に記載されている障害など単一障害を漏れなく把握するとともに、当該単一障害に対する評価を的確に行うことが不可欠であることから、残っている単一障害の部位・系列、単一障害の障害等級とその根拠、障害等級決定の過程を併せて調査結果復命書に必ず明記すること。

(4) 適正な給付基礎日額の算定の徹底

給付基礎日額の算定については、賃金総額に算入すべき賃金は、現実に既に支払済となった賃金のみをいうのではなく、実際に支払われていないものであっても、平均賃金の算定事由発生日において、賃金債権として確立しているものも含むものであることから、給付基礎日額の調査に際しては、未払いの賃金の有無についても留意して行うこと。

特に、脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案のように長時間にわたる時間外労働が認められる事案については、上記の点に留意して適正な給付基礎日額の算定の徹底を図ること。

(5) 決裁時における支給要件の有無等の確認

決裁時における支給要件の有無等の確認については、既に昨年度の留意通達により指示しているところであるが、依然として要件確認が不十分な局が見受けられるところである。

各種の決裁に当たっては、各種要件の当てはめの適正さの担保や職員相互のけん制体制の確立という機能が適切に働くよう、決裁の流れと決裁者ごとの役割分担を確立し、その上で、各決裁者は事実認定や要件の当てはめ等が適正なものとなっているか等について引き続き留意して決裁を行うこと。

なお、複数の署について同種の事案が認められた等必要な場合には、当該局において署管理者の具体的な点検事項及び留意事項を定める又は当該事項を周知・徹底することにより、適正な決裁の徹底を図ること。

2 長期未決事案の発生防止と早期解消

請求書受付後6か月経過した長期未決事案については、全体としては緩やかに減少傾向にあるものの、依然として相当数存在している。

各局における長期未決事案対策については、長期未決事案に係る処理体制や手順がおおむね局業務実施計画に盛り込まれている状況にあり、長期未決件数が減少していれば、これらが機能しているものと考えられるが、長期未決事案の解消が進まない、あるいはかえって増加している場合には、これらが十分に機能していないものであることから、そのような局にあっては、平成21年度内にその原因を分析し、対策について、局又は署の業務実施計画の見直しを含めて必要な改善を図ること。

具体的には、下記(1)及び(2)の事項が十全に行われるよう、局・署の状況を踏まえた上で、局又は署の業務実施計画及び局・署の取組を見直し、これを徹底させること。

この場合、局業務実施計画には、以下の事項を踏まえた①調査計画書の作成手続、②署長による具体的な進行管理の手法、③局による指示と署の報告の具体的な手順を示せば足りるものであるが、局署の状況を踏まえて記載事項を簡素化することが適当か検討の上、簡素化を行うこと。

また、署業務実施計画は、局業務実施計画に記載されていることを重ねて記載する必要はなく、署における複雑困難事案の割り振り、調査計画を作成すべき事案とその時期、署における進行管理の具体的な手法を簡潔に定め、記載すれば足りるものであるが、署の状況を踏まえて記載事項を簡素化することが適当か検討の上、簡素化を行うこと。

なお、各局は、第3四半期が終了した時点等において、局業務実施計画に沿った業務が実施されているか、また、長期未決事案が減少しているか等について、検証・評価し、必要に応じて局業務実施計画の見直しを行うこと。

(1) 長期未決事案の発生防止

脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案については、請求書受付後速やかに署長に報告させること。

精神障害等事案については署長が加わった事案検討会を遅滞なく開催した上で、当該検討会での議論を踏まえて調査計画を直ちに作成し、必要な調査に着手するとともに、その後速やかに精神障害の発症の時期等について精神部会の医師の意見を聴取の上、特段の事情のない限り受付後1か月内には調査計画について必要な修正等を行なうこと。

精神障害等以外の請求事案で、請求書受付当初においては早期の処理が予定されたため調査計画を作成しなかった事案についても、請求書受付後3か月経過した時点でなお処理が完了するまで相当期間を要するものについては、その時点で判明している事項及び今後調査が必要な事項を明らかにした上で事案検討会を開催し、速やかに調査計画を作成すること。

調査計画については、作成の時期にかかわらず、支給要件の該当の有無を判断するためのポイントを明らかにし、そのために必要となる調査は何かという観点に立ち、不必要な調査や調査漏れによる再調査を行わないよう留意して作成すること。

また、3か月経過した事案については、署管理者は署長管理事案に準じた手法により徹底した事案管理を行い、原則として請求書受付後6か月以内の決定を目指すこととし、そのため、署管理者は調査計画に基づき事案処理のための具体的な指導を行うなど、的確な進行管理を実施すること。

(2) 長期未決事案の早期解消

ア 局管理事案の留意点

局管理事案を原則として請求書受付後9か月経過したものを対象として進行管理を行うこと(該当する事案が多い等の理由により、1年を経過した事案とせざるを得ない局にあっては、当該事態となった要因を分析・検証の上、労働基準部長が先頭に立って、当該事態の解消を平成22年度中に図ること)。

この場合、新たに局管理事案に該当した事案については、まず支給要件の具備の有無を判断するに足る調査等を速やかに終了させる観点から、局労災補償課長(以下「局課長」という。)及び局労災補償監察官を必須の構成員とする組織的検討を直ちに実施し、署が実施した調査等の問題点の有無・内容、今後明らかにすべき事項とその調査手法等、さらにそれらの優先順位を明らかにすること。

その上で、当該事案について、局課長及び局労災補償監察官は、①速やかに上記の検討結果について当該事案を管轄する署の署長に伝達、②優先順位を踏まえて具体的な指示を書面により指示(その場で書面による指示が実施できない場合には、その後直ちに行うこと)、③当該指示には期限を付して署長に対して行うこと、④当該事項の実施状況を期限到来後直ちに確認すること、⑤指示事項が未実施の場合にはその理由を確認するとともに、必要な指示を行うこと。

また、局課長及び局労災補償監察官は、各事案について、月1回以上当該指示の実施状況や署別の状況を確認し、状況に応じて、事案の処理のポイントの再説明、署の進行管理の問題点の指摘と改善の指示、随時監察等必要な措置を実施すること。

なお、労働基準部長は、必ずしも個別の事案の検討会に参加する必要はないが、局管理事案に係る署長への具体的な指示や月1回の確認等が適正に行われているか確認し、局課長に必要な指示を行うこと。

イ 署長管理事案の留意点

署長は、個々の署長管理事案について、署労災担当次長、署労災担当課長等との事案検討会を月1回以上実施すること。

個々の署長管理事案に係る処理経過表は、月1回以上署長が決裁により確認すること。

また、署長は上記決裁及び事案検討会において、職員に対し、期限を付した具体的な指示を行うこと。

さらに、当該期限までに指示したことが実施できたか、初期の成果は得られたか確認し、必要に応じて的確な指示を実施すること。

局課長は、署長管理事案について署任せにすることなく、署長から処理経過、問題点及び当該問題点の解消策を報告させ、その妥当性を検証し、署に対する支援が必要な事案は定期的に、その他の事案については必要に応じて処理経過等を報告させ、必要な指示を行うこと。

なお、労働基準部長は、署長管理事案の解消状況、処理に係る問題点、署長に対する局の指示の履行状況について局課長に報告させること等により、長期未決事案に対する取組が不十分な署長に対し、直接指導を行うこと。

3 請求人への懇切・丁寧な対応の徹底及び業務上疾病事案に係る請求勧奨等

(1) 請求人等への懇切・丁寧な対応

行政サービスの効率性の向上を図るとともに、国民の満足度を高める観点から、請求人及び相談者(以下「請求人等」という。)に対しては、下記の点及び別途示すところに留意し、懇切・丁寧な対応を行うこと。

① 請求書の受付や相談時には、パンフレット等を活用して説明するとともに、求められた事項について説明を行うにとどまることなく、相談内容から請求人等の置かれた状況を的確に把握し、請求することができると思われる労災保険の各種給付や社会復帰促進等事業について、漏れのない説明を行うこと。

② 労災請求を受理してから3か月を超えてもなお保険給付等の決定の通知を行っていない事案(1週間以内に決定の通知を行うものを除く。)については、担当者から請求人に対し、原則として電話により請求等に係る調査の進行状況及び当該請求等に対する決定がなされる時期の見通し等の連絡を行うこと。

③ 不支給決定を行った場合には、支給要件の概要及び当該決定となったポイント等について、請求人に対して、分かりやすく説明すること。

(2) 業務上疾病事案に関する請求勧奨等

ア 石綿関連疾患

① 関係行政機関と連携した中皮腫死亡事案に係る救済制度の周知

局においては、別途指示するところにより、都道府県と連携し、新規に市町村に中皮腫死亡に係る死亡届が提出された場合の届出人への石綿関連疾患に係る救済制度に関する周知を行うこと。

② 石綿労災認定事業場の公表を踏まえた対応

平成21年度に公表した労災認定等事業場について、当該事業場を退職した労働者に対する労災請求の勧奨も引き続き実施することとしており、当該事業場に対する労災保険制度の周知等、的確な対応を図ること。

イ 精神障害

新規に労災保険指定医療機関(以下「指定医療機関」という。)の指定を受けた医療機関の中で、精神科、心療内科を標榜する医療機関に対しては、精神障害に係る労災補償について、パンフレット等を用い、判断指針の周知に努めること。

また、現在の指定医療機関のうち、精神障害の診療を行う医療機関が未だ少ないことから、局においては、管内の指定医療機関となっていない精神科、心療内科等を標榜している医療機関に対して、引き続き指定医療機関の申請を行うよう、積極的に勧奨すること。

なお、勧奨対象となる医療機関が多数存在する局においては、地方厚生(支)局又は地方厚生(支)局各都道府県事務所から健康保険の保険医療機関名簿を入手する等により、効果的な取組に努めること。

4 業務上疾病に係る的確な認定業務の運用

(1) 脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案への対応

脳・心臓疾患事案及び精神障害等事案の業務上外の認定においては、特に、的確な事実認定とそれらの認定基準等への適正な当てはめが極めて重要である。このため、請求人が業務災害であると認識している理由を十分に把握した上で、その主張する事実の有無等を明確に認定するほか、事実認定に当たっては以下の点にも留意して事務処理を行うこと。

ア 脳・心臓疾患事案

脳・心臓疾患事案については、労働時間についての事実認定が特に重要になることから、タイムカード、業務日報、事業場の施錠記録等の客観的資料の収集はもとより、必要に応じて同僚労働者等からの聴取調査も実施し、適正な労働時間を認定すること。

また、認定基準で示された労働時間を下回る場合においては、請求人の主張する内容も考慮しつつ、労働時間以外の負荷要因についても調査・検討を行った上で、認定基準に基づいて総合的に判断すること。

イ 精神障害等事案

精神障害等事案については、心理的負荷となった出来事及びその出来事の前後の状況等について、請求人及び関係者からの聴取内容を中心として明確に事実認定をした上で、それらの認定事実に基づき、精神障害等専門部会において業務上外に関する医学的な検討が的確に行われるようにすること。

なお、平成21年4月6日付け基発第0406001号によって心理的負荷による精神障害等に係る業務上外の判断指針の一部改正が行われていることやセクシュアルハラスメントに係る事案に関しては、平成17年12月1日付け基労補発第1201001号「セクシュアルハラスメントによる精神障害等の業務上外の認定について」に留意すること。

(2) 石綿関連疾患への対応

石綿関連疾患に係る請求については、依然として高水準で、かつ、特定の署に集中する傾向があるので、引き続き効率的な業務実施体制を確保の上、迅速処理に努めること。

また、本年度においても、石綿関連疾患に係る迅速・適正な認定を目的とした「石綿確定診断等事業」を実施するので、平成21年7月28日付け基労補発0728第1号「石綿確定診断等事業の実施について」に基づいて診断依頼を行うこと。

なお、認定基準に基づく本省への協議や、平成19年3月14日付け基労補発第0314001号「石綿による肺がん事案の事務処理について」に基づく本省への照会について、適切に対応すること。

(3) 振動障害事案の受診命令

振動障害事案に係る受診命令については、労働者災害補償保険法(以下「労災保険法」という。)第47条の2及び昭和45年5月27日付け基発第414号「労働者災害補償保険法第47条の2の規定による受診命令の取扱いについて」等に基づき行うとともに、平成20年8月1日付け補償課職業病認定対策室長補佐事務連絡「振動障害の業務上外認定に係る事務処理の適正な実施について」にも留意して実施すること。

また、受診命令を実施するに当たっては、必ず請求人に対して受診命令の趣旨、理由等を明確に説明して理解を求めるなど、受診命令の実施に伴う混乱の未然防止に努めること。

(4) 認定基準に定める本省りん伺等の徹底

具体的な認定要件を定めていない電離放射線による疾病等、認定基準等において本省にりん伺や協議を行うことを指示している事案については、それらが確実に実施されるよう徹底すること。

5 船員保険統合後の円滑な請求事案の処理等

(1) 労災保険制度の周知の徹底

雇用保険法等の一部を改正する法律(平成19年法律第30号)の施行により、平成22年1月1日から船員保険の職務上疾病・年金部門と労災保険が統合され、船員たる労働者に係る給付のうち、労災保険の保険給付に相当する給付は、労災保険から給付を行うこととされたところである。

これにより、

① 労災保険の給付水準を上回る部分の給付(以下「上乗せ給付」という。)及び船員保険独自の給付については、統合後も船員保険から給付されること

② 上乗せ給付に係る支給事由については、労災保険が給付されていることが条件となること

等の事情を踏まえ、統合後の労災保険給付事務の円滑な実施に資するため、確実な周知広報を実施していくことが必要不可欠であり、別途指示するところにより、対象となる船員たる労働者に対し、局及び署において、重点的な周知広報活動を徹底すること。

また、費用徴収制度については、船員保険制度において、個々の船員に係る被保険者資格の届出を故意又は重大な過失により行わなかった災害についてのみ、限定的に行ってきたことを踏まえ、労災保険法第31条第1項各号に定める費用徴収の実施については、統合後、1年間の猶予措置が設けられたところである。

このため、労災保険における費用徴収制度の概要を十分に周知するとともに、労災保険法第31条第1項各号に定める費用徴収の実施について、理解を得るよう求めること。

(2) 請求、相談に対する親切でわかりやすい対応

上記のとおり、船員に対する保険給付は複雑な仕組みとなっていることから、事業主(船舶所有者)及び船員たる労働者等から労災保険の請求に係る相談があった場合には、上記3(1)に基づき、懇切・丁寧な対応の徹底を図ることは当然のことであるが、労災保険の請求書が仮に誤った署に提出された場合にあっても、原則として返戻することなく管轄する署に回送する等適切な対応を行うこと。

また、上乗せ給付及び船員保険独自の給付については、統合後も船員保険から給付を行うことから、船員保険についての相談等が行われた場合には、別途送付するパンフレットにより、船員保険の概要を説明するとともに、当該保険給付事務を担当する全国健康保険協会(以下「協会けんぽ」という。)船員保険部の窓口を紹介し、早期に相談するよう教示すること。

(3) 請求事案に対する迅速・適正な決定等と協会けんぽ船員保険部等との連携

平成21年12月28日付け基発1228第6号「船員保険制度の統合に伴う労災保険給付事務取扱手引(船員分)の作成について」に基づき、船員たる労働者の特殊性等を踏まえ、的確な調査を実施した上で、迅速・適正な認定を確実に行うこと。

当該調査により、災害補償事由の有無等を明らかにできない場合については別途指示するところにより、地方運輸局をはじめとする関係機関と連携を取るとともに、必要に応じて協議を行い、適正な運用を図ること。

また、協会けんぽ船員保険部に提出すべき船員保険に係る請求書が署に郵送又は提出された場合には、協会けんぽ船員保険部に回送し、管轄が違う署に労災保険に係る請求書が郵送又は提出された場合においても、正しい管轄の署に回送する等、適切な対応の徹底を図ること。

6 労災年金関係業務の適正な処理

労災年金給付事務の処理においては、厚生年金等との併給調整について、定期報告書審査時等に「厚年情報照合リスト」を活用することとし、当該リストの不一致事案については、前年度より継続して出力されている事案で、既に調査した結果、処理不要と認められた事案を除き、計画的に調査・確認を行い、早期解消を図ること。

また、本省文書報告事案である基本権取消事案が依然として発生していることから、支給決定時のみならず、支給決定決議入力時や定期報告入力時における職員相互のチェック体制及び署管理者の審査・確認体制を確実なものとし、審査・確認、決裁時における適正な事務処理を徹底すること。

7 不正受給防止対策の徹底

(1) 対策推進上の基本的な姿勢

不正受給については、労災保険制度を悪用して保険給付等を詐取する刑法の詐欺罪等に該当する者であり、決して許されないものである。したがって、下記の点に留意して、引き続き不正受給の未然防止に努めること。また、不正受給を発見した場合には、不正受給者からの費用徴収を的確に実施するとともに、詐欺罪等による刑事告発を念頭に置いて厳正な対応を行うとともに、捜査機関とも調整の上、原則として記者発表を行うこと。

ア 請求書審査等の留意点

担当者及び各決裁者は、労災保険給付のチェックポイントを活用し、請求書の審査点検に当たって複数の疑問点等を組み合わせることによって、不正受給の疑いが認められる場合には、実地調査を実施すること。

また、局管理者は、雇用保険部門と連携し、労災保険及び雇用保険の不正受給に関する情報を相互に共有できる体制を整備の上、雇用保険の不正受給に関する情報を入手した場合には、必要に応じて所轄署へ情報提供を行うこと。

イ 第三者からの情報提供への対応

第三者からの投書や電話等による情報は、不正受給を発見する重要な契機であることから、受給者の氏名、不正の内容等具体性のある情報が得られた場合には、速やかに調査を実施すること。また、具体性の欠ける情報であっても、当該情報に基づき、症状照会等の機会を捉えて、不正受給に関する調査を必ず実施すること。

(2) 労災診療費等の不正請求に対する厳正な対応

健康保険の診療報酬について多額の不正請求が認められるなど、労災保険において診療費の不正請求が疑われる場合及び第三者から労災診療費の不正請求に関する情報提供を受けた場合には、当該医療機関に対して必ず実地調査等を行うこと。また、調査等の結果、労災診療費の不正請求の事実を確認した場合には、「労災保険指定医療機関療養担当規程」に基づく当該医療機関の労災指定の取消し及び刑事告訴を行う等厳正に対応すること。

なお、その際は、必要に応じて地方厚生(支)局や地方厚生(支)局各都道府県事務所と連携を図るとともに、当該不正請求により支払われた労災診療費については、全額の回収に努めること。

8 労働局内担当部署との連携による効果的な行政の推進

(1) 技能実習生、暫定任意適用事業に対する周知等の取組

技能実習生については、国内労働者と同様労災保険の適用がある労働者であることに十分留意し、以下の点に係る取組を行うこと。

ア 被災した技能実習生に対する請求勧奨、労災保険制度の周知等

JITCO等から情報提供等のあった被災した技能実習生については、必要に応じ、労災保険制度の周知の実施等を行うとともに、監督担当部署等から情報提供等のあった場合等、労災保険給付の支給事由を満たす可能性の高い者を把握したときは、労災保険給付の請求勧奨を実施する等により適切に対応すること。

イ 暫定任意適用事業の事業主に対する特別加入制度の周知

労災保険に未加入の暫定任意適用事業に従事する労働者が労働災害に被災した場合は、事業主が労働基準法の規定による災害補償により補償する義務を負うものであること、また、暫定任意適用事業の事業主が特別加入した場合には、当該事業は強制適用になることから、当該事業主に対して特別加入制度等の周知を行うこと。

(2) 労災認定事案に関する監督・安全衛生及び労災担当部署の連携

脳・心臓疾患による労災認定事案については、平成18年3月17日付け基発第0317008号「過重労働による健康障害防止のための総合対策について」別紙1の5において、過重労働による業務上の疾病を発生させた事業場に対し、当該疾病の原因究明及び再発防止の措置を行うよう指導することとされていることから、法違反の疑いが認められない場合を含め、監督・安全衛生担当部署への情報提供を徹底すること。

また、監督・安全衛生担当部署から認定事案に係る照会があった場合は、適切に対応すること。

 

第3 費用徴収及び第三者行為災害に係る適正な債権管理等

国の債権については、法令・通達にしたがい、適正に管理を行うことを通じて、国の財政上の利益の確保を図る必要があることに鑑み、以下に示す点に留意の上、適正な事務処理に努めること。

1 費用徴収

(1) 徴収決定すべき事案の把握の徹底等

労災保険法第31条第1項及び第12条の3に基づく費用徴収については、いずれも署長からの通知に基づき、都道府県労働局長(以下「局長」という。)が徴収決定を行うものである。

したがって、署長は、当該事案に該当する可能性のある事案を認めた場合には、速やかに局長あて通知を行うこと。特に労災保険法第31条第1項各号に基づく費用徴収を確実に実施するためには、通達で規定する費用徴収の要件に明らかに該当しない事案を除き、疑いのある事案については、全て漏れなく署から局へ報告をすること。この場合、署長は事案の把握方法について、号別に徴収決定を行う要件が異なることに留意し、費用徴収に該当する事案の漏れのない把握及び局への通知の実施を徹底すること。

(2) 進ちょく状況の組織的な管理と的確な徴収決定等

局においては、署から報告のあった費用徴収事案に該当する可能性のある事案及び徴収決定後の継続事案について、受付から徴収決定までの事務処理経過、債権の種類ごとの債務者、債権額、収納完了の有無、督促状の発出の有無、債権消滅の時期、臨戸訪問等の実施の有無等について一覧化するとともに、局管理者が担当者任せにすることのないよう、当該一覧化したものを基に進ちょく状況を組織的に進行管理すること。

また、局は署からの報告を待つのみでなく、事案の発生の把握や継続事案の管理に努め、署からの通知がない場合には通知を指示し、局においても漏れのない事務処理の徹底に努めること。

さらに、債権管理を効率的に行うためには、具体的かつ実効性が確保された債権管理計画の策定が不可欠であることから、未だ債権管理計画を策定していない局にあっては、早急に策定すること。

(3) 債権の確実な回収

徴収決定した債権については、漫然と時間を経過させ時効を迎えることがないよう、債権管理計画に基づき、定期的な納入督励や時効中断措置等の措置を講じ、確実に回収すること。

また、費用徴収による債権については、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第26条を準用することにより、国税滞納処分の例により強制執行できる権限を付与されていることから、資力がないことを主張する債務者に対する資力調査、資力があるにもかかわらず、支払わない債務者に対しての滞納処分等を積極的に行うこと。

2 第三者行為災害

(1) 徴収決定すべき事案の把握の徹底、的確な徴収決定等

署においては、求償事案に該当するものは初回の保険給付を行った際にはすみやかに局あてに保険給付(求償権取得・債権発生)通知書により報告を行うこと。2回目以降の保険給付については四半期ごとに取りまとめ、局へ報告を行うこと。

局においては署からの報告を受けて、すみやかに債権の調査確認を行い、債権調査確認決定決議を遅滞なく行うこと。

(2) 定期的な納入督励の確実な実施、進ちょく状況の組織的な管理

上記(1)で決議した債権については、納入告知の発行、債務承認の取得等、漫然と時間を経過させ時効を迎えることがないよう、債権管理計画に基づき、定期的な納入督励や時効中断措置等の措置を講じること。

また、債権管理については担当職員だけでなく、組織的に進ちょく状況の管理を行うこと。

 

第4 労災診療費の適正払いの徹底について

1 会計検査院の指摘を踏まえた重点的な審査の徹底等

労災診療費の適正払いについては、労災補償行政の最重点課題の一つとして取り組んでいるところであり、指摘の多い項目については、平成21年2月20日付け基労補発第0220003号「労災診療費に係る重点審査について」(以下「重点審査通達」という。)により重点的な審査を行っているところである。

平成21年度における会計検査院の労災診療費の過大な支払に係る会計実地検査結果をみると、1局当たりの指摘額及び従来から重点的に審査を行うよう指示している項目(手術料及び入院料)について、前年度より指摘額が増加しているところである。

このような状況を踏まえ、以下の(1)から(4)までに留意の上、指摘額全体の9割以上を占めている手術料及び入院料の項目について重点審査を徹底し、高額レセプトについても審査を徹底するとともに、過大な支払が判明した事案については、同様の支払が過去から継続して行われていないかを必ず確認すること。

また、労災診療費の算定について、指定医療機関等に対し、会計検査院の指摘に係る誤請求の実例を踏まえた説明会を開催するとともに、誤請求の多い指定医療機関等に対する個別の実地指導を行うなど、請求者たる指定医療機関等への労災診療費算定基準の周知徹底を図り、労災診療費の過大な支払の再発防止について積極的に取り組むこと。指定医療機関等に対する指導については、都道府県医師会と連携の上、効果的に実施する必要があることから、局幹部職員は、日頃から意識して都道府県医師会との円滑な連携のための環境整備に努めること。

(1) 重点審査通達に基づき診療費審査委員会(以下「審査委員会」という。)に諮った結果、手術の術式等の妥当性の判断が困難なものについては、審査委員会の指示の下、指定医療機関等に照会することとしているが、その照会が徹底されていない局が見受けられる。そのため、当該指定医療機関等に対する照会が確実に履行されていること、回答により当該手術料算定の妥当性の有無を明らかにした上で医学的判断が的確に行われていることの確認を徹底すること。

(2) 重点審査通達に基づき労災診療費審査体制等充実強化対策事業の受託者(以下「受託者」という。)が重点審査項目について付箋を貼付することとしているが、その他の疑義付箋を含め付箋の貼付漏れにより審査に支障を来している局が見受けられる。そのため、付箋の貼付の履行状況について局の状況に応じた方法で確認するとともに、受託者に対して必要な指導を行うこと。

(3) 重点審査通達において指示した以外の手術料については、単に手術の必要性の確認に留まらず、当該手術料を算定し得る要件がレセプトにおいて明らかであるか否かを確認し、必要に応じ指定医療機関等への照会、審査委員会の審査委員から意見を徴するなどにより、当該手術料算定の妥当性の有無を明らかにした上での審査を徹底すること。

(4) 入院料については、依然として指定医療機関等からの変更事項の届出が徹底されていないことにより、審査時の施設基準の確認が不十分となっている状況が認められる。そのため、指定医療機関等に対する説明会等において、「労災保険指定医療機関療養担当規程」に基づく変更事項の届出を徹底すること。

また、地方厚生(支)局のホームページを活用する等により施設基準の把握に努め、局において把握している施設基準と相違が認められる場合は、当該指定医療機関等に対して変更事項の届出の徹底を指導すること。

2 会計検査院の指摘事項に対する要因分析等

会計実地検査において、依然として、多額の労災診療費の過大な支払が指摘される要因の一つとして、従前に、会計実地検査により指摘された事案の要因分析及び分析結果を踏まえた対策が不十分であるために、再度同じ指摘を受けていることが挙げられる。

したがって、会計検査院より労災診療費の過大な支払が指摘された検査対象局については、指摘に係る事案について、発生段階、発生要因の分析を行い、分析結果を踏まえた対策を確実に講じること。

3 労災診療費算定基準の改定に伴う的確な審査の実施等

平成22年4月に健康保険診療報酬点数表の改正に伴う、労災診療費算定基準の改定が予定されていることから、改定後は指定医療機関等に対し、速やかに改定内容の周知・徹底を図るとともに、改定後の労災診療費算定基準に基づく的確な審査を実施すること。

なお、労災診療費算定基準の改定に引き続き、労災保険柔道整復師施術料金算定基準及び労災保険あん摩マッサージ指圧師・はり師きゅう師施術料金算定基準についても改定が予定されていることから、改定後は、柔道整復師団体等の関係団体に対し、労災診療費に準じて、改定内容の周知・徹底を図り、改定後の施術料金算定基準に基づく的確な審査を実施すること。

4 労災診療費審査点検事務補助の適正な実施等

受託者による労災診療費審査点検事務の補助(以下「審査点検事務補助」という。)については、的確に審査点検事務補助が行われるよう受託者との連携に万全を期すること。

そのため、局課長は、受託者が行うべき業務の範囲を厳格に把握・整理し、逸脱が認められた場合には速やかにその解消に努めるとともに、受託者の業務遂行状況を定期的に把握し、適正な実施に必要な指示を行いつつ、自らも局が行っている審査等業務を検証することで業務の改善に取り組むこと。

また、局・署の職員の労災診療費審査点検事務(以下「審査点検事務」という。)に係る能力の向上を図るため、労災診療費に関する研修の実施や、局における審査点検事務の場を活用した事例学習を行うなど、計画的に職員への労災診療費に関する知識の付与に努め、適正な審査点検事務の推進を図ること。

 

第5 労災かくしの排除に係る対策の一層の対策の推進

協会けんぽ各都道府県支部から健康保険不支給決定者に係る情報を受け、それらの者に対して労災請求の勧奨を行う取組について、引き続き推進を図ること。

また、労災保険給付に係る審査又は調査において、労災かくしが疑われる場合には、速やかに労災担当部署から監督・安全衛生担当部署に情報を提供するなど、引き続き関係部門との連携を図ること。

なお、新規の休業補償給付支給請求書の受付に際し、労働者死傷病報告の提出年月日の記載がない場合には、監督・安全衛生担当部署への情報提供を徹底すること。

 

第6 長期療養者に係る適正給付対策の推進と社会復帰促進等事業の的確な実施

1 長期療養者に係る適正給付の推進

(1) 一般傷病に係る適正給付の計画的・組織的な推進

振動障害以外の傷病(以下「一般傷病」という。)に係る適正給付の推進については、昭和59年8月3日付け基発第391号「適正給付管理の実施について」に基づき実施しているところであるが、一般傷病における1年以上の長期療養者は横ばい傾向にある。

そこで、引き続き本施策を効率的かつ計画的に推進するため、局においては、局管内の実情等を踏まえ、計画的・優先的に症状調査を行う対象者を選定し、本施策を推進すること。なお、1年以上の長期療養者(振動障害・じん肺を除く。)の約5割は骨折又は関節の障害による長期療養者であることから、当該疾病により療養開始してから3年以上の者については、必ず計画的・優先的に症状調査の対象者とするとともに、署の計画の策定に当たって局が必要な調整を行うこと。

また、本施策を組織的に推進するため、署においては、署長が計画に基づき調査等が適正に実施されているか少なくとも四半期に1回定期的にその進ちょく状況等を把握・確認しながら、必要な指示・指導を的確に実施するなどの進行管理を徹底することとし、局においては、局課長をはじめ局労災補償監察官、局労災医療監察官等が、おおむね四半期に1回定期的に各署における計画の進ちょく状況を確認しながら、計画の推進に障害となっている事項がないかなどを点検・把握し、問題等が認められた場合には、署に対し速やかにその具体的な解決策を指示・指導すること。

なお、署段階で解決が困難と判断された事案については、局において担当すること。

(2) 振動障害に係る適正給付の推進

振動障害に係る適正給付の推進については、平成8年1月25日付け基発第35号「振動障害に係る保険給付の適正化について」に基づき実施しているところであり、当該疾病における1年以上の長期療養者数は減少傾向にあるが、今後も引き続き本施策を着実に推進していくことが必要である。

そのため、主治医に対し十分な説明を行った上で、当該通達に基づく経過観察を行うこと。

なお、主治医が理解を示さない場合は、症状調査対象者の症状・治療内容に基づいて、症状固定の考え方や経過観察の必要性を再三説明することについて再度徹底すること。

2 社会復帰促進等事業の的確な実施

(1) 義肢等補装具費の迅速・適正な支給の徹底

義肢等補装具の支給方法については、平成21年度から購入又は修理に要する費用の支給(費用払い)となり、それまで行われていた発注前における見積額の確認を行わなくなったことから、購入又は修理後に製作業者等から費用の請求があった時点で、支給範囲等に関する疑義が生じる事案が発生している。そのため、義肢等補装具購入・修理費用支給承認書交付時などにおいて、申請のあった義肢等補装具に関し、例えば、普通型車いすに電動装置を付属させて車いすを製作したとしても、普通型車いすの基準額に簡易電動型車いすの基準額を上乗せして支給額を算定する方法はなく、簡易電動型車いすの基準額を超えて支給できない等、過去の取扱い事例から支給範囲等で特に留意すべき事項について製作業者等に対する十分な説明を徹底すること。

(2) アフターケア実施要領等に基づく適正な事務処理の徹底等

アフターケアについては、対象となる傷病ごとに、①趣旨、②対象者、③措置範囲、④健康管理手帳の有効期間が異なることに留意し、アフターケア実施要領に基づいた適正な事務処理を改めて徹底するとともに、アフターケア対象者に誤解を与えることのないよう、制度の内容等について的確かつ懇切・丁寧に説明すること。

なお、アフターケアの健康管理手帳の交付については、依然として交付が徹底していない事案が発生していることから、アフターケア実施要領に基づく署から局への「健康管理手帳交付報告書」による報告を徹底するとともに、局においても、署からの報告が適正に行われているかを必ず確認すること。

 

第7 行政争訟に当たっての的確な対応

1 審査請求事案の迅速・適正な処理

最近の審査請求の傾向をみると、審査請求件数は横ばい傾向にあるものの、社会的関心が高い精神障害等事案の審査請求件数の増加等により、依然として長期未処理事案が増加している状況にあることから、引き続き迅速かつ適正な処理に取り組むことが重要である。

また、審査請求人に対する懇切・丁寧な対応等については、従来から指示してきたところであるが、より一層の改善を進め、その対応等の徹底を図ることが重要である。

このため、審査請求事務を行うに当たっては、以下の点に特に留意し、迅速・適正な処理の徹底を図ること。

(1) 的確な争点整理

① 労働者災害補償保険審査官(以下「審査官」という。)は、早期に原処分庁からの提出資料を精査し、業務上外等の判断に係る妥当性について、局課長等とともに検証し、的確な争点整理を行った上で、審査請求処理計画を策定し、計画的かつ効率的な審査請求事務を遂行すること。

局課長は、毎月、「審査請求処理計画・処理経過簿」により、審査請求事案ごとに審査請求処理計画の進ちょく状況を把握し、必要に応じて局労災補償監察官等と検討を行った上で、迅速かつ適正な審査請求事務の進行管理を徹底すること。

② 審査官は、審査請求人の主張を的確に把握し、その主張に対する判断を中心とした決定を行うこと。

なお、審査請求人から審査請求後に医証の提出があった場合等、新たな証拠等の提出があった事案については、その内容を十分精査し、必要に応じ、補充調査を行った上で、適正な判断を行うこと。

(2) 審査請求人に対する懇切・丁寧な対応等

① 審査官は、審査請求受理後、3か月を経過し、決定していない場合には、原則として、審査請求人に対して処理状況等の丁寧な説明を行うこと。

② 審査官が審査請求事案を棄却又は却下する場合(特に、脳・心臓疾患事案、精神障害等事案、長期間を要した事案)については、必要に応じて、当該決定の理由等について、できる限り分かりやすく、懇切・丁寧な説明を行うこと。

③ 公平、かつ、納得性の高い審査請求事務を実現するために、決定書概要の厚生労働省ホームページ掲載、原処分庁意見書の審査請求人への開示について予定しているので、別途指示するところにより、的確な対応に努めること。

(3) 労働保険審査会に対する適切な事務処理の対応

再審査請求に係る労働保険審査会への資料提出等の事務処理に当たっては、平成19年6月15日付け基労発第0615001号「労働者災害補償保険に関する適正な審査請求事務の徹底について」に基づき、引き続き、局課長等の管理の下、適切に実施すること。

2 行政事件訴訟の的確な追行

最近の労災行政事件訴訟の動向をみると、法的判断基準の枠組み等については、国の主張を踏まえた判決となっているものの、原処分段階での事実認定が訴訟追行過程で否定されることにより、国が敗訴する事案も見受けられ、依然として厳しい状況にある。

その要因としては、原処分段階において事実の把握が不十分であったこと、原告が主張する新たな事実に対して十分な反論ができなかったこと、訴訟追行過程において必要十分な医学意見書が提出できなかったため、原告からの主張・立証に対して十分な反証ができなかったこと等が挙げられる。

このため、訴訟追行に当たっては、本省労災保険審理室との緊密な連携の下、以下の点に特に十分留意し、的確な処理を図ること。

(1) 訴訟追行における的確な対応

① 訴訟提起時には、原告の主張に対して十分に反論ができるか否かという観点から、原処分、審査請求及び再審査請求段階において国側が収集した関係証拠及び調査内容の全てを再度精査し、労災法務専門員及び地方労災医員から的確な助言を得て、訴訟事案全体を俯瞰して必要な主張等を組み立てた上で、補充調査実施の必要性及び実施時期について検討し、万全の準備を期すこと。

また、原告が主張する新たな事実に対しては、改めて証拠の収集を行う等、的確に反論ができるように調査を尽くすこと。

② 特に、脳・心臓疾患事件については、労働時間以外の要因によっても、業務の過重性が認められないとの主張・立証に努めること。

また、精神障害等事件については、業務以外の要因が認められる場合には、業務以外の出来事による心理的負荷の強度、個体側要因(素因)としての脆弱性を具体的な証拠をもって的確に主張・立証すること。

(2) 医師の確保及び分かりやすい医学意見書の作成等

医学意見書の作成を依頼するに当たっては、依頼する専門医師等に対し、原告の主張に的確に反論するために必要とされる内容について正確に伝えた上で、可能な限り分かり易い記述となるよう依頼するなど訴訟の追行に真に資するものとすること。

また、訴訟追行上、専門医師の確保は不可欠であるため、医学意見書の作成を依頼できる医療機関の新規確保を図ってきたところであるが、現状において未だ十分な確保ができていないこと、あるいは確保したものの担当窓口の医師が労災保険制度を十分に理解していないため、活用ができていない状況が見受けられる。

したがって、今後においても、未訪問の大学医学部、大学病院等があれば引き続き確保に努めるとともに、確保した医療機関についても、医学意見書が必要な場合に速やかに依頼ができるようにするために、不断に担当窓口との情報交換等を図り、必要に応じて原処分段階又は審査請求段階においても積極的な活用を図ること。

(3) 法務局等との連携等

法務局部付検事及び選任弁護士と協議する際に、国の主張に対する行政庁の考え方等について必要な説明がなされていない状況も見受けられるので、協議に当っては、行政庁の考え方等について十分な理解を得られるように説明を行い、意見が相違するような場合には、速やかに本省労災保険審理室へ相談すること。

また、特に新任の検事及び選任弁護士には、労災保険制度はもとより原処分庁の調査内容及び評価、行政庁の判断基準が依拠する専門検討会報告等の医学的知見の内容等について十分な理解が得られるよう意を尽くして説明を行うこと。

 

第8 地方監察の的確な実施

1 監察方針及び監察計画の策定

監察方針は、行政運営方針、局業務実施計画、地方監察及び中央監察の結果等に基づき、重点的に監察すべき課題とその考え方を明示するものとして、労働基準部長及び局課長が中心となって検討し、年度内に策定すること。

監察計画は、監察方針に基づき、実地監察、机上監察及び通信監察の実施予定月、具体的な監察予定項目等を盛り込み、年度内に策定すること。

また、監察方針及び監察計画については、各署長に対して4月中に通知すること。

なお、実地監察及び机上監察については、具体的な日程及び監察担当者が決定次第、別途、速やかに当該署長に対して通知すること。

2 監察計画の留意事項

監察計画の策定においては、次の事項に留意すること。

ア 実地監察、机上監察及び通信監察は、原則として各1回実施すること。

イ 実地監察の実施時期については、監察結果の取りまとめを12月には終了させることを考慮して設定すること。

ウ 机上監察については、その結果が実地監察の事前準備としての効果もあることから、原則として、実地監察の前に実施すること。

また、監察対象月の設定に当たっては、毎年同じ月であるような、容易に想定できるものとならないよう考慮すること。

なお、机上監察を行うに当たり、証拠書類等の文書を署から局へ移動する場合は、都道府県労働局保有個人情報管理規程準則に定められた手続きを確実に行うこと。

エ 通信監察については、不正受給事案の発見を主眼として行うものであることから、対象事案としては、不正受給の行われる可能性が考えられる高額給付事案や受任者払いの事案等を選定すること。

3 監察実施後の措置

実地監察の終了後においては、局労災補償監察官は、講評内容を基に監察結果の概要を局長及び局関係部課室長に速やかに口頭で報告し、その際、行政運営上重大な影響を及ぼすような事態を発見している場合には、直ちに局・署が組織的に対策を講ずる必要があることについて進言すること。

その後、監察の結果について、速やかに局関係部課室長を交えて内容を分析・検討し、是正・改善を必要とする事項については、局長名の文書により、当該署長に対して是正改善とその状況報告を期限を定めて指示すること。

4 監察結果報告書の作成及び活用

当年度に実施した監察の結果については、次年度の行政運営方針や局業務実施計画及び監察方針、監察計画に反映させること。また、問題のある事項を職員に周知して適正な事務処理を確保するため、局関係部課室長を交え検討の上、報告書として年度内に取りまとめること。

中央監察結果報告書については、改善すべき問題を例示した上で、局・署が実施すべき対応策を記載していることから、当該報告書の内容と局・署の事務処理を照らし合わせて、自局の問題点を把握し、分析・検討の上、地方監察結果報告書と併せて、各種会議・研修等の機会を通じて局・署管理者のみならず、すべての労災担当職員に周知・徹底し、活用すること。

 

第9 その他

1 研修の充実等職員の資質向上

極めて厳しい定員事情の下、労災補償業務を迅速・適正に運営していくためには、職員一人一人が能力を最大限に発揮し、効果的かつ効率的な業務を推進していく必要がある。そのため、局管理者は個々の職員の実践的な判断や事務処理能力を向上させるための研修を以下の点に留意しつつ、計画的に実施すること。

(1) 新任の署管理者等に対する研修

新任の署長、次長及び労災担当課長に対しては、必ず研修を実施すること。

新任の署長、次長に対しては、労災補償行政の現状と課題、業務上疾病等に係る認定基準等の考え方とともに、迅速・適正な保険給付のための具体的な進行管理の方法について説明すること。特に、労災請求等事案の迅速・適正な処理を実施していく上で、署長のリーダーシップは極めて重要であることから、局業務実施計画に定められた署長による進行管理、局・署の連携に留意した研修を十分に実施すること。

また、新任の労災担当課長に対しては、当該署における重点課題、局業務実施計画を踏まえた労災担当課長の役割とその事務等について研修を実施すること。

(2) 若手・中堅職員に対する研修

若手・中堅職員に対する研修については、地方監察や個別の労災請求事案等を通じて把握・分析した局共通の問題点や好事例を、テーマとして取り上げること。

また、経験の浅い職員については、座学による研修以外にも、聴取調査の事務補助や災害調査を含む実地調査に同行させるなど、段階的な経験を積ませること。その際には、事前に当該事案処理に必要な認定基準等の通達や文献等を示し、調査目的について十分説明を行うこと。

なお、研修を行うに当たっては、実際の事案に即して、調査手順や調査手法のポイントについて、実務的な説明を行うことに留意すること。

(3) 窓口対応等に係る研修

窓口の業務改善に取り組んで以降、労災保険の窓口での対応に対する国民の満足度は徐々に高まりつつあるが、苦情等において把握した事案については問題点と対応策について機会を捉えて研修を行うこと。

また、セクシュアルハラスメントに係る事案等特にプライバシーに対する配慮が必要な事案への対応についても同様に機会を捉えて研修を行うこと。

2 個人情報の厳正な管理

労災補償業務において日々取扱う膨大な書類等の大部分が、秘匿性の高い個人情報であるが、個人情報が記載された文書の誤送付や紛失等、個人情報の漏えい事案は、依然として少なくない状況である。

情報漏えい事案が発生した場合には、引き続き発生原因の的確な分析を行った上で、当該分析に基づいた有効な再発防止対策を策定するとともに、当該再発防止対策を踏まえた事務処理の徹底に努めること。

3 必要な保険給付のための積極的な周知広報等

(1) 通院費の支給基準の被災労働者等に対する周知

移送のうち通院の取扱いについては、平成20年10月30日付け基発第1030001号「「移送の取扱いについて」の一部改正について」(以下「平成20年局長通達」という。)において、通院費の支給対象範囲の見直しを行ったが、署においては、適正な事務処理の徹底を図るとともに、引き続き、必要な通院費の支給を受けられるよう被災労働者等に対する周知をすること。

また、平成20年局長通達において、通院費の支給対象範囲を見直したことにより、平成17年10月31日「中皮腫の診療のための通院費の支給について」(以下「平成17年補償課長通達」という。)に定める取扱いについても、改正後の「移送の取扱いについて」(昭和37年9月18日付け基発第951号)で対応し得ることから、平成17年補償課長通達を廃止し、平成20年11月1日以降に生じた中皮腫の診療のための通院費についても、改正前の取扱いどおり支給されるものであることとしており、これに基づく適正な事務処理の徹底を図ること。

(2) 二次健康診断等給付に係る健康診断実施機関等に対する周知

脳・心臓疾患に係る労災請求・決定件数については、依然として高い水準で推移しており、その発症の予防の重要性が高まっているものの、労災保険二次健診等給付医療機関(以下「健診給付医療機関」という。)の数については、横這いの状態となっている。また、二次健康診断等給付の請求件数は増加しているものの、十分活用されているとはいえない状況にある。

これらの状況を踏まえ、管内の健診給付医療機関の配置等を考慮した上で、現在、健診給付医療機関となっていない医療機関に対して、健診給付医療機関の指定申請を行うよう勧奨すること。また、労働基準部内の連携を図り、都道府県医師会の労災保険部会の医師のみならず、産業保健部会の医師の協力の下、医療機関、健康診断実施機関及び産業保健推進センター・地域産業保健センターに対し、当該給付に係る周知を行うよう依頼するとともに、併せて事業主に対する周知を行うこと。

なお、周知の依頼に当たっては、一次健康診断の担当医が4つの検査については異常なしの所見と診断した場合であっても、産業医等が、一次健康診断の担当医が異常なしの所見と診断した項目について、当該検査を受けた労働者の就業環境等を総合的に勘案し異常の所見を認められると診断した場合には、産業医等の意見を優先し、当該検査項目については異常の所見があるものとする旨を説明すること。