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賃金の支払の確保等に関する法律の施行について
昭和51年6月28日労働省発基第92号
(各都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)
賃金の支払の確保等に関する法律(昭和五一年法律第三四号。以下「法」という。)は、昭和五一年五月二七日公布され、法の規定中第三章等未払賃金の立替払事業に関する部分については、昭和五一年七月一日から、その他の規定については、各規定につき、政令で定める日から施行されることとなつている。
また、本法の施行に必要な政令及び労働省令のうち、未払賃金の立替払事業に関する事項を定めた賃金の支払の確保等に関する法律施行令(昭和五一年政令第一六九号。以下「施行令」という。)及び賃金の支払の確保等に関する法律施行規則(昭和五一年労働省令第二六号。以下「施行規則」という。)は、昭和五一年六月二八日に公布され、それぞれ、七月一日から施行されることとなつた。
賃金は、労働契約の基本的な要素であり、また、労働者とその家族の生活の源資であることから、賃金未払という事態は本来起こつてはならないものである。そのため、労働基準法において、使用者の賃金支払について各種の規制を加え、その履行について、労働基準監督機関が監督・指導を行つてきたところであり、現に、それによつて解決された賃金未払事案も少くない。しかしながら、これまでは、賃金の支払を実質的に確保する手段に欠ける面があり、企業の倒産により、事業主に支払能力がない場合については、どうしても解決できなかつたのが従来の実情であり、これに対する具体的な救済措置の創設が必要であるとされていた。
特に、昨今の経済情勢を反映して、企業倒産、賃金未払及び貯蓄金の未返還の発生件数は高水準で推移している実情にある。
本法は、以上のような実情に対処するため、本来事業主の基本的な責務である賃金支払についての規制を民事的にも刑事的にも強化するとともに、事業主の責任で退職手当の未払、貯蓄金の未返還を予防するための措置を講じさせ、併せて、企業の倒産に伴い賃金の支払を受けることが困難になつた労働者に対する保護措置を講じ、もつて、労働者の生活の安定に資することを目的として制定されたものである。
すなわち、本法は、貯蓄金及び退職手当に関する保全措置、退職労働者の賃金に係る高率の遅延利息並びに企業倒産に伴う未払賃金の立替払事業について規定するとともに、附則において労働基準法の一部を改正することにより、賃金に関する労働条件の明示義務の拡充及び賃金未払等に対する罰則の強化について規定しているものである。
なお、本法は、未払賃金の立替払事業の創設によつて賃金の支払に関する事業主の責任を軽減し、免除するものではなく、かえつて事業主への規制を強化することとしているものであり、労働基準法、最低賃金法、建設業法等関係法律と相まつて施行されることにより所期の目的を達成することができるものであることはいうまでもない。
おつて、未払賃金の立替払事業は、その悪用、乱用にわたることのないよう、厳正かつ適切な運営に遺漏のないよう、万全を期されたい。
本法の施行に当たつては、上記の趣旨を十分理解の上、関係者に対して、その周知徹底に努めるとともに、特に下記の事項に留意して、その円滑な実施に努められたく、命により通達する。
記
第一 総則的事項について(法第一章関係)
一 目的(法第一条関係)
本法は、景気の変動、産業構造の変化その他の事情により企業経営が安定を欠くに至つた場合及び労働者が事業を退職する場合における賃金の支払等の適正化を図るため、貯蓄金の保全措置、退職手当の保全措置、退職労働者の賃金に係る遅延利息及び未払賃金の立替払事業の措置を講じ、もつて労働者の生活の安定に資することを目的とするものであること。
二 定義(法第二条関係)
本法で「賃金」とは、労働基準法第一一条に規定する賃金をいい、また、「労働者」とは、同法第九条に規定する労働者をいうものであること。
第二 貯蓄金及び賃金に係る保全措置等について(法第二章関係)
一 貯蓄金の保全措置(法第三条関係)
事業主は、労働者の貯蓄金をその委託を受けて管理する場合において、貯蓄金の管理が労働者の預金の受入れであるときは、一定の場合を除き、毎年三月三一日現在において当該事業主が受け入れている預金の額について、同日後一年間を通ずる当該受入預金額の払戻しの確保に関する一定の保全措置を講じなければならないものであること。
また、倒産という観念になじまず、賃金の支払が法令により保証されており、自ら法令を制定し、自らを律する立場にある国及び地方公共団体については、この法律を適用する実益がないので適用除外としているものであること。
なお、法第三条の適用を除外する場合及び保全措置の内容については、おつて労働省令で定める予定であること。
二 貯蓄金の保全措置に係る命令(法第四条関係)
法第三条の規定の実効を確保するため、同条の規定に違反して事業主が貯蓄金の保全措置を講じていないときは、労働基準監督署長は、当該事業主に対して、期限を指定して、その是正を命ずることができるものであること。
三 退職手当の保全措置(法第五条関係)
事業主は、労働契約等において労働者に退職手当を支払うことを明らかにしたときは、当該退職手当の支払に充てるべき額のうち一定の額について、法第三条の措置に準ずる退職手当の保全措置を講ずるように努めなければならないものであること。
また、中小企業退職金共済法第二条第三項に規定する退職金共済契約を締結した事業主等退職金の支払が確保されている制度を利用している事業主等については法第五条の適用を除外するものであること。
なお、保全措置の対象となる退職手当の支払に充てるべき額及び法第五条の適用を除外する事業主の範囲については、おつて労働省令で定める予定であること。
四 退職労働者の賃金に係る遅延利息(法第六条関係)
事業主は、その事業を退職した労働者に係る退職手当以外の賃金の全部又は一部をその退職の日(退職の日後に支払期日が到来する賃金にあつては、当該支払期日)までに支払わなかつた場合には、当該退職の日の翌日からその支払をする日までの期間について、当該未払賃金の額に年一四・六%(日歩四銭)を超えない範囲内で一定の率を乗じて得た金額を遅延利息として支払わなければならないものであること。
この遅延利息は、未払賃金の支払の促進を図る必要性が特に大きい退職労働者について民法又は商法の規定の特則としての性格を有するものであるが、賃金の支払の遅滞が天災地変その他のやむを得ない事由によるものである場合には、その事由の存する期間について適用しないものであること。この場合においては、その事由の存する期間について、民法(年五%)又は商法(年六%)の規定が適用されるものであること。
また、法第六条第一項の規定は、強行規定であるので、退職労働者の退職手当以外の賃金に係る遅延利息に関し労使の特約がある場合であつてその特約による率が同項の規定による率を下回るときは、同項の規定による率によるものであること。
この遅延利息に係る率については政令で、この遅延利息の適用を除外するやむを得ない事由の内容については労働省令で、それぞれ、おつて定める予定であること。
第三 未払賃金の立替払事業について(法第三章関係)
一 未払賃金の立替払(法第七条関係)
政府は、労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業の事業主が破産の宣告を受ける等一定の事由に該当することとなつた場合において、一定の期間内に当該事業を退職した労働者に係る未払賃金があるときは、民法第四七四条第一項ただし書及び第二項の規定にかかわらず、未払賃金の額その他の事項について労働基準監督署長の確認等を受けた労働者の請求に基づき、当該未払賃金に係る債務のうち一定の範囲内のものを当該事業主に代わつて弁済するものであること。
なお、船員保険の被保険者である労働者に係る未払賃金の立替払事業については、法第一六条に特例を設けていること。
(一) 事業主に係る要件
未払賃金の立替払事業(以下「立替払事業」という。)の対象となる事業主は、①労働者災害補償保険の適用事業に該当する事業の事業主であること。②一定の期間以上の期間にわたつて当該事業を行つていたこと、③破産の宣告を受け、その他一定の倒産事由に該当することとなつたこと、のいずれにも該当する事業主に限られるものであること。
また、労働保険の保険料の徴収等に関する法律第八条(請負事業の一括)の規定の適用を受ける事業にあつては、同条の規定の適用がないものとした場合における事業をいうものであること。したがつて、同条の規定の適用により元請負人のみが当該事業の事業主とされている場合においては、当該元請負人に係る下請負人についても立替払の対象となる事業主となるものであること。
なお、一定の期間については施行規則で、一定の倒産事由の内容については施行令で、それぞれ定めているところであること。
(二) 労働者に係る退職の時期
立替払事業の対象となる労働者は、立替払の事由である倒産との関連の深い退職者に限る趣旨から一定の期間内に当該事業を退職したものに限るものであること。
なお、一定の期間については、施行令で定めているところであること。
(三) 労働基準監督署長の確認等
立替払の請求を行うためには、立替払事業の健全な運営を図る見地から未払賃金の額その他の事項について公的な期間による証明が必要とされるものであること。そのため、対象労働者のうち一定のものについては、未払賃金の額その他の事項について、労働基準監督署長の確認が必要とされるものであること。
なお、労働基準監督署長の確認を受けることが必要となるものの範囲、確認を受けるべき事項等については、施行規則で定めているところであること。
(四) 立替払の対象となる未払賃金の範囲
立替払事業により弁済を受けることができる未払賃金に係る債務の範囲は、その者に係る未払賃金のうち一定の範囲内のものであること。
なお、一定の範囲については、施行令で定めているところであること。
(五) 退職労働者が弁済を受ける未払賃金に係る課税の特例
立替払事業によつて弁済された未払賃金のうち、定期賃金に当たる部分の額については、租税特別措置法第二九条の四の規定により課税上退職手当等の金額とみなすという特別の措置を講ずることとしているものであること。
二 返還等(法第八条関係)
偽りその他不正の行為により立替払事業による未払賃金の弁済を受けた者がある場合には、政府は、当該弁済を受けた金額の全部又は一部の返還を命ずることができ、また、当該弁済を受けた金額に相当する額以下の金額の納付を命ずることができるものであること。
また、この返還又は納付を命ぜられた金額については労働保険の保険料の徴収等に関する法律第二六条(督促及び滞納処分)及び第四一条(時効)の規定が準用されるものであること。
三 労働者災害補償保険法との関係(法第九条関係)
立替払事業は、労働者災害補償保険法第二三条第一項の労働福祉事業の一環として行うものであること。
したがつて、立替払事業に必要な費用は、労働保険特別会計労災勘定の負担によることとするものであるが、これは、賃金未払が本来事業主の責任の範囲に属するものであり、また立替払事業の規模からみて、立替払事業については、新たな保険方式を創設し行うこととするよりも、事業主の責任、負担において労働者を救済することとしている既存の労働者災害補償保険事業の一環として行うこととするのが最も現実的であることによるものであること。
第四 その他の事項について(法第四章及び第五章関係)
一 雑則(法第四章関係)
本法の円滑な施行を確保することができるよう、都道府県労働基準局長、労働基準監督署長又は労働基準監督官の職務、権限等について規定するとともに、監督機関に対する労働者の申告権等を規定したものであること。
二 罰則(法第五章関係)
貯蓄金の保全措置に係る命令に違反した場合等、本法の規定に違反した場合には、所要の罰則を課するものであること。