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通達:騒音性難聴の認定基準について

 

騒音性難聴の認定基準について

昭和61年3月18日基発第149号

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)

 

騒音性難聴(職業性難聴)の業務上外の認定基準については、昭和28年12月11日付け基発第748号通達により示してきたところであるが、その後の医学的知見等について「難聴に関する専門家会議」において検討が行われた。今般、その結論が得られたので、これに基づき標記の認定基準を下記のとおり定めたので、今後の事務処理に遺憾のないよう万全を期されたい。

なお、本通達の解説部分は、認定基準の細目を示したものであるから、本文と一体のものとして取り扱われるべきものである。

また、本通達の施行に伴い、昭和28年12月11日付け基発第748号通達はこれを廃止する。

 

金属研磨、鋲打、圧延等著しい騒音を発する場所における業務に従事していた労働者に発生した難聴であって、次に掲げるいずれの要件も満たすものは、労働基準法施行規則別表第1の2第2号11に該当する疾病として取り扱うこと。

1.著しい騒音にばく露される業務に長期間引続き従事した後に発生したものであること。

2.次の(1)及び(2)のいずれにも該当する難聴であること。

(1) 鼓膜又は中耳に著変がないこと。

(2) 純音聴力検査の結果が次のとおりであること。

イ オージオグラムにおいて気導値及び骨導値が障害され、気導値と骨導値に明らかな差がないこと。すなわち、感音難聴の特徴を示すこと。

ロ オージオグラムにおいて聴力障害が低音域より3,000Hz以上の高音域において大であること。

3.内耳炎等による難聴でないと判断されるものであること。

 

(解説)

著しい騒音に起因した難聴には、騒音性難聴の他に爆発音などの強大音ばく露によって急激に起こる音響外傷と騒音下に長期間ばく露されていて、ある日突然に高度の難聴が起こる騒音性突発難聴とがある。これらの難聴のうち、本認定基準によって取り扱われるものは騒音性難聴のみである。

1.騒音性難聴の病態

聴力はある一定限度以上の騒音に繰り返しばく露されると次第に障害される。聴力障害は高音域から始まり、一般に初期の段階ではオクターブオージオメトリーにおいてはオージオグラムがc5dipの型(4,000Hz付近に限局した聴力障害)を示す。

その高音域の聴力障害の進行は騒音ばく露の比較的早い時期において著明で、次第にその障害進行の速度は緩慢となる。さらに聴力障害は、ばく露期間に応じて、より高音域へ、次いで中音域、低音域へと拡がる。

騒音ばく露によって障害される部位は内耳である。内耳に起こる病的変化の発生機序に関しては必ずしも明らかになってはいないが、蝸牛基底回転におけるラセン器の変性であると考えられている。

騒音性難聴は、一般に両側性であり、騒音下の作業を離れるとほとんど増悪しない性質を有している。

なお、認定の対象となる如き騒音性難聴の治療については、現在までのところ、有効治療法が確立されていないため、その治療は必要な療養とは認められない。

2.騒音ばく露

(1) 本文記の1の「著しい騒音にばく露される業務」とは、作業者の耳の位置における騒音がおおむね85dB(A)以上である業務をいう。

(2) 本文記の1の「長期間」とは、おおむね5年又はこれを超える期間をいう。

3.聴力検査

(1) 本文記の2の(2)の「純音聴力検査」は日本聴覚医学会制定の「聴覚検査法(1990)1.標準型オージオメータによる純音聴力(閾値)レベル測定法」による。

(2) 聴力検査は騒音下作業直後を避け、作業前又は作業後1時間程度の安静の後に測定すること。

4.聴力検査結果の評価

(1) 騒音性難聴のオージオグラムは聴力障害の現れ方が両耳ほぼ同じである。しかし、作業態様等によっては両耳のオージオグラムに差が認められるものもある。

(2) 騒音性難聴以外に伝音難聴を合併していると思われる混合難聴で、気導値と骨導値に差があり、骨導値に明らかな障害が認められる場合は、耳鏡検査、側頭骨エックス線撮影による検査、チンパノメトリーを行い、また、必要に応じて各種の中耳機能検査を行い、それらの結果を認定の際の参考とすること。

(3) 騒音性難聴以外の感音難聴を合併していると思われる場合又は機能性難聴が疑われる場合には、必要に応じて、語音聴力検査(日本オージオロジー学会制定の検査法による。)、会話聴取検査(了解度)、内耳機能検査、後迷路機能検査、他覚的聴力検査又はステンゲル法等を行い、認定の際の参考とすること。

5.本文記の3の「等」には次のようなものがある。

 (1) メニエール病

 (2) 薬物中毒

 (3) 爆(発)音、頭・頸部外傷等による内耳障害

 (4) 遺伝性・家族性難聴

 (5) 老人性難聴

 (6) 機能性難聴

 (7) その他騒音性難聴以外の感音難聴

6.その他認定に当たっての参考事項

(1) 前記2の(1)の85dB(A)の基準は通常それ以下の騒音に1日8時間ばく露されても難聴が起こりにくいレベルである。しかし、聴力障害は音の強さ、周波数成分のみならず個人差等種々の条件が関与するので、この基準以下でも発生することがあるので留意すること。

なお、衝撃音については、1日にばく露される回数及びその性質についても留意すること。

(2) 雇入れ時、配置換え時、定期の健康診断の際に測定された検査結果又は離職時に測定された検査結果が有る場合には、これを参考とすること。

また、既往歴(特に聴力障害を生ずる可能性のある疾患について)、兵歴等の有無にも十分留意すること。