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通達:賃金の支払の確保等に関する法律(退職労働者の賃金に係る遅延利息関係)の施行等について

 

賃金の支払の確保等に関する法律(退職労働者の賃金に係る遅延利息関係)の施行等について

昭和五一年九月二八日基発第六九〇号

(各都道府県労働基準局長あて労働省労働基準局長通達)

 

賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五一年法律第三四号。以下「法」という。)中未払賃金の立替払事業に関する規定は、七月一日から施行されたところであるが、未払賃金の立替払事業に関する規定以外の規定については、九月六日公布された賃金の支払の確保等に関する法律の一部の施行期日を定める政令(昭和五一年政令第二三七号)により、退職労働者の賃金に係る遅延利息、労働基準法の一部改正等に関する規定は本年一〇月一日から、貯蓄金及び退職手当の保全措置に関する規定は昭和五二年四月一日から、それぞれ、施行されることとなつた。

また、これらの規定の施行のため、賃金の支払の確保等に関する法律施行令の一部を改正する政令(昭和五一年政令第二三八号。以下「改正政令」という。)及び賃金の支払の確保等に関する法律施行規則の一部を改正する省令(昭和五一年労働省令第三一号。以下「改正省令」という。)が九月六日公布されたところである。

法の施行については、既に昭和五一年六月二八日付け労働省発基第九二号通達をもつて労働事務次官から通達されているところであるが、退職労働者の賃金に係る遅延利息、労働基準法の一部改正等に関する規定については、左記事項に留意のうえ、その運用に遺漏のないよう万全を期されたい。

なお、昭和五一年六月二八日付け基発第四七四号通達において引用している賃金の支払の確保等に関する法律施行令(昭和五一年政令第一六九号。以下「施行令」という。)及び賃金の支払の確保等に関する法律施行規則(昭和五一年労働省令第二六号。以下「施行規則」という。)の各規定は、改正政令による改正後の施行令(以下「新施行令」という。)又は改正省令による改正後の施行規則(以下「新施行規則」という。)におけるこれらの規定に相当する規定とし、また、昭和二三年三月三一日付け基発第五一三号通達中労働基準法(昭和二二年法律第四九号)第一五条関係に係る部分を削るものとする。

おつて、貯蓄金及び退職手当の保全措置に関する規定の施行については、別途通達するので、念のため申し添える。

 

第一 退職労働者の賃金に係る遅延利息関係(法第六条、新施行令第一条及び新施行規則第六条関係)

一 趣旨

法第六条の規定は、金銭を目的とする債務の不履行に係る損害賠償について規定した民法(明治二九年法律第八九号)第四一九条の規定(同条の法定利率は、同法第四〇四条又は商法(明治三二年法律第四八号)第五一四条に規定する年五パーセント又は年六パーセントである。)の特則として設けられたものであること。従つて、退職労働者から法第六条の規定に基づいて同条の遅延利息の支払の請求があつた場合には、事業主は、それに応じなければならないのは当然であるが、その支払に関し争いがある場合には、当該争いは、民事裁判によつて解決されるべきものであること。

二 対象となる賃金について

(一) 法第六条の遅延利息の対象となる賃金は、事業を退職した労働者に係る賃金(退職手当を除く。)のうちその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日)までに支払われなかつた部分であること。

(二) 対象となる賃金を退職労働者に係るものに限ることとしたのは、退職労働者については、時間の経過とともに賃金の支払に関し不便と危険が増大することから、従前の雇用関係に基づく債権債務関係を早急に清算する必要があること、賃金未払事案として労働基準監督機関において取り扱われるもののほとんどが退職労働者に係るものであること等を考慮したものであり、また、対象となる賃金を退職手当を除いた賃金としたのは、当面の生活費に充てるべき定期賃金、賞与等については、その支払の促進を図る必要性が特に大きいこと、賃金未払事案として労働基準監督機関において取り扱われているもののほとんど定期賃金、賞与等に係るものであること等を考慮したものであること。

三 遅延利息を支払わなければならない期間について

法第六条の遅延利息は、退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日)の翌日から当該未払となつている賃金の支払をする日までの期間について支払わなければならないものであること。すなわち、

(一) その支払期日が退職の日以前の日である賃金について、その支払をする日が退職の日の翌日以後の日になる場合は、事業主は、退職の日の翌日から当該支払をする日までの間について法第六条の遅延利息を支払わなければならないこと(次図参照)。

図1

(二) その支払期日が退職の日後である賃金については、事業主は、当該支払期日の翌日から支払をする日までの間について法第六条の遅延利息を支払わなければならないこと。

なお、退職の日後に権利者から賃金の支払の請求があつた場合には、事業主は、労働基準法第二三条の規定により七日以内に当該賃金(異議のある部分を除く。)を支払わなければならないが、この場合において、

イ 当該請求があつた日の翌日から起算して七日目に該当する日が当該賃金に係る所定の支払期日前の日であるときは、事業主は、当該七日目に該当する日の翌日、すなわち、当該請求があつた日の翌日から起算して八日目に該当する日から当該賃金(異議のある部分を除く。)の支払をする日までの間について法第六条の遅延利息を支払わなければならず、また、

ロ 当該請求があつた日から七日以内の特定の日に当該賃金を支払う旨の約束を事業主がしたときには、当該特定の日が所定の支払期日前の日であつても、事業主は、当該特定の日の翌日から支払をする日までの間について法第六条の遅延利息を支払わなければならないこと。(以上次図参照)

図2

図3

図4

図5

四 法第六条の遅延利息の率について

法第六条の遅延利息の率は年一四・六パーセントであること(新施行令第一条)。なお、年一四・六パーセントの率は、法第六条第一項に規定されている上限の率であるが、これは下請代金支払遅延等防止法(昭和三一年法律第一二〇号)における下請代金に係る遅延利息(同法第四条の二及び下請代金支払遅延等防止法第四条の二による遅延利息の率を定める規則(昭和三七年公正取引委員会規則第一号))等他の同種の遅延利息の率を考慮して定めたものであること。

五 やむを得ない事由について

(一) 法第六条第二項の規定により、やむを得ない事由の存する期間については、法第六条第一項の規定が適用除外となる(次図参照)が、その事由は、次に掲げるものであること(新施行規則第六条)。

イ 天災地変

ロ 事業主が破産の宣告を受け、又は新施行令第二条第一項各号に掲げる事由のいずれかに該当することとなつたこと。

ハ 法令の制約により賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること。

ニ 支払が遅滞している賃金の全部又は一部の存否に係る事項に関し、合理的な理由により、裁判所又は労働委員会で争つていること。

ホ その他イからニまでに掲げる事由に準ずる事由

図6

(二) これらの事由の具体的な内容は、次のとおりであること。

イ (一)のハの事由は、①いわゆる特殊法人等である事業主のうち、法令上事業に必要な資金の収入若しくは支出が国会の承認、主務大臣若しくは都道府県知事の認可等に係わり、これらの承認、認可等が受けられない限り予算が執行できないこととされているものについて、これらの承認、認可等が受けられなかつたことにより賃金の支払が困難となつたこと及び②(一)のロの事由には該当しないが、いわゆる倒産関係法律の規定(例破産法(大正一一年法律第七一号)第一五五条)による財産の保全処分命令が出されたことにより財産の処分ができないため、賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難となつたことをいうものであること。

ロ (一)のニの事由は、退職労働者に係る資金の全部又は一部の存否自体に関して裁判所で争つていること、不当労働行為に係る事案又はあつ旋、調停若しくは仲裁に係る事案として労働委員会で争つているが、結果として賃金の全部又は一部の存否に係わりが生ずる場合の当該労働委員会で争つていること等をいうものであること。

また、新施行規則第六条第四号中「合理的な理由により」とあるのは、裁判所又は労働委員会で争つている場合であつても、事業主が正当な理由がないにもかかわらず、専ら法第六条の遅延利息の支払を免れる意思で、すなわち、退職労働者を害する意思で争つていると認められる場合には、当該事業主は、法第六条の遅延利息を支払わなければならない趣旨を規定したものであること。

ハ (一)のホの事由として、次のものがあること。

(イ) 事業主が(一)のロの事由以外の倒産事由、すなわち、裁判上の倒産手続をとらず私的に会社再建のため債権者会議を開催する等事実上の再建型の倒産状態にあること、新施行令第二条第一項第五号に規定する事実上の清算型の倒産状態にあることその他事業主が誠実な努力をしたにもかかわらず、賃金の支払に充てるべき資金の確保が困難であること。

なお、新施行令第二条第二項に規定する中小企業事業主が同条第一項第五号に規定する事実上の清算型の倒産状態に該当している場合であつて、同号の労働基準監督署長の認定を受けたときは、当該事業主は、(一)のロに該当するものであること。

(ロ) 賃金の額等の計算誤りその他賃金の支払に関する事務処理上の過誤により、過少に賃金を支払い、かつ、本来支払うべき額と現実に支払われた額との差額について権利者から請求がなかつたこと。

なお、(一)のホの事由としては、前記(イ)又は(ロ)に限定する趣旨ではないので、法第六条第二項の趣旨に照らし、(一)のホの事由に該当すると考えられる事例が生じた場合には、その都度、本省にりん伺すること。

六 やむを得ない事由の存する期間について

法第六条第二項のやむを得ない事由の存する期間の始期は当該事由の生じた日であり、終期は当該事由のなくなつた日であること。

やむを得ない事由の生じた日及びなくなつた日は、次のとおりであること。

 

やむを得ない事由の生じた日

やむを得ない事由のなくなつた日

五の(一)のイの事由

天災地変が生じた日

天災地変が生じた日後の日であつて、誠実な努力をしたとすれば支払可能であると認められるに至つた日

五の(一)のロの事由

事業主が破産の宣告を受け、又は新施行令第二条第一項各号に掲げる事由に該当するに至つた日

事業主が新施行令第二条第一項第二号から第四号までに掲げる事由(裁判上の再建型の倒産)のいずれかに該当する場合にあつては、整理終結若しくは更生手続終結の決定があつた日、和議の履行がなされた日等(事業主が破産の宣告を受け、又は新施行令第二条第一項第一号若しくは第五号に掲げる事由に該当する場合にあつては、その後同一の事実に基づき裁判上の再建型の倒産に該当することとなつた場合を除き、法第六条の遅延利息の支払義務はないものであること。)

五の(一)のハの事由

労働者の退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日)又は財産の保全処分命令が出された日

法令の制約が解除されたことにより賃金の支払が可能となつた日又は財産の保全処分命令が解除された日

五の(一)のニの事由

裁判所への提訴又は労働委員会への申立若しくは申請があつた日

裁判所の判決若しくは労働委員会の命令が確定した日又は和解等により争いが終結した日

五の(一)のホの事由

例えば、(イ)については資金の確保が困難であると認められる事情が生じた日、(ロ)については過少に支払つた賃金に係る支払期日(当該支払期日が退職の日前である場合にあつては、退職の日)

例えば、(イ)については資金の確保が困難であると認められる事情がなくなつた日、(ロ)については権利者から本来支払われるべき額と現実に支払われた額との差額の支払について請求があつた日(当該請求があつた日が退職の日前の日である場合にあつては、退職の日)

七 法第六条の遅延利息に係る経過措置について

法第六条の規定は、同条の規定の施行の日、すなわち、昭和五一年一〇月一日以後に労働者が退職した場合について適用されるものであること(法附則第二条)。

従つて、昭和五一年九月三〇日以前に退職した労働者の未払賃金については、事業主は、法第六条の遅延利息の支払義務はないこと。

 

第二 労働基準法の一部改正関係

一 賃金に関する事項に係る労働条件の明示の方法関係(法附則第四条による改正後の労働基準法第一五条第一項及び改正省令附則第二項による改正後の労働基準法施行規則(昭和二二年厚生省令第二三号)第五条関係)

(一) 賃金に関する事項に係る労働条件の明示について

法附則第四条により労働基準法第一五条第一項が、改正省令附則第二項により労働基準法施行規則第五条が、それぞれ改正されたが、これは、労働契約の締結時における賃金に関する事項の取決めが不明確であることに起因する賃金未払事案が多いことにかんがみ、このような事案の発生の防止を図るため、使用者が労働契約の締結に際し労働者に対して明示しなければならない労働条件のうち特に賃金に関する事項についての明示の方法については、労働者に対する書面の交付によらなければならないこととしたものであること。

(二) 明示すべき賃金に関する事項及び書面について

書面によつて明示すべき事項は、賃金に関する事項のうち、労働契約締結後初めて支払われる賃金の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期であること。具体的には、基本賃金の額(出来高払制による賃金にあつては、仕事の量(出来高)に対する基本単価の額及び労働時間に応じた保障給の額)、手当(労働基準法第二四条第二項本文の規定が適用されるものに限る。)の額又は支給条件、時間外、休日又は深夜労働に対して支払われる割増賃金について特別の割増率を定めている場合にはその率並びに賃金の締切日及び支払日であること。

また、交付すべき書面の内容としては、就業規則等の規定と併せ、前記の賃金に関する事項が当該労働者について確定し得るものであればよく、例えば、労働者の採用時に交付される辞令等であつて、就業規則等に規定されている賃金等級が表示されたものでも差し支えないこと。この場合、その就業規則等を労働者に周知させる措置が必要であることはいうまでもないこと。

なお、交付すべき書面の参考例は、別添一のとおりであること。

(三) 日々雇い入れられる者に対する書面の交付について

日々雇い入れられる者についても、使用者は、書面により賃金に関する事項を明示しなければならないが、賃金に関する事項について同一条件で労働契約が更新される場合においては、最初の雇入れの際に当該書面を交付することで足り、その都度、当該書面を交付しなくても差し支えないこと。

(四) 建設業における雇入通知書の改定について

建設業における労働条件の明確化のための指導については、昭和四一年七月二九日付け基発第八〇五号通達により指示したところであるが、先般、建設労働者の雇用の改善等に関する法律(昭和五一年法律第三三号)が制定され、建設業の事業主は、建設労働者を雇い入れたときは、速やかに、当該建設労働者に対して、当該事業主の氏名又は名称、雇用期間、従事すべき業務の内容等を明らかにした文書を交付しなければならないこととされ(同法第七条)、建設業については、前記の労働基準法第一五条の規定に基づく賃金に関する事項の書面による明示義務と相まつて労働条件等の明確化の一層の実効を期することとなつた。

これに伴い、前記基発第八〇五号通達中の雇入通知書の記載例を別添二のとおり改めることとしたので、今後の監督指導に当たつてはこれが交付の徹底を期されたい。

なお、当該雇入通知書が交付された場合には、重ねて賃金に関する事項を明示した書面を交付する必要はないのはいうまでもないこと。

二 罰則の改正関係(法附則第四条による改正後の労働基準法第一一八条の二から第一二〇条まで及び法附則第五条関係)

賃金の支払及び貯蓄金の返還に関する使用者の責任の一層の強化を図るため、法附則第四条において労働基準法の罰則の一部が改正され、賃金及び貯蓄金に係る同法の規定に違反した場合の罰則が改正されたこと。すなわち、同法第一八条第一項及び第七項、第二三条(賃金の支払及び貯蓄金の返還に係る部分に限る。)、第二四条から第二六条まで並びに第三七条の規定に違反した場合の罰金の額の上限が従来の八千円(罰金等臨時措置法(昭和二三年法律第二五一号)第四条第一項により五千円が八千円とされている。)から一〇万円に引き上げられたこと。

なお、法附則第五条の規定により、昭和五一年一〇月一日前になされた前記の労働基準法の規定に違反する行為に対する罰則の適用については、なお従前の例によるものとされていること。

 

第三 労働省組織令及び労働省組織規程の一部改正関係(改正政令附則第二項の規定による改正後の労働省組織令(昭和二七年政令第三九三号)第一八条、第二二条及び第二三条の二並びに改正省令附則第三項の規定による改正後の労働省組織規程(昭和二七年労働省令第三六号)第一五条、第一九条及び第二二条関係)

本省労働基準局においては、貯蓄金の保全措置に関する事務は監督課が、退職手当の保全措置及び退職労働者の賃金に係る遅延利息に関する事務は賃金福祉部賃金課が、都道府県労働基準局においては、退職手当の保全措置に関する事務は賃金課が、退職手当の保全措置に関する事務以外の事務は監督課が、それぞれ、つかさどるものであること。

 

別添1 賃金に関する事項を明示した書面(参考例)


別添2 雇入通知書の記載例