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通達:社内預金保全のための抵当権設定に関する約定書例について

 

社内預金保全のための抵当権設定に関する約定書例について

昭和五三年六月二三日基発第三五九号

(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

 

賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五一年法律第三四号。以下「賃確法」という。)第三条及び同法施行規則(昭和五一年労働省令第二六号。以下「賃確則」という。)第二条に規定する社内預金保全のための各種契約の約定書例については、昭和五三年一月三一日付け基発第五〇号により通達したところであるが、今般、賃確則第二条第一項第三号に規定する貯蓄金の保全措置の一方法である抵当権設定契約の一種として、社内預金保全のための継続的保証委託及び根抵当権設定に関する約定書例及び労働者代表による保証約定書例(以下「約定書例」という。)を新たに別添のとおり取りまとめたので、関係事業場が行う社内預金保全のための抵当権設定契約等の締結及び改定に当たつては、下記事項に留意の上、本約定書例によるよう指導されたい。

なお、本通達に示す約定書例(別添一)により、社内預金保全のための継続的保証委託及び根抵当権設定に関する契約を締結し、根抵当権設定登記の申請をすることについては、別添三のとおり法務省の了解を得ているところであり、また、法務省管下の各法務局及び地方法務局に対し、周知方依頼済みであるので、念のため申し添える。

 

目次

第一 本約定書例の趣旨等について

 一 本約定書例の趣旨

 二 本約定書例の法律構成

 三 本約定書例の具体的運用

第二 社内預金保全のための継続的保証委託及び根抵当権設定に関する約定書例の留意事項について

 一 根抵当権約定書例の構成

 二 根抵当権設定の要件

 三 被担保債権の範囲(第一条及び第二条関係)

 四 極度額(第二条関係)

 五 確定期日(第二条関係)

 六 設定登記(第三条関係)

 七 設定登記申請書の記載事項(第三条関係)

 八 極度額の変更及びその登記(第五条及び第六条関係)

 九 債務者の増担保義務(第七条関係)

 一〇 求償権の事前行使(第八条関係)

 一一 金銭の配分方法(第九条関係)

 一二 根抵当権の処分禁止(第一〇条関係)

 一三 その他

第三 労働者代表による保証約定書例の留意事項について

 一 保証約定書例の性格等

 二 保証人の選任

 三 保証契約締結上の留意点

 四 その他

別添

 一 社内預金保全のための継続的保証委託及び根抵当権設定に関する約定書

 二 労働者代表による保証約定書

 三 社内預金保全のための根抵当権設定登記の申請について(法務省回答)

 

参考

根抵当関係等登記申請書の様式について―抄―

(法務省通達)

第一 本約定書例の趣旨等について

一 本約定書例の趣旨

各預金労働者の事業主に対する預金の払いもどしに係る債権を被担保債権として、事業主(又は第三者)の有する財産の上に抵当権を設定する場合には、抵当権の対抗要件である登記に関し、現行の不動産登記法(明治三二年法律第二四号。以下「不登法」という。)上は、抵当権者たる預金労働者全員が登記権利者とし登記しなければならず、預金労働者の代表者又は労働組合が預金労働者全員を代表して登記することはできないこと。したがつて、登記手続の煩雑さから、預金労働者が多数にのぼる事業場においては、抵当権設定契約を締結することが事実上困難となるので、不登法及び賃確法に抵触しない範囲内で登記手続の簡便化が図れるよう検討を加えた上、本約定書例を取りまとめたものであること。

なお、賃確法第三条は、毎年三月三一日現在における各預金労働者からの受入預金額の全額(同日現在元本化されていない利子は含まれない。)については保全措置を講ずべきこととしているので、抵当権設定契約によつて社内預金の保全を行う場合にあつては、一定の極度額を定めた根抵当となるのが通例であり、本約定書例もこれに従つているものであること。

二 本約定書例の法律構成

多数の登記権利者による煩雑な登記手続を省略するため、本約定書例は、次の三契約の組合せにより構成されているものであること。

(一) 保証契約の締結

事業主の各預金労働者に対する預金を払いもどしに係る債務につき、労働者を代表する者が、事業主と連帯し、各預金労働者(代理人)に対して保証する契約を締結すること。

(二) 継続的保証委託契約の締結

事業主の各預金労働者に対する預金の払いもどしに係る債務の履行につき、事業主が、保証人たる労働者を代表する者に対し、継続的に保証することを委託する契約を締結すること。

(三) 根抵当権設定契約の締結

上記(二)の継続的保証委託契約により、労働者を代表する者が将来取得する求償権を被担保債権として、事業主が労働者を代表する者のために根抵当権を設定する契約を締結すること。

これを図示すれば、次のとおりであること。

図1

三 本約定書例の具体的運用

本約定書例は、上図のように、事業主と労働者を代表する者との間における継続的保証委託契約及び根抵当権設定契約を基に、労働者を代表する者が各預金労働者に対し、預金の払いもどしに係る債権を保証する形式をとつているが、本約定書例については、その具体的な運用において、もつぱら、保証人が保証債務の履行によつて得るところの求償権を、特約に基づき事前に行使することを前提としており、しかも、事業主は、この求償に応じられない状態にあるので通例であるから、労働者を代表する者は、直ちに根抵当権を実行し、得た金銭を各預金労働者に配分することとなること。つまり、これらの契約関係のうち、継続的保証委託契約及び保証契約は、いわば、根抵当権の実行による社内預金保全のための形式を整える意味を有するにすぎないものであること。

 

第二 社内預金保全のための継続的保証委託及び根抵当権設定に関する約定書例(別添一。以下「根抵当権約定書例」という。)の留意事項について

一 根抵当権約定書例の構成

この根抵当権約定書例(以下第二において「約定書」という。)は、①事業主(以下「乙」という。)と保証人たる労働者を代表する者(以下「甲」という。)との間における継続的保証委託契約、②上記①により甲が乙に対し将来取得する求償権を被担保債権とする、甲と乙との間における根抵当権設定契約、③根抵当権の対抗要件である、乙による設定時及び変更時の登記手続、④甲による根抵当権実行の手続等をあわせ規定していること。したがつて、本約定書は、甲及び乙の二者間で締結されるものであり、登記権利者は甲のみとなること。

二 根抵当権設定の要件

根抵当権を設定するには、一般の抵当権設定の場合と同様に、土地、建物等その目的となるべき物件を特定し、その物件の所有者と債権者との間における設定契約の締結を必要とするが、根抵当権であるためには、それが不特定の債権の担保として設定されるところから、特に①当該根抵当権の担保すべき債権の範囲、②債務者、③極度額の三要件を最小限定める必要があること(民法第三九八条の二参照)。

なお、本約定書においては、上記②の債務者は、根抵当権設定者たる乙となること。

三 被担保債権の範囲(第一条及び第二条関係)

根抵当権の担保すべき不特定の債権の範囲については、債務者との特定の継続的取引契約によつて生ずるもの、その他債務者との一定の種類の取引によつて生ずるものに限定してこれを定めなければならず(民法第三九八条の二第二項)、保証人の求償権についても、将来とも反復して保証をすることがありうる場合に限り、当該求償権を担保するための根抵当権を設定することができるものであること。したがつて、本約定書における被担保債権の範囲の定めは、「昭和何年何月何日継続的保証委託契約により甲が取得する債権」としていること(第二条(二)参照)。

なお、この年月日は、本約定締結の年月日と一致するものであること。

四 極度額(第二条関係)

本約定書においては、根抵当権の優先弁済の限度につき、「極度額〇〇円」という形で定めており、また、本約定締結時に作成された労働者名簿の債権額の欄に記載された額の合計額(以下「合計額」という。)をもつて極度額とすることとしているが、預金労働者保護の観点から、極度額の変更(後記八参照)を極力避けるためにも、本約定締結時に極度額を当該合計額以上にしておくことが望ましいこと(第二条(一)参照)。

五 確定期日(第二条関係)

確定期日の定めは、根抵当権設定者と根抵当権者との合意によつて行い、この合意をするかどうかは当事者の自由であるので、本約定書は、確定期日を定める場合と定めない場合の二種類の表現を併記したが(第二条(三)参照)、確定期日を定める場合には、その定めをした日から五年内の日を確定期日として定めなければならず(民法第三九八条の六第三項)、また、これを定めない場合において、乙は、根抵当権設定の時より三年を経過すると、いつでも当該根抵当権の確定を請求することができること(民法第三九八条の一九第一項)。したがつて、乙にとつては、不当に長期にわたつて根抵当権の拘束を受けないようにするために、また、甲にとつては、上記の乙による確定請求をあらかじめ排除するために、確定期日を定めておく実益があること。

なお、確定期日を定め又はこれを変更するには、後順位の抵当権者等の利害関係人の承諾は不要であること(民法第三九八条の六第二項)。

六 設定登記(第三条関係)

根抵当権の設定その他の変動については、登記しなければ第三者に対抗できず(民法第一七七条、不登法第一条)、また、同一の不動産上に数個の根抵当権が設定された場合に、その順位は登記の前後による(民法第三七三条第一項)こととなるので、本約定書に係る根抵当権は、原則として第一順位の根抵当権であることが望ましいこと。ただし、後順位であつても、不動産の価額が当該後順位の求償権をも担保するに十分である場合には、後順位でももとより差し支えないこと。

なお、本約定書は、根抵当権の目的物が単数であることを予定しているが、同一の債権の担保として数個の不動産の上に根抵当権を設定する、いわゆる共同根抵当による場合には、共同担保である旨の登記が必要であること(民法第三九八条の一六)。

七 設定登記申請書の記載事項(第三条関係)

根抵当権設定の登記手続については、不登法第一一七条、第一一九条、第一二二条及び一般通則に基づき、設定登記申請書の記載事項として、①登記の目的、②登記原因及びその日付、③極度額、④被担保債権の範囲、⑤確定期日、⑥債務者の表示、⑦根抵当権者の表示等を記載する必要があること。したがつて、本約定書に基づき、根抵当権の設定登記を行う場合において、上記①については、「根抵当権設定」((注))昭和五二年の不登法施行細則の改正によつて、現在は、順位番号を記載しないこととなつている)と、②については、単に「昭和何年何月何日設定」と、また、④については、「昭和何年何月何日継続的保証委託契約」と記載すること。

設定登記の申請に際しては、本約定書を登記原因証書として当該申請書に添付するのが通例であるが、登記事務簡素化の上で、登記原因証書の添付に代えて申請書副本を添付することとしても差し支えないこと。

なお、設定登記の登録免許税は、極度金額を課税標準とし、原則として一、〇〇〇分の四であること(登録免許税法第九条、別表第一、一、(五))。

八 極度額の変更及びその登記(第五条及び第六条関係)

本約定書は、毎年四月一日の合計額が根抵当権の極度額より大きいときに極度額を変更することとしているが、この場合には、後順位の抵当権者等の利害関係人の承諾が必要であること(民法第三九八条の五)。したがつて、利害関係人の承諾がない場合には、増額分相当額を極度額とする別個の根抵当権を後順位に設定することとなるが、目的物の価額が当該後順位の求償権をも担保するに十分でない場合には、甲が増担保を請求するか、又は、増額分相当額につき、他の保全措置を乙に講じさせる必要があること。

極度額の変更登記は、常に附記登記によつてなされるものであり(不登法第五六条)、利害関係人の承諾がある場合に、変更登記申請書には、一般の登記手続において必要とされる書面に加え利害関係人の承諾書を添付しなければならないこと。

なお、極度額増額の変更登記の登録免許税は、増額分の一、〇〇〇分の四であること(登録免許税法第一二条、別表第一、一、(五))。

九 債務者の増担保義務(第七条関係)

本約定書は、根抵当権の目的物である不動産が、滅失、き損その他の事由により価額が減少したとき、又はそのおそれがあるような場合において、債務者たる乙による増担保の義務を定めていること。また、この増担保が不動産担保の場合に、本約定書に基づき既に設定されている根抵当権の目的物として追加する追加的共同担保の形にするか、それとも追加不動産のみを目的物とする新たな根抵当権を設定し、累積式の増担保とするかについては、甲の指示に従うこととしていること。

一〇 求償権の事前行使(第八条関係)

本約定書第八条は、乙が同条第一項第一号から第四号までに掲げるいずれかの事由に該当した場合にのみ、甲は、あらかじめ、すなわち預金労働者に対する保証債務の履行その他の免責行為をしないうちに、乙に対し求償できることとしているが、この規定は、根抵当権の実行を前提とした求償権の事前行使を特約したものであり、民法第四六〇条の規定を排除していることに留意すること。これにより、保証債務を履行すべき事由が生じた場合に、甲は、乙に対して求償権を事前に行使して得た金銭、又は乙がこの求償に応じない場合に当該根抵当権を実行して得た金銭を各預金労働者に配分することにより、弁済をなすものであること。

なお、甲があらかじめ求償権を行使しようとする場合には、本約定書第八条第二項から第四項までにおいて、乙(乙が行方不明等の場合は預金労働者の代表者)が請求書面を作成し、甲に提出することとしているが、これらの規定は、甲の求償権の範囲を明確にするだけのものであり、当該請求書面の提出の有無は求償権の事前行使の効力に影響を及ぼすものではないことに留意すること。

一一 金銭の配分方法(第九条関係)

本約定書においては、各預金労働者が確実に金銭を入手できるよう、甲は、各預金労働者から別途各人の預貯金口座番号の通知を受け、当該金銭を受領後直ちに各人の口座に振り込む方法により各預金労働者に配分することとしていること。

なお、この場合の振込手数料については、あらかじめ甲と各預金労働者との間で、振り込むべき各人の金銭の中から控除することを定めておく必要があること。

一二 根抵当権の処分禁止(第一〇条関係)

根抵当権については、その確定前において、民法第三七五条第一項の処分(抵当権の譲渡、放棄、その順位の譲渡、放棄及び転抵当)のうち、転抵当を除いてはこれを認めない(民法第三九八条の一一第一項)こととされている一方、根抵当権自体の絶対的処分の方法として、全部譲渡・分割譲渡(民法第三九八条の一二)及び一部譲渡(民法第三九八条の一三)を認め、また、抵当権の順位の変更(民法第三七三条第二項及び第三項)をも認めることとされているが、本約定書においては、これらの処分を行うときは法律関係が複雑化し、各預金労働者の社内預金の保全に欠けるおそれがあるので、転抵当、譲渡その他一切の処分を禁止していること。したがつて、預金労働者にとつて有利な順位の変更、目的物の変更、根抵当権者たる保証人の交替等の事由が生じた場合には、新たな約定を締結しなければならない。

一三 その他

本約定書に定める各条項以外に、社内預金保全の観点から、例えば、当該根抵当権の目的不動産についての善良なる管理者の注意義務に関する定め、保険を付する義務に関する定め、甲と乙との間に争いが生じたときの裁判の合意管轄に関する定め等をあわせ規定することも差し支えないこと。

 

第三 労働者代表による保証約定書例(別添二。以下「保証約定書例」という。)の留意事項について

一 保証約定書例の性格等

この保証約定書例(以下「約定書」という。)は、昭和五三年一月三一日付け基発第五〇号通達で示した保証に関する約定書のうち、上記第二の根抵当権約定書例の基本契約たる内容を備えるために必要な条項について、部分的に修正を加えつつ再構成したものであり、①事業主(以下「甲」という。)と労働者を代表する者(以上「乙」という。)との間における保証委託契約、②乙と別冊労働者名簿記載の各預金労働者(以下「丙」という。)との間における保証契約、③丙の代理人(以下「丁」という。)に対する一定事項の委任契約等をあわせて規定していること。

なお、上記③の委任事項については、保証契約の締結、本約定書正本の保管及び保証債務の履行の請求に限定されるものであること。

二 保証人の選任

乙は、債務者であり、かつ、根抵当権設定者である甲からの金銭の受領、当該金銭の丙への配分等丙の社内預金保全のために重要な役割を果たすべき立場にあること、また、乙の債権者で丙以外のものが、乙の債務不履行により自己の債権を確保するため、乙が保証契約に基づき将来取得する求償権を差し押えることができるため、この場合には、丙の利益保護に重大な影響を及ぼすこと等から、その選任に当たつては、預金労働者や労働組合にとつて信頼のおける弁護士、公認会計士等が望ましいこと。

なお、労働組合の委員長等が保証人となることも差し支えないが、自らが預金労働者である場合には保証人になれないことに留意すること。

三 保証契約締結上の留意点

前記第二の根抵当権約定書例においては、乙(根抵当権約定書例においては甲)が根抵当権を実行した場合に得られる金銭の額が毎年四月一日の合計額を確実に上回るよう必要な措置を講じているが、万一、当該金銭の額がそれを下回る場合に、乙は、その差引残額につき保証債務を履行しなければならず、また、乙が求償権の事前行使又は根抵当権の実行をしている段階で、丁から保証債務の履行請求があつた場合に、乙は、その全額につき履行しなければならないが、前記第一の三で述べたとおり、乙は、事前に求償権を行使して根抵当権を実行するために、形式上、保証人となつているものであるので、このような場合に乙が保証債務の責めを免れるためには、その旨の特約を本約定書中に定めておく必要があること。

四 その他

別冊労働者名簿については、本約定書及び前記根抵当権約定書例ごとに作成しなければならないので、あらかじめ必要部数を作成しておいた上で、各預金労働者にまとめて押印させる等の措置を講じておく必要があること。