◆トップページに移動 │ ★目次のページに移動 │ ※文字列検索は Ctrl+Fキー
短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律の施行について
平成31年1月30日基発0130第1号・職発0130第6号・雇均発0130第1号・開発0130第1号
(都道府県労働局長あて厚生労働省労働基準局長、厚生労働省職業安定局長、厚生労働省雇用環境・均等局長、厚生労働省人材開発統括官通知)
改正前略 令和4年6月24日雇均発0624第1号
働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律(平成30年法律第71号。以下「整備法」という。)については、平成30年7月6日に公布され、同日付け基発0706第1号、職発0706第2号、雇均発0706第1号により、労働基準局長、職業安定局長及び雇用環境・均等局長より貴職あてその趣旨及び内容を通達したところである。
また、整備法の一部の施行に関して、「働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律の一部の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備及び経過措置に関する省令」(平成30年厚生労働省令第153号。以下「整備省令」という。)、「事業主が講ずべき短時間労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針の一部を改正する件」(平成30年厚生労働省告示第429号。以下「改正告示」という。)及び「短時間・有期雇用労働者及び派遣労働者に対する不合理な待遇の禁止等に関する指針」(平成30年厚生労働省告示第430号。以下「ガイドライン」という。)が、平成30年12月28日に公布され、同日付け職発1228第4号、雇均発1228第1号により、職業安定局長及び雇用環境・均等局長より貴職あてその趣旨及び内容を通達したところである。
整備法による改正後の「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律」(平成5年法律第76号。以下「法」という。)、整備省令による改正後の「短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する法律施行規則」(平成5年労働省令第34号。以下「則」という。)、改正告示による改正後の「事業主が講ずべき短時間労働者及び有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての指針」(平成19年厚生労働省告示第326号。以下「短時間・有期雇用労働指針」という。)及びガイドラインの主たる内容及び取扱いは下記のとおりであるので、その円滑な施行に遺漏なきを期されたい。
記
第1 総則(法第1章)
法第1章は、法の目的、短時間・有期雇用労働者の定義、事業主等の責務、国及び地方公共団体の責務等、法第2章の短時間・有期雇用労働者対策基本方針や法第3章及び第4章に規定する具体的措置に共通する基本的考え方を明らかにしたものであること。
1 目的(法第1条関係)
(1) 法第1条は、法の目的が、我が国における少子高齢化の進展、就業構造の変化等の社会経済情勢の変化に伴い、短時間・有期雇用労働者の果たす役割の重要性が増大していることに鑑み、短時間・有期雇用労働者について、その適正な労働条件の確保、雇用管理の改善、通常の労働者への転換の推進、職業能力の開発及び向上等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにし、もってその福祉の増進を図り、あわせて経済及び社会の発展に寄与することにあることを明らかにしたものであること。
(2) どのような雇用形態を選択しても納得が得られる待遇が受けられ、多様な働き方を自由に選択できるようにする観点から、行政指導、紛争の解決等も含めて一体的に対応するため、いわゆる非正規雇用労働者のうち、直接雇用である短時間労働者と有期雇用労働者を法の対象としたものであること。
(3) 「職業能力の開発及び向上等」の「等」には職業紹介の充実等(法第21条)が含まれるものであること。
(4) 「措置等を講ずる」の「等」には、事業主等に対する援助(法第19条)、紛争の解決(法第4章)及び雇用管理の改善等の研究等(法第28条)が含まれるものであること。
(5) 「待遇の確保等」の「等」には、
・短時間・有期雇用労働者であることに起因して、待遇に係る透明性・納得性が欠如していることを解消すること(適正な労働条件の確保に関する措置及び事業主の説明責任により達成される)、
・通常の労働者として就業することを希望する者について、その就業の可能性を全ての短時間・有期雇用労働者に与えること(通常の労働者への転換の推進に関する措置により達成される)、
等が含まれるものであること。
(6) 「あわせて経済及び社会の発展に寄与する」とは、少子高齢化、労働力人口減少社会に入った我が国においては、短時間・有期雇用労働者について、通常の労働者と均衡のとれた待遇の確保や通常の労働者への転換の推進等を図ることは、短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図ることとなるだけでなく、短時間・有期雇用労働者の意欲、能力の向上やその有効な発揮等による労働生産性の向上等を通じて、経済及び社会の発展に寄与することともなることを明らかにしたものであること。
2 定義(法第2条関係)
(1) 法第2条は、法の対象となる短時間労働者及び有期雇用労働者の定義を定めたものであること。
(2) 短時間労働者であるか否かの判定は、(3) から(7) までを踏まえ行うものであること。その際、パートタイマー、アルバイト、契約社員など名称の如何は問わないものであること。したがって、名称が「パートタイマー」であっても、当該事業主に雇用される通常の労働者と同一の所定労働時間である場合には、法の対象となる短時間労働者には該当しないものであること。ただし、このような者であっても、有期雇用労働者に該当する場合には、法の対象となるものであること。
なお、派遣労働者については、派遣先において法が適用されることはないものの、法とは別途、労働者派遣事業の適正な運営の確保及び派遣労働者の保護等に関する法律(昭和60年法律第88号。以下「労働者派遣法」という。)により、就業に関する条件の整備を図っているものであること。
(3) 法第2条の「通常の労働者」とは、社会通念に従い、比較の時点で当該事業主において「通常」と判断される労働者をいうこと。当該「通常」の概念については、就業形態が多様化している中で、いわゆる「正規型」の労働者が事業所や特定の業務には存在しない場合も出てきており、ケースに応じて個別に判断をすべきものである。具体的には、「通常の労働者」とは、いわゆる正規型の労働者及び事業主と期間の定めのない労働契約を締結しているフルタイム労働者(以下「無期雇用フルタイム労働者」という。)をいうものであること。
また、法が業務の種類ごとに短時間労働者を定義していることから、「通常」の判断についても業務の種類ごとに行うものであること(「業務の種類」については後出(6)を参照。)。
この場合において、いわゆる正規型の労働者とは、労働契約の期間の定めがないことを前提として、社会通念に従い、当該労働者の雇用形態、賃金体系等(例えば、長期雇用を前提とした待遇を受けるものであるか、賃金の主たる部分の支給形態、賞与、退職金、定期的な昇給又は昇格の有無)を総合的に勘案して判断するものであること。また、無期雇用フルタイム労働者は、その業務に従事する無期雇用労働者(事業主と期間の定めのない労働契約を締結している労働者をいう。以下同じ。)のうち、1週間の所定労働時間が最長の労働者のことをいうこと。このため、いわゆる正規型の労働者の全部又は一部が、無期雇用フルタイム労働者にも該当する場合があること。
(4) 「所定労働時間が短い」とは、わずかでも短ければ該当するものであり、例えば通常の労働者の所定労働時間と比べて1割以上短くなければならないといった基準があるものではないこと。
(5) 短時間労働者であるか否かの判定は、具体的には以下に従い行うこと。
イ 同一の事業主における業務の種類が1つの場合
当該事業主における1週間の所定労働時間が最長である通常の労働者と比較し、1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となること(法第2条第1項括弧書以外の部分。図の1-(1)から1-(3) まで)。
ロ 同一の事業主における業務の種類が2以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合
原則として、同種の業務に従事する1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となること(法第2条第1項括弧書。図の2-(1))。
ハ 同一の事業主における業務の種類が2以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいない場合
当該事業主における1週間の所定労働時間が最長である通常の労働者と比較し、1週間の所定労働時間が短い通常の労働者以外の者が短時間労働者となること(法第2条第1項括弧書以外の部分。図2-(2)のC業務)。
ニ 同一の事業主における業務の種類が2以上あり、同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合であって、同種の業務に従事する通常の労働者以外の者が当該業務に従事する通常の労働者に比べて著しく多い場合(当該業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間が他の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間のいずれよりも長い場合を除く。)
当該事業主における1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者と比較して1週間の所定労働時間が短い当該業務に従事する者が短時間労働者となること(法第2条第1項括弧書中厚生労働省令で定める場合(則第1条)。図の2-(3) のB業務)。
これは、たまたま同種の業務に従事する通常の労働者がごく少数いるために、そのような事情がなければ一般には短時間労働者に該当するような者までもが短時間労働者とならないことを避ける趣旨であるから、適用に当たって同種の業務に従事する通常の労働者と、当該事業主における1週間の所定労働時間が最長の通常の労働者の数を比較する際には、同種の業務において少数の通常の労働者を配置する必然性等から、事業主に短時間労働者としての法の適用を逃れる意図がないかどうかを考慮すべきものであること。
(6) 上記(5)は、労働者の管理については、その従事する業務によって異なっていることが通常と考えられることから、短時間労働者であるか否かを判断しようとする者が従事する業務と同種の業務に従事する通常の労働者がいる場合は、その労働者と比較して判断することとしたものであること。
なお、同種の業務の範囲を判断するに当たっては、『厚生労働省編職業分類』の小分類の区分等を参考にし、個々の実態に即して判断すること。
(7) 短時間労働者の定義に係る用語の意義はそれぞれ次のとおりであること。
イ 「1週間の所定労働時間」を用いるのは、短時間労働者の定義が、雇用保険法(昭和49年法律第116号)等労働関係法令の用例を見ると1週間を単位としていることにならったものであること。
この場合の1週間とは、就業規則その他に別段の定めがない限り原則として日曜日から土曜日までの暦週をいうこと。
ただし、変形労働時間制が適用されている場合や所定労働時間が1月、数箇月又は1年単位で定められている場合などには、次の式によって当該期間における1週間の所定労働時間として算出すること。
(当該期間における総労働時間)÷((当該期間の暦日数)/7)
なお、日雇労働者のように1週間の所定労働時間が算出できないような者は、短時間労働者としては法の対象とならないが、有期雇用労働者として法の対象となる。ただし、日雇契約の形式をとっていても、明示又は黙示に同一人を引き続き使用し少なくとも1週間以上にわたる定形化した就業パターンが確立し、上記の方法により1週間の所定労働時間を算出することができる場合には、短時間労働者として法の対象となること。
ロ 「事業主」を単位として比較することとしているのは、法第8条に統合された整備法による改正前の労働契約法(平成19年法律第128号)第20条において、事業主を単位として、期間の定めのある労働契約を締結している労働者と期間の定めのない労働契約を締結している労働者との間の不合理と認められる労働条件の相違を禁止していたこと、及び同一の事業所には待遇を比較すべき通常の労働者が存在しない場合があるなど、事業所を単位とすると、十分に労働者の保護を図ることができない場合が生じていると考えられることによるものであること。
(8) 「有期雇用労働者」とは、事業主と期間の定めのある労働契約を締結している労働者をいうものであること(法第2条第2項)。
(9) 「短時間・有期雇用労働者」とは、短時間労働者及び有期雇用労働者をいうものであること(法第2条第3項)。
3 基本的理念(法第2条の2関係)
短時間・有期雇用労働者としての就業は、労働者の多様な事情を踏まえた柔軟な就業のあり方として重要な意義を有しているが、短時間・有期雇用労働者の職務の内容が意欲や能力に見合ったものでない場合、待遇に対する納得感や、意欲及び能力の有効な発揮が阻害されるほか、短時間・有期雇用労働者としての就業を実質的に選択することができないこととなりかねない。
そこで、本条は、短時間・有期雇用労働者としての就業が、柔軟な就業のあり方という特長を保ちつつ、労働者の意欲及び能力が有効に発揮できるものとなるべきであるとの考え方のもと、短時間・有期雇用労働者及び短時間・有期雇用労働者になろうとする者が、生活との調和を保ちつつその意欲や能力に応じて就業することができる機会が確保されるべきことを基本的理念として明らかにしたものであること。あわせて、短時間・有期雇用労働者が充実した職業生活を送れるようにすることが、社会の活力を維持し発展させていくための基礎となるとともに、短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図る上でも不可欠であることに鑑み、その職業生活の充実が図られるような社会を目指すべきであることから、その旨についても基本的理念として明らかにしたものであること。
本条の基本的理念は、次条の事業主等の責務やこれらを踏まえた法第3章第1節の各種措置等とあいまって、短時間・有期雇用労働者という就業のあり方を選択しても納得が得られる待遇が受けられ、多様な働き方を自由に選択できる社会の実現を図るものであること。
4 事業主等の責務(法第3条関係)
(1) 事業主の責務(法第3条第1項関係)
イ 基本的考え方
労働者の待遇をどのように設定するかについては、基本的には契約自由の原則にのっとり、個々の契約関係において当事者の合意により決すべきものであるが、現状では、短時間・有期雇用労働者の待遇は必ずしもその働きや貢献に見合ったものとなっていないほか、他の雇用形態への移動が困難であるといった状況も見られる。このような中では、短時間・有期雇用労働者の待遇の決定を当事者間の合意のみに委ねていたのでは短時間・有期雇用労働者は「低廉な労働力」という位置付けから脱することができないと考えられるところ、それでは、少子高齢化、労働力人口減少社会において期待されている短時間・有期雇用労働者の意欲や能力の有効な発揮がもたらされるような公正な就業環境を実現することは難しい。
そこで、法は、第1条に定める法の目的である「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ることを通じて短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができる」ことを実現するために、短時間・有期雇用労働者の適正な労働条件の確保、教育訓練の実施、福利厚生の充実その他の雇用管理の改善及び通常の労働者への転換の推進(以下「雇用管理の改善等」という。)について、事業主が適切に措置を講じていく必要があることを明らかにするため、法第3条において、短時間・有期雇用労働者について、その就業の実態等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるように努めるものとすることを事業主の責務としたものであること。
法第3章以下の事業主の講ずべき措置等に関する規定は、この法第3条の事業主の責務の内容として、法の目的を達成するために特に重要なものを明確化したものであること。また、法第15条に基づき定める短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインについては、当該責務に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要なものを具体的に記述したものであること。
ロ 短時間・有期雇用労働者の就業の実態等
法第3条において考慮することとされている「その就業の実態等」の具体的な内容としては、短時間・有期雇用労働者の「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」、経験、能力、成果、意欲等をいうものであること。
ハ 雇用管理の改善等に関する措置等
「雇用管理の改善等に関する措置等」とは、法第3章第1節に規定する「雇用管理の改善等に関する措置」と、法第22条に規定する苦情の自主的解決に努める措置をいうものであること。
ニ 通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等
法は、短時間・有期雇用労働者について、就業の実態等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより、通常の労働者との均衡のとれた待遇を確保することを目指しているが、これは、一般に短時間・有期雇用労働者の待遇が通常の労働者と比較して働きや貢献に見合ったものとなっておらず低くなりがちであるという状況を前提として、通常の労働者との均衡(バランス)をとることを目指した雇用管理の改善を進めていくという考え方であること。
通常の労働者と短時間・有期雇用労働者の「均衡のとれた待遇」は、就業の実態に応じたものとなるが、その就業の実態が同じ場合には、「均等な待遇」を意味する。
他方、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で、就業の実態が異なる場合、その「均衡のとれた待遇」とはどのようなものであるかについては、一義的に決まりにくい上、待遇と言ってもその種類(賃金、教育訓練、福利厚生施設等)や性質・目的(職務の内容との関連性等)は一様ではない。
そのような中で、事業主が雇用管理の改善等に関する措置等を講ずることにより通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図っていくため、法第3章第1節においては、講ずべき措置を定めたものであること。
具体的には、法第8条において、全ての短時間・有期雇用労働者の全ての待遇(労働時間及び労働契約の期間を除く。)を対象に、その待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間で、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」及び「その他の事情」のうち、待遇のそれぞれの性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けてはならないとするいわゆる均衡待遇規定を設けている。また、法第9条において、通常の労働者と職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲が同一である短時間・有期雇用労働者について、その全ての待遇(労働時間及び労働契約の期間を除く。)を対象に、短時間・有期雇用労働者であることを理由として差別的取扱いをしてはならないとするいわゆる均等待遇規定を設けている。その上で、法第10条から第12条までにおいては、短時間・有期雇用労働者の就業の実態を踏まえつつ、賃金、教育訓練及び福利厚生施設の3つについて、それぞれ講ずべき措置を明らかにしているものであること。法第11条第1項は、職務の内容が通常の労働者と同一であるという就業の実態や、職務との関連性が高い待遇であるといった事情を踏まえて具体的な措置の内容を明らかにしたものであり、法第12条は、全ての通常の労働者との関係で普遍的に講ずべき措置の内容について明らかにしたものであること。他方、法第10条及び第11条第2項については、就業の実態が多様な短時間・有期雇用労働者全体にかかる措置として、具体的に勘案すべき就業の実態の内容(職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験等)を明記したものであること。これらの勘案すべき就業の実態の内容を明記しているのは、これらの要素が通常の労働者の待遇の決定に当たって考慮される傾向にあるのとは対照的に、短時間・有期雇用労働者について十分に考慮されている現状にあるとは言い難く、短時間・有期雇用労働者についても、これらに基づく待遇の決定を進めていくことが公正であると考えられることによること。
「通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等」の「等」としては、
・短時間・有期雇用労働者であることに起因して、待遇に係る透明性・納得性が欠如していることを解消すること(適正な労働条件の確保に関する措置及び事業主の説明責任により達成される)、
・通常の労働者として就業することを希望する者について、その就業の可能性を全ての短時間・有期雇用労働者に与えること(通常の労働者への転換の推進に関する措置により達成される)、
等が含まれるものであること。
(2) 均衡のとれた待遇の確保の図り方について
イ 基本的考え方
短時間・有期雇用労働者についての、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保に当たっては、短時間・有期雇用労働者の就業の実態等を考慮して措置を講じていくこととなるが、「就業の実態」を表す要素のうちから「職務の内容」及び「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」の2つを、法第8条において通常の労働者との待遇の相違の不合理性を判断する際の考慮要素として例示するとともに、法第9条等において適用要件としている。これは、現在の我が国の雇用システムにおいては、一般に、通常の労働者の賃金をはじめとする待遇の多くがこれらの要素に基づいて決定されることが合理的であると考えられている一方で、短時間・有期雇用労働者については、これらが通常の労働者と全く同じ、又は一部同じであっても、所定労働時間が短い労働者であるということ、あるいは期間の定めがある労働契約を締結している労働者であるということのみを理由として待遇が低く抑えられている場合があることから、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保を図る際に、短時間・有期雇用労働者の就業の実態をとらえるメルクマールとして、これらの要素を特に取り上げるものであること。
なお、法第8条においては、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の待遇の相違の不合理性を判断する際の考慮要素として、「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲(有無を含む。)」のほかに、「その他の事情」を規定しているが、「その他の事情」については、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではなく、考慮すべきその他の事情があるときに考慮すべきものであること(第3の3(5)参照)。
ロ 「職務の内容」について
(イ) 定義
「職務の内容」とは、「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度」をいい、労働者の就業の実態を表す要素のうちの最も重要なものであること。
「業務」とは、職業上継続して行う仕事であること。
「責任の程度」とは、業務に伴って行使するものとして付与されている権限の範囲・程度等をいうこと。具体的には、授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範囲等)、業務の成果について求められる役割、トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度、ノルマ等の成果への期待の程度等を指す。責任は、外形的にはとらえにくい概念であるが、実際に判断する際には、責任の違いを表象的に表す業務を特定して比較することが有効であること。
また、責任の程度を比較する際には、所定外労働も考慮すべき要素の一つであるが、これについては、例えば、通常の労働者には所定外労働を命ずる可能性があり、短時間・有期雇用労働者にはない、といった形式的な判断ではなく、実態として業務に伴う所定外労働が必要となっているかどうか等を見て、判断することとなること。例えば、トラブル発生時、臨時・緊急時の対応として、また、納期までに製品を完成させるなど成果を達成するために所定外労働が求められるのかどうかを実態として判断すること。なお、ワークライフバランスの観点からは、基本的に所定外労働のない働き方が望ましく、働き方の見直しにより通常の労働者も含めてそのような働き方が広まれば、待遇の決定要因として所定外労働の実態が考慮されること自体が少なくなっていくものと考えられるものであること。
(ロ) 職務の内容が同一であることの判断手順
「職務の内容」については、法第8条において考慮され得るとともに、法第9条等の適用に当たって、通常の労働者と短時間労働者との間で比較して同一性を検証しなければならないため、その判断のための手順が必要となる。職務の内容の同一性については、具体的には以下の手順で比較していくこととなるが、「職務の内容が同一である」とは、個々の作業まで完全に一致していることを求めるものではなく、それぞれの労働者の職務の内容が「実質的に同一」であることを意味するものであること。
したがって、具体的には、「業務の内容」が「実質的に同一」であるかどうかを判断し、次いで「責任の程度」が「著しく異なって」いないかを判断するものであること。
まず、第一に、業務の内容が「実質的に同一」であることの判断に先立って、「業務の種類」が同一であるかどうかをチェックする。これは、『厚生労働省編職業分類』の小分類を目安として比較し、この時点で異なっていれば、「職務内容が同一でない」と判断することとなること。
他方、業務の種類が同一であると判断された場合には、次に、比較対象となる通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の職務を業務分担表、職務記述書等により個々の業務に分割し、その中から「中核的業務」と言えるものをそれぞれ抽出すること。
「中核的業務」とは、ある労働者に与えられた職務に伴う個々の業務のうち、当該職務を代表する中核的なものを指し、以下の基準に従って総合的に判断すること。
① 与えられた職務に本質的又は不可欠な要素である業務
➁ その成果が事業に対して大きな影響を与える業務
③ 労働者本人の職務全体に占める時間的割合・頻度が大きい業務
通常の労働者と短時間・有期雇用労働者について、抽出した「中核的業務」を比較し、同じであれば、業務の内容は「実質的に同一」と判断し、明らかに異なっていれば、業務の内容は「異なる」と判断することとなること。なお、抽出した「中核的業務」が一見すると異なっている場合には、当該業務に必要とされる知識や技能の水準等も含めて比較した上で、「実質的に同一」と言えるかどうかを判断するものであること。
ここまで比較した上で業務の内容が「実質的に同一である」と判断された場合には、最後に、両者の職務に伴う責任の程度が「著しく異なって」いないかどうかをチェックすること。そのチェックに当たっては、「責任の程度」の内容に当たる以下のような事項について比較を行うこと。
① 授権されている権限の範囲(単独で契約締結可能な金額の範囲、管理する部下の数、決裁権限の範囲等)
② 業務の成果について求められる役割
③ トラブル発生時や臨時・緊急時に求められる対応の程度
④ ノルマ等の成果への期待の程度
⑤ 上記の事項の補助的指標として所定外労働の有無及び頻度
この比較においては、例えば管理する部下の数が一人でも違えば、責任の程度が異なる、といった判断をするのではなく、責任の程度の差異が「著しい」といえるものであるかどうかを見るものであること。
なお、いずれも役職名等外見的なものだけで判断せず、実態を見て比較することが必要である。
以上の判断手順を経て、「業務の内容」及び「責任の程度」の双方について、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者とが同一であると判断された場合が、「職務の内容が同一である」こととなること。
ハ 「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれる」ことについて
(イ) 定義
① 「職務の内容及び配置の変更の範囲」
現在の我が国の雇用システムにおいては、長期的な人材育成を前提として待遇に係る制度が構築されていることが多く、このような人材活用の仕組み、運用等に応じて待遇の違いが生じることも合理的であると考えられている。法は、このような実態を前提として、人材活用の仕組み、運用等を、均衡待遇を推進する上での考慮要素又は適用要件の一つとして位置付けている。人材活用の仕組み、運用等については、ある労働者が、ある事業主に雇用されている間にどのような職務経験を積むこととなっているかを見るものであり、転勤、昇進を含むいわゆる人事異動や本人の役割の変化等(以下「人事異動等」という。)の有無や範囲を総合判断するものであるが、これを法律上の考慮要素又は適用要件としては「職務の内容及び配置の変更の範囲」と規定したものであること。
「職務の内容の変更」と「配置の変更」は、現実にそれらが生じる際には重複が生じ得るものであること。つまり、「職務の内容の変更」とは、配置の変更によるものであるか、そうでなく業務命令によるものであるかを問わず、職務の内容が変更される場合を指すこと。他方、「配置の変更」とは、人事異動等によるポスト間の移動を指し、結果として職務の内容の変更を伴う場合もあれば、伴わない場合もあるものであること。
それらの変更の「範囲」とは、変更により経験する職務の内容又は配置の広がりを指すものであること。
② 同一の範囲
職務の内容及び配置の変更が「同一の範囲」であるとの判断に当たっては、一つ一つの職務の内容及び配置の変更の態様が同様であることを求めるものではなく、それらの変更が及び得ると予定されている範囲を画した上で、その同一性を判断するものであること。
例えば、ある事業所において、一部の部門に限っての人事異動等の可能性がある者と、全部門にわたっての人事異動等の可能性がある者とでは、「配置の変更の範囲」が異なることとなり、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が同一であるとは言えないこと。
ただし、この同一性の判断は、「範囲」が完全に一致することまでを求めるものではなく、「実質的に同一」と考えられるかどうかという観点から判断すること。
③ 「変更されることが見込まれる」
職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)の同一性を判断することについては、将来にわたる可能性についても見るものであるため、変更が「見込まれる」と規定したものであること。ただし、この見込みについては、事業主の主観によるものではなく、文書や慣行によって確立されているものなど客観的な事情によって判断されるものであること。
また、例えば、通常の労働者の集団は定期的に転勤等があることが予定されているが、ある職務に従事している特定の短時間・有期雇用労働者についてはこれまで転勤等がなかったという場合にも、そのような形式的な判断だけでなく、例えば、同じ職務に従事している他の短時間・有期雇用労働者の集団には転勤等があるといった「可能性」についての実態を考慮して具体的な見込みがあるかどうかで判断するものであること。
なお、育児又は家族介護などの家族的責任を有する労働者については、その事情を配慮した結果として、その労働者の人事異動等の有無や範囲が他と異なることがあるが、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を比較するに当たって、そのような事情を考慮すること。考慮の仕方としては、例えば、通常の労働者や短時間・有期雇用労働者のうち、人事異動等があり得る人材活用の仕組み、運用等である者が、育児又は家族介護に関する一定の事由(短時間・有期雇用労働者についても通常の労働者と同じ範囲)で配慮がなされ、その配慮によって異なる取扱いを受けた場合、「職務の内容及び配置の変更の範囲」を比較するに際しては、その取扱いについては除いて比較することが考えられること。
(ロ) 「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれる」ことの判断手順
「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれる」ことについては、法第9条の適用に当たって、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で比較して同一性を検証しなければならないため、その判断のための手順が必要となる。法第9条に関しては、この検証は、(2) ロ(ロ)において示した手順により、職務の内容が同一であると判断された通常の労働者と短時間・有期雇用労働者について行うものであること。
まず、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者について、配置の変更に関して、転勤の有無が同じかどうかを比較すること。この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれない」と判断することとなること。
次に、転勤が双方ともあると判断された場合には、全国転勤の可能性があるのか、エリア限定なのかといった転勤により移動が予定されている範囲を比較すること。この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれない」と判断することとなること。
転勤が双方ともない場合、及び双方ともあってその範囲が「実質的に」同一であると判断された場合には、事業所内における職務の内容の変更の態様について比較すること。まずは、職務の内容の変更(事業所内における配置の変更の有無を問わない。)の有無を比較し、この時点で異なっていれば、「職務の内容及び配置が通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲内で変更されることが見込まれない」と判断することとなること。同じであれば、職務の内容の変更により経験する可能性のある範囲も比較し、異同を判断するものであること。
また、法第8条における「職務の内容及び配置の変更の範囲」の異同についても、上記の観点から判断されるものであること。
(3) 事業主の団体の責務(法第3条第2項関係)
短時間・有期雇用労働者の労働条件等については、事業主間の横並び意識が強い場合が多く、事業主の団体を構成している事業にあっては、事業主の団体の援助を得ながら構成員である複数の事業主が同一歩調で短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を進めることが効果的である。そこで、事業主の団体の責務として、その構成員である事業主の雇用する短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関し必要な助言、協力その他の援助を行うように努めることを明らかにしたものであること。
(4) なお、これら事業主及び事業主の団体の責務を前提に、国は必要な指導援助を行うこととされ(法第4条)、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主、事業主の団体その他の関係者に対して、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項についての相談及び助言その他の必要な援助を行うことができることとされている(法第19条)こと。
5 国及び地方公共団体の責務(法第4条関係)
(1) 国の責務(法第4条第1項関係)
国は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等について、事業主その他の関係者の自主的な努力を尊重しつつその実情に応じて必要な指導、援助等を行うとともに、短時間・有期雇用労働者の能力の有効な発揮を妨げている諸要因の解消を図るために必要な広報その他の啓発活動を行うほか、その職業能力の開発及び向上等を図る等、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の促進その他その福祉の増進を図るために必要な施策を総合的かつ効果的に推進するように努めるものとされていること。
具体的内容は、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインの策定、事業主に対する報告徴収、助言、指導、勧告及び公表、調停の実施を含む紛争の解決の援助、啓発活動の実施、事業主等に対する援助の実施、職業訓練の実施、職業紹介の充実等であること。
(2) 地方公共団体の責務(法第4条第2項関係)
地方公共団体は、国の施策と相まって短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図るために必要な施策を推進するように努めるものとされていること。
具体的内容は、広報啓発活動、職業能力開発校等における職業訓練の実施、労政事務所等における講習等の開催等であること。
第2 短時間・有期雇用労働者対策基本方針(法第2章第5条関係)
法第2章は、短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図るため、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の促進、職業能力の開発及び向上等に関する施策の基本となるべき方針である短時間・有期雇用労働者対策基本方針について規定したものであること。
1 趣旨
短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図るための施策は、法に基づくもののほか、他の関係法律に基づく施策等多岐にわたっており、これらの諸施策を円滑かつ効率的に実施していくためには、短時間・有期雇用労働者の職業生活の動向を的確に見通した上で短時間・有期雇用労働者対策の総合的かつ計画的な展開の方向を、労使をはじめ国民全体に示し、これに沿って対策を講ずることが必要である。そのため、厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者対策基本方針を定め、これを公表するものとしたものであること。
2 内容
短時間・有期雇用労働者対策基本方針に定める事項は、次のとおりであること。
(1) 短時間・有期雇用労働者の職業生活の動向に関する事項
(2) 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を促進し、並びにその職業能力の開発及び向上を図るために講じようとする施策の基本となるべき事項
(3) その他短時間・有期雇用労働者の福祉の増進を図るために講じようとする施策の基本となるべき事項
3 短時間・有期雇用労働者対策基本方針は、短時間・有期雇用労働者の労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定められなければならないこととされていること。
4 短時間・有期雇用労働者対策基本方針の策定、変更に当たっては、労働政策審議会の意見を聴かなければならないものとされているが、短時間・有期雇用労働者対策基本方針の内容が他の審議会の所掌に係る事項を含む場合には、その審議会の意見を聴くことを排除するものではないこと(第3の11(1)において同じ。)。
第3 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等(法第3章)
法第3章は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等として、第1節に事業主等が講ずべきものの具体的内容として雇用管理の改善等に関する措置を、第2節に事業主等に対する国の援助等を規定したものであること。
1 労働条件に関する文書の交付等(法第6条関係)
(1) 労働条件の明示については、労働基準法(昭和22年法律第49号)第15条において、賃金、労働時間その他の労働条件について労働契約の締結に際し明示することが使用者に義務付けられているが、短時間・有期雇用労働者に対する労働条件は、通常の労働者とは別に、かつ、個々の事情に応じて多様に設定されることが多いことから、雇入れ後に疑義が生じやすくなっている。そのため、法第6条第1項においては、労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外のもののうち、特に短時間・有期雇用労働者にとって重要な事項であるものを厚生労働省令で特定事項として定め、事業主が文書の交付等により明示しなければならないものとし、それ以外の事項は同条第2項において文書の交付等の努力義務を課したものであること。
なお、法第6条第1項の文書の交付等の義務に違反した者に対して、都道府県労働局長による助言、指導、勧告を行っても履行されない場合には、公表の対象となるとともに、法第31条に基づき、10万円以下の過料に処するものとされていること。
(2) 「特定事項」とは、昇給の有無、退職手当の有無、賞与の有無及び短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口であること(則第2条第1項)。
なお、事業主は、短時間・有期雇用労働者に対して明示しなければならない労働条件を事実と異なるものとしてはならないとされていること(則第2条第2項)。
(3) 「昇給」とは、一つの契約期間の中での賃金の増額を指すものであること。したがって、有期労働契約の契約更新時の賃金改定は、「昇給」に当たらないものであること。
「退職手当」とは、労使間において、労働契約等によってあらかじめ支給条件が明確になっており、退職により支給されるものであればよく、その支給形態が退職一時金であるか、退職年金であるかを問わないものであること。
「賞与」とは、定期又は臨時に支給されるものであって、その支給額があらかじめ確定されていないものをいうものであること。
「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項に係る相談窓口」(以下「相談窓口」という。)とは、事業主が労働者からの苦情を含めた相談を受け付ける窓口をいうものであること。
「昇給」等については、これらの要件に該当するものであれば、その名称は問わないものであること。
(4) 昇給及び賞与が業績等に基づき実施されない又は支給されない可能性がある場合や、退職手当が勤続年数等に基づき支給されない可能性がある場合には、制度としては「有」と明示しつつ、あわせて、昇給及び賞与が業績等に基づき実施されない又は支給されない可能性がある旨や、退職手当が勤続年数等に基づき支給されない可能性がある旨について明示されるべきものであること。
(5) 「昇給」に係る文書の交付等に当たって、「賃金改定(増額):有」等「昇給」の有無が明らかである表示をしている場合には法第6条第1項の義務の履行といえるが、「賃金改定:有」と表示し、「賃金改定」が「昇給」のみであるか明らかでない場合等「昇給」の有無が明らかでない表示にとどまる場合には、同項の義務の履行とはいえないこと。
(6) 「相談窓口」は法第16条に基づき相談のための体制として整備することとされているものであること。
(7) 「相談窓口」の明示の具体例としては、担当者の氏名、担当者の役職又は担当部署等が考えられること。
(8) 「文書の交付等」の「等」とは、ファクシミリを利用してする送信、電子メールその他のその受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信(電気通信事業法(昭和59年法律第86号)第2条第1号に規定する電気通信をいう。以下「電子メール等」という。)の送信のいずれかの方法によることを当該短時間・有期雇用労働者が希望した場合における当該方法が含まれるものであること。ただし、労働条件の明示の趣旨を鑑みると、事業主が短時間・有期雇用労働者に対し確実に労働条件を明示するとともに、その明示された事項を当該短時間・有期雇用労働者がいつでも確認することができるよう、当該短時間・有期雇用労働者が保管することのできる方法により明示する必要があることから、電子メール等の送信の方法による場合には、短時間・有期雇用労働者が当該電子メール等の記録を出力することにより書面を作成することができる場合に限られるものであること(則第2条第3項)。
この場合において「出力することにより書面を作成することができる」とは、当該電子メール等の本文又は当該電子メール等に添付されたファイルについて、紙による出力が可能であることを指すが、これは事業主が送信した労働条件の明示に係る事項の全文が出力されることが必要であること。また、労働条件の明示を巡る紛争の未然防止及び書類管理の徹底の観点から、労働条件通知書に記入し、電子メール等に添付し送信する等、可能な限り紛争を防止しつつ、書類の管理がしやすい方法とすることが望ましいこと。
なお、これらの方法による場合を短時間・有期雇用労働者が希望した場合に限定したのは、これらの方法が文書の交付に比べて簡便な側面がある一方で、誤送信等のリスクも高く、労働条件が不明確なことによる紛争を未然に防止するという労働条件の明示の趣旨に反する可能性があることによる。この「希望した場合」とは、短時間・有期雇用労働者が事業主に対し、口頭で希望する旨を伝達した場合を含むと解されるが、事業主から電子メール等の送信等による方法もあることを提示して、短時間・有期雇用労働者がそれを選択した場合も含まれるものであること。ただし、選択を強制することになってはならないものであること。
また、紛争の未然防止の観点からは、労使双方において、短時間・有期雇用労働者が希望したか否かについて個別に、かつ、明示的に確認することが望ましいこと。
(9) 「電子メール」とは、特定電子メールの送信の適正化等に関する法律(平成14年法律第26号)第2条第1号の電子メールと同様であり、特定の者に対し通信文その他の情報をその使用する通信端末機器(入出力装置を含む。)の影像面に表示させるようにすることにより伝達するための電気通信(有線、無線その他の電磁的方式により、符号、音響又は影像を送り、伝え、又は受けることをいう(電気通信事業法第2条第1号)。)であって、①その全部若しくは一部においてSMTP(シンプル・メール・トランスファー・プロトコル)が用いられる通信方式を用いるもの、又は②携帯して使用する通信端末機器に、電話番号を送受信のために用いて通信文その他の情報を伝達する通信方式を用いるものをいうと解されること。
①にはパソコン・携帯電話端末によるEメールのほか、Yahoo!メールやGmailといったウェブメールサービスを利用したものが含まれ、②にはRCS(リッチ・コミュニケーション・サービス。+メッセージ(プラス・メッセージ)等、携帯電話同士で文字メッセージ等を送信できるサービスをいう。)や、SMS(ショート・メッセージ・サービス。携帯電話同士で短い文字メッセージを電話番号宛てに送信できるサービスをいう。)が含まれること。
「その受信をする者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」とは、具体的には、LINEやFacebook等のSNS(ソーシャル・ネットワーク・サービス)メッセージ機能等を利用した電気通信がこれに該当すること。
なお、上記②の例えばRCSやSMSについては、PDF等の添付ファイルを送付することができないことや、送信できる文字メッセージ数に制限等があること、また、原則である書面作成が念頭に置かれていないサービスであることから、労働条件明示の手段としては例外的なものであり、原則として上記①の方法やSNSメッセージ機能等による送信の方法とすることが望ましいこと。短時間・有期雇用労働者が開設しているブログ、ホームページ等への書き込みや、SNSの短時間・有期雇用労働者のマイページにコメントを書き込む行為等、特定の個人がその入力する情報を電気通信を利用して第三者に閲覧させることに付随して、第三者が特定個人に対し情報を伝達することができる機能が提供されるものについては、「その受信する者を特定して情報を伝達するために用いられる電気通信」には含まれないことに留意する必要があること。
上記のサービスによっては、情報の保存期間が一定期間に限られている場合があることから、短時間・有期雇用労働者が内容を確認しようと考えた際に情報の閲覧ができない可能性があるため、事業主が短時間・有期雇用労働者に対して、短時間・有期雇用労働者自身で出力による書面の作成等により情報を保存するように伝えることが望ましいこと。
(10) ファクシミリを利用してする送信の方法により行われた明示は、短時間・有期雇用労働者が使用するファクシミリ装置により受信した時に、電子メール等の送信の方法により行われた明示は、短時間・有期雇用労働者が使用する通信端末機器等により受信した時に、それぞれ当該短時間・有期雇用労働者に到達したものとみなされるものであること(則第2条第4項)。この場合の「通信端末機器」には、パソコンのほか、携帯電話等も含まれるが、基本的に、POPサーバーや携帯電話会社のメールセンター等、事業主と短時間・有期雇用労働者の間で行われる電気通信の途中に介在する場所に到達しただけではこの要件を満たさないものであること。ただし、Yahoo!メールやGmailといったウェブメールサービス、SNSメッセージ機能等を利用した電気通信など、必ずしも通信端末機器に到達しない方法による場合には、受信履歴等から電子メール等の送信が行われたことを受信者が通常であれば認識しうる状態となった時に到達したものとみなされるものであること。なお、ファクシミリ装置及び電子メール等に係る通信端末機器は、短時間・有期雇用労働者が所有しているものに加え、短時間・有期雇用労働者以外の者が所有しているものも、短時間・有期雇用労働者がその利用を希望している場合には含まれるものであること。
なお、事業主はファクシミリを利用してする送信の方法又は電子メール等の送信の方法により明示を行う場合には、短時間・有期雇用労働者との間で明示がなされたかどうか争いが起こることを避けるため、後日、短時間・有期雇用労働者に受信したかどうかを確認すること、短時間・有期雇用労働者が電子メール等を受信した後に電子メール等を返信させること等によりその到達状況を確認しておくことが望ましいものであること。
(11) 法第6条第2項は、特定事項を明示するときは、労働条件に関する事項のうち特定事項及び労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項以外の事項についても文書の交付等により明示するよう努めるものとしたものであること。
(12) 法第6条第2項により明示するよう努めるべき事項のうち、主要なものとしては、以下のような事項が挙げられるものであること。
イ 昇給(特定事項を除く。)
ロ 退職手当(特定事項を除く。)、臨時に支払われる賃金、賞与(特定事項を除く。)、1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当及び1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当
ハ 所定労働日以外の日の労働の有無
ニ 所定労働時間を超えて、又は所定労働日以外の日に労働させる程度
ホ 安全及び衛生
へ 教育訓練
ト 休職
(13) 労働基準法第15条第1項に基づく明示については、「労働契約の締結に際し」て履行することが求められている一方、法第6条に基づく明示については、「短時間・有期雇用労働者を雇い入れたとき」が履行時点であるが、法第6条に基づく明示については、労働基準法第15条第1項に基づく明示の履行に併せて行うことによっても、履行したものとなること。また、法第6条に基づく明示事項が、労働基準法第15条第1項に基づく明示により、又は就業規則を交付することにより明らかにされている場合には、当該措置で足りるものであること。
(14) 有期雇用労働者であって、その更新をするときについては、労働契約の更新をもって「雇い入れ」ることとなるため、その都度法第6条の明示が必要となるものであること。
2 就業規則の作成の手続(法第7条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者を含め常時10人以上の労働者を使用する使用者は、労働基準法第89条の定めるところにより、就業規則を作成する義務があるが、その作成又は変更に当たっては、同法第90条において、使用者は事業場の労働者の過半数で組織する労働組合等の意見を聴かなければならないこととされている。短時間労働者又は有期雇用労働者に適用される就業規則についてもこの手続がとられなければならないことはもちろんであるが、短時間労働者又は有期雇用労働者に適用される就業規則の作成又は変更に当たっては、これに加えて、就業規則の適用を受ける短時間労働者又は有期雇用労働者の意見が反映されることが望ましい。
そのため、事業主は、短時間労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときは、当該事業所において雇用する短時間労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとし、また、有期雇用労働者に係る事項について就業規則を作成し、又は変更しようとするときも同様に、当該事業所において雇用する有期雇用労働者の過半数を代表すると認められるものの意見を聴くように努めるものとしたものであること。
(2) 「短時間労働者の過半数を代表すると認められるもの」は、事業所の短時間労働者の過半数で組織する労働組合がある場合はその労働組合、短時間労働者の過半数で組織する労働組合がない場合は短時間労働者の過半数を代表する者が考えられること。
この場合の過半数代表者の適格性としては、次のいずれにも該当するものとするものであること。
イ 労働基準法第41条第2号に規定する監督又は管理の地位にある者でないこと。
ロ 就業規則の作成又は変更に係る意見を事業主から聴取される者を選出することを明らかにして実施される投票、挙手等の方法による手続により選出された者であって、使用者の意向に基づき選出されたものではないこと。
(3) (2)ロの選出方法については、①その者が短時間労働者の過半数を代表することの適否について判断する機会が当該事業所の短時間労働者に与えられており、すなわち、使用者の指名などその意向に沿って選出するようなものであってはならず、かつ、②当該事業所の過半数の短時間労働者がその者を支持していると認められる民主的な手続がとられていること、すなわち、短時間労働者の投票、挙手等の方法により選出されること等が考えられること。
なお、法は意見の聴取を要請するものであって、就業規則を労働基準監督署に届け出る際に意見書の添付を義務付けるものではないこと。
(4) (2)及び(3)については、有期雇用労働者についても同様であること。
3 不合理な待遇の禁止(法第8条関係)
(1) 有期雇用労働者については、平成25年の労働契約法の改正により、無期雇用労働者と比較して、雇止めの不安があることによって合理的な労働条件の決定が行われにくいことや、待遇に対する不満が多く指摘されていることを踏まえ、整備法による改正前の労働契約法第20条において、無期雇用労働者との間の労働条件の相違は、不合理と認められるものであってはならないこととされた。
また、短時間労働者については、短時間労働者の働き方が一層多様化してきている中で、依然として、その待遇が必ずしも働きや貢献に見合ったものとなっていない場合もあること、上記の労働契約法の改正により、いわゆる均衡待遇規定が設けられたこと等を踏まえ、整備法による改正前の労働契約法第20条の規定にならい、平成26年の改正により、整備法による改正前の短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律(平成5年法律第76号)第8条において、短時間労働者と通常の労働者との間の待遇の相違は、不合理と認められるものであってはならないこととされた。
こうして、いわゆる均衡待遇規定が整備されてきたが、待遇の相違が不合理と認められるか否かの解釈の幅が大きく、労使の当事者にとって予見可能性が高いとは言えない状況にあったことから、法第8条において、待遇差が不合理と認められるか否かの判断は、個々の待遇ごとに、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められる考慮要素で判断されるべき旨を明確化したものであること。
また、有期雇用労働者を法の対象とすることとしたことに伴い、労働契約法第20条を削除することとしたものであること。
(2) 法第8条は、事業主が、その雇用する短時間・有期雇用労働者の基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、当該待遇に対応する通常の労働者の待遇との間において、当該短時間・有期雇用労働者及び通常の労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められるものを考慮して、不合理と認められる相違を設けることを禁止したものであること。
したがって、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間で待遇の相違があれば直ちに不合理とされるものではなく、当該待遇の相違が法第8条に列挙されている要素のうち、当該待遇の性質及び当該待遇を行う目的に照らして適切と認められる事情を考慮して、不合理と認められるかどうかが判断されるものであること。
また、法第8条の不合理性の判断の対象となるのは、待遇の「相違」であり、この待遇の相違は、「短時間・有期雇用労働者であることに関連して生じた待遇の相違」であるが、法は短時間・有期雇用労働者について通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図ろうとするものであり、法第8条の不合理性の判断の対象となる待遇の相違は、「短時間・有期雇用労働者であることに関連して生じた」待遇の相違であることが自明であることから、その旨が条文上は明記されていないことに留意すること。
(3) 法第8条は、事業主が、短時間・有期雇用労働者と同一の事業所に雇用される通常の労働者や職務の内容が同一の通常の労働者との間だけでなく、その雇用する全ての通常の労働者との間で、不合理と認められる待遇の相違を設けることを禁止したものであること。
(4) 短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との「職務の内容」及び「職務の内容及び配置の変更の範囲」の異同の判断は、第1の4(2)ロ及びハに従い行うものであること。
(5) 「その他の事情」については、職務の内容並びに職務の内容及び配置の変更の範囲に関連する事情に限定されるものではないこと。
具体例としては、職務の成果、能力、経験、合理的な労使の慣行、事業主と労働組合との間の交渉といった労使交渉の経緯などの諸事情が「その他の事情」として想定されるものであり、考慮すべきその他の事情があるときに考慮すべきものであること。
また、ガイドラインにおいて「有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることは、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かを判断するに当たり、短時間・有期雇用労働法第8条のその他の事情として考慮される事情に当たりうる。定年に達した後に有期雇用労働者として継続雇用する場合の待遇について、様々な事情が総合的に考慮されて、通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理と認められるか否かが判断されるものと考えられる。したがって、当該有期雇用労働者が定年に達した後に継続雇用された者であることのみをもって、直ちに通常の労働者と当該有期雇用労働者との間の待遇の相違が不合理ではないと認められるものではない」とされていることに留意すること。
さらに、法第14条第2項に基づく待遇の相違の内容及びその理由に関する説明については労使交渉の前提となりうるものであり、事業主が十分な説明をせず、その後の労使交渉においても十分な話し合いがなされず、労使間で紛争となる場合があると考えられる。「その他の事情」に労使交渉の経緯が含まれると解されることを考えると、このように待遇の相違の内容等について十分な説明をしなかったと認められる場合には、その事実も「その他の事情」に含まれ、不合理性を基礎付ける事情として考慮されうると考えられるものであること。
(6) 「待遇」には、基本的に、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇が含まれること。
一方、短時間・有期雇用労働者を定義付けるものである労働時間及び労働契約の期間については、ここにいう「待遇」に含まれないこと。
なお、事業主ではなく、労使が運営する共済会等が実施しているものは、対象とならないものであること。
(7) 法第8条は、(1)のとおり、整備法による改正前の労働契約法第20条を統合しつつ、その明確化を図った規定であること。法第8条については、私法上の効力を有する規定であり、短時間・有期雇用労働者に係る労働契約のうち、同条に違反する待遇の相違を設ける部分は無効となり、故意・過失による権利侵害、すなわち不法行為として損害賠償が認められ得ると解されるものであること。また、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との待遇の相違が法第8条に違反する場合であっても、同条の効力により、当該短時間・有期雇用労働者の待遇が比較の対象である通常の労働者の待遇と同一のものとなるものではないと解されるものであること。ただし、個々の事案に応じて、就業規則の合理的な解釈により、通常の労働者の待遇と同一の待遇が認められる場合もあり得ると考えられるものであること。
(8) 法第8条に基づき民事訴訟が提起された場合の裁判上の主張立証については、待遇の相違が不合理であるとの評価を基礎付ける事実については短時間・有期雇用労働者が、当該相違が不合理であるとの評価を妨げる事実については事業主が主張立証責任を負うものと解され、同条の司法上の判断は、短時間・有期雇用労働者及び事業主双方が主張立証を尽くした結果が総体としてなされるものであり、立証の負担が短時間・有期雇用労働者側に一方的に負わされることにはならないと解されるものであること。
(9) ガイドラインは、法第8条及び第9条等に定める事項に関し、雇用形態又は就業形態に関わらない公正な待遇を確保し、我が国が目指す同一労働同一賃金の実現に向けて定めるものであること。我が国が目指す同一労働同一賃金は、同一の事業主に雇用される通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の不合理と認められる待遇の相違及び差別的取扱いの解消等を目指すものであること。
また、ガイドラインは、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に待遇の相違が存在する場合に、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものであり、いかなる待遇の相違が不合理と認められるものでないのか等の原則となる考え方及び具体例を示したものであること。事業主が、この原則となる考え方等に反した場合、当該待遇の相違が不合理と認められる等の可能性があること。なお、ガイドラインに原則となる考え方が示されていない退職手当、住宅手当、家族手当等の待遇や、具体例に該当しない場合についても、不合理と認められる待遇の相違の解消等が求められること。このため、各事業主において、労使により、個別具体の事情に応じて待遇の体系について議論していくことが望まれること。
なお、ガイドライン第3の1(注)1において、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間に賃金の決定基準・ルールの相違がある場合の考え方を記載しており、この考え方は基本給に限られたものではないが、賃金の決定基準・ルールが異なるのは、基本的に、基本給に関する場合が多いと考えられることから、ガイドライン第3の1において規定しているものであること。
(10) 短時間・有期雇用労働者である派遣労働者については、法及び労働者派遣法の両方が適用されるものであること。このため、基本的に、法において、派遣元事業主に雇用される通常の労働者との間の待遇の相違が問題になるとともに、労働者派遣法において、派遣先に雇用される通常の労働者との間の待遇の相違(協定対象派遣労働者(労働者派遣法第30条の5に規定する協定対象派遣労働者をいう。以下同じ。)にあっては、労働者派遣法第30条の4第1項の協定が同項に定められた要件を満たすものであること及び当該協定に沿った運用がなされていることの有無をいう。以下同じ。)が問題になるものであること。
このことから、短時間・有期雇用労働者である派遣労働者の待遇については、職務の内容に密接に関連する待遇を除き、短時間・有期雇用労働者である派遣労働者と派遣元事業主に雇用される通常の労働者及び派遣先に雇用される通常の労働者との間の待遇の相違が問題になると考えられるものであること。一般に、ガイドライン第3の3(7)及び第4の3(7)の通勤手当及び出張旅費、ガイドライン第3の3(8)及び第4の3(8)の食事手当、ガイドライン第3の3(9)及び第4の3(9)の単身赴任手当、ガイドライン第3の4及び第4の4並びに第5の2の福利厚生(ガイドライン第3の4(1)及び第4の4(1) 並びに第5の2(1)の福利厚生施設を除く。)については、職務の内容に密接に関連するものに当たらないと考えられるものであること。
他方で、職務の内容に密接に関連する待遇については、派遣労働者が派遣先の指揮命令の下において派遣先の業務に従事するという労働者派遣の性質から、特段の事情がない限り、派遣元事業主に雇用される通常の労働者との待遇の相違は、実質的に問題にならないと考えられるものであること。職務の内容に密接に関連する待遇に当たるか否かは、個々の待遇の実態に応じて判断されるものであるが、例えば、ガイドライン第3の1及び第4の1の基本給、ガイドライン第3の2及び第4の2の賞与、ガイドライン第3の3(1)及び第4の3(1)の役職手当、ガイドライン第3の3(2)及び第4の3(2)の特殊作業手当、ガイドライン第3の3(4)及び第4の3(4)の精皆勤手当、ガイドライン第3の3(5)及び第4の3(5)の時間外労働手当、ガイドライン第3の3(6)及び第4の3(6)の深夜労働手当及び休日労働手当、ガイドライン第3の5(1)第4の5(1)及び第5の3(1)の教育訓練、ガイドライン第3の5(2)、第4の5(2)及び第5の3(2)の安全管理に関する措置及び給付については、一般に、職務の内容に密接に関連するものと考えられるものであること。
なお、これらの点については、協定対象派遣労働者であるか否かによって異なるものではないと考えられるものであること。
ただし、職務の内容に密接に関連する待遇であっても、派遣先に雇用される通常の労働者との均等・均衡とは異なる観点から、短時間・有期雇用労働者ではない派遣労働者に対して、短時間・有期雇用労働者である派遣労働者よりも高い水準の待遇としている場合には、短時間・有期雇用労働者ではない派遣労働者と短時間・有期雇用労働者である派遣労働者との間の待遇の相違について、法において問題となることがあると考えられるものであること。
また、職務の内容に密接に関連する待遇以外の待遇であっても、短時間・有期雇用労働者である派遣労働者と短時間・有期雇用労働者でない派遣労働者が異なる派遣先に派遣されている場合において、待遇を比較すべき派遣先に雇用される通常の労働者が異なることにより待遇に相違がある場合には、当該待遇の相違は、法において問題になるものではないと考えられるものであること。
4 通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いの禁止(法第9条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者の職務の内容や職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)といった就業の実態が通常の労働者と同様であるにもかかわらず賃金などの取扱いが異なるなど、短時間・有期雇用労働者の待遇は就業の実態に見合った公正なものとなっていない場合がある。就業の実態が通常の労働者と同じ短時間・有期雇用労働者については、全ての待遇について通常の労働者と同じ取扱いがなされるべきであり、法第9条において、そのような場合の差別的取扱いの禁止を規定したものであること。
(2) 法第9条は、職務の内容が通常の労働者と同一の短時間・有期雇用労働者であって、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるもの(以下「通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者」という。)については、短時間・有期雇用労働者であることを理由として、基本給、賞与その他の待遇のそれぞれについて、差別的取扱いをしてはならないものとしたものであること。
(3) 法第9条の判断に当たっては、具体的には、以下のイ及びロの事項について、(4) から(9) までにより行うこととなること。
イ 職務の内容が通常の労働者と同一であること。
ロ 職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、通常の労働者と同一であること。
(4) (3)イの「職務の内容が通常の労働者と同一であること」とは、その業務の内容や当該業務に伴う責任の程度が同一であるかを判断することとなる。その判断に当たっては、第1の4(2)ロに従い行うものであること。
(5) (3)ロの「職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)」が、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、通常の労働者と同一であること」とは、当該事業所における慣行その他の事情からみて、当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間において、その職務の内容及び配置が当該通常の労働者の職務の内容及び配置の変更の範囲と同一の範囲で変更されることが見込まれるものであることであり、職務の内容や配置が将来にわたって通常の労働者と同じように変化するかについて判断することとなるものであること。これは、我が国における雇用管理が長期的な人材育成を前提になされていることが多い現状に鑑み、差別的取扱いの禁止の規定の適用に当たっては、ある一時点において短時間・有期雇用労働者と通常の労働者が従事する職務が同じかどうかだけでなく、長期的な人材活用の仕組み、運用等についてもその同一性を判断する必要があるためであること。
具体的には、第1の4(2)ハで示したとおり同一であるかどうかを判断するものであること。
(6) 「当該事業所における慣行」とは、当該事業所において繰り返し行われることによって定着している人事異動等の態様を指すものであり、「その他の事情」とは、例えば人事規程等により明文化されたものや当該企業において、当該事業所以外に複数事業所がある場合の他の事業所における慣行等が含まれるものであること。
なお、ここでいう「その他の事情」とは、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)を判断するに当たって、当該事業所における「慣行」と同じと考えられるべきものを指すものであり、短時間・有期雇用労働者と通常の労働者の待遇の相違の不合理性を判断する考慮要素としての法第8条の「その他の事情」とは異なるものであること。
(7) 「当該事業主との雇用関係が終了するまでの全期間」とは、当該短時間・有期雇用労働者が通常の労働者と職務の内容が同一となり、かつ、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が通常の労働者と同一となってから雇用関係が終了するまでの間であること。すなわち、事業主に雇い入れられた後、上記要件を満たすまでの間に通常の労働者と職務の内容が異なり、また、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が通常の労働者と異なっていた期間があっても、その期間まで「全期間」に含めるものではなく、同一となった時点から将来に向かって判断するものであること。
(8) 「見込まれる」とは、将来の見込みも含めて判断されるものであること。したがって、有期雇用労働者の場合にあっては、労働契約が更新されることが未定の段階であっても、更新をした場合にはどのような扱いがされるかということを含めて判断されるものであること。
(9) 法第9条の要件を満たした場合については、事業主は短時間・有期雇用労働者であることを理由として、全ての賃金、教育訓練、福利厚生施設、休憩、休日、休暇、安全衛生、災害補償、解雇等の全ての待遇(労働時間及び労働契約の期間を除く。)について差別的取扱いをしてはならないものであること。
この場合、待遇の取扱いが同じであっても、個々の労働者について査定や業績評価等を行うに当たり、意欲、能力、経験、成果等を勘案することにより個々の労働者の賃金水準が異なることは、通常の労働者間であっても生じうることであって問題とはならないが、当然、当該査定や業績評価は客観的かつ公正に行われるべきであること。また、労働時間が短いことに比例した取扱いの差異として、査定や業績評価が同じである場合であっても賃金が時間比例分少ないといった合理的な差異は許容されることは、言うまでもないこと。
なお、経営上の理由により解雇等の対象者の選定をする際は、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者については、労働時間が短いことのみをもって通常の労働者より先に短時間労働者の解雇等をすることや、労働契約に期間の定めのあることのみをもって通常の労働者よりも先に有期雇用労働者の解雇等をすることは、解雇等の対象者の選定基準において差別的取扱いがなされていることとなり、法第9条違反となるものであること。
5 賃金(法第10条関係)
(1) 法第10条については、法第9条の対象となる短時間・有期雇用労働者以外の全ての短時間・有期雇用労働者が対象となるものである。これは、短時間・有期雇用労働者が勤続年数を重ねてもほとんど賃金に反映されないことや昇給が最低賃金の改定に応じて決定されるなど、働きや貢献とは関係のない要素で賃金が決定されることが多いことから、職務の内容、成果等に応じて短時間・有期雇用労働者の賃金を決定するよう努めることとしたものであること。
ただし、通勤手当、家族手当、住宅手当、別居手当、子女教育手当その他名称の如何を問わず支払われる賃金(いずれも職務の内容に密接に関連して支払われるものを除く。)については、本条の対象外となるものであること(則第3条)。
なお、手当について職務の内容に密接に関連して支払われるものに該当するかを判断するに当たっては、名称のみならず、支払い方法、支払いの基準等の実態を見て判断する必要があるものであること。
例えば、通勤手当について、現実に通勤に要する交通費等の費用の有無や金額如何にかかわらず、一律の金額が支払われている場合など、名称は「通勤手当」であるが、実態として基本給などの一部として支払われているものや、家族手当について、名称は「家族手当」であるが、家族の有無にかかわらず、一律に支払われているものについては、職務の内容に密接に関連して支払われるものに該当する可能性があること。
(2) 短時間・有期雇用労働者の「職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を勘案し」とは、短時間・有期雇用労働者の働きや貢献に見合った賃金決定がなされるよう、働きや貢献を評価する要素である職務の内容、職務の成果、意欲、能力、経験を勘案要素の例示として挙げているものであること。勘案要素のうち、どの要素によることとするかは各企業の判断に委ねられるものであるが、その勘案については、法第14条第2項による説明を求められることを念頭に、どの要素によることとしたのか、また、その要素をどのように勘案しているのかについて客観的かつ具体的な説明ができるものとされるべきであること。
「職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項」を勘案した措置の例としては、職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項を踏まえた①賃金水準の見直し、②昇給・昇格制度や成績等の考課制度の整備、③職務手当、役職手当、成果手当の支給等が考えられること。例えば、職務の内容を勘案する場合、責任の重さや業務の困難度で賃金等級に差を設けることなどが考えられるが、本条の趣旨は、この措置の結果として短時間・有期雇用労働者の集団の中で賃金の差を生じさせることにあるのではなく、職務の内容、職務の成果等を適切に賃金に反映させることにより、結果として通常の労働者の待遇との均衡を図っていくことにある点に留意すべきであること。
なお、「その他の就業の実態に関する事項」としては、例えば、勤続年数が考えられること。
(3) 「通常の労働者との均衡を考慮しつつ」とは、短時間・有期雇用労働者と職務の内容が同一である通常の労働者だけでなく、職務の内容が異なる通常の労働者との均衡も考慮することを指しているものであること。具体的には、通常の労働者の賃金決定に当たっての勘案要素を踏まえ、例えば職務の内容が同一の通常の労働者の賃金が経験に応じて上昇する決定方法となっているならば、短時間・有期雇用労働者についても経験を考慮して賃金決定を行うこととする等、「職務の内容、職務の成果、意欲、能力又は経験その他の就業の実態に関する事項」に応じた待遇に係る措置等を講ずることになること。
(4) 法第10条の措置を講ずる時期については、通常の労働者の定期昇給や賃金表の改定に合わせて実施すること等が考えられるが、例えば、期間の定めのある労働契約を締結している場合においては、当該契約を改定する際又は更新する際に、あわせて賃金の決定方法について均衡を考慮したものとなるよう見直すことも考えられるものであること。
6 教育訓練(法第11条関係)
(1) 法第11条第1項は、職務の内容が通常の労働者と同じ短時間・有期雇用労働者について、事業主が通常の労働者に対して職務の遂行に必要な能力を身に付けさせるための教育訓練を実施している場合には、既にそのような能力を有している場合を除き、当該短時間・有期雇用労働者に対しても実施されなければならないものであることを定めたものであること。
これは、短時間・有期雇用労働者の職務の内容が通常の労働者と同じである場合は、短時間・有期雇用労働者に対しても職務の遂行に必要な能力を身に付けさせるための教育訓練を実施することは当然であることから、そのような場合の事業主の教育訓練の実施義務を定めたものである。
(2) 「既に当該職務に必要な能力を有している場合」とは、短時間・有期雇用労働者が以前同業他社に勤務し、当該教育訓練と同様の内容の教育訓練を受講している場合など職務の遂行に必要な知識や技術を身に付けている場合を指すものであること。
なお、本条の規定は、他の法律において、教育訓練等を受講することが義務付けられている場合についてまで、その義務を免除する趣旨ではないこと。
また、教育訓練を実施する場合には、短時間・有期雇用労働者の勤務時間帯など短時間・有期雇用労働者側の事情も考慮して実施する必要があること。
(3) 法第11条第2項は、当然の措置を求めている第1項の規定に加えて、事業主は、職務の遂行に必要な能力を身に付けさせるための教育訓練以外の教育訓練及び職務の内容が通常の労働者と異なる短時間・有期雇用労働者に対する職務の遂行に必要な能力を身に付けさせるための教育訓練についても、通常の労働者との均衡を考慮しつつ、職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じて、短時間・有期雇用労働者に対して実施するよう努める必要があることを定めたものであること。
これは、労働力人口が減少する中で、我が国の経済の活力を維持するためには、短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することが重要であるところ、短時間・有期雇用労働者がキャリアアップするための企業内での教育訓練の機会が乏しく、通常の労働者との待遇の格差の原因となっている現状を改善するため、短時間・有期雇用労働者に対しても積極的な教育訓練の実施を求める趣旨であること。したがって、この教育訓練は、事業主が中長期的な視点から行うキャリアアップのための教育訓練などを指すものであるが、幹部候補生の養成のために実施するような、長期の研修や海外留学等の実施までを求める趣旨ではないこと。なお、企業内における中長期的な人材育成システムからは外れがちである短時間・有期雇用労働者についても、その職務の内容、職務の成果等に応じた教育訓練を行い、活用を図っていくことは、言うまでもなく企業においてもメリットがあるものであること。
なお、「通常の労働者との均衡を考慮しつつ」とは、法第10条の場合と同様、短時間・有期雇用労働者と職務の内容が同一である通常の労働者及び職務の内容が異なる通常の労働者の双方との均衡を考慮することになること。
(4) 教育訓練の実施に当たって、通常の労働者との均衡を考慮した結果、実施内容やカリキュラム等が異なることもあり得るものであること。
7 福利厚生施設(法第12条関係)
(1) 事業主が実施する福利厚生の内容は多様であるが、職務の遂行に関連の深い福利厚生施設の利用については、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で差を設けるべきではない。このため、法第12条は、事業主が、健康を保って働くための施設や業務を円滑に遂行するための施設である給食施設、休憩室及び更衣室(以下「3施設」という。)について通常の労働者に対して利用の機会を与える場合に、短時間・有期雇用労働者に対しても利用の機会を与えなければならないことを明らかにしたものであること。
法第12条における「通常の労働者」には、基本的に事業所における全ての通常の労働者が含まれることから、短時間・有期雇用労働者と職務の内容が同一の通常の労働者のみならず、職務の内容が異なる通常の労働者との関係も考慮すること。
ただし、短時間・有期雇用労働者の従事する業務には更衣室が必要でなく、当該業務に従事している通常の労働者も同様の実態にある場合には、他の業務に従事している通常の労働者が更衣室を利用しているからといって当該短時間・有期雇用労働者に更衣室の利用の機会を与える必要はないことが通常であること。
(2) 「利用の機会を与えなければならない」とは、施設の定員の関係等でその雇用する労働者全員が施設を利用できないような場合に、増築等により結果として労働者全員が利用できるようにすることまでは求めないが、通常の労働者と同じ利用規程を適用したり、利用時間帯に幅を設けたりすること等により、全ての短時間・有期雇用労働者に対して、通常の労働者と同様に利用する権利が確保される措置を求めるものであること。すなわち、施設の定員の関係等で利用が制限されている場合においても、定員を理由としてその利用を通常の労働者に限定することは本条に違反することとなるものであること。
ただし、短時間・有期雇用労働者が雇用される事業所には給食施設がなく、当該事業所に雇用される通常の労働者にも給食施設の利用の機会が付与されていない場合には、給食施設がある他の事業所に雇用される通常の労働者にはその利用の機会が付与されているからといって、当該短時間・有期雇用労働者に給食施設の利用の機会を与える必要はないことが通常であること。
(3) 本条の対象となる3施設の運営を、事業主ではなく、労使が運営する共済会等が実施している場合には、本条により事業主が講じなければならない措置の対象外となるものであること。ただし、共済会で運営している場合でも、会員からの出資がなく、運営について事業主の負担で運営されている場合には本条の対象となるものであること。
8 高年齢者雇用確保措置の適用との関係
高年齢者の継続雇用制度の導入等が行われる事業主において、当該制度の対象となる高年齢者が短時間・有期雇用労働者である場合に法第9条の適用関係が問題となり得る。
継続雇用制度が講じられた事業主においては、再雇用等により定年年齢を境として、短時間・有期雇用労働者となった場合、職務の内容が比較対象となる通常の労働者と同一であったとしても、職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)が異なっている等の実態があれば、法第9条の要件に該当しないものであるが、法第8条の対象となることに留意が必要であること。
また、定年の引上げ等により、60歳を超えた定年の定めを行っている事業主においては、短時間・有期雇用労働者とならない高年齢者については法の適用はないが、短時間・有期雇用労働者となる場合、職務の内容が比較対象となる通常の労働者と同一であり、特段職務の内容及び配置の変更の範囲(人材活用の仕組み、運用等)も異ならないのであれば、法第8条の対象となるだけでなく、法第9条の要件に該当すること。
なお、法第10条から第12条までに規定する措置については、それぞれの規定の適用要件に応じて講ずべきものであること。
9 通常の労働者への転換(法第13条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者の中には、通常の労働者として働くことを希望していても、その雇用の機会がないためにやむを得ず短時間・有期雇用労働者として働いている者もいるほか、現状では一度短時間・有期雇用労働者になると通常の労働者としての就業に移ることが困難な状況にある。そのような状況は、労働者個人の働く意欲の維持、キャリア形成の観点から問題であるだけでなく、社会の活力・公正の観点からみても問題であるため、法第13条は、通常の労働者への転換を推進する措置を事業主に義務付けたものであること。
本条の「通常の労働者への転換」については、短時間・有期雇用労働者の中には、他の事業所における通常の労働者への転換を希望しない者も少なくないと考えられることから、短時間・有期雇用労働者が雇用される事業所において通常の労働者として雇い入れられることをいうものとされていること(法第3条第1項)。したがって、(2)以下で解説する措置は、当該事業所における通常の労働者への転換を推進する措置であることが求められること。ただし、短時間・有期雇用労働者の通常の労働者としてのキャリア形成を支援する等の観点から、他の事業所における通常の労働者への転換を推進する措置を併せて実施することは望ましいと考えられること。
(2) 本条の措置としては、短時間・有期雇用労働者から通常の労働者への転換を直接図ることが可能となる措置が望ましいことは言うまでもないが、例えば、短時間労働者から有期雇用フルタイム労働者など、通常の労働者以外のフルタイム労働者への転換制度を設け、さらに有期雇用労働者には通常の労働者への転換制度が設けられているような、複数の措置の組み合わせにより通常の労働者への転換の道が確保されている場合も本条の義務の履行と考えられること。
なお、本条は、多様な雇用形態間の移動の障壁を除去する政策をとるものであることから、当該事業所においていわゆる正規型の労働者と正規型以外の無期雇用フルタイム労働者が通常の労働者として存在する場合に、事業主が講ずる措置が正規型以外の無期雇用フルタイム労働者への転換を推進するものにとどまる場合は、雇用形態間の障壁が残ることになることから、本条の義務の履行とはいえないこと。他方、勤務地、職務内容又は勤務時間が限定され、ライフスタイル等に応じた働き方が可能ないわゆる「多様な正社員」については、一般的に、時間や配置転換等の制約が比較的大きい短時間・有期雇用労働者であっても就業しやすい形態であることから、多様な正社員への転換を推進する措置が講じられている場合には、本条の義務の履行と考えられること。
(3) 具体的には以下に例示された措置のいずれかを講ずることが求められるものであること。
イ 通常の労働者の募集を行う場合において、当該募集に係る事業所に掲示すること等により、その者が従事すべき業務の内容、賃金、労働時間その他の当該募集に関する事項を当該事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に周知すること。
ロ 通常の労働者の配置を新たに行う場合において、当該配置の希望を申し出る機会を当該配置に係る事業所において雇用する短時間・有期雇用労働者に対して与えること。
ハ 一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を設けること。
ニ イからハまでに掲げるもののほか、通常の労働者として必要な能力を取得するための教育訓練を受ける機会を確保するための必要な援助を行う等、通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずること。
(4) (3)イは、事業主は、通常の労働者を募集しようとするときに、企業外からの募集と併せて、その雇用する短時間・有期雇用労働者に対しても募集情報を周知することにより、通常の労働者への応募の機会を付与するものとしたものであること。最終的に採用するかどうかは、公正な採用選考である限り事業主の判断に委ねられるが、周知したのみで、応募を受け付けないなど実際に応募の機会を付与しない場合は、本条を満たしたものとはいえないこと。「その他の当該募集に係る事項」とは、求人者が求人の申込みに当たり明示することとされている労働契約期間や就業の場所等の事項を指すものであること。例えば、事業主は公共職業安定所に求人票を出す場合、併せてその募集案内を社内掲示板に掲示することにより、当該事業所で雇用する短時間・有期雇用労働者にも応募の機会を与えることなどが考えられること。また、周知の方法としては、事業所内の短時間・有期雇用労働者が通常目にすることができる場所に設置されている掲示板への掲示のほか、回覧による方法や電子メールによる一斉送信等が考えられるが、募集期間終了までに希望者が見ることのできる状態にあることが必要であること。また、募集する求人の業務内容が専門的資格を必要とするものであって当該事業所に有資格である短時間・有期雇用労働者が存在しないことが明らかである場合については、募集に係る事項を周知しなくても、本条違反とはならないものであること(そのような事情がなければ周知することとされていることが前提である。)。なお、他の企業で実績を有する者等をヘッドハンティングする場合など、個人的資質に着目して特定の個人を通常の労働者として採用するものは、(3)イの「通常の労働者の募集を行う場合」には該当しないものであること。
(5) (3)ロは、企業外に通常の労働者に係る募集を出す前に、企業内の短時間・有期雇用労働者に配置の希望を申し出る機会を与えるものであり、いわゆる優先的な応募機会の付与をいうものであること。また、社内から通常の労働者のポストへの応募を積極的に受け付ける「社内公募」制度のようなものも(3)ロに該当するものであること。なお、この優先的な応募機会の付与は、優先的な採用まで義務付けるものではないことは言うまでもないこと。
(6) (3)イ及びロについては、通常の労働者の募集の必要がないときにまで募集を行うことを求めるものではないが、(10)にあるとおり、そのような措置を講ずる予定であるとしてあらかじめ周知することが求められるものであること。
(7) (3)ハは、その雇用する短時間・有期雇用労働者を通常の労働者へ登用するための制度として、一定の資格を有する短時間・有期雇用労働者を対象とした通常の労働者への転換のための試験制度を事業所内に設けることとしたものであること。「一定の資格」としては、例えば勤続年数やその職務に必要な資格等があり得るものであること。ただし、当該「一定の資格」として著しく長い勤続期間を要することとするなど、当該事業所の雇用管理の実態から見ても制限的なものと考えられ、対象者がほとんど存在しないようなものは、(3)ハの措置を行ったとは言えないものであること。
(8) (3)ニは、通常の労働者への転換を推進するための措置としては、(3)イからハまでに掲げる措置以外のものでも差し支えない旨を明らかにしたものであり、一例として、通常の労働者として必要な能力を取得するための教育訓練を受ける機会を確保するための必要な援助を行うことを挙げたものであること。この「必要な援助」としては、自ら教育訓練プログラムを提供することのほか、他で提供される教育訓練プログラムの費用の経済的な援助や当該訓練に参加するための時間的な配慮を行うこと等も考えられるものであること。
(9) 本条の措置は、制度として行うことを求めているものであり、合理的な理由なく事業主の恣意により通常の労働者の募集情報を周知するときとしないときがあるような場合や、転換制度を規程にするなど客観的な制度とはせずに事業主の気に入った人物を通常の労働者に転換するような場合には、本条の義務の履行とはいえないこと。
(10) 本条の趣旨を踏まえると、当該事業所において講じられている通常の労働者への転換を推進するための措置が短時間・有期雇用労働者に対して周知されていることが求められ、(3)イやロの措置のように、一定の機会が到来したときに初めて措置を講ずることとなるものについても、そのような措置を講ずる予定であるとしてあらかじめ周知することが求められるものであること。
(11) 本条においては、通常の労働者への転換を推進するための措置を講ずることが求められているのであって、その結果として短時間・有期雇用労働者を通常の労働者に転換することまで求められるものではないが、長期間にわたって通常の労働者に転換された実績がない場合については、転換を推進するための措置を講じたとはいえない可能性があり、周知のみで応募はしにくい環境になっているなど、措置が形骸化していないか検証すべきものであること。
10 事業主が講ずる雇用管理の改善等の措置の内容等の説明(法第14条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者は、通常の労働者に比べ労働時間や職務の内容が多様であり、その労働条件が不明確になりやすいことなどから、通常の労働者の待遇との違いを生じさせている理由がわからず、不満を抱く場合も少なくない状況にある。また、そもそも事業主が短時間・有期雇用労働者についてどのような雇用管理の改善等の措置を講じているのかについて、短時間・有期雇用労働者が認識していない場合も多いと考えられ、こうしたことが、短時間・有期雇用労働者の不安や不満につながっていると考えられる。短時間・有期雇用労働者がその有する能力を十分に発揮するためには、このような状況を改善し、その納得性を高めることが有効である。さらには、短時間・有期雇用労働者が通常の労働者との間の待遇の相違について納得できない場合に、まずは労使間での対話を行い、不合理な待遇差の是正につなげていくとともに、事業主しか持っていない情報のために、労働者が訴えを起こすことができないといったことがないようにすることが重要である。このため、法第6条の文書の交付等による労働条件の明示と併せて、事業主に対し、短時間・有期雇用労働者の雇入れ時に当該事業主が講ずる雇用管理の改善等の措置の内容について説明しなければならないこととするとともに、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに待遇の決定に当たって考慮した事項について説明しなければならないこととしたものであること。
(2) 法第14条第1項は、事業主は、短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときは、速やかに、法第8条から第13条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項(労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項及び特定事項を除く。)に関し講ずることとしている措置の内容について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならないことを定めたものであること。
労働基準法第15条第1項に規定する厚生労働省令で定める事項及び法第6条第1項の特定事項については、労働基準法又は法により、別途、文書等の交付等による明示が義務付けられていることから、本項による説明義務の対象とはしていないこと。
なお、本項により事業主に説明義務が課されている事項には、法第10条及び第11条第2項の規定により努力義務が課されているものも当然に含むものであること。
(3) 法第14条第1項による説明については、事業主が短時間・有期雇用労働者を雇い入れたときに、個々の短時間・有期雇用労働者ごとに説明を行うほか、雇入れ時の説明会等において複数の短時間・有期雇用労働者に同時に説明を行う等の方法によっても、差し支えないこと。
また、本項による説明は、短時間・有期雇用労働者が、事業主が講ずる雇用管理の改善等の措置の内容を理解することができるよう、資料を活用し、口頭により行うことが基本であること。ただし、説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合には、当該資料を交付する等の方法でも差し支えないこと。
資料を活用し、口頭により行う場合において、活用する資料としては、就業規則、賃金規程、通常の労働者の待遇の内容のみを記載した資料が考えられること。また、事業主が講ずる雇用管理の改善等の措置を短時間・有期雇用労働者が的確に理解することができるようにするという観点から、説明に活用した資料を短時間・有期雇用労働者に交付することが可能な場合には、当該資料を交付することは望ましい措置といえること。
説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合において、当該資料には、待遇の内容の説明に関しては、就業規則の条項を記載し、その詳細は、別途就業規則を閲覧させるという方法も考えられること。ただし、事業主は、就業規則を閲覧する者からの質問に、誠実に対応する必要があること。
有期雇用労働者については、労働契約の更新をもって「雇い入れ」ることとなるため、その都度本項による説明が必要となるものであること。
(4) 本条第1項の説明内容としては、法に基づき事業主が実施している各種制度等について説明することが考えられること。法第8条については、雇い入れる短時間・有期雇用労働者の待遇について、通常の労働者の待遇との間で不合理な相違を設けていない旨を説明すること。法第9条については、雇い入れる短時間・有期雇用労働者が通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者の要件に該当する場合、通常の労働者との差別的な取扱いをしない旨を説明すること。法第10条については、職務の内容、職務の成果等のうちどの要素を勘案した賃金制度となっているかを説明すること。法第11条については、短時間・有期雇用労働者に対してどのような教育訓練が実施されるかを説明すること。法第12条については、短時間・有期雇用労働者がどのような福利厚生施設を利用できるかを説明すること。法第13条については、どのような通常の労働者への転換推進措置を実施しているかを説明すること。
なお、本項による説明は、同項による説明義務に係る各条項の規定により求められている措置の範囲内で足りるものであること。このため、法第11条及び第12条に関し、通常の労働者についても実施していない又は利用させていない場合には講ずべき措置がないことから、本項により説明する内容は「ない」旨を説明しなくとも同項に違反するものではないこと。
(5) 法第14条第2項は、事業主は、雇い入れた後、その雇用する短時間・有期雇用労働者から求めがあったときは、当該短時間・有期雇用労働者と通常の労働者との間の待遇の相違の内容及び理由並びに法第6条から第13条までの規定により措置を講ずべきこととされている事項に関する決定をするに当たって考慮した事項について、当該短時間・有期雇用労働者に説明しなければならないことを定めたものであること。
なお、本項により事業主に説明義務が課されている事項には、法第6条第2項、第7条、第10条及び第11条第2項の規定により努力義務が課されているものも当然に含むものであること。
(6) 法第14条第2項の説明内容のうち、待遇の相違の内容及び理由に関する説明をする際に比較の対象となる通常の労働者は、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等が、短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等に最も近いと事業主が判断する通常の労働者であること(短時間・有期雇用労働指針第3の2(1))。
「職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲等に最も近い」通常の労働者を選定するに当たっては、
・「職務の内容」並びに「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同一である通常の労働者
・「職務の内容」は同一であるが、「職務の内容及び配置の変更の範囲」は同一でない通常の労働者
・「職務の内容」のうち、「業務の内容」又は「責任の程度」が同一である通常の労働者
・「職務の内容及び配置の変更の範囲」が同一である通常の労働者
・「職務の内容」、「職務の内容及び配置の変更の範囲」のいずれも同一でない通常の労働者の順に「近い」と判断することを基本とするものであること。その上で、同じ区分に複数の労働者が該当する場合には、事業主が更に絞り込むことが考えられるが、その場合には、
・基本給の決定等において重要な要素(職能給であれば能力・経験、成果給であれば成果など)における実態
・説明を求めた短時間・有期雇用労働者と同一の事業所に雇用されるかどうか
等の観点から判断することが考えられること。いずれの観点から絞り込むかは事業主の判断であるが、その選択した観点において、短時間・有期雇用労働者と最も近いと考える者を選定するものであること。
また、「通常の労働者」に関しては、例えば、
・一人の通常の労働者
・複数人の通常の労働者又は雇用管理区分
・過去1年以内に雇用していた一人又は複数人の通常の労働者
・通常の労働者の標準的なモデル(新入社員、勤続3年目の一般職など)
を比較対象として選定することが考えられること。
また、事業主は、待遇の相違の内容及び理由の説明に当たり、比較対象として選定した通常の労働者及びその選定の理由についても、説明を求めた短時間・有期雇用労働者に説明する必要があること。
なお、個人情報の保護の観点から、事業主は、説明を受けた短時間・有期雇用労働者において、比較対象となった通常の労働者が特定できることにならないように配慮する必要があること。
(7) 待遇の相違の内容の説明については、通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間の待遇に関する基準の相違の有無を説明するほか、通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の待遇の個別具体的な内容又は待遇に関する基準を説明すること(短時間・有期雇用労働指針第3の2(2))。
「待遇の個別具体的な内容」は、比較の対象となる通常の労働者の選び方に応じ、
・比較対象として選定した通常の労働者が一人である場合には、例えば、賃金であれば、その金額
・比較対象として選定した通常の労働者が複数人である場合には、例えば、賃金などの数量的な待遇については平均額又は上限・下限、教育訓練などの数量的でない待遇については標準的な内容又は最も高い水準・最も低い水準の内容
を説明すること。
「待遇に関する基準」を説明する場合、例えば賃金であれば、賃金規程や等級表等の支給基準の説明をすること。ただし、説明を求めた短時間・有期雇用労働者が、比較の対象となる通常の労働者の待遇の水準を把握できるものである必要があること。すなわち、「賃金は、各人の能力、経験等を考慮して総合的に決定する」等の説明では十分ではないこと。
待遇の相違の理由の説明については通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者の職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情のうち、待遇の性質及び待遇を行う目的に照らして適切と認められるものに基づき説明する必要があること(短時間・有期雇用労働指針第3の2(3))。具体的には、
・通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で待遇に関する基準が同一である場合には、同一の基準のもとで違いが生じている理由(成果、能力、経験の違いなど)
・通常の労働者と短時間・有期雇用労働者との間で待遇に関する基準が異なる場合には、待遇の性質・目的を踏まえ、待遇に関する基準に違いを設けている理由(職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲の違い、労使交渉の経緯など)、及びそれぞれの基準を通常の労働者及び短時間・有期雇用労働者にどのように適用しているか
を説明すること。
また、待遇の相違の理由として複数の要因がある場合には、それぞれの要因について説明する必要があること。
(8) 法第14条第2項の説明内容のうち、通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由以外の事項に関しては、法各条の観点から、事業主が実施している各種制度等がなぜそのような制度であるのか、又は事業主が実施している各種制度等について説明を求めた短時間・有期雇用労働者にどのような理由で適用され若しくは適用されていないかを説明すること。法第10条については、職務の内容、職務の成果等のうちどの要素を勘案しているか、なぜその要素を勘案しているか、また、当該説明を求めた短時間・有期雇用労働者について当該要素をどのように勘案しているかを説明すること。
なお、本項による説明は、同項による説明義務に係る各条項の規定により求められている措置の範囲内で足りるものであるが、法第11条及び第12条に関し、通常の労働者についても実施していない又は利用させていない場合には、講ずべき措置がないためであることを説明する必要があること。
(9) 法第14条第2項に基づく説明は、短時間・有期雇用労働者がその内容を理解することができるよう、資料を活用し、口頭により行うことが基本であること。ただし、説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合には、当該資料を交付する等の方法でも差し支えないこと(短時間・有期雇用労働指針第3の2(4))。
資料を活用し、口頭により行う場合において、活用する資料としては、就業規則、賃金規程、通常の労働者の待遇の内容のみを記載した資料が考えられること。なお、説明の際に、活用した資料を併せて交付することは、事業主が講ずる雇用管理の改善等の措置を短時間・有期雇用労働者が的確に理解することができるようにするという観点から、望ましい措置といえること。
説明すべき事項を全て記載した短時間・有期雇用労働者が容易に理解できる内容の資料を用いる場合において、当該資料には、待遇の相違の内容の説明に関しては、就業規則の条項を記載し、その詳細は、別途就業規則を閲覧させるという方法も考えられること。ただし、事業主は、就業規則を閲覧する者からの質問に、誠実に対応する必要があること。
(10) 本条の規定による説明により短時間・有期雇用労働者が納得することについては、本条の義務の履行とは関係がないものであること。
(11) 法第14条第3項は、事業主は、短時間・有期雇用労働者が同条第2項の求めをしたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇その他不利益な取扱いをしてはならないことを定めたものであること。
さらに、法第16条に基づく相談のための体制の整備を適切に実施すること等により、短時間・有期雇用労働者が不利益な取扱いを受けることへの危惧を持つことなく説明を求めることができるような職場環境としていくことが望まれること。
なお、説明を求めた短時間・有期雇用労働者に対して事業主が法第14条第2項により求められる範囲の説明を行ったにもかかわらず、繰り返し説明を求めてくるような場合に、職務に戻るよう命じ、それに従わない場合に当該不就労部分について就業規則に従い賃金カットを行うようなこと等まで、不利益な取扱いとして禁止する趣旨ではないこと。
(12) 「理由として」とは、短時間・有期雇用労働者が待遇の相違の内容及び理由並びに法第6条から第13条までの措置に関する決定をするに当たって考慮した事項の説明を求めたことについて、事業主が当該短時間・有期雇用労働者に対して不利益な取扱いを行うことと因果関係があることをいうものであること。
「不利益な取扱い」とは、解雇、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、労働契約の更新拒否等がこれに当たるものであること。なお、配置転換等が不利益な取扱いに該当するかについては、給与その他の労働条件、職務内容、職制上の地位、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について、旧勤務と新勤務とを総合的に比較考慮の上、判断すべきものであること。
11 指針(法第15条関係)
(1) 法第15条第1項は、法第6条から第14条までに定める措置その他の法第3条第1項の事業主が講ずべき雇用管理の改善等に関する措置に関し、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針を定めることとしているものであること。
指針の策定については法第5条第3項から第5項までの規定が、指針の変更については法第5条第4項及び第5項の規定が準用されること。したがって、指針は短時間・有期雇用労働者の労働条件、意識及び就業の実態等を考慮して定めなければならず、指針の策定及び変更に当たっては、あらかじめ、労働政策審議会の意見を聴かなければならないこと。
法第15条第1項に基づき、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインが定められていること(ガイドラインについては第3の3(9)を参照)。
(2) 短時間・有期雇用労働指針第1は、短時間・有期雇用労働指針と法の関係を明らかにしようとするものであり、短時間・有期雇用労働指針が法第3条第1項の事業主が講ずべき雇用管理の改善等に関する措置等(法第8条及び第9条に定める措置を除く。)に関し、その適切かつ有効な実施を図るために法第6条から第14条までに定めるもののほかに必要な事項を定めたものであることを明らかにしたものであること。
(3) 短時間・有期雇用労働指針第2は、事業主が講ずべき短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに当たっての基本的考え方を明らかにしたものであること。
イ 短時間・有期雇用労働指針第2の1は、短時間・有期雇用労働者にも労働基準法、最低賃金法(昭和34年法律第137号)、労働安全衛生法(昭和47年法律第57号)、労働契約法、雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律(昭和47年法律第113号。以下「男女雇用機会均等法」という。)、育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律(平成3年法律第76号。以下「育児・介護休業法」という。)、労働者災害補償保険法(昭和22年法律第50号)、雇用保険法等の労働に関する法令が適用され、事業主がこれを遵守しなければならないものであることを確認的に明記したものであること。
ロ 短時間・有期雇用労働指針第2の2は、事業主は法の規定に従い、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずる必要があることを確認的に明記するとともに、事業主は、短時間・有期雇用労働者の多様な就業実態を踏まえ、その職務の内容、職務の成果、意欲、能力及び経験その他の就業の実態に関する事項に応じ、待遇に係る措置を講ずるよう努めるものとしたものであること。
本規定は、全ての短時間・有期雇用労働者に及ぶ基本的考え方を述べたものであり、事業主は、法、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインにおいて具体的に規定されていない場合においても、この考え方に基づき措置を講ずべきであること。
ハ 短時間・有期雇用労働指針第2の3は、法に基づく短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに際して、その雇用する通常の労働者その他の労働者の労働条件を合理的な理由なく一方的に不利益に変更することは法的に許されないものであることを確認的に明記したものであること。「その他の労働者」には、短時間・有期雇用労働者をはじめ、当該事業主に雇用される全ての労働者が含まれるものであること。
(4) (3)イにおける労働に関する法令の主な内容は、以下のとおりであること。
イ 労働条件の明示
労働基準法第15条第1項の規定に基づき、事業主は、短時間・有期雇用労働者に係る労働契約の締結に際し、当該短時間・有期雇用労働者に対して、同項に規定する厚生労働省令で定めるところにより、次に掲げる労働条件に関する事項を明示する義務があること。これらのほか、定めを置いた場合には、明示しなければならない事項があること。
(イ) 労働契約の期間
(ロ) 期間の定めのある労働契約を更新する場合の基準
(ハ) 就業の場所及び従事すべき業務
(ニ) 始業及び終業の時刻、所定労働時間を超える労働の有無、休憩時間、休日、休暇並びに労働者を2組以上に分けて就業させる場合における就業時転換
(ホ) 賃金(退職手当、臨時に支払われる賃金、賞与、1か月を超える期間の出勤成績によって支給される精勤手当、1か月を超える一定期間の継続勤務に対して支給される勤続手当及び1か月を超える期間にわたる事由によって算定される奨励加給又は能率手当を除く。以下この(ホ)において同じ。)の決定、計算及び支払の方法並びに賃金の締切り及び支払の時期、昇給に関する事項
(ヘ) 退職(解雇の事由を含む。)
ロ 就業規則の整備
短時間・有期雇用労働者を含め常時10人以上の労働者を使用する事業主は、労働基準法第89条の定めるところにより、短時間・有期雇用労働者に適用される就業規則を作成する義務があること。
ハ 年次有給休暇
事業主は、短時間・有期雇用労働者に対しても、労働基準法第39条の定めるところにより、別表に定める日数の年次有給休暇を付与する義務があること。
なお、年次有給休暇の付与に係る「継続勤務」の要件に該当するか否かについては、勤務の実態に即して判断すべきものであるので、期間の定めのある労働契約を反復して短時間・有期雇用労働者を使用する場合、各々の労働契約期間の終期と始期の間に短時日の間隔を置いているとしても、必ずしも当然に継続勤務が中断されるものではないことに留意すること。
また、整備法による改正後の労働基準法では、第39条第7項に使用者による時季指定義務が新たに規定されたところであるが、当該義務の対象となる「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」は、基準日に付与される年次有給休暇の日数が10労働日以上である労働者を規定したものであり、同条第3項の比例付与の対象となる労働者であって、今年度の基準日に付与される年次有給休暇の日数が10労働日未満であるものについては、仮に、前年度繰越分の年次有給休休暇も合算すれば10労働日以上となったとしても、「有給休暇の日数が十労働日以上である労働者」には含まれないこと。
ニ 期間の定めのある労働契約
使用者は、有期雇用労働者については、労働基準法第14条第2項の規定に基づき定められた有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準(平成15年厚生労働省告示第357号)の定めるところにより、次に掲げる措置を講ずる必要があること。
(イ) 雇止めの予告
使用者は、有期労働契約(当該契約を3回以上更新し、又は雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している有期雇用労働者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。(ロ)の②において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の30日前までに、その予告をしなければならない。
(ロ) 雇止めの理由の明示
① (イ)の場合において、使用者は、有期雇用労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
② 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、有期雇用労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
(ハ) 契約期間についての配慮
使用者は、有期労働契約(当該契約を1回以上更新し、かつ、雇入れの日から起算して1年を超えて継続勤務している有期雇用労働者に係るものに限る。)を更新しようとする場合においては、当該契約の実態及び当該有期雇用労働者の希望に応じて、契約期間をできる限り長くするよう努めなければならない。
ホ 解雇の予告
(イ) 事業主は、短時間・有期雇用労働者を解雇しようとする場合においては、労働基準法の定めるところにより、少なくとも30日前にその予告をする義務があること。30日前に予告をしない事業主は、30日分以上の平均賃金を支払う義務があること。
(ロ) (イ)の予告の日数は、1日について平均賃金を支払った場合においては、その日数を短縮することができること。
へ 退職時等の証明
事業主は、短時間・有期雇用労働者が、①退職の場合において、使用期間、業務の種類、その事業における地位、賃金又は退職の事由(退職の事由が解雇の場合にあっては、その理由を含む。)について証明書を請求した場合、②解雇の予告がされた日から退職の日までの間において、当該解雇の理由について証明書を請求した場合においては、労働基準法第22条の定めるところにより、遅滞なくこれを交付する義務があること。
ト 健康診断
事業主は、健康診断については、短時間・有期雇用労働者に対し、労働安全衛生法第66条に基づき、次に掲げる健康診断を実施する必要があること。
(イ) 常時使用する短時間・有期雇用労働者に対し、雇入れの際に行う健康診断及び1年以内ごとに1回、定期に行う健康診断
(ロ) 深夜業を含む業務等に常時従事する短時間・有期雇用労働者に対し、当該業務への配置替えの際に行う健康診断及び6か月以内ごとに1回、定期に行う健康診断
(ハ)一定の有害な業務に常時従事する短時間・有期雇用労働者に対し、雇入れ又は当該業務に配置替えの際及びその後定期に行う特別の項目についての健康診断
(ニ) その他必要な健康診断
この場合において、事業主が同法の一般健康診断を行うべき「常時使用する短時間・有期雇用労働者」とは、次の①及び②のいずれの要件も満たす者であること。
① 無期雇用労働者(有期雇用労働者であって、当該契約の契約期間が1年(労働安全衛生規則(昭和47年労働省令第32号)第45条において引用する同規則第13条第1項第3号に掲げる業務に従事する有期雇用労働者にあっては6か月。以下この①において同じ。)以上である者並びに契約更新により1年以上使用されることが予定されている者及び1年以上引き続き使用されている者を含む。)であること。
➁ その者の1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3以上であること。
なお、1週間の労働時間数が当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数の4分の3未満である短時間労働者であっても上記の①の要件に該当し、1週間の労働時間数が、当該事業場において同種の業務に従事する通常の労働者の1週間の所定労働時間数のおおむね2分の1以上である者に対しても一般健康診断を実施することが望ましいこと。
①の括弧書中の「引き続き使用」の意義については、上記ハのなお書の趣旨に留意すること。
チ 有期労働契約の期間の定めのない労働契約への転換
同一の使用者との間で締結された2以上の有期労働契約が、更新等により通算5年を超えることとなった場合には、有期雇用労働者は、期間の定めのない労働契約(無期労働契約)への転換を申込みできること。
リ 妊娠中及び出産後における措置
事業主は、妊娠中及び出産後1年以内の短時間・有期雇用労働者に対し、労働基準法及び男女雇用機会均等法の定めるところにより、次に掲げる措置を講ずる必要があること。
(イ) 産前及び産後の休業の措置
(ロ) 健康診査等を受けるために必要な時間の確保及び健康診査等に基づく医師等の指導事項を守ることができるようにするために必要な措置
(ハ) その他必要な措置
なお、(ハ)の措置としては、労働基準法第64条の3に定める危険有害業務の就業制限、同法第65条第3項に定める軽易業務転換、同法第66条に定める時間外労働、休日労働及び深夜業の禁止並びに変形労働時間制の適用制限、同法第67条に基づく育児時間等があること。
ヌ 育児休業及び介護休業に関する制度等
事業主は、短時間・有期雇用労働者について、育児・介護休業法の定めるところにより、次に掲げる措置を講ずる必要があること。
(イ) 育児休業、出生時育児休業又は介護休業に関する制度
(ロ) 子の看護休暇に関する制度
(ハ) 介護休暇に関する制度
(ニ) 所定外労働の制限に関する制度
(ホ) 時間外労働の制限又は深夜業の制限に関する制度
(へ) 雇用環境の整備並びに個別の周知及び意向確認の措置
(ト) ①育児のための所定労働時間の短縮措置又は➁介護のための所定労働時間の短縮等
なお、次の点に留意すること。
① 育児・介護休業法第6条第1項及び第2項、第9条の3第2項、第12条第2項、第16条の8第1項並びに第23条第1項の規定により、雇用期間が1年に満たない労働者等であって労使協定で育児休業、出生時育児休業及び介護休業をすることができないものとして定められたものについては、(イ)、(ニ)及び(ト)の措置の対象とはならないこと。
また、育児・介護休業法第16条の3第2項及び第16条の6第
2項の規定により、雇用期間が6か月に満たない労働者等であって労使協定で子の看護休暇及び介護休暇を取得することができないものとして定められたものについては、(ロ)及び(ハ)の措置の対象とはならないこと。
② 育児・介護休業法第5条第1項、第9条の2第1項及び第11条第1項の期間を定めて雇用される者について、「子の養育又は家族の介護を行い、又は行うこととなる労働者の職業生活と家庭生活との両立が図られるようにするために事業主が講ずべき措置に関する指針」(平成21年厚生労働省告示第509号。以下「育介指針」という。)第2の1(1) において、労働契約の形式上期間を定めて雇用されている者であっても、当該契約が期間の定めのない契約と実質的に異ならない状態となっている場合には、実質的に期間の定めのない契約に基づき雇用される労働者であるとして育児休業、出生時育児休業及び介護休業の対象となるものであるが、その判断に当たっては、育介指針第2の1(1) の事項に留意することとされていること。
③ 育児・介護休業法第5条第1項の規定により、期間を定めて雇用される者のうち育児休業をすることができるものは、その養育する子が1歳6か月に達する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでない労働者とされているところであるが、期間を定めて雇用される者が育児・介護休業法第5条第1項ただし書に定める要件を満たす労働者か否かの判断に当たっては、育介指針第2の1(2) の事項に留意することとされていること。
④ 育児・介護休業法第9条の2第1項の規定により、期間を定めて雇用される者のうち出生時育児休業をすることができるものは、その養育する子の出生の日(出産予定日前に当該子が出生した場合にあっては、当該出産予定日)から起算して8週間を経過する日の翌日から6か月を経過する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでない労働者とされているところであるが、期間を定めて雇用される者が育児・介護休業法第9条の2第1項ただし書に定める要件を満たす労働者か否かの判断に当たっては、育介指針第2の1(2) の事項に留意することとされていること。
⑤ 育児・介護休業法第11条第1項の規定により、期間を定めて雇用される者のうち介護休業をすることができるものは、介護休業開始予定日から起算して93日を経過する日から6か月を経過する日までに、その労働契約の期間が満了することが明らかでない労働者とされているところであるが、期間を定めて雇用される者が育児・介護休業法第11条第1項ただし書に定める要件を満たす労働者か否かの判断に当たっては、育介指針第2の1(2)の事項に留意することとされていること。
⑥ 育児・介護休業法第23条及び育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律施行規則(平成3年労働省令第25号)第72条の規定並びに平成28年8月2日付け職発0802第1号、雇児発0802第3号「育児休業、介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律の施行について」の記の第9の9及び12において、所定労働時間が1日6時間以下の労働者等については、(ト)の①の措置の対象とはならないものであり、また、(ト)の②の措置等を講ずる必要は基本的にはないものとされていること。
⑦ 育児・介護休業法第17条第1項及び第19条第1項の規定において、雇用期間が1年に満たない労働者等については、(ホ)の措置の対象とはならないものとされていること。
ル 雇用保険の適用
事業主は、一定の要件を満たす短時間・有期雇用労働者は雇用保険の被保険者となるが、雇用保険の被保険者に該当する者であるにもかかわらず適用手続をとっていない短時間・有期雇用労働者については、雇用保険法に基づき必要な手続をとらねばならないものであること。
ヲ 高年齢者の短時間労働の促進
少子高齢化社会において、経済社会の活力を維持し発展させていくためには、高年齢者の高い就業意欲を活かし、その能力を有効に発揮させていくことが必要であり、今後特に高年齢者の雇用対策は重要となる。これらの者については、健康、体力等の状況によって個人差が大きくなり、就業ニーズも多様化し、短時間労働を希望する者も増大するので、これに対応して、事業主は、高年齢者等の雇用の安定等に関する法律の趣旨にしたがい、短時間労働を希望する高年齢者に対して適切な雇用機会を提供するよう努める必要があること。
(5) 短時間・有期雇用労働指針第3は、短時間・有期雇用労働指針第2の基本的考え方に立って、次の点について適切な措置を講ずべきとしたものであること。
イ 労働時間(短時間・有期雇用労働指針第3の1関係)
短時間労働者の多くは、家庭生活との両立等のため、短時間かつ自己の都合に合う一定の就業時間帯を前提として勤務している者であり、事業主は、このような短時間労働者の事情を十分考慮して労働時間・労働日を設定するように努め、できるだけ所定労働時間外又は所定労働日外に労働させないように努めるものとしたものであること。
ロ 待遇の相違の内容及び理由の説明(短時間・有期雇用労働指針第3の2関係)
法第14条第2項に規定する措置に関し、その具体的な内容や方法について、短時間・有期雇用労働指針において規定を設けたものであること。その内容は、第3の10(6)から(9)までのとおりであること。
ハ 労使の話合いの促進(短時間・有期雇用労働指針第3の3関係)
企業内における労使の自主的な取組を促進する観点から、労使の話合いの促進のための措置の実施に係る規定を設けたものであること。
(イ) 待遇についての説明(短時間・有期雇用労働指針第3の3(1)関係)
事業主は、法第14条第2項に定めるもののほか、短時間・有期雇用労働者を雇い入れた後、当該短時間・有期雇用労働者から本人の待遇について説明を求められたときには、当該短時間・有期雇用労働者の待遇に係るその他の事項についても、誠意をもって説明するように努めるものとしたものであること。例えば、同条第1項の説明を再度求められた場合などが考えられること。
また、法第14条第3項の不利益取扱いの禁止は、同条第2項の説明を求めた場合を対象とするものであるが、その他の場合についても、短時間・有期雇用労働者が待遇についての説明を求めたことを理由として、当該短時間・有期雇用労働者に対して不利益な取扱いをしてはならないことは当然のことであること。
(ロ) 意見を聴く機会を設けるための適当な方法の工夫(短時間・有期雇用労働指針第3の3(2)関係)
事業主は、短時間・有期雇用労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮して雇用管理の改善等に関する措置等を講ずるに当たっては、当該事業所における関係労使の十分な話合いの機会を提供する等短時間・有期雇用労働者の意見を聴く機会を設けるための適当な方法を工夫するように努めるものとしたものであること。
「関係労使」とは、集団的労使関係に限定されるものではないこと。
また、「意見を聴く機会を設けるための適当な方法」は事業主の事情に応じ、各事業主において工夫されるべきものであるが、例として、職場での労使協議、職場懇談会、意見聴取、アンケート等が挙げられること。
(ハ) 苦情の自主的な解決(短時間・有期雇用労働指針第3の3(3)関係)
事業主は、法第22条に定めるもののほか、短時間・有期雇用労働者の就業の実態、通常の労働者との均衡等を考慮した待遇に係るその他の事項についても、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、当該事業所における苦情処理の仕組みを活用する等その自主的な解決を図るように努めるものとしたものであること。
「苦情処理の仕組みを活用する等」とは、事業所内の苦情処理制度や法第16条に基づく相談のための体制の活用のほか、短時間・有期雇用管理者が選任されている事業所においては、これを活用すること等が考えられること。
このような苦情処理の仕組み等について、特定事項として文書の交付等により明示することとされている相談窓口以外のものについても、短時間・有期雇用労働者に対し、周知を図ることが望まれること。
ニ 不利益取扱いの禁止(短時間・有期雇用労働指針第3の4関係)
(イ) 短時間・有期雇用労働指針第3の4(1) は、事業主は、短時間・有期雇用労働者が法第7条第1項(同条第2項において準用する場合を含む。)に定める過半数代表者であること若しくは過半数代表者になろうとしていたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたことを理由として不利益な取扱いをしてはならないことを明記したものであること。
「理由として」とは、短時間・有期雇用労働者が「過半数代表であること若しくは過半数代表者になろうとしていたこと又は過半数代表者として正当な行為をしたこと」について、事業主が当該短時間・有期雇用労働者に対して不利益な取扱いを行うことと因果関係があることをいうものであること。
「不利益な取扱い」とは、解雇、配置転換、降格、減給、昇給停止、出勤停止、労働契約の更新拒否等がこれに当たるものであること。なお、配置転換等が不利益な取扱いに該当するかについては、給与その他の労働条件、職務内容、職制上の地位、通勤事情、当人の将来に及ぼす影響等諸般の事情について、旧勤務と新勤務とを総合的に比較考慮の上、判断すべきものであること。
(ロ) 短時間・有期雇用労働指針第3の4(2) は、法第14条第2項の説明を求めることにより、事業主から不利益な取扱いを受けることをおそれて、短時間・有期雇用労働者が本項に基づき説明を求めないことがないようにすることを明記したものであること。具体的には、説明を求めることにより、不利益な取扱いを受けると想起されかねないような言動及び行動をすべきでないこと。
また、法第16条に基づく相談対応のための体制の整備を適切に実施すること等により、短時間労働者が不利益な取扱いを受けることへの危惧を持つことなく説明を求めることができるような職場環境としていくことが望まれること。
(ハ) 短時間・有期雇用労働指針第3の4(3) は、事業主は、短時間・有期雇用労働者が親族の葬儀等のために勤務しなかったことを理由として解雇等が行われることは適当でないことを明記したものであること。
「親族の葬儀等」とは、親族の死に際して行われる葬儀等の行事をいい、「親族」及び「葬儀等」の範囲や「勤務しなかった」日数等については、社会通念上勤務しないことが許容される範囲のものが該当するものと考えられること。
「理由として」とは、短時間・有期雇用労働者が「親族の葬儀等のために勤務しなかったこと」について、事業主が当該短時間・有期雇用労働者に対して解雇等を行うことと因果関係があることをいうものであること。
また、「解雇等」には、労働契約の更新拒否等が含まれるとともに、「親族の葬儀等のために勤務しなかったこと」を理由として直接的に解雇等を行う場合のみならず、出勤率、欠勤日数等を解雇等の判断基準として採用している場合に、当該勤務しなかった日を当該出勤率、欠勤日数等の算定に当たって計算に含めて、解雇等を行うことも含まれるものであること。
ホ 短時間・有期雇用管理者の氏名の周知(短時間・有期雇用労働指針第3の5関係)
事業主は、短時間・有期雇用管理者を選任したときは、その氏名を事業所の見やすい場所に掲示する等により、その雇用する短時間・有期雇用労働者に周知させるよう努めるものとしたものであること。
なお、短時間・有期雇用管理者の氏名の周知の方法としては、短時間・有期雇用管理者の氏名及び短時間・有期雇用管理者である旨を事業所の見やすい場所に掲示することのほか、例えば、これらの事項を書面に記載し短時間・有期雇用労働者に交付することでも差し支えないものであること。
また、短時間・有期雇用管理者を法第16条に基づく相談体制とし、法第6条第1項の特定事項である相談窓口として文書の交付等により明示する場合においては、同項による文書の交付等による明示の際に、相談窓口となる者が短時間・有期雇用管理者であることを併せて明示することでも差し支えないものであること。
12 相談のための体制の整備(法第16条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者は、就業の実態が多様であり、通常の労働者と待遇が異なる理由が分かりにくく、これが不満につながりやすい。このため、法においては、雇入れ時に雇用管理の改善等の措置の内容について説明しなければならないこととするとともに、短時間・有期雇用労働者から求めがあったときには、通常の労働者との待遇の相違の内容及び理由並びに待遇の決定に当たって考慮した事項を説明しなければならないこととしているところである(第3の10参照)。しかしながら、その待遇に係る疑義等について相談する体制が各事業所において十分に整っていなければ、短時間・有期雇用労働者に対する説明を契機とする不合理な待遇の相違の是正や、説明による納得性の向上の実効性は確保されない。このため、事業主は、雇用管理の改善等に関する事項に関し、その雇用する短時間・有期雇用労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制を整備しなければならないこととしたものであること。
(2) 「必要な体制」の整備とは、短時間・有期雇用労働者からの苦情を含めた相談に応じる窓口等の体制を整備することをいうこと。苦情を含めた相談に応じることができる窓口等であれば、その名称を問うものではなく、また、窓口等は組織であるか、個人であるかを問わないこと。例えば、雇用する労働者の中から相談担当者を決め、相談に対応させること、短時間・有期雇用管理者を選任している事業所において、短時間・有期雇用管理者を相談担当者として定め、短時間・有期雇用労働者からの相談に対応させること、事業主自身が相談担当者となり、相談に対応すること、外部専門機関に委託し、相談対応を行うこと等が考えられること。
なお、本条においては、相談に応じる窓口等を設置すること自体が義務の対象となっていること。しかしながら、上記の相談に応じる窓口等においては、相談に対し、その内容や状況に応じ適切に対応することが求められること。
(3) 相談窓口は、法第6条第1項の特定事項であり、雇入れ時の文書等による明示事項となされていること(則第2条第1項)。また、雇入れ時の文書等による明示のほか、事業所内の短時間・有期雇用労働者が通常目にすることができる場所に設置されている掲示板への掲示等により、短時間・有期雇用労働者に周知することが望まること。
13 短時間・有期雇用管理者(法第17条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者については、通常の労働者と異なる雇用管理が行われていることに加えて、個々の短時間・有期雇用労働者の間でも個別多様に労働条件が設定されることが多く、多くの短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主は自らが全ての短時間・有期雇用労働者についてきめ細かな管理を行うことは困難な面が多い。そこで、事業所における短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るための体制を整備するために、事業主は、短時間・有期雇用労働者を常時厚生労働省令で定める数(則第6条により10人と定められている。)以上雇用する事業所ごとに、短時間・有期雇用管理者を選任するように努めるものとしたものであること。
(2) 則第7条においては、短時間・有期雇用管理者は、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインに定める事項その他の短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項を管理させるために必要な知識及び経験を有していると認められる者のうちから事業主が選任することとされていること。この「必要な知識及び経験を有していると認められる者」とは、短時間・有期雇用管理者の職務を遂行するに足る能力を有する者をいい、事業所の人事労務管理について権限を有する者が望ましいものであること。
(3) 短時間・有期雇用管理者が担当すべき業務としては次のものが含まれること。
イ 法に定める事項は言うまでもなく、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインに定める事項その他の短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項について、事業主の指示に従い必要な措置を検討し、実施するとともに、必要に応じ、関係行政機関との連絡を行うこと。
ロ 短時間・有期雇用労働者の労働条件、就業環境に係る事項等に関し、短時間・有期雇用労働者の相談に応ずること。
14 報告の徴収並びに助言、指導及び勧告等(法第18条関係)
(1) 報告の徴収並びに助言、指導及び勧告(法第18条第1項関係)
イ法第18条第1項は、本法の目的を達成するため、厚生労働大臣又は都道府県労働局長は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るために必要があると認めるときは、事業主に対し、報告を求め、又は助言、指導若しくは勧告を行うことができることとしたものであること。
ロ 本項の厚生労働大臣等の権限は、労働者からの申立て、第三者からの情報、職権等その端緒を問わず、必要に応じて行使し得るものであること。
ハ 「短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等を図るため必要があると認めるとき」とは、法、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインによって事業主が講ずべき措置について、事業主の実施状況を確認するときや、その措置が十分に講じられていないと考えられる場合において、その措置を講ずることが雇用管理の改善等を図るため必要であると認められるとき等をいうものであること。
なお、法第8条については、職務の内容、職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情の違いではなく、短時間・有期雇用労働者であることを理由とする不支給など、同条に違反することが明確な場合を除き、法第18条第1項に基づく助言、指導及び勧告の対象としないものであること。
ニ 報告の徴収並びに助言、指導及び勧告は、おおむね(イ)から(ニ)までのとおり実施するものであること。
(イ) 報告の徴収
報告の徴収は、法第18条第1項の助言、指導、勧告のために行う事実の調査として、文書の提出の要請、出頭を求めての事情聴取、事業所への現地実情調査等を行うことのほか、法の施行に関し必要な事項につき事業主から報告を求めることをいうものであること。
(ロ) 助言
法、短時間・有期雇用労働指針及びガイドラインの規定に違反する状況を解消するために、事業主に対して口頭又は文書により行うものであること。
(ハ) 指導
助言の対象となった事案のうち是正のためには強い要請が必要であると認められるものについて、事業主に対して文書の手交又は郵送の方法により行うものであること。
(ニ) 勧告
指導の対象となった事案のうち是正のためには更に強い要請が特に必要であると認められるものについて、事業主に対して文書の手交又は郵送の方法により行うものであること。
また、勧告を行う場合であって、事業主が当該勧告に係る必要な是正措置を講じるまでに一定の期間を要すると認められるときは、必要に応じて、当該事業主に対し、当該勧告において是正措置の実施に至るまでのスケジュール等を明記した措置計画の作成を求めるものであること。
なお、(ハ)の「是正のためには強い要請が必要であると認められるもの」とは、具体的には助言を行っても事業主に是正措置を講ずる意向が確認できないものを、また(ニ)の「是正のためには更に強い要請が特に必要であると認められるもの」とは、指導を行っても事業主に是正措置を講ずる意向が確認できないものをいうこと。
(2) 公表(法第18条第2項関係)
短時間・有期雇用労働者について、通常の労働者との均衡のとれた待遇の確保等を図り、当該短時間・有期雇用労働者がその有する能力を有効に発揮することができるようにするための措置を推進するためには、通常の労働者と同視すべき短時間・有期雇用労働者に対する差別的取扱いを禁止する等、事業主に一定の措置を義務付けるとともに、法違反の速やかな是正を求める行政指導の効果を高め、法の実効性を確保することが必要である。
このような観点から、厚生労働大臣は、法第6条第1項、第9条、第11条第1項、第12条から第14条まで及び第16条の規定に違反している事業主に対し自ら勧告をした場合において、その勧告を受けた者がこれに従わなかったときは、その旨を公表することができることとしたものであること。
(3) 権限の委任(法第18条第3項関係)
イ 法第18条第3項及び則第8条の規定に基づき、厚生労働大臣の権限の一部を都道府県労働局長に委任することができるものとされているが、委任することができる事案から除かれる「厚生労働大臣が全国的に重要であると認めた事案に係るもの」とは、おおむね以下のいずれかに該当する事案をいうものであること。
(イ) 広範囲な都道府県にまたがり、事案の処理に当たり各方面との調整が必要であると考えられる事案
(ロ) 事案の性質上広範な社会的影響力を持つと考えられる事案
(ハ) 都道府県労働局長が勧告を行っても是正の意向がみられず、悪質かつ重大な事案
なお、(ロ)については、企業の規模、事案に係る短時間・有期雇用労働者の数等を考慮すること。また、(ハ)における「悪質」とは、度重なる説得に応じない等遵法意識の見られない場合を、「重大」とは、事業主の措置により不利益を被る短時間・有期雇用労働者が多数いる場合や社会的影響が大きい場合をいうこと。
ロ 法第18条第2項の規定に基づく厚生労働大臣による公表については、則第8条において、都道府県労働局長に権限の委任がなされていないものであること。
15 事業主等に対する援助(法第19条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の促進その他その福祉の増進を図るためには、事業主に対する短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等の義務付け等の制度とあいまって、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の措置等を図る事業主等に対し、国が必要な援助を行うことが有効であると考えられる。
このため、国は、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の促進その他その福祉の増進を図るため、短時間・有期雇用労働者を雇用する事業主、事業主の団体その他の関係者に対して、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する事項についての相談及び助言その他の必要な援助を行うことができることとしたものであること。
(2) 「その他の関係者」とは、事業主団体のほか、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等の支援を行っている団体を広く指すものであること。
(3) 「その他の必要な援助」としては、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置等についての好事例等の情報提供や助成金の支給などが考えられること。
16 職業訓練の実施等(法第20条関係)
(1) 短時間・有期雇用労働者の中には、主要な仕事、高度な技術・技能が必要な仕事、責任のある仕事をしたいと希望する者がいるにもかかわらず、企業の対応は、教育訓練の実施率が低い等短時間・有期雇用労働者の能力をより有効に活用するための環境整備が十分になされているとはいえない。また、短時間・有期雇用労働者になろうとする者の中には、職業生活を一定期間中断していたこと等により、職業能力の減退、かつて習得した知識、技能の陳腐化等、就業しようとする職業に必要な能力に欠けるために希望する職業に従事できない者もいるところである。
このようなことから、国、都道府県及び独立行政法人高齢・障害・求職者雇用支援機構は、短時間・有期雇用労働者及び短時間・有期雇用労働者になろうとする者がその職業能力の開発及び向上を図ることを促進するため、職業能力の開発及び向上に関する啓発活動を行うように努めるとともに、職業訓練の実施について特別の配慮をすることとしたものであること。
(2) 「特別の配慮」とは、職業能力開発促進センター、都道府県立職業能力開発校における短時間・有期雇用労働者及び短時間・有期雇用労働者になろうとする者等に対する普通職業訓練(短期課程)等の推進をいうものであること。
17 職業紹介の充実等(法第21条関係)
短時間・有期雇用労働者になろうとする者については、職業生活を一定期間中断していた者が多く、職業に関する知識、自らの適性・能力等についての客観的な理解、就労に対する心構えが不十分であることや、労働市場に関する知識・情報が不足している場合があることなどからきめ細かな配慮が必要とされる者が多いことに鑑み、特に、その適性、能力、経験及び技能の程度等にふさわしい職業を選択し、並びに職業に適応することを容易にするため、国は、雇用情報の提供、職業指導及び職業紹介の充実等必要な措置を講ずるように努めることとしたものであること。
第4 紛争の解決(法第4章)
法第4章は、紛争を解決するための仕組みとして第1節において苦情の自主的解決、都道府県労働局長による紛争の解決の援助について、第2節において調停制度について定めたものであること。
1 苦情の自主的解決(法第22条関係)
(1) 企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使間で自主的に解決することが望ましいことから、事業主は、法第6条第1項、第8条、第9条、第11条第1項及び第12条から第14条までに定める事項に関し、短時間・有期雇用労働者から苦情の申出を受けたときは、労使により構成される苦情処理機関に苦情の処理を委ねる等その自主的な解決を図るよう努めなければならないこととしたものであること。
なお、この他の事項に関する苦情についても自主的解決が望ましいことについては、第3の11(5) ハ(ハ)のとおりであること。
(2) 「苦情処理機関」とは、事業主を代表する者及び当該事業所の労働者を代表する者を構成員とする当該事業所の労働者の苦情を処理するための機関等をいうものであること。これは、労働者の苦情については、まずはこのような苦情処理機関における処理に委ねることが最も適切な苦情の解決方法の一つであることから、これを例示したものであること。
(3) 「苦情の処理を委ねる等」の「等」には、法第16条に基づく相談のための体制の活用や短時間・有期雇用管理者が選任されている事業所においてはこれを活用する等労働者の苦情を解決するために有効であると考えられる措置が含まれるものであること。
(4) 苦情処理機関等事業所内における苦情の自主的解決のための仕組みについては、短時間・有期雇用労働者に対し、周知を図るべきものであること。
(5) 法では、短時間・有期雇用労働者と事業主との間の個別紛争の解決を図るため、本条のほか、法第24条第1項において都道府県労働局長による紛争解決の援助を定め、また、法第25条第1項においては紛争調整委員会(以下「委員会」という。)による調停を定めているが、これらはそれぞれ紛争の解決のための独立した手段であり、本条による自主的解決の努力は、都道府県労働局長の紛争解決の援助や委員会による調停の開始の要件とされているものではないこと。しかしながら、企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使で自主的に解決することが望ましいことに鑑み、まず本条に基づき企業内において自主的解決の努力を行うことが求められるものであること。
2 紛争の解決の促進に関する特例(法第23条関係)
(1) 法第6条第1項、第8条、第9条、第11条第1項及び第12条から第14条までに定める事項に係る事業主の一定の措置についての短時間・有期雇用労働者と事業主との間の紛争(以下「短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争」という。)については、個別労働関係紛争の解決の促進に関する法律(平成13年法律第112号。以下「個別労働関係紛争解決促進法」という。)第4条、第5条及び第12条から第19条までの規定は適用せず、法第24条から第27条までの規定によるものとしたものであること。
(2) これは、個別労働関係紛争解決促進法に係る紛争は、解雇等労使間の個別の事情に関わるものが多いことから、あっせん委員が労使の間に入って、その話し合いを促進するあっせんの手法が効果的であるのに対し、短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争は、当該事業所における賃金制度等に由来するものであり、継続的な勤務関係にある中で、不合理な待遇の相違、差別的取扱い等かどうかの認定を行った上で必要な制度の見直し案等の調停案を示し、受諾の勧告を行うことが有効であるという、両者の紛争の性格が異なるためであること。
(3) 「紛争」とは、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する措置に係る事業主の一定の措置に関して労働者と事業主との間で主張が一致せず、対立している状態をいうものであること。
3 紛争の解決の援助(法第24条関係)
(1) 紛争の解決の援助(法第24条第1項)
短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争の迅速かつ円満な解決を図るため、都道府県労働局長は、当該紛争の当事者の双方又は一方からその解決について援助を求められた場合には、当該紛争の当事者に対して、必要な助言、指導又は勧告をすることができることとしたものであること。
イ 「紛争の当事者」とは、現に紛争の状態にある短時間・有期雇用労働者及び事業主をいうものであること。したがって、労働組合等の第三者は関係当事者にはなり得ないものであること。
ロ 「助言、指導又は勧告」は、紛争の解決を図るため、当該紛争の当事者に対して具体的な解決策を提示し、これを自発的に受け入れることを促す手段として定められたものであり、紛争の当事者にこれに従うことを強制するものではないこと。
(2) 紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第24条第2項)
イ 法第24条第1項の紛争の解決の援助により、紛争の当事者間に生じた個別具体的な紛争を円滑に解決することの重要性に鑑みれば、事業主に比べ弱い立場にある短時間・有期雇用労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、短時間・有期雇用労働者が紛争の解決の援助を求めたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。
ロ 「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義については、それぞれ第3の10(12)と同じであること。
4 調停の委任(法第25条関係)
(1) 調停の委任(法第25条第1項)
イ 紛争の当事者(以下「関係当事者」という。)間の紛争について、当事者間の自主的な解決、都道府県労働局長による紛争解決の援助に加え、公正、中立な第三者機関の調停による解決を図るため、短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争について、関係当事者の双方又は一方から調停の申請があった場合において当該紛争の解決のために必要があると認めるときは、都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせるものとすることとしたものであること。
ロ 「関係当事者」とは、現に紛争の状態にある短時間・有期雇用労働者及び事業主をいうものであること。したがって、労働組合等の第三者は関係当事者にはなり得ないものであること。
ハ 「調停」とは、紛争の当事者の間に第三者が関与し、当事者の互譲によって紛争の現実的な解決を図ることを基本とするものであり、行為が法律に抵触するか否か等を判定するものではなく、むしろ行為の結果生じた損害の回復等について現実的な解決策を提示して、当事者の歩み寄りにより当該紛争を解決しようとするものであること。
ニ 次の要件に該当する事案については、「当該紛争の解決のために必要があると認め」られないものとして、原則として、調停に付すことは適当であるとは認められないものであること。
(イ) 申請が、当該紛争に係る事業主の措置が行われた日(継続する措置の場合にあってはその終了した日)から1年を経過した紛争に係るものであるとき
(ロ) 申請に係る紛争が既に司法的救済又は他の行政的救済に係属しているとき(関係当事者双方に、当該手続よりも調停を優先する意向がある場合を除く。)
(ハ) 集団的な労使紛争に関係したものであるとき
ホ 都道府県労働局長が「紛争の解決のために必要がある」か否かを判断するに当たっては、ニに該当しない場合は、法第22条による自主的解決の努力の状況も考慮の上、原則として調停を行う必要があると判断されるものであること。
(2) 調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いの禁止(法第25条第2項)
イ 法第25条第1項の調停により、関係当事者間に生じた個別具体的な紛争を円滑に解決することの重要性に鑑みれば、事業主に比べ弱い立場にある短時間・有期雇用労働者を事業主の不利益取扱いから保護する必要があることから、短時間・有期雇用労働者が調停の申請をしたことを理由とする解雇その他不利益な取扱いを禁止することとしたものであること。
ロ 「理由として」及び「不利益な取扱い」の意義については、それぞれ第3の10(12) と同じであること。
5 調停(法第26条関係)
(1) 調停の手続については、法第26条において準用する男女雇用機会均等法第19条、第20条第1項及び第21条から第26条までの規定並びに則第9条の規定において準用する雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律施行規則(昭和61年労働省令第2号。以下「男女雇用機会均等法施行規則」という。)第3条から第12条までの規定に基づき行われるものであること。
法第22条の苦情の自主的解決の努力は委員会の調停を開始する要件ではないが、企業の雇用管理に関する労働者の苦情や労使間の紛争は、本来労使で自主的に解決することが望ましいことに鑑み、調停を申し立てる前に苦情の自主的解決の努力を行うことが望まれるものであること。
(2) 委員会の会長は、調停委員のうちから、法第25条第1項の規定により委任を受けて同項に規定する紛争についての調停を行うための会議(以下「均衡待遇調停会議」という。)を主任となって主宰する調停委員(以下「主任調停委員」という。)を指名するものであること。また、主任調停委員に事故があるときは、あらかじめその指名する調停委員が、その職務を代理するものとなるものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第3条第1項及び第2項)。
(3) 均衡待遇調停会議は、主任調停委員が招集するものであること。また、均衡待遇調停会議は、調停委員2人以上が出席しなければ、開くことができないものであること。さらに、均衡待遇調停会議は、公開しないものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第4条第1項から第3項まで)。
(4) 均衡待遇調停会議の庶務は、当該都道府県労働局雇用環境・均等部(室)において処理するものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第5条)。
(5) 法第25条第1項の調停の申請をしようとする者は、調停申請書を当該調停に係る紛争の関係当事者である労働者に係る事業所の所在地を管轄する都道府県労働局長に提出しなければならないものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第6条及び別記様式)。
(6) 都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは、遅滞なく、その旨を会長及び主任調停委員に通知するものであること。また、都道府県労働局長は、委員会に調停を行わせることとしたときは関係当事者の双方に対して、調停を行わせないこととしたときは調停を申請した関係当事者に対して、遅滞なく、その旨を書面によって通知するものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第7条第1項及び第2項)。
(7) 調停は、3人の調停委員が行うこととされており、調停委員は、委員会のうちから、会長があらかじめ指名するものとされていること(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第19条第1項及び第2項)。
(8) 委員会は、調停のために必要があると認めるときは、関係当事者又は関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人(以下「関係当事者等」という。)の出頭を求め、その意見を聴くことができるものとされていること(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第20条第1項)。ただし、この「出頭」は強制的な権限に基づくものではなく、相手の同意によるものであること。これらの出頭については、必ず関係当事者等(法人である場合には、委員会が指定する者)により行われることが必要であること。
「その他の参考人」とは、関係当事者である短時間・有期雇用労働者が雇用されている事業所に過去に雇用されていた者、同一の事業所で就業する派遣労働者、関係当事者である短時間・有期雇用労働者と異なる事業所に雇用されている労働者、などを指すものであること。
委員会に「関係当事者と同一の事業所に雇用される労働者その他の参考人」の出頭を求めることができるとしたのは、委員会が通常の労働者との比較が問題となる短時間・有期雇用労働者の均衡待遇等に係る紛争を扱うため、比較対象となる通常の労働者の就業の実態について明らかにすることが必要であり、また、調停案の内容によっては同一の事業主に雇用される他の短時間・有期雇用労働者等に対しても影響を及ぼし得ることから、これらの者を参考人として意見聴取することが必要な場合があるためであること。
(9) 委員会から出頭を求められた関係当事者等は、主任調停委員の許可を得て、補佐人を伴って出頭することができるものであり、補佐人は、主任調停委員の許可を得て陳述を行うことができるものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第1項及び第2項)。「補佐人」は、関係当事者等が陳述を行うことを補佐することができるものであること。なお、補佐人の陳述は、あくまでも関係当事者等の主張や説明を補足するためのものであり、補佐人が自ら主張を行ったり、関係当事者等に代わって意思表示を行ったりすることはできないこと。
(10) 委員会から出頭を求められた関係当事者等は、主任調停委員の許可を得て当該事件について意見を述べることができるほか、他人に代理させることができるものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第3項)。他人に代理させることについて主任調停委員の許可を得ようとする者は、代理人の氏名、住所及び職業を記載した書面に、代理権授与の事実を証明する書面を添付して主任調停委員に提出しなければならないものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条第4項)。
(11) 委員会は、当該事件の事実の調査のために必要があると認めるときは、関係当事者等に対し、当該事件に関係のある文書又は物件の提出を求めることができるものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第9条)。
(12) 委員会は、必要があると認めるときは、調停の手続の一部を特定の調停委員に行わせることができるものであること。「調停の手続の一部」とは、現地調査や、提出された文書等の分析・調査、関係当事者等からの事情聴取等が該当するものであること。この場合において、則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第4条第1項及び第2項の規定は適用せず、則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第8条の規定の適用については、同条中「主任調停委員」とあるのは、「特定の調停委員」とするものであること。また、委員会は、必要があると認めるときは、当該事件の事実の調査を都道府県労働局雇用環境・均等部(室)の職員に委嘱することができるものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第10条第1項及び第2項)。
(13) 委員会は、関係当事者からの申立てに基づき必要があると認めるときは、当該委員会が置かれる都道府県労働局の管轄区域内の主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者から意見を聴くものとすることとされていること(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第21条)。「主要な労働者団体又は事業主団体が指名する関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者」については、主要な労働者団体又は事業主団体に対して、期限を付して関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の氏名を求めるものとするものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第1項)。関係労働者を代表する者又は関係事業主を代表する者の指名は、事案ごとに行うものであること。指名を求めるに際しては、管轄区域内の全ての主要な労働者団体及び事業主団体から指名を求めなければならないものではなく、調停のため必要と認められる範囲で、主要な労働者団体又は事業主団体のうちの一部の団体の指名を求めることで足りるものであること。則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第1項により委員会の求めがあった場合には、当該労働者団体又は事業主団体は、当該事件につき意見を述べる者の氏名及び住所を委員会に通知するものとするものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第11条第2項)。
(14) 委員会は、調停案を作成し、関係当事者に対しその受諾を勧告することができるものであること(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第22条)。調停案の作成は、調停委員の全員一致をもって行うものとするものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第1項)。また、「受諾を勧告する」とは、両関係当事者に調停案の内容を示し、その受諾を勧めるものであり、その受諾を義務付けるものではないこと。委員会は、調停案の受諾を勧告する場合には、関係当事者の双方に対し、受諾すべき期限を定めて行うものとするものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第2項)。
関係当事者は、調停案を受諾したときは、その旨を記載し、氏名又は名称を記載した書面を委員会に提出しなければならないものであること(則第9条において準用する男女雇用機会均等法施行規則第12条第3項)。しかしながら、この「書面」は、関係当事者が調停案を受諾した事実を委員会に対して示すものであって、それのみをもって関係当事者間において民事的効力をもつものではないこと。
(15) 委員会は、調停に係る紛争について調停による解決の見込みがないと認めるときは、調停を打ち切ることができ、その場合、その旨を関係当事者に通知しなければならないものとされていること(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第23条)。「調停による解決の見込みがないと認めるとき」とは、調停により紛争を解決することが期待し難いと認められる場合や調停により紛争を解決することが適当でないと認められる場合がこれに当たるものであり、具体的には、調停開始後長期の時間的経過を見ている場合、当事者の一方が調停に非協力的で再三にわたる要請にもかかわらず出頭しない場合のほか、調停が当該紛争の解決のためでなく労使紛争を有利に導くために利用される場合等が原則としてこれに含まれるものであること。
6 時効の完成猶予(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第24条関係)
本条は、調停が打ち切られた場合に、当該調停の申請をした者が打切りの通知を受けた日から30日以内に調停の目的となった請求について訴えを提起したときは、調停の申請の時に遡り、時効の完成猶予が生じることを明らかにしたものであること。
「調停の申請の時」とは、申請書が現実に都道府県労働局長に提出された日であって、申請書に記載された申請年月日ではないこと。
また、調停の過程において申請人が調停を求める事項の内容を変更又は追加した場合にあっては、当該変更又は追加した時が「申請の時」に該当するものと解されること。
「通知を受けた日から30日以内」とは、民法(明治29年法律第89号)の原則に従い、文書の到達した日の当日は期間の計算に当たり算入されないため、書面による調停打切りの通知が到達した日の翌日から起算して30日以内であること。
「調停の目的となった請求」とは、当該調停手続において調停の対象とされた具体的な請求(地位確認、損害賠償請求等)を指すこと。本条が適用されるためには、これらと訴えに係る請求とが同一性のあるものでなければならないこと。
7 訴訟手続の中止(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第25条関係)
本条は、当事者が調停による紛争解決が適当であると考えた場合であって、調停の対象となる紛争のうち民事上の紛争であるものについて訴訟が係属しているとき、当事者が和解交渉に専念する環境を確保することができるよう、受訴裁判所は、訴訟手続を中止することができることとするものであること。
具体的には、法第25条第1項に規定する紛争のうち民事上の紛争であるものについて関係当事者間に訴訟が係属する場合において、次のいずれかに掲げる事由があり、かつ、関係当事者の共同の申立てがあるときは、受訴裁判所は、4月以内の期間を定めて訴訟手続を中止する旨を決定することができるものであること。
(1) 当該紛争について、関係当事者間において調停が実施されていること。
(2) (1)の場合のほか、関係当事者間に調停によって当該紛争の解決を図る旨の合意があること。
なお、受訴裁判所は、いつでも訴訟手続を中止する旨の決定を取り消すことができるものであること。また、関係当事者の申立てを却下する決定及び訴訟手続を中止する旨の決定を取り消す決定に対しては不服を申し立てることができないものであること。
8 資料提供の要求等(法第26条において準用する男女雇用機会均等法第26条関係)
委員会は、当該委員会に継続している事件の解決のために必要があると認めるときは、関係行政庁に対し、資料の提供その他必要な協力を求めることができるものであること。「関係行政庁」とは、例えば、国の機関の地方支分部局や都道府県等の地方自治体が考えられるものであること。
「その他必要な協力」とは、情報の提供や便宜の供与等をいうものであること。
第5 雑則(法第5章)
1 雇用管理の改善等の研究等(法第28条関係)
短時間・有期雇用労働者の職域の拡大に伴い、基幹的、恒常的な職務や専門的、技術的な職務に従事する短時間・有期雇用労働者も存在するなど、短時間・有期雇用労働者の就業の実態は多様化・複雑化している。このため、厚生労働大臣は、短時間・有期雇用労働者がその能力を有効に発揮できるようにするため、雇用管理の改善等に関する事項について、調査、研究及び資料の整備に努めるものとしたものであること。
具体的には、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に関する好事例を収集・分析することや、短時間・有期雇用労働者の雇用管理の改善等に資する評価制度の導入等を支援すること等が考えられること。
2 過料(法第30条及び第31条関係)
(1) 法第18条第1項の助言、指導及び勧告を適切に行うためには、その前提として、同項の報告の徴収を適切に行う必要がある。このため、法第30条は、法第18条第1項の規定による報告をせず、又は虚偽の報告をした者に対して、20万円以下の過料に処することとしたものであること。
(2) 法第31条は、法第6条第1項の規定による義務の履行を確保するため、同項の規定に違反した事業主に対して10万円以下の過料に処することとしたものであること。
(3) 過料については、非訟事件手続法(平成23年法律第51号)第5編の過料事件の規定により、管轄の地方裁判所において過料の裁判の手続を行うものとなること。都道府県労働局長は、法第30条又は第31条の要件に該当する事実がある場合には、管轄の地方裁判所に対し、当該事実に係る事業主について、法第30条又は第31条に基づき過料に処すべき旨の通知を行うこととなること。
第6 附則
1 施行期日
整備法附則第1条第2号の規定により、施行期日は平成32(2020)年4月1日とされたこと。
中小事業主(その資本金の額又は出資の総額が3億円(小売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については5000万円、卸売業を主たる事業とする事業主については1億円)以下である事業主及びその常時使用する労働者の数が300人(小売業を主たる事業とする事業主については50人、卸売業又はサービス業を主たる事業とする事業主については100人)以下である事業主をいう。以下同じ。)については、平成33(2021)年3月31日までの間、法第2条第1項、第3条、第3章第1節(第15条及び第18条第3項を除く。)及び第4章(第26条及び第27条を除く。)の規定は、適用しないものとしたこと。
この場合において、整備法による改正前の短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第2条第1項、第3条、第3章第1節(第15条及び第18条第3項を除く。)及び第4章(第26条及び第27条を除く。)の規定並びに整備法による改正前の労働契約法第20条の規定は、なおその効力を有するものとしたこと。
2 紛争の解決の促進に関する経過措置について(整備法附則第11条第2項及び第3項関係)
今般、法第8条の規定に関する紛争その他の整備法により法の調停の対象となる紛争であって、中小事業主以外の事業主が当事者であるものについては、平成32(2020)年4月1日より前に個別労働関係紛争解決促進法第5条第1項のあっせんの手続に付されている可能性がある。このため、当該紛争のうち、平成32(2020)年4月1日より前にされた申請に係る紛争であって、同日において現に個別労働関係紛争解決促進法上のあっせんの手続に係属しているものについては、そのまま個別労働関係紛争解決促進法上の手続として処理することとしたものであること。
同様に、整備法により法の調停の対象となる紛争であって、中小事業主が当事者であるもののうち、平成33(2021)年4月1日より前にされた申請に係る紛争であって、同日において現に個別労働関係紛争解決促進法上のあっせんの手続に係属しているものについては、そのまま個別労働関係紛争解決促進法上の手続として処理することとしたものであること。
第7 適用時期及び関係通達の改廃等
1 この通達は、平成32(2020)年4月1日から適用すること。ただし、中小事業主については、平成33(2021)年3月31日までの間、この通達のうち、法第2条第1項、第3条、第3章第1節(第15条及び第18条第3項を除く。)及び第4章(第26条及び第27条を除く。)の規定に関する部分は、適用しないものとすること。
2 第3の11のヌのうち、(イ)の「、出生時育児休業)」、①の「、第9条の3第2項」及び「、出生時育児休業」、②の「、第9条の2第1項」及び「、出生時育児休業」並びに④については、令和4年10月1日より適用することとし、⑥のうち、「第9の9及び12」とあるのは、令和5年3月31日までの間は「第9の8及び11」とする。
3 平成26年7月24日付け基発0724第2号、職発0724第5号、能発0724第1号、雇児発0724第1号「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律の一部を改正する法律の施行について」(以下「旧通達」という。)は、平成32(2020)年4月1日をもって廃止すること。ただし、中小事業主については、平成33(2021)年3月31日までの間、旧通達のうち、整備法による改正前の短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律第2条、第3条、第3章第1節(第15条及び第18条第3項を除く。)及び第4章(第26条及び第27条を除く。)の規定に関する部分は、なおその効力を有するものとすること。また、都道府県労働局における業務の進め方については追って通知すること。
別表
短時間労働者の週所定労働時間 |
雇入れの日から起算した継続勤務期間の区分に応ずる年次有給休暇の日数 |
||||||||
|
短時間労働者の週所定労働日数 |
短時間労働者の1年間の所定労働日数(週以外の期間によって労働日数が定められている場合) |
6箇月 |
1年6箇月 |
2年6箇月 |
3年6箇月 |
4年6箇月 |
5年6箇月 |
6年6箇月以上 |
30時間以上 |
10日 |
11日 |
12日 |
14日 |
16日 |
18日 |
20日 |
||
30時間未満 |
5日以上 |
217日以上 |
|||||||
4日 |
169日から216日まで |
7日 |
8日 |
9日 |
10日 |
12日 |
13日 |
15日 |
|
3日 |
121日から168日まで |
5日 |
6日 |
6日 |
8日 |
9日 |
10日 |
11日 |
|
2日 |
73日から120日まで |
3日 |
4日 |
4日 |
5日 |
6日 |
6日 |
7日 |
|
1日 |
48日から72日まで |
1日 |
2日 |
2日 |
2日 |
3日 |
3日 |
3日 |