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通達:退職手当の保全措置について

 

退職手当の保全措置について

昭和五二年一月二〇日基賃発第二号

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局賃金福祉部長通達)

 

賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五一年法律第三四号。以下「法」という。)中退職手当の保全措置に関する規定の施行については、昭和五一年六月二八日付け労働省発基第九二号通達をもつて労働事務次官から、また、昭和五二年一月二〇日付け基発第三三号通達(以下「局長通達」という。)をもつて労働基準局長から通達されたところであるが、施行に当たつての細部の留意事項について左記のとおり定めたので、その取扱いに遺憾なきを期されたい。

なお、退職手当の保全措置に係る各種契約の約定書例については、別途指示する。

 

一 法第五条の内容

(一) 退職手当の保全措置を講ずることを要しない事業主

局長通達記の二(一)ニ(ロ)の②の「貯蓄金の保全措置に準ずる措置には該当しないが、退職手当の支払の確保を図る観点から、これら以外の何らかの有効な措置を講ずる旨の協定」の内容としては、労使が合意して書面による協定を締結したものであれば、特段の制限はないが、例えば、次のようなものがあること。

イ 退職手当の支払に充てる資金を企業外に積み立て、当該資金により退職手当の経常的な支払を行う措置で、賃金の支払の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(昭和五一年労働省令第三一号)による改正後の賃金の支払の確保等に関する法律施行規則(昭和五一年労働省令第二六号。以下「施行規則」という。)第四条第一号及び第二号に係る法令に基づく社外積立退職手当制度(以下「法令に基づく社外積立退職手当制度」という。)以外のものを講ずること。

この措置に属するものとして現に利用されている事例は次のとおりであること。

(イ) 退職手当共済事業を行う法人その他の団体(所得税法施行令(昭和四〇年政令第九六号)第六六条第一項に規定する退職金共済団体を除く。)との退職手当共済契約の締結

(ロ) 法人税法(昭和四〇年法律第三四号)第八四条第三項に規定する適格退職年金契約に該当しない退職年金に関する信託又は生命保険の契約の締結

退職手当の支払のための労働者を被保険者とする生命保険契約の締結

ロ 企業の倒産等により事業主に支払能力がなくなるに至つた場合における退職手当の支払に充てる資金の確保を図る保全措置で、局長通達の記の二(三)に掲げる措置に該当しないものを講ずること。

(二) 退職手当の保全措置を講ずべき額

施行規則第五条第一号により退職手当の保全措置を講ずべき額(以下「保全額」という。)を算出するに当たり、退職年金を現価額に換算する方法については、局長通達記の二(二)ロ(イ)で述べたところであるが、その計算例を示せば、次のとおりであること。

なお、これは、年金が毎年一回年末に支払われる場合の年初における計算であるので、年金が年に数回支払われる場合又は年末以外の時期に支払われる場合は該当しないので注意を要すること。

年金額(a円) 四〇万円

支給期間(n年) 一〇年

予定利率(r)年 五・五%(一年複利)

年金現価額(S円)

図

二 事業主に対する指導上の留意点

(一) 事業主に対する指導に当たつての基本的な考え方

イ 退職手当の保全措置については、①有効な保全措置として局長通達の記の二(三)イに掲げた種類の数が限定されていること、②保全措置のうち局長通達記の二(三)イ(イ)に掲げる措置(金融機関の保証)は、必ずしもあらゆる場合に金融機関が保証に応じるとは限らないという難点があること、③保全措置のうち局長通達の記の二(三)イ(ロ)に掲げる措置(質権の設定又は抵当権の設定)は手続が若干複雑であるという難点があること等の問題点があること。従つて、退職手当の支払の確保の観点からは、保全措置を講ずるよりも、むしろ、企業の経営状態にかかわりなく常に安定した支払が保証されている法令に基づく社外積立退職手当制度を採用することが望ましく、特に、中小企業にあつては、国庫からの助成もある中小企業退職金共済制度(施行規則第四条第一号イ関係)への加入が望ましいものであること。

ロ 法令に基づく社外積立退職手当制度を採用すること又は保全措置を講ずることに伴い、事業主は新たな負担を負うこととなるが、そのために既存の退職手当制度が後退することがないよう配慮すべきであること。

(二) 退職手当の保全措置を講ずる事業主に対する指導上の留意点

イ 保全措置を講ずる事業主は、退職手当を支払うことを明らかにした労働契約又は労働協約、就業規則その他これらに準ずるものにおいて、保全措置の種類及び保全額を明記することが望ましいこと。

ロ 保全額として施行規則第五条に掲げる額は最低基準を示したものであり、個々の企業の実情に応じて、可能な場合は、保全額を引き上げることが望ましいことは言うまでもないこと。

(三) 退職手当の保全措置を講ずることを要しない事業主に対する指導上の留意点

施行規則第四条第四号に基づき、退職手当の保全措置について貯蓄金の保全措置に準ずる措置によらない旨の書面による労使協定を締結した事業主に対しては、退職手当の支払を図る必要性の観点から、少なくとも当該協定の有効期間の満了の都度、①法令に基づく社外積立退職手当制度を採用すること又は②局長通達記の二(三)イで示した退職手当の保全措置を講ずることの可否について検討することが望ましいので、その旨を指導すること。

三 当面の行政の進め方

(一) 当面の行政を進めるに当たつての基本的な考え方

法第五条は、退職手当の保全について事業主の自主的な努力を要請するものであることから、本条の趣旨及び内容の周知のために、広報手段を積極的に利用するとともに、個別事業主に対しても積極的に指導等を行う必要があること。

しかしながら、①退職手当の保全措置は初めての施策であるので、事業主は退職手当制度の現状の見直し及び将来のあり方についての検討を行う時間的余裕を必要とすること、②退職手当の未払自体は労働基準法(昭和二二年法律第四九号)違反ではあるが、その履行を確保する一助として設けられた本条は努力義務規定であること等にかんがみ、当面は後記(二)から(五)までにより、本条の趣旨及び内容を周知させることに重点を置くこと。

(二) 関係行政機関との連携協力

前記二(一)イで述べたように法令に基づく社外積立退職手当制度を採用することが望ましいことから、中小企業退職金共済制度への加入促進のため、都道府県労働福祉主管課と連携協力すること。また、社会福祉施設職員退職手当共済制度(施行規則第四条第一号ロ関係)及び厚生年金基金制度(施行規則第四条第二号関係)については都道府県民生主管部に対してその制度の周知及び加入促進につき連携協力を要請すること。

これらの行政機関に対しては、それぞれの本省から、労働基準監督機関との連携協力について指示することとなつていること。

(三) 事業主団体に対する協力要請等

法第五条の規定は事業主の自主的な努力を要請するものであるので、本省において、日本経営者団体連盟、日本商工会議所、全国中小企業団体中央会等の事業主団体に対し、当該団体の加入事業主への本条の趣旨及び内容の周知について、協力要請をすることとしているが、各都道府県労働基準局においても、これらの事業主団体の関係地方組織に対して積極的に協力を要請すること。

また、あらゆる機会をとらえて、事業主に対して集団的に本条の趣旨及び内容の周知を図ること。

(四) 広報

法第五条の趣旨及び内容の周知を図るため、報道機関に資料を提供する等の方法により、その報道について協力を求めるとともに、都道府県及び市町村の広報紙、事業主団体及び労働者団体の機関紙等に資料を提供する等の方法により、その掲載について協力を求めること。

(五) 個別事業主に対する指導

個別事業主に対しては、退職手当に関する事項を就業規則において定めた場合又は変更した場合の当該就業規則の届出を受理したとき、賃金相談員等が事業主から相談を受けたとき等の機会を活用することにより、法第五条の趣旨及び内容の周知を図ること。