img1 img1 img1

◆トップページに移動 │ ★目次のページに移動 │ ※文字列検索は Ctrl+Fキー  

通達:業務上腰痛の認定基準等について

 

業務上腰痛の認定基準等について

昭和51年10月16日基発第750号

(都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通知)

 

腰痛の業務上外の取扱い等については、昭和43年2月21日付け基発第73号通達をもって示しているところであるが、その後の医学的情報等について「腰痛の業務上外の認定基準の検討に関する専門家会議」において検討を続けてきたところ今般その結論が得られたので、下記のとおり改訂することとし、これに伴い上記通達を廃止するので、今後の事務処理に遺憾のないよう万全を期されたい。

なお、本通達の解説部分は認定基準の細目等を定めたものであり、通達本文と一体のものとして取り扱われるべきものであるので念のため申し添える。

 

1 災害性の原因による腰痛

業務上の負傷(急激な力の作用による内部組織の損傷を含む。以下同じ。)に起因して労働者に腰痛が発症した場合で、次の二つの要件のいずれをも満たし、かつ、医学上療養を必要とするときは、当該腰痛は労働基準法施行規則(以下「労基則」という。)別表第1の2第1号に該当する疾病として取り扱う。

(1) 腰部の負傷又は腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたと明らかに認められるものであること。

(2) 腰部に作用した力が腰痛を発症させ、又は腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること。

2 災害性の原因によらない腰痛

重量物を取り扱う業務等腰部に過度の負担のかかる業務に従事する労働者に腰痛が発症した場合で当該労働者の作業態様、従事期間及び身体的条件からみて、当該腰痛が業務に起因して発症したものと認められ、かつ、医学上療養を必要とするものについては、労基則別表第1の2の第3号2に該当する疾病として取り扱う。

 

〔解説〕

1 災害性の原因による腰痛

(1) ここでいう災害性の原因とは、通常一般にいう負傷のほか、突発的なできごとで急激な力の作用により内部組織(特に筋、筋膜、靱帯等の軟部組織)の損傷を引き起こすに足りる程度のものが認められることをいう。

(2) 災害性の原因による腰痛を発症する場合の例としては、次のような事例があげられる。

イ 重量物の運搬作業中に転倒したり、重量物を2人がかりで運搬する最中にそのうちの1人の者が滑って肩から荷をはずしたりしたような事故的な事由により瞬時に重量が腰部に負荷された場合

ロ 事故的な事由はないが重量物の取扱いに当たってその取扱い物が予想に反して著しく重かったり、軽かったりするときや、重量物の取扱いに不適当な姿勢をとったときに脊柱を支持するための力が腰部に異常に作用した場合

(3) 本文記の1の(1)で「腰部の負傷を生ぜしめたと考えられる通常の動作と異なる動作による腰部に対する急激な力の作用が業務遂行中に突発的なできごととして生じたと明らかに認められるものであること」を認定の要件としたのは、腰部は常に体重の負荷を受けながら屈曲、伸展、回旋等の運動を行っているが、労働に際して何らかの原因で腰部にこれらの通常の運動と異なる内的な力が作用していわゆる「ぎっくり腰」等の腰痛が発症する場合があるので、前記(2)に該当するような災害性の原因が認められた場合に発症した腰痛を業務上の疾病として取り扱うこととしたことによるものである。

ぎっくり腰等の腰痛は、一般的には漸時軽快するものであるが、ときには発症直後に椎間板ヘルニアを発症したり、あるいは症状の動揺を伴いながら後になって椎間板ヘルニアの症状が顕在化することもあるので椎間板ヘルニアを伴う腰痛についても災害性の原因による腰痛として補償の対象となる場合のあることに留意すること。

(4) 本文記の1の(2)で「腰部に作用した力が腰痛を発症させ、又は腰痛の既往症若しくは基礎疾患を著しく増悪させたと医学的に認めるに足りるものであること」を認定要件としたのは、腰痛の既往症又は基礎疾患(例えば椎間板ヘルニア、変形性脊椎症、腰椎分離症、すべり症等)のある労働者であって腰痛そのものは消退又は軽快している状態にあるとき、業務遂行中に生じた前記の災害性の原因により再び発症又は増悪し、療養を要すると認められることもあるので、これらの腰痛についても業務上の疾病として取り扱うことによるものである。

(5) 本文記の1の(1)及び(2)に該当しない腰痛については、たとえ業務遂行中に発症したものであっても労基則別表第1の2第1号に掲げる疾病には該当しない。

なお、この場合同別表第3号2に該当するか否かは別途検討を要するので留意すること。

2 災害性の原因によらない腰痛

災害性の原因によらない腰痛は、次の(1)及び(2)に類別することができる。

(1) 腰部に過度の負担のかかる業務に比較的短期間(おおむね3カ月から数年以内をいう。)従事する労働者に発症した腰痛

イ ここにいう腰部に負担のかかる業務とは、次のような業務をいう。

(イ) おおむね20kg程度以上の重量物又は軽重不同の物を繰り返し中腰で取り扱う業務

(ロ) 腰部にとって極めて不自然ないしは非生理的な姿勢で毎日数時間程度行う業務

(ハ) 長時間にわたって腰部の伸展を行うことのできない同一作業姿勢を持続して行う業務

(ニ) 腰部に著しく粗大な振動を受ける作業を継続して行う業務

ロ 腰部に過度に負担のかかる業務に比較的短期間従事する労働者に発症した腰痛の発症の機序は、主として筋、筋膜、靱帯等の軟部組織の労作の不均衡による疲労現象から起こるものと考えられる。

したがって疲労の段階で早期に適切な処置(体操、スポーツ、休養等)を行えば容易に回復するが、労作の不均衡の改善が妨げられる要因があれば療養を必要とする状態となることもあるので、これらの腰痛を業務上の疾病として取り扱うこととしたものである。

なお、このような腰痛は、腰部に負担のかかる業務に数年以上従事した後に発症することもある。

(2) 重量物を取り扱う業務又は腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務に相当長期間(おおむね10年以上をいう。)にわたって継続して従事する労働者に発症した慢性的な腰痛

イ ここにいう「重量物を取り扱う業務」とは、おおむね30kg以上の重量物を労働時間の3分の1程度以上取り扱う業務及びおおむね20kg以上の重量物を労働時間の半分程度以上取り扱う業務をいう。

ロ ここにいう「腰部に過度の負担のかかる作業態様の業務」とは、前記イに示した業務と同程度以上腰部に負担のかかる業務をいう。

ハ 前記イ又はロに該当する業務に長年にわたって従事した労働者に発症した腰痛については、胸腰椎に著しく病的な変性(高度の椎間板変性や椎体の辺縁隆起等)が認められ、かつ、その程度が通常の加齢による骨変化の程度を明らかに超えるものについて業務上の疾病として取り扱うこととしたものである。

エックス線上の骨変化が認められものとしては、変形性脊椎症、骨粗鬆(すう)症、腰椎分離症、すべり症等がある。この場合、変形性脊椎症は一般的な加齢による退行性変性としてみられるものが多く、骨粗鬆症は骨の代謝障害によるものであるので腰痛の業務上外の認定に当たってはその腰椎の変化と年齢との関連を特に考慮する必要がある。腰椎分離症、すべり症及び椎間板ヘルニアについては労働の積み重ねによって発症する可能性は極めて少ない。

3 業務上外の認定に当たっての一般的な留意事項

腰痛を起こす負傷又は疾病は、多種多様であるので腰痛の業務上外の認定に当たっては傷病名にとらわれることなく、症状の内容及び経過、負傷又は作用した力の程度、作業状態(取扱い重量物の形状、重量、作業姿勢、持続時間、回数等)当該労働者の身体的条件(性別、年齢、体格等)、素因又は基礎疾患、作業従事歴、従事期間等認定上の客観的な条件のは握に努めるとともに必要な場合は専門医の意見を聴く等の方法により認定の適正を図ること。

4 治療

(1) 治療法

通常、腰痛に対する治療は、保存的療法(外科的な手術によらない治療方法)を基本とすべきである。しかし、適切な保存的療法によっても症状の改善が見られないもののうちには、手術的療法が有効な場合もある。この場合の手術方式は腰痛の原因となっている腰部の病変の種類によってそれぞれ違うものであり、手術によって腰部の病変を改善することができるか否かについては医学上慎重に考慮しなければならない。

(2) 治療の範囲

腰痛の既往症又は基礎症患のある労働者に本文記の1又は2の事由により腰痛が発症し増悪した場合の治療の範囲は、原則としてその発症又は増悪前の状態に回復させるためのものに限る。ただし、その状態に回復させるための治療の必要上既往症又は基礎疾患の治療を要すると認められるものについては、治療の範囲に含めて差し支えない。

(3) 治療期間

業務上の腰痛は、適切な療養によればほぼ3、4カ月以内にその症状が軽快するのが普通である。特に症状の回復が遅延する場合でも1年程度の療養で消退又は固定するものと考えられる。

しかし、前記2の(2)に該当する腰痛のうち、胸腰椎に著しい病変が認められるものについては、必ずしも上記のような経過をとるとは限らない。

5 再発

業務上の腰痛がいったん治ゆした後、他に明らかな原因がなく再び症状が発現し療養を要すると認められるものについては、業務上の腰痛の再発として取り扱う。

ただし、業務上の腰痛が治ゆ後1年以上の症状安定期を経た後に他に原因がなく再発することは非常に稀であると考える。