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通達:最低賃金法の施行について

 

最低賃金法の施行について

昭和三四年九月一六日発基第一一四号

(都道府県労働基準局長あて労働事務次官通達)

 

最低賃金法は去る四月一五日、昭和三四年法律第一三七号として公布され、その附則第一条の規定に基いて制定公布された「最低賃金法の施行期日を定める政令」(昭和三四年政令第一六二号)によつて、最低賃金審議会に関する規定及びこれに関連する若干の規定が去る五月五日から施行され、これに伴い「最低賃金審議会令」(昭和三四年政令第一六三号)も同日から施行されたが、最低賃金法の施行期日を定める政令により、その他の規定も含めて七月一〇日から全面施行されることとなり、同法の施行に関して必要な省令は、中央最低賃金審議会の審議を経た上、七月一〇日「最低賃金法施行規則」(昭和三四年労働省令第一六号)として公布、法の施行とともに施行されることとなつた。

最低賃金法は、労働者保護法として賃金の低廉な労働者について賃金の最低額を保障することによつて、その労働条件を改善し、もつて労働者の生活の安定に資するとともに、労働力の質的向上及び事業の公正な競争を確保し、もつて国民経済の健全な発展に寄与することを目的とするものである。

最低賃金に関しては、従来労働基準法第二八条から第三一条までに規定が存在したが、今回、最低賃金法が制定施行されることとなり、労働基準法には第二八条に「賃金の最低基準に関しては最低賃金法の定めるところによる」と規定して、残余の規定は削除された。

今回施行されることとなつた最低賃金法は、わが国経済の複雑な構成、就中、中小零細企業の実情に鑑み、最低賃金は業種別、職種別、地域別にそれぞれの実態に即して決定することとし、その決定の方法についても四方式を採用し、もつて最低賃金の円滑にして有効な実施の確保を期するとともに、最低賃金の実施に関連して家内労働に関して最低工賃を決定できることとしているのであるが、これらの決定は労働大臣又は都道府県労働基準局長が最低賃金審議会に諮つて行い、またその実施の監督については労働基準監督機関が当ることとなつている。

以上の如き本法の意義に鑑み、また本法の有効な実施が特に関係当事者の自主的気運に俟つところが大きいことからも、労使はもとより、ひろく社会一般に対する本法の趣旨の普及徹底に努め、国民各層の十分な認識と協力の上に本法の施行を円滑ならしめるよう、左記の点に留意の上今後の運用に当られたく命によつて通牒する。

 

法第一条関係

本件は、本法の目的及び本法における最低賃金制度の基本的なあり方について定めたものであること。

法第二条(法附則第九条)関係

1 本法の適用を受ける使用者及び労働者は、原則として労働基準法又は船員法の適用を受ける者であること。ただし、一般職に属する地方公務員のうち、地方公営企業(地方公営企業労働関係法第三条第一項に規定するものをいう。)の職員及び地方公営企業労働関係法附則第四項によりこれに準ずる取扱を受ける単純労務職員を除く者については、労働基準法は一部の規定を除き適用があるが、給与が条例で定められているので本法については適用を除外しているものであること。

2 本法において「委託」の対象となる業務は、おおむね労働基準法第八条第一号に掲げるものと同一範囲の業務に限定されているものであること。

3 「委託者」とは、問屋、製造業者、仲介人等をいうものであること。「委託者」には、委託契約の当事者である委託者のみならず、その者の代理人、使用人その他の従業者であつて、委託者のために家内労働者との委託契約に関して行為をする者を含むものであること。

法第四条(最低賃金法施行規則(以下「則」という。)第一条)関係

1 最低賃金額は、原則として時間、日、週又は月を単位として定めるものであること。

2 賃金が出来高払制その他の請負制で定められている場合であつても、労働時間の把握ができる場合は、特別の事情のない限り、最低賃金額は、時間、日、週又は月を単位として定めるべきものであること。

法第五条(則第二条及び第三条)関係

1 第四項は、最低賃金は労働の対償である賃金の最低額を保障するものであるから、労働者が自己の都合により労働せず、又は使用者が正当な理由により労働者に労働させなかつた場合についても、最低賃金額以上の賃金の支払を強制するものではないことを念のため示したものであること。従つて、労働基準法上、或いは当事者の契約によつてこれらの場合にも賃金の支払義務のある場合それを支払うべきことは当然であるが、それは本条の問題ではないという意味であること。

2 則第二条第二項第一号の所定労働時間とは、労働基準法第三二条、第四〇条に基く同法施行規則第二六条から第二九条まで又は同法第六〇条の規定によつて定められた制限時間の範囲内で、労働協約、就業規則又は労働契約で労働すべき時間として定められた時間をいうものであること。

3 則第二条第二項第二号の所定労働日とは、労働基準法第三五条の規定によつて定められた制限労働日の範囲内で労働協約、就業規則又は労働契約で労働すべき日として定められた日をいうものであること。

4 則第三条は、法第五条の適用に当つて通常予想される解釈上疑義を生ずるおそれがある場合についての換算の基準を示したものであること。

5 精皆勤手当、通勤手当などは、通常は毎月支払われ、労働者の生活費の一部となつているので、通常の賃金として最低賃金の対象とするのが適当であるが、業者間協定等においてこれを除外して賃金の最低額を定めており、これらを除外することが当該業種の実情に即するものである場合には、これらを本条第三項第三号の賃金とすることができること。

法第六条関係

1 本条は、最低賃金が決定された場合に、使用者が労働者に提供する食事その他の現物給与等を不適正に評価することにより最低賃金の脱法を図ることを防止する趣旨であること。

2 適正な評価とは、当該現物給与等を労働者に支給するために要した実際費用をこえないものとすること。

法第八条(即第四条及び第五条)関係

1 本条は、第一号から第四号までに掲げる労働者が当該最低賃金の主たる適用対象として予定されておらず、かつ、これを適用することが著しく実情に即さない場合の規定であるから、許可は必要な限度に止めるよう慎重に配慮すること。

2 試の使用期間中の労働者であるかどうかは、当該事業場で使用されている名称のみによつて判断することなく、試の使用期間の実態を備えているか否かによつて判断すること。

3 軽易な業務に従事する者とは、決定した最低賃金の適用を受ける一般の労働者の従事する業務と比較して特に軽易な業務に従事する労働者という相対的概念であつて、作業それ自体として軽易である場合に適用除外を認めようとする趣旨ではないこと。

4 別段の定がある場合とは、法第八条各号の労働者について他の労働者に適用する最低賃金額と異る最低賃金額を定めている場合、当該最低賃金がこれらの労働者のみに適用されるものである場合及びこれらの労働者について適用除外を許さない旨の明文の定がある場合をいうこと。

5 本条の許可は、最低賃金が改正された場合等当該許可に係る事情に著しい変更があつたときは、必要に応じ、これを取り消し、あらためて申請をさせて、あらたな事情に即するものについて許可を与えるべきこと。

法第九条(即第六条及び第九条)関係

1 業者間協定が任意団体、商工組合、協同組合等の団体において行われている場合における本条の申請のための当事者の合意については、次によつて判断すること。

(1) 賃金の最低額に関する業者間協定を締結することを事業とする任意団体、労務管理についての事業を行うための任意団体等最低賃金に関する事業を行うことが予定されている任意団体においては、あらかじめその構成員からの授権がなされているので、定款等に定めるその団体の意思決定の正規の手続を経て申請が決定された場合には、その構成員全部の合意があつたものと解されること。

(2) 最低賃金に関する事業を行うことが予定されていない任意団体においては、その構成員からの授権があらかじめなされてはいないので、定款等に定めるその団体の意思決定の正規の手続を経て申請を決定する事前ないし事後にその決定についての構成員全部の合意を確認することを要すること。

(3) 商工組合、協同組合等の法上の団体についても右に準ずるが、一般には、最低賃金に関する事業を行うことが予定されていない団体であるから、(2)の場合の任意団体と同様であること。

2 則第六条の申請書には、業者間協定に定める事項のうち同条第一項各号に掲げる事項であつて最低賃金の内容とすべきものを明確に記載すべきこと。ただし、第三号及び第四号に掲げる事項は、該当事項が存する場合にのみ記載すること。

3 則第六条第一項第三号の「法第五条第三項第三号の賃金とすべき賃金」には、当該業者間協定が、算入する賃金の範囲のみを定め、その他の賃金は法第五条第三項第三号の賃金とする趣旨である場合を含むものであること。この場合には、当事者の意思を明確ならしめて、これを申請書に記載させること。

4 則第六条第一項第四号の「法第八条の別段の定とすべき定」には、当該業者間協定が明文の定は設けてないが、法第八条各号の労働者について適用除外を許さない趣旨である場合を含むものであること。この場合には、当事者の意思を明確ならしめて、申請書にその趣旨を記載させること。

5 則第九条は、申請は、当該事案が全国的に関連があると否とにかかわらず、一の都道府県労働基準局の管轄区域内のみに係る事案については、当該都道府県労働基準局長に対して行えば足り、二以上の都道府県労働基準局の管轄区域にわたるもののみ、労働大臣に対してなすべきこととしているものであること。

法第一〇条(則第七条及び第九条)関係

1 「一定の地域」とは、都道府県等の行政区画に限定されるものではなく、最低賃金の適用対象たる使用者及び労働者に係る事業場が存在する地域であつて、社会的経済的に一つにまとまつた地域であれば足りるものであること。

2 本条の最低賃金は、一定の地域内の事業場で使用される同種の労働者及びこれを使用する使用者の全部が現に法第九条第一項の規程による最低賃金の適用を受けている場合においても決定することができるものであること。

3 「同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分」とは、一般には、四分の三程度と考えられるが、形式的に四分の三と解すべきでなく、それぞれ当該業種、職種、地域の実態に応じ最低賃金審議会の意見により判断すること。本条の申請についての法第九条の最低賃金の適用を受ける使用者の大部分の合意についても、同様であること。

4 法第九条関係2及び5は、本条及び則第七条についても同様であること。

法第一一条(法附則第八条、則第八条及び第九条)関係

1 本条は、一定の地域の同種の労使の大部分が賃金の最低額に関する労働協約の適用を受けている場合に、それに基き、アウトサイダーも含めて当該地域の同種の労使全部に適用する最低賃金を決定するものであるから、労働組合法第一八条の規定による労働協約そのものの拡張適用とは目的、法律効果を異にするものであること。

2 本法附則第八条は、一の事案が本条と労働組合法第一八条のいずれにもよりうる場合が考えられるので、労働組合法第一八条に一項を加え、この間の連絡を図ることとしたものであること。従つて、労働組合法第一八条の申立に係る事案が本条の決定のための要件をも充たすものであるときは、都道府県知事から決定の事前に意見を求められることとなつているから、意見を求められたときは、できる限りすみやかに地方最低賃金審議会に諮つた上で当該事案についての意見を回答すること。

3 「一定の地域」及び「同種の労働者及びこれを使用する使用者の大部分」については、法第一〇条関係1及び3に準じて取扱い、法第九条関係2から5までは、本条及び則第八条についても同様であること。

法第一二条関係

1 一定の範囲の事業とは、異議申出をした者のみを指定する趣旨ではなく、企業規模、設備状況、地域等の客観的事由を限定することによつて一定範囲を画すべきものであること。

2 最低賃金額についての別段の定は最低賃金の一部をなすものであること。

法第一三条関係

1 法第九条第一項、法第一〇条又は法第一一条の最低賃金の改正又は廃止は、本条第一項の規定によることが原則であつて、第二項の規定は、著しく不適当となつているにも拘らず第一項の規定による改廃ができない場合の例外規定であること。

2 決定の例による改正とは、当該最低賃金の決定の基礎となつた業者間協定、最低賃金又は労働協約が改正された場合に、決定の場合と同様な合意による申請があつたとき、決定の場合と同様な手続によつてこれらの改正された業者間協定、最低賃金又は労働協約に基いて改正の決定をすることをいうものであること。

3 決定の例による廃止とは、決定の場合と同様な合意による申請があつたとき、最低賃金審議会に諮問し、廃止の決定をすることをいうものであること。

4 決定の例による改正又は廃止の申請手続については、改正又は廃止は決定の例によるのであるから、法第九条第一項から法第一二条までの規定のみならず、これに関する施行規則の規定も包括的に準用されるものであること。従つて、改正又は廃止の申請についても、則第七条から則第一〇条までに規定するところによるものであること。

法第一四条関係

本条は、最低賃金の決定に関し、使用者又は使用者団体の自主的気運を喚起するためのものであるが、関係者に与える事実的影響の大であることに鑑み、勧告を行うについては、最低賃金審議会に諮り、その意見を十分尊重して慎重に行うべきこと。

法第一五条関係

法第九条第一項、法第一〇条又は法第一一条の規定による最低賃金の決定、改正又は廃止について、適法な申請がなされた場合には、すべて最低賃金審議会に諮問すること。

法第一六条関係

1 一定の事業、職業又は地域とは、一定の種類の事業、一定の種類の職業、一定の範囲の地域又はこれらの組合せによつて具体的に特定された範囲であればよく、統計上の産業分類や行政区画に限定されるものではないこと。

2 法第九条第一項、法第一〇条、法第一一条又は法第一三条第一項の規定により最低賃金を決定することが困難又は不適当と認める場合とは、当事者の申請によつては必要な範囲に適正な額の最低賃金を定めることが期待できないと認める場合をいうものであること。

3 本条の発動については、当面、中央最低賃金審議会の議を経た上で、追つて指示すること。

法第一七条関係

最低賃金の適用は、その効力の発生した日以後に提供された労働の対償たる賃金についてなされるものであること。

法第一八条関係

法第九条、法第一〇条又は法第一一条の規定による最低賃金は、業者間協定又は労働協約を基礎とするものであるが、行政官庁が決定した別個の規範であるから、それらの変更又は消滅によつては効力に影響のないことを明示したものであること。

法第一九条(則第一三条)関係

最低賃金の周知は、当該最低賃金のうち当該事業場に係るものについて行うことをもつて足りること。

法第二〇条関係

1 一定の地域において、法第一〇条、法第一一条又は法第一六条第一項の規定による最低賃金が存する場合において、その同一地域における最低賃金の適用を受ける労使と同一又は類似の委託者及び家内労働者について最低工賃の決定を行う趣旨であること。従つて法第九条の最低賃金が存する場合に、直ちに最低工賃を決定するものではないこと。

2 「当該使用者と同一又は類似の事業を営むもの」(委託者)とは、当該使用者の業種が製造業である場合に、製造業を営む者のみでなく、最低賃金の適用を受ける労働者と同種の業務を家内労働者に委託する問屋(販売業者)及び仲介人も含むものであること。

3 「営業所」とは、事業所、事務所、事業場等広く営業の行われる場所をいうものであること。従つて、委託者の主たる営業所が本条に規定する一定の地域内に存しなくても、その地域内に事務所をおき、委託に係る原材料の支給及び委託物の集荷をなしている場合も最低工賃の適用を受けるものであること。

4 第二項は、同一地域内で当該家内労働者と同種の業務に従事していながら委託者の営業所が当該地域外にあるため第一項の規定による最低工賃の適用を受けられない家内労働者の保護を期するためのものであり、同項の定は、最低工賃の一部をなすものであること。

法第二一条(則第一四条)関係

最低工賃に関する決定の公示及びその効力の発生については、最低賃金における場合と同様であること。

法第二二条関係

1 最低工賃は、最低賃金の適用ある労働者と同種の業務に従事する家内労働者を当該労働者と同様に保護し、かつ、最低賃金の有効な実施を確保する目的をもつて決定するのであるから、当該最低賃金との均衡を考慮して決定されなければならないこと。

2 家内労働者については、その労働時間を把握することができず、工賃は一般に物品の一定の単位によつて定められているので、最低工賃額もこの実態に即して物品の一定の単位によつて定めるものであること。

3 最低工賃においてその適用を受ける家内労働者の範囲を定めるのは、法第二〇条第一項の地域内の委託者の委託を受ける家内労働者は当該地域外にわたつて存することもあるので、当該最低工賃を決定する趣旨に照らしてその適用を適当な地域の範囲における家内労働者に限定する趣旨であること。

4 工賃については、その支払期限について定める別段の法令がないので、最低工賃の実施の確保を図るために工賃の支払の期限を定める必要があるものであること。

法第二三条関係

1 第一項及び第二項は、それぞれ最低賃金に関する法第五条第一項及び第二項と同趣旨の規定であり、第三項は、最低賃金に関する法第六条と同趣旨の規定であること。

法第二四条関係

委託条件を明確にすることにより、家内労働者に対し、自らの労働条件と最低工賃に定められた最低基準を比較して理解した上で就業させようとするものであること。

法第二五条関係

本条は、委託関係の明確化と行政官庁の最低工賃についての監督に資するためのものであること。

法第二六条(法附則第二条及び第七条)関係

本条は中央及び地方に最低賃金審議会を設置し、これに伴い従来の労働基準法第二九条の規定に基く賃金審議会を廃止したものであること。

法第二七条関係

法第一五条、法第一六条又は法第二〇条の規定によるものを除き、法第二七条の規定により最低賃金又は最低工賃に関する重要事項について労働大臣又は都道府県労働基準局長の諮問に応じて最低賃金審議会が調査審議した結果提出した意見及び最低賃金審議会の建議については、法第一五条第二項の規定の適用はないが、本法の趣旨から十分尊重すべきものであること。

法第三一条関係

第六項の意見聴取は、最低賃金審議会が必要と認めた場合に行うものであるが、これは必ずしも審議会に出席を求めて行う必要はなく、文書で提出させ、職員をして関係者のもとに出向いて聴取せしめること等もできるものであること。

法第三七条から第三九条まで関係

最低賃金又は最低工賃の実施に関する監督は労働基準監督機関が行うのであるが、最低工賃に関しては、従来労働基準法が適用されていない分野に対するものであるので、平常家内労働関係について適確な実態把握に努めるとともに、監督に当つてもその実情を考慮して有効適切に行うべきこと。