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通達:金属水銀、そのアマルガム及び水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるアルキル水銀化合物を除く。)による疾病の認定基準について

 

金属水銀、そのアマルガム及び水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるアルキル水銀化合物を除く。)による疾病の認定基準について

昭和52年1月10日基発第13号

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)

 

「水銀そのアマルガム又は化合物(有機水銀を除く。)に因る中毒」の業務上外の認定基準については、昭和37年5月14日付け基発第512号をもって指示したところであるが、今般、標記について下記のとおり定めるので、事務処理に遺憾のないようにされたい。これに伴い、前記通達は廃止する。

なお、下記の基準により判断することが困難と思われる事案については関係資料を添えて本省にりん伺されたい。

また、この通達中の〔解説〕の部分は、認定基準の細目を示したものであり、本文と一体のものである。

 

金属水銀、そのアマルガム及び水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるアルキル水銀化合物を除く。以下同じ。)を取り扱う作業場所における業務に従事した労働者に発生した疾病で、次の1又は2のいずれかに該当する疾病であって、療養が必要であると認められるものは、労働基準法施行規則別表第1の2第4号の規定に基づく労働省告示第36号表中に掲げる水銀及びその化合物(アルキル水銀化合物を除く。)による疾病として取り扱うこと。

1.次の(1)及び(2)に掲げる要件のすべてに該当すること。

(1) 相当量の金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんにばく露する業務に従事している期間がおおむね数週間以上の者について発生した疾病であること(その者がその業務を離れた場合には、その離れた後おおむね6か月以内に発生したものであること。)

(2) 次のイからホまでに掲げる症状のうちいずれかに該当する疾病であること。

イ 振せん、運動失調等の神経症状が常時又は繰り返し認められるもの

ロ 歯肉炎(歯ぎん炎)、口内炎、咽頭炎、唾液分泌亢進等が常時又は繰り返し認められるもの

ハ 情緒不安定(焦燥感、不機嫌、怒り易い、気おくれ等)、記憶力減退、不眠、抑うつ、性的無関心、幻覚等の精神症状が認められるもの

ニ 蛋白尿又は血尿が常時又は繰り返し認められるもの

ホ 発赤、皮疹、浮腫、潰瘍等の皮膚又は粘膜の刺激症状が認められるもの

ただし、上記(1)の要件を満たさない場合には、症状が上記(1)の業務に従事した後に発症したか否か、作業の経過とともに又は当該物質へのばく露程度(水銀の気中濃度、ばく露期間、ばく露時の作業態様等)に応じて症状又は尿中若しくは血中の水銀量が変化したか否か、作業ばく露条件の改善又は作業からの離脱により症状の軽快又は尿中若しくは血中の水銀量の減少がみられたか否か、同一職場で同一作業を行う労働者に同様の症状の発生をみたか否か等を検討のうえ業務起因性を判断すること。

2.業務により高濃度の金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんにばく露し、急性中毒症状として、咽喉頭の灼熱感、咳、胸痛、呼吸困難等の呼吸器症状又は発赤、皮疹、浮腫、潰瘍等の皮膚若しくは粘膜の刺激症状を呈した疾病であること。

 

〔解説〕

1.慢性中毒について

本文記の1.は、低濃度の金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんに長期間にわたってばく露したことにより生じる中毒についてその業務起因性の判断要件を示したものである。

(1) 記の1.の(1)の「相当量」とは、水銀濃度が0.05mg/m3程度以上であることをいう。

(2) 記の1.の(2)のイの振せん、運動失調等の神経症状については、一般に次のようにあらわれる。

イ 水銀中毒の振せんは、通常微細で、手指に顕著にみられるが、閉眼時の上眼瞼、舌を出させた時の舌端等にもみられる。手の振せんは、動作時に増強する。たとえば、ボタンをはめたり、コップを持ったり、字を書いたりした場合等に著明となる。振せんは、水銀へのばく露が続くと粗大となり、その振せんの生じる部位は、四肢から体幹に拡がる。

ロ 動作時に筋脱力や筋硬直が生じ、反抗運動がみられる。また、脱力、運動失調、振せん等のため歩行が困難になる。腱反射は亢進する例も低下する例もある。さらに、バビンスキー反射のような病的反射もみられる。

(3) 記の1.の(2)のロの「歯肉炎(歯ぎん炎)」は、歯肉の発赤腫脹、疼痛、出血等の症状があり、歯肉炎のため歯牙が脱落することがある。また、記の1.の(2)のロの「唾液分泌亢進」は水銀中毒の場合に認められることが多いが必ず発現するものではない。

なお、歯肉炎における暗青紫色の色素沈着の出現又は唾液中水銀の検出は、水銀中毒の診断の参考となる。

(4) 記の1.の(2)のハの症状は、本人が自覚するよりも周囲の家族や同僚によって気づかれることが多い。また、これらの症状は一般に単発するものでなくいくつかの症状が併発することが多い。

(5) 記の1.の(2)のニの「血尿」には、肉眼的血尿のほか顕微鏡的血尿も含まれる。

(6) 記の1.の(2)のホの皮膚又は粘膜の刺激症状は、水銀化合物の粉じんが皮膚又は粘膜に付着して起こるものである。また、人により水銀化合物へのばく露によってアレルギー性皮膚炎を起こすことがある。

(7) 金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんへのばく露により記の1の(2)のイからホまでに掲げる症状以外に、多汗、皮膚描画症(みみずばれ)、赤面(すぐ顔が赤くなる。)等の血管運動神経症状もしばしばみられる。

(8) 記の1.の(2)のイからホまでに掲げる症状が金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんへのばく露によって生じたものである場合には、尿中水銀が異常高値を示すので尿中水銀量の測定値の記録を収集する必要がある。この場合、水銀の尿中への排泄量は変動が大きいので、相異なる日に測定して得た値のうち高い数値を参考とすることとし、また、業務を離れた後の測定値しか得られない場合はその測定値のほか業務を離れたときから測定したときまでの経過期間をは握する必要がある。

一般に、業務に従事中の者についての上記の測定値は、振せん又は蛋白尿が認められる者についてはおおむね100μg/l以上、歯肉炎又は精神症状が認められる者についてはおおむね300μg/l以上であるとされている。

なお、この値は薬物投与による誘発テストを行った後の値ではない。

(9) 細隙灯顕微鏡検査でアトキンソン反射すなわち水晶体前嚢の瞳孔領域に赤褐色にみえる色素沈着があれば金属水銀の蒸気に長期間ばく露された可能性が強い。

2.急性中毒について

本文記の2.は、高濃度の金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんへ短期間にばく露したことにより生じる中毒についてその業務起因性の判断要件を示したものである。

(1) 高濃度の金属水銀の蒸気又は水銀化合物の粉じんにばく露されて化学性肺臓炎を起こした場合には、咳、胸痛及び呼吸困難のほか、ぜいめい、チアノーゼ、発熱(37℃~40℃)及び白血球増多がみられる。

(2) 本文記の2.の呼吸器症状以外に金属味、歯肉炎(歯ぎん炎)、頭痛、悪心、腹痛、嘔吐、下痢を示すことが多い。また、経過とともに本文記の1.の(2)のイからホまでに掲げる慢性中毒の症状が認められることがある。

(3) 本文記の2.の皮膚又は粘膜の刺激症状は、水銀化合物の粉じんが皮膚又は粘膜に付着したことにより起こるものである。また、人により水銀化合物へのばく露によってアレルギー性皮膚炎を起こすことがある。(前記1の(6)参照。)

3.その他

金属水銀の蒸気にばく露した場合は、本通達において示された症状が比較的著明に現われるが、一般に水銀化合物の粉じんにばく露した場合には著明に現われないこともあるので、水銀化合物の粉じんにばく露したことにより現われた症状であるか否かの判断に当たっては、別紙「水銀化合物(金属水銀、そのアマルガム及びアルキル基がメチル基又はエチル基であるアルキル水銀化合物を除く。)の人体に対する毒性について」を参考とすること。

 

別紙

水銀化合物(金属水銀、そのアマルガム及びアルキル基がメチル基又はエチル基であるアルキル水銀化合物を除く。以下同じ。)の人体に対する毒性について

1.水銀化合物は、主として結合基に由来する特性、溶解度、イオン解離度により毒性に大きな差がある。たとえば、塩化第二水銀(しようこう)やフェニル水銀塩は皮膚又は粘膜の刺激性が強く、皮膚又は粘膜に付着して発赤、皮疹、浮腫、潰瘍等を起こす。また、体内に吸収されれば腎障害を起こしやすい。一方、塩化第一水銀(かんこう)、硫化水銀のように溶解度の低いものは中毒を起こしにくい。多くの水銀化合物の毒性はこの中間にある。したがって、水銀化合物にばく露することによって人体に生ずる症状を統一的に述べることは困難である。

2.一般に水銀化合物による中毒では中枢神経障害を起こしにくいとされているが、獣毛の硝酸水銀加工を行うフェルト帽子製造作業に従事した労働者に振せんが多発したという報告がある。また、メトキシエチル水銀へのばく露を受ける作業に従事した労働者に振せんが発生したとの症例報告もある(本例では多発性神経炎も発生している。)。その原因は、作業工程で加熱、還元、有機物の存在等により、水銀化合物から金属水銀の蒸気が遊離するためと考えられている。

3.無機水銀あるいは体内で分解しやすい有機水銀(フェニル水銀等)が人体内でメチルコバラミン(ビタミンB12の活性体)によりメチル水銀に転換して中毒を起こす可能性は、哺乳動物による実験成績では否定的であり、労働者に関する中毒の症例報告もない。